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タイミング

「え?ハチマキ交換・・・?」
「そ。何でも体育祭が終わるまでに、彼氏と彼女がそれぞれの色のハチマキを交換するんだって。で、その後のイベントに参加するっていうのが、昔からの慣わしなんだってー」


秋も深まり始めたある日のこと。
いよいよ明日に体育祭を控えたという日の夜、居間で明日自分が使うハチマキにアイロンがけをしていたあたしに、なびきお姉ちゃんが話しかけてきた。
あたし達が体育祭で使うハチマキの色は二色。男子が青で、女子が赤。
体育祭は学年で「白」「緑」「黄色」と色分けされているので、ハチマキの色とは関係ないんだけど、
青と赤で男女が分かれている為、色を入替えてハチマキをしていると、それなりに目だって見えることは確かだ。
彼氏・彼女が居る人々にしてみれば、それなりの自慢にもそれなりのステータスにも、そしてそれなりの牽制にもなるってわけ。
とはいえ・・・なびきお姉ちゃんは、本当にどこでそういう情報を集めてくるのか不思議に思えるほど、うちの学校の情報に精通している。
しかも、表事情だけじゃなくて裏事情もだけど。
・・・
「体育祭が終わった後って、すぐ帰っていいんじゃないの?」
「あんた、何中学生みたいなこと言ってんのよ。高校生にとって学園祭って言うのはね、いわゆる一般で言うクリスマス・バレンタインと同レベルの大きな行事じゃないの」
「そ、そんなものなの・・・?」
そんな大げさな。あたしが怪訝そうな表情をすると、
「そういうものなのよ。だから、明日の体育祭も、明後日の文化祭も、高校生にとっては重大なイベントひとつね」
なびきお姉ちゃんはそういって、あたしがアイロンを掛けていたハチマキを、ふわりと指で掬い取りながらそういった。
とはいえ、凡そそれに絡む恋愛ごとなどに全く関係のないお姉ちゃんに言われてもあまり説得力がない。
「で?あかねは勿論、乱馬君と交換するんでしょ?」
そんなお姉ちゃんは、あたしのそんな印象などもろともせず、引き続きそんな質問をする。
「え?いや、別に・・・」
あたしは、そんなお姉ちゃんの質問に少し言葉を濁した。
・・・そりゃあ?
以前と少し状況が変わって、あたしは乱馬と「ちゃんと」付き合っている。
今まで見たいに、「許婚だけど恋人じゃない」っていう、中途半端な関係でもない。
でもだからといって、皆に「あたし達付き合ってます」って、公に言って回っているわけでもない。
だから、
いや、だからってわけじゃないんだけど、
こんな風に何かのイベントだからといって、特別に何かをするっていう感覚が無い。
ただ、本音を言えば・・・こういう機会に、それとなく自然に、皆にあたし達のことが伝わればいいなあ、とは思っている。
ただでさえ、乱馬には言い寄ってくる女子が未だに多いわけだし。
本当は、あたしたちの雰囲気を感じ取って遠慮してくれればいいなあとは思うけど、
そんなことを感じ取って遠慮してくれるようなら、今までだって苦労していないわけで。
・・・
「・・・」
あたしがそんなことを思っていると、
「いい機会じゃないの。どうせ乱馬君なら、あんたが可愛くお願いでもすればすぐくれるわよ。聞いてみたら?」
いらないなら、あたしが高値で買いとってもいいわよ?あんた達のハチマキ。
なびきお姉ちゃんはそんなことを言いながら、居間を出て行った。
「・・・」
・・・確かに、言えば乱馬だってあたしにハチマキくらいくれると思うけど。
乱馬だって、もらってくれると思うし。
でも、そうすることで、皆には「あたし達が付き合っている」って、公になるってことだから・・・そういうのを乱馬が「めんどくさい」とか「恥ずかしい」とか思っているなら、断られちゃうかもなあ・・・


どうなんだろう。
今回、わりといいタイミングだと思うんだけど。
一応、聞いてみようかなあ?


