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C

…身体のライン、良し。
身だしなみ、良し。
ちょっとお腹を引っ込めれば…うん、サイドからのシルエットも問題なし。

乱馬と五回目の逢瀬の約束をしたその日の午後。
あたしは街のショーウインドウに映る自分の姿を何度も何度も確認しながら、そんなことを思っていた。
ショーウインドウの存在に気が付くたびに、自分の姿を映してはチェックをするあたし。
そんなあたしに気が付いた親友のさゆりとゆかが、
「あかねー、ほら、行くよ」
おいでおいで、と道の前方で手招きをしている。
「あ、う、うん…」
その度に、あたしは二人の下へ慌てて駆け寄り、また歩き出すのだ。




今日は、土曜日。学校は半日で終わる。
部活に入っていないあたしならば、そのまま帰るのが普通かもしれないけれど、
今日に限ってはちょっと、寄り道だ。
「あかね、俺ひろし達と遊びに行くから先に帰ってろよ」
「う、うん…」
幸いな事に、いつも一緒に帰る乱馬の方も、どうやら男友達と約束があるらしい。
明け方まで続いた道場でのあの出来事の事を微塵も感じさせない態度で、乱馬はあたしにそう言った。
「…」
朝から何となく意識してしまってぎこちない態度を取るあたしに比べ、
あんまりにもいつもと変らない様子の乱馬。
もしかしたら明け方のあの約束は単なる口約束。場に流されただけの物だったのかな…なんて。あたしがそんなことを思いながらカバンに荷物を詰めていると、
「…忘れんなよ」
「っ…う、うん…」
乱馬は友達を先に行かせて、自分も後から教室を出るその間際に、あたしにこっそりとそう囁いた。
…どうやら、冷静さを装っているだけのようだ。あたしはかあっと顔を紅くする。
でも、あたし一人でそんな風に百面相をしているわけにも行かないので、何とか冷静さを保とうと努力しようとしている。

このことに関しあたしは、
「…で?今夜はその続き、と」
「う、うん…」
「じゃあ、用意しないと」
「よ、用意って?」
「用意は、用意よ」
…信用できる親友・さゆりとゆかに、一応全て隠さず報告した。
この二人ならば、なびきお姉ちゃんに何を聞かれても口を割る事は無いだろうし。
それに、やっぱり初めてのことだから、一人であれこれと悩むのは何だか心細い。
二人とも、一応彼氏もいるし、ここだけの話すでに初体験は済ませたって、聞いているし。
勉強させてもらおうと、あたしはお昼を奢るがてら話を聞いていた。
「へー、あの乱馬君もねえ…。やっぱり男の子だったのねえ」
「…」
まるで、母親のような台詞を呟きつつも、
「今までと違って、今夜は確実に洋服は脱がされるわけでしょ?」
色々と聞き込んでくる、さゆり達。
「ぬ、脱がされるってそんな…」
「あら、全部脱がないで必要な所だけ脱ぐの?あかね、大胆ね」
「ち、違うわよっ…」
「でしょ?だったらー…服はともかく、その下の下着はさ、ちょっとドキッとさせる奴を用意したいよね。持ってる?」
「う、ううん…」
さゆりの質問に、あたしは顔を再び赤らめて俯いてしまった。
下着なんて、いつも「あ、これ可愛いな」くらいの軽い気持ちで購入している。
実際に自分で買いにいくときもあるし、お姉ちゃん達と、「あ、これ良さそうだね」なんて言って、巷の通販で買い求める時だってある。
だから、機能性一番、デザイン性二番のものが約七割。「見せる下着」なんてほぼ無いといって等しい。
「あかね、乱馬君の好みは?」
「こ、好みって?」
「だからー、セクシーなのか好きなのか可愛いのが好きなのかって事よ」
「そ、そんなのわかんないよっ」
「わかんない、じゃないでしょ、もう!まあでも…あかねが彼女って事は、可愛いのが好きって事よね」
さゆりは顔を赤らめるあたしにざっくりとそう言い捨てると、
「だとすると…可愛いあかねが、ドキッとするような下着を着けてたら…ねえ?ゆか」
「そうね。それだけでも気分が、ねえ?」
ゆかと二人、そんなことを言いながら、下着売り場であーでもないこーでもないと、あたしの身体に下着を当てては盛り上がっている。
「…」
あたしの下着を買いに来ているはずなのに、何故だかこう、居心地が悪いあたし。
制服の上からあてられるその下着を見るたびに、卒倒しそうな勢いだ。
今まで雑誌の中やテレビの中でしか見た事の無い、身体を覆う面積やカバ-度が少ない下着。
中には、殆ど紐…?としか見えない下着も、ある。
ど、どうやってこれで身体を隠すんだろう。ほ、細すぎてこれだと何も隠れないんじゃ…?
「…」
あたしがそんなことを思いながらその下着を手にとっていると、
「あ、あかねあんた、大胆ね!それにしたいの?」
「ち、違うわよ!」
危うく、その「紐」を買わされそうになる。危ないところだった。
…とりあえずは、無難に白---でも、胸を庇うカップは二分の一で、レースを割りと大目にあしらっているタイプのものと、両サイドを紐で結ぶタイプのものを、あたしは二人の薦めにより購入した。
「あ、あの…紐で結ぶタイプなんて、穿いた事ないし…それに、脱ぐ時ってどうやって脱ぐの?
やっぱり紐を解いてから脱ぐの?」
あたしがさゆりにそう尋ねると、
「片側だけ紐を結んでおいて穿いて、もう片方の紐を結べば穿けるわよ。脱ぐ時は、乱馬君に解いてもらえば良いじゃない」
「っ…」
的確といっては的確だけど、あまりの大胆なアドバイスに、一応はまだ免疫の少ないあたしは、心臓が止まりそうだ。
「…」
穿くのはともかく、脱ぐ時は穿いた時の逆にすれば良いわ…あたしはぼーっと紅潮してきた顔を隠すようにしながら、購入した下着をカバンの中にしまいこんだ。
その後は、二人の経験を色々と聞いては勉強させてもらったあたし。
二時間ぐらいファーストフード店でお茶をしながら話したあと、
「あかね、いくら許婚だからって、ちゃんと付けてもらうのよ」
「付ける…?」
「決まってるでしょ!コン…」
「っ…あ、あ、当たり前じゃないっ」
と、念押しというか確認をされて、あたしは家へと帰った。
二人の話によれば、いわゆる避妊具に関しては、絶対に乱馬が持っているはずだと、言う。
何で、そう言うことの経験がない乱馬が持ってるんだろう?とあたしが首を傾げていたら、
「ばかねえ、ないからこそ持ってるのよ。それに。どーせアイツラから回ってるわよ」
あいつら、というのはさゆりとゆかの彼氏の事。言わずと知れた、乱馬の悪友達でもある。
「そ、そうかなあ…」
「そう言うものよ。今日はさ、乱馬君には自分で付けて貰ってさ」
「え!?じ、自分でって…あ、あたしが付けたりする場合もあるの!?」
あたしがかあっ…と耳まで赤くしながらそう叫ぶと、
「たまには付けてあげたって良いんじゃないの?」
「だだだだだだって…」
「乱馬君も喜ぶと思うわよ?手間も省けるし」
二人は、そんなことを言いながら笑っていたっけ。あたしはそれだけでも卒倒しそうだった。
…どうしよう。
何だか、とんでもない領域にあたし、足を踏み込んでいるような気が…
「…」
あたしの中に、そんな迷いが生まれる。
手、繋いで満足だなんて…もはやそんなレベルでは、ない。
「…」
どうしよう。
今なら、乱馬に言えば…

