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答え

「ねえ、もしもさー、あかねのお姉さんのどちらかが、乱馬君のこと本気で好きになっちゃったら、どうする?」

 


…クラスメートが、特に深く考えるわけでもなく、突然あたしにそんなことを尋ねた。
「え?」
本気、ではなくても冗談でなびきお姉ちゃんがそんなことを言い出して、ややこしくなった経験がある、あたし。
だから、たとえ「もしも」でも、本気でそんなことになったらどうしようかと、真剣に悩んだ。
「分らない…その時になってみてじゃないと」
とりあえずそんな言葉で誤魔化して、その場を切り抜けたあたし。
でも、胸の中ではモヤモヤした思いが一杯で、何度も何度もそんなシチュエーションを描いては、一人で勝手に、苦しくなる。
なびきお姉ちゃんが、本気で乱馬を好きになってしまったら。
かすみお姉ちゃんが、本気で乱馬を好きになってしまったら。
二人とも美人で、いいところもたくさんあって、あたしにとってはとてもとても大切な人。
乱馬の事も、お姉ちゃんのことも大事。どちらかを選ぶなんて事、どうしても出来ない。
でも、もしも究極の選択で、どちらかを選ばなくてはいけなかったら…?
「…」
仮想しているはずなのに、ぎゅっと、あたしの胸が痛んだ。
…でも、どっち?
あたしはどっちを選ぶ?
…もしもあたしが身を引くことで、乱馬もお姉ちゃんも幸せになるんだったら、あたしは…?
「…」
空想であるはずなのに、考えれば考えるほど、胸が苦しくなる。
「…」
トン、トン、トン…
締め上げられるような、息苦しい胸の痛み。
服の上から胸を叩いたって、その痛みが誤魔化される事は無いというのに。
「…」
…実際に突きつけられている現実ではなく、ただの仮想の世界だというのに。
あたし、バカだなあ…。
どうにもこうにも苦しくて、そして身を切り刻まれるよりも全身に走るだろう痛みを感じながら、あたしは一人自分の部屋のベッドへと寝転がり、悶々と時を過ごしていた。


