【らんま1/2の二次創作小説サイト】| INFORMATION | NOVELS |BOOKMARKS |CONTACTS | HOME |web拍手

初めての夜

ボーン…
ボーン…


静まり返った薄暗い家の中に、柱時計が時を告げる音が響いていた。
現在、午前二時。草木も眠る丑三つ時だ。
あかねがいつも寝ている二階の部屋には、こんな風に居間の柱時計の音が聞こえることなどない。
しかし、今夜のあかねの耳にははっきりとその音が聞こえている。
それは何故か。
それは…今日はあかねが、乱馬が普段使う部屋へと「泊まり」に来ているからである。
同じ家に住んでいるのに「泊まり」という表現はいささか不自然であるが、ことこの件に関しては、あながち間違った表現ではない。
というのも、あかねにとってこの和室で眠ることは、全くの未知の領域での出来事だからである。
同じ家の中でも、この部屋では全く別の家族が生活しているのだ。
しかも普段は、自分の彼の家族が、この部屋を使っている。
そんな状況下では、用があって立ち寄るだけならばともかく、ここで彼と一緒に枕を並べて眠る…いや、それ以上のことをするなんて、出来るわけがな いのだ。
目覚し時計の位置、タンスの場所。
ドライヤーの位置、文机の場所。
何度も訪れているわけだし、元は自分の家。部屋の造りも家具の配置も、あかねは知りつくしているはずだった。
しかしそれでも、こうして夜中に目を覚ましいざ周りを見回してみると…まるでそこは、「初めて訪れた彼の部屋」のような感覚。
居間の柱時計の音も、枕もとの目覚し時計の音も、やけにあかねに耳には飛び込んできた。
全てが、「初めて」のような感覚だった…もちろん実際は全然そうでないのだが。

「…」
そんな状況下で、あかねは目を覚ました。
そして、自分の身体へ回されている太くて重い腕をそっとどかす。
もちろんこの腕は、乱馬のものだった。
「…」
あかねは身体を起こし、隣で眠っている乱馬を見下ろした。
…二人で旅行とかに行って夜を過ごす場合は、こんな感じなのか。
あかねはふと、そんな事を思った。
いや、旅行になど行ったことがないからよくはわからないのだが、
枕が変わってもあまりドキドキしないが、部屋がかわるとこんなにも胸が高鳴って落ち着かないのか。
あかねはそんなことを思いながら、眠っている乱馬の頭を撫でた。
そして、今夜このようになったいきさつをぼんやりと、暗闇の中で振り返っていた。



今日、こうしてこの部屋で眠ろう、と乱馬に提案したのはあかねだった。
勿論これには乱馬も、「珍しいなあ」と驚いていたようだが、それに対して「嫌だ」といういわれは無論何もない。
「ふーん…まあ、たまにはいいか。お袋や親父がいたら、一緒には寝れねえしなあ」
乱馬も、あかねと同じことを思ったのだろう。そんなこと言いながらあかねの提案を飲んだのだった。
「えへへ…そうだよね」
あかねが嬉しそうに微笑むと、
「でも、俺の部屋には冷暖房設備はねえから。扇風機だし」
「平気よ、クーラーよりも扇風機の方が、暑さには良いみたいだし。それに、逆に夜中、窓を開けていたら肌寒いかもしれないけれど」
「それそれ。寒い時は、覚悟してくれ」
「え?覚悟しなくちゃいけないくらい寒いわけ?」
「そうじゃなくて。暖房かわりに俺が目一杯、温めてやるってこと」
「…」
なぜか最後にはそう言って、乱馬はにやりと笑いながらあかねを見つめた。
その笑顔があまりにも明るく、そして嬉しそうなのをみて、あかねは一瞬提案した事を後悔しなかったわけでもないのだが、
「…ほどほどにね」
「あー、でも俺、限度ってしらねえから」
「あんたって人は…」
後悔した所で、今更乱馬が思いとどまるわけでもない。あかねはこっそりと心の中でため息をつきつつも、乱馬と二人、和室へと移動した。
そして、
「乱馬、お蒲団に敷くシーツは?」
「シーツは、押し入れの下の段」
「わかった」
寝るためには、まずは蒲団を敷かなくてはいけない。
普段ベッドで眠っているあかねにとっては、たかが蒲団を畳に敷く作業とは言えどなんだか新鮮だった。
「よいしょっ…と」
乱馬に指示されたとおりにシーツを取り出し、二人分の蒲団を押し入れから引っ張り出しあかねがとこの準備をしていると、
「んー…こう考えるとベッドの方が楽だな」
蒲団を畳に敷くために、四つん這い姿になっているあかねに、それまであかねが蒲団を敷く姿をぼーっと眺めていた乱馬が、そんな事を言いながら抱き ついてきた。
「ちょっ…まだだめだってば」
抱きつかれると、乱馬の息があかねの首筋にかかりくすぐったいのだ。
ビクッ…と身をすくめ、あかねが慌てて乱馬を引き剥がそうと振り替えると、
「じゃあ、いつならいいの?」
そんなあかねに対し、乱馬はそう言いながらあかねの無防備な唇を、奪ってしまった。
「んっ…」
まさに、不意打ち。なのに、柔らかくて熱い。
強引だし、隙あらば抱きついてくるし、こうやってキスは不意打ち。
でも、乱馬のキスはなんだかとっても「優しい」。
「…」
家族が留守の日なんて、特に、だ。
あかねは、そんな優しいキスに身体中の力を根こそぎ奪われてしまった。そして、それまで四つん這いだった体位さえも崩して蒲団に膝をかくん、と着き そうになると
「…捕獲」
そうなるのを、待っていたのだろうか。乱馬は体制を崩したあかねの身体をさっと抱え、ゴロン、と蒲団の上に仰向けに寝転がった。
寝転がった体の上には、もちろんあかねがちょこんと乗せられている。
あかねよりも、一回りも体が大きい乱馬。そんな二人がそろって仰向けに転がっているのだ。
なんだかこれでは、まるで袋のないカンガルーの親子のような…妙な光景だ。