「あら、あかね遅かったじゃない」
「あ、う、うん…ちょっとね」
「あんた顔、紅いけど熱でもあるの?」
あたしがそんなことを考えながら家に帰ると、玄関前の廊下をたまたま通りがかったなびきお姉ちゃんがあたしに声をかけてきた。
あたしが慌ててかぶりを振ると、
「どれどれ」
なびきお姉ちゃんは、ふっとあたしの額に自分の額をつけた。熱があるか看てくれているのだ。
でも、
「!」
…この仕草は、前に乱馬にしてもらった仕草。
『熱でもあるのか?』
あの日の乱馬の姿が、あたしの瞳にオーバーラップする。
少し触れ合った鼻も、間近で見た整った顔も、肌で感じた呼吸も、何もかも。
今目の前にいるのはなびきお姉ちゃんなのに、あたしは…
「へ、平気っ…」
「あ、そう。…どうしたのよ、そんなに力んで」
「な、何でもないよっ…し、心配してくれてありがとう」
あたしはなびきお姉ちゃんを慌てて引き離すと、真っ赤な顔をしたまま二階への階段を駆け上がった。
「何よ、あの子。真っ赤な顔して」
なびきお姉ちゃんにしてみれば、そんなあたしの様子が不思議でならないだろうけれど、
あたしにはそんなお姉ちゃんに自分をフォローする余裕なんて、実はない。
「…」
部屋に勢いよく飛び込んで、ドアに背をもたれながら、あたしは自分の胸を制服の上から触れてみる。
ドクン、ドクン、と服を通り越して鮮明に手に伝わる鼓動。
今の段階でこんなに胸が鼓動しているのに、これでは夜なんてどうなってしまうのか?
あたし、本当に死んじゃうかも…

「…」
ふっと目線を下にすると、部屋に飛び込んだ時に、床にほおり投げカバンがぱっくりと入口を開けていた。
中から、今夜のために…と買物をしてきた物の袋が見える。
あたしはその袋をゆっくりと拾い上げると、抱きかかえたまましばらく、ボーっと時を過ごした。







…今日は土曜日というだけあって、他の家族もなかなか早くは寝ようとしない。
なびきお姉ちゃんに至っては、
「今夜は、十一時から深夜お笑いスペシャルがあるでしょ?一時から昔懐かしい洋画が…」
…どう考えても、あたしと乱馬が待ち合わせをする深夜零時には、まだ居間に居坐る覚悟だ。
道場に向かうには、居間の前の廊下を通らなくては行けない。
ということは、下手したらなびきお姉ちゃんに気付かれるというわけで。
「…」
あたしがそんなことを思いながら、ふと、あたしと同じようになびきお姉ちゃんの話を聞いている乱馬を見ると、
「…」
乱馬も危機感を感じているのか、ぶすーっとした顔をしている。
乱馬にしてみれば、死活問題なのかもしれない。
と、そんな乱馬の様子に気がついたお姉ちゃんが、
「何よ乱馬君。何か文句あるの?」
「別に」
「あたしが遅くまで起きてちゃ、何か不都合でもあるわけ?」
お姉ちゃんはそう言って、何故か乱馬ではなく隣に座っているあたしを、見た。
あたしは反射的に目を逸らす。
「ふーん…?」
お姉ちゃんはその様子で何かを感じたのだろうか。にやりと笑って、テーブルに頬杖をつく。
「そう…それじゃあ今夜は早く寝ようかしら?その方が面白そうだし…」
「っ」
ギョッとした。
一番恐れていた事が…と、あたしと乱馬は一瞬顔を見合わせてしまった。
でも、
「ばかねえ、いくらあたしだってそんな無粋なまねはしないわよ」
「べ、別に俺達はそんなっ…」
「面白い物がこれから見れるチャンスを、みすみす潰すと思うの?」
「…」
「冗談よ。あーあ、じゃあ部屋でDVDでも見ようかしら。そういえば友達に何枚か借りたんだっけ」
なびきお姉ちゃんは、冗談か本気かわからないような台詞を呟きながら、居間を出て行った。
どうやら、DVDを部屋で見ることだけは本当のようだ。いつの間にDVDプレーヤーを買ったんだろう?というのは別として。

「…」
居間には、あたしと乱馬だけが残された。
あたしは、困ったような顔で乱馬を見た。
…もちろん、行為自体への不安もあるけれど、あのなびきお姉ちゃんの様子が何だか心配でしょうがないのだ。
「…」
顔を見つめるあたしの手を、座っているコタツの蒲団の下から、乱馬がぎゅっと握った。
乱馬の顔も、何だか複雑だ。
きっと乱馬にしてみれば、逢瀬自体はやめたくない。でも、あのなびきお姉ちゃんの様子が気になるのだろう。
でも、
「…」
乱馬が、何も言葉を発しないまま、あたしの手を握る力を強めた。
それは、
「それでも、俺やめたくない」
そうとでも言っているのだろうか…あたしにはそんな風に気持ちが流れ込んでくる。
「…」
乱馬の気持ちは、わかる。でも…
それでもあたしが不安で表情を暗くしていると、
「鍵、かければ大丈夫だよ」
「乱馬…」
「今夜はその…道場の窓の雨戸も、全部閉めてきたし…」
「えっ?」
「その…その方が、色々といいかと思って…」
乱馬がそんなことを言って、少し、頬を赤らめた。
どうやら乱馬、色々と下準備を進めているようだ。
道場なんて、最近じゃああたしと乱馬くらいしか入らない。お父さんやおじ様なんて稀な事だし、掃除だって殆どあたしと乱馬がしている。
だから、道場の窓を閉めようが何をしようが、なびきお姉ちゃんは気が付かないだろう、ということだ。
「…」
そ、そんなに張り切ってるんだ…乱馬。
いや、張り切ってるとはちょっと違うのかな?…でも、そんな風に下準備をしてくれた乱馬に、なんだかあたしは「今日はやっぱり・・・」なんて言いづらい。
「…」
あたしが俯いてカクカク…と震えていると、
「…やっぱり、嫌か?」
あたしの戸惑う心情を感じ取ったのだろうか。乱馬が、あたしにそう尋ねた。
あたしがはっと息を飲んで乱馬の顔を見つめると、
「あのさ、本当に嫌だったら…やめようぜ。俺さ、そんな無理強いしてまで…」
乱馬は、あたしに気を使って優しい表情でそう呟く。
…下準備も抜かりないくせに、だ。
「…」
…いつかは、そうなるだろう。それは、あたしにだって分かる。
あたしは、乱馬が好き。嬉しい事に、乱馬もあたしが好き。
好きで、大切で、何だかお互いの一部みたいな感じで…その「好き」は、きっと口先だけの「好き」よりももっと深くて、大きな物なんだと思う。
だからあたしも…そろそろ乱馬とそうなっても、いいかなって思った。
それまでスローペースだったけど、きっかけを得たし、もういいかなって。
怖い。
今までした事無い事を、するんだから怖い。
自分は見慣れていても、他人に裸体を見られるなんて、それだけでも恥かしい。
ましてや、見るだけではなく触られて、そして…
…それを考えると、覚悟をしていても身体が震える。
お風呂に入っても、まだ身体がどこか汚れてないかとか、不安になる。
こんな格好、あたしするの…?考えただけでドキドキする。
ましてや、昼間さゆりやゆかが言っていたようなことをするなんて…考えただけでも卒倒しそうだ。
それに、もしこのまま乱馬と最後まで進んでしまったら、そこで終わってしまうんじゃないかって…そんな不安もどこかにある。
あたしは、自分に自信があるわけじゃない。
「なんだ、たいしたことねえな」
そんな風にバッサリ斬り捨てられてがっかりされちゃったら、あたし…
「…」
きっと、そんな恐怖も、あたしの中にはあるんだと思う。



でも。



きっとここであたしが拒めば、再びまたこうなるまでに、ものすごく長い時間がかかるような気がした。
ものすごく勝手かもしれないけれど、そうなったらそうなったであたし…我慢できないかもしれない。
支離、滅裂。色々な思いが交差する。
だったら、乱馬を好きだというこの気持ちを、この身体を、そしてあたしを。
怖いけど、もう本当に乱馬に預けてもいいんじゃないか・・・