「・・・」
別に、ハチマキなんか交換しなくたって俺達が付き合っているって変わりはないだろ?
・・・そんなことをいわれそうな気がしなくもない。
そう、そうなのよ。
そんな交換をしなくても、付き合っている事実に変わりはないんだけど…
「…」
でも、一旦こういうイベントの話を聞いてしまったら、気になってしまう。
あたしは、お姉ちゃんにふわふわと遊ばれたハチマキに再びアイロンを掛けながら、小さなため息をついた。


・・・でも残念なことに、結局その日は乱馬には聞けずじまいだった。
その上、乱馬には珍しく、よなよなあたしの部屋に忍び込んでくることもなかった。
しかも体育祭の実行委員であるあたしは、
当日の朝もろくに乱馬と話をすることも無いまま、一足先に学校へ行く羽目となってしまっていた。
自分でも呪いたくなるほどタイミングが悪い。



…そんなこんなで乱馬とろくに話も出来ないままのあたしは、朝から実行委員としてバタバタとしているわけなんだけど、
そうこうしているうちに、体育祭のスタート時間も間近となり、
「あかねー!そっちの準備終わった?そろそろ皆来るから戻らないと」
「あ、ま、待って・・・」
…あたしは、別のクラスの実行委員の子に急かされながら、グランドの隅を走り抜けて場所移動をしていた。
準備も終わり、いよいよ体育祭スタート。
でもその前に、各クラス席で担任によるHRを行うのだ。実行委員も一応はそれに参加しなくてはいけない。
それゆえ、あたしは今の今まで、バタバタとしている。
「…」
走りながら辺りへ目をやると、
グランドにはもう、様々な学年の生徒達が集まり始めていた。
もちろん皆、青や赤のハチマキを巻いている。
一部、もうすでに自分の性別とは異なるハチマキをしている生徒も居た。
なびきお姉ちゃんが言っていた通り、その人には彼氏や彼女が居るっていう目印となっているのは間違いない。
「・・・」
・・・早いなあ。まだ体育祭始まる前なのに。あたしはそんなことを考える。
あ、もしかしてもう昨日の内に、交換しちゃってたのかなあ?
もしくは今朝一緒に登校する際に、とか?
ちょっと、羨ましいなあ…あたし、結局は乱馬に話すことも出来なかったし。
ハチマキの色が変わったところで、それ自体はたいしたことないんだけど、
それでもなんだかちょっと、どこか羨ましくもあるんだよねえ…。
「…」
あたしは思わず立ち止まり、色違いのハチマキをしている生徒をじっと見つめた。


と。


「あかねー!」
あたし達のクラスが集まる場所から、親友のさゆりが「早く来い」と手招きをするのが見えた。
どうやら、うちのクラスのHRが始まるみたいだ。
「あ・・・」
あたしはあわてて我に返ると、さゆり達が待つクラス席のほうへと走っていった。

 


 


