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3daysF

「ここは…」

ようやく立ち止まった二人。あかねが、そんな事を呟きながら辺りを見回すと、
「…公園だろうなあ」
乱馬が、そんな事を言いながら近くのベンチへと腰を下ろした。
乱馬にしては珍しく、息が上がっていた。繁華街のあの時から走り始めたあかねとは違い、もしかしたら乱馬は、シャンプーと繁華街に消えた時からずっと、彼女と追いかけっこをしていたのかもしれない。
「あの…大丈夫?」
ベンチの近くにあった「水飲み場」で、あかねはポケットに入れていたハンドタオルを濡らして、乱馬へと渡した。
「大丈夫」
乱馬は、あかねからハンドタオルを受け取りサッと額や首を冷やすと、
「…はあ」
そのおかげでようやく呼吸が整ったのか、改めて乱馬は、あかねの顔をじっと見つめた。
あかねが、そんな乱馬の横に腰を下ろして、「あの…」と口を開こうとすると、
「こら」
それよりも一瞬早く、乱馬があかねの額を指で弾いた。勿論、全力ではなく軽く、だが。
「痛…な、何するのよ」
そえでも、不意打ちは驚く。あかねが弾かれた額を手で抑え乱馬に反抗すると、
「何するの、じゃねえよ。気をつけろよな!…ったく。危ない所だったんだぞ」
乱馬は少し眉聞に雛を寄せながら、あかねにそうぼやいた。
「あ…」
ここまで走る事に精一杯で、そう言えば少し前まで繁華街で怖い目にあっていたという事を、あかねはすっかり忘れていた。
「あ、あ…あたし…」
でも、乱馬のその一言であの時の恐怖を思い出したあかねは、途端に瞳に涙を浮かべる。
「お、おいっ…な、何も泣く事ねえだろ!」
突然涙ぐみ、大粒の涙をぽろぽろとこぼし始めたあかねに、乱馬は狼狽する。
「…怖かった」
あの時の恐怖を思い出したのと、そして…ようやく乱馬に会えて、ぐんと感じた安堵感。
日本の、住みなれた街でならともかく、異国の、それもあんな繁華街で、だ。殆ど言葉も通じないようなあの状況で、離れ離れで時を過ごしていたのにも関わらず、あかねの絶体絶命のピンチで、乱馬が来てくれた事。それがあかねには、何よりも嬉しかった。安心した。ホッとした。
…言葉では表現できない「安堵感」が、あかねを急激に襲った。
  だからこそ、あの時感じた怖さが、今ようやくその口から出る。安全で安心できる状況だから、あの時の記憶をこうして、冷静に思い出すことが出来るのだ。
「…怖かった」
あかねは、零れ落ちる涙を手で何度も拭いながら再びそう呟いた。
すると、乱馬は、そんなあかねの身体をそっと抱き寄せた。何も言わず、ただそっと。乱馬は、片手であかねの背中を軽く、ぽんぽんと叩く。もう片方の手では、優しくあかねの頭を撫でる。
あかねは、そんな乱馬の腕の中でただひたすら、泣いた。
まるで子供のように無心で、声をあげて泣いた。泣いて、泣いて…そしてようやく気持ちが落ち着いた頃。
「…ひでー顔」
ようやく泣き止んだあかねがふと、それまで自分を抱きしめていた乱馬を見あげると、乱馬は優しく笑いながらも、口ではさらりと酷い事を言った。
「…悪かったわね」
あかねがそんな乱馬に唇を尖らせて見せると、
「ごめんな」
何故かそんなあかねに、乱馬が謝った。
「え?」
あまりの素直さに、意表を突かれたあかねが驚きの声を上げると、
「俺がもっと早く、来てやれればよかったんだけど…」
乱馬はそういって、まだ濡れたままのあかねの頬に触れた。あかねがそれに答えず、乱馬の顔をじっと見つめると、
「シャンプーから離れるには、繁華街に入る瞬間だと狙っていたんだ。で、作戦どおりそこでシャンプーから逃げたんだけど、すぐに見つかっちまって」
「…」
「でも逃げながらさ、俺、あかねをずっと探していたんだぜ?」