「…平気」
あたしは、不安そうな乱馬にはっきりとした口調でそう言いきった。
「…本当にいいの?」
乱馬が、もう片方の空いている手であたしの頬を撫でる。
あたしは小さく縦に頷いた。乱馬は少しホッとしたような表情をあたしに見せると、
「じゃあ…後で」
チュッ…と、軽く額にキスをした。前髪の隙間から、ふんわりとした感触が一気に顔中に伝わった。
あたしの心臓が、トクトクトク…と妙に早く鼓動した。
「…」
あたしは、顔を真っ赤にしてもう一度頷く。
乱馬はあたしの額に今度は自分の額をゴツッと軽く当てると、居間を出て行った。
「…」
…心臓の音、乱馬にバれなかったかな…。
あたしはそんなことを思いながら、火照る顔を両手で抑えちらりと柱にかかっている時計を見あげた。
時刻は、午後十時四十分。約束の時間まで、あと一時間二十分。
「…」
…お風呂は、もう入った。
あとは、例の下着を着用して・・・心の準備をするだけだ。
もう決めたんだもん。覚悟を決めるしかない。
どうせ遠からず経験することなんだ。誰でも経験することなんだ。
そうよそうよ、それにお父さんとお母さんの間にそう言うことがあったから、あたしだって生まれたんじゃないの。

誰に咎められているわけでもないのに、あたしはこれからの自分の行動の「意義」を正当化しようと理由を探していた。
まるで、それで不安を取り除こうとでもしているように。
大丈夫、大丈夫。
あたしは何度も自分にそう言いきかせて気持ちを落ち着けようとした。
そして、
「…もう一回、お風呂に入ろうかな」
…せめて、直前までお風呂に入って、
風呂上りの石鹸の香、乱馬が好きだって言ってくれるあたしの香が残るように。
あたしはそんなことを考えながら、ノロノロと風呂場へと向かったのだった。

 

 

ボーン…ボーン…
明かりの消えた家中に、居間の柱時計がなる音が響いていた。
数は、十二回。そう、午前零時を知らせていた。
「…」
なびきお姉ちゃんに気付かれないように、あたしはそっと、部屋を出た。
ドアの開閉も慎重に、階段を降りる時も足音はさせずに。
ゆっくり、ゆっくりと歩いて、床が軋む音もしないように細心の注意を払う。
階段を降り、右に曲がって家の奥に続く長い廊下を、ペタペタと裸足の足で、歩くあたし。
誰も居ない居間を通過し、すでに眠っているお父さんの部屋の前を通過し、突き当りを左に曲がる。
屋外の道場に続く、渡り廊下。そこの入口の戸の鍵が、開いている。
…乱馬はもう、道場にいる。その証拠だ。
「・・・」
あたしはその戸を少し開けて外へ出ると、戸を元通りに閉めて、渡り廊下を歩いていく。
夜風が冷たくて、庭に植えてある木の葉がカサカサカサ…と風に煽られて、あたしの足元で舞っていた。
あたしはブルっと身を震わせると、足早に廊下を渡りきった。
そして、いよいよたどり着いた道場の扉の前で、立ち止まる。
「…」
…この、扉の向うに乱馬が居る。
そう思うと、一瞬だけ扉を開けるのを躊躇した自分がいた。
「…」
でも、もう決めたんだもん。
決めたから、こうやって今、あたしはここにいる。
決めたから、あの買いこんだ下着も身につけてきた。
決めたから…誰にも気付かれないように、ここに来たんじゃない。
「…」
あたしは、扉の前で一度大きな深呼吸をした。そして自分自身に「大丈夫」と言い聞かせると、カラカラカラ…とガラス戸をあけた。
そして、中に入って内側からしっかりと鍵をかけると、「乱馬…」と小さく呼びかける。
「あかね」
と。乱馬があたしの名を呼んだ。
雨戸を閉めているせいか、いつも以上に道場の中が薄暗い。
あたしはゆっくりと前に進んで手を伸ばしてみた。すると、道場の中頃まで進んだ辺りで、あたしのその前に伸ばした手が、不意に引っ張られた。
「きゃっ…」
あたしはバランスを崩して床に倒れそうになるも、ふわり、とした温かさに守られて転ばずに済んだ。
どうやら、乱馬によって床へと引き倒されたらしい。
倒れたあたしの足は、床へは付いていない。どうやら床に座っている乱馬が、あたしを抱きかかえた形になったようだ。
「もー…危ないじゃない」
あたしがさっそく乱馬に文句を言うと、
「…来ないかと思ってたから…つい、嬉しくて」
乱馬は、あたしの身体をぎゅっと抱きしめながら、そんなことを呟いた。
「え?」
抱きしめられたその温もりに体を預けながら、あたしが乱馬に聞き返すと、
「不安そうだったから…俺があかねだったら、やっぱり不安だし怖いかなって…思った」
乱馬は、そんなあたしに自分の顔を擦り付けるように小さな声で呟いた。
…あたしが不安だったように、きっと乱馬も一人こうしてここで待っている間、不安だったのか。
それに、あたしが不安なのも分ってて…
「…乱馬」
「俺もさ、準備は色々したのにいざとなったら何か緊張して…」
乱馬が、そんなことを言いながら、自分の胸にあたしの頭を押し付ける。
「…」
耳から伝わる、乱馬の胸の鼓動。トクトクトク…といつもよりも大分早めだ。
「あたしも緊張してる」
お互い覚悟も度胸も決めてきたはずなのに、やっぱりいざこの場にきたら緊張するものか。
あたしも、そして乱馬も。
でも、返ってそれがお互いの緊張をほぐすというか。あたしは少しだけ、リラックスした。
あたしは、乱馬の胸の鼓動を感じながら小さな声でそう呟いた。
「そっか…」
乱馬はそんなあたしの頭を、大きな手で何度も優しく撫でた。
そして、
「…じゃあ、どの位緊張してるか、触ってもいい?」
「え?あ…」
触ってもいいか、と言うのはもちろん胸のことだ。
「…」
乱馬の問に、あたしは一瞬戸惑うも、小さく頷いた。
「…」
乱馬はそんなあたしをぎゅっと、一度強く抱きしめると、身体を離した。
明かりの無い、道場。
いつもの逢瀬とは違い雨戸も閉めているから、まさに暗闇。
目の前にいる乱馬の表情だけ、読み取れる。
外部からは音も遮断された、静かな世界。
するりと二人の間に溶け込む闇だけが、今はあたし達の唯一の繋がり。
「…」
…胸が、鼓動する。
あたしがぎゅっと自分の胸の前で手を握り締めると、乱馬はそんなあたしの頬を両手で挟んだ。
そして、ゆっくりと自分の方へと引き寄せて…そのまま唇を重ねる。
温かくて、柔らかい唇。ぎゅうっと押し付けられては離れ、また軽く押し付けられて。
あたしは胸の前で握っていた手をゆっくりと、乱馬の身体に回した。
乱馬の手も、あたしの頬から離れてあたしの肩口に、身体に回る。
と。唇の間から、ぐっと…熱い舌が割り込んできた。
まるで何かを求めるかのように、執拗に絡められていく。呼吸が、奪われそうだ。
その傍らでは身体を、耳を、頭を優しく撫でられて、ゾワゾワとした感触があたしの身体を駆け抜ける。
身体の力が、唇から全て奪い取られるような気がした。
「ん…」
あたしが唇から小さな声を洩らすと、乱馬がそのままあたしの身体を床に押し倒した。
不思議な事に、背中が冷たくない。
もしかしたら身体にかける毛布の他に、もう一枚毛布を持ってきたのかもしれない。
そう、床にあたしを組み敷く事が既に分っているから。