屋外HRが終わると、だいたい十五分程で体育祭の開会式が行われる予定だ。
実行委員のあたしは、開会式が始まる五分前までに実行委員テントへと移動しなくてはいけない。
その後は、種目別で自分が出場したり、種目の補助についたり、テントで校内放送のお手伝いをしたり・・・とろくに席に座っていること出来ない。
お昼だって、早々に食べて運営本部に行かなくてはいけない。
ということは、だ。
あたしが乱馬にハチマキの話をするならば、実行委員のテントへ向かうまでの十分間しかない。
これはなかなかタイトなスケジュールだ。
「乱馬」
あたしは早速、HRが終わると同時に、自分の席で大きな伸びをしてあくびをしていた乱馬に声をかけた。
「ん?なんだよ」
「え?あ、うん・・・ちょっと。あれ?乱馬、今日お下げじゃないの?」
見ると、今日の乱馬は、いつものお下げ髪ではなく、何故か後ろでひとつに髪を束ねているヘアスタイルだった。
別に似合わなくはないし、違和感は無いんだけど、
「体育祭だから気合でも入れてるの?」
年に一度、勉強嫌いの乱馬が唯一力をフルで発揮できるイベント。
だから、髪型も変えて気合を入れている証拠?
あたしがそんなことを尋ねると、
「あー、まあそんなとこ」
乱馬はあたしの質問に適当に答えると、
「それより、どうした?お前忙しいんだろ、今日」
乱馬は、あたしをクラス席の後ろに植えられている木の下へと連れて行き、改めてあたしに尋ねた。
「うん、えっと・・・」
何だか、改めてこう尋ねられると、少しだけ躊躇してしまう。
それに、
別に他の人に聴かれてもいいんだけど、でもなんとなく大声でお願いするのがはばかられる、不思議な感覚。
なのであたしは、乱馬にちょっと身を屈めてもらい、近づいた耳元でそっと、
「あのね、あたし・・・その、欲しいの・・・」
そう伝えた。
すると乱馬は、そんなあたしの言葉にビクンと身を震わせ、尚且つ少し驚いた表情をしつつ、
「ほ、欲しいの?」
と、あたしに問い返した。
「うん・・・体育祭が終わる前まででいいから・・・」
あたしがそう返し、そのあと「ハチマキを」と続けようとするも、
「お、終わったあとじゃだめなのか?」
乱馬は、あたしがハチマキをと続ける前に、そう呟いた。
「え?あ、ああ…それじゃだめなの。それだと遅いの…」
そう。なびきお姉ちゃん曰く、ハチマキを交換するのは体育祭が終了する前まで。
終わってしまった後に変えたところで、それは意味がないわけで。
「…だめ?」
あたしは、乱馬を見上げながらそう呟いた。すると、
「お、おう・・・そ、そうか・・・うん、そうか、その辺の事情はよくわかった」
乱馬は何故か、なんだか良くわからない応答をしつつ、何度か咳払いをした。
…わかったって、本当にわかってるのかなあ?
あたしまだ、ハチマキのこと伝えていないんだけど。
それとも、元々知っていたとか?
「ねえ乱馬、だから…」
ハチマキのことなんだけど。あたしは再び乱馬にハチマキのことを伝えようとするも、
「で、でもなあかね。とにかく、体育祭の間は我慢しろ。な?終わったらいくらでも・・・」
乱馬は再びあたしの話を遮り、咳払いをしながらそんなことを呟いた。
そして、
「大丈夫、そのあたりは俺に任せろ。な?」
「え、ちょっと・・・乱馬!?」
あたしの頭をポン、と大きな手で軽くたたくと、足早に皆の下へと戻ってしまった。

体育祭が終わった後じゃだめなのかって、どういうこと?
それじゃ、意味無いのに。
…やっぱり恥ずかしいのかなあ?だから、ハチマキはくれるけど体育祭が終わった後、なのかなあ。
「…」
これじゃ、今回はハチマキ交換なんて無理そうだな。
ちょっと、残念。
あたしはみんなのもとへ戻っていった乱馬の後姿を見つめながら、ため息をついた。


 

 