と。


「おい、飯だって」
ノックをするよりも早く、乱馬があたしを夕食に呼びに部屋へとやって来て中に入り込んできた。
「…いらない」
呼びに来てくれたのはありがたいけれど、とてもじゃないけどご飯なんて喉に通りそうも無い。
あたしは、壁際に身体を向けて乱馬のほうを振り返らないまま、乱馬に答えた。
…当然の事だけど、
「はあ?くっだらねえ…ありもしねえ事で悩んで落ち込んでどうすんだよ」
食べたくない理由を乱馬に話そうものなら、鼻で笑われてしまいそうな勢いだ。
「今日、おめーの好きなエビフライ二本セットだぞ」
乱馬はおかず作戦であたしを夕食へと連れ出そうと今度は試みるも、
「…あげる」
本当に食欲が無いあたしは、一瞬だけ心がぐらつくも、すぐに乱馬にそう答える。
「ふーん…」
乱馬はあたしの答えに、何だか気の無い返事を返してきた。直後、バタン、と部屋のドアが閉まる。
どうやら、あたしを夕食に連れて行くのを諦めたようだ。
「…」
あたしはドアの閉まる音を聞きながら、ふう、と小さくため息をつき、そっと目を閉じる。
そして先ほどのことをまた色々と考えようと、頭に思い浮かべた…ちょうどその時。
「なあ、具合でも悪いの?」
「!」
ギシ…と、あたしが横たわっているベッドが軽く軋んだ。
そして、横を向いているあたしの視界が暗くなる。
壁際に映る、あたしの体以外の蠢く大きな黒い影。
「っ…」
あたしがビックリして身体を起こそうとすると、それよりも早く乱馬はあたしの頭の横に腕を付き、後ろ側からあたしを覗き込むかのように、身体を前に倒してきた。
「…別に」
あたしがそんな乱馬に顔を見せないように、壁際に身体を捩ろうとすると、
「ふーん、具合が悪いって顔じゃねえな、その顔」
乱馬はあたしが身体を捩るよりも先に、ぐっと、自分の顔を横向きのあたしの顔へと近づけた。
スルっ…と、乱馬の結っているおさげがあたしの露わになっている首先に触れた。
あたしはビクっと身を竦める。
「…どうしたの?」
乱馬は、横を向いているあたしの顔にぐっと、更に自分の顔を近付けて頬を寄せると、片方はベッドに手をついたまま、もう片方の手であたしの頭を撫でるようにそっと触れた。
「…」
…本当は、馬鹿にされるもの分かっているし、乱馬には話したくない。
でも、不思議。
こんな風に優しく頭に触れられたり顔に触れられると、
関わりをもちたくないって思っているのにも関わらず、あたしは乱馬の温もりが欲しくなる。
「…」
あたしは、ゆっくりと乱馬のほうを振り返った。そして、
「うー…」
きっと、馬鹿にされる。
ありもしないことを勝手に想像して、勝手に苦しくなって泣き出しそうだなんて。
そうはわかっているけれど、あたしは乱馬の大きな体にぎゅっとしがみ付くように抱きつきながら、さっきから考えていた事を話した。
すると、
「…お前なあ。ありもしねえことで悩んだり落ち込んだりしてどうすんの?」
大方予想通り、乱馬はあたしの身体にゆっくりと腕を回し、背中を優しく撫でたりぽんぽんと叩きながら、そう呟いた。
「…分らないじゃない。いつかそうなるかもしれない事なんて」
あたしが、じんわりと瞳ににじみ始めた涙に曇った声でそう呟くと、
「ならねえよ」
乱馬はすっぱりとそう答える。
「でも、お姉ちゃんが乱馬の事を好きにならないって保証は無いじゃないっ」
あたしが、それでもそんな風に乱馬にたてつくと、
「それは分からないけど、でも俺が好きになる事は無い」
乱馬は、更にはっきりとそう言った。
「…」
あたしが、ゆっくりと乱馬の顔を見上げると、
「だから、そんなややこしいことにはならないだろ?」
乱馬はそう言って、ボロボロと涙を頬にこぼしているあたしのその涙を、そっと指で拭った。
「…」
あたしは、そんな乱馬に涙を拭ってもらいつつ、今度は別の質問をする。
「じゃあ…」
「ん?」
「じゃあ…もしも、乱馬に大切な男の兄弟がいたとしたら…」
「いねえよ」
「いたとしたらっ」
「はいはい」
「その人が、乱馬とあたしの関係の事を知っているのに、あたしのこと凄く好きになってしまって告白をした。そのことを乱馬が知ってしまったらどうする…?」
あたしは、乱馬にそんな質問をした。
これは、あたしがさっき考えていたもう一つの、こと。
自分の大切な人が、自分の大切な家族と恋に落ちてしまうかもしれない。
そうなった時、あたしならどうするか。
自分が身を引くことで二人が幸せになるならば、あたしは身を引く…?
あたしはそんなことを考えながら、一人胸が苦しくなっていた。
もしも、乱馬があたしの立場だったら、どうなんだろう…あたしはそれを乱馬に聞いてみたかった。
「…」
乱馬は、質問をしてじっと自分を見つめているあたしの頭を、ぽん、と一度叩いた。
そして、一度深呼吸をしてからゆっくりと、あたしに回答した。
「どうもならないんじゃないか?」
「…え?」
「だから。その仮の兄弟って奴が、いくらお前のことめちゃくちゃ好きになって、勝手に告白したとしても、だからといってどうにもならないって言ったの」
乱馬はそう言って、自分の事をじっと見つめているあたしの目をしっかりと見つめながらそう言った。
「どうにもならないって…乱馬、何とも思わないの?乱馬、平気なの?」
乱馬の答えてくれた意味が、その真意が良く分らない。
あたしが少し困惑したような表情で乱馬に尋ねると、
「平気じゃねえよ。腹立つよなあ、人の許婚に勝手に告白なんてしやがって」
乱馬は、そんなことを言いながら、「お前だってびっくりするよなあ」とか何とか言いながら、あたしの鼻をきゅっと、指でつまむ。
「それだけ?」
「それだけって?」
「だからっ…大切な兄弟と同じ人を好きになっったら…自分が身を引けば二人が幸せになるのならとか、思わないの?!」
あたしがその指を振り払って思わずそんなことを乱馬に叫ぶと、
「…おめー、そんなこと考えてたのか」
「あっ…」
「それでさっきから、暗いんだな?…ったく、どうしようもねえなあ」
乱馬はあたしがどうして一人落ち込んだり暗かったりしていたのか、悟ったようだった。
「…ったく」
「だって…」
「だって、じゃねえよ」
乱馬はやれやれ、とため息をつきながらまだ晴れやかでないあたしの顔にそっと手で触れると、
「俺、そんな風に身を引けば丸く全てが収まると思えるほど、半端な気持ちで好きなわけじゃないから」
「え?」
「そんなことで身を引いたって、俺、絶対に我慢なんて出来ないから。後からもう一度奪いに来るなんて事をするくらいなら、最初から離さなければいい。だろ?」
乱馬はそう言って、そのままゴスっ…と自分の額をあたしの額にくっ付けた。
「でも…もう一人の人がものすごく、あたしのことを好きだったら?」
「俺、それ以上に好きだもん」
「そんなの分らないじゃない」
「分るよ。俺、誰にも負けない自信あるから」
だから俺は、負けないし離すつもりも無いし…乱馬は自信ありげな笑顔でさらりとそう言った。
「あとは、おめーがフラフラしなければ問題なし、だな」
「あ、あたしはそんな…」
「じゃあ、何も困る事ねえだろ。ほら、現状維持でなんの変りも無い。だろ?」
そして、そう言いながら軽く、あたしの額へと唇をつけた。
そのくすぐったい感覚に、あたしがぶるりと震えると、
「…相手が別に兄弟じゃなくたってさ」
「え?」
「もしもその相手が…その、東風先生だったとしても」
「!」
「俺、悪いけど絶対に負けるつもりもないし、譲るつもりもないから」
だから、お前も覚悟しとけよ…乱馬はそう言って、今度はそっと唇に触れた。
「…」
あたしは、小さく頷いた。乱馬はそんなあたしを見て、嬉しそうに笑った。
「…」
…嬉しかった。
あたしは一人で考えている時、自分の事を犠牲にして身を引くことばっかり考えていた。
自分だって苦しいくせに、自分の気持ちに嘘をついて、他の人に幸せを願おうとするなんて。
我を通す事が全て正しいといえない時だってあるけれど、それよりも何よりも、自分に嘘をついて他の物まで欺こうとすることは、もっともっと、いけない事なんだ。
そんなことをすれば、それに気がついたほかの人だって苦しいのに。
自分だけが苦しんでいるみたいな、それこそ自分勝手だ。
自分の気持ちをぶつける前に、勝手に自分だけ身を引くことがいい事なんて、そんなのおかしいよね。
「…あたしも、お姉ちゃん達に負けないよ?」
あたしが、乱馬の胸に顔を埋めるようにしそう呟くと、
「じゃあ、何の問題もねえだろ」
乱馬は胸にくっついているあたしの頭をポンポンと優しく叩くと、しばらくそのまま、自分の胸元へとあたしを引き寄せていた。
あたしは「うん」と頷いて、そんな乱馬の身体へと自分の身体を預ける。


