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→12.white cloud

…あかねが「青い空」と「白い雲」を見るたびに思い出すのは、
最低最悪な許婚に腹を立てながら寝転がった、最低最悪な川原での思い出。


(全くもう!なんなのよ!あの男は!)
毎朝の日課のロードワークの途中、
ふと立ち寄った川原の土手で寝転びながら、あかねは空を見上げてぶつぶつと呟いていた。
…先日、いきなり天道家にやってきた居候。
親同士の勝手な約束によって、
その居候と、許婚の関係になってしまった、あかね。
(全く!本人同士がこんなに嫌がってるんだから、そういう気持ちを考慮しなさいよ!)
あかねは、あかね達の意見を全く聞かずにどんどん話を進めていく家族達の対応が腹だたしくて仕方なかった。
水をかぶると、いきなり女の子に変身してしまう許婚…乱馬。
その女になった姿は、
悔しいけれど可愛くて、悔しいけれどあかねよりもスタイルがよくて。
それでまた本人がそれを自覚してあかねを小馬鹿にしてくるものだから、更にそれがあかねの癪に障る。
「俺のほうがプロポーションいいしな!」
「俺の半分ぐらいは色気をみにつけねーと嫁の貰いてがねえ」
…乱馬が、あかねに対して吐く暴言の数々。
(まったく、なんて男なの!?人の裸を見といて…・!)
あかねは、空を見上げたままの状態で、ギリリ…と唇をかみ締めた。

…あかねが見あげている空には、
真っ白い雲が、くっきりとその輪郭を形度って浮かんでいる。
底の見えない、透き通るような青い空と、手を伸ばしたら、今にでも引き寄せて手に取る事が出来そうな…形の良い白い雲。
あかねのこのモヤモヤした気持ちとは全く正反対の状況を表現している、はっきり言って、最強コンビだ。
(あーあ。こんな天気のいい日のロードワークなのに…なんであたしはあんな奴のことでイライラし てなきゃいけないわけ?)
あかねはまた一つ、ため息をつく。
(東風先生の半分でも、優しさとかデリカシーとか見習ってこいってーの!)
あかねはそんなことを思いながら、しばらくの間空を見上げて寝転んでいた。


…それから、一年後。
「あ!ここ、ここ!」
…とある日の学校帰り。
あかねは、乱馬の手を引っ張って、一年前のあの日に寝転がって空を見上げていた土手へとやってきていた。
「何だよ、ここ。ロードワークの時にたまに通る土手じゃん。行きたいとこがあるっていうから、どこかと思ったら…」
乱馬は、「ここがどうしたんだ?」と不思議そうにあかねに尋ねる。
そう、今日は「乱馬と行きたいところがある!」とあかねが提案したので、こうして二人で放課後、歩 いてきたのだ。
「ここに来たかったの、あたし」
あかねは、不思議そうに呟く乱馬の顔を見て、言った。
「一年位前にね…あたしここですっごく乱馬のことで怒ってたの、思い出したんだ。やっぱり今日みたいに、天気のいい日だったから」
そしてあかねはそういって…笑った。
今日は、あの日と同じように良い天気だった。
透き通るような澄んだ青い空と、今にも掴んでしまうことができそうな、形良い白い雲。
体育の時間にふと見あげたこの空模様が、何故だか分からないけど、ふいにあかねの「一年前の記憶」を呼び起こしたようだ。
そうして、どうしてもそれが気になったあかねは、乱馬を誘ってここへとやって来たのだ。
…あかねの目の前には、あの時と同じ空模様。
「一年前もこんな天気だったのか?へえ…じゃ、同じなんだな。一年前と」
乱馬があかねの隣に並びながらそう呟いたが、
「全部同じじゃないよ。空模様は同じだけど」
あかねはそういって、小さく笑った。


