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花火の夜

八月、下旬。
あたしは乱馬…を含む家族全員で、とある山の中にある温泉旅館に来ていた。
つい先日、裏山に住み着いた熊をなんとかして欲しい…と、何故か化け物退治専門の我が天道道場に電話があったのがきっかけで、
まあ熊だろうが妖怪だろうが人助けするのが武道家の勤め・・・ということで、とりあえずは熊を捕獲し、近隣の熊牧場に引き取ってもらう算段をつけることに成功した。
とはいっても、
熊を捕獲しておとなしくさせたのは乱馬で、話をつけたのがお父さん。
早乙女のオジサマは熊を呼び寄せる餌としてパンダ姿で囮。危うく捕えた熊と一緒に熊牧場に売られそうになっていた。
ともあれ、三人の活躍のお陰で無事任務は成功。
あたし達はそのお礼として、家族揃って一週間の温泉旅行に招待されたのだった。




「夏に山の旅館なんて…と思ったけど、なかなかいいわね。タダメシだから、美味いったらないわ」
旅館に来て六日目。明日にはもう帰らなくちゃいけない、という日の夕方。
国内でも指折りの広さを持つ露天風呂につかりながら、なびきお姉ちゃんがそんな事を言っていた。
今夜はこれから皆で、旅館近くの湖で行われる湖上花火大会をみに行く事になっている。
山奥の旅館の、夏の一大イベント。この花火大会を見るがために、今日この旅館に泊まりに来ている人もいるらしい。
夕方に、湖までいくバスを出してくれるので、宿泊客はそれに乗って行けるようになっているようで、旅館からの行き帰りも安心。
なのであたし達は、会場行きのバスに乗る前に一汗流そうと、こうして温泉に浸かっていたのだ。


「ご飯もおいしいし花火も見れるし、楽しいね」
あたしがお姉ちゃんに笑顔で話しかけると、
「まあ、こんな旅行も悪くわないわ」
お姉ちゃんの意見は、あくまでも厳しい。
…とはいえ、
お姉ちゃんはこの旅行中、旅館のゲームコーナーで恐ろしい程メダルを稼ぎ、旅館側で用意する景品のストックがなくなる程、大量の菓子を手に入れた。
それがあまりにも凄いので、写真を撮られゲームコーナーに飾られたなんてこともあり、 初めは海もないような場所はつまらないと言っていたお姉ちゃん、今ではこの旅行を一番楽しんでいるに違いない。
「…」
それを知っているあたしにしてみれば、お姉ちゃんのこの辛口な意見には苦笑いだ。
「帰ったらダイエットしなくちゃ」
お姉ちゃんはお湯の中でスラリとした足を上下に動かしながら伸ばし、更にそんな事を言っている。
…スタイルいいんだから別にそんな心配しなくても大丈夫なのにと思いつつ、
「お姉ちゃん、お菓子たくさん食べていたからね」
「まあね。旅館のご飯も毎食三杯飯だったし」
「・ ・・乱馬より食べてたよね?」
「そうかしら」
お姉ちゃんはそんな風にとぼけているけど、それは紛れも無い事実だ。
それなのにこのスタイルの良さはなんなのかしら・・・と若干腹が立つも、
あたしだって人の事は言っていられない。
「お菓子は食べないけど、あたしもご飯はたくさん食べたから、帰ったらダイエットしなくちゃ」
あたしはなびきお姉ちゃんの意見に同調して、自分もお湯の中で足を伸ばした。
日課のロードワークもここではしていないわけだし、体重計に乗るのが怖いなあ…あたしはそんな事を呟いた。
と、
「あんたは無理なダイエットなんてしなくても大丈夫でしょ?」
お姉ちゃんがニヤリと笑いながら言った。
「何でよ」
あたしがその根拠がわからず首を傾げると、
「だって乱馬君いるし」
「乱馬がいたらなんで大丈夫なの?」
そりゃ、手合わせをお願いしたらしてくれるかもしれないけど・・・と、あたしがお姉ちゃんに聞き返すと、
「いい?あかね。ストレッチよりもフィットネスよりもカロリーを消費出来て、尚且汗までかけてスッキリする手段が、あんたにはあるじゃないのって話よ。手合わせなんかしなくても」
お姉ちゃんはそういってあたしにピチャン、とお湯を飛ばす。
「手段…」
手合わせ以外に?・・・あたしが首を傾げると、
「鈍いわね、要は乱馬君とエッ…」
「なっ…何言ってんのよお姉ちゃんっ」
「何って、あんた達には日常茶飯事の事でしょ。初めてじゃあるまいし」
「お、お姉ちゃんっ」
「どうせ相手が乱馬君なら激しいわけだし」
「はっはげっ激しいだなんてっ・・・」
「図星でしょ?」
「そそそそそんなことっ・・・」
「とにかく、あんたはたくさん汗を掻いて運動も出来る。乱馬君はスッキリで大喜び。まー、一石二鳥じゃないの」
「お、お姉ちゃん!」
「乱馬君、六日もあかねとできなかったから、相当たまっているだろうし。あんた、いつにも増して大変でしょうねえ」
「なっ…」
「こりゃ食べた分以上に痩せられるかな」
お姉ちゃんはケラケラと笑っていた。
「し、知らないもん!あ、あたしそんなの知らないからっ」
あたしはお姉ちゃんを諌めつつ、みるみる赤くなる頬を隠すように温泉から出た。
そして浴衣に着替ながら、ドキドキとする胸を抑える。

そりゃ確かに汗もかくしいい運動になるかもしれないけど、それにしてもそんな…

「…」

そりゃあ…旅行でほとんど一緒にいるけど、家族も一緒だからこの六日、キスはおろか手も満足に繋げない状況だから?
その分だけ家に帰ったら少し…いや物凄く大変かもとは覚悟してはいるんだけどさ。

「…」

で、でもいくらなんでも乱馬だって、そんな・・・その、は、激しいだなんて。

「・・・」

あたしの頭の中にふと、以前三週間ぶりの修行から帰ってきた日の夜の乱馬の姿が浮かんだ。
あの時は確か、一晩で・・・

「あわわわわっ」

・・・おっと、あたしは一体何を考えてるのよ!
あの時はあの時、今回は今回。
たった、そう、たった六日の出来事で乱馬がそんな・・・その、欲求不満みたいになるわけ無いじゃない!
ちょっとは寂しいな、くらいに思う程度よ。うん、絶対にそう。
「そうよ、そうに決まってる・・・」
あたしは自分自身に言い聞かせるかのようにブツブツと呟きながら、浴衣に着替え脱衣所を出た。



と。
脱衣所を出た瞬間、
「わー!」
「逃げろー!」
宿泊に来ているらしい子供達が、鬼ごっこでもしているのか廊下を走っていた。
周りもよく見ず走る子供達は勿論、あたしが脱衣所から出てきたことや、このまま走ってくればぶつかることなど
おかまいなしの様子だ。
「…もう、危ないなあ!」
見たところ、親がそばにいる様子ではない。
あたしは走ってくる彼等にぶつからないように、ヒラリと身を交し歩き出そうとした。
…が、

「きゃっ…」

あたしが子供に目をやりながら不意に足を踏み出したそこにはちょっとした段差があった。
「あっ…」
慌ててバランスを取ろうにも、既に時遅し。
ドテッ・・・と、あたしはひどい足の捻り方をしながら、床に転んでしまった。すぐに立ち上がろうとしたところ、
何だか片足に激痛が走った。
「いたっ…」
あたしは足を押さえて顔をしかめる。子ども達はそんなあたしには気付きもせず走っていってしまった後。
怪我した痛み腹立たしさも、どこにもぶつけ様が無いのが悲しい。
「いたたた・ ・・」
一人廊下に取り残されたあたしは、痛む足を抑えて虚しく声を上げるしかなかった。
その後、