そう考えたら、何だか胸がドクン、と大きく鳴った。
「…」
あたしがそんなことを考えていると、
「…何考えてる?」
ふと、乱馬が唇を少しずらして呟いた。
「…」
あたしが首を左右に振ると、
「まだ他の事考える余裕、あるんだ?」
乱馬がそう言って、再びあたしの唇を奪った。
「あっ…」
一瞬離れて、また吸い付く唇。
先ほどとは比べ物にならない「熱さ」に、思わず声が洩れる。
再び絡めついている舌と、徐々に動き始めた指の動きに、あたしはビクンビクンと身体を竦める。
耳から、首にかけて指が流れていく。ゾワゾワした感覚に身体が震えた。
あたしが身を捩ろうとすると、「だめだよ」と乱馬が耳元に囁く。理性が、ふっ飛びそうだった。
頭の中が、真っ白になってきた。身体中を妙な感覚が包み込む。
唇だけでなく頬や、耳や首筋に滑る柔らかな感触に、あたしは何度も身体を竦ませた。
「ん…あ…」
自然と、口から声が洩れる。いけない。
あたしは、床に敷いてある毛布を片手でぎゅっと掴み、片手では自分の口を塞ぐかのように甲を押し付ける。
乱馬はそんなあたしの身体を一度ぎゅっと抱きしめると、この間と同じよう徐々に、手で身体をまさぐり始めた。
そして、一つ、また一つ…パジャマのボタンを外し始める。
そう、今日はもう「中途半端」で終わる事などないと。
初めからあたし達が何をするか分っているから、服を脱がすのだ。
…ボタンが一つ外れるたびに、暗闇にぼんやりと、あたしの肌が露出する。
白い下着は、不思議な事に暗闇でもぼんやりと白く、光るのか。
あたしがそんなことを思っていると、ボタンを外し終わって身体が露わになったところで、乱馬が手を止めた。
「…」
どうしたんだろう?不思議に思ったあたしがそんな乱馬を見つめていると、
「…」
乱馬が急に、下着で持ち上げられているあたしの胸を、ツン、と指で押した。
それも、露わになっている谷間のすぐ側を。
「きゃっ…」
ビクン。
あたしが驚いて身体を跳ね上がらせると、
「へへ…」
いたずらっ子が悪戯の反応を楽しんでみるかのごとく、乱馬が嬉しそうに笑った。
「な、何よう…」
あたしがさっと胸を腕で隠すと、
「何か、押してみたくて」
「エッチ!」
「しょうがないだろ」
乱馬は「何か今日…すげえ触ってみたくて」とあたしの耳元でそう囁いて、あたしが胸を隠した腕を取り去った。
「っ…」
…それって、さゆりとゆかが選んでくれた下着のせいかしら。
あたしがかあっと顔を赤らめながらそんなことを考えていると、乱馬は少しだけあたしの身体を浮かせるような姿勢をとらせ、背中で止めているブラジャーのホックを、外した。
途端に、それまで固定し持ち上げていた胸が緩やかに、空間に放たれる。
ブルン…と、少し揺れて、乱馬の目の前で止まった。
乱馬は外したブラジャーを、あたしの身体の横において、じっと…そんなあたしを見つめている。
「…」
…恥かしい。
とてもじゃないけど、乱馬と顔なんて合わせられない。
あたしがぎゅっと目をつぶりガタガタと身体を震わせていると、
「…」
そんなあたしの唇に、乱馬がそっとキスをした。まるで、不安や恥かしさを全て、全て吸い取ってくれるような熱いキスに、あたしも次第に引き込まれていく。
乱馬の首筋に身体に、ぎゅっとしがみついて身を任せると、
乱馬はあたしと唇を重ねながら、手を、徐々に首、肩、そして胸…と滑らせてきた。
乱馬の身体に押しつぶされて変形していた柔らかい乳房。その形を再びお椀型に戻そうとでも言うのか・・・乱馬が、下からすっぽり覆い被せるような形で、掌で胸を包み込んだ。
ちょっと、指を立てるように…包み込むというより、まるで軽く掴むような形なのか。
「や…」
掴まれた胸は、掴んでいる指の間からもその乳房が溢れだすように、収縮しては元に戻りを繰り返している。
時折、指で胸の先端部分に触れられれば、いつの間にかくっきりと形を露わにしていたその部分から、説明できないような刺激が、あたしの全身を駆け巡る。
この間の逢瀬の時よりももっと強く、もっと執拗に、乱馬の手はあたしの胸を支配している。
大きな掌によって、ビックリするくらい柔らかく形が変形しては戻る乳房と違い、
胸の先は驚くほど…堅さを維持している。あまりにも堅くて、そして触れられるたびに敏感になって、
頭が真っ白になった。
「あ…だ、だめ…」
手だけではなく、いつの間にか唇も乳房へと降りていた。形を維持している敏感なその部分へと舌を這わされたら、もしかしたら気がおかしくなるかもしれない。
「ん…ん…やあっ…」
あたしは、思わず身体を捻り唇から逃れるように、うつ伏せになろうとした。
でも、もちろん乱馬がそれを許すはずが無い。あたしは四つん這いになった形で、後ろから乱馬に抱きとめられる。
まるで、後ろから獣に捕まったかのようなそのスタイルに、あたしの頭は更に真っ白になる。
「…こんな格好でしたいの?」
「ち、ちが…」
「違わないよ、きっと」
乱馬は、あたしを離すどころか更にぎゅっと捕まえて、そのままその行為を続ける。
「ああ…」
恥かしい。
四つん這いに床につき突っ張っている腕と足が、湧き上がるゾワゾワとした感覚で震えていた。
乱馬はそれが分かっていてわざと、敏感なその部分をつん、と指で触れたり捏ねるように引っ張ったりする。
「あっ…んっ…」
声を出しちゃいけない。必死にそう自分に言い聞かせるも、食いしばった口からは自分でもビックリするような甘い声が、洩れていく。
「はああ…」
ゾワゾワ感が、一気に加速してあたしの頭から突き抜けた。
正体不明のその感覚に、がくん、がくんと力が抜けて、
あたしは徐々に床へと身体を沈ませる。
乱馬はそんなあたしを上手い具合にまた仰向けに寝かせると、あたしの胸に触れたまま、自分の着ている上着を脱捨てた。
そして、上半身すでに露わなあたしと自分の肌をすり合わせるかのように、ぎゅっと抱きついてくる。
…暗闇だけど、間近だから見える乱馬の身体。
あたしよりもはるかにガタイのいい、厚い身体。
それなのに、何だかくすぐったいくらい滑らかで、温かい肌。自然にあたしの肌にまとわりついてくる。
あたし達は、お互いの肌の温度を感じあうように、抱き合って身体をすり合わせた。
頭の中は、真っ白だ。でも、そうしているだけでもものすごく安心して満たされるのは何故だろう?

と、その内。それまで胸を弄んでいた乱馬の手が、するすると下に、移動し始めた。
程よくくびれたウエストを、まずは優しく撫でられた。何だか、くすぐったい。
その次に、腰の辺りを撫でられて、そのままその手はパジャマのズボンのウエストからすっ…と中に入り込んだ。
「っ…」
素手で、大腿を撫でまわされる、感触。あたしの身体がビクン、と竦んだ。
そう、この間はここまでだった。でも今日は違う。
「…」
愛撫される感覚に震えながら、あたしはちらっと道場の時計を見た。
午前、零時二十五分。この間みたいにタイムリミットで中止…と言う事は、やはり今日はありえない。