「え?」
「で、すぐに見つけた。お前は気付かなかったかもしれないけど…お前、繁華街の入でジャンプしたりして道を眺めていたろ?」
乱馬はそう言って、にやりと笑った。
「ちょっ…そ、それならなんで、すぐに声をかけてくれなかったのよ!」
あかね、一生の不覚。あかねが恥ずかしさの余り、乱馬の身体をボコボコと叩き抗議をすると、
「かけようとしたよ。でもいざ行こうとしたら、すぐ傍をシャンプーが通り過ぎて。だから慌てて身を隠したんだよ。その内にお前は繁華街の中に入っちまって、そんで変な奴らに連れて行かれそうになっていて…」
だから、シャンプーに見つかるの覚悟で慌てて飛び出した。乱馬はそう言って、そっとあかねの手を取った。あかねが思わずビクリ、と身を掠めるも、乱馬のその手をそっと外し、
「…もう平気」
と、微笑んだ。乱馬はそんなあかねに対し、名残惜しそうな顔をした。あかねは、そんな乱馬の手を、今度は自分からぎゅっと握り締めた。そして、そのまま自分の胸元へと持っていく。
「えっ…あ、あのちょっと…」
拒絶されたわけではなさそうだが、逆にそんな事をされると照れる。乱馬が掠れた声を出すと、
「…嬉しかった」
あかねはそんな乱馬に対して、一言そう肱いた。
「嬉しかったって…?」
あんな怖い目に遭ったのに、一体何が嬉しいというのか。不思議に思った乱馬が問い返すと、
「…あの時、助けてって叫んでも、誰も助けてくれなかった」
「…」
「異国の土地で、言葉も通じなくて…叫んだ声さえも、喧騒に飲まれて。このまま、あたしはどうなっちゃうんだろうって…怖くて不安でおかしくなりそうだった。でも…」
「でも?」
「…乱馬が来た」
  あかねはそう言って大きく一度深呼吸をすると、
「日本にいる時と同じように、あたしがピンチの時は、やっぱり乱馬が来てくれた」
あかねは、「ありがとう」と乱馬に小さな声で礼を述べる。
「…別に、礼を言われるほどの事じゃねえよ」
そんなあかねに対し、乱馬は素っ気なくそう返した。あまりの乱馬の態度に、あかねが悲しそうに表情を曇らせると、
「あ、そうじゃなくて…その、俺は…」
乱馬は自分のその態度の本意を理解して欲しいと、一旦弁解をした。そして一度深呼吸すると、
「俺は…その、おめーがどこにいたって、見つける自信、あんだよ」
「え?」
「だから、どこにいたって、どんな目に遭いそうになっていたって、絶対に助ける。何でって言われると理由なんて上手く言えないけど…俺はそんな自信があんだよ。自信あるから!だから…」
と、小さいけれど、でもはっきりとした声で言った。
「乱馬…」
あかねは、そんな乱馬の言葉に反応して、悲しそうな表情一転、頬を赤らめる。乱馬は続ける。
「だからさ、その…もう安心しろよ。今回はちょっと出遅くれたけど…でも、どこにいても、どんな状況でも、絶対に俺がおめーを守ってやるからさ。ヤダって言われても、絶対に一生、俺が守るから…」
乱馬はそう言って、あかねと同様に自分も頬を赤らめた。そして、「まあ、その…そういうことだ」とか何とか。妙に照れくさそうに、しきりに自分の頬や頭をポリポリと掻いている。
そんな乱馬の言葉に、あかねも胸を鼓動させつつも、ゆっくり領き、そして笑顔を見せた。
乱馬も、そんなあかねのその笑顔に、ホッとした様な表情を見せた。
「…約束してよ?」
「ああ、するよ」
「一生、なんだからね?」
「ああ、一生な」
二人は、そう言いながら自然に、額を寄せ合うようにしてお互いの顔を近寄せていた。
顔が近づいて、お互いの前髪がフワリ、と触れ合った。そんなお互いの表情は覗う事は出来ないが、決して苦痛で歪んでいるわけではないだろう。それは想像が出来た。
その内、フッ…と、鼻先にお互いの息が掛かった。それに合わせ唇が、お互い少しずつ、開いたような気がした。