「あれ?あかね、あんたそんなところにしゃがみこんでどうしたのよ」
「お、お姉ちゃん・・・ちょっと捻挫しちゃったみたい・・・」
「はあ?全くドジねえ・・・立てる?」
「わかんない・・・」
「しょうがないわねえ、今、乱馬くん呼んでくるからちょっと待ってなさい」
「うん・・・」

あたしはお風呂からあがったなびきお姉ちゃんに発見され、
「痛むのか?」
「うん・・・」
「あー、これじゃお前、今日の花火大会見に行けねえなあ。宿で留守番か。可哀相に」
「いけるもんっ楽しみにしていたんだからっ」
「でも、一人で歩けねえ奴が込み合う会場で花火見物なんて無理だろ?」
「うー・・・」
「ま、あかねの分まで家族一同で楽しんできてやるから」
お姉ちゃんの言い付けであたしを迎えに来た乱馬に、やたらと足だのお尻だの触られながら背負われ、あたしは部屋に戻った。
「ああ、これは軽い捻挫ですね」
部屋に戻ったあたしは、ホテルの医務係に足を見てもらい、シップと包帯で足をグルグルに固定されてしまった。
これじゃ、花火どころか温泉にも入れやしない。
温泉旅館に来ているのに温泉に入れないなんて、お寿司屋さんに来てお寿司が食べられないのと一緒だ。
「そんなー・・・」
あたしが、グルグルに足首に巻かれた包帯を見ながらがっくりと肩を落としていると、
「あかねちゃん、最終日でよかったわね」
早乙女のおば様が気を使って、優しい顔で声をかけてくれた。

・・・でも、おば様の手には、団扇にビニールシートが。
花火大会に行く為の手荷物を張り切って用意しているのがわかり、あたしは余計に虚しくなった。

「あかねー、対したこと無くて良かったよ」
「『ホントホント』」

その横にいるお父さんと早乙女のおじ様も、あたしに心配して声をかけてくれるた。
でも、その手には団扇や酒のつまみを抱えている。
そう。
あたしの捻挫はみんな心配してくれているけれど、どうやらそれと花火大会は別。
みんな、悲しいくらいに花火大会に行く気満々だ。

「残念だけど、花火はここでお留守番しててね。部屋からも少し見えるみたいだから、ね?」
「えー・ ・・」
「込み合っている会場で転んだりする方が危険でしょ?」
「うー・・・」

既に出かけるための支度を済ませているかすみお姉ちゃん、そしてなびきお姉ちゃんに最終的にそう諭され、
結局あたしは、楽しみにしていた花火大会を一人この旅館の部屋で過ごす事になった。
優しくもシビア。それが我が家の掟らしい・・・。
「・・・」
だ、誰も「あかねも一緒に行こう。肩くらい貸してあげるよ」とか言うつもりも無いのね。
あたしががっくりと肩を落としため息をついていると、
「あかね、あんたを転ばせた子どもの顔、覚えてないの?」
「うん・・・」
「ちっ。覚えていたのなら、親を捕まえて慰謝料でも払わせようと思ったのに」
なびきお姉ちゃんは、冗談なのか冗談じゃないのかわからない言葉を呟きつつも、
「ま、夕飯はさー、会場で売っている何か食べ物でも買ってきてあげるから」
「・・・」
「ほんの一・二時間じゃないの。それに、この部屋の窓からも少しは花火見えるみたいだからいいじゃない」
「会場で見るのとは違うじゃない」
「仕方ないでしょ、転んだあんたが悪いんだから。あ、そろそろバスの時間だからあたし達行くからね」
一応は最後に優しそうな言葉をこっそりと掛け、そして、家族を連れて出て行った。
部屋に残ったのは、みんなの大きな荷物を一手に持たされている、家族旅行時の荷物運び係・乱馬のみ。

「・・・」
・・・乱馬もあたしを置いて行っちゃうの?

ていうか、乱馬ならあたしに肩を貸して歩かしてくれる・・・よね?
どうしても花火大会に行きたいあたしが、すがるような思いで乱馬の方を見るも、

「じゃ」

乱馬の奴、あたしに笑顔で一言そう言うと、他の家族の荷物を両手に抱えて、さっさと部屋から出て行ってしまった。
・・・バタン。
鉄のドアが重く閉まる音が、虚しく部屋の中に響く。
「な、何よ薄情ものー!」
普段は二人きりになりたがるくせに、イベントとかご飯とか絡んでいるとすぐそっちに惹かれちゃうんだから!
「何よー!もー!」
あたしは、一人取り残された部屋の中で、そんな事を叫びながらジタバタと暴れてみる。
最も、そんな事をしても既に皆花火を見に行ってしまったので誰も見てはいないし、
例え子どもにぶつかりそうになったのを避けたからとはいえ、最終的に怪我をしたのはあたしの責任だ。
しかも、暴れたら暴れた分だけ、足が痛い。
「うー・ ・・」
我ながらこう、ついていないというか何と言うか。
温泉に来たのに温泉は入れなくなっちゃうし、旅館の一大イベントを楽しみにしていたのにそれには参加できなく
なっちゃうし。
「・・・」
何か、疫病神でも取り付いているのかしら?あたし。
あたしはお姉ちゃんたちが敷いてくれた蒲団の上で、大の字にひっくり返りながらため息をついた。



・・・あたしは、今日の花火大会は他の家族の誰よりも楽しみにしていた。
それは、旅館の一大イベントでこの旅行の締めくくりにちょうどいいとか、花火が元々好きだとか、そういうのも勿論あるけれど、実はそれだけじゃない。
というのも、
この夏休みが始まる少し前、乱馬と喧嘩というか少しこじれてしまった事があった。
その時、去年の段階で「一緒に来年は花火を見に行こう」と約束していたのに、この喧嘩のせいで行く事が出来なかった。
花火大会の帰りは仲直りをしていたし、またそこで「来年こそは必ず行こう」って約束をしたから、それはそれで丸くは収まったのだけれど、来年まで待たなくても、今日花火の会場までいけたら、
「泊まる所や交通手段はきちんとしているし、会場に行ったら自由行動ね」
そんな風にして二人で家族から少し離れられるんじゃないかな。
あたしの中で、そんな期待があった。
そりゃ、家に帰ればまたそれまでどおりのように一緒に寝たり過ごしたりする機会はあるし、お姉ちゃんがお風呂の中で言っていたように、「ダイエット」効果があるような運動もするかもしれないけど、
そうなるのが分かっていたって、顔を見れば少しでも「一緒にいたい」「二人でいたい」と思うのが、恋する女の子であって。
その期待があっさりと立ち消えてしまったのが、あたしは何だか悲しい。
しかも、乱馬もそう思ってないのかな・・・と少し様子をうかがうも、

「じゃ」

あたしを心配するわけでもなく、寂しそうにするわけでもなく、
いやむしろ何だか楽しそうな表情で、いそいそと部屋から出て行ってしまった。
何とも薄情な彼氏、極まりない。

「・・・」
乱馬は、別に二人きりになりたかった、とかそういうのなかったのかな。
それとも、家に帰ればいろいろなことが出来るから、とか思っているのかなあ・・・。

「・・・」
寂しい気持ちは、あたしの方が強いのかな。
それにしたって、ちょっとくらいは寂しそうな素振、すればいいのに!

