【らんま1/2の二次創作小説サイト】| INFORMATION | NOVELS |BOOKMARKS |CONTACTS | HOME |web拍手

3daysA

その日の、夕食後。
「だーかーら!離れろ、シャンプー!」
「嫌ある!」
…浜辺であかねに宣言した通り、乱馬に隙あらばくっついて離れないシャンプーと、そんなシャンプーを引き剥がそうと必死になっている乱馬。 日本に帰るまでの問一同が生活をさせてもらっている、呪泉郷ガイドの家の居間では、そんな二人の姿が見受けられた。
パンダ姿のままの玄馬は、呪泉郷ガイドと別室で寝転びながらテレビを見ていた。 良牙は、別室でなにやら手紙を書いているようだつた そして、乱馬とシャンプーのそんな様子を見れば激怒するはずのムースは…というと、現在入浴中の為、居間には不在。
「あの二人は、ほんとに元気あるな」
なので。その二人を邪魔するものが居ないようなそんな状況を、居間に隣接されている台所から、のんびりとお茶を飲みなが らガイドの娘 ・プラムとあかねは眺めていた。
邪魔をしたくないわけではないけれど、でも何となく以前のように、「何やってんのよ!」と、あかねにはそんな風に飛び込んでいく事が出来なかった。
それは、昼間にシャンプーのあの宣言を聞いてしまったからなのだろうか。
こんな風に、ぼんやりと眺めている暇はない。本当ならあかねとて、何か手を打たなくてはいけないのだ。
でも、どうやって?複雑な思いと気ばかり焦り、あかねはただ、二人の姿を眺めている。
「あかねさんは、いいあるか?」
と、その時。
そんなあかねに、プラムが声をかけてきた。
「いいって?」
あかねが声をかけてきたプラムを見ると
「あかねさん、あのお客さんの許婚ではないのか?」
プラムは不思議そうな表情で、あかねに言った。「あのお客さん」というのは、勿論乱馬の事である。
「え…そ、そうだけど…」
「許婚が、あんな風に他の女性に抱きつかれて、迫られているあるぞ?止めなくていいあるか?」
「そ、それは…」
最もな意見である。だけどままならない事情がある…あかねが言葉に困っていると、
「私が見たところ、あかねさんもあのお客さんも、どちらも奥手ね。それでは愛を貫いていくのは大変な事」
…と、まだ子供にも関わらず、プラムは妙に大人びた事をぼやいている。
「あ、愛を貫くって…」
あかねが思わず、そんなプラムの言葉に苦笑いをしながら反応をすると、
「呪泉洞での戦いを見て、私は思った。お客さん達、確実に両想いある」
「そ…それは…」
「それなのに、戦い後は何だかよそよそしくさえ見える。 照れているあるか?」
「べ、別にそういうわけじゃ…」
「奥手すぎるから、そんな二人の間にああして割り込もうとする人、現れるね。奥手できっかけがつかめないというのなら、私、いつでも協力するあるぞ?」
プラムはそう言って、にいっ…と意味ありげな笑みを浮かべた
あかねはそのプラムの笑顔に若干不安房覚えつつも、
「あ、ありがとうプラムちゃん」
と、一応礼を述べた。
「構わないね。私は、面白いものを見せてもらえれば」
「え?」
「こっちの話ある」プラムはそんな事を言いながら、それまで自分が手にしていたカップの中のお茶を一気に飲み干すと、
「とにかくここは、私に任せるよろし。さ、今晩は作戦を練らねばならないな」
そんなことを言いながら、自分の部屋へと戻ってしまった。
「さ、作戦て…」
「愛を貫く」だとか、 「協力する」だとか 「作戦」だとか。あかねは、プラムの残していった言葉が妙に気になったが、それ以上に、それでもそんな子供にまで頼らなくては仲が進展しない自分達が、情けなくて仕方がなかった。