それから、あっという間に時間が過ぎていった。
実行委員のあたしは、体育祭というイベントをゆっくりと楽しむ暇もなく、慌しく時間をやり過ごしていた。
途中何度か、
「あかねくーん!!僕の愛のあかしを受け取るのだ!」
とかなんとか。やはりどこかで噂を聞きつけた九能先輩が、あたしのハチマキを狙って突撃して来たりするも、それを何とか上手く交わし、
再び九能先輩に見つからないようにしながら、往生際の悪いあたしはちらちらと、自分達のクラス席を眺めては乱馬の姿を探し、話をする機会がないかなー、とか、他の子にハチマキをとられていないかなーとか・・・そんな観察をしていた。
けれど乱馬は乱馬で体育祭は引っ張りだこ。
それこそ、長い間ひとつの場所にとどまっていることもなく、移動ばかりしていた。
途中、クラス席に戻ってきた乱馬に右京が駆け寄り、
その腕にすがって何かをねだっているようなシーンを目にすることがあった。
「・・・」
・・・もしかして、右京も噂を聞いてハチマキを欲しがっているのかな。
その光景は目にしていても、その場所に駆けていってそれを防ぐことが出来ない。なんとももどかしかった。
あたしと違って積極的な右京なら、何も知らない乱馬からうまい事ハチマキ、もらっちゃいそうな気がするし・・・。
「・・・」
そんな光景を、数えて三回ほど目にした頃。
いよいよ体育祭も終わりに近づき、種目は最終種目の三年生のクラス別対抗リレーへと移っていた。


ああ、とうとう乱馬からもらうことが出来なかった。
こんな日に実行委員というのも間が悪いというかなんと言うか。


あたしは、そんなことを思いながら、未練がましくまた自分達のクラス席へと目をやった。
が。
「あ、あれ・・・?」
今までそこに居たはずの乱馬の姿が見えなくなっていた。
もう最終種目だし、残すは閉会式のみ。一体どこへ行ってしまったというのか。
しかも、その近くには、右京の姿も・・・ない。
たまたま?それとも、必然?


「・・・」
・・・どうしたんだろう。どこへ行ったのかな・・・。


あたしは思わず、グランドの端から端を見渡して乱馬の姿を探す。
が、見当たらない。
「・・・」
別に乱馬のことを疑うとか信用していないわけじゃないけど、
乱馬のことを好きな女の子と同じタイミングで姿を消されると、ちょっと心配になる。
ハチマキの件もあるし。
「…」
本当はすぐに探しに行きたいけれど、悲しいかな生真面目な性格と実行委員の性。
そうそう、待機中のテントから離れるわけにもいかない。
…ああ、もう本当にタイミングが悪い。
あたしはそっとため息をついてしまった。


と、その時。


「天道さん!」
実行委員のテントの中で一人気落ちしているあたしに、名前も知らない男子生徒が声をかけてきた。
体育着についているゼッケンを見ると、おそらく二年生。なびきお姉ちゃんと同じ学年だ。
「はい。何か…?」
周りの実行委員は皆、現在進行中の三年生のクラス別対抗リレーの応援で夢中。
だから、あたしがこうして誰かに話しかけられていることなど、だれも気にも留めていない。
もしかしたら、この人はそのタイミングをわざと狙ってきたのかもしれない。
このタイミングを狙うとは、意外とこの人、したたかかも。
あたしはこっそりとそんなことを思う。
「急に話しかけてごめん。でも俺、ずっと天道さんのこと気になっていて、話しかけるチャンスを狙ってて…」
その男子生徒は、あたしの思惑なんて関係なく、さっそく周りのことなど気にもせずあたしに話しかけてきた。
「あ、はあ…」
とはいえ、突然そんなことを言われても困るし、本心からするとあたしは今、それどころではない。
でも無碍に無視するわけにもいかないし、あたしは仕方なくその人の話を聞く。
「天道さん、いつも早乙女と一緒にいるし、許婚だって聞いてたから…でも、別に付き合っているってわけじゃないんだよね?」
「え?」
「他の奴らもそんな事噂してたし。だから、俺にもチャンスあるかもって思って。九能もまだ来てないみたいだから、先に天道さんにお願いに来たんだ」
その男子生徒はそう言って、あたしの方へ一歩、近寄る。
「お、お願いってなんでしょうか…」
本当は、「いえ、あたしは乱馬とちゃんと付き合ってます」…そうすぐに返してやりたいのだけど、とりあえず、距離感を保つのが先。
とりあえず一歩近づかれたので一歩後ろに下がりながら、あたしは男子生徒に問い返した。
すると、
「天道さんのハチマキ、俺にくれないかな?もうすぐ体育祭が終わるのに誰とも交換してないってことは、誰ともまだ付き合っていないってことだろ?」
男子生徒はそう言って、あたしが頭に巻いたままの赤いハチマキを指差した。
「…」
…違うもん。
本当は朝から、乱馬に交換してってお願いしようとしていたんだもん。でもなんかタイミングが合わなくて、できてないだけだもん。
「えっと…」
でも、断るのはともかくとして、どこから説明すればいいの?
まずは、あたしが乱馬とちゃんと付き合っているってことから、かなあ。
こんな、名前も知らない男子生徒が、あたしたちの仲を皆に公表する記念すべき第一号なのか。
信じてもらえるかなあ。

