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→56.ご名答

「イチゴ」
「…は?」

ほぼ毎日の日課となっているように、
俺があかねの部屋に入り込んで、ベッドの上で本を読んでいると。
それまで雑誌を読みふけっていたあかねが、俺に向って突然そう呟いた。
「…食いたいのか?」
俺が怪訝な表情でそんなあかねに答えを返すと、
「違うわよ。ほら、これ」
あかねはそう言いながら、自分が読みふけっていた雑誌を俺に見せた。
「?」
俺がその雑誌に目をやると、あかねが見せてくれたそのページには、
「初めてのキスのイメージは?街行く中高生にアンケート!」
そんな記事が書かれていた。
それで、その第一位が(といって何人くらいが答えたのかは分からないが)
『イチゴ…三十五人』となっていたのだ。
「…くだらねえ」
俺は、その記事をじっくり読む間もなく、思わずそう呟いてしまった。
「何よ、いいじゃない。雑誌に書いてあるんだもん」
そんな俺の対応に、あかねはちょっとむっとしたようだ。
「だって、さ。大体なんでファーストキスのイメージがイチゴなんだよ。訳わかんねえよ」
でも俺は、そんなあかねを無視するように更に冷めた口調で言い続ける。
「だってほら、良く言うじゃない?初めてのキスはイチゴの味がしました…とか。
 10代の女の子はね、そういう風になんと言うか…想像力が豊富なのよ」
「キスする前に、イチゴの飴でも食ってたんじゃねえか?それ、言い出した奴」
「…あんた、なんでそんなに夢がないわけ?」
さらにトドメを刺すくらいに冷めつづける俺に、あかねは半ば呆れていた。
「そりゃ、あたしだってそんな味がするとかイメージするとか言われても全然ピンとこないけど…。でも、イチゴのイメージがする何て答える子がいるなんて、可愛いと思わない?」
そういって、ため息をついていた。
俺はそんなあかねの方をじっと見た。そして、
「だってさー…」
ふと思いつた悪巧みを実行すべく、そんな事を呟きながら、呆れ顔をしているあかねの腕を取って、自分の方へと引き寄せた。
「…」
あかねの腕を引き寄せた俺は、そのまま呆れ顔をしているあかねに不意にキスをしてみた。
「あッ…や、ちょっと、何よ急に…」
あかねは、呆れ顔を一転して照れたような真っ赤な顔をしながら、腕をしっかりと取って自分を抱きしめている俺の胸を押し返してくる。
俺は、そんなあかねに一言、聞いてやった。
「味、した?」
「え?」
俺の突拍子もない質問に、あかねは首をかしげている。
「したって…?」
「だから。”初めて”のキスの味はイチゴの味したか?イチゴのイメージとやらがしたのかって聞いてんだよ」
俺は、不思議そうなかおをしているあかねの額に、自分の額をごちッとぶつけながらそう聞いてやった。
「す、するわけないじゃないッ。大体、”初めて”じゃないでしょうがッ」
するとあかねはそう言って、赤い顔を更に耳まで真っ赤にさせながらそう叫んだが、
「”初めて”だよ」
「え?」
「”今日は”、初めて」
俺はそう言ってニッと笑うと、
真っ赤な顔で戸惑っているあかねに、もう一回素早くキスしてやった。
「な、な、何が”今日は”初めてよッ。上手い事言って、もうッばかばかばかッ。早く離れなさいよッ」
あかねはそんな俺の胸をボコボコと叩きながら暴れるけれど、そんな事ぐらいで俺が簡単にあかねから離れる事は決してない。

「ちょっと!こら!離れなさいってばッ」
「やだね」
「何でよ!?」
「だって、初めてのキスはイチゴのイメージがするんだろ?イチゴの味がするんだろ?
 だったら,俺にも分かるように教えてくれよ。色んな”初めて”作ってさ。あ、そろそろ夜の十時だな。じゃあ、次は今夜十時回って”初めて”のキスって事で…」
「何よそれッ」
「もう、いい加減観念しろって。俺がこうして必死にイチゴのイメージを分かろうとしてるってのに…」
「なッ…嘘つきッ。分かろうとする気なんて、あんた初めっからないでしょーがッ」
「ご名答!今日のあかねは鋭いな」
「離せーッ」
ジタバタと暴れるあかねを押さえつけ、
いそいそと…いや、にこやかに、尚且つ紳士的な態度で俺は何度もあかねにキスしては試してみるけれど、
やっぱり何度キスしようが、どのくらい長くしようが、
あかねの見せてくれた雑誌に書いてあったように「イチゴのイメージ」も「イチゴの味」もしやしねえ。
…ていうか当たり前なんだけどな。
でもよ、あかね。
イチゴの味もイメージもしねえけど、こうやってキスするときは何だかちょっと「甘い」雰囲気してるよな?
姿も実体もないけど、イチゴなんかよりも遥かに「甘い」もの。
俺とお前の間にはあるような気がするんだけど。

「あー、わかんねえな。もっとしないとだめかな?」
「離せーッもー!イチゴでも何でも、甘いものを取りすぎると身体に悪いんだからッ」
「じゃあ、俺不健康で良いや。看病よろしく」
「ばかーッ」

叫ぶあかねを笑顔で抑えてつけながら、
俺の「甘さ」を求めての探究心は依然として衰える事はねえな。
…俺は、そんな事をこっそりと考えた。

 

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