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→13.蛍

「このあたりは、蛍で有名なんですよ」

…週末。
商店街であてた福引で家族旅行に来ている天道・早乙女両一家は、旅館につくなり、そんな案内を 受けた。
なので、とりあえず部屋に入り、荷物整理をしながらあたし早速お姉ちゃん達に提案をしたんだけれど、
「…あかね?蛍は夏の風物詩でしょ。こんな寒い時期にいるわけないじゃない」
そんなあたしの提案は、一瞬にしてなびきお姉ちゃんによって却下された。

でも、旅館の人に焚きつけられるだけたきつけられて、なんだかちょっと、消化不良な感じだ。
…だから。
夕食後、みんなそれぞれが部屋でくつろいだり、おみやげを買いに行ったりしているので、

もちろんその場所は、冬真っ盛りの今では単なる冷え冷えとした水辺以外の何ものでもないのだけれど。
「さ、寒いッ…」
「何よ、だらしないわね。乱馬、ここはね、夏には蛍がいっぱい飛んで綺麗な場所なんだって!」
「蛍?」
「そ、蛍。この辺りは蛍で有名なんですって」
あたしが、はいている下駄で地面の小石を蹴り上げながら乱馬に教えてやると、
「じゃあ、夏に来ねえと意味ねえじゃねえか。何でこんな寒い時期に」
乱馬は「もっと別の場所に行こうぜ」と、あたしの手を掴みながらそういって歩き出す。
「えーッ…もうちょっと見てよーよ。次にいつここに来れるかわかんないんだしさあ…」
そりゃ、今は蛍なんて飛んでないけど。と、あたしがブツブツと呟くと、
「じゃあ、今年の夏…もう一回ここに来ようぜ?。そしたら蛍、見れるだろ?」
乱馬はそう言いながら、ふと立ち止まった。
「…二人で?」
あたしが、そんな立ち止まった乱馬の腕を取るようにちょっとくっつきながら尋ねると、
「他に誰と来るつもりなんだよ?」
乱馬は、ちょっと照れ臭そうに笑いながらそう答えた。
「…じゃ、お金貯めとかなきゃね」
「そうだな」

「ねえねえ、もし今年の夏さ、どうしても都合がつかなくて蛍見に来れなかったら?」
「そしたら、その次の年の夏に来りゃいいだろ?」

「じゃあ、その次の年。…何十年の内のたった一回くらいは、二人で見れる夏もあるだろ」
乱馬はそう言って、嬉しそうな顔で自分を見上げ、笑っているあたしの頭を、ぎゅっと抱き寄せた。
…そうだよね。

その長い時間の、ほんの一回くらいの夏は、二人で蛍…見れるよね、きっと。
「乱馬、夏の旅行のために節約よ、節約。今から貯金するわよッ」
「お前の方が無駄遣い多いじゃん」
「そんな事ないもん」

「なッ…なんで知ってんのよ!そ、それにあれは無駄なものなんかじゃなくて、バストアップ体操のためにッ…」
「バストアップだあ?だから、それが無駄だっつーんだよ。そんなのダンベルなんか使わなくても俺がいくらでも協力してやんのに…」

静かな夕闇に、静寂を破るようなあたしの叫び声。
すっかりいじめっ子のような顔で、にやっと笑う乱馬と、そして、夕闇にボウッ…と浮かび上がる白い肌を、白い頬を、ほんのりと赤く染めるあたし。

主のいない蛍の名所を、俄かに騒がしくさせるひと時。

…ホウ、ホウ、
蛍の時期よ、早く来い。

 

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