「何よ!」
「なんだよッ」
…その日も、あたしと乱馬はくだらないことで喧嘩をしていた。
事の発端は、今日の昼休み。
教室での出来事。
「放課後お茶して帰る人、この指とーまれッ」
クラスメートのさゆりが、放課後に、新しく出来たカフェに行こう!と提案する時にそういう風に提案してきたので、
「いくいくー」
「行きたーい!」
あたしやクラスメートのゆかは、こぞってそう言ったさゆりの指を掴んだ。
…と。
「ガキくせえよな」
そんなあたし達の姿を見ていたクラスメートのひろし君が、突然ぼそっと呟いた。
「なによ、ガキくさいって?」
「だってさ。高校生にもなって『この指止まれ』って…そりゃねえだろ?」
詰め寄るさゆりに、ひろしくんがそう言ってのけると、
「何よよッ別にいいじゃない!」
さゆりは向きになってそんなひろしくんに言い返した。
「そりゃいいけどさー」
「じゃあなによッ」
…という二人の会話から始まり、
「この指とまれ」っていう表現が子供っぽいか、子供っぽくないか…ということでさゆり・ゆか・あたしとひろし君・大介君そして乱馬で言い争いになり、
「ガキッ」
「何よッ」
…その名残を受けて、こうして家に帰ってきた今でも、あたしと乱馬はその名残を引きずって喧嘩をしているのだ。
「お子ちゃまッ」
「何よッあんただって普段は子供っぽいじゃないッ」
「違うね」
「違わないわよッ」
こんな事を言い合っては、ギリリ…とにらみ合う、あたし達。
「じゃあ、なに?あんたはガキじゃないから、あたしがどんなに『この指止まれ』って言っても、何の反応も示さないし興味もないって訳ね?」
あたしは、鼻息荒くしながら、乱馬に向ってそう叫んでやった。
すると乱馬は、
「おー、反応しないね。第一、そんな事いわれて飛びつく程、俺にとって浮かれちまうようなそんな事柄があるかってんだよ」
やけにいなせな口調でそう言うと、「これだからガキは困るぜ…」といわんばかりのリアクションをして見せた。
あたしはそんな乱馬の態度にカチン、ときて、
「…よーし。じゃあ、試してやるッ。その代わり、あたしが『この指止まれ』って言ってあんたがあたしの指に飛びつくようなことがあったら…あんた、あたしの言う事一つだけ何でも聞きなさいよ?」
といってやった。
すると乱馬も負けじと、
「おー、望むところだ。
そのかわり、三回試して俺が三回とも無反応だったら…お前わかってんだろーな」
そう叫んで、あたしの顔をニヤッ笑いながら睨んだ。
…意気込むあたしと、何だか悪巧みをしてそうな顔の乱馬。
こうして、あたしと乱馬の「三本勝負」がはじまった。
「今話題の、このおもしろい漫画…読んでみたい人、この指止まれッ」
…まずは一本目。
あたしは、乱馬が発売日前から読みたがってたのを知っている、その漫画本をカバンの中から取り出してそういった。
「…」
この漫画、実はすごく人気があって、予約しないとななかなか手に入れる事が出来ないのだ。
それをたまたま、あたしは友達から借りてきてただけなんだけど。
「…」
が。
乱馬は、ちらっと一瞬漫画の方をみただけで、それ以上の反応は示さない。
むむ…中々敵もつわものだ。
あたしは、新たに気合を入れ直し次の作戦へと移る。
「じゃあ…・明日の放課後、肉まんあんまん、おごって欲しい人この指とまれッ」
…二本目。
今度は「食べ物誘導」作戦だ。
どうだ、この大好物おごり作戦なら!
あたしが、「名案でしょ!?」ッとばかりに乱馬の方をちらっと見るも、
乱馬は相変わらずあたしの方をチラッみただけで、特にそれ以上何の反応も見せなかった。
大好物の肉まんあんまんにも乗ってこないなんて…もしかして、ホントに「がきっぽい」って思ってるのかしら?