再び湧き上がった不安を隠すように、あたしは乱馬にぎゅっと抱き付いた。
乱馬はそんなあたしの唇に軽く一度キスをすると、
「大丈夫…」
乱馬が、あたしの目を真っ直ぐに見つめてそう呟いた。
その真っ直ぐな瞳に、あたしは小さく頷く。
乱馬はそんなあたしにもう一度軽くキスをすると、耳元に唇をつけた。
そして、
「足…ちょっと開いて」
と囁いた。その声にあたしはかあっと、頭に血が上る。
…先ほどから大腿を這いまわっている、乱馬の大きな手。
大腿の表面を撫でていただけだったけれど、いよいよその内側も撫でようというのか。
あたしがぎゅっと身体に力を入れて足を閉じていると、もしかしたらやりづらいのかもしれない。
で、でも足を開くって…どの位開けばいいの?
「…こう?」
開く度合いが良くわからなくて、あたしは少し片足を持ち上げた。
すると乱馬は、その少し持ち上がった足をぐっと…片手で持ち上げて横に広げた。
「きゃっ…」
あたしがいきなり足を大きく広げられたのに驚き怯んでいると、その隙にまんまと反対側の足もグッと持ち上げて横に広げた。
そして折れ曲がった足の、大腿の内側をぐっと、手で抑えている。
何だか、子どもがオムツを変えられる時に足を開かれるみたい…いや、もはや蛙?
いずれにせよ、いくらまだ下着を着けているとはいえ、足の内側が丸見えになるこの姿にはさすがにあたしも、戸惑った。
…こんな恥かしい格好、なんで乱馬に見られてるんだろう。
不安よりも恥かしさが勝って、何だか涙が出そうだ。
「…」
あたしがぎゅっと目をつぶってカタカタと震えていると、
「…」
そんなあたしに、乱馬が身体を伸ばしてもう一度、キスをした。
「…」
目を開くと、うっすらと視界が滲んでいた。恥かしさのあまり涙が込み上げたのか。
「ごめんな、恥かしいよな…でももうちょっとだから」
乱馬は、そんなあたしの涙を舌ですっと舐めると、震えている瞼に優しく、キスをした。
「うん…」
…恥かしい。でも、コウイウコトをするって…覚悟をしたのは、結局はあたし。
辺りが暗いことが、せめてものクッションになると思えば良いじゃない…あたしは必死に自分にそう言いきかせて、一度頷いた。
乱馬は、再び身体を足の方へと戻した。
そしてまた、触れている部分を触り始める。
触れて開いている大腿をなで、徐々に徐々に更に内側へ指が、動く。
下着でかろうじて覆われている、場所。
お風呂に入っても、何となく気になる場所。緩やかな膨らみがあるその部分に、乱馬が一度指で触れた。
「ひゃっ…」
ビクンっ…とあたしの身体が撓った。
その反応を見るように、もう一度乱馬がその部分に触れた。そして今度はすぐに指を離さずに、下着の布の上からその部分を、何度も何度も撫で始める。
「あ…い、いやあ…」
さっき、胸の先端を指で刺激されていた時と同じような、正体不明の感覚が足から頭へと伝わってくる。
しかも、何だかよく分らないけれど、身体が…疼く。
熱い。何だか熱い。触れられている部分が、熱い。その奥が…熱くてたまらない。
指で触れているその部分は、胸と同じように次第にその形をくっきりと、布の下で現すようになった。
しかも、触れるたびに不思議な事に…しっとりと下着の布を濡らす。
それに、何かこう潤んだ音が聞こえたような聞こえないような…?
「っ?!」
な、何…?あたし、何でこんな音をさせてるの?!
あたしの身体、どうなって…?
ビクン、ビクンと震えながらあたしが乱馬を見ると、
「…気持ちいいの?」
乱馬があたしにそう尋ねた。
「わかんない…」
気持ちいい、の意味が分からなくてあたしが乱馬にそう答えると、
「すげえ、濡れてる」
乱馬はそう言って、そのじっとりと湿り始めたその部分にあてがわれている布を、くいっと持ち上げた。
「きゃっ…」
あたしがビックリして腰を抜かすと、
「…」
乱馬は、ビックリするくらい手際よく、下着を両サイドで結んでいた紐を解いた。
そして、解けた下着を毛布の横へと、取り去ってしまう。
…毛布の下では、いよいよあたしは全裸になった。
しかも、乱馬に足を広げられたまま、だ。
全くの無防備な姿勢であたしは今、仰向けになっている。
「…」
かあっ…と顔を赤らめて、あたしが口元に手を当てると、
「…あんなの穿いてさ」
乱馬はそう言って、すっと一度、あたしの耳元に唇を当てた。そして、「ちょっと興奮した」と囁く。
「っ…」
あたしの頭が、真っ白になった。さゆり達の読みどおり、どうやら乱馬には喜んでもらえたようだけど、でも興奮したってことは…
「…」
あたしが今度は耳まで赤くして目を閉じていると、
乱馬はそんなあたしの足元にまた身体を戻し、先ほどまで布であてがわれていたその部分へと、今度は指ではなく直接唇で、触れた。
「い、いやあっ…」
ビクンっ…
今までの比にならないくらい、あたしの身体が弓状に跳ね上がった。
「だ、だめえっ…乱馬、やめ…」
唇で触れるだけではなく、先ほどの布の上からの執拗な愛撫でくっきりと形を現したその中央部分に舌で触れられる。
恐らく身体中のどこよりも一番敏感なその部分…まるで飴を舐めるかのように口に含まれて舌を転がされては、あたしの中の理性だけでは湧き上がる感覚をセーブできない。
「あっ…だ、だめっ…んっ…んっ…」
自然に、腰が持ち上がって動いてしまう。
ゾワゾワと、触れられている部分から伝わる感覚が、全身に駆け巡る。
声が、出てしまう。
「っ…」
静かにしなきゃ、という理性をすでに頭の隅へと追いやっているあたし。でも、他の人に気付かれては…そんな自制心はまだ時折浮かび上がる。
あたしは、片手の甲を自分の口へぎゅっと押し付けた。
それでも、「あっ…んっ…」と、甘い吐息は洩れている。
乱馬は、そんなあたしの反応を楽しむかのようにまだ舌を這いまわらせていた。
そのせいなのか、徐々に先ほどからたまに聞こえていた潤んだ音が、徐々に鮮明にあたしの耳に飛び込んでくる。
暗闇に、乱馬の乱れた息とあたしの甘い声。そして…まるで水の入った壷でも指で弄んでいるかのような、潤んだ音。
「すげえ濡れてる」
ふっと、乱馬の言葉が頭を掠める。
声よりもその音が大きくなり始めたのが、余計にあたしの羞恥心を強くする。
そして…乱馬の理性を消し去る手助けをしているようだ。
「…」
