「あかね、寒くない?」
とある日曜日。
久しぶりに、雲ひとつない青空が広がる晴れた昼下がり。
散歩に出たさきの河原の土手に座りながら、俺は隣に座っているあかねにそう言った。
今日は、歩いているだけで汗をかいてしまうぐらい温かい日。
俺がそう思うんだ、もちろんちょっと薄着で俺と一緒に散歩に来ているあかねだってそう思ってるに違いない。
でも、俺はそれが分かっていてあえてそうあかねに尋ねた。
その理由はいたって単純明快。
それは…あかねと寄り添いたいから。
それなのに。
それなのに、そんな俺の心とは裏腹に、
「え?別に。今日、暑いくらいじゃない」
熱でもあるんじゃないの?…信じられない答えがあかねから返ってきた。
「はは…」
俺は、思わずため息をついた。
「何よ、人が心配してんのに」
あかねはそんな俺の態度にかっときたのかそう言い返してきたけれど、
「…」
俺は、更にため息をついた。
「な、何よ…」
あかねは、そっぽを向いてしまった。
「…」
俺はそんなあかねの姿を横目でチラチラと見つつも、再びため息をつく。
…はあ。
頭、痛い。
何でコイツは、こんなに鈍いんだよ。
こんなあったかい日にわざわざ「寒い」なんて聞く理由なんて一つしかねーだろーが。
鈍い鈍いとは思ってたけど、ここまで鈍いとは。
(やっぱ、あかねにはストレートに言った方がいいみてえだなあ…)
じゃあ、何て言おうか?
「もっと傍にこいよ」?
「傍にきてくれないか」?
「君と寄り添うのが僕の幸せ」?
…おいおい、何だか懐メロの歌詞みたいになってきたぞ?
俺がそんなことをぶつぶつと考えていると、
「ゴホンッ」
あかねが、不意に咳払いをした。
「…?」
俺がそんなあかねを不思議に思って見つめると、
「…もう一回言いなさいよ」
あかねは、自分を見つめる俺に向ってボソッと一言そう言った。
「…」
そんなあかねの顔は、心なしか赤いような…照れたような顔だった。
もしかしたら、俺が本当に言いたかった事が分かったのかな…俺は、不意にそんな気がした。
…ったく。遅せえんだよ、気が付くのが。
俺は、そんなあかねが何だかおかしくて仕方なかったが、だけどすぐに、
「…寒くない?」
改めてもう一回、そうあかねに尋ねた。
「…寒いかもね」
すると、さっきは否応なしの無神経な発言をしたあかねが、今度はそう答えて、俺にそっと寄り添ってきた。
「…俺も」
俺も、そんなあかねにいそいそと寄り添い、そしてあかねの身体に腕を回して引き寄せた。
「乱馬、風邪引いたんじゃないの?」
俺に寄り添いながらそういって意地悪く笑うあかねに、
「お前もだろ」
俺はそう言って、そんなあかねに回す腕の力を強くし、笑ってやった。
「鈍い奴」
俺が腕の中のあかねにそう呟くと、
「回りくどいのが悪いのよ」
あかねはちょっとばつが悪そうな顔で俺を見上げ、そして、
「仕方ないから、お詫びにキスしてあげる」
そう言って、俺の頬にそっと唇をつけた。
「お詫びだったら、こっちだろ?」
俺はそんなあかねの頬に手を添えた。そして、ゆっくりとあかねの唇へとキスをした。
…良く晴れた、温かい春の日の昼下がり。
きらきらと太陽の陽射しを受けて光り輝く水面が眩しい河原では、温かい陽射しよりももっともっと「熱い」、カップルが一組。
温かい下界の温度を更に上げる手助けをしているかのように、そのカップルはいつまでも仲良く寄り添っていた。