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忘れえぬもの

「…うん。それでね、終電に乗り遅れちゃったの。…うん。…うん、そう、乱馬も一緒」

冬休み中の、ある日の深夜。
海岸近くの電話ボックスで、あかねが天道家に電話をしている横に、俺は立っていた。
俺たちは冬休みに特別に開かれる「ナイトイベント」に遊びにきていたんだけど、それが意外に早く終わってしまって、「まだゆっくりしてこうよ」なんて言いながら近くの海岸で時間をつぶしているうちに、うっかりと終電の時間を忘れてしまっていた。
慌てて駅まで走ったけれど、既に終電は三十分も前に出てしまった、後。
俺たちが住んでいる町からここまでは電車で二時間以上もかかるから、「迎えにきてくれよ」なんていえる場所でもない。
それであかねが、家に電話しているわけなんだけれど。
「乱馬、電話代われって」
その内あかねが、俺に受話器を渡してきた。
(やべー、おじさんに怒られるかな…)
いくら許婚とは言えど、やばいかな…なんて、俺がそんなことを思いながら
「もしもし…」
と電話に代わると、
「乱馬君!いやー、あかねの事よろしく頼むよ!」
電話先のおじさんは、こっちが拍子抜けするぐらいにやけに明るく、
「ゆっくりすごして来るんだよ!せっかくの二人きりの夜なんだからねッ」
…と、おおよそ娘を持つ親の発言とは思えないことを言っていた。
その背後で、
「乱馬、あかねちゃんに無理させちゃダメよ」
とか
「据え膳食わぬは男の恥ぞ」
とか、
「とりあえずどこかに入って雨風は凌がないとねえ」
とか。
お袋やおやじ、そしてかすみさんのぼやいてる声が聞こえた。
(ほ、ホントに心配してんのか?)
俺は、ちょっと拍子抜けしながらも、「はあ…」と返事をする。
とその内、
「あ、もしもし乱馬君?あたしよ」
浮かれてるおじさんから受話器を引ったくったのか、なびきの声が電話越しから聞こえてきた。
「おう」
「乱馬君…お父さん達はあの通り浮かれちゃってるからあたしが代弁するけど。
  あんたに一つだけ、忠告しておくわ」
なびきは、浮かれてるおじさんたちとは違った、真剣な声で淡々と、俺に話し掛けてきた。
(…)
「な、なんだよ…」
本来ならば、家族はこうでなくちゃいけないよな?とは思いつつも、俺がなびきのそんな言葉に少し緊張しながら次の言葉を待っていると、
「…いい?ホテルに入る時に顔を見られたくなかったら、駐車場からダイレクトに入れるようなそーゆーところを探しなさい。そーゆーところはね、駐車場の扉からそのまま部屋にいけるようになってるのよ。あ、車がないんだから、徒歩ですっていう看板立てて入った駐車場のスペースに置いとくの忘れないようにね」
「何の心配してんだお前は!」
「あら?照れやな乱馬君にはうってつけのアドバイスだと思ったのに」
「余計な心配してんじゃねー!」
俺は、そう叫ぶや否や、受話器を叩き置いた。
「ど、どうしたの?」
あかねが、ぜーぜーと肩で息をしている俺を不思議そうに見ている。
「な、何でもねえよ」
俺は一度ため息をつくと、
「お父さん、なんだって?」
「…あかねのこと、よろしく頼むってさ」
そういって、あかねの手を取った。
「そんだけ?」
「そう。あとはなびきが…」
俺はあかねの手を引いて歩きながら、なびきが俺にアドバイスをしてきた事をあかねに伝えようとしたけれど、ふと思いなおって、やめた。
「なびきお姉ちゃんが、どうしたのよ?」
あかねがそんな俺を不思議そうに見るけれど、
「…別に。あかねをよろくってさ」
俺は適当に誤魔化した。
…それから俺たちは、とりあえず冷えた身体をあっためようと、近くのファミレスに入った。
「ちょっと、待ってて」
適当に飲み物を注文し終えると、あかねがそういって席を立った。
俺は、そんなあかねの後ろ姿を見送りながらも、ぼんやりと色んなことを考えていた。


