【らんま1/2の二次創作小説サイト】| INFORMATION | NOVELS |BOOKMARKS |CONTACTS | HOME |web拍手

ドキドキ

「乱馬ー、夕ごはんだよー・・・」



ある日の夕方のこと。
夕食の時間になっても居間に現れない乱馬を道場まで呼びに来たあたしは、中で修行をしているはずの乱馬に向かって、入口でそう呼びかけた。

・・・乱馬は、稽古に夢中になると大好きなご飯の時間も忘れてしまうことがある。
学校では、こと勉強に対して恐ろしいくらい集中力も興味もない乱馬。
でも、武術の修行や稽古に関しては、そんな様子を微塵も感じさせない。
数学の数式を説くのは苦手でも、格闘技の技の連鎖や駆引きを考えるのは得意な乱馬。
そんな風に両極端じゃなくて、半分半分だったら釣り合いが取れるのに。
文武両道、でもそうであったら乱馬が乱馬じゃないような?
そうよね、数学が得意ですらすらと公式を解いている乱馬なんて、逆立ちしたって想像することが出来ないわ。
あたしはこっそりとそんなことを考えてみる。

それにしても。

「ねー、ごはんだってばー・・・」
今日に関しては、一度呼んだだけでは乱馬の奴、返事すらしない。
仕方がないのであたしは、中にいるはずの乱馬をもう一度、呼んでみた。が、また応答がない。
「?」
どうしたのだろう。もしや、道場以外の場所で稽古、しているとか?
・・・あたしが不思議に思いながら道場の戸をがらりと開けると、

「やだ・・・寝てるんじゃないの」

広い道場の、真ん中。板の間の中央に、大きな身体を大の字にでーんと広げて乱馬が倒れていた。
耳を澄ますと、微かに寝息も聞こえる。どうやら、ハードな稽古のせいで、稽古後そのまま眠り込んでしまったようだ。
稽古の後そのまま眠っているという事は、もちろん汗をぐっしょりと掻いたそのままの服装で眠っているというわけで、
「もう、風邪引くよ?乱馬、乱馬ったら!」
上昇した体温が時がたつと同時に下がっていくように、稽古終了後は生暖かかった洋服だって、汗を含んだまま時間が立てば、ヒンヤリと冷たくなる事は必須。
しかも時刻は夕方だ。春先といえど、濡れた服を身に纏っている事が身体に悪い事ぐらい、子どもにだって分る事。
「乱馬ー・・・風邪引くよー・・・」
なんとかは風邪を引かない、とは良く言うけれど、わりと時々は熱とか風邪で体調を崩す乱馬。
このまま放っておけば、間違いなく風邪を引いてしまうだろうに。
「ねー、起きなよー・ ・・」
そろそろと乱馬に近寄り、側に腰を下ろしたあたし。
とりあえず彼を起こそうと、横たえているその身体を何度も揺さぶってやった。
・・・ふわり、と生暖かい体温があたしの手を伝わってきた。
修行で火照った身体は、こうして触れているだけで、あたしまで温かくしてしまう。
熱い身体と、冷えた服。
ああ、早く起こしてあげないと、風邪を引いてしまうのに・・・。

「・・・」

頭では、あたしも分っていた。
だからこうして起こしてやろうと身体に触れている。
でも・・・何故だろう。
起こしてあげないと。そう思って身体に触れていたはずなのに、何故かだんだん揺さぶる事を忘れ、その身体に触れているだけというか、
いつの間にかあたしは、乱馬を起こす為にその身体に触れているのではなく、

「・・・」

ぺた、ぺた、ぺた。
・・・あたしは、この身体に触りたくて触れている。
この、火照った温度を感じたくて触れている。
汗で少し湿って、やんわりとした肌を感じたくて触れているというか・・・何だか妙な感じだった。

「・・・」

ペタ、ペタ、ペタ・・・

「・・・」

やがてあたしは、風邪を引いてしまうかもしれない乱馬を起こす事は二の次。
ただただ、その柔らかい肌に触れているだけになった。


・・・必要以上に、乱馬の顔を触ってみる。
ほんのりと、赤い頬。
人差し指で押すと、ふっくりと弾力を感じる肌。
うっすらと汗のにじむ額。
割と整った鼻筋、意外と長い睫毛。
普段は嫌ってほど見慣れているし、肌が触れ合うほど近くで見ているというのに、


「・・・」
・・・それらを見つめ触れたあたしは、ドキドキと妙に胸を鼓動させていた。


何でかしら。ただ触れているだけなのに、何でこんなにドキドキとするんだろう?
自分に問い掛けてみるも、その理由はわからない。

「・・・」

・・・いつもはあたしをからかって遊ぶために、あたしよりも絶対に遅くまで起きている乱馬。
その乱馬が、あたしの目の前で無防備に、寝ているから?
でも、それだけで?