「何よ、乱馬のばかっ。薄情ものっ」
あたしは、頭に敷いていた枕を取り、ボスッ、ボスッ・・・と思い切り拳で連打しながら、そんな事を叫んではため息をついていた。




と、その時だった。
コン、コン
不意に、部屋のドアをノックする音がした。
「・・・はい?」
家でもあるまいし、一体誰だろう?
誰か、忘れ物でもしたのかな・・・あたしは慌てて少しはだけてしまっていた浴衣を合わせ蒲団から起き上がり、壁を伝いながらよろよろとドアまで歩く。
「・・・」
あたしは、ドアの覗き穴からそっと外を覗いてみた。
と、
「・・・あれ?」
覗き穴から見えたのは、浴衣姿の青年。見慣れたお下げ髪がゆらゆらと揺れている。
手には、先ほどは家族の荷物で一杯だったのに、今は何やらペットボトルとかが入ったビニール袋をさげている。
まるで、ホテルの売店にでも行ってきたかのような感じだ。
・・・

「・・・」
あたしは慌ててドアのチェーンを外し、ガチャリと鍵を開けた。
すると、

「あー、疲れた疲れた」

あたしがドアを開ける前に、乱馬が勝手にドアを開けて中に入ってきた。
そして、しっかりと鍵とチェーンを閉めると、さっさと部屋の奥へと進んでいく。
「ちょ、ちょっと何よっ。忘れ物?」
あたしが慌てて乱馬の後について部屋の中に戻ると、
「何を忘れんだよ?」
「何をって・・・」
「ほら、飲み物買ってきたぞ。あと、お前の好きそうな菓子も」
「え?」
「あと、俺の分の飲み物も」
乱馬はそう言って、手にもっていたビニール袋をテーブルの上に置いた。
「あ、ありがと・・・」
「皆が帰ってくるまで、やっぱ腹が減るだろ?部屋に置いてあるお茶ばっかりじゃ飽きるし。六日もいたら、備え付けのお茶菓子も食いたくないだろうしさ」
乱馬はそんな事を言いながら、ビニール袋からペットボトルの飲み物を出したりお菓子を取り出している。
飲み物は全部で四本もあり、二本を外に出してあとは冷蔵庫へとしまっていた。
お菓子は、丁寧にテーブルの上に広げて食べやすくしてくれたり。

「・・・何よ、随分と優しいじゃない」

さっきは、そっけなく部屋を出て行ったくせに!・・・半ば恨みがましく、あたしが乱馬にそう尋ねると、
「だって、俺達はここで花火を見るわけだし?それなりの環境も作っておかないと」
乱馬は嬉しそうな口調でそう呟くと、
「お、この窓の向こう側にみえるのか」
とか何とか言いながら、窓を・・・開けはせず、花火を見るならば見やすくすれば良いのに、何故かその窓の障子を閉めてしまった。
途端に、まだ電気もつけていなかった室内が、一気に薄暗くなる。
「・・・ちょっと」
何で障子をしめるのよ、とあたしは聞こうと思ったけれど、その前に、
「俺達はここで花火を見る、ってどういうことなの」
そう、今乱馬は確かにそう言った。
乱馬はさっき、皆と花火会場に出かけるから、みんなの荷物を持って部屋を出て行ったんじゃなかったっけ?
あたしが乱馬にそう尋ねると、
「はー?せっかく二人きりになれることになったのに、何で花火会場にいかなくちゃいけねえんだよ」
「え?」
「荷物はちゃんと、バスまで運んだし。戻ってくる時はバスを降りたらフロントでこの部屋に電話入れるように言ったし」
「は?」
「飲み物も食料も買ってきたし・・・突然部屋に戻ってこられて、中途半端で泣きを見るような事が無いように、手はずは整ったからー・・・」
「て、手はずって・・・」
「少なくても花火が終わって、この旅館に皆が戻ってくる二時間近く、二人きりで過ごせるんだぜ?こんなチャンス、滅多にねえ」
乱馬はさも当たり前かのようにそう言うと、蒲団の横、畳の上にどかっと座り込んだ。
どうやら、あたしが思っていたよりも乱馬は色々と考えていたらしい。
しかも、突然家族が部屋に戻ってこないように手回しもしているとは・・・あたしよりも明らかに一枚ウワテだ。
「・・・」
この様子からすると二人きりになりたかったんだな、というのは伝わってきたけれど、
ここまで用意周到にされると、何だか苦笑いをするしかない。
『六日もイチャイチャ出来なかったわけだから・・・』
お風呂でお姉ちゃんが言っていたことが、ふと、頭の中に過る。
・・・
「部屋で花火、見れるみたいだし、取り合えず良かったな。ん?花火まであと、四十五分か」
あたしがそんな事を考えていると、乱馬がぼーっと窓の傍で立ちながら考え事をしていたあたしを、笑顔で見上げながらそう言った。
「まあね。会場で見るよりは迫力が欠けるけど・・・」
あたしはそのあまりにも嬉しそうな笑顔から、思わず目をそらす。
そして、乱馬に背を向けるようにして立ち、乱馬には気付かれないようにそっと、浴衣の上から自分の胸を触ってみた。



・・・驚くくらい、胸が大きく鼓動していた。



「・・・」
二人きりの薄暗い部屋という状況に、まさか緊張しているのかな・・・?
胸の鼓動が徐々に大きくなるのを感じながら、あたしはふとそう思った。
・・・さっきまでは、寂しいとか二人きりになりたいなんて思っていたくせに、
いざ、こうして二人きりになったら緊張して体が震えてくるなんて。あたしって何て自分勝手なのかしら。
それに・・・

「・・・」

あたしは、ニコニコとテーブルの上にお菓子を並べたり、ペットボトルの飲み物を用心深くコップに移している乱馬の姿を、チラチラと振り返る。

当然の事ながら、旅館にいるわけだから、乱馬もあたしも浴衣姿だ。
普段チャイナ服を着ている乱馬が、浴衣。
しかも、男の子だし背も割と高いし、体を鍛えているからすごく締まったシルエットだし。
時折チラッと見える胸板が、何だかあたしには目の毒だ。
チャイナ服以外の乱馬なんて結構見ているはずなのに、いや、むしろ何も着ていない姿だって知っているはずなのに、何で今日に限ってこんなに意識してしまうのかな。

「・・・」
あたしは無意識に自分の浴衣の合わせをぎゅっと、強めに締める。
と、

「あかね、どうした?」

あたしがずっと自分に背を向けたままでいるのを不思議に思ったのだろうか。
それまでテーブルであれこれと支度をしていた乱馬が、その手をとめてあたしにそう声を掛けてきた。
「えっ・・・べ、別に・・・」
あたしはあからさまにビクン、と身を竦めつつ、そんな事を答える。
「そんなとこ立ってないで、こっち来いよ。足、痛いだろ?」
乱馬は、そんなあたしの心境などお構いなしにそう続ける。
「へ、平気・・・」
あたしはブンブン、と首を左右に振ると、
「あのっ・・・ちょっと部屋の中暗いし、電気、つけるね」
そんな事を言いながら、とりあえず部屋の照明をつけようと入口付近にある電気スイッチまで移動しようとしたところ、
「・・・いいよ、そんなの」
それまでニコニコと色々と準備をしていたはずの乱馬が、急に真面目な声でそう呟いた。
「え・・・」
それまでの明るい声のトーンと明らかに違う事に驚いたあたしがはっと振り返ると、
「そんなのいいから、こっちこいよ」
テーブルの傍にいたはずの乱馬が、いつの間にかあたしのすぐ後ろに立っていた。
乱馬はあっという間にあたしを抱きかかえると、テーブルの近くにお姉ちゃんたちが敷いてくれた蒲団の上へと運んでいく。
そして、あたしの足を気遣いながらまずはあたしを蒲団の上に座らせると、自分はそんなあたしを後ろから抱きしめるように、ポジションを取って座る。
「部屋、暗いから・・・」
薄暗い部屋の中で後ろからぎゅっと抱きしめられ、先程よりもドキドキと胸を鼓動させながらあたしがそう呟くと、