と、その時。

「あいやー、煙草が切れてしまったね」
それまで別室でテレビを見ていたガイドが、そう言いながら、居間にいるあかね達の元へとやって来た。
「私、買って来ましょうか?」
あかねがそんなガイドに声をかけると、
「あいやー、優しいお客さんね」ガイドはそう言って、あかねに煙草の代金を手渡す。そして、
「煙草は、出て直ぐの小道を左に曲がった角に売っているね。おつりはお駄賃ね」
「お駄賃ですか…ど、どうも」
「でも、場所は直ぐそこだが、女の人、一人では危ないね」 と言って、
「お客さんちょうど良い所に来たね。ちょっとそこまで、お使いに行ってもらえるあるか?」
…と、居間でシャンプーとじゃれあっていた乱馬…ではなく、
「あー、いいお湯じゃった。次は誰じゃ?」
と、たまたま風目上がりに居間を通りかかったムースへと、声をかけた。
「あ、大丈夫です私一人でも。すぐそこなんでしょ?」
風呂上りの、しかもムースにわざわざ頼まなくても。あかねが慌ててそう頭を振るも、
「例え近くても、ここは日本と違う。女性の夜の一人歩きは、大変危険ね。なのでお客さん、一緒に行くよろし」
ガイドはそう言って、風呂上がりのム!スの背中を叩いた。
「人使いが荒いのう。しかし世話になっているので文句は言えんな。どれ、天道あかね。さっさと行って帰ってくるぞ」
するとムースは、小さくため息をつくもそう言いながら、さっさと玄関へと向かった。基本的にムースは、ド近眼だろうがシャンプーに夢中だろうが、素直でとても常識的な人物なのだ。
「あ、ま、待ってよ…」
突然頼まれたにも関わらず愚痴もこぼさず一緒に出てくれるムースを待たせるわけにはいかない。あかねは慌ててそんなムースの後を追い、
「じやあ、行ってきます」
「よろしく頼むある」
ガイドのお使いの為に家から出て行った。
その一方で、そんな風に居間を出て行くあかね達を見ていたシャンプーが、
「あかねとム|ス、中々お似合いね」
と、二人が出て行く姿をじっと見つめていた乱馬に向かって、そう呟いた。
「そうか?」
その言葉に対し、乱馬がぶすっとした口調で呟くと、
「恋に破れたもの同士、くっつくのが一番ね」
「何だよ、恋に破れたって」
「乱馬は、私と愛し合う。そしたら、邪魔者のあかねとムース、くっつくのが一番合理的ね」
シャンプーは嬉しそうに、乱馬の腕に抱きついてきた。
フワリ、と少しきつめの香水が、乱馬の鼻先に漂う。
「どこが合理的だ」
乱馬はそんなシャンプーを上手い具合に引き剥がすと、
「それよりシャンプー、ムースが風呂から出たってことは、次は風呂、女の番だろ?あかねが戻ってくる前に入らなくていいのか?」
「あいやー、そうだったある」
と、さりげなくシャンプーの気を自分からそらし、
「じゃあ早く入って来いよ。そうだ、親父、あのさ…」
別に玄馬に用事があるわけではないが、話しかけるふりを交えつつ、タイミングを見計らって何とか、シャンプーの手から逃がれることに成功した。
「…ったく。何が合理的だよ、シャンプーの奴。いつも以上に引っ付いてきやがって…」
もちろん、そのまま本当に別室にいる玄馬の元へと向かう…訳ではなく、シャンプーが風呂に入る為に居聞から出て行ったのを見計らって、乱馬は再び、居間へと舞い戻った。そして、ドサリとソファに身を投げて、目を閉じる。