…本当は。
「偶然」終電の時間を忘れてしまっていたんじゃなくて、「必然」だった。
少なくとも、俺は。
せっかくあかねと夜のデートに出る事が出来た今夜は、どうしても二人でいたかったからかもしれない。
あかねとようやく気持ちが通じ合えて、数週間。
普通に手を繋いで歩いたり、一緒にどこか出かけたり、抱き合ったり…キスしたり。
だんだんそれだけじゃ、物足りなくなってきたのかもしれない。
気持ちが通じ合う前までは、それだけ出来れば充分だ、なんて思ってたはずだったのに。
人間は、手に届かないものが届くようになると、
どうしてこうも、欲を出してくるのだろうか?
…もちろん、常にあかねと一緒にいたいと思ってるし、隣を歩いていたいと思ってる。
だけど、その気持ちと同じくらいの割合で、
もっともっと、あかねを知りたいとも…思っていることは事実。
きっと、そーゆーことに鈍くて鈍感なあかねに俺がこんな事を思ってる、なんて言ったら、
「な、何考えてんのよッ」
とか何とか言って、軽蔑されちまうかもしれないけど、でも、俺だって男だし。
そう思うのは当たり前だろ?…なんて。
俺は、さっきからそんなことばっかし考えていた。



「お待たせ」
…と。
その内、あかねが戻ってきた。
それと同時に注文していた飲み物も届いたので、それをお互い口に運びながらたわいもない会話をしていたけれど、
「ねえ、乱馬。今日これからどうする?」
あかねがふと、俺の心臓を貫くような質問をしてきた。
「あ、ああ…そうだな」
そんなの、決まってんじゃねーか。俺は思わずそういってしまいそうになったが、あえてそれは口に出さず、
「どうすっかな…」
と、とぼけている。
「今…夜中の三時。始発が走るまで、あと二時間半ね」
あかねは、そんな俺を無視するように、腕時計とにらめっこしながらそんなことを呟いていた。
「二時間半か…。中途半端よね」
「そ、そうか?」
「そうよ。…」
あかねは、腕時計から顔を上げて、今度はふと、座ってる席の横の、窓の外を見出した。
「…」
そして、何かを考えていたようだったが、
「乱馬。行こう」
突然そういって、立ち上がった。
「え…い、い、行くってどこへ!?」
なんだよ、やけに積極的じゃねえか…なんて俺が一人焦っていると、
「いいから!せっかく乱馬と二人っきりの夜なんだもん。行くって言ったらあそこしかないわ」
あかねはそういって、俺の腕をとって店の入り口へと歩き出した。
「そ、そんな慌てんなよ」
俺は、あかねに腕を取られて歩きながら冷静そうにそんなことを口走っているが、心の中では小躍りしたいほど嬉しくてしょうがなかった。
…これは、夢か!?
しかも、俺が言い出さなくても、あかねから?!
そんな美味しい話があっていいのか!?
あかねも俺と同じ気持ちだったって事か!?
(皆まで言うな、あかね。お前の気持ちはしっかりと受け取ったぞッ)
…何だか俺は、一瞬九能先輩にでもなったかのようなことを思いつつ、
(…で?この辺て、入れそうなトコあんのか?)
と、一人きょろきょろしながら歩いていたが。
「着いた!」
…そんな俺のことを全く無視しながら、あかねはそう叫ぶと、立ち止まった。
「…へ?」
俺が、きょとんとした顔であかねを見ると、
「だから、着いた!海!」
あかねはそういって、俺の腕から離れ、一気に砂浜へと駆け出した。
「は…?」
「乱馬ッ。こっちこっち!」
…あかねが俺を連れてきたのは、俺たちが終電を待ちながら散歩したりしていた、海辺だった。
(なんでえ、さっきと同じ海じゃねえかよ…)
俺が、落胆を隠し切れない表情でため息をついていると、
「乱馬ッ、早く!」
あかねは、波打ち際で元気良くピョンピョンと飛び跳ねていた。
(あーもう、しょうがねえなあ…)
…やっぱ、あかねから俺を誘うなんてそんな夢みたいな話はねえよなあ?
(あーあ。せっかくの二人きりの夜だったのになあ…)
俺はもう一度ため息をつくと、波打ち際で待っているあかねの元へとゆっくりと歩いていった。
「今、引き潮みたい。波の量が少ないのよ」
…波打ち際のあかねはそんなことを言いながら、笑っている。
そんなあかねの笑顔が、キラリ、と一瞬月明かりに照らされる。
「転ぶなよ。服濡れたら、風邪ひくぞ」
(でも、服が濡れたらやっぱ乾かす為に…)
俺は、口ではあかねを気遣うような事を言ってる半面、心の中ではそんなヨコシマな事も考えていた。
でも、いつもはそそっかしくて危なっかしいあかねも、こういうときには何故か注意深く、俺が思ってるような展開にはまったくなりそうにもない。
