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→2.バンドグループ

「…夢に出てきたぐらい、好きだったのよ」


ある日の昼休み。
昼も食べ終わって、教室でひろし・大輔と話がてらトランプをしていた俺の耳に、不意にあかねのそんな言葉が入ってきた。
「好きだったのよ」
その言葉がやけに耳についた俺は、目は大輔たちの方に向けながらも、神経と耳はあかねの方 に集中していた。
「あかね、そんなに好きだったんだー」
「うん…。そのときはね、恥ずかしい事に手紙とか書いてみたりしたのよ」
「え!あかねがあ?!信じらんなーい!」
…そんなあかねの話を聞いている女子達は、あかねの話をぎゃーぎゃーと盛り上がりながら聞 いていた。
「今はどうなの?」
そのうち、仲間の一人・さゆりがあかねに突っ込んだ質問をする。
「今?今はね…」
・・・あかねがそんなさゆりの質問にそう答えようとした矢先、
「こらー!いつまでざわついとるんだー!」
…丁度タイミングよく、五時間目の数学の教師が教室に入ってきた。
「やだ、もうそんな時間!」
「早えんだよ!」
みんながわらわらと席についていく中、
「やだ、大変ッ」
あかねも慌てて自分の席に戻ってきた。
俺はそんなあかねの姿を目の隅にとらえつつ、心の中ではぐるぐると色んな事を考えていた。

…さっきの会話、なんだったんだ?
「夢にみるくらい好きだった」奴?
「ラブレターまで書いた」奴?
東風先生のことか?
いや…あかねは東風先生にラブレターなんて書かねえだろうな。
じゃあ、だれだ?
俺の知らない誰か?

「…」
俺は、いつも頭に入ってこない授業が更に頭に入らないほど、気になって、仕方がなかった。
『今はどうなの?』
『え?今はね…。』
…今は?
今はどうなんだよ…?
俺は釈然としない気持ちであかねの方を盗み見ていた。