「電気なんていいよ、つけなくて」
「でも・・・」
「・・・花火が始まるまで、まだ、三十分以上もある」

乱馬はそう言って、ふんわりと・・・あたしの首筋に唇を下ろした。

「っ・・・」
唇の感触はまるで絹のように柔らかいのに、身体に電気が走ったような気がした。
あたしが身体をビクッと竦めると、乱馬はその部分に唇で何度も吸い付いた。
時折舌で、その部分を触れたりすれば、あたしの身体に更に言い様の無いゾワゾワとした感触が駆け抜ける。

さっきは、「乱馬はたった六日で欲求不満になんてなるはずない」なんて思っていたけれど、これじゃああたしの方が何だか・・・。

・・・身体が、六日ぶりに愛される身体が、全然言う事を効かない。

「あっ・・・」
思わずあたしが小さく声を上げると、
「・・・何、その声」
乱馬は意地悪くそんな事を呟き、更に舌を首筋に這わせた。
首筋に、耳に、そして項に・・・ゆっくりと熱く、そしてざらざらした感触があたしの身体を這い回る。

「いやあっ・・・や、だ、だめ・・・」
・・・六日ぶりに感じる、感覚。そして、いつも以上に執拗で、意地悪で、でも優しい唇。

「や、や・・・」
がくん、と体の力を奪われたあたしは、前のめりに蒲団に倒れこんだ。
乱馬はそんなあたしを決して逃がそうとはせず、後ろから抱きかかえるようにその身体を掴まえ、舌を這わせた。
その内、

「・・・」

蒲団に倒れこんでいたあたしの身体を抱き起こし、乱馬は自分の膝の上に乗せた。
そして、
「あかね・・・」
乱馬が、あたしの名前を呟きながら、抱いているあたしの身体をゆっくりと、撫でる。
乱馬の大きな手は、あたしの体を浴衣の上からゆっくりと・・・撫でる。
背中も、腰も、そして胸元も・・・すぐにでも、浴衣をはだけさせてしまいそうなその大きな手に、あたしはぶるりと身体を震わせた。

「・・・したいの?」
首筋に唇を這わせられて、びくん、びくんと身を竦めながらあたしが乱馬にそう尋ねると、
「・・・うん」
躊躇う様子も無く、乱馬が小さな声でそう答えた。

「・・・だめだよ。あたし足、捻挫してるし」
・・・本当は二人きりになりたかったし、まあキスくらいなら全然問題は無いかな、なんて思ってはいた。
それに、乱馬が一人であたしの部屋に戻ってきた時点で、心のどこかでこうなる事は予感していたかもしれない。
でも、今のあたしは足を捻挫している。
そうなると、乱馬も気を使うだろうし、いつもと同じようには行かないんじゃないかな・・・あたしがそんな事を思いながらそう尋ねると、

「平気。足に負担がかからないようにするから」
「え・・・?」
「例えば両足、持ち上げちゃうとか・・・」
乱馬は意地悪く笑いながら、そんな事をあたしの耳に囁いた。
「っ・・・」
あたしがその言葉にカアッと顔を赤らめると、
「・・・修行に行く時とかは我慢できるのに、今回のこの六日は、何かすげえ長かった」
乱馬はそう言って、顔を赤らめているあたしの唇に、スッ・・・と自分の唇を重ねた。
六日ぶりの感触に、あたしは身体をゾクッ・・・と震わせる。

「足・・・捻挫してるから・・・」
「じゃあ、やめる・・・?」
「・・・」

あたしは、首を左右に振っていた。
本当に嫌ならば抵抗すれば良いのに、そうしなかったのは・・・心の奥底ではあたしも、乱馬のこの唇を求めていたのから。
足が捻挫している、という大義名分で自分を誤魔化そうとしていたのもあるのか。
それが払拭された今、欲望に忠実になりそうなあたしは、自分でももう乱馬を跳ね除ける事が出来なかった。

「ん・ ・・」

乱馬に重ねられた唇は、少し強く押し付けられて、また離れて、押し付けられて・・・の繰り返しだった。
気が付いた時には、熱い舌がすっと唇の裏側に触れたりする。
強引に押し入れられた舌は、いつの間にかあたしの舌と絡み合うようにして、お互いの呼吸までも奪ってしまいそうだ。

「・・・」
あたしは、自然に乱馬の身体に腕を回していた。
乱馬はそんなあたしの身体を、先ほどと同じようにゆっくり、ゆっくりなで始めた。
身体を撫でる大きな手は、やがてあたしの身体を纏っている浴衣を肌から滑り落とした。
暗闇に、ぼーっ・・・とあたしの下着の白色が光っていた。
乱馬はゆっくり、ゆっくりとまずは胸に触れながら、胸を覆う下着の肩紐をずらし始めた。
大きく、温かい手。
器用に肩紐をずらし、胸を覆っているカップもゆっくり、ゆっくりとずらしてしまう。
フッ・・・と、肌に感じる冷たい空気。暗闇の中にぼんやりと、あたしの胸がブルン、と飛び出した。

「・・・」

あたしがふと、重ねられた唇を離し乱馬の目をじっと見ると、乱馬はそんなあたしに再び強く、唇を押さえつけた。
そして、そのまま暗闇に飛び出したその胸にそっと触れた。
「あっ・・・」
ビクンッ
あたしは、思わずそんな声を洩らし身を竦めた。
乱馬はそんなあたしの耳に唇を這わせながら、その片方で胸に触れた手を、ゆっくりと動かす。
最初は、ただ肌に触れるだけ。でも次第に、胸の本来の柔らかさを楽しみむ様に何度も、何度も触れては掌で収縮させるように動かす。
その間に、わざと胸の中央部・・・触れられるたびにくっきりと堅くなる部分に指を這わせたりして。
そうかと思えば、その部分には触れないのにその周囲をゆっくり、ゆっくりと指で撫で回したり。

「や・・・やめ・・・あっ・・・」
触れられるたびに、あたしの身体はビクン、ビクンと震えた。
乱馬の腕の中で少し身体を仰け反らせると、

「・・・六日ぶりだけど、すげえやらしい身体」
乱馬がそんな事を、耳元で囁き、そしてそのままその耳を舐めた。

「あんっ・・・」
ビクン
再びあたしが身体を竦め、そのまま身体を仰け反らせると、

「・・・」
乱馬はあたしのその身体を、ゆっくりとそのまま蒲団へと押し倒した。

「・・・」
浴衣が少しはだけ、胸だけ露わにされるような形で蒲団に仰向けにされたあたしは、
今まで触れられていた胸の、くすぐったいような感触が身体中に残り、ビクビクと震えていた。
「・・・」
乱馬は、そんなあたしを組み敷くように上に圧し掛かると、じっと、あたしのその姿を見ている。
ごくり、と喉が鳴ったような気がしたのは、決して気のせいではないはずだ。
「・・・」
乱馬は、先ほどの愛撫のせいですっかり形がはっきりとして堅くなった胸の先端部分を指で触れた。
「ん・・・ん・・・は・・・あ・・・」
ゆっくりと、まるで転がすように指の腹で撫でる。
でも、それ以上は何もしない。それだけでも甘い声を洩らすあたしの姿を見て、何だか楽しんでいるかのようにも見えた。
「はああ・・・」
ビクン、ビクンと尚もあたしが身体を震わせると、

「あかね・・・」
乱馬がそのまま、あたしの身体へと覆い被さり、その肌に唇を這わせはじめた。
そして、太くて逞しい、でもそんなに筋肉質ではない腕が、あたしの身体をしっかりと抱きしめる。

