「ねえ、乱馬」
手を繋ぎながらのんびりと歩いていた、散歩道で。
その俺と繋いだ手を軽く揺さぶりながら、あかねが不意に声をかけてきた。
「何だよ」
「質問してもいい?」
「いいけど…何?」
・・・そんな会話を交わしている内に俺たちは河原に通りがかったので、その土手に腰掛けながら俺はあかねの「質問」とやらに答えてやる事にした。
「もしも、よ?」
「うん」
「もしも…乱馬は、自由になりました。さてどうする?」
「…は?」
…そんなあかねの質問に、俺は一瞬あっけに取られてきょとんとしてしまったが、
「だから…急にどこへ行っても良くなって、何をしても良くなったらって事よ。あたしとの許婚の約束も白紙になって、それで特に無差別格闘流も継がなくても良くなったらどうする?て事」
そんな俺に、あかねがちゃんと分かりやすく説明しなおしたので、
「ああ、何だ…そういうことか」
と、俺はようやく、あかねが俺に何を質問したかったのか理解する事が出来た。
「自由になった乱馬は、やっぱりまずは中国に行くんでしょう?完全な男に、まずは戻りたいでしょう?」
あかねは、俺に向ってそう言った。
どうやらあかねは、俺がなんて答えるか予測しようとしているらしい。
だけど俺は、
「違うな」
俺の答えを予想しようとしているあかねにそう答えてやった。
「え?違うの?じゃあ…武者修行に出る!…これは?」
「それも違うな」
「分かった!乱馬、勉強嫌いだもんね。高校行かないで、毎日毎日、稽古三昧にするんでしょう!?」
「それも違うな」
俺は、色々な方面から予測してくるあかねを、面白いぐらいに悉く、蹴散らしてやった。
そんな俺に対して、
「えー…じゃあ乱馬は、『自由』になった一番初めは、一体何するつもりなの?」
あかねが「思いつく限りのことは言ったのよ…」と言わんばかりの顔をした。
…なので。
俺は、そんなあかねに向かってそっと自分の手を差し出した。
「え?」
あかねは、俺のその差し出した手をきょとんとした顔で見ている。
「俺が『自由』になったら、だろ?」
俺は、あかねに手を差し出したまま、ゆっくりと話し出した。
「うん」
「あかねとの許婚の話もチャラで、無差別格闘流も継がなくて良くて。どこへ行こうが何をしようが。俺が『自由』になったら、一番初めに何をするか…だろ?」
「うん」
「じゃあ、決まってる」
そして俺は、キョトンとしているあかねに向ってにっと笑ってやった。
「乱馬?」
「まず真っ先にあかねを見つけて、それでこう言う」
「?」
「…俺と、許婚になってくれませんか?」
…俺は。
そこまで言って、自分で言っておきながらそんな自分の台詞にかなり照れてしまった。
そんな俺が照れながらチラッとあかねの表情を盗み見ると、俺の言葉を受けたあかねの奴も、ビックリする位真っ赤になっていた。
俺は、そんなあかねの顔を見ながらボンヤリと考える。
…だって。
だってさ?
何もかも『自由』になるって事は、
今の俺を取り巻いてる環境が、全くの「無」になるわけだろ?
だったら、中国の呪泉郷に行って完全な男に戻るその前に、毎日稽古にあけくれるその前に、
武者修行の旅に出るそれよりも先に…まず初めに、あかねをつかまえなくちゃ。
「…」
…俺は、そんな事を考えながら、もう一度真っ赤になっているあかねの顔を見た。
あかねは、自分に向って手を差し出している俺の事を、大きい瞳をゆらゆらと揺らしながらじっと見つめていた。
「…お手をどうぞ?」
俺は、そんなあかねに向ってヒトコトそう言った。
すると、
「…」
あかねはそんな俺の手に、ゆっくりと自分の手を重ねた。
そして、重ねた俺の手をぎゅっと握り、
「…はい」
ちゃんと耳を済ませてないと聞こえないような小さな声で、そう呟いた。
そして、
「…ありがとう」
そういって、真っ赤な顔をさらに赤くしながら嬉しそうに、笑っていた。
「…」
…俺は何だかそんなあかねの行動が嬉しくて、
そして、そんなあかねが無性に可愛く思えてしょうがなくて。
「…では、こちらへどうぞ」
…外だというにも関わらず、俺はそういって握られたあかねの手を自分の方へ手繰り寄せ、あかねを自分の腕の中でしっかりと抱きしめた。
色々な可能性を試せる『自由』を与えられても。
俺のこの身が何の束縛もない『自由』になったとしても。
でも、
どんな事よりもまず初めに、俺はたぶん…こうやってあかねを掴まえる。
俺とあかねの関係も「無」になるというのなら、まず初めにそれを「無」じゃなくしよう。
俺は、そう考える。
もしもそれが許されないというのなら、あかねを強引にかっさらってでも、それを実行してから考えよう。
本気でそう思った。
「…だって、どうしようと何をしようと、俺の『自由』なんだろ?」
俺が、抱きしめたあかねの耳元でそう囁くと、
「…ばーか」
あかねは嬉しそうな顔で、そんな俺の言葉に頷いていた。
…俺の「自由」は、まずはあかねを手に入れてから。