かなり乱れた息を平静に保つようにしながら、乱馬はその充分に湿ったその部分へ、今度は指も一緒に触れ始めた。
舌は、突起して敏感に震えている部分へと。
そして指は…初めはその周囲を撫でまわっていたのに、いつの間にか特に潤み始めた部分へとゆっくり、ゆっくりと侵入し始める。
「い、いやあっ…」
まるで、その通り道を探ろうとしているかのごとく、ゆっくりと指が入り込んできた。
「あああ…」
…あたしの身体の中に、しかも、こんなところから…。
頭の中が、再び真っ白になった。でも…信じられないような恥かしい事をされているのに、不思議と嫌悪感が無い。
潤んだ音と共に進入してきた指は、いつの間にか本数が増えていた。
中に入り込んだ二本の指は、あたしの身体の中の、その通り道をまるで刺激するかのように…動いている。
時折きゅっと、壁を押したり。そうかと思えばぐっと、曲がったり。
「あっ…あっあっんっ…」
舌は、敏感な部分を常に刺激されて、指は身体を翻弄している。
暗闇の中、触れられた部分が充分に潤んだ音が聞こえる。
絶えず刺激され愛撫される身体が、すでにあたしの支配下から離れたような、妙な感覚がした。
「あっあっ…」
自分の口を抑えているはずの手の甲が、いつの間にか半分はずれていた。
声が、洩れている。そうわかっているけれど、それを抑える事がもう出来ない。
身体中が、熱くなった。それまで恥かしくて足なんて開いていられなかったのに、いつの間にか自ら足を開いていた。
そう、だって乱馬はもうあたしの足を抑えていないのだ。指は、別の事をしているのだから。
腰が、浮く。身体が、疼く。
熱い。熱くてたまらない。
頭の先から足の指の先まで、あたしが生まれてから今まで味わった事の無い感覚が走り抜けていた。
なんだろう…これ。
何かが、「来る」。ゾワゾワして熱い感覚が、身体中を駆け巡って何かを「やって来させる」。
そんな感覚だ。
ガクガクと腰が震えて、でも「やめて」とはいえないあたし。
何?この感覚。何だかよく…
「んんっ…」
…正体不明の感覚に身体が震え、あたしはまるで何かに耐えるかのように、乱馬の頭をぎゅっと、自分に押し付けた。
その様子に乱馬は何を思ったのか、舌の動きも指の動きも、少し速度を速めた。
そんなことをされたら、すでに敏感になっているこの身体はおかしくなってしまうというのに。
「だ、だめっ…乱馬、もうっ…」
あたしがガクガクと震えながらそう息を洩らすも、乱馬はやめるどころか更に動きを早める。
それまで舌で奔騰していたその場所を、片方の手の指できゅっと、触れた。
身体を翻弄している指は、手の甲がその受け入れ口を乱暴に叩きつけるくらい奥深くまで、あたしの中に入り込んでいる。
「あ、あ、あ…」
…何かが、あたしの身体を急速に頭のてっぺんに向かって駆け抜けていった。
それまで身体を包んでいた感覚の比ではない。
何かが、広げているあたしの足に飛び散った気がした。少し、冷たかった。
それが、更にあたしを真っ白にさせる。
やがて、
「んんっ…」
ビクン、ビクンビクンっ…
乱馬の頭をぎゅっと、自分に押さえつけたまま、あたしは何度か大きく、身体を震わせた。
「ああ…はあっ…はあッ…」
頭の中が、ボンヤリとしていた。視界がぼやけ、呼吸が乱れる。
身体中の力が抜けて、それでも何だか下半身だけ震えているような…ふわふわした感覚。
不思議と、それまで身体中を駆け巡っていたあのゾワゾワした感覚が、何だかすっと、引いたような気がした。
…なんで、だろう…。
抑えていた乱馬の頭を離し、あたしがだらん…と手を左右に戻すと、
「…」
乱馬は指をあたしの中から抜き出して、そして脱力しているあたしの頭を優しく撫でた。
そして、額にキスをする。
「…」
ぼんやりとした瞳で乱馬を見ると、乱馬はぎゅっと、あたしを抱きしめた。
「…何か今、すげえ可愛い」
乱馬が、頭を撫でながらそう呟く。その言葉に、かあっと血が上った。
「…」
恥かしい。なんてなんて言葉を返したらいいか、全然分からない。
「…」
あたしがまた紅くなりかけている顔を隠すように乱馬に抱きつくと、乱馬もそんなあたしを更に強く抱きしめる。
密着した二人の裸体。うっすらと汗が滲んでいた。
先ほどの脱力感で、あたしの身体はまだ少し震えていた。
そして、それまで以上に敏感でも、あった。
…そんなあたしの裸体に、まだ乱馬はズボンだけは穿いているけれど、身体の一部がぎゅっと、押し付けられた。
この間と、きっと同じ部分。ものすごく熱くて、そして…くっきりと形どっているのが服越しでも分る。
「乱馬…すごく熱い」
あたしが小さな声で呟くと、
「あかねのせいだよ」
乱馬が、乱れた息をなんとか正常に保とうとしながら、そう呟く。
あたしがそんな乱馬にすりすり、と頭を擦り寄らせると、
「っ…」
乱馬が、ビックリするくらい強い力であたしのことを抱きしめた。そして、あたしにキスをする。
「はっ…あん…」
あまりにも強引で、そして熱いキス。強引に割り込んで絡められる舌が、痺れそうだ。
ちょっと離れると、うっすらと唾液が伸びた。
あたしが小さく声を洩らすと、
「あ、あかね…」
乱馬が、あたしの身体をぎゅっと抱きしめながら、あたしの名を呼んだ。
身体を押し付けているその部分が、服越しにドクン、ドクンと脈打つほど滾っているのが分った。
「っ…」
…乱馬は、あたしが答えるのを待っている。
鈍いあたしも、この時ばかりはすぐに察知した。
乱馬は、この先に進む事をあたしが了承するのを、待っている。
力で強引に奪うのは簡単だ。物理的に考えて、乱馬の方があたしより数倍も強いんだから。
でも…
「…」
過る不安とか、恥かしさとか、戸惑いとか。
全てを取り除く事は勿論無理だ。でも、ある程度あたしがそれらを振り切ってからでないと、ただ「痛いくて辛い行為」だけで終わりかねない。
友達、皆が言う。
どんなに好きでも、痛いものは痛い、って。
慣れては来るけど、それでも最初のうちは痛いって。
いわゆるビデオや漫画や同人誌なんかでよく見かける、そんなご都合主義じゃないって。
でも、それを超えないと先には勧めない。
怖い。何だか不安。だけど…
…相手が乱馬だから、もう少し、勇気を出してみようかなって。あたしは思った。
頑張れる。うん、大丈夫。
もうちょっと、あたしも乱馬に応えたいって、思う。