転ぶか!?転びそうか!?…俺がそんなことを思ってみていても、あかねはグラリ、とも揺るがない。
…やっぱり今日は、俺が期待していたような展開には、なりそうもないようだ。
(しょうがねえか…)
俺は、もう一度大きなため息をついた。
それからしばらく、あかねは波打ち際で飛び回っていたけれど、
さすがに眠っていないせいもあり疲れてきたのか、
「ちょっと座ろう」
と、少し落ち着いて座れるような場所へと俺を連れて歩いた。
そこは、波打ち際からちょっと離れた岩陰。
よくみると、俺たちがいる岩陰から等間隔ぐらいで、何組ものカップルがいた。
どうやら、みんな、俺たちと同じように終電に乗り遅れたカップルのようだった。
どのカップルも、自分達のことで一生懸命なので、他のカップルがなにを話していようが何をしていようが、まるでお構い無しのようだ。
俺は、そんなあかねに、後ろから抱きつくような形で座り込んだ。
あかねも、そんな俺に何も言わず、抱かさっていた。
俺も、そんなあかねに何も言わずしばらくは黙っていたのだけれど。ふと、思うことがあった。
…今まで波打ち際で飛び回ってたあかねの身体は、氷のように冷たくなっていた。
氷のように冷たいのに、でも、氷のようには硬くない。
冷たくて柔らかいあかねの身体はまるで、
「何かお前、白玉みてーだな」
「何よッ白玉って!?」
「だってさ。冷たいのに柔らかくて。ほら、あんみつとかパフェとかにはいってる白玉って、そんな感じじゃん?」
俺がそんなことを言って声を殺して笑っていると、
「白玉って…何だかまん丸って感じがしてなんかヤダなあ」
「丸マル。ぴったりじゃねーか」
「丸くないもん」
あかねは、ムーっと頬を膨らませた。
「ほら、丸い」
俺は、そんなあかねの頬を指で突っついてみる。
「もう、またあたしをバカにしてるッ。それに、白玉だと何か味気ない感じがする」
あかねは、さらにムーっとした表情で俺を見ながら、ぼそっと呟いた。
(…)
そんなあかねの、恨めしそうな表情にも。
何だか俺は、急に心を惹き付けられた。
「…ふーん。じゃあ、あかねはそっけない味じゃねえんだ?」
俺が、あかねに抱きつく力を強くしながらそういうと、
「うん。わかんないけど、そっけなくはないはず…」
あかねは、「自分の味なんてわかんないけどね」とでも言いたそうな表情で俺を見上げた。
「ふーん…」
俺はそんなあかねの額に、ゴチ、と自分の額を一度ぶつけると、そのままあかねの首筋に自分の唇を押し付けた。
「きゃッ…」
あかねが一瞬ひるんで俺から逃げようとしたけれど、
俺はそんなあかねを逃がさないようにぎゅっと強く抱きしめながら、一度首筋に押し付けた唇を離した。
そして、またすぐに今度はちょっと左に場所をずらしてもう一度、さらに少し下へずらしてもう一度…と何度かそんなことを繰り返す。
「く、くすぐったい…」
唇を押し付けるたびに、あかねがビクッと身を竦めてそんなことを呟いていた。
そして、しばらくしてやっと俺が自分から離れたのを確認すると、耳まで真っ赤になりながら、
「な、何すんのよぉ…」
と、ごにょごにょと呟いている。
俺はそんなあかねに、ニヤッと一度笑うと、
「いや…そっけない味じゃないって言うから、どんな味がするのかと思って」
味見してみました、と俺はあかねの耳元で呟いた。
「こ、こんなんで分かるわけないでしょッ」
あかねが、更に消え入りそうな小さな声で俺に反抗してくるので、
「じゃあ、どうやったら分かる?」
俺はそんなあかねにそう聞き返してみた。
「ど、どうやったらって…」
あかねは、俺の意地悪い質問に更に真っ赤になってしまっていた。
「わかる方法で、教えて欲しいんですケド?なあ?あかね」
俺は、そんなあかねが可愛くておかしくて仕方なくて、
そして、今晩お預けをくってしまったことの腹いせ…じゃあないけれど、更に意地悪くあかねに質問してみた。
「そ、それは…」
「それは?」
「それは…」
あかねは、そう呟いたまま、真っ赤な顔を隠すように俯いてしまった。
そして、俺の胸にポスっ…と頭をもたげると、小さな声で、「わかってるくせに」と呟いた。
「…」
俺は、そんなあかねの頭を、優しく撫でた。
「…」
あかねは、そんな俺の顔を黙ってじっと見上げると、
「…ホントは、怒ってたんでしょ?」
急に、そんなことを言い出した。
「何が?」
俺が「何を?」とでもいいたげな表情であかねに尋ねると、
「…せっかく二人きりの夜なのに、どうして海で過ごそうとするんだよって」
あかねはそういって、俺の身体にぎゅっと力を入れて抱きついてきた。