そう。確かに空模様は同じだけれど、大きく違うところが一つ、ある。
それは、こうして空を見あげているあかねの隣に、あの時とは違う心持の乱馬がいるということ。


「…だって。一年前はここで乱馬のこと怒ってたのに、今日はこうして乱馬と一緒にきてるんだも ん」
あかねは、土手にゆっくりと腰掛けた。
「…あ、そっか」
乱馬もそんなあかねの言葉を聞いてちょっと笑ったが、そのうちふと真面目な顔に戻って、
「なあ、俺何をしてそんなにあかねを怒らせたんだ?そのとき」
あかねの横に寝転びながら、乱馬はあかねに尋ねた。
「数えきれないくらいいっぱいしすぎてて、一言じゃいえないわよ」
あかねも、そんな乱馬の横に寝転ぶ。
「ふーん。たとえばどんなこと?」
乱馬はそういって、隣に寝転んだあかねの手に、そっと自分の手を重ねた。
「そうねえ…たとえば…」
あかねは、重ねられた乱馬の手に自分の指をそっと絡めながら、
「暴言は吐くわ、すぐ喧嘩は仕掛けてくるわ…あは、両手両足の指じゃ足りないくらい」
といって笑った。
すると、
「お前も負けず劣らず吐いてたぞ、暴言。人の事、変態、ヘンタイよく言ってたし…」
「そうだったっけ?」
「ちぇッ。都合が悪い事だけ忘れてやがるよ」
乱馬はわざと拗ねたような口調でそう呟いて、やっぱり笑っていた。
「だーってさ。どうしてもこーゆー天気のいい日は思い出しちゃうんだもん。乱馬が暴言はいてたって いう事だけ、鮮明にさ」
それだけ、あの日見上げた空とモヤモヤしていた心が対称的過ぎたってことなのかしら?とあかね が更に笑いながら言うと、
「ふーん」
すると。その時ふいに乱馬がそういって、上半身を起こした。
そしてあかねの方を覗き込むと、
「じゃあ、こんな事はその時しなかったんだっけ?」
そういうが早いか、突然あかねに唇を重ねた。
「ちょっと、誰かに見られたら…」
あかねが慌てて起き上がってまわりをみまわすが、運良く周りには誰もおらず、思わずホッと、胸をなでおろしてしまった。
「…もう。してないに決まってるでしょッ」
あかねは、カアッと紅潮した頬を隠し切る事が出来ずに、乱馬のほうを赤くなったままギロッと睨んだ。
「あれ?そうだったっけ?」
乱馬はあくまでもとぼけて、真っ赤なままのあかねのことを楽しそうに見てる。
「あんたねー、一応ここ外なのよ。ちょっとは気にしなさいよ」
あかねがそんなことを呟くと、
「だってさ、せっかくこんな天気のいい日にこうやって空眺めてるのに、思い出す事がそんな変な思 い出じゃもったいないだろ。だから何か別の思い出に摩り替えてやろうと思って」
乱馬はいたずらっ子のような笑顔でそんなことを言ったかと思うと、こりずまたあかねにキスをする と、
「そしたら、将来子供にも話せるぞー。こうやって天気がいい日には、こんな風に川原の土手でのん びりすごしてたんだぞって」
乱馬はそういって、またゴロン、とあかねの隣に寝転がって目を閉じた。
「あんたねえ!子供に素直に”キスしてました”なんて言えるわけないでしょ。言うとしたら、その子 が大きくなってからじゃないと困るで…」
あかねはそんなことを乱馬に言い返していくうちにふと、思うことがあった。。
(…ん?)
…あかねは何気なく聞き流してしまいそうになっていたが、
冷静に考えると…乱馬は随分と大胆な事を言ったような、気がした。
(…将来?子供?…え?)
あかねは、とても短い時間だったが、色々と考えてしまった。
「子供に話す」ということは、イコールその子供はあかねと乱馬の子供ってことで、てことは、二人は将来結婚して…?
(な、な、何を言い出すのよー!)
あかねは、乱馬がさりげなく言った言葉の内容をようやくちゃんと理解したせいか、耳まで赤くなってしまった。
「…きっと、『お父さんて手が早いのね』とか『スケベなんだね』とか言われるのがオチよ」
…それでも。
心の中ではそんな乱馬の言葉が嬉しくて。
あかねがそうやって乱馬に言葉を返すと、
「愛に満ち溢れてるって言って欲しいよな」
…そんなあかねの気持ちが伝わったのか、訳の分からないことを言いながらも、乱馬は目をつぶったまま、笑っていた。
「…バーカ」
あかねも、そんな乱馬の気持ちが嬉しくて、思わず笑い出してしまった。

そんなくだらない会話を交わす二人の頭上では、
さっきと変らない真っ青な空と、 そしてやっぱりさっきと変らない形のいい真っ白な雲が、ぽっかりと浮かんでいる。
「綺麗だよなあ、空」
「綺麗よねえ」
二人はそんな事を呟きながら、しばらくの間はそうやって並んで寝転びながら空を見上げていた。
…あかねにとって、こうやって空と雲を眺めた思い出は、
一年目は最低最悪で、
二年目は胸をドキドキさせる最高なシチュエーション。
今年こうやって楽しく過ごした思い出があまりにも強すぎて、
1年前にモヤモヤしながらすごしたあの日の「空模様」を一瞬忘れかけてしまうほど、今年の思いで はあ
かねの中では強烈だ。
ただ、一年前のそんな思い出が無かったら、今年のこの思い出は作れなかったわけだけど。
もしかしたら、
隣に乱馬がいる限り、あかねがこうやって空と雲を眺める思い出は、年毎にどんどんと楽しいものが増えていくのかもしれ ない。
(将来、か。じゃあ、子供とこうやって三人で並んで空を見上げることが出来る日まで、毎年思い出つ くりにこないとね…)
あかねはそんなことを思いながら、隣であかねに手を重ねたまま目を閉じている乱馬の横顔をそっ と覗き見し、笑った。


今この瞬間から、
あかねが「青い空」と「白い雲」を見るたび思い出すのは、今日こうやって二人で過ごした…二人だけの川原の思い出。

 

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