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→9,キミを殺す事

…昔のあかね。
大好きな先生への想いを我慢し、大好きなかすみさんの幸せを願い自分の幸せを封じ込めていた。
ホントは気性も荒いし明るくて元気、くるくる表情もかわるほど感受性豊かなくせに、そんな自分の良い所を、そんな自分を殺して誰かの幸せばかり考えていた。
それでもやっぱり東風先生に見てもらいたくて、努力してもどうにもならないって分かっていながらもがいていた。
ちょっと心配して優しい言葉でも掛けてやろうとすれば、
「余計なお世話」
とか抜かしやがる。
可愛いくせに、可愛くねえ。
見れば見れるほど、強がっては自分が苦しくなってどうにもならなくなって・・・あかねが「あかね」らしくないそんな姿を見ているのは、何だか不思議で、こそばゆくて、妙な感じだった。

でも、今のあかねは違う。

 

泣いて笑って、怒って喜んで。笑顔が可愛いありのままの姿で、俺のそばにいる。
ヤキモチ焼きで、実はものすごく繊細で。そそっかしくて、大雑把な所も憎めない。
自分が不器用だってわかっているくせに、それでも毎年毎年、俺に渡すプレゼントは手作りの物を混ぜる。
一瞬、「俺は試されているのか?」と思うこともあるけれど、あかねがどんな気持ちを込めてこれを作ったかを考えれば、出来栄えとか思惑とか、そんなことは全く気にならないくらい嬉しくて仕方がない。
今のあかねは、昔の切ない恋の時みたいに、自分を殺して誰かの幸せを祈るような犠牲的な恋愛はしていないはずだ。
俺だって、そんなことしてもらいたくない。誰かの幸せを祈る事も大切、でもそれよりも前に、あかねには幸せになってもらいたいと思うから。
俺と一緒に、幸せになる。だから、自分も俺も大切にする。
自分を殺すのではなく、自分を生かしながら…そう、ありのままの自分の姿で、恋愛をする。
だから俺も、そんなあかねに答える。そんな風に、ありのままの姿でいてくれるあかねを俺は好きな訳だし。
俺が幸せになる為にあかねの本来の姿を封じ込めたり殺してしまうのではなくて、
幸せになるからこそ、あかねにも「あかね」でいて欲しいと、思ってるんだ。

 

ただ…

 

「・・・いてて・・・」
…寝相だけは、もっと自分を殺してくれてもいいんだよな。
真夜中、いつもの如く寝相の悪いあかねにベッドから蹴り落とされた俺は、床で強打した腰をさすりながら、うめき声をあげていた。
まあ、腰が痛いのは床で強打したせいだけという訳でもないとは思うけれど。
・・・
それよりも、
たくさん愛し合った後のシングルベッドの陣地配分は、毎回毎回八対二。
体が大きい俺の方がベッドの上でコンパクトにまとまっているのはいかがなものか?
しかも、寝相の悪いあかねがベッドから落ちないようにと、あかねを壁側に寝かせて俺が外側に寝ているが為に、夜中でも容赦なくベッドから叩き落される運命にある。
仕方がないといったら、それまでだ。
だいたい場所を変わると確実に、寝相が悪いあかねが床に落ちるのが目に見えている。
それはそれで何だか可哀相だし、
それにあかねが壁側に寝ていれば、逃げられないあかねを追い込んでその・・・
「・・・」
いかん、思い出したら顔がにやける。
これでは、ベッドから落とされて痛みを感じているはずなのに顔がにやけている危ない男。
俺は思わず苦笑いだ。
「ん…」
俺が再びベッドへと戻ると、戻ってきた俺の身体にゴロゴロと転がってきたあかねがぺったりとくっ付きながら吐息を洩らした。
・・・こんな姿を見たら、例えベッドから叩き落され様が寝相が悪すぎて蹴られ様が、どうしても許してしまう。
ホント、自由でのびのびしてて、感情豊かな所はそのままいいから、この寝相だけはもうちょっと自分を殺してくれてもいいんだよな。
あ、でもあかねが寝相良くなったら、それはそれであかねらしくないのかな。
うーん、微妙な所だな、それ。
だけど、半裸で夜中にベッドから叩きだされるのはさすがに体に堪えるからな。
ならば、
「・・・じゃあ、せめて冬の間だけでも」
幸せそうな顔で眠るあかねの頬や頭を撫でながら、俺はそんなことを考えていた。

 

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