その日の夜。
やっぱり昼間のことが気になった俺は、夕食後あかねが部屋で宿題をしている所へ、ずかずかと乗り込んでいいった。
「ちょ、ちょっと何よ」
俺のあまりの迫力に、あかねはすこしたじろいでいたが、俺は構わずあかねのベッドの上に座り込むと、じーっとあかねを睨んだ。
「…何?」
あかねは、そんな俺のいつもと違う様子に気が付いたのか、机から離れ、俺の横にちょこんと座る。
「…誰だよ」
俺は、そんなあかねに今にも消え入りそうな小さな声で聞いてみた。
「何が?」
あかねは、俺の言わんとしていることが全くわからないようで、ちょっと不思議そうな顔をしている。
「だからッ…・誰なんだよ」
俺はもうもう一度、今度はちょっと大きな声で叫ぶと、くるっとあかねに背を向けた。
そんな俺は、自分でもなんでこんなヤキモチやいてるのか分からないくらい、情けなかった。
でも、気になって仕方がないことをこのままになんてしておけない。
カッコ悪くて情けないかもしれないけど、俺はあかねに確かめずに入られなかった。
「誰の夢、見てたんだよ」
「…は?」
しかし。
俺が意を決して尋ねているにも関わらず、あかねはまだ俺がいわんとしていることがわからないようだった。
「だから!手紙まで書いて、夢に見るくらい好きな奴がいたんだろ!?」
俺はとうとう痺れを切らせてあかねにそう叫んでしまった。
すると。
「ふ…」
あかねは、何を思ったか、
「アハハハハハハハ…」
と、突然笑い出した。
「なッ何笑ってんだよ!俺が真剣に聞いて…」
俺がムカッとしながらあかねの方を振り返ると、
「だーって。ふふふ…」
あかねは、そんな俺の首筋にふわっと抱きつきながら、なんだか嬉しそうな表情をしている。
「?」
な、何がそんなにおかしい!?
俺がちょっと困惑した表情のまま、あかねに抱かれていると、
「ばっかねー、あんた。あれは、芸能人の話よ?」
「は?」
「中学の時にね、すっごく好きだったバンドがいたのよ。今はもう解散しちゃったみたいだけど。ほら、小学校や中学のときって、好きな芸能人にファンレター出したりとかするじゃないの」
あかねはそう言って、俺からふと離れた。
そして、
「もー、乱馬はおばかさんねー。芸能人なんかにヤキモチやいちゃって!」
…そういいながら、俺があかねにいつもしているように、俺の頭を優しく撫でる。
「う、うるせーな!紛らわしい話し方してるのが悪いんだろッ」
…とんだ勘違いをしてたのを知った俺が、恥ずかしさとバツの悪さで耳まで真っ赤になりながら そっぽを向くと、
「ふふふふ…」
あかねは、そんな俺をずーっと嬉しそうな顔で見ていた。
まるで、「芸能人にヤキモチやいちゃって可愛い!」とでもいいたげな表情で。
「だーッ。!お、俺はもう寝る!」
俺は、更にバツの悪さを隠す為に、部屋から足早に退散しようとベッドから立ち上がった。
「あのね」
すると。あかねはそう言って、立ち上がった俺の袖をきゅっと掴んだ。
「な、何だよッ」
ものすごくバツが悪いので、俺がそっぽを向いたまま答えると、
「今はもう、そんな夢も見ないよ。特別に好きな芸能人もいないし」
「そ、そうかよッ」
「だって」
あかねはそういって、俺の袖を掴む手の力を更に強めて、自分の方へと引っ張った。
「わッ・・・」
その力のせいで、グラッと揺らいだ俺の体は再び、あかねのすぐ横へと沈んだ。
あかねは、俺があかねの横に腰を下ろしたのを確認すると、そんな俺にスッ…と自分の身体を 近付けて、
「でも今は、ね。芸能人とか他の人の夢を見ている余裕なんてないくらい、誰かのコト好きになって るみたいだから…・ご安心を」
そう言って、ボーっと話を聞いている俺の唇に素早くキスをして離れた。
「お、おお…」
突然の事に、俺は何と反応していいのかわからず、ただただ赤くなっては、そんな返事をするばか りだった。
更に、あかねからキスしてくる事なんてめったにないので、俺がいつまでも呆然としていると、
「…なによー、その顔。ぼーっとしちゃってさ。自分はいつも、これ以上のことしてくるくせに」
あかねはそんな俺を見て、おかしそうに笑っていた。
「べ、別にぼーっとなんてしてねーよッ」
俺が慌てて我に返ってそう叫んでも、
「してたわよー。ふふふ、かーわいいッ」
あかねは更に嬉しそうな顔をして笑っていた。
そして、
「さーて、お風呂でも入ってこよーっと」
慌てふためいている俺を置き去りにしたままそういって、部屋を先に出て行ってしまった。
(く、くそー。あかね奴、完全に俺をバカにしてんなー)
一人部屋に残された俺は、悔しさのあまりぶるぶると震えていた。

…でも。
元はといえば、俺の早とちりが原因なんだから自業自得って言っちゃあそうなんだけど。
でも、
俺があかねを可愛がるならともかく、俺があかねに可愛がられるのは、なんだかこう…しっくりこねえな。というより、悔しいのは何で だ!?
負けず嫌いなのか、それとも「俺があかねをからかって遊ぶ」という構図が俺の中で勝手に出来 上がってるのかなのかわからないけど、
あかねにやり込められたままの俺は、なんだかこう、釈然としない。
くそッ。なんとかして、ナマイキあかねをやりこめてやるぞッ
やっぱりどうしても悔しい俺は、そんなことを思いながらとりあえずあかねの部屋から出て、
いかにしてこの気持ちを抑えつつあかねをとっちめてやろうかと考えたのだった。

 

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