「あかね・・・」
「ん・・・乱馬」

あたし達は、いつの間にかお互いの身体に腕を回して、お互いの温もりを感じあっていた。


・・・たった六日間。修行に出ているときに比べたら、全然短い期間なのに、何故だか今日は乱馬の、この身体に感じる体温が無性に愛しく感じていた。
傍にいてくれる事の嬉しさとか、こうしてあたしを思ってくれる優しさとか、色々・・・今まで以上に、何だか今日は感じる気がする。
それはきっと、これまで修行に出ているのを待っている時は、
「日にちが経てば必ず帰ってくるから」
それまでの我慢だと、自分の中でそう思っていた。帰ってくるのが「当たり前」なのだから、寂しくてもそれまで待てばよいと。それまで我慢できれば良いんだって、そう思っていたのだと思う。
でもきっと今日は、
「明日になれば、そして家に帰れば乱馬とまた一緒にいられる。だけど、こうして二人きりになれたこの瞬間を、もっと、もっと大事にしたい」
・・・そんな風に思っているんじゃないのかな。あたしはそう思った。
ずっと一緒にいるのが当たり前、なんではなくて、一緒にいられるというその瞬間を、その出来事を大事にしようって。
そう思っているんだと、思う。
今までも、もちろんお互い大好きだ。
でも、今はもっと・・・もっともっと、お互いが愛しくて堪らない。
・・・

「・・・」
乱馬。
あたしがその名を口には出さずにじっと目を見つめながらそう思っていると、

「・・・あのな」
「うん・・・」
「俺もそう思う・・・」
「え?」
「俺も、こうしていられるのが、何かすげえ・・・嬉しい」

乱馬はそう言って、再びあたしの唇に自分の唇を重ねた。

「んっ・・・んっ・・・」
熱くて、そして全ての力を奪われてしまいそうなキスだった。
頭の中がボーっとして、何だか溶けてしまいそう。
でも、

「・・・」
口に出さなくても、同じ事を思っていてくれたんだ・・・そう思うと、何だかあたしは嬉しくて仕方がなかった。
・・・
「・・・」
あたしはゆっくりと体を起こし、乱馬と向かい合うように座った。
そして再び乱馬とゆっくり抱き合って唇を重ねる。
「ん・・・あ・・・」
思わず唇から洩れる甘い吐息と、先程よりも鮮明に暗闇に響く、お互いの舌を絡めあう音。
チュ・・・とお互いの吐息までも吸いあうような熱いキスは、いつの間にか理性までも吹き飛ばす。
向かい合って座っているあたしの身体を、唇を奪いながら乱馬の手は再び這い回る。
はだけた浴衣の上半身は、胸も露わに暗闇にぼーっと浮かび上がっていた。
お互いがキスを交し合うだけで、ふるふると胸が揺れている。
時折その胸に指と手を這わせられれば、カーッと頭に血が上って頭の中が真っ白になる。
と、その内。
乱馬の手が、執拗に撫で回したり弄んでいたあたしの胸から、徐々に下へと下がり始めた。
はだけた浴衣の腰紐の下・・・暗闇に時折蠢き覗く白い太腿へと、ゆっくりと下りていく。
「あっ・・・」
浴衣のはだけめから撫でられる太腿と、そしてわざと、まだ肌を覆っている下着に触れる指。
あたしが小さく声を洩らして身を竦めると、
「・ ・・」
乱馬は、あたしの唇、頬、そして首筋や耳に唇を滑らせながら、ゆっくりと・・・大きく太腿を撫でまわし、浴衣をはだけさせた。
そして、それまで偶然を装い触れていたその下着の中へと、スルリと素早く手を滑り込ませた。
「あんっ・・・」
ビクン、とあたしが身体を竦ませると、乱馬はゆっくりとその中をまさぐるかのように、指を滑らせ始めた。



・・・花火が始まるまで、あと三十分ちょっと。
この分だと花火の開始時刻には、並んで窓の外を眺めるのは無理かもしれない。
どうにもこうにも、あたしの今年の花火運というかなんというか・・・あんまり芳しくないような気がしてならない。
でも・・・仕方ないか。今日に限っては、そんな思いがあたしの胸の中に過っていた。