「…」
あたしは、乱馬にぎゅうっと抱きついたまま小さく一度頷いた。
「…ホントにいいの?」
乱れた息の中、乱馬が再度あたしに問う。
「うん…」
あたしはそんな乱馬に小さいけれどはっきりと、答えた。
それが、あたしの全てだ。
乱馬は、そんなあたしをもう一度だけぎゅっと抱きしめると、一度離して床に寝かせた。
そして、素早い素振で穿いていたズボンと、見慣れたトランクスを脱ぎ捨てた。
すぐあたしの方へ倒れてくるのかな、と思ったけれど、乱馬はあたしに背を向けたまま何かゴソゴソとしている。
「っ…」
…ああ、そうか。皆が言っていた通り、あれ、付けてるんだ。
それを思い出したら、あたしは一瞬で顔が真っ赤になる。
「…持ってたの?」
ゆっくりと身体を起き上がらせ、毛布で身体を隠すようにしながらあたしが乱馬に問うと、
「うん…ちょっと前に貰った」
乱馬は何だかバツが悪そうに、そんなことを呟いた。
ホントだ。男の子って、本当にそうなんだ。何だかあたしは不思議な気分だ。
「…」
決してそれって、いつも誰かと使ってるから…とかじゃないんだよね?
あたしがそんなことを思って俯いていると、
「違うよ」
「え?」
「俺もさ、これ初めて着けてみたんだよな…貰ったまま、ずっと放置してて」
「っ…」
「だから…俺も、コウイウコトするの今日が…初めて」
乱馬は、あたしのそんな不安を感じ取ったのだろうか。
あたしが聞きたかった事にまっすぐにそう答えた。
そして、自分もスルリと毛布の中へと入り込む。
「…」
静かな空間、あたし達の少しだけ乱れた息だけが響いていた。
床に敷かれた毛布の上に乱馬はあたしを組み敷いて、じっとあたしを見つめている。
熱く滾るものが、あたしの大腿に触れていた。ビクン、と身体が竦む。
乱馬が、先ほどと同じようにあたしの足をぐっと左右に開いた。
「っ…」
あたしが緊張と不安のあまり身体に力を入れると、
「ゆっくりするから…力、抜けよ」
乱馬が、息を乱しながらあたしにそう囁いた。
「うん…」
あたしが小さく頷くと、乱馬はそのまま、広げた足の中心部へ、何かをぴたっとくっつけた。
熱いけれど、素肌とは違うその感覚。それが何かすぐに気が付いて、あたしの頭が真っ白になる。
先ほど充分なほど潤んで溢れたその部分は、ゆっくりと、乱馬を受け入れていく。
でも、
「ひっ…」
…痛い。
あれほどさっき濡れたのに、ものすごい圧迫感だ。
指を受け入れるのとは訳が違う。
「い、いたっ…痛い…」
乱馬が奥に入り込むごとに、増す痛み。
明らかに異物で、明らかに大きさだってある。
何かが壊れる痛さではなく、そうこれはきっと…擦れる痛さだ。
それまでぎゅっと閉じられていた所に急に異物を挿入すれば、そりゃ痛いだろう。
「慣れてたって痛い」
…その意味が、あたしはようやく実感できたような気がする。
「ご、ごめん…でももうちょっとだから…」
痛がって顔をゆがめるあたしを、その行為自体はやめないまま、乱馬がぎゅっと抱きしめる。
「うん…うん…」
痛い。でももうちょっと。でも、痛い。
「はあっ…はあっ…」
少しでも痛さをこらえようと、あたしは大きく息を吸ってみる事にした。
痛さはあまり変らないけど、気分的に少し、楽になる。
そうこうしている内に、あたしの中に入り込む乱馬の動きが、止まった。
もしかしたら、一番奥深くまで到達したのかもしれない。
「ああ…」
あたしが小さな声を上げると、その唇はまんまとすぐに奪われた。
「すげえ…俺、何してんだ、今…」
あたしから唇を離した乱馬が、あたしの唇に触れるようにしながらそんなことを呟く。
「…エッチ」
あたしの身体が震えるように、乱馬も微かに震えているような気がした。
それは、不安からなのかそれとも別の意味なのか。それは良くわからない。
あたしがそんな乱馬の身体にぎゅっと抱きつくと、乱馬もそれに答えるように、あたしをぎゅっと、抱きしめた。
…正直言って、この状況を理解するような冷静さよりも、痛さのほうが強い。
でも…確かに乱馬が言う通りだ。
あたし…あたし、何してるの?今。
この身体中に感じる温もりと、身体を突き抜ける痛さが、あたしを現実の世界に引き戻す。
あたしがそんなことを考えていると、乱馬がふとあたしの身体から上半身を離した。
その代りあたしを寝かせたまま、自分だけ体を起こし腰をぐっと、押さえつけている。
あたしの開いた足を下から抱えるように腕を通し、そのまま手はあたしの腰の辺りをグッと掴んだ。
パン、と張り切った白い肌が、乱馬の手の力でグニッと歪んだ。ゾワゾワとした感触があたしの身体中に走り抜ける。
「…」
あたしがそのままの状態で乱馬を見つめると、乱馬はすっと片手であたしの身体をゆっくり、上から撫でた。
「ん…」
くすぐったくて、柔らかい。その感触にあたしが身体を震わせると、
「…動かすよ」
乱馬が、少し掠れた声であたしにそう、声をかけた。
「…」
うん。…言葉にならない声を出し、あたしはぎゅうっと、床に敷いてある毛布を掴んだ。
それと同時くらいに、乱馬が一度腰を引き、そして又奥に押し入れるような…いわゆる注射器のピストンのような動きを、ゆっくりゆっくりと始める。
「いっ…痛っ…」
痛い。何だか、擦り傷部分を更に擦られているような感じだ。
…あれだけ先ほどすんなりと指を受け入れたのに、同じように動くだけで、どうしてこんなに痛みが走るのか。
「っ…」
あたしが痛さを少し紛らわせようと身を捩ろうとすると、乱馬はそんなあたしの腰を動かさないようにぐっと、自分の方へと引き寄せる。
「ご、ごめん…で、でも…」
あたしが痛さに顔をしかめているのに、乱馬も気が付いているようだ。
でも、本能で動く身体がもうどうにもならないらしい。乱馬は、初めはゆっくりと前後に腰を動かしていたのに、今では少し、ペースをあげている。
それは本能がブレーキ出来ないのも勿論だけれど、沸き起こる痛さと同時にあたしのその部分がすこし慣れ始めたのも、あるのだろう。
痛くても、身体の方には少しづつ、変化が出ているのか。当のあたしには良くわからない。
…でも。
人間というのは不思議なものだ。
どれくらい、そうやって乱馬と繋がっているだろう…少し時間が過ぎてくると、
「んっ…んっ…」
痛さにも少しだけ慣れてきたあたし。痛みの合間に、徐々に、先ほど味わったあの、正体不明の感覚が現れる。
ぼうっ…とあたしの肌が紅潮する。
部分的にまだジンジンと熱いけれど、先ほど指を受けれたのと同じように、明らかにその部分が潤滑しだした。
「あ、あかね…」
吐息交じりの、乱馬の声が聞こえる。
その部分が潤滑すればするほど、乱馬が少し動くだけで、ぐっ…と彼が奥まで入り込む。
「あっ…くっ…」
乱馬が、更に動きを強めた。あたしと、乱馬のその結合している部分の肌が激しくぶつかり合う。
繋がっているその部分から溢れる潤んだ音と、肌を叩き付け合う乾いた音。相反する音があたりに響きあう。
「あっ…あっ…」
床の毛布をぎゅうっと握り締め、片手では手の甲を口に宛てるあたし。
痛いには、痛い。でも、少しだけ生まれ始めた、あの妙な感覚。
しかも、乱馬が動けば動くほど、ぞわぞわとあたしの全身を駆け抜ける。
いつのまにか乱馬は、あたしに抱きつくように覆い被さりながら、腰を動かしていた。
そう、強引に広げられていたその足、今はやっぱり、あたしが自分自身の意志で開いている状態だった。
本当に痛さだけしかないのなら、閉じて拒絶すればいい。
でも、もうそれが出来ないあたしがいた。
あたし、今乱馬に何されてるの?
乱馬と、何してるの?
頭の中が、混乱する。
冷静になろうとすればするほど、かあっと、身体が熱くなる。
「あかね…」
「ん…」
…腰だけはお互い動かしては擦りあっているのに、一方では執拗にキスをしたりして。
時々胸に触れられて、何だか意識が飛びそうだった。
虚ろな表情のまま、あたしは乱馬とキスをする。
口から漏れる吐息を、全て乱馬に吸い取られてしまいそうだった。
でも、もうそれでもいいと思った。だって、声を出してはいけなんだもの。
声を出したら、皆に気付かれてしまう。
「離れちゃ、や…」
「…」
「声…」
声が出ちゃうから…あたしが乱馬にそう言おうとすると、それを言い切る前に、乱馬が再びあたしの唇を塞いだ。
そして、心なしか腰の動きが速くなった気がする。
乱馬が、片方の手であたしの片足を少し、上に持ち上げた。
そうする事で、より深く、乱馬があたしの中に入り込む。
「あっ…」
ビクン、と身体が震えた。乱馬はそのまま、またグラインドさせるように腰を動かした。
身体の奥深くを、突き上げられるようなその行為。身体の奥が疼き始めた。
「あっ…あっあっ…」
ぎゅう…と、床の毛布をあたしが握り締める。
肌を打ちつけあう乾いた音が、より辺りに響き渡った。
…ものすごく乱暴で、強引なそんな行為。
それなのに、なんであたしは…?頭と身体がぼーっとして、何だか自分でも良く分らない。
そうこうしている内に、徐々に徐々に、先ほどと同じような正体不明の感覚が、繋がっているその部分からあたしの身体の中を駆け上り始めた。
足の指先から、手の指、首を伝って耳元へ。そして頭へ。
「やっ…ら、乱馬っ…」
あたしは身体を時折跳ね上がらせながら、必死にその湧き上がる感覚に耐えようと努力するも、
もちろん乱馬はそのまま動きを止めるどころか、動きを早める。
少し開いている足に、吸い付くようなキスを時折交えながら。ゾワリと、刺激が身体に走る。
「あっんっ…」
「くっ…」
二人の乱れた息と、汗ばんだ身体。それでも、止まる事の無い、動き。
暗闇で、どんなに淫らな行為を続けているのか…頭の片隅で、かろうじて残っていた理性がそんなことをあたしに語りかけるけれど、もう、頭は真っ白だ。