…はっきり言って、いい気分がしない。というよりむしろ、気に食わない。
それは、シャンプーが自分にまとわりついてくることではなく、あかねがムースと買い物に行ってしまった事ではない。
いや、それも本当は気に喰わないのだけれど、それ以上にもっと…そう、今自分達を取り巻いている状況が、気に喰わなかった。
呪泉の水と、あかねの命を取り戻す戦い。 それらを通して、いかに自分にとって、あかねが大きな存在であったか。乱馬とて、それを十二分に感じ取る事が出来た。そして、
『好きだといわせてくれ』
なかなか息を吹き返さないあかねに、何度も心の中でそう、訴えかけた。
そして、それは言葉に出さずとも、あかねにも伝わった。命を賭けて自分を守ろうとしてくれたあかねと、命を賭けて、そんなあかねを守りたかった乱馬と。二人の心はようやく…一つになった。そうはっきりと感じた。
が…心は一つのはずなのに、何故かそこから先に、進展が見られなかった。
戦いが終わって、こうして日本に戻るまでの間一緒に過ごしていても、何故だか分からないけれど、上手く言葉を交わす事が出来ない。
何故だか分からないけれど、傍に近寄る事が出来ない。 そして、何故だか分からないけれど、その身体に触れる事が出来なかった。
触れたくないわけでは、なかった。いや、むしろ思いつきり触れたいと。そう思っているのは事実だ。しかし、どうしてもそれをすることが出来なかった。 それは、一体何故か。
「…俺の、せいか。やっぱ…」
誰に言うともなく、ぼんやりと見上げた天井に向かって、乱馬はそう肱いた。
そう、それは自分の不甲斐無さゆえ。 奥手も、ここまで来るとただの「意気地なし」だ。
こんなややこしい状況になっている原因の多くが、自分のせいだということ。それぐらい、乱馬にだって嫌というほど分かっていた。
今目だって、浜辺であかねを散歩に誘おうと試みるも、誘いに行く前にシャンプーに捕まり、更にそれをムースに逆恨みされ、結局あかねを誘うどころか三人で追いかけっこをする始末。 夕食後だって、シャンプーがくっついているのに手間取る内に、あかねはムースと買い物に出かけてしまった。
では、シャンプーに全て原因があるのか?それは、違う。くっついてくるシャンプーにも原因はあるものの、元はといえば、それをはっきりと拒絶せずにだらだらとしている乱馬に、原因があるのは一目瞭然だった。
『確証』
…そう、本当に思いあっているという「確証」を。心で通じ合っている…と思っている、という不確かな事実だけではなく、もっと物理的な証拠として欲しい。こんな状況ではあるけれど、それが乱馬の本心であった。いや、乱馬だけではない。きっとあかねもそう思っているのではないか…誰だって、こんな状況であればそう思うのは当たり前だ。乱馬はそれもわかっていた。
なのに。欲しくて堪らないというのに、どうしても今一歩、行動に移ることが出来なかった。
勇気、なのだろうか。 戦いの場では、十二分にその勇気を発揮できる乱馬であっても、恋愛に関して異常なまでに奥手な乱馬だ。戦いと同じようには出てくれないそれに、自分自身苛立ちさえも感じていた。
たとえ心は通じ合っても、時にはそれを言璽で表さなくてはいけない時だって、ある。
「シャンプーがくっついてくるから話が出来ない」「シャンプーが邪魔をするから、話が出来ない」。もう、他人のせいにして逃げるのでは誤魔化しきれない状況に、自分達は来ているのだ。
せめて何か 「きっかけ」でもつかめないか。はっきりとした 「確証」を、そしてこの想いをあかねに伝える事は出来ないだろうか。
タイムリミットは、あと三目。四日後には、日本へ旅立つ。
船に乗ってしまえばゆっくりと考えている時間はなくなるし、それに日本に戻ればまた、いつもどおりのドタパタした生活が始まる。
…何とかして、この三日間で何か、何か変える事は出来ないか。
  乱馬は天井を見つめながら、深く大きなため息をついた。

一方。乱馬がああでもないこうでもないと居間で一人、考え事をしていた、ちょうど同時刻。
「お使いに付き合ってもらって、悪かったわね、ムース」
「例え色気がなくとも、中国では夜の女子の一人歩きは危険じゃ。気にするな」
「なっ…色気がないは余計よ!」
  無事にガイドの使いを終え、駄賃として貰ったおつりでムースにお礼の飲み物を買ったあかねと、そしてそんなあかねの横を歩いていたムースが、家へと向かう道をそんな会話をしながら歩いていた。
「ま、本来おらが行くべきではないと思うところじゃが…乱馬へのシャンプーの熱も、その内冷めるじゃろ」
「…がんばって、としか言えないけど…」
「おぬしが気にすることではないだろう。あとは、おらとシャンプーの問題じゃ」
「ごめん…」
「だから、何故おぬしが謝る。それよりも、乱馬を掴まえて、シャンプーに手出しせぬよう見張って置いて欲しいものじゃ」
ムースはそう言って、ふう、とため息をついた。あかねは、そんなムースの言葉に小さく額いた。ムースはそんなあかねの様子を見て、
「乱馬の様な好みを持つ男も少ないわけだから、おぬしもせいぜい努力はするのじゃな」
ムースは助言のような、小言のような、小馬鹿にしたようなそんなことを言いながらも不意に、 「お?」と妙な声をあげた。
「え?どうしたの?」
早速、治安が悪い海外の洗礼でも受けそうなのであろうか。 あかねが一瞬顔を強張らせると、
「いや…天道あかねよ、その飲み物、おぬし飲まぬのか?」
ムースは、これから戻る先のガイドの家の玄関を見ながら、そんなことを肱いた。
「飲まないわよ。だってこれ、ムースの為に買ったって言ったじゃない。もらってよ」
あかねがムースに缶のお茶を手渡そうとすると、
「おらは良い。それよりも、それ、飲まぬならあいつにくれたら どうじゃ?」
ムースはそう言って、自分達の前方に見える家の玄関をそっと、指差した。