「キスされる」

一瞬、あかねの脳裏にそんな言葉が過った。
昨夜も一応はそれを感じたが、昨夜の場合は、その予感の後すぐ、彼の身体を手で押し返した。
それは、生理的に嫌、というわけではなくて、お互いの気持ちの整理や状況が全然整理できていないのに、身体の関係だけ進むのが嫌だったから。
でも今日は、違う。今日は素直に受け入れられる。そうきっと…「キスされる」のではなくて、 「キスをする」んだ。自分も、キスをしたいんだと。そう感じたからなのだろう。
そう思ったあかねは、そっと目を閉じた。その瞬間、あかねの少し開いた唇に、フワリと温かくて柔らかい何かが一瞬、触れた。 ほんの、一瞬だった。
あかねが目を開けると、そこには穏やかだけれど、明らかに顔を赤くした乱馬の姿があった。
あかねはそんな乱馬に、今度は自分から唇を押しあてた。 フワリ、と、やはり一瞬、お互いの唇の温かさと柔らかさを味わう程度だ。あかねが唇を離すと、今度は再び乱馬が、先程同様に、あかねの唇にそっと、触れた。 温かく柔らかいその唇を、今度はちょっと強く押し付けてから、ゆっくりと離れた。

 

「…なによ、これは」
そんな乱馬に対し、あかねが額をつけたままの姿勢でわざとそう尋ねると、
「…わかんねえよ」
やっぱりわざとはぐらかして、乱馬がちょっと笑った。
「わかんないじゃ、困るのよ」
あかねはそんな乱馬にそう返すと、再び乱馬のその唇に、そっと唇を押し当ててから離れた。
「…何だよ、これは」
するとそんなあかねに対して今度は乱馬が、そう尋ねる。
「…わかんないわよ」
あかねが先程の乱馬と同じ様にはぐらかしてそう答えると、
「…わかんねえじゃ、困るんだよ」
乱馬は、やはり先程のあかねと同じようにはぐらかして答えた。
…同じこと、言っているや。
二人は、何だかおかしくて、額をくっつけあったまましばらく笑っていた。

お互い、その胸中は激しく鼓動していた。相手に気付かれないようにそっと触れても、ドクン、ドクンと鼓動しているのが分かる。でも…ドキドキする以上に、何故か楽しくて、嬉しくて、仕方がない。今にも本当は駆け出したいような…そんな気持ちが二人の心を満たしていた。
…ここ数日「心が通じ合っているという『確証』が欲しい」。そう思い、お互い色々考えていた。
必要以上にギクシヤクとして、そして妙に意識しては避けて…ろくに会話も出来なかった。
きっかけを捜して、他人に頼って。また一方では、そんな二人の間に割って入る者もいた。何もかもが上手くいかなくて、最後は少し、諦めかけていた。
でも。「好きだ」とか、「愛している」とか。感情を直接伝える言葉でなくとも、
「絶対に俺が、おめーを守ってやる」
そんな言葉を、あかねは乱馬に貰った。 そしてそれは、決して口先だけではなかったと。
この異国の土地で…絶体絶命の状況でも、それを証明してくれたこと。日本にいる時と同じように、たとえ海を渡った異国の土地であったとしても…乱馬は約束を守る。
「助けて欲しい」と願った時に、必ず助けに来てくれる。その乱馬の気持ちを知っただけで、あかねにとってはそれが充分な『確証』となった。
乱馬に至っては、自分の思いをあかねが受け入れたこと。 それが充分な『確証』となった。
キスはおまけだったが、それを、お互いが確信し合えたことが、二人には、何より嬉しかった。
…そうやって、しばらくの間笑いあっていた二人だったが、

「そろそろ行こうか。まだ、お土産買ってねえんだろ?」
「うん」
ひとしきり笑いあった後、そんな事を言いながらゆっくりとベンチから立ち上がった。そして、
「俺も、お袋に土産でも買った方がいいのかなあ」
「当たり前じゃないの」
そんな事を言いながら、ゆっくりと、再び繁華街へと戻るべく歩きだした。
二人の手は、どちらからともなく自然に重なった。そしてどちらからともなく、指が絡められた。隙間さえも作らせ無い程強く、しっかりと繋がれた手。その重なった手の温度が、今の二人にはとても、心地良い。
「なびきお姉ちゃんには、痩せる石鹸を買おうと思って」
「そういやあいつ、出掛けにそんなこと言 っていたよなあ。しかも泣きながら」
「ふふ…お姉ちゃんらしいじゃない。あ、あのお店入ってみようよ。何か可愛い小物がある」
「はいはい」
二人はそんな会話を交わしながら、先程走り抜けてきた繁華街の道をゆっくりと、歩き始めた。

 

…暦の上では、春を迎えていた。
しかしまだ少し肌寒く、早咲きの梅もどことなく申し訳なさそうな態度で、小さく花を咲かせている様な、そんなある日。とある街の繁華街を、お互いの身を寄り添うように歩いていく、一組のカップルがいた。今が早春、だという事を、思わず忘れてしまうかの如く。 二人を取り巻く空気はとても、とても暖かい。
一人で繁華街にやって来た時は、店の中に入るのさえも躊躇したあかねであったが、こうして乱馬と歩いていると、例え店内の字は読めなくとも、「どうにかなるさ」…そんな風にさえ、思う。

日本へ旅立つ前の、わずか十数時間前の出来事だった。
わずか?…いいや、「わずか」ではなくきっと 「まだ」。二人にとっての「三日間」は、まだあと十数時間残っている。
…目が合えば、今なら二人、自然と笑みがこぼれる。 繋いだ手を手繰り寄せ、 そして時折その身を寄せ合いながら、二人は束の間のデートを楽しんだ。

終わり


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