…ばかみたい、あたし。
本当に、「ありもしない」事を勝手に想像して、勝手に苦しくなって、落ち込んだりして。
考えていた事が実際に起こり得ないって事はわかるけど、
それ以前に、あたしや乱馬が、お互いではなく他の相手と恋に落ちるって事、今の状態で全然疑ってないって事、自分が一番わかっていたはずなのに、そんな根本的なことを忘れて、あたしは一人で落ち込んでいたんだ…そう思うと、尚更自分がバカに思えて仕方がない。

そうよ、たとえばさっきあたしが乱馬に尋ねたように、他の誰かがあたしに言い寄ってきたとしても。

あたし自身がそれに惑わされなければ、乱馬が言うように、何の問題も起こらないんだ。
だって、乱馬の気持ちはもう…あたし、分ってるんだもの。
何があっても、どんな状況でも、乱馬の気持ちがどこにあるのか、どう思っているのか。
あたしが一番良く、それを知っているんだもん。
逆だって、そうだ。
信じてくれる人がいる以上、あたしが迷ってちゃだめだよね。

「…ねえ?」
「ん?」
「最後に一つ、質問してもいい?」
「いいよ」
「…もしも、あたしが世界中の人を敵に回したら、どうする?」
「おめー、たとえ話が好きだなあ」
「いいのっ。あたしはね、世界中の人が「それは反対だ」って思う事を一人でやっているわけ」
「うん」
「だから、あたしは世界中の人の敵なの。もしそんな状況だったら、乱馬はどうする?」
あたしは、乱馬から身体を離す前に、最後にそんな質問をした。
すると乱馬は、
「世界中の奴が、お前がすることに否定的なのか?」
「そう」
「でもおめえは、それが正しいと…信じてるんだろ?」
「うん」
「じゃあ、答えは決まってんだろ」
「え?」
「世界を敵に回すにも、俺ぐらい腕っ節が強い奴が一緒だと、心強いだろ」
「乱馬…」
「何十億人対二人か。はは、俺たちどこまで逃げきれるかな。それって考えると楽しいよな」
…そんなことを言いながら、笑っていた。
「…」
あたしはぎゅっと一度乱馬に抱きつくと、
「…じゃあ、頑張って逃げた末に身を隠すための隠れ家、どっかに用意しておかなくちゃね」
「そうだな。後に家族も増えるからー、割と大きめな家、どっかに作っておかないとな」
「…そうだね」
そう言って、ようやく心から、笑った。
乱馬もそんなあたしの笑顔を見て、ホッとしたような表情を見せた。
乱馬はあたしから身体を離すと、ベッドから起き上がり、床に降り立った。
そして、
「さ、飯に行こうぜ。皆、待ってる」
と、あたしにそっと手を、差し出した。
「うんっ」
先ほどとは違い、今度はあたしも乱馬の差し出したその手を、取る。
…迷いや、悩みや、痛みや苦しみや。
そう言うのがなくなると、これ程までに胸が軽くて顔も明るくなるのか。
それとも、あたしが単純なだけなのかな。よくは分らないけど、それでも今、自分の胸の中がとっても温かいのは、分る。

「今日、エビフライなんだ」
「そうみたいだね」
「くれるんだろ?」
「な、なんでよっ」
「さっき、言っただろっ」
「あ、あれは食べないつもりだったからっ…」
「女に二言はねえっ。あかねの分は、俺が貰うっ」
「あー!待ちなさいよっ」
あたし達は、慌しく下の階への階段を降りきると、
「遅ーい、二人とも!」
あたし達の来るのを待っていた家族皆に迎えられ、笑顔で居間へと溶け込んでいった。


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