「あかね。これはいわゆる三角関係よ」
なびきおねえちゃんが、あたしの部屋に入ってくるなり、いきなりそう言った。
「な、何よ三角関係って!?」
今日はめっきり不機嫌なあたしは、ムッとした表情でなびきおねえちゃんに食って掛かる。
「だって。愛する男を巡って火花を散らす、女は2人。ほら、これって立派な三角関係じゃない?」
すると、なびきお姉ちゃんはにやりと笑いながらあたしにそう答えた。
「じょ、冗談じゃないわよ!あたしは別に乱馬のことなんてなんとも思ってないんだから!」
あたしは、そんななびきお姉ちゃんにすかさずそう言い返し、そして、
「あーあ。もー、何でこんな事に…」
と大きなため息をついた。
乱馬が修行先で立ち寄った「館」。
そこで、ひょんな事から封印を破ってしまって、女姿の「らんま」の、そっくりそのままの姿のコピーが出来てしまった。
再びそのコピーを封印するも、封印に必要なカーテンを作るのに一週間かかるとかで、
乱馬はそのコピーをうちへと連れて来た訳なんだけど。
これが妙に軟派な女。
隙あらば、色んな男の子に色気で迫ってく。
挙げ句の果てに、「らんま」が本当は「乱馬」という男の子だって知ったとたんに、猛烈なアタックを始めた。
…昨日の晩だって、
透け透けの洋服を着て乱馬の寝床に潜り込んでたし。
今日の朝なんか、裸エプロンで乱馬に飛びつこうとしてるし。
「信じられない!恥知らずだわ、あんな格好して!」
あたしは、吐き捨てるようにそう叫んだ。
が、
「あら。でもあのコピー、乱馬君のコピーでしょ?意外と乱馬君の趣味だったりして」
「おねえちゃん!」
「あかね、これを機会にあんたもあのコピーに負け時と色仕掛けでもしてみたら?」
なんなら、協力しようか?と、なびきお姉ちゃんはあたしの肩をポン、と叩く。
「結構です!そんな趣味のある男と、色仕掛けばっかする女と、三角関係になるのなんてゴメンだわッ。それにッ…」
それに、あたしは女のらんまみたいにスタイル良くないし…
あたしが最後に小さい声でそう呟くと、
「確かに、おめえは寸胴だ。しかしな…」
なびきお姉ちゃんの声でない声が、いきなりあたしの近くでした。
「え?」
あたしがギロッと声のした方を振り返ると、
「わ!」
…いつの間にか、乱馬がちゃっかりとあたしとなびきお姉ちゃんの話を聞いていた。
「あら、裸エプロンが好みの乱馬君、いらっしゃい」
なびきおねえちゃんがにっと笑ってそう言うと、
「なッ…俺はそんなお下劣な趣味はねえッ」
乱馬は即座にそう否定して、
「それより、あかね。頼むから色仕掛けなんて考えるなよ。寸胴のお前がそんな格好しても喜ぶ奴なんて…」
あたしの方に向き直り、いきなりそんな事をしみじみと語りだした。
バキ!
あたしはそんな乱馬をまずは床に一撃で沈めると、
「ご安心を。頼まれたって、そんな恥知らずな格好なんてしないわよ。それに…」
そういって、乱馬をペイッ…と部屋の外に蹴り出し、
「誰があんたなんかに色仕掛けなんてするか!」
そう言い放って、バタン!とドアを閉めた。
「…ったく。どこまで人を馬鹿にすれば気が済むのかしら!」
ハア、ハア…と肩で息をしながらぶつぶつと怒るあたしに、
「…でも、あかね?そんな風に乱馬君と喧嘩したって、あのコピーが乱馬君の寝床に潜り込んだり色仕掛けするの
は嫌なんでしょ?」
なびきお姉ちゃんはなだめるような口調でそう言った。
「う…そりゃそうだけど…」
あたしは、思わず言葉に詰まってしまう。
「なんかさー、あかね。あたしにはさっきの乱馬君の言葉…俺ぐらいしかいねえんだからって、本当は繋げたかったんじゃないかなって思ったんだけど?」
「なッ…そ、そんなわけないでしょッ。人のこと寸胴寸胴って嫌味なくらい連呼している奴が」
「そうかしら?…ま、いいわ。それじゃあかね。一週間後にちゃんと三角関係が円満解決できるようにがんば
ってね」
なびきお姉ちゃんは、あたしをからかうだけからかうと、さっさと自分の部屋に戻ってしまった。
…さすがに今日は、昨日みたいに徹夜で乱馬&らんまを見張る手伝いはしてくれないようだ。
「…ったく。何が三角関係の円満解決よッ」
あたしは、一人になった部屋のベッドに大の字で寝転びながらぼそっと呟いた。
…なびきおねえちゃんに言われるまで、今のあたし、乱馬・らんまが、いわゆる一般的な「三角
関係」になってるなんて気が付きもしなかった。
『愛する男一人に、女が二人』
「・・・誰があんないい加減男好きなもんですか」
あたしは、自分自身に言い聞かせるようにそう呟く。
でも、
「…」
あたしの胸の中には、ちょっと気になる事があった。
それは、今日の朝の出来事だった。
裸エプロン姿のまま表に走り出したらんまを乱馬が追って行って行った時の事。
たまたまその現場を、ロードワークの帰りのあたしが目撃してしまったのだけれど。
「こんな黄金のプロポーションに心が動かされないなんて、他に好きな人がいるのねッ」
そういって、コピーが乱馬に詰め寄ると、
「な、何の事だよッ」
乱馬はやけにうろたえていた。
そして、
「ずばり、あなたのタイプは寸胴な女でしょ!」
コピーのきっぱりとした言葉に、
「だ、誰があかねの事なんかッ…」
乱馬は更に慌てた様子でそう叫んでいた。
その後は、「誰が寸胴だ!」とあたしが思わずその二人の会話に割り込んだ事で、真相は聞けず
じまいに終わってしまったけど。
…
……何よ。
乱馬とらんまとあたしの三角関係なんてゴメンよ。
そんなの冗談じゃないわ。
愛する男一人に女が二人?
あんなヘンタイコピー女と同レベルでライバル視されたら堪らないわ!
ただでさえ男が女に、女が男に。
入れ替わり立ち代りで厄介な状況だって言うのにさ。
でも。
もしもこの三角形の矢印が一辺だけ、
相互に向いていたとしても、それは…三角関係になるのかな。
…
……
…やめよ。
もーやめよ、余計な事考えるの。
とにかくあたしの役目は、
封印のカーテンが出来上がる一週間、
あのコピーらんまが乱馬に対して妙な行動に出ないように食い止めるだけよ!
この天道家でそんな不埒な行為、させてたまるもんですか!
さしずめ、時代劇のヒーローかのように。
何だか妙な使命感に燃えるあたしは、
決意も新たに、
今夜も乱馬とらんまの見張りをするべく…竹刀を片手に部屋を出ていった。
もちろんあたしは、
自分が「使命感」と思い込んでいるそれが、
本当は一般的に言ういわゆる「嫉妬」「ヤキモチ」というものだという事に、気が付いてはいなかった。
いきなり出来上がった奇妙な「三角関係」。
乱馬とらんまとあたしの、何だか妙な「三角関係」。
『愛する男を巡って火花を散らす、女は二人』。
乱馬に向って放たれる、二つの矢印。
一つは真っ直ぐ、乱馬の元へ。
折り返される事なく、乱馬を指したままそこで止まっている。
そしてもう一つの矢印は…