「乱馬、好きよ」
…目の前のあかねが、突然そう言った。
「乱馬、あたしも好きよ」
…目の前の、髪の長いあかねも突然そう言った。
「えッ…あのッ…」
髪の短いいつものあかねと、
髪の長い頃の、あかね。
何故だか分からないけど、二人が今、俺の目の前にいる。
「どっちか一人、選んで」
「どっちが好き?」
二人のあかねは、そんなことを言ってオロオロしている俺に詰め寄ってきた。
「選んでってそんな…」
どっちもあかね。
俺の、あかね。
髪が長かろうが短かろうが、
今の俺には「あかね」は「あかね」。
どちらか一人なんて、そんな選べるわけがない…。
「そうか、これはもちろん夢だよな!夢…」
俺が徐に現実逃避をしようとすると、
「夢じゃないのよ、乱馬」
「ほら、感じるでしょう?」
二人のあかねはそう言って、俺の両腕にぎゅっと抱きついてきた。
そして、
「ねえ、どっち?」
二人一辺にそう言って俺を見上げた。
「あ、あの…」
そんな切ない表情で見られても…と、俺は更にオロオロしてしまった。
胸が、ドキドキしていた。
今にも、口から心臓が飛び出してしまいそうだった。
選べねえ。
選べねえよ。
だって、あかねはあかねなんだから…
「お、俺…」
俺は、真剣に頭を抱えてしまった。
どうする?俺。
そうしたらいい?俺。
「俺…」
究極の選択を強いられた俺は、かすれた声で二人のあかねを見下ろした。
「わあ!」
…と、そこで。
俺は何だかふっ…と意識を取り戻して、目を覚ます事が出来た。
「夢…」
額の汗を拭いつつ、
もちろんそれが夢だと分かっていても妙に胸がドキドキしている自分に、俺は驚いた。
「…」
そんな俺がゆっくりと体を起こして隣を見ると、
「うーん…」
あかねが、気持ちよさそうに眠っている姿が目に映る。
そこに寝ているのは、髪の短いあかね。
紛れもなく、「現実」のあかね。
「…」
俺は、そんなあかねの頭をそっと、撫でた。
「もう食べれない…」
するとあかねは妙ちくりんな寝言をボソッと呟いて、幸せそうに笑っていた。
「…ったく。何の夢見てんだよ」
俺がこんなに焦っちまうような夢見たってのに…と、俺は少し呆れつつも、
「夢の中では迷ったけど…」
二人のあかねなんているはずのないこの現実の世界なら、
他の誰かとの選択を迫られた時、
俺は迷いもせずにお前を選ぶよ。
たぶん、絶対に。
…俺は、あかねには聞こえないくらいの小さな声で、呟いた。
夢の中では言う事の出来なかった、台詞。
(…って、寝てるあかねに言っても仕方ないんだけどなあ)
若干、こんな時に言ってもしょうがねえ決め台詞なんだけど…と、俺は大きなため息をついた。
二人の、あかね。
夢の中ならではの、シチュエーション。
どちらも俺の事が好きで、自分を選んで欲しくて抱きついてくる。
そんな「夢」のような夢の中のシチュエーションに、
「はあ…」
今も尚ドキドキとしてしまっている俺は、何だか自分がめちゃくちゃ情けなかった。
恥かしい事だが、完璧に迷った。
(あかねにはコレ、絶対に秘密だな…)
きっと、めちゃくちゃ怒るに違いない。安易にそれが予想できる俺だった。