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→君に愛される事

「…あのね?乱馬。Pちゃんはペットなのよ?」
「…」
「そんなに神経質にならなくたっていいでしょ」

 

ある秋の夜。それは生臭い風が吹く寝苦しい夜だった。
天道家の一角、二階奥に位置するあかねの部屋の中で、俺は決して負けられない戦いに望む羽目になっていた。
相手は、P助…こと良牙。ベッドの上で俺達は、今にも噛み付かんばかりの顔で睨み合っていた。
そんな俺と良牙との間で、おろおろと困ったような表情をしているあかね。
俺達がこのような戦いをする羽目になった理由は単純明快だ。
凝りもせずまたあかねの寝床で、しかもあかねの胸に顔をうずめながら幸せそうに眠るこの男を、夜這いにやってきた俺が発見してしまったのだ。
発見した俺には、もはやこいつを生かしておくという選択肢は…ない。
もちろん、俺が夜這いに来たという事に関してはとりあえず、棚に上げておくわけだが。

 

 

「確信犯か…確信犯か貴様!」
「ブフ…」
俺が秘密をばらさないとわかっているがゆえに、してやったりとした表情を見せる良牙。
俺にはそれがさらに腹が立って仕方がない。
「あれは俺のものだっ」
悔しさと嫉妬と怒りでぶるぶる震える俺に、良牙は人をばかにしたかのような笑みを浮かべて見る。
そのうち、
「この豚ー!」
「ブキー!」
…俺と良牙はお互いを殴ろうと飛び掛るも、
「もー、やめなさいってば!」
ぶぎゅるっ
傍から見たら「大人気ない男がペットの豚をいじめている」という風にしか見えないのか。
「豚にやきもちやいたってしょうがないでしょっ」
あかねはそういって俺と良牙を引き離すと、なぜか俺だけ部屋の外に放り出した。
「あーけーろっ」
ガチャガチャとドアノブを回してあかねに訴えかけようとするも、あかねはそんな俺を無視。
「さー、Pちゃん寝ましょうね。全く、夜這いに来たと思ったらPちゃんいじめるんだから」
エッチで意地悪、しかも喧嘩っぱやいなんてどうしようもないわね…とかなんとかいいながら、どうやら眠りについたようだ。
恐らく、またあかねの胸に顔をうずめて眠っていると思われる良牙の姿がすぐに思い浮かぶ俺には、神経を逆なでされるような行為だ。
ただ・・・もちろんその後、俺がおとなしく「はいそうですか」と引き下がるわけでもない。
俺はあかねの部屋に今度は窓から侵入して良牙を窓の外に放り投げてやると、良牙が寝ていたその部分に自分がこっそりと潜り込み、代わりに顔をうずめてみたりする。ここは俺の場所なんだぞ、とか何とか一人つぶやきながら。

 

…良牙がいたって、あかねが俺のことを好きじゃないというわけではないことぐらいわかっている。
あかねは良牙を「ペット」としか見ていないわけだから、「許婚」である俺に対して抱いている愛情とP助に注がれている愛情が全く別のものであることももちろん承知だ。
でも、なあ。
「…」
俺は、俺がべっとりとくっついて眠っていることに全く気がつかずに気持ちよさそうに眠っているあかねをじっと見つめながらため息をついた。
…例えそれがペットに対してだろうが何に対してだろうが、あかねにそれが愛されているということは代わりがないわけで。
しかもそれが、P助という姿をした良牙だというのが俺には我慢できない。
あかねのすべての愛を独り占めしたいわけじゃないけど、あいつに愛情を注ぐのだけはどうしても許せねえ。
あのしたたか黒豚じゃなくて別のペットを飼いたいって言うのならぜんぜん構わないだけどなあ。
でも、そのペットにも教えてやらなくちゃな。
あかねに愛されるってことは大変なことなんだぞって。色々とわきまえてもらわないと、うん。
俺がこのポジションに到達するまでどれほど大変だったか、たとえペットと言えども知らしめてやらないとな。
「…」
俺はそんなことを思いながら、眠っているあかねの唇に自分の指をあてがってみた。
あかねは完全に眠っているけれども、唇に何かを当てられたら咥えようとするのが本能なのか、俺の指にぱくっと噛み付いた。
その姿を見た俺はなんとも言えない気分になり、思わずその体を抱きしめる。
そして、
あかねに何を言われようがどう思われようが、やっぱり良牙なんぞにあかねの愛情を独占させてたまるか。
それがたとえ眠っている間だけでも…と、新たに決意を固めたのだった。

 

 

キミに愛されること。
ライバルがたとえペットだろうがしたたか黒豚だろうが、その特権は決して誰にも譲らない。

 

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