*******

するりと下着に入り込んだ手は、あたしの下腹をゆっくりと滑り、すぐに既に熱くなっている部分へと滑りこんでいた。
身体を愛撫されてキスで溶かされたあとの身体は、自分でもわかるほど熱を持っていた。
案の定、乱馬が触れただけで、グチュ…と潤んだ音がした。
「…何の音?」
…乱馬は、こういう時に本当に意地悪だ。
本当は分かっているくせに、ゆっくりと熱を持っている部分を撫でながら、あたしの耳元に囁いた。
あたしは恥ずかしさに頬を染めつつ、首を左右に振る。
でも、
「…」
乱馬が意地悪なのと同じように、あたしも嘘つきだ。
触れられるだけで、身体が疼いていた。その音の正体だって本当は分かっていた。
下着を全て脱がさないで、指であたしを弄ぶその行為。
触れている部分は見えないのに、クチュクチュという音は耳にはっきりと入る。
下着も、ぐっしょりと冷たく重みを増してきていた。
太股の内側に、飛び散る冷たい雫。
それが重みを増す手伝いをしているのはまちがいないだろう。
…たった六日ほど触れられてなかっただけなのに、この身体の変化は何だろう。
そのことも更に、あたしを辱めていた。
あたしは、自分の意思と反して動く乱馬の指を拒もうと、もぞもぞと足を動かした。
でも、
「あん…」
そんな身体に反し、あたしの口からは、悩ましげな甘い声が洩れる。
乱馬はそんなあたしに対し、強弱つけながら指を動かしあたしの反応を楽しむ。
拒むあたしが本当なのか、指に翻弄されて身体が溶けてしまいそうなあたしが本当なのか…頭がぼーっとしてきてよく分からない。
「あん…あっ…あっ…」
気が付けば、身体を大きく後ろに反らし足を開いて乱馬の指を受け入れていた。
「あかね…」
そんなあたしに、乱馬が唇を重ねた。
ふっくらとして、でも洩れる吐息のせいでしっとりと濡れた唇を、乱馬は吸い付き離れの繰り返しだ。
「…気持ちいいの?」
乱馬が指を動かしながらあたしに囁いた。
乱馬の呼吸は大分乱れている。
「わかんない…」
途切れる呼吸の合間にあたしが虚ろな表情でそう答えると、
「何でわかんないの?」
「や…乱馬っ…だめぇっ…」
「…こんなに濡れてるのに」
グチュ…とわざと音をたてるように、乱馬はあたしの中で指をぐっと押し曲げた。
「いやあっ…」
その瞬間、まるで身体中に電気が走り抜けたかのような感覚がした。
「ん…んんっ…」
ビクンビクン、とあたしが身体を震わせると、
「あかね…」
乱馬はあたしを自分の身体にもたれさせた。
そして、
片方は指をねじいれ乱暴に中をかきまわし、片方は…ぶるぶると震えながら揺れる、白い乳房を掴んでは弾力を楽しむ。
乳房の先端にある固くなった肉芯だけ指で責められれば、身体に力など入らない。
完全に、身体を弄ばれているようなこの状況に、あたしの中の何か…きっと、かろうじて保っていた理性だと思うけれど…がフェイドアウトしていく。
身体の足先からジワジワと、熱くて疼く感覚が身体を侵食し始めた。
抵抗する力を根こそぎ奪いながら全身に蔓延していくその感覚は、やがて身体をビクビクと大きく震えさせた。
熱い感覚が、あたしの身体の中を一気に駆け抜ける。
頭がボーっとして、自然に腰が浮いてしまう。でも、浮かせると更にその感覚はあたしの身体を蝕んでしまう。
「や…やあっ…あ、あ、あ…」
力を入れたくても、下半身の力が根こそぎ奪い取られていた。
足が、がくんと蒲団の上にだらしなく伸びる。
一生懸命我慢しようとして足を伸ばすも、それも叶わず身体が震えた。
パシュパシュっと、乱馬の掌が、あたしの肌を叩く音が聞こえた。
始めは一本だった指が、今は一体何本に増えている?もう、自分でも分からない。
強引で乱暴なその行為を、突きはねる力も思考も、今のあたしには残っていなかった。
やがて、
「いやあっ…ああ!」
足がつってしまうかの様に、ピンと伸びた。
そしてそれと同時にパアッ…と頭と身体の中でこみ上げていた感覚が弾けたあたしは、ビクンと大きく身体を弓状に撓らせて、そのままぐったりと乱馬の腕の中に落ちた。
「あああ…」
…自分の意志と反して、身体中がビクビクと震えている。
太腿の部分だけは、ぶるぶると震えながら、内側に…そう、身体の中を締めるかのように内側へと力を働かせて震えていた。
はだけた浴衣から覗く肌に滲む汗。ぼーっと、紅潮する肌。
全裸ではなく、中途半端に浴衣を纏っている…しかも自分だけこんな格好をしているのが、何だか余計に辱められている気がしてたまらなかった。
「はあっ…はあっ…」
呼吸を整えるのも、ままならなかった。普段はこんな風にならないのに…どうしたんだろう。自分でもよく分からない。
あたしは、背中に感じる乱馬の身体温に完全に身を委ねながら、虚ろな表情で震えていた。
と、
「あかね…」
乱馬が、そんなあたしの耳元に唇をそっとつけた。
首筋に、頬に、しっとりと湿った乱馬の指が触れた。
ツン、とする特有の匂いがした。
「…」
指が湿っている原因が何なのか、触れられることで気が付いたあたしは、ゾワリと身震いしながら頬を染める。
「…したい?」
そんなあたしに対し、先ほどあたしが乱馬に尋ねたのと同じことを乱馬があたしに囁いた。
「したい…」
その問に、あたしは自分でも驚くほど素直に頷いていた。
一番初めとは正反対の答えだった。
頭の中では、「足が痛いから」「花火が始まってしまうから」と分かっているのに、頭と身体が全然連動していないというか…言う事を聞いてくれなかった。
浴衣も腰紐のみで止まっているようあられもない姿で。
下着も、片や首筋に捲れ上がり片や片足にのみ引っ掛かっているような状況で。
表情も虚ろに乱馬に身を摺り寄せているあたしは、いつの間にか乱馬と同じことを願っていた。
何だか、妙な気分だった。
「…恥かしいの…あたし一人じゃ…」
あたしは乱馬の身体に身を寄せながら、乱馬の浴衣をきゅっと、握りそう呟いた。
…自分一人が、ほぼ全裸と同じような淫らな姿でいることが、恥かしくてたまらなかった。
だったら早く、乱馬にも同じような姿になって欲しいと、あたしは願った。
理性という言葉が一身体どこへいってしまったのか、自分でもよく分からなかった。
「…」
乱馬はあたしのお願いにすぐには答えず、暗闇に露わになってふるふると揺れている乳房を優しく撫でまわしていた。
でも、そんな乱馬も先程より大分呼吸が乱れていた。
乱馬の身に纏っている浴衣も、先程よりももっと、熱を帯びていた。
身を寄せている腰の部分に、ものすごく熱い「何か」が触れているのを感じた。
「乱馬…」
そのくすぐったいような、そして全身が溶けてしまいそうな感覚に身を震わせつつ、あたしは小さな声で乱馬の名を呟いた。
「…うん」
ごくり、と喉がなったような気がした。
乱馬は一度大きく深呼吸をすると、ようやくあたしのお願いに素直に応じてくれる気になったのか、そう返事をした。
そして、自分の名前を呟いたあたしの唇に一度長いキスをすると、ゆっくりと、あたしを敷いてある蒲団へと押し倒した。
そして、四つん這いになるような形であたしを組み敷くと、じっと、乱れたあたしの姿を見つめる。
「…」
…何も言わず、ただ息を飲むように食い入るように降ろすその視線。
あたしの手首をぎゅっと抑え、足を絡めるようにして上からじっと見つめるその視線。
何をされるわけでもなく、何を言われるわけでもない。でも、まるで身体が溶かされてしまいそうなほど…熱い。
「…」
乱馬は、もう一度あたしの唇にキスをした。
そして、少し唇を離し、もう一度軽くその唇にキスをすると、
「…あのな?」
「うん…」
「いつも修行に行く時はな、もっと長い間離れててさ…帰ってくるまで一生懸命我慢できるんだけど」
「うん…」
「こんな風にさ、傍にいるのに何もできないで一週間近くも過ごすなんてさ、何か…逆に我慢できなくて」
「うん…」
「だからいつもよりな…夢中」
乱馬はそう言って、あたしの頬に一度、頬擦りをした。
あたしが軽く目を閉じて自分もその頬に擦り寄ると、
「…いいよな?」
乱馬が、小さい声で呟いた。
「うん…」
声には出せなかったけれど、あたしはそんな乱馬に小さく頷いて見せた。
乱馬はごくり、ともう一度喉を鳴らしながらあたしにキスをすると、自分は浴衣を脱がないまま穿いていたトランクスだけ脱いでいた。
あたしは殆ど浴衣を脱がされているのに、乱馬は着たままなのか。
「あ、な、なんで…」
後ろを向いて何やらコソコソと準備をしている乱馬の浴衣を脱がそうと、あたしがゆっくりと身体を蒲団から起こしていると、
「いいの、今日はこれでいいの」
乱馬は起き上がったあたしを再び蒲団に寝かせると、
「…」
何かを一瞬考えた後、あたしのだらりと伸びた足を、まるで膝を抱えるかのように前方へと持ち上げた。
柔らかく弾力のある太腿が、押さえつけられる指の力でグニッと歪んだ。
「きゃっ…」
そうすることで、足首はだらんと宙に浮く形になるから足に負担はかからないかもしれないけれど、まるで赤ちゃんがオシメを変えられているときのような感覚で、恥かしい。
「…」
あたしは恥かしさのあまり、思わずきゅっと、目をつぶる。
「…」
乱馬はそんなあたしの頬や唇、胸に指ですっと触れると、持ち上げている足にぐっと、力を入れた。
そしてその持ち上げた足にも優しく一度唇を押し付けてから、ゆっくりと…先ほど充分に湿らせたその部分へ、自分の身体の中で一番熱く滾った部分を押しこんでいく。
ゆっくり、ゆっくりと。でも、躊躇はせずにぐっと、深く。
「ん…んんっ…」
…初めてのときや慣れていない時とは違って、涙が出るほど痛みがあるわけではない。
でも、指を受け入れるのとその部分を受け入れるのとは全く違う。
久し振りに感じる圧迫感、狭い部分を強引にこじ開けるような鈍い感覚が、あたしの下半身にずっしり伝わってくる。
「…」
やがて、乱馬の動きが止まった。どうやら身体の奥の部分へと到達したようだ。
「はあ…」
あたしは、その下半身を襲う圧迫感に慣れるべく大きく息をしながらその感覚を身体に慣らそうと試みた。
あたしは乱馬にそっと手を伸ばした。
乱馬は大きく息をはきながら、持ち上げているあたしの両足も一緒に倒れかけるかのように、あたしの方へと倒れる。
そしてゆっくりと、腰を動かし始めた。
始めはゆっくりと。そして徐々に徐々に、スピードを増す。
まるで、リズムを刻むかのように、あたしの身体へと自分の身体を刻ませるその行為。
時折強弱をつけるその様子が、腰をとろけさせるかのような仕草。
「あっ…んっ…」
あたしの口から、自然に甘い声が洩れる。
…足を持ち上げているせいだろうか。いつもよりももっと、身体の奥を刺激されているような気がした。
強く突き上げられるような衝動に、あたしの口から自然に声が洩れる。
「あ、あかね…」
それは乱馬も感じているのかもしれない。
決して腰をグラインドさせる速度は緩めてくれないけれど、乱馬があたしの名前を、掠れるような声で呼んだ。
そして、「あかね…」ともう一度名前を呼びながら、抱きついているあたしの耳を軽く噛んだ。
乱馬が耳を噛むときは、夢中になっているとき。自分の感じる欲望に素直になっているときだ。
「ひあっ…」
ビクッ…あたしの身体が竦んだ。
乱馬はそんなあたしの竦んだ身体を、グッと蒲団に押さえつけるようにして腰を動かす速度を速める。
「あっあんっ…」
「あっ…あっ」
お互いの乱れた吐息が、薄暗い部屋の中に響く。
そっと乱馬の背中に回す腕に力を込めると、浴衣越しに彼の身体がとても汗ばんでいるのを感じた。
「乱馬…」
あたしが必死に乱馬の身体に抱きつきながらそう呟くと、
「あかね…」
乱馬は一度動きを止めながら、あたしの名を呼び返した。
そして、額にそっと唇を押し付けた後…再び先程よりも動きを早めるようにしながら、動き出す。
「いっいやあっ…あっあっ…」
自然に大きくなる声と供に、肌と肌がぶつかり合う、乾いた音が部屋の中に大きく響きだした。
強引に腰を擦り付けあう、とても乱暴な行為。でも、それでもそれを止める事が出来ないのは人間のサガなのか。
「んっんっんっ…」
いつの間にかあたしは、両方押さえつけられて抱えられていた足を片方、だらりと伸ばしていた。
乱馬が、その足に自分の足を絡めるようにしてあたしに抱きつく。
片方は足を抱えられて押さえつけられて、片方は絡めあうようにして抱き合う。
乱馬は、いつの間にか片方の手で、あたしの腰の部分をぐっと押さえつけていた。
そうすることで、より乱馬の動きがあたしの身体へと響き、そしてその感覚が伝わってくる。
…お互い夢中になって身体をすり合わせている内に、いつの間にかあたしは、蒲団に寝転ぶ乱馬の上に座るような形になっていた。
どこでどうなってそうなったのかは覚えていない。
でも、気が付いたら寝転んだ乱馬に、ゆっくりとその身体の上に座らせられていた。
まるで、馬にでも乗っているようなその体勢にあたしは頬を赤らめる。
この体勢でするのは、もしかしたら初めてかもしれない。
「あ…」
座らされてすぐ、あたしは身体を前傾にさせられた。
そしてその後すぐ、再び下半身に鈍い感覚が訪れた。
先程よりももっと熱く滾った部分が、再びあたしの中へと挿入されたのだと、すぐに気が付いた。
しかも、あたしの体重がより乱馬を強く、深く感じるように手助けをしている。
今まで味わったことのないような感覚が、あたしの体を一瞬で支配してしまった。
太ももがぴくぴくと震え、無意識に甘い声を漏らしてしまう。
「ん…はあっ…はあっ…」
あたしは、再び感じる圧迫感に馴染ませようと必死で呼吸を整える。
いつも以上に感じる乱馬の熱と硬度と。そのなれない感覚にあたしは身体をビクビクと震わせる。
そして、大きく何度も息を吐きながら自分を見上げている乱馬の顔を見た。
「や…こんな格好…」
…はだけた浴衣と露わな肌。しかもしっかりと二人は繋がっている。
その感覚に震えている自分も、そしてそんな風に淫らな姿の自分も丸々と見られている。なのに体が拒む事が出来ない…そう思うと、無性に恥かしかった。
あたしが頬を染めると、
「…今日は止めない」
乱馬は全然余裕のない表情で、でも意地悪くそう言って笑った。
そのまま自分の上に腰を下ろしているような形でいるあたしの腰に、ぐっと手を回して抱え込む。
そして、まるで下から突き上げるかのように腰を動かし、再びあたしを翻弄し始めた。
「ひっ…」
先ほどとは比べ物にならない、身体の奥を突き上げるかのようなその衝撃に、あたしはたまらず乱馬の腕をきゅっと掴んだ。
「いやっ…あっ…ああっ…」
身体に振動を与えられる後とに、あたしの身体に再び、指で身体を弄ばれていたのと同じような感覚が走り出す。
突き上げられるたびに、身体が大きく震えた。
露わになっている柔らかい乳房が、揺れる身体に合わせて大きくゆったりと、揺れる。
時折大きな手でグッと掴まれて弄ばれた。
「あんっ…あっあっ…」
口からは甘い息のみが洩れていく。 それが更にあたしを辱めそして乱馬を狂わせた。
胸が大きく揺れるのと同時に、先ほどまでは背中の方に回ってしまっていて乱馬にも気付かれなかった、首から下げているシルバーのネックレスも大きく揺れていた。
ペンダントヘッドに付いている、小さなベビーリング。乱馬が初めてあたしにくれた、指輪。
銀色のリングの裏に刻まれた二人のイニシャルが、あたしの汗と供に光る。
身体だけじゃなく、気持ちまで乱馬に抱かれているような気がした。
「それ…」
ペンダントが銀色の半円を描くように薄暗い闇の中で揺れ動く事に、乱馬も気が付いたようだ。
「うん…」
「付けてるの?」
「うん…」
「俺のあげた奴、ずっと?」
乱馬はそれが嬉しかったのか、あたしの腕にそっと、キスをした。
そして、先程よりもぐっと腰に力を入れて身体を突き上げる。
それも手伝って、
「んっ…ん…」
熱く、鈍く疼く感覚。
その感覚が、足の指先から徐々に、膝、腰、胸、首と沸きあがってきた。
「あ…あ…」
全身に蔓延する、ゾワゾワとした感覚。
あたしはそれに耐えようと、腕を掴んでいるその手の力を込める。
でも、そうすればするほど乱馬の動きは速くなるような気がして、余計にあたしのその感覚はスピードを増し全身を浸食する。
頭がボーっとして、目の前が真っ白になってきた。
自分の口から洩れる甘い声が、いつも以上に大きい事だって、全然分からない程だ。
熱い。
熱くて鈍い…そして、そして痺れるような感覚が、一巡した身体を二巡三巡して全身を侵食する。
「熱い…熱い…」
あたしが吐息の合間にそう洩らすと、乱馬は更に腰を強く擦り付ける。
「や…だ、だめ、いやあっ…」
でも、だめだと言った所で乱馬が止める筈もない。
全身を侵食する感覚が、まるで海の波のように徐々に、徐々にあたしの中の全ての感覚を司って押し寄せ始めた。
一度引いて、またやってきて…今度は少しだけ引いて。
そして次にやって来たのは随分と大きな波。
始めはゆっくり、でもその後勢いをつけて大きくうねるそれはやがて、