でも、言わなければ始まらないし。
「えっと…」
あたしは、頭の中で言いたいことを整理しながら、その男子生徒へと説明を始めようと口を開こうとした。


と、その時だった。


「あー、困った困った」
何だか聞き覚えのある、そして妙に芝居がかった声がして、誰かがあたしたちのいる実行委員テントへと入ってきた。
この声は、乱馬だ。
乱馬は何故か、後ろで一つに縛っている自分の髪を手で押さえている。
「乱馬!あんたどこに行って…」
あたしは、男子生徒そっちのけで乱馬に話しかける。
男子生徒は男子生徒で、
「早乙女、俺達今大事な話しているんだけど」
とかなんとか。明らかに邪魔者になると思われる乱馬を追い払おうとしていた。
「へー、そりゃ悪かったな。じゃあ用だけ済ませて俺はいくよ」
乱馬はその男子生徒に、悪かったといいつつ全然悪びれていない様子でそういうと、
「あかね、俺後ろで髪を縛ってたゴムなくしちまったみたいで」
「え?竜の髭なくしたの?」
「いや、今日は普通の細いゴムで縛ってたんだけど。何かいつの間にかなくなってて」
乱馬はそう言って、あたしを見た。
…乱馬の髪はいつも、「竜の髭」で出来ている紐で結われている。昔は、それで髪を結っていないと髪の毛がどんどん伸びて大変なことになってしまっていたのだけれど、今はその効力も切れて、それが無くても髪の毛は通常の長さを保っていた。
今日に限って髪型を変えたからかどうなのかはわからないけれど、乱馬は今日は竜の髭は使わないで髪を結っていたみたい。
それゆえ、使い慣れていないせいなのか、結い方が緩かったのかもしれない。
「困ったわねえ…ゴムじゃ落し物で放送するわけにもいかないし、あたしは髪の毛が短いからゴムなんて使わないし…」
かといって、髪の長い右京に頼ると、交換条件でハチマキとか要求されそうだしなあ。
「乱馬、どうするの?ずっとそうやって抑えているの?」
あたしは、乱馬にそう尋ねて首をかしげた。
すると、


「ああ、じゃあそれ貸してくれよ。それなら縛ってられるし」


乱馬は、まるで「今ひらめいた」かのような顔をしてそんなことを呟くと、
シュルリ…
あたしが頭に巻いているハチマキを素早くとって、自分の髪を結った。
「えっ…ちょ、ちょっと!」
あたしが突然のことで驚いていると、
「何だよ」
「何だよって、ハチマキ…」
「ああ、ハチマキか。何だよ、無いと困るのか?」
「そ、そうじゃなくて…」
「しょうがねえなあ、じゃあはい、これ巻いとけよ」
乱馬は素早くあたしのハチマキで自分の髪を結うと、何故か…自分のポケットから、自分の青いハチマキを取り出した。
そして素早くあたしの頭に巻きつける。


え?なんで?
自分のハチマキがあるんだったら、自分の巻けばいいんじゃないの?
なのになんで…


「…」
乱馬のそんな行動に、あたしが口をパクパクとしていると、
そんなあたしに代わって、その光景を見ていた男子生徒が代わりに乱馬に向かって叫んだ。


「おい早乙女!お前後からきて、何を勝手に…」
「勝手にって?」
「俺が今、天道さんにハチマキをもらおうとしてたのに、何を横から!」
「は?横からも何も、しょうがねえじゃねえか」
「何がだよ!」