「・・・」

あたしは、無防備に眠っている乱馬の唇に、すっと指で触れてみる。
ちょっと押すと、ふんわりと沈んでまた膨らんで。
頬や身体ほどの温度は無いけれど、その代り少しだけしっとりと・ ・・潤いを持っているというか。

「・・・」

この唇にいつも弄ばれているのかと思うと、あたしは何だか不思議で仕方がない。

「・・・」

・・・いつも弄ばれているんだもん、
たとえ「遊ぶ」の意味が違えども、寝ている間くらいはあたしが、遊んでやらなくちゃ。
あたしはそんなことを呟きながら、そのままその唇を指で触れて遊ぶ。
ぷくぷく、している。
押して、離して、押して、離して・・・ちょっと長く押してパッと指を離すと、緩やかに元通りになる艶やかな唇。
何だか、そこだけ別の生き物が生息しているかのようだ。
「・・・」
でも、さすがにこんなことをして遊んでいたら乱馬だって起きるかもしれない。
ふに・・・と、今度は少し遠慮がちに唇を押して様子を見るも、

「・・・」

不思議な事に、乱馬は全く起きる気配がない。
規則正しい呼吸と、指先からジンワリと伝わる温度だけが妙にリアルだ。

「・・・おーい、狼少年やーい」
答えないとは分っていても、思わずそんな風に呼んでみたりして。
でも結局は答えが返ってこなくて、あたしの声が虚しく、道場に響いた。

「・・・」

・・・何だか、変な感じだった。
起きない乱馬と、その乱馬で遊んでいるあたし。
反応がないと分っているのに、不思議と指を離せない、あたし。
と、そんなことを続けている内に。


・・・
・・・・・・
・・・・・・もっと、触っちゃおうかな。


あ たしの中に、妙ないたずら心が芽生えた。
指で触れているだけでは何だか物足りなくなって、
もっともっとたくさん、触れてみようと、思った。
そう、例えば指でじゃなくて、唇で、とか・・・?

「・・・」

・・・
・・・あたしが自分から、乱馬にキスをすることなんて滅多にない。
それは別にキスをしたくないとかそう言うんじゃなくて、単なる恥かしさとか照れだとか、そう言う理由。
目を閉じているとはいえ、起きていると分っている乱馬に自分から顔を近付けるなんて・・・なんて。
何度もキスはしているのに、「される」のは慣れても「する」 のは慣れないあたしだ。
でも、こうやって寝ているんだったら平気かなあ・・・
・・・

「・・・」

あたしは、それまでぷくぷくと唇を突付いていた指を離した。
そしてふと、乱馬の顔を上から真っ直ぐに見下ろして見る。
・・・鼻立ちのすっと通った、整った顔だ。率直にそう感じた。
「・・・」
あたしは、いつも自分がされるのと同じように、乱馬の整った顔に手で触れて頬を撫でてみた。
掌一杯に、ふんわりと人肌の温もりが広がった。

「・・・」

あたしはそのまま、ちょっとだけ・・・乱馬に顔を近づけてみた。
乱馬の健やかな息を、鼻先で感じた。
規則正しいリズム。うん、ちゃんと眠っているな・・・あたしはそこで再度、確認をする。

「・・・」

・・・どうしようかしら。
鼻がくっ付きそうなくらい顔を近付けているのに起きないという事は、きっとこのまま唇を奪ってしまっても、乱馬は起きなさそうな感じだ。
ああ、眠っていると分っていても何だか緊張してしまう。
でも、こんなチャンスは滅多にないし。
・・・

「・・・」
あたしは、乱馬に顔を近付けたままそんなことをグルグルと考えていた。


・・・どうしよう。どうしよう、どうしよう。
でも、こんなチャンスは滅多にないし、
それに誰も見てないし・・・
・・・



心の中は、まだ迷っていた。
でも、なんとか気持ちに踏ん切りをつけて、あたしは先程よりももう少し、乱馬に顔を近付けた。
先程まで存分に触れていた唇の気配を、間近に感じた。
健やかな息が、触れてもいないのに近づいているあたしの唇の中へと飛び込んでくるかのようだ。

