「じゃあ二人とも、お買物お願いね」
…クリスマス間近のある日。
あたしと乱馬は、かすみお姉ちゃんから託された買物メモを持って商店街へと向かってい
た。
「随分と色んなもん買うんだなー、今日」
あたしの右手に握られているメモを覗き込みながら、隣を歩いている乱馬がぼやく。
「今年は早乙女のおば様もいらっしゃるし、かすみお姉ちゃんと二人でお料理も豪勢にいく
って言ってたわ」
あたしはそういって、乱馬の顔を見た。
「…おばさま、ね。クリスマスとかお正月とか…そういう大きな行事をこうやってみんなで過ごせるの嬉しいんだって」
「え?」
「ほら、去年までは乱馬達はおばさまから逃げてたじゃない?」
あたしが小さく笑いながらそういうと、
「あー、あれなぁ…」
乱馬も、あたしの顔をみながらちょっと困ったように笑った。
あたし達は、「せっかく二人で外に出たんだし」と、商店街に行く途中にある公園に寄り道
していく事にした。
…乱馬と早乙女のおじ様は。
旅立つ際におば様と交わしたとある約束のせいで、つい最近まで「乱子ちゃん」「パンダちゃん」と仮の姿でおば様と対面していた。
その交わした約束というのが、
「男のなかの男に育ってなかったら、切腹」
…
一見、むちゃくちゃに思える約束だったけど、素直で根が真面目なおば様は律儀にその約束を守って日本刀を持ち歩いていたんだよね。
でも、夏に海に行ったときにひょんな事からついに家族一同はご対面。
一時、乱馬達早乙女一家はうちを出て行ったけれど、今はこうして、再び天道家で居候だ。
「乱馬、おばさまとクリスマスとか年越しとか過ごすの…もう十年ぶりくらいなんじゃな
い?」
公園の中をゆっくりと歩きながら、あたしは乱馬に言った。
「あー、そうかもなぁ」
乱馬は色々な事を考えているのか、ちょっと遠い目をしていた。
「今年は、おば様孝行してあげないとね」
あたしは、そんな乱馬と繋いでいるあたしの左手にぎゅっと力を入れた。
「そうだな」
乱馬も、あたしと繋いでいる右手にぎゅっと力を入れた。
そして、
「もう少し人数が増えるまでのあと数年はおふくろ孝行しとかないと」
乱馬はそういって、ふと立ち止まった。
「増えるの?なんで?誰?」
あたしはきょとんとした顔で乱馬に聞き返す。
「誰ってお前…はぁ」
そんなあたしに、乱馬はなぜかため息だ。
「な、なによ」
あたしは、ため息をついている乱馬と繋いでいる手をブンッと揺さ振った。
…でも、あたしはちょっと思う所があって、
「乱馬」
一度大きく揺さ振ったその手を止めると、その腕に…ぎゅっとしがみついた。
「な、ど、どうした?」
乱馬は、そんなあたしの行動にちょっと驚いてるようで、少しだけ赤い顔をしている。
「あのね…」
あたしは、乱馬の方を見上げて、ちょっと笑った。
…ねぇ?乱馬。
あたしにはお父さんとお姉ちゃん達はいるけど、お母さんはもう、いないよね?
だからといってさみしいって訳じゃないんだけど、
でもお父さんとお母さんが揃ってる乱馬を羨ましいなって思っちゃう時がある。
だから、ね?
今年は、あたしも乱馬と一緒に早乙女のおば様に甘えてもいいかなぁ?
うちのお父さんに負けないくらい、おば様にも孝行するから、甘えてもいいかなあ?