「もー…。なによこの格好」
乱馬の体の上に乗っかったまま、あかねがごちん、と下にいる乱馬の顎に頭をぶつけてやると、
「さー、捕まえた獲物はどうしようかな」
そんなあかねの攻撃などもろともせず、乱馬は意地悪い声で笑いながら、あかねの身体に手を回して軽く揺さぶった。
そんな乱馬に対し、
「大体何よ、『獲物』って」
「獲物はエモノなんだからしょうがないだろー」
「もー」
あかね唇を尖らせながらそういうも、
「獲物なんて失礼でしょ。どうせだったら、もっと可愛げがある表現してよね」
自分を捕まえていた乱馬の腕から逃れ、寝転んでいる乱馬を見おろすように、彼の身体の上に四つん這いになった。
そして、
「可愛げがある表現ねー。例えば?」
そう言って意地悪く笑う乱馬に、
「わん」
あかねは、犬の鳴きまねをして、寝転がっている乱馬の胸にぺたっと顔をつけてやった。
ネコ嫌いの乱馬の為に、とりあえずは犬ぐらいにしてよね、と主張したつもりだったのだが、
「困ったな」
乱馬が、ぺったりとくっついたあかねに対して一言そう呟いた。
「何が困ったのよ」
あかねが乱馬に尋ねると、
「せっかくの獲物だって…あんまり可愛いと、すぐに食べたくなるんだよなあ」
「え?…あっ」
ヒョイっ…あかねはがっしりと肩を捕まえられると、そのまま身体をひっくり返され、逆に乱馬に上から見下ろされるように押さえつけられてしまった。
「っ」
…こうなると、ついさっきまではあかねが乱馬を見下ろしていたのに、今では乱馬が、あかねを意地悪そうな笑顔で見下ろしている。
さっきまでは「獲物」と言う表現があまりピンとこなかったが、こうして乱馬に身体を抑えられながら見下ろされると、なんだか本当に自分が「獲物」として
掴まってしまったような…そんな気分に陥る。
乱馬の長いおさげが、仰向けに寝転んでいるあかねの首筋にするりと触れた。
ビクっ…あかねは小さく身を竦めた。
「俺、取り置きできないタイプみてえだ」
乱馬は、いたずらっこのように笑いながら、あかねの頬に手で触れた。
更に親指でわざと、あかねの少し開いている唇に触れてあかねに軽く噛ませたりして。
「…」
あかねはきゅっと前歯でその指を強めに噛んでやると、
「あーあ。悪い人に捕まっちゃったわ」
そう言って、口では悪態を吐きつつも乱馬の背中にゆっくりと手を回した。
「でも、たくさん食べてもらえるけど?」
「太るわよ」
「こういう太り方なら大歓迎」
乱馬はにいっと笑うと、あかねにゆっくりと顔を近付けるべくその距離を縮めたのだった。



「…」
あかねは、もう一度薄暗い部屋の中を見下ろした。
見慣れた障子、見慣れた天井。
見慣れた家具に見慣れた蒲団。そして横には乱馬。
いつもある光景だけれど、でもこれを味わう機会はあかねには殆どない。
「…」
滅多に味わう事が出来ないこの状況下、なんだか胸がドキドキしてよくは眠る事は出来ないけれど、それでもたまには新鮮でいいかもしれない。
「…」
…ああ、もしかしたら。乱馬も初めてあかねの部屋に泊まりに来た夜はこんな事を思ったのだろうか。
あかねはそんなことを思いながら、心なしかいつもより胸の鼓動は早いような気もするが、気持ちよさそうに眠っている乱馬の胸に擦り寄るようにして、再び眠りについたのだった。

RUMIC'S NOVELS LINK

パラレル
糖度2
糖度3
糖度4
糖度5
企画

OTHER CONTENTS

■オリジナル作品(外部サイト)
お仕事情報

THANKS!

TOTAL: HITS(Y:)