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キスにまつわるエトセトラ@誰の為?

「ちょッ…なによ」
「おっと…」

 

とある日の、夕方。
夕食前の稽古を終えて、食事の前に汗を流そうと風呂場に行った俺は、
ちょうど脱衣所から出てこようとしたあかねと、危うくぶつかりそうになった。
俺たちはすんでのとコロでお互いのみを交わしたが、運悪くあかねは手に持っていた「何か」を落としてしまったようで、
「中に誰かいるかもしれないって、少しは考慮してから中に入りなさいよね」
とか何とか。
舌打ちこそしないけど、あからさまに迷惑そうな口調で俺に文句を言った。
最も、俺にしてみれば、自分だって、中に誰か入ろうとしていることなど全く考慮せずに、部屋から飛び出てきたくせに、
「よく言うぜ、自分だって同じ状況じゃねーか」
「なによ、何か言った?」
「別に」
…ったく、ほんとにかわいげのねえ。
こんなんで、よくも学校じゃあもてはやされているもんだ。
このかわいげのない態度を、コイツに熱上げているやつらに見せてやりたいくらいだぜ。
ともかく、こんなことで喧嘩を始めるのもばかばかしい。
俺は言いたい言葉をぐっとこらえつつ、わざとらしくあかねが通れるようにスペースを空けた。
あかねは、俺に礼を言うどころか「それが当たり前」くらいの態度で、俺の横を通り過ぎ、廊下を歩いていった。
「ったく、かわいくねえ」
鬼の居ぬ間の何とやら。俺は改めて心の叫びを口にすると、気を取りなして風呂場に入り、扉を閉めようとした。

と。

ガツン…
何かが当たるような音がして、閉めたはずの扉がカラカラ、と少しだけ元の位置に戻った。
扉のレールに何かが挟まったようだ。
「ん?」
俺が目をやると、そこにはかわいらしい装飾がプリントあるとされた、薬指くらいの長さの細長い筒が転がっていた。
「あー…これ、さっきあかねが落とした奴か?」
そういえば、俺で食わしたときに何かを床に落としてしまったあかね立ったはずだけれど、ここから出ていくときはなにも持っていなかったっけ。
俺に腹を立てたことで、自分が手に持っていたものを忘れるなんて…
「間抜けな奴」
俺は、ちょっと身を屈めてあかねが落としたそれを指でつまみ上げた。

小筒は、セパレートに分かれていた。筒の下部には、細かな溝のついたダイヤルのようなものがある。
筒の表面は、かわいらしい小花がカラフルにプリントされ、さっきは気づかなかったが、なにやら中央に文字も小さく印字されていた。
『リップグロス*グロスだけどルージュ。新発売』
更に後ろ側には、この商品のキャッチフレーズなのだろうか。
『気になる人に会う前に塗ってみて!きっと、キスしたくなる唇に』
とかなんとか、かかれていた。

「…」
…なんだこれ。

これを、あのあかねが?
跳ねっ返りでかわいげのなくて、がさつで間が抜けていること多々ある、あのあかねが?
キスしたくなる唇つくってどうすんだよ。まさか、誰かとするつもりで?
「…」
俺にしてみると、何ともミスマッチ。
先ほどのあのふてぶてしくもかわいくない態度のあかねと、このいかにも女性的でおしゃれなグッズがどうしてもマッチして見えない。
だいたい、男なんか興味ないとか男には負けたくないとか言っているような女が、だ。
こんなの必要なのか?

年頃の女事情はともかく、
俺にはこのリップグロスとあかねのマッチングがどうしてもできなくて、
「へえ、これをひねると出てくるのか」
もはや、そんなことよりも初めて間近で目にする女性化粧品の構造の方が興味がある。
俺は、壊さない程度にふたを取ったりダイヤルを回したり、と、そのリップグロスをいじり回していた。

 

と、その時。

 

「あ!ちょっと何してんのよ!」
…ようやく、自分が落とし物をしていたことを思い出したのだろうか。
あかねが慌てた様子で、風呂場まで戻ってきた。
そして自分のリップグロスを手にしていた俺をみて、
「ちょっと!まさか塗ってないでしょうね!?」
訳の分からないことをいって、俺の手からグロスをひったくった。
「何で俺がそんなもんを塗るんだよ」
訳の分からない問いかけに、俺が半ばあきれながらあかねに問い返すと、
「だって、半分は女じゃない。女だったら、こういうのにも興味があるのかと思うじゃない」
「なっ…俺は男だ!」
「どうだか」
あかねは再び可愛げのない態度でそういうと、リップグロスを今度はポケットに大事にしまっていた。
「けっ。そんなの塗ったって、元々ない色気は増えねーぞ」
「何ですって!?」
「だいたい、塗ったところで誰に見せるんだよ。男を片っ端から追い払っているような奴が」
「余計なお世話よ!別に、言い寄ってくるような男の子達に見せるために買ったんじゃないわよ!」
「へー、じゃあ何で買ったんだよ?」
「それはっ…それは…その…」
あかねはそこまで言うと、なぜかそれ以上は言い返さずに、きゅっと口をつぐんだ。
何だ?急におとなしくなって。
俺が怪訝そうにそんなあかねをみると、
「と、とにかくあたしのことは放っておいて。乱馬には関係ないでしょ!」
あかねはそれ以上は俺に対して口答えもせず、「拾ってくれてありがと」と、澄ましていなければ聞こえないくらいの小さな声で俺に礼を言い、再び風呂場から去っていった。