もしかして、本気で「くだらない」と思ってるのかな。
「…」
あたしは、
あまりにも無反応な乱馬のその態度が妙に気になり、
その内、
何だかこうして一人で向きになっている自分が急に空しくなってきてしまった。
…でも。
三本勝負だし。
空しいと思っていても、でも後一つは言わないといけない。
もしここで、あかねが「やっぱりやめようか、この勝負…」とか言おうものなら、
「何だよ、途中で断念すんのか?言うだけ言ってすぐに飽きるなんて、がきと一緒だぜ」
と、乱馬に更にばかにされそうなので、
「…」
仕方ないので、あたしは適当に思いついた事を最後にぽつんと呟いた。
「…今あたしとキスしたい人、この指とまれ」
すると。
ハシッ…
「え?」
…あたしが突き立てていた人差し指に、
ゼロコンマ何秒かのすばやいスピードで乱馬が飛びついてきた。
「…ちょっと」
そのスピードがあまりにも速かったので、あたしが唖然としていると、
「あー、残念。この勝負、俺の負けだな。お詫びに、俺のこと好きにしていいぞ、ほら」
乱馬は、そんなこと言いながらぐっとあたしににじり寄ってきた。
「ちょ、ちょッと!あんた、『この指止まれ』っていうのはガキっぽくて嫌なんじゃないの?」
あたしが思わずあとずさりしながら乱馬に尋ねると、
「ガキっぽいとも思ったんだけどさ」
乱馬は、あたしを壁際まで追いやると、
「…内容が内容ならいいかなーと思って」
そう言って、にいっと笑った。
「カフェに行くのを誘うのと、キスするのを誘うのと、何が違うのよッ」
壁際に追いやられて叫ぶあたしに、
「全然違うだろうが。それより、賭けは俺の負けだから…いいよ、俺、あかねの言う事聞いても」
乱馬はそう言って、あたしの追い詰められているすぐ両サイドの壁へと手をついた。
「何よ、言う事って…」
「だからー。俺が勝ったら、あかねは俺の言う通りにする。
あかねの勝ったら、俺があかねの言う事を聞くんだろ?」
「そ、そうだけど・・・」
どんどんあたしへと近づいてくる乱馬から身を引きながら、あたしがボソッと呟くと、
「だからさ。『キスしたい人この指止まれ』ってことはー…あかねがキスしたい気分だから、そう提案したわけだろ?」
乱馬はやけに前向きな解釈をしながらそう言って笑うと、戸惑っているあたしに素早くキスをした。
そして、
「だから、ほら、好きなだけどうぞ。俺は賭けに負けたわけだし?あかねのその条件を泣く泣く飲んでやるよ」
乱馬はそういうが早いか、ニコニコしながらあたしに思いっきり抱きついた。
「ちょッ…こらー!どこかが『泣く泣く』条件飲んでるわけ?」
あたしはそんな乱馬の腕の中でジタバタと暴れるも、
「賭けに負けた以上、俺も男だ。あかねにキスされてやるぜ」
乱馬はそんな事をいいながら、あたしの頬や額や唇にここぞとばかりにキスをしている。
「ちょっと、こらー!これじゃあ、あたしが『されてる』ことになっちゃうでしょ!」
「まあ、細かい事は気にすんなよ」
「気にするに決まってるでしょッ」
「いやー、それにしても。『この指止まれ』も、こーゆー内容なら悪くはねえよなあ」
ジタバタと暴れるあたしを強引に押さえつけながら、
あたしの言う事など耳も貸さずに乱馬はそう言ってニコニコしていた。
「もー!絶対に『この指止まれ』なんていわないからね!」
「もったいねえ。こういう素晴らしい提案をする時はどんどん使うべき表現だと思うぜ?」
…で、結局。
いつのまにか、当初の喧嘩していた立場とは全く逆の立場に成り代わり、再び言い争っているあたし達だった…。