「あ…あああん!」




ビクン!
…何度も強く身体を突き上げられてあたしは、やがて身体中に蔓延するその感覚に全てを浸食され、大きな波に呑まれた。
指で身体を翻弄された時よりももっと、もっと大きなその波は、あたしの意識とも連動しているかのようだった。
「あ…」
仰け反らせるように震えていたあたしの上半身は、ふら…と力を失って、今度は前に倒れこむ。
「ん…あかね…」
乱馬はそんなあたしを抱きとめるかのように、ぐっと、倒れている自分の身体に抱き寄せる。
そして、片手は腰のあたりを固定するようにして、先程よりも更に腰を動かす速度を速めてあたしを突き上げた。
が、すぐに大きく一度、またその後一度…乱暴に腰を叩きつけるような素振をすると、
それ以上は動かずにただじっと…ぐったりと抱きついているあたしを抱きしめたまま動かなかった。
首筋や肩に頬を寄せるように、顔を動かす。
汗ばんで紅潮した肌。
まだ、お互いビクビクと震えて息が上がっている身体を、あたし達は何度もキスをしながらお互いで抱きしめあっていた。
…身体中に浸透しているその感覚はまだまだ身体の中に留まっていた。
いつも、家で抱き合って過ごすのとは全然違う感覚。
たった六日、傍にいて何もできないだけでこんなにも変わってしまうのか…何だかそれが不思議でならない。
一緒にいる事が出来るというのが嬉しくて、こうして二人きりになれた事が嬉しくて。
それだけでこんなにもお互いがお互いを求めてしまうのか。
好き、という気持ちを傍にいるのに伝え合えないだけでこんな風になってしまうなんて。
「…」
…何か、おかしいねあたし達。
言葉には出さずとも、お互いそう感じているんだろうな。
重ねあわす唇からそんな思いを感じたような気がして、思わずお互い何度も見詰め合う。
「…」
あたしは、乱馬のまだまだ熱い身体にそっと自分の身を任せた。
そして、まだまだ身体の中に残るあの熱く痺れるような感覚の余韻にでも浸りながら、いつの間にか目を閉じていた。










