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→62.気がつけば目で追っているんだよ

「ねー!もっとちゃんと見てってばッ」

…ある日曜の夕方。
買ってきたばっかのワンピースを試着して、必死に俺に見せようとするあかね。
それに対し、
「見てるって」
漫画を読みながらだけど、そんなあかねの方へ言われれば目を向けて、
「おー。似合う、似合う。馬子にも衣装」
半ば冗談交じりにそう言いつつ、ご丁寧に手まで叩いてやったが、
「あんた、あたしをバカにしてんの!?」
あかねは俺が読んでいた漫画の本をスっ…と取り上げたかと思うと、
その漫画の角で俺の頭を叩いた。
「いてッ…何すンだよッ」
俺が叩かれた部分を手でさすりながらあかねを見ると、
「何よッ。せっかくお店の人にも”似合う”って誉められたから、1番に乱馬に見せてあげようと思って着てあげたのにッ。
 …もういいわよッ」
あかねは不機嫌そうな表情でそう吐き捨てると、俺から取り上げた漫画の本を俺に向って投げ返してきた。
(ったく、冗談の通じねえ奴だなー)
からかっては見たものの、これ以上あかねを怒らせると喧嘩が長引きそうだ…俺はふとそんな気がして、
「だからー。ホントにちゃんと見てたって」
俺はゴキゲンナナメなあかねの機嫌を取るかのようにあかねの頬を指で突っついて見たけれど、
「何よ、ホントに調子いいんだからッ」
とき既にやや遅し。そんなことぐらいではあかねは簡単に機嫌を直してはくれなかった。
「そんな怒るなよ。ホントに見てやったって。似合ってたって、ワンピース」
俺が頬を膨らませているあかねのそんな両方の頬を両手で挟んでやると、
「どうだか」
あかねは、ナマイキにもそっぽを向く。
「信用しろっての。それに、俺ちゃんと見てるもん。いつも」
俺はそっぽを向いたあかねの顔を自分の方へ軌道修正させた。
「嘘つき。いつもって何よ。乱馬、いつもあたしの事見てるってゆーの?」
「そ」
「嘘つき」
あかねは俺の言葉をまるっきり信用しないけれど、
「見てるよ」
俺は、そんなあかねにニッと笑って見せながらそう答える。
そして、頬から手を離してあかねの身体に腕を回すと、まるで子供でもあやすかのように俺の膝の上に乗せてしまった。
「な、何よッ。こんな事しても、あたしはごまかされないんだからッ」
俺に膝に抱えられただけでなく頭も撫でられてるあかねは、真っ赤になってそんな風に抵抗はするものの、
「ごまかしてなんかねえよ。俺、いつもお前を見てるよ」
「嘘ッ」
「嘘なんかつかねえって。俺、いつもおまえしか見てないもん」
…俺はにっと笑ってそう言うと、
「おかげで他の人、全然見る余裕がないくらい」
ボーっとした表情をしてるあかねの耳元に追加でそうこっそりと囁いてやった。
「あ、あの…見てって…そういう意味じゃなくて物理的にというか…その…」
そんな俺の不意打ちに、今まで抵抗していたあかねがなんだか急に大人しく、というかオロオロとし始めた。
「違うの?」
「だ、だから見てって言うのは…」
「ちゃんと見てってあかね、言っただろ?俺、そんな心配しなくてもいつも見てるよ。あかねしか見えない」
でも。
そこはこう、なんと言うか…俺のいじめっこぶりの発揮しどころというか。
オロオロしているあかねがやっぱりなんだか可愛く見えて、
可愛いがゆえにいじめたくなるというか。
俺は、容赦なくそんなあかねをからかい始めた。
「ら、乱馬。あのね、見てって言うのは…その、あたしがさっき着たワン…」
「いつもあかねしか見てないのに…もっと見て欲しいんだ?」
「え?だ、だから…そうじゃなくてッ…あ、あの…」
「物理的に見て欲しいの?じゃあ、もっと間近であかねを見せてくれよ」
俺はにっと笑いながらそう言うと、膝に乗せていたあかねをあっという間に床に押し倒してしまった。
「ら、乱馬ッ…」
そんなことをされれば、オロオロしているだけでなく、顔まで真っ赤になってしまうあかね。
「あかねの顔。そんなに言うならもっとちゃんと見ないと」
俺は、あかねを押し倒したまま、片手で頬に触れながらあかねの顔にぐっ…と自分の顔を近寄せる。
「…」
そんな俺の顔から、あかねが真っ赤になったまま手を当てている反対側に顔をさらした。
「こっち。ちゃんと顔、見せてくれよ」
俺は、そんなあかねの顔を意地悪く笑いながら自分の方へと向けさせる。
「乱馬…もう、分かったから…」
…あかねだって、自分が俺にいいようにからかわれているって事ぐらいわかったとは思うけれど。
でも、からかわれてると分かっててもやっぱりこんな風に真っ赤な顔をして、
そして子犬みたいに、俺の身体の下で震えているあかねは…・俺にはもう可愛くて仕方がない。