その内。




「んんっ…」
身体を突き上げる鈍い感覚が、あたしの身体の中に生まれた正体不明の刺激に、結びつき、一気に身体を駆け上り始めた。
「ら、乱馬っ…」
あたしが、乱馬を求めるように彼の名を呼ぶと、乱馬は求められるがままにあたしの汗ばんだ身体を、抱きしめた。
「い、いやあっ…な、何か…へん…あ、あたしっ…」
身体を襲う、それまでとは比べ物にならないくらい波のある、刺激、感覚。
来る。また、何かが来る。「あ、あ、あ…」と自然に声をも口からこぼれていく。
やがて、あたしの身体がビクンビクンと大きく撓った。
湧き上がった感覚が、頭のてっぺんから足先まで、ものすごい速さで一瞬であたしの身体の中を満たした。


「あっ…あああ!!」
…それと同時に、ぎゅうっと…体の奥が緊張するかのようにぐっと、締まった気がした。



「あっ…あかね…」
それを受けたからか、
ビクン、ビクンと震えて撓るあたしの身体をぎゅっと抱きしめながら、それまで夢中で腰を動かしていた乱馬が、同じように大きく震えた。
「あああ…」
湧き上がった感覚が、まるで波打ち際の水のように、緩やかにあたしの中から消えていく。
でも、ボンヤリとした頭と、朦朧とした意識。繋がったままの違和感のある結合部分…何だかまだ、自分の身体が自分で無いような、妙な感覚があたしを包んでいる。
「ああ…あかね…」
乱馬が、そんなあたしの唇を奪った。
あたしは、それを求められるがままに受け止めては…乱馬をただただ、求める。
身体中に残る鈍い感覚が、まだ頭が朦朧としていてもあたしに乱馬を求めさせる。
「…」
言葉も発しないまま、ただただ、あたし達は唇を、いやお互いを求め合った。
チュ、チュ…と唇を吸いあうそんな音だけが、辺りに響く。
汗ばんだ身体と、熱いくらいの、肌温度。まだ、お互いの身体に残る鈍い感覚。
「…」
と、その内。
乱馬があたしに抱きつきながらも、片手をもぞもぞと動かし始めた。
それまで繋がっていた部分をそっと、抜き取るように腰を動かす。
「…」
…もう、離れちゃうの?
あたしがそんなことを思いながら、乱馬を離さないようにしようとすると、
「あ、ちょ、ちょっと待ってな…」
乱馬がそう言って、ばつの悪そうな顔で笑った。
「…?」
あたしがきょとんとしていると、乱馬は素早くなにやら手を動かして、何かをそっと、毛布の横に脱捨ててあった自分の服の下に隠してしまった。
そして、
「…」
再び、先ほどまでそうしていたようにあたしに、抱きつく。
あたしが不思議そうな顔をしているので、
「あ、あのな?」
「うん…」
「その…ほら、付けてたものがあったから、その…」
乱馬は色々と言葉を選びながら、そんなことを呟いた。
「っ…」
そ、そういえばそうだ。
あたしがその事を思い出して、思わず顔を赤らめると、
「で、でももう取ったから…」
乱馬がそんなことを言いながら、ぎゅうっと、あたしに抱き付いた。
何だかお互い何も言わずとも、先ほどまで繋がっていたその感覚を求めるかのように、自然に足を絡めるようにして横たわる。
そうして横たわっているあたしには、こうなる前までに抱えていたあの不安とか、迷いとか、戸惑いとか…そういうのが殆ど、感じられない。
不思議だ。
不安の代わりに今、あたしは無性に乱馬の温もりを求めている。そう、さっき「もう離れちゃうの?」と思ったように。
…今でも身体の奥はまだ、ちょっと痛い。その感覚が無いといったら嘘になる。
でも、痛いけど…別にそれだけがあたしに残ったというわけでも、ない。

…しちゃった。
変な話、何か色々と感じるよりも、今のあたしの気持ち、そんな感じだ。
「…」
あたしが、ぎゅっと抱きしめられたその腕の中から乱馬を見あげると、
「…しちゃったな」
…あたしが思っていたのと同じことを、乱馬が呟いた。
「ふふ…」
不思議。身体が繋がると、思考まで何か通じる物があるのかしら。
あたしが思わず吹き出してしまうと、
「な、何がおかしいんだよっ…お、俺何か変なトコあったかっ…?!」
あたしのその笑みに、何か不安を覚えたのだろうか。乱馬が妙に焦りながらそんなことをあたしに問う。
「ううん…同じだなって、思って」
「え?」
「あたしも、今同じこと、考えてた」
あたしがふふ…と笑いながら乱馬にそう言うと、乱馬も何だかはにかんだようなそんな笑顔になって、そのままあたしの額に優しく、キスをした。
「…不思議だな」
「…そうだね」
「しちゃったな」
「うん」
あたし達は、そのまままたぎゅっと、お互いの身体を抱きしめる。
お互いの身体の温もりを感じあいながら、そしてお互いの身をすり寄せ合うようにしながら。
ここで落ちあった時のように、お互いの身体が不安で震えていることは、もうない。
触れ合ってこうしてお互いを感じあう喜び。今はそれがあたし達を満たしている。
不安とか、痛さとか、寒さとか、そういうのよりももっともっと、強く。







出会いは、最低最悪だった。
おかげで、許婚という関係のクセに、きちんとお互いが理解して、納得して付き合うまでの道のりは、ビックリするくらい長かった。
そこから、手を繋いで歩くようになった。でも、そこから先に進まない。
どこか不安で、どこか遠慮して、そして何だか照れくさくって。
進まない理由を、「きっとあたし達はペースが遅いのよ」…そんな理由で片付けてみたりして。
でも、このままじゃ居られないのかなって、思ったら…早かった。
そう、スローペースなのは「あたし達」ではなく、「あたし」だったのかもしれない。
それを、乱馬は同じ歩幅にあわせて歩いていてくれたんだって、あたしはようやく気が付いた。
何もかもが不安で、どうしていいかわから無くて。
自分の身体にも自信がなくて…全てを預けて、「なんだ」と乱馬にがっかりされたら嫌だって、そんなことさえ考えた事もある。
でも、それじゃ何も変らない。いずれはそうなるんだったら、もう…
あたしは、そんな風に思うようにした。
だから…そうやって気付いて、キスをしてからは一気にペースが進んだ。
もう、手を繋いでいるだけで満足、なんていっていた数週間前のあたしが、嘘のような話だ。






でも、後悔は、していない。




今夜ここにくるまで不安だったけれど、
今度は、これから先のことについてまた不安にも刈られているけど、
でも…今は何だか、平気。
初め、不安なのはあたし一人だけだと思ってたのに、
実は乱馬も不安で、慣れてなくて。そう言うのが途中で分ったからって言うのも、あるのかもしれないな。
怖いのは、二人とも一緒。不安なのも、そう。
だったら、どんなペースだって正直に、ぶつかればいいんだよね。
身体が繋がったから全て終わりなんじゃなくて、
繋がったからこそ、まだまだここから、あたし達は進んでいかなくちゃいけないんだ。








「…」
お互いの温もりを求めるように、あたし達は身体を擦り合わせる。
言葉も交わさぬまま、ただお互いを求め合って、目を閉じる。
キスをするまで、三週間。そこから結ばれるまで、二週間ちょっと。
ここが全ての終わりじゃなくて、ここからもあたし達は、進んでいく。
「…」
あたしがそんなことを思いながらふっと顔を上げると、やはり同じことを考えていたのか、乱馬と目があった。
思わずお互い笑みがこぼれる。以心伝心。何だか、不思議。
…何だか今夜は部屋に戻らないで、朝までずっと、こうしていたいなあ。
と。乱馬がそんなことをボソッと呟いた。
「…鍵、かけてあるから、大丈夫だよ、きっと」
あたしも「うん」と頷くと、
「…だよな。明日休みだし、朝方また静かに戻れば良いよな」
「うん」
「それに…下手に夜中に部屋に戻ると、なびきの野郎が妙な勘繰りをするような気がするんだよな…」
「そ、そうね…」
たくさんの愛を感じた後は、いつもの現実が待っている。
そう、ここは天道家。油断は一応、大敵だ。

「…」
あたし達はそうやって頷きあうと、ゆっくり、ゆっくりと唇を重ねて再び抱き合った。
朝までに、またどれくらい唇を重ねるのだろう。肌を重ねるのだろう。
次の逢瀬の約束をするのだろう…
そんな思いが頭を掠めていく。



それまでより、少しだけ成長したあたし達は、そのままその夜を道場で過ごした。
初めて結ばれた夜の、出来事。
家族の目をかいくぐって、そして翌朝までに色々元通りにしたりしなくちゃいけなくて、
あまつさえ、なびきお姉ちゃんの動向には注意しなくては…と別の意味でも色々とこれから大変だなとは思うけれど、
それでも、たくさんのことが分かって、たくさんのものをもらって。
ちょっとだけ、お互い成長できた…大切な出来事。


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