…ばれてる!?

あかねの言葉に、俺は内心ドキッとさせられた。
実際は怒ってはいなかったけど、ショックは大きかった、俺。
それを悟られまいと隠していたつもりだったのに、どうやらあかねには全てお見通しだったようだ。

「お、怒ってなんてねえよ」
俺があかねにそう弁解すると、
「…でも、ちょっとは期待してたでしょ?」
「何でそう思うんだよ?」
「だって……・」
あかねはそういって、抱きついたまま俺を見上げた。
「あたしだって、今日はもしかしたらって…思ってたんだもん」
「何!?」
俺は、あかねのその言葉に、思わず全身の力が抜けてしまうほど驚いてしまった。
(じゃあ、今からでも遅くねえのか!?)
そんな俺が更にヨコシマな考えをまた始めると、
「でも…ファミレスから窓の外に広がるこの夜の海を見たらね…
  何か夜明けの海も、見てみたいなあって…急に思っちゃったんだ」
あかねは、そんな俺のよこしまな考えを更に打ち消すような一言を続けた。
「へ…?」
「だって、せっかく乱馬と二人で一晩過ごせるのよ?だったら、その日を忘れないような強い思いでも欲しいじゃない。
  夜の海を二人で散歩した事とかって何度かあったけど、夜明けの海を二人で歩いた事なんて…なかったから」
あかねはそういって、俺の目をじっと見つめる。
「それに…せっかくその…初めてなのに、始発までっていう時間を気にしながらそういうトコ入るのは、嫌なんだもん」
「…」
俺は、あかねのその言葉を聞いて、ドキッとしてしまった。
そして、俺の一歩も二歩も先をちゃんと考えてたあかねに驚きつつも、ちょっと反省する。
…たしかに。
始発まであと何時間だから…とか何とか、おまけに最後あわただしく駅に向わなくちゃならないとかなったら…確かに、嫌だよな。
俺は目先の事しか考えてなかったけど、あかねの奴はそんなことまで考えてたのか。
そうだよな。
俺だって、どうせそうなるならあかねとゆっくり過ごしたいしなあ…。
…ん?
でもちょっと待て。
それってつまり、もしも時間の余裕があって、こうゆうシチュエーションだったら、俺とそんな関係になってもいいってコトか?
そ、そうだよな?!
安易に、あかねはそういってんだよな?
「…じゃあ、今日の続きは、今度二人きりになった夜に。ゆっくりと」
俺が思い切ってあかねにそういってみると、
「…うん」
あかねは、顔を赤くしたまま、頷いた。
(約束だぞ!!)
…本当は小躍りしたいくらい嬉しい気持ちでいっぱいだった俺。
でもそこはぐっと堪えて、
「それじゃ今日は、夜明けの海でも堪能するか。お子ちゃまなあかねがせっかく夜通し起きてるってのも、考えてみりゃ珍しいしな」
そういって、あかねの顔を見て、笑った。
「お、お子ちゃまって何よ!」
「お子ちゃまだろー?夜は早くからいつも眠そうな顔してるし」
「してないもんッ」
あかねはそういって、またムーっと頬を膨らましている。
「そういう顔するのも、お子ちゃまの証拠」
俺は、そんなあかねの膨らんだ頬に、パクッと噛み付いてみた。
「ひゃあッ」
あかねは変な声をあげて、俺に噛み付かれた頬を押さえ、
「もう!」
と、また真っ赤になりながら怒っていた。
が、
「…乱馬、そろそろ波打ち際に戻ろう。たぶんそろそろ…」
ひとしきり起こった後、ふと真面目な顔に戻ってそういうと、俺に合図をした。
「そろそろ日が昇るんじゃない?」あかねはそう言おうとしているようだ。
俺は「そうだな」と返事をして、あかねから離れた。
そして立ち上がると、あかねに手を引かれるようにまた先ほどの波打ち際へと歩いていった。
…すると。