それに。
そんなあかねを見ていたら、からかってるだけじゃ物足りなくなってくる、俺。
「俺…ホントにお前しか見えない」
いよいよ我慢できなくなった俺は、俺を見上げて真っ赤な顔で震えているあかねにそのまま顔をスッ…と近付けキスをした。
「ん…だ、だめだってば…」
そんな俺を弱弱しい力で押し返そうとするあかねだったけれど、
「…」
俺は、そんなあかねの腕をぎゅっと逆に床に押さえつけてしまうと、あかねが抵抗しなくなるまで何度も、何度もキスをしていく。
…そして、そんなことをしていればキスだけでは段々物足りなくなってきてしまって。
俺は、何回目かの長いキスの後に、ゆっくりと大人しくなったあかねの身体を抱きしめた。
「乱馬…ワンピース、シワになっちゃうから…」
そんな俺に、真っ赤になったままあかねが弱弱しい声で呟く。
そんなあかねに俺はもう一度軽くキスをすると、
「シワになっちゃうから…脱がせて欲しいのか?」
そしたらもっと、あかねを見れるんだけど?…なんて嬉しそうに提案する俺に、
「…えっち。そんなわけないでしょ…」
あかねは真っ赤な顔でそう答えながらも、俺の首にゆっくりと自分の腕を回してきた。
俺はそんなあかねをもう一度ぎゅっと強く抱きしめると、再び長い、ながーいキスを始めた。

…なあ、あかね。
「いつも見てる」も「お前しか見てない」も。
そりゃ、最初はからかうつもりでそう言ってたけど、
でもホントにそれって、全然嘘じゃねえんだぜ?
「私をちゃんと見て!」
あかねがそんな心配しなくたってさ、
俺はいつもあかねを見てるつもり。
他に目が行く余裕がないくらい、俺はあかねしか見てないんだよなあ。
意識して、「見なくちゃ!」って思ってみてるんじゃなくて。
なんていうかさ、こう…気が付けば目で追ってるんだよ。
だから、どんな人ごみの中だってオメーがいればすぐに分かる。
離れた場所にオメーを見つけたってさ。まるでそこだけ切り取られたかのように…俺の目には映るんだ。
それに。
実はそのワンピース。
おまえ、着替える時に部屋に居座りつづけた俺に「背中向けててッ」…そういって自分も俺に背を向けて着替えてたよな?
そん時、おめえは俺に背を向けてたけど。
俺はバッチし着替えるところを見させてもらったんだよなー、実は。
「うんうん、確かに良く似合ってるよなー…」なんて着替えてる最中ずっと、考えてた。
だいたい、俺が素直に背中を向けてるわけねえだろ?
(…なーんて、こんなことを言ったらぶん殴られそうだな…)
でも、まあ…それは俺だけの秘密って事でこっそりと胸にしまっておこう。
俺は、俺の腕の中で真っ赤な顔をしたまま目を閉じてるあかねを更にぎゅっと抱きしめながら、そんな事を思った。

 

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