可愛くないのは相変わらずだが、さっきは何で急に黙ったんだ?
全く、訳が分からない奴だ。
だいたい、男嫌いのくせに、いったい誰に見せる理由があってあんなもんつけるんだよ。
キスしたくなる唇を、わざわざ作って見せたいような相手なんて、いるわけ…

俺は、改めて風呂の扉を閉めながら、そんなことを思っていた。
でも、

「…」

…いる。
あかねには、そういう相手が一人、居る。

 

そう。
冷静に考えた時。俺は気づいてしまった。
そうだ。あかねにはたった一人…そんな自分をみせたい相手がいた。
俺に対してとっている、この不躾で失礼千万な態度など微塵も見せないような相手。
周りにいる子供っぽい男どもとは、天と地との差がある大人の男性。
あかねのことはかわいがってくれているが、
決してあかねを一人の女性とはみずに、むしろ妹のようにしかみてくれない、人。
そして、どんなにあかねが望んでも、その思いがどうしても届かない…相手。

 

たぶんあかねは、東風先生の前でこっそりつけたくて、あんなものを買ったんだ。
それが、気づいてもらえるかなんて、
そして商品が歌うような効果があるか何て、保証なんてないのに。

「…」
…バカな奴。
そんなもんつけた位じゃ先生の気持ちが自分に向く分けないって、本当はわかっているくせに。
ほんの気休めくらいにしかならないって、わかっているはずなのに。
それなのに、そんなもんにすがって。
口実作って、グロスを塗った自分を見せに行って。
効果がなければ、今度は「塗っても塗らなくても一緒」っていうのを確かめにいくって言う口実をまた作って、なんだかんだいって先生に会いに行って。
全然状況なんて変わらないのに、苦しいくせに今のままでいい、なんて改めて思い直したりとかして、一人で勝手に苦しんで。
結局、今までと変わんねえじゃねえか。

 

「…」
俺は、脱衣所で服を脱ぎながら、そんなことを考えていた。
キスしたくなるような唇を作るグロス、ってことは、
そういうことをしても良い相手に見せたくて、それをつけるってわけで。
きっと、こんなものそうそう効果がないってわかってはいるし、
それに、実際にキスしたいってわけではないとは思うけど、でもそういう甘い夢を僅かに見たりして。
あいつ、こんなのにも手を出すほど思い詰めてんのかな。

重ね重ね、バカな奴。
何年も片思いして、相手が自分に振り向いてくれる可能性がないことなんて、自分が一番よくわかっているくせに。
そんな相手、やめちまえばいいのに。
あんなものつけなくたって、それなりに男だって周りにはいるっていうのに。
あいつ次第で、周りの状況なんてがらっと変わるのに。

 

…何で、東風先生なんだよ。

 

「…」
さっきまでは、リップグロスを持っていたこと自体がミスマッチで、しっくりと来なかった俺。
でも、「なぜ持っていたのか」のなぜ、の部分がわかった瞬間、自分でもわからないが複雑な気持ちになった。
胸の奥が釈然としない、というか…そのリップグロスをこっそりつけて先生に会いに行ったあかねを思うと、自分でもよくわからないけどなんだか、腹が立つ。
先生の鈍感さに?
それとも、似合いもしないのにそんなのつけて、それにすがっているあかねに?

もしかしたら本当は、答えは出ているのかもしれない。
でも、俺はその答えに触れようとはせずにそのまま、自分の胸の中へと押し込んだ。
そう、東風先生にグロスを試そうとしているあかねのように。

 

…いつか。
あかねが、東風先生以外の前で、あんなグロスを塗るようなシチュエーションはあるのだろうか。
あまつさえ、それに彩られてかどうかはわからないけど、
そいつとあかねがキスをするなんてこと。
「…」
そいつ、いったいどんな奴なんだろうな。
何だか消化しきれない不可思議な思いを抱きつつ風呂場に入った俺は、浴室のミラーにうつる自分の姿に熱いシャワーをかけながら、そんなことを考えていた。


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