…ふんわりと、柔らかな風が火照った身体を通り抜けていった。
「…ん?」
その心地よくも少しくすぐったい感覚にあたしが目を覚ますと、
…ドーン!
ドーン、パラパラパラ…
今度は、まるでお腹の底にでも響くような音が、今度は耳に入ってきた。
「ん?」
この音は、花火の音だ。
あたしがまだぼんやりとしている目をこすると、
ドーン!…パラパラパラ…
あたしの目には、赤・緑…の鮮やかな打ち上げ花火が、夜空を彩りそして消えていく映像が映った。
「あ!花火…」
…行為に夢中になって忘れていたけれど、そう言えば花火大会があるから皆はいないんだっけ。
あたしがそんな事を思っていると、
「花火、もう半分終ったぞ」
「えっ」
「寝てるんだもんなー、お前」
不意に背後からそんな声がした。乱馬だ。
気が付くとあたしは、乱馬に抱っこされるような形で抱かれ座っていた。
乱馬は、先ほどは少しだけ乱れた姿をしていたにも関わらず、今はきちんと浴衣も着ていた。
ふと、ほのかに、旅館のボディソープの匂いがした。
もしかしたら自分だけはちゃっかりと、シャワーまで浴びたのかもしれない。
「…」
あたしは乱馬の温もりを背中に感じつつ、自分が置かれている状況をゆっくりと、整理した。
…どうやらあたしは、あの行為の後乱馬の身体に身を寄せたまま、眠ってしまったらしい。
慌てて部屋の時計を見ると、既に時刻は八時。花火大会はとっくに始まっている。
それだけでも焦るというのに、あたしはあることを思い出した。
あの行為が終ったままあたしが眠ってしまったとなると、
「っ…」
まさかあたしはあの時の、あの半裸状態の格好のまま眠って…!?
…慌てて自分の身体を見るも、ちゃんと下着も着用しているし浴衣も着せられている。
あたしが自分で直していない以上、あたしの衣服を戻したのは乱馬だ。
でも、
「…」
…浴衣はともかく下着もつけさせられていることが、あたしはめちゃくちゃ恥かしくて仕方ない。
寝ているあたしを、まるで人形のように抱き起こしたり寝かせたりしながら色々と着用させたんだろうか。
そんな事を考えながらあたしが顔を真っ赤にさせると、
「いやー、いい経験をした」
乱馬が妙に嬉しそうな顔をしながらそんな事を呟いた。
「な、何が!」
「ああやってつけるのかー。見ているのとつけてやるのとじゃ全然ちが…」
「っ」
ゴスっ
あたしは乱馬の頭を拳で殴りつつ、
「何で起こしてくれなかったのよっ」
寝ていたのはあたしが悪いのだけど、それを棚に上げつつあたしは乱馬にそう尋ねる。
「何か起こすのが勿体無くて」
「何で勿体無いのよ」
「何か気持ちよさそうに寝てたし。ま、その分俺がな、こうして花火とあかねを見ていたけど」
抱っこして…と、乱馬はニコニコしながら、抱っこしているあたしにそう言った。
「…」
…気を使ってくれたのは嬉しいんだけど、でもやっぱり花火が見れないのはいかがなものか?
花火を楽しみにしていたら、足を捻挫して会場に行けずに部屋で見ることになって。
で、花火を待っていたはずなのに、花火が始まる前に乱馬とあんな事になっちゃって。
いざ始まったら、あたしは寝ていて半分見ることが出来なかった、と。
あたしって、もしかしてつくづく花火に縁がない?
「せっかく楽しみにしてたのにー…」
あたしが乱馬の膝の上でしょんぼりと肩を落とすと、
「来年、一緒に見に行けばいいじゃねえか。来年も再来年もずっと…約束したろ?」
「そうだけどっ…でも今年も出来るならその方がいいかなって…」
「今から三十分ぐらいだけど、まだ二人で見れるだろ」
「むー…」
「それとも、さっきの続きする?俺はそっちでもいいんだけど」
「…花火見る」
「遠慮深い奴だなあ」
乱馬はそんな事を言いつつも、「ほら、水でも飲んで」とか何とか言いながら、自分が用意していたペットボトルの水をあたしに渡して、笑っていた。
あたしがため息をつきながらそのペットボトルの水を飲んでいると、乱馬はそんなあたしをニコニコしながらぎゅっと、抱きしめたり顔を摺り寄せたりしている。
何だかいつも以上に乱馬、甘えてきているような…あたしがそんなことを思っていると、
「傍にいられるって、良いなあと思って」
「え?」
「もちろん離れているより近くにいるほうがいいには決まってるけどさ。でもただ近くにいるだけじゃなくて、お互いがいたくて傍にいるって…何か幸せだなって思って」
そしたら、触れたくて仕方がないんだよなあ。乱馬はそう言って、あたしが飲んでいるペットボトルを取りあげた。
そして、
「なー、俺にもこれ、飲ませてくれよ」
「自分で飲みなさいよ。まだあるんでしょ?」
「飲ませてくれないと飲めねえよ」
「…いつからそんなにワガママになったのよ」
「いーじゃねえかよ」
そんな事を言いながら、「ほら早く」とあたしに唇を出してみせる。
「もー…大きな赤ちゃんみたい」
「俺が赤ちゃんならあかねは人形だな」
「人形?ぬいぐるみ?」
「ううん、着せ替え人形」
「…」
ゴスっ
あたしは乱馬の頭をもう一度拳で殴ると、やれやれとため息をつきながらペットボトルの水を口移しで、乱馬に飲ませてやった。



そんなあたし達の目の前、窓の向うでは、色鮮やかな花火がフィナーレを迎えるべく次々と夜空に打ち上げられていた。
赤や緑の宝石が、漆黒の闇を彩っていく。
適度に吹き込む夜風が、煙を彼方へ運び宝石が煌く手伝いをしている。
部屋の電気はついていなくても、充分灯りが取れるくらいの艶やかさ。
会場で見あげるほどの迫力は無いにしろ、こうして鑑賞する分には充分な美しさだ。
「…会場には行けなかったけど、二人で見れてよかったかな」
「だろ?なあ、足はもう平気か?」
「足?ああ、そう言えばそうだった。うん、今はもう平気」
「そっか。来年の花火大会のときには頼むから捻挫なんてするなよな」
「うん」
どうやら今年は、本当に花火に縁が無いらしい。
でも、まあ…その分ずっと一緒にいられたし、傍にいられる幸せさとか、改めて感じる事が出来たし、よしとしようか。
これなら、足の捻挫もまさに怪我の功名ってやつか。

花火が終わり家族が戻ってくるまで、あとちょっと。
こうして寄り添って過ごせる事の喜びとか幸せとか…そういうのを身体一杯に感じながら、あたし達はのんびりとこの恵まれた時間を過ごしていた。


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