すると、そんな男子生徒に対し、全然ひるむことなく乱馬が一言言い放った。


「しょうがねえだろ。あかねは俺と付き合ってるんだから、先に言おうが後から言おうがハチマキをもらうのは俺」


…さすがにこれには、男子生徒だけでなくあたしも、びっくりして言葉を失う。


なんか今、さりげなく…あたしと付き合ってるってこと、第三者に伝えた?
しかも乱馬…ハチマキのこと、知ってたの!?
もしかして、髪型変えて今日きたのも、こうやってあたしのところに来たのも、全部計算して…?


「…」
あたしが少し混乱しながら乱馬を見つめていると、
「…ということだから、悪いなー」
乱馬は男子生徒に悪びれもせずそう言い放つと、言葉を失って自分を見ていたあたしの手を引き、実行委員運営本部のテントから出た。
ちょっと振り返ると、テントに残された男子生徒が悔しそうに乱馬のことを見ていて、その腹いせか何かで、近くにいた自分の友達に今の顛末を話しているようだった。
こういう噂は、あっという間に広く広まっていく。
きっと、明日にはいろんな人の耳に入ることになるだろうに。
別にそれは構わないんだけど、それにしても…


「ねえねえ。乱馬、知ってたの?ハチマキのこと」
それにしても、乱馬のこの行動には驚いた。
とりあえず人が少ないグランドの隅まで移動したあたし達。
立ち止まったのと同時に、あたしは乱馬にそう尋ねた。
「あー…昨日の夜、なびきから聞いてな」
「え?お姉ちゃんに?」
「そ。まあ、ちょうどいい機会だし、そういうお祭りごとに乗っかってみようかと」
乱馬はそう言って、先ほど自分の髪を結っていたあたしのハチマキをシュル…とほどいた。
そして、
「あ!持ってるんじゃないの!」
「まあな」
…なくしたどころか、しっかりとポケットにしまわれていた細いゴムで、自分の髪を器用に結う。
どうやら先ほどのは完全なお芝居だったようで、
「いや、どうやれば自然にハチマキを手に入れるか、昨日の夜考えに考え抜いたんだぜ?」
「え?」
「一緒に寝てたら考えるどころじゃなくなっちまうから、泣く泣く昨日は自分の部屋で寝たけどさ」
「…あんたって人は。でも、そんな手の込んだことしないで、素直にあたしに言えばいいのに」
どうせ乱馬にしかハチマキ渡すつもりないのに。
あたしがそんなことをぼやくと、
「それだけじゃ、気づいたやつら以外に俺たちが付き合ってるってこと、伝わらねえだろ」
「え?」
「だから、ちょっと危険を冒すのを覚悟で、お前に言い寄ってくる奴がいるタイミングを狙ってたんだよなー…」
案の定、現れたってわけ。乱馬はそう言って、あたしの頭をぽん、と優しく叩いた。


…なんだ。
あたし、一人でヤキモキしたり、勝手に落ち込んだりしていたけど、
乱馬もハチマキのこと知っていたし、それにちゃんと考えてくれていたんだ…。
しかも、あたしたちが付き合っていることを公言するの恥ずかしいのかな、なんて思ってたけど、
寧ろその逆だったのか…。