「あいつ…?」
あかねがふっとそちらを見ると。家の玄関先に、壁にもたれるようにしてぼーっと立っている輩が見えた。
時々、ウロウロと玄関の周りを歩き回っては、再び落ち着いて壁にもたれかかる。そして空を見上げるもまた、ウロウロと玄関を歩き回る。たまに、玄関脇に立てかけてあったモップに毛蹟いて地面に倒れたりして。 辺りに人が居ないのをいい事に、何事もなかったかのように立ち上がり、そしてまたウロウロとする。誰が見ても不審人物のようにも見えるが、その人物は…
「…乱馬?」
「おら達が買い物に出てから、ずっとああやって待っていたのではないか?」
「まさか…」
「でなかったら、おぬしがなかなか帰ってこないから、ああして待っていたのじゃな。どちらにしても、暇人じゃのう」
ムースはそう言って小さく笑うと、
「おらはもう少し、このまま散歩でもしてくる」
「え?あ、あんたこそお風呂上がりじゃないの?」
「風呂は少し熱かったからな。少し身体を冷やさねば、熱すぎて眠れん」
そう言いながら、再び先ほど使いに出た場所の方角へと歩いていってしまった。
「あ、ムース!」
あかねが慌てて声をかけるも、ムースはもう去った後。あかねが困惑した表情のまま、ムースが歩いていった方向を見ていると、
「…すぐそこまで買い物に行ったんじゃねえのかよ」
そんなあかねの元 へ、あかねが戻ってきた事に気がついた乱馬が、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「す、すぐそこまでよ。だからすぐ、帰ってきたじゃない」
「…三十分」
「え?」
「ガイドが五分位って言っていたのに、三十分も帰ってこないから」
乱馬はそう言って、少し表情を曇らせため息をついていた。
…そう。初めはすぐにあかねとムースが帰ってくると思い、居間のソファで一人考え事をしていた乱馬だったが、待てどくらせど、あかねは帰ってこなかった。
たしか、五分位って言っていなかったか?…そう思い壁の時計と脱めっこをするも、五分、十分、十五分。無情にも時計の針は、乱馬の気持ちとは裏腹に進んでいく。
異国の土地で夜、自分ではなく、別の男と買い物に行った許婚を、こうして待っている自分。
例えその相手が、あかねには手を出す事のない男だとは分かっていても、男というのは、時に身体と心が別行動を起こすこととて、あるという。自分は違うと思ってはいても、相手がそうとは限らない。
万が一のことを考えると、乱馬は急激に不安で胸が苦しくなっていた。 時計とにらめっとをする回数が多くなれば多くなる程、乱馬はそんな自分が情けなくて仕方がない。
その内居ても立っても居られなくなって、居間のソファから勢い良く起き上がり…こうして玄関先であかねの帰りを待っていたのだ。

お互いの言いたい事は、分かっている。それなのに、言葉を発することが出来ない。
黙って僻いている二人の聞に、張り詰めた時間が流れていた。
何か、言わなくては。 何か、もう一言声をかけなければ。
…しかしそう焦れば焦るほど、二人の口は堅く閉ざされていく。

