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→6.キライ

…バカバカ!あたしは大バカだわ!

伝説の道着を手に入れたいだけだったアイツの作戦に引っかかって、ちょっと浮かれてたあたしは、
それが分かる や否や、こうして家を飛び出してきてしまった。
むちゃくちゃに走りながらたどり着いた先は、町の一角にある公園。

あたし、何浮かれてたんだろ。
一人で喜んじゃって、勝手に何か期待して…。
自分が、情けない。
…涙が、止まらない。
肩を震わせて、声を出して泣くあたしのすぐ横に、道着の道ちゃんがぴったりとくっついて、慰めてくれていた。
「慰めてくれてるの…?」
涙声でそう聞くあたしに、「きゅんきゅん」と、まるで犬のように声を出して擦り寄る道ちゃん。
「ありがと…」
あたしは、涙を必死で拭いながら、道ちゃんに笑顔を返そうとするけれど、
全くその顔は笑っていない。
道ちゃんは、そんなあたしをみてさらに悲しそうに鳴き出した。
…けど。
突然、道ちゃんがあたしの元から離れ、近くの茂みへと飛んでいき…茂みに向かって攻撃し始めた。
「道ちゃん!?」
あたしは道ちゃんのそんな行動に驚いてしまったが、茂みの中から現れたアイツの顔を見るなり、さっと表情を変える。
あたしは、黙ってアイツに背を向けた。
「あの、あかね…ごめん」
アイツは真っ先にあたしにそういってきた。
でも、今のあたしの心には、そんな言葉は全く届いていない。
正直言って、今はアイツの顔なんて見たくない。
「…騙された私がバカだったのよ」
話が済んだら、早く消えて。
そう言うあたしに、あいつは必死で食い下がってきた。
挙句の果てに、
「初めは道着とあかねを引き離そうとしたんだけど、何か途中から本当にあかねが可愛いと思った」
なんて言い出した。

……
何?この男。
どれだけあたしを馬鹿にすれば気が済むわけ?
あんなことをしといて、まだ懲りずにあたしの心を自分の方へ向けさせて、道ちゃんを引き離そうとしてるわけ?
…許せない。
許せない!許せない・・・絶対に!
「あんた、バカじゃないの?」
あたしはアイツに言いかえした。
「な…今のはホントに…!」
「同じ手に引っかかるもんですか!」
するとアイツは、
「そんな姑息な手を使わなくたって、俺はそんな道着になんて負けねえ!」
なんて言いだした。
「・・・」
この言い草に、あたしはもう完全に頭にきた。
・・・「そんな姑息な手」ですって?
そんな姑息な手を使って、今さっきあんたはあたしにひどいことをしたんじゃない。
そんな手を使わなくっても勝てるって言うんなら、初めからそうやって道ちゃんと戦えばよかったじゃない!
何も、あんな手を使わなくたって…!
最低。最低、最低!
許せない・・・許せない、こんな男。
こんな奴、大っ嫌い!


こうして、あたしとアイツは道着をかけて戦うことになった。


「とにかく道着を脱げ!話はそれからだ!」
そういいながら、アイツはあたしの道着についている「解体ボタン」を思いっきり殴ろうとしている。
…気持ちをもてあそんだだけじゃなく、あたしまで殴ろうとしてるの?この男は。
「いっとくど…私、一発でも殴られたら一生あんたを許さないからね!」
あたしは、アイツと戦いながら、思いっきりそう宣言してやった。
こういえば、素直に土下座でもしてくるかと思ったから。
でも、アイツはあたしと戦うことをやめなかった。
…あたしと仲直りをすることよりも、道着と戦う道を選んだ。
「やっぱり、最低!」
あたしはそういって、アイツを思いっきりぶっ飛ばす。
アイツはそんなあたしの隙を見ながら、あたしの道着のベルトとあたしの体の間に手を滑り込ませようとしている。
どうやら、あたしを直接殴らなくても済むように、自分の手をクッションにしようとしてるみたいだった。
でも、上手くあたしのベルトの中に手が入らないみたいで、
「寸胴すぎて入らねえ!」
なんて叫んでいる。
「だ、誰が寸胴だー!」
怒ったあたしは、アイツの脳天に向かって思いっきり拳を振り下ろしてやった。
ズボ!
…その反動で、アイツの手があたしのベルトの中に入り込んできた。
しまった、とあたしが思った瞬間、もっと思っても見ないことが起きてしまった。
あたしとアイツが空中でそんなやり取りをやっているうちに、アイツの拳がベルトを殴る前に、公園に置いてあった大きなオブジェにぶつかって、あたしの道着の解体ボタンが押されてしまった!

バチバチバチ!…

あたりを一瞬、閃光が包む。
そして、あたしの体を包んでいた道着が、まるでボロ布のように朽ち果てていく。
「あ…!」
空中から落下しながら、あたしは頭が真っ白になった。

道着が…解体されてしまった…
せっかく強くなれたとおもってたのに…
「・・・」
あたしは、そんなことを考えていたけど、自分が落下する予定の場所を見て、はっと表情をこわばらせる。
…落下点には、ポツンとベンチが一つ。
そのベンチには、「ペンキ塗りたて」の張り紙があった。
「いやあああ!」
ボロ布のようになった道着で身をまとわれたままのあたしは、思わずそう叫んでしまった。
こ、このままだと、
あたしの体にもペンキがついてしまう!!
「嫌だああああ!」
あたしは、自分の体を極力守るように抱きながらもう一度叫んだ。

……
ドス!

あたしの体が、何かに座ったような衝撃がした。
「…」
あたしは、恐る恐る目を開ける。
「!?」
そして、ちょっとだけ驚いた。
…ペンキ塗り立てのベンチに座ってるのは、あたしではなく、アイツだった。
あたしの体は、アイツの膝の上。
アイツが、あたしを抱き上げてベンチに座っていた。
どうやら、ペンキがつかないようにとあたしをかばってくれたみたいだった。

「まだ…怒ってんのかよ…」
あたしを抱いたまま、そう呟くアイツ。
あたしを抱いている方じゃない逆の手は、ボタンを解体したときに受けた衝撃で、見るも無残に赤くはれ上がっていた。

かばってくれたんだ、コイツ。

……
何よ。
こんな、ペンキからあたしを守ってくれたことくらいじゃ、あたしに対してしたことすべては帳消しにはしてやんないわ。
怪我するなんて当然の報いよ。人の心を弄んで傷つけた罰だわ。
そんな怪我、誰が同情なんてしてやるもんですか。
あんたなんか、大っ嫌いよ。
でも、
あたしの体をペンキから守ってくれたことに免じて、もう少しだけ、こうやってあたしを膝の上に抱いてることだけは許してあげる。
あたしに触れてることを許してやってもいいわよ。
もう少しだけなら…。

あたしの口からは決して「許してあげる」とは言わなかったけれど。
しばらくあたしはアイツの膝の上に大人しく座っていた。
アイツもちょっと赤くなりながら、あたしを膝の上に抱いて座っていた。…

 

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