ある日の事。
お父さん達が、妙なものを持って帰ってきた。
それは、着たものの戦闘能力をフルに引き出す力をもつ、伝説の道着。
さる山寺から預かってきたものらしいんだ。
しかも、その道着は着る人を選ぶんだって。
つまり着れたものこそが、道着に認められた「真の武道家」って事らしい。
お父さんも、おじ様も、アイツも、躍起になってその道着を着ようとしてるけど、全く相手にならない。
そうめったに「真の武道家」なんていないんじゃないかしら?
あたしはそんな事を考えていたんだけど。
それが、何の因果か分からないけど、選ばれたのは…あたしだった。
ちょっとビックリしたけど、天道道場の跡取娘としては、すごく光栄なこと。
アイツと手合わせしたって、道着を着ていたら負けるとこなし、なの。
あのアイツに、勝てちゃうんだ!すごい道着だわ!
それに、道着もなついてくれてるみたいだし…
あたしは悔しがるアイツを尻目に、結構充実してた。
そんな中。
「二人きりであいたい」なんて、アイツから急に手紙をもらった。
こっそりと押入れの中まで会いに行くと、
「俺、最近気になる子ができちゃって…」なんて告白しはじめた、アイツ。
思わずムカッと来て殴ってしまったけど、どうやらそれはあたしの事、らしい…。
・・・
ちょっと、嬉しかった。
だって、アイツが初めてあたしにそんなこといってくれたんだもん。
「道着がいつもべったりしてるから、うかつにお前に近づけない」なんて…
そんなこと、アイツがあたしに言ってくれるなんて…夢みたいだった。
アイツがそこまで言うんだったら、あたし、この道着を封印してもいいかな…
だって、あたしの方がアイツより強かったら、やっぱ嫌なんじゃないかな?なんて。
あたし達がそんな話をしてたら、急に、天井から妙な虫が降って来た。
「いやー!」
と、虫に拒絶反応を示して、思わずアイツに抱きついてしまった、あたし。
アイツも、そんなあたしの背中にそっと手を回す。
…アイツに告白されて、それだけでもドキドキしてるのに、こんな状況になって。
あたしたちは、お互いの顔をじっと見つめあう。
そして…もう少しでキスしちゃうかな、という、そんな瞬間だった。
ガラ!
…ものすごい勢いで、あたし達のいる押入れのふすまが開いた。
「え!?」
押入れの外には、道着の道ちゃんとなびきお姉ちゃん、かすみおねえちゃん。
「残念!」
なんと押入れの天袋からはお父さんと早乙女のおじ様。
な、な、何!?
もしかして、みんな見てたの!?
今の話、聞かれてたって事?やだ、ちょっと照れるじゃない…
…あたしがのんきにそんな事を考えていると、お父さんの口から、信じられない言葉が飛び出した。
「あかね、その道着は、主人と認めた武道家が異性に心を奪われると、着ることができなくなってしまうんだ」
…
あたしの頭の中は、真っ白になった。
そう…
そういうことだったの…。
…アイツがあたしに告白してくれるなんて、おかしい話だとおもったのよ。
あたしの事可愛いなんて…あたしの事すごく気になるなんて…
そんなこと言ってくれるはずがないもん…。
バカなヤツ。
バカなヤツ。
こんな手を使わなくたって、もっと他にも道着に勝てるすべはあったんじゃないの?
こんなことまでして、この道着に勝ちたかったの?
こんなことまでして、道着を手に入れたかったの?
・・・
「そういうことだったの…」
あたしはそういうのがやっとだった。
…あたし、バカみたい。
こんな手にひっかかって。一人で浮かれちゃって。
アイツは、打算であたしに近づいてきたっていうのに。
…あたし…
「もう、顔も見たくない!」
アイツを殴り倒して、あたしは表へ飛び出した。
…バカは、あたしだわ。
あんなヤツにだまされて、浮かれて。あまつさえ喜んじゃって…。
ホントにバカよ!あたしは…バカだわ。
いつも、「可愛くねえ」とか「色気がねえ」とか、散々文句を言われてるじゃない。
そんなヤツが、あたしの事好きだなんて、告白してくるはずなかったでしょうが!
それなのに、ころっと信じちゃって…バカなあたし。
何、告白されて嬉しくなってるのよ、あたしは…あたしは…。
勝手にだまされて、勝手に傷ついて。
あたしは、どこをどう走っているかわからないけれど、あふれてくる涙を必死で拭いながら、夜の町を走り抜けていった…