ドクン、ドクン・・・

胸が急に、鼓動した。

ドクン、ドクン・・・ドクン

「・・・」

胸の鼓動が、あたしの呼吸を乱そうとしていた。あたしはあわてて深呼吸をして、改めて乱馬に顔を近付ける。
そして、

「・・・」

そのままゆっくりと唇近づけ・・・呼吸をするために少し開いているその唇に、自分の唇を重ねてみた。
しっとりと潤って、確実に自分のものでは無い別の体温と呼吸を、ダイレクトにあたしは自分の唇から感じ取っていた。
相手の呼吸を、唇から奪い取る。
乱馬の温度が、唇を重ねながらあたしに、ジワジワと伝わってくる・・・柔らかな感触と共に。
・・・
・・・別に今日が初めてのキスというわけでもないのに、異常に胸がドキドキしていた。
すごく柔らかくて、ぬくい感触が唇から伝わってくる。
ちょっとだけ強く押し付けてみたら、押し付けた分だけ弾力で、あたしの唇は押し返されてきた。
今更だけどそれで、あたしは乱馬と今、キスをしているんだな、なんて感じた。
と、その内、
「ん・・・」
キスをして塞いでいる乱馬の唇から、吐息交じりのそんな声が洩れた。
「っ・・・」
その声に、あたしはハッと正気に戻った。
いつの間にか夢中になって唇を重ねていたあたし、
あまりにも夢中になりすぎて、そして遊びすぎていて、乱馬の呼吸を奪っている事、忘れていた。
・・・もしかしたら乱馬、キスをしている時間が長すぎて、息が出来なくて苦しくなったのかもしれない。
だから今、声を?

「・・・」
やだ、もしかしたら起きちゃうかも・・・
・・・

「・・・」

乱馬が寝ているから、何とかこうしてキスをすることが出来たけど、
この状態で目覚められてしまったら・・・何とも気恥ずかしいというか、照れてしまう。
あたしは慌てて乱馬から離れると、そのまま逃げるように道場を飛び出した。
そして、

・・・奪っちゃった。
奪っちゃった、あたし。
あたし、乱馬からキスを、奪っちゃったんだっ・・・
今更ながら、そんな思いが込み上げてきた。

気がついたら、一度落ち着いていたはずの胸の鼓動がまた、ドクン、ドクンと大きくなっていた。
普段は奪われっぱなしのあたしでも、自分が奪う方になったらこんなに動揺するなんて。何だか妙な気分だ。
「・・・」
・・・ちょっと、大胆だったかなあ?
寝ているとはいえ、あたしから乱馬にキスをしちゃうなんて。
眠っているあの整った顔に、あたしは・・・
・・・
「・・・」
先ほどのキスシーンが、頭の中でフラッシュバックしている。
かーっと頭に血が上っていくような気がして、あたしは慌てて自分の顔を両手で包み込む。
・・・ものすごく、熱かった。
「・・・」
ああ、あたしってば。何であんな、大胆なことしちゃったんだろう。
唇に指で触れていただけで、あんな妙な気分になるなんて。
何で?何で?欲求不満、とかじゃない・・・よね?違うよね?
「・・・っ」
ぷるぷる、と頭を振りながら、あたしはそんな事まで考える。
おかげで、

「あかねちゃん、乱馬君呼んできてくれた?」
「あ、あの・・・まだご飯いいみたい・・・」
「あら、そう・・・珍しいのね」

・・そう。
あたしが本来道場の乱馬の元へ向かった理由は、別にキスを奪いに行ったわけでは無い。
お姉ちゃんに頼まれて、ご飯だよと呼びに行ったのだ。
当初の目的を忘れていたあたしは、みんなのいる居間へと戻ったはいいけれど、
そんなことを言ってとぼける羽目になる始末だった。

・・・でも。

言えない。いや、こんなこと誰にも言えない。
『ご飯だよって乱馬を呼びに言ったのに、何だか変な気分になって、寝ている乱馬からキス、奪っちゃったのよ』
そんなこと、他の人には絶対に言えない。
秘密よ、秘密。
そう、これはあたしだけの、秘密。
眠っている乱馬の唇を奪っちゃった事は、あたしだけの秘密。
この事は、あたしの胸の中にしまっておこう。
・・・
「あら?あかねちゃん顔が赤いけれど・・・大丈夫?」
「えっ、あ、ちょっと暑くて・・・あはははは・・・」
・・・他の家族に気が付かれないように、
未だ火照っている顔を抑えながら、あたしはそんなことを思っていた。





もちろんそんなたしは、
「・・・あーあ、奪われちゃった」
あたしが出て行った後の道場の中で、
実はとっくに目を覚まし寝たフリを続けていただけの乱馬が、 そんなことを呟きながらにやりと笑っていたことなど、知る由も無かった。


RUMIC'S NOVELS LINK

パラレル
糖度2
糖度3
糖度4
糖度5
企画

OTHER CONTENTS

■オリジナル作品(外部サイト)
お仕事情報

THANKS!

TOTAL: HITS(Y:)