「わあ!」
「おお!」

…波打ち際にたどり着いた俺とあかねは思わず、そんな言葉を叫んでしまった。
いや、叫んでしまったのではない。
叫ばずにはいられなかったのかもしれない。


俺たちがここへやって来たときには、まるで何人をも寄せ付けないかのような雰囲気を醸し出していた「夜」の海。
やってくるもの全てを拒絶し、そしてそれでもなお強引にその暗い「夜の闇」に入って来よう物がいるならば、引きずりこんでしまおう…そんな雰囲気さえ読み取れそうだった「夜」の海。
それが今は、遥か遠くに真っ直ぐ伸びている水平線から覗く朝日が、この海へ向ってくる全てのものを受け入れようとしているような…温かい「光」を照らし出していた。
自らやってくるのなら、迎え入れよう。そして温かく「光」を持って照らし出してあげよう…そんな雰囲気さえ、感じ取る事が出来た。
完全に日が昇りきっていないため、まだ海の色自体は紺碧に見えるが、そこに徐々に映え出したオレンジ色の朝日と、徐々に色を変化させていく紺碧の海のグラデーションが、今まで見たことのない幻想的な空間を描いていた。

「綺麗…」

…そんな海を見ながら、あかねが、俺の隣でぼそっと呟いた。
「ああ…」
俺も、そんな海を眺めつつ…半分は、俺の横でボーっと海を眺めているあかねにも、目を奪われている。
徐々に昇り始めた朝日に照らし出されるあかねの横顔も、目の前に広がる幻想的な光景に負けず劣らず…魅力的だ。
はっきり言って、あかねはいつだって可愛い。
だけど、こうやって朝日に照らし出されて自然な笑顔を浮かべているあかねは…いつも以上にもっと可愛いと思う。
せっかくの二人っきりの夜にお預けになっちまったのは残念だったけど、
でも、こんな風に思わず目を奪われるほど可愛いと思えるあかねの笑顔を見れたんだから…それで今回は良しとしようか。
あかねと二人で、夜明けの海を並んで見ることが出来て、あかねの笑顔を俺がこうやってこっそりと独り占めすることが出来たから、今回はそれで満足しとこう。
「次」の約束も出来たしな。

「…ね?乱馬。夜明けの海、来てよかったでしょ!?」
俺がそんなことを考えていると、 今までずっと海を見ていたあかねが、俺の袖をひっぱいながらふいにそう言った。
「ああ」
「こんなに綺麗な海を二人で見れたこと、あたし絶対に忘れないから」
そして、そういうと嬉しそうに…笑った。
俺はそんなあかねを思わず抱きしめながら、
「俺だって忘れねえよ。…あかねが眠そうな目をしょぼしょぼさせながら海を見てたってコト」
そう意地悪く言ってやると、
「もう!しょぼしょぼなんてしてないもん!大きな目を、こーんなにカッと見開いてッ見てました!」
あかねは意地になって目を大きく見開いたりして俺に抵抗する。
「あー、無理無理。そんなことしてもトロンとした目は隠せねえよ」
「何ですってー!?」
…俺とあかねはしばらくそんなやり取りをしていて、
「…バーか」
「うるせーよ」
そのうち、そんなことを言いながら顔を合わせ、笑った。
そして、
「じゃ、もう一つ思い出を…」
俺がそういうと、
「うん」
あかねはそういって、嬉しそうに目を閉じた。
俺はそんなあかねの唇にそっと自分の唇を重ねると、そのままぎゅっとあかねを強く抱きしめた。


初めて家の外で過ごした、二人きりの夜。
初めて家の外で向かえた、二人きりの朝。
俺達の思い出に残った「忘れえぬもの」。
それは、一人で焦ってた情けない俺の姿と、波打ち際ではしゃいでたあかねの姿と、幻想的な夜明けの海と、



…そして、朝日に照らされながら交わした、キスの味。

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