「ま、これで少なくとも厄介な野郎以外はあかねに寄って来る男どもは減るだろうけど」
「厄介な野郎って?」
「聞きたいのか、誰だか」
「ああ…あの人ね」
「そう、あの人だ」
あたしと乱馬は、とりあえずその脳裏に九能先輩の顔を浮かべつつ、
「…右京にも言われなかったの?ハチマキ欲しいって」
「言われたけど。でも断ったよ」
「そうなんだ…あたしはてっきり…」
…乱馬の姿がさっき急に見えなくなったから、心配で。
あたしがそんなことを呟くと、
「…あのなあ。俺はそんなにふわふわした男じゃないんだけど」
もっと信用してもらわないと困る。乱馬はいたずらっぽい口調でそういうと、あたしの頭を大きな手でぐしゃぐしゃっと弄り回した。
「わっ…ごめんってば!」
「ったく、余計な心配してる暇あったら、自分の隙だらけの態度の方をもっと心配しろよな。今日みたいに、ちょっと目を離すだけですぐ、男が寄ってきやがる」
「う…」
「これは、もっと俺が主張しないとだめかなー…」
そして。何やら最後は意味不明な一言を呟くと、
「まあとにかく、そういうことだ」
乱馬はそう言って、にいっと笑った。
「…うん」
あたしも、そんな乱馬に笑顔を返す。


余計なことをいろいろ考えて、心配したりやきもち焼いたりしていたけれど、
全然大丈夫だったのか。
一人で焦ったり落ち込んだりして、あたし、バカみたいだ。


「…誰かに聞かれたら、あたし、言っちゃうよ?乱馬とちゃんと付き合ってるって」
「どうぞ」
「乱馬も言うんでしょ?」
「隠す意味ねえしなあ。まあちょうどいい機会というか、タイミングじゃねえの?」
「そうだよね」


心のどこかが、少しだけ安心した。
あたしは笑顔でもう一度頷くと、
「じゃあ、あたし戻るね。乱馬、ハチマキありがとう」
乱馬にそう言って、再び元の持ち場の運営テントへと戻っ…ろうとした。


が。


「あー、そうそう、あかね。俺、もう一つ用事があったんだ」
何故か乱馬はそう言って、戻ろうとしたあたしの手をくいっと自分の方へと引き戻した。
そして身体を屈めると、あたしの耳元へとこう囁いた。


 


「…お前があんまり『欲しがる』から、俺、場所見つけてきたぞ?」
「…は?」
「体育祭が終わったら、イベント出ないで校舎の隅にある第二体育倉庫に来いよ。な?」
「へっ?」
「もう、家まで待ちきれないんてわがままだなあ、あかねは。でもあんなに『欲しがら』れちゃ、男としてそれを満たしてやらないと」


 


でもそこが可愛い奴。
乱馬はわけのわからないことを言いながら、「じゃ、待ってるぞ」と、妙に嬉しそうに、そしてそわそわと…クラス席へと戻っていった。
残されたあたしは、乱馬の言葉の意味が分からなくてしばらく首をかしげていたけれど、
やがてその言葉の意味を理解して、一人焦っていた。


 


…そういえば。
今朝あたしは、乱馬から例のハチマキをもらいたくて、おねだりしたんだっけ。
あの時、「ハチマキを欲しい」って伝えようとしたのに、乱馬が妙なところで話を遮るから、
ただ単に『欲しいの』『我慢できないの』と、欲望だけが伝わってしまったのだけれど。

……
………
あわわわ!
やばい、これは何かやばいぞ!?
しかも、最後の最後で乱馬が姿を消していたのって、もしかして校内で人が来なさそうな場所を探してたんじゃ…!


「…」
…なびきお姉ちゃんからハチマキのことを昨晩聞いていたんだったら、あたしが今朝余計なことなんてしなければ良かった。


あーあ、今更乱馬にそれを説明したところ、聞く耳なんて持たないんだろうな。
これは観念して、体育倉庫にご招待されるしかないのか。


『もっと信用しろよな』…先ほどの乱馬の言葉を、まさにその通りだったと真摯に受け止めつつ、
薄暗い体育倉庫の中で、尻尾を振りながらあたしを待っている狼少年の姿を思い浮かべては、ため息をつくあたしであった。


 

…その、体育倉庫での出来事についてはまた、別のお話にて。


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