「…あたしも、おば様に甘えたい」
あたしがそう呟くと、
「甘えっ子」
乱馬はちょっと笑いながら、あたしがしがみついてない左手で、あたしの頭をコツン、と叩い
た。
「どーせ、甘えっ子ですよーだ」
…でも、クリスマスとかお正月とか、ううん、それ以外の運動会とか音楽発表会とか町内
の催しものとか…
いろんな行事で、お父さんがいてお母さんがいて、お姉ちゃん達がいて、みんなで笑顔で
参加する…そういうのって、何か幸せだなって、思うのよ。
あたしがそうやって乱馬に説明すると、
「俺は?俺もいるんですけど?」
乱馬が何だか心配そうな表情をして聞いてくる。
「乱馬はねー、そうねー…」
あたしはそんな乱馬をちょっと焦らすように間をあけてから、
「…乱馬があたしの横にいるっていうのを前提ではなしてるつもりだったねよー。言わなくたって、乱馬はあたしが感じる幸せの一部分になっちゃってるんだから」
「・・・」
「…えへへ、なーんちゃって。やだ、何か照れちゃうねッ。アハハハハ…」
あたしはちょっと照れくさそうにそう言って、乱馬を見上げた。
「…」
…乱馬は、そんなあたしをとても柔らかい表情で見ていた。
「あかね」
そのうち、乱馬は自分を見上げているあたしを見て、あたしの名前を呼んだ。
「何?」
あたしが何気なく聞き返すと、
「…抱きしめても、いい?」
乱馬はそういうが早いか、あたしを自分の右腕から引き剥がし、両腕でしっかりと抱きしめ
た。
「え…ちょっと…・何よ急に」
あたしが「ここ一応、公園なんですけど?」と照れながらあたふたしていると、
「…俺も今、すげえ幸せ」
乱馬はそんなあたしを抱いたままで、やがてぼそっと呟いた。
「乱馬?」
あたしが腕の中から乱馬を見上げると、
「俺もいつもさ、何するときも…隣にあかねがいること前提で考えてるよ」
乱馬はそういって、あたしの額に自分の額をゴチッと付けた。
「…ほんと?」
「ホント」
そしてちよっと照れくさそうに、
「遠慮しないでお袋に甘えてもいーと思うぜ。お袋も喜ぶだろうし…」
「ホント?」
「ああ。それに、さ。…どうせ近い将来ホントに親子になるわけだし。今から甘えてたって全然おかしくない」
乱馬はそういって、あたしの鼻先にチョン、と軽くキスをした。
「も、もうッ一応ここ、公園なんだからねッ」
あたしは照れて耳まで赤くなりながら叫びつつも、でも実は、心の中はとても暖かい。
…乱馬もあたしと同じように幸せを感じてくれていたこと。
そしてさりげなくあたしにも見せてくれた、乱馬が描いた「未来予想図」。
乱馬が描いている近い未来の予想図にも、
乱馬の隣にはちゃんと、あたしがいるように描かれてるんだ?
おば様の事を「お義母さん」って呼んで甘えてるあたしの姿が。
…何だかそれを思ったら、自然と心が温かく、なる。
「…何か、これからいっぱい楽しみが増えちゃうなッ」
あたしは、逆に乱馬に強く抱きつきながら笑顔で言った。
「楽しみ?」
「そう、楽しみ!」
…あたしが思い描いていた、ささやかな夢。
『クリスマスとかお正月とか、ううん、それ以外の運動会とか音楽発表会とか町内の催しも
のとか。たくさんの様々な行事の度に、お父さんがいてお母さんがいて、お姉ちゃん達がいて、みんなで笑顔で参加する…そういうのって、何か幸せだなって、思う。』
あたしが描いた、そんなささやかな、夢。
いろんな行事があるたびに、そんな夢のようなシチュエーションをこれからずっと描いてい
けるなんて…とても幸せ。
これは、早乙女一家が天道家に居候していて、尚且つ仲良しで居られないと叶わない、夢。
ずっとずっと、この両家が一緒にいないと、実現できないシチュエーション。
だから、これからずっとその夢のようなシチュエーションをあたしが描いていける為にも、
「…ずっと、一緒にいてくれる?」
あたしは、乱馬に聞いた。
「…当たり前だろ」
乱馬はちょっと照れくさそうな表情で、だけどしっかりした口調であたしに答えた。
「約束よ?」
「約束な?」
あたし達はそう言い合って、お互いの顔を見ては、笑いあった。
これからやってくる、クリスマスやお正月。
来年になれば、また一年間色々と執り行われる、さまざまな行事の数々。
それらの行事の思い出すべてに、
あたしが思い描いた「夢」が添えられれば、とっても素敵。
そして…その思い描いた「夢」の隣で、乱馬がずっと笑っていてくれていたら…もっと素敵。
今あたしの目の前にある眩しい笑顔を見つめながら、あたしは心からそう思っていた。