「あ、見てみて、この占い」
「はあ?」
…夕食後。
あかねの部屋に、いつものように居座って漫画を読んでいる俺に、あかねがそんな事を言いながら強引に雑誌を押し付けてきた。
「何だよ」
俺があかねからその雑誌を受取ると、
「この雑誌の占いね、よくあたるんだよ。ほらッここみて、ここ」
あかねは、自分に該当する占いが書いてある部分を指差して、
「”週末の朝、目を覚まして一番初めに見たものがその日の貴方のラッキーアイテムです。
そのアイテムが、貴方に幸せをもたらしてくれるはずです。大切にしましょう”…だって!明日は土曜日だから…これって、まさにあたしの明日の運勢よねッね?」
…と、ドコまでも平和なあかねはそう言って妙に喜んでいた。
「ふーん」
俺は、そんなあかねをチラッと見つつも、
「一番最初に見たもの、ねえ」
そうボソッと呟き、あかねに占いの本を返す。
「何よ、その反応」
「別に」
「夢が無いわねッ」
あかねは、そんな俺の態度に不服そうな顔をしていたが、
「とにかく。この占いはあたるって有名だし?これに期待して、あたしは早く寝なくちゃ。ふふ…なんだろうな、明日の朝、あたしが一番初めに見るもの、か」
すぐに機嫌を直し、あかねはそんな事を言いながら占いの本を机の上に置いた。
「1番に見るものって言ったら…天井とか枕とかかしらね…いや、それは抜いてってこと?」
そして、アレコレと想像しているのかニコニコしながらそんな事を呟いていたけど、
「…」
俺はそんなあかねに、黙って手招きをした。
「何よ?」
「いいから」
「?」
あかねは、俺に呼び寄せられてすぐに俺の隣へとやって来た。
「目、閉じてみ?」
俺は、そんなあかねにそう言ってじっと見つめた。
「?変なの…何よ」
あかねはブツブツといいながらも、俺の指示通りに目をつぶる。
「…じゃ、目開けて」
でも、それからすぐ。
俺は今度はあかねにそう指示を出した。
「?」
あかねは、不思議そうな表情をしつつも、俺の言うとおりに今度は目を開けた。
「何が見える?今」
俺が、目を開けたあかねにそう尋ねると、
「はあ?何言ってんのよ。決まってんじゃない。あんたよ、あんた」
あかねは半分呆れたよう表情で俺に答えた。
「だろ?てことは、だ」
俺は、そんなあかねにニヤッと笑いかけると、
「だったら決まってんじゃねーか。明日の朝、一番に見るもの」
そう言って、きょとんとしているあかねの身体をぐっと引き寄せた。
「きゃッちょっと…」
あかねは、俺にあっという間に抱き寄せられながらも、
「何よ、それ。何が決まってんのよ」
と俺に尋ねる。
「だから、さ。明日、目を開けたら1番に見るものだろ?」
「そうよ」
「天井とか、枕とか抜いて…だろ?」
「そうよ」
「だったら、”俺”だろーが」
俺は、さも当たり前のような口調でそう言うと、俺の腕の中で首をかしげていたあかねへと囁く。
「何でよッ」
あかねはそんな俺の囁きを跳ね除けるべくじたばたと暴れているが、
もちろん俺が、一度捕まえてしまったあかねをそう簡単に離す事はなく、
「何でって。鈍いな、お前は」
「何がよッ」
「いいか?俺たちはこれからこのまま一緒に寝るんだぞ?
「・・・」
「てことは、だ。こーやってくっついたまま寝てるんだから、朝起きた時もこのままくっついてるわけで。そうすれば必然的に…あかねが目を覚ました時、目に入るのは”俺”だろ?大事にしてくれよな。占いのとおりに」
俺はにっと笑いながらそう言って、あかねにぎゅっと抱きついた。
「ああ、なるほどね…って!言うわけないでしょッ。あんた、今日もあたしと一緒に寝るつもりでいるの?」
もちろん、そんな俺の「自信満々なへ理屈」を素直に納得するわけもなく、あかねは俺の腕の中で喚いているが、
「じゃあ、寝ないつもりなのかよ?」
そんなに嫌なのかよ?と、俺がそう言ってぐっ…とあかねの顔を見詰めると、
「べ、別にそんな事も言ってないでしょッ…」
あかねは真っ赤になって小さな声でそう呟いた。
俺はそんなあかねの額に軽くキスをすると、
「…だろ!?じゃ、何の問題もねえよな。その占いの本通り、あかねに幸せをもたらすようにおれも頑張るよ」
そう言って、ぎゅっとあかねに回している腕の力を強くした。
「何を頑張るのよ、何を。もー…自分に良いようにしか解釈しないんだから」
あかねは、そんな俺の様子を呆れたような表情で見ていた。
…で、結局。
当初の俺の予想通りに翌日の朝、一番初めにあかねの目に映ったものは「俺」であったわけで。
「な?言ったとおりだろ?」
そう言ってニコニとあかねの頭を撫でる俺に、
「映った以上は、ちゃんとあたしに幸せをもたらしなさいよ」
あかねは、ため息をつきながらそんな事をいっていた。
なので、
「はい、じゃまずは小さな幸せ」
俺はそんなあかねをぎゅっと抱きしめてそんな事をぼやいてみる。
「何それ?」
「だからー。朝からぎゅっとくっついているのも幸せかなあと」
「…あ、そ」
あかねは、そんな俺を見上げながら呆れた顔をしつつ、でも笑っていた。
「あたしには、これだけでも結構幸せだと思うんだけど?これ以上にいっぱい幸せをくれるわけ?」
そんな事を言うあかねに、
「任せとけって」
俺も、そんなあかねの言葉がちょっと嬉しくて、思わずそう答える。
「ふーん。じゃあ、あの占いはホントにあたったんだ」
あかねは俺にぎゅっと抱きつきながら、そんな事をぼやいていた。
「来週もあの本、買わねえとな」
「来週の運勢はまた来週で変わるかもしれないでしょ」
「じゃあ、今週の占いの記事のところ切り取っといて、来週の本に貼り付けよ-ぜ」
「…あんたねえ」
呆れ顔をするあかねに、
「へへ…」
俺は、悪戯っ子のような顔で笑って見せてはそんなあかねの額に軽くキスをした。
…俺は男だし、占いなんて実は全然興味も無いしあたるとも思ってないけれど、
でも。
今週の、あかねが見せてくれたこんな占いだったら信じてやっても…というか実行してやってもいいかな?なんて。
あかねの真っ赤な顔を眺めながら、こっそりとそんな事を思ったのだった。