「…すぐに帰ってこないで、ムースと何していたんだよ」
心配する気持ちが裏目に出て、ついついきつめの口調であかね に詰め寄る乱馬に、
「何もしてないわよ。ちょっとゆっくり歩いていただけよ」
「なんでゆっくり歩くんだよ」
「なんで歩く速度まで気にされなきゃいけないのよ」
あかねも思わず、そんな風にきつめの口調で答えてしまう。
お互いが、お互いの事を心配している。そんなの、言葉に出さずとも分かりきっている事だった。でも、どうしてもお互いそれが素直に口に出せない。
二人が前に進めない原因は、そこだというのに。
「あの…」
それでも、この状況を少しでも打破する努力をしなくては。勇気を出してあかねが口を開くと、
「とにかく…帰ってきたなら、それでいいよ」
それを見計らってなのか、それともたまたま時を同じくしてなのか。
乱馬も同じようなタイミングでそう口を開き、一人先に家の中へと入ろうとした。
「あ、待って…」
これでは、今までの繰り返し。あかねが慌てて声をかけるも、乱馬はその声に気が付かず、さ
っさと玄関の戸を開けようとしている。
…せっかく、二人きりで話す機会を持つ事が出来たというのに。
「あんまり遅いから、心配してこうして待っていたんだ」
「心配してくれて、ありがとう。ゆっくり戻ってきていたから遅くなったの」
たったそれだけの会話をすれば、二人の状況が大きく変わるというのに。でも、今の二人にはそれが出来なかった。そしてそれが、二人に 「足りないこと」でもあった。
こんな風に、お互いろくに言葉を交わさないままこの時聞か終わってしまうのか。
それだけは、嫌だ。
でも、これ以上自分が何か言葉を口にすることが出来るとも思えなかった。
ただ、乱馬をもう一度呼び止めたかった。
「乱馬!」
あかねはとっさに、手にしていたお茶の缶を、思いっきり乱馬の後頭部に向かって投げつけた。
ゴスッ…
「痛え!」
中身が入っている缶の重みが、乱馬の後頭部へ勢い良く伝わっていく。
「な、何すんだよ!」
自分の頭にぶつかり、地面にゴロゴロ…と転がった缶を拾い上げ、乱馬が再びあかねの方を振り返った。
「あげるわよ、それっ…」
ようやく振り返った乱馬に、あかねはそう小さく叫び、缶を拾い上げた乱馬の横をすり抜けて、先に玄関の中に飛び込んだ。
「あげるって…」
「そ、外にいて身体、冷えたでしょっ…だから、あげるわよ!」
心配して外で待 っていてくれて、ありがとう。
…最後の言葉は自分の心の中に飲み込んでしまったが、あかねは乱馬に向かってそう叫び、そのまま家の中へと逃げ込むように入って自室に戻った。
「あっ…」
そんなあかねの後ろ姿を見送りながら、乱馬は拾った缶を握り締める。
缶を投げて自分の横をすり抜けていった彼女に対し、まあぶつけられたことはともかくとして、何故お礼の一言も自分はかけてやれないのか。せっかく、あかねがバトンをくれたというのに。
そう思うと、再び乱馬は自分の不甲斐無さにため息をつく。
…地面から拾った缶は、まだほんのりと温かかった。理由や方法はどうであれ、購入したその飲み物を乱馬に投げつけたあかねのそれは、彼女の気遣いだ。
「投げつける」というところがやっぱりあかねらしいのだが。
乱馬は、拾い上げた缶の飲み口の夕ッブを、指でくいっと引き起こした。一口そこから中のお茶を飲むと、手で触れている外側部分よりも、中のお茶はもっと、熱い。
「あちっ…」
思わず顔をしかめてしまうような熱さが、乱馬の喉元を通り抜ける。
…見かけよりもずっと、中身はとても、温かい。
缶をぶつけるという乱暴な行為の裏にも、本当はもっと別の気持ちや意味が詰まっている。
その気持ちを、ちゃんと理解している事。そして、それが自分にとって嬉しいという事。
…それを、どうして自分は表現できないのか。 乱馬は、自分の不甲斐無さにため息をついた。


RUMIC'S NOVELS LINK

パラレル
糖度2
糖度3
糖度4
糖度5
企画

OTHER CONTENTS

■オリジナル作品(外部サイト)
お仕事情報

THANKS!

TOTAL: HITS(Y:)