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も一つおまけに傀儡芝

「え?それっきりなの?」
「う、うん…」


長かった夏休みも終わりに近づいてきた、ある日のこと。
宿題をしに訪れていた図書館の帰り道、ばったりと道でクラスメートのさゆりに会ったあたしは、何気なく「ある話」をしたせいで、そんな風にさゆりに問い詰められていた。
「ある話」。
…それは、あたしと乱馬の「進展状況」の事。

この夏休み。
ふとしたことがきっかけで、ようやくお互いの気持ちを素直に伝え合い晴れて両思いになれた…あたし達。
でも、
気持ちを伝え合ったその夜には、数え切れないくらい(いや数えてる余裕なんてないぐらい)キスだってしたはずなのに、
次の日からはそんなこともなく。
同じ家に住んでいるのにも関わらず、乱馬は、あたしに指一本触れようとしなかった。
…そりゃあ、外に出て歩く時には自然に手を繋いで歩くようにはなった。
でも、
「キスしよう」
そんな風にはっきり言ってこなくとも、少しぐらいはそういう気持ちをあたしに対して持っているって素振ぐらいは、見せても良いんじゃないかしら。
…あたしだって、そう思った。
「乱馬君、ホント奥手なのねえ。あかねみたいな可愛い子が許婚だったら…他の男だったら間違いなくすぐに手を出すでしょうに」
さゆりが、立ち寄ったファーストフード店で注文したジュースを勢い良く飲み干しながら、そんな事をぼやいている。
「でもあたし、乱馬にはよく色気がねえって言われるし…魅力的に思われてないんだと思う」
あたしが、これまた注文したアイスティーを少し飲みながらそう呟くと、
「何言ってんのよ!あかねに色気がないっていうんだったら、世界中の女は皆色気なんてないわよッ。全く、わがままなのよ乱馬君は。何が不満なのかしらッ」
さゆりはむっとしたような表情でそうぼやいた。
そして、
「ねえ、あかね。今度さ、ひろしか大介に頼んで、乱馬君の本心でも聞きださせようか?」
…と、ちょっと眉間に皺を寄せながらあたしに提案をしてきてくれたので、
「えッ…いいよ、そうまでしなくても…」
あたしはそんなさゆりに、慌ててかぶりを振った。


…さゆりの気持ちは嬉しいけれど、
かといって、あたしも、乱馬に急にキスされたり押し倒されたりしたら…何て考えると、やっぱりまだ心の準備が出来ていない分、戸惑っている感もある。
「キスしたい」んじゃなくて、「キスしたい」ような気持ちを乱馬が持ってくれているって事を、知りたいだけなのだ。あたしは。



「もー、あかねも奥手なんだから。だったらせめて、何かきっかけでもあればいいのにねえ…」
さゆりはため息をつきながら、あたしの頭をよしよし…と撫でる。


きっか、け?


…その時。
そんなさゆりの言葉に、あたしの頭の中では何か…急にキラリ、と走り抜けるものがあった。
何だか良く分からないけれど、その「きっかけ」になりそうなことを…もしかしたら思い出したのかもしれない。
いや、思い出した。
…そうだ。
「きっかけ」だ。
さゆりの言うような、「きっかけ」を与える事が出来る「あるもの」に、あたしは心当たりが…ある!
「ある!」
あたしの頭の中に、過去の記憶がはっきりと、思い浮かんだ。
「さゆり、ありがと!」
「え!?ちょっとちょっと…あかね!?」
その「きっかけ」を思い出したあたしは、
いきなり叫んだり表情を明るくさせたりしたあたしに戸惑っているさゆりを一人残し、急いで店を、飛び出した。
そして、全速力で「ある場所」へと向かった。
…それは、そのあたしが思い出した「あるもの」を保管している、場所。
使い方を間違えれば、「かなりハタ迷惑な存在」になりえる「あるもの」、こと不思議な食材を置いてある、店。
そうそれは、シャンプーとコロンおばあさんが経営している「猫飯店」だ。
「こんにちは!」
「おお、おぬし一人で来るとは、珍しいではないか。シャンプーとムースなら今里帰りしておってな、留守じゃよ」
…あたしが息を切らしながら勢い良く「猫飯店」の中に入ると、
そんなあたしの声に反応して、厨房の奥の和室で時代劇を見ていたおばあさんが、笑いながら出てきて言った。
「おばあさん、時代劇好きですね。この間もそのドラマみてませんでしたっけ?」
もう二回目でしょ?その時代劇。
あたしが和室で延々とついているTVを覗き込みながら聞くと、
「ハッハッ。二回目じゃないぞ、三回目じゃ」
おばあさんはそう言って笑った。そして、
「それよりどうした。もしかしておぬしわしに何か用でもあるのか?」
息を切らして飛び込んできたあたしに、コップ1杯の麦茶を勧めながらおばあさんが続けるので、
「あ…はい。実は…」
あたしは「そうだった」と我に返り、おばあさんに向って、言った。
「おばあさん、私に…傀儡芝を少し分けてもらえませんか?」
すると、
「傀儡芝を?おぬし、あんな不良品をどうするんじゃ?」
おばあさんはちょっと不思議な顔をした。が、
「え…あ、ちょっと…。ね、余ってたらでいいんです。少しで良いから…ね?」
あたしは、口を濁しながらも必死に「お願い」、と手を合わせる。
「ふむ…」
おばあさんはちょっと考え込むような素振はしたものの、
「…ま、いいじゃろ。丁度食材庫の整理をしていて、いらないものは中国へと送り返してやろうと思っとった所じゃ。そんなに欲しいのなら、くれてやろう。ちょっとそこでまっとれ」
「ありがとう!おばあさん!」
「やれやれ、変った娘じゃのう」
最後はあたしの申し入れを快く聞き入れてくれて、その傀儡芝を取りに置くの食材庫へと引っ込んで行った。



傀儡芝、とは、中国に昔から伝わる妖術に使う「毒キノコ」。
一度それを口にすると、最初に与えた合図で、その食した相手に暗示をかけることが出来るのだ。
例えば、傀儡芝を口にした相手の目の前で手を叩き、
「眠れ」
そう暗示をかけると、かけられた相手は、傀儡芝の効き目が切れるまで…自分の目の前で手を叩かれると眠り込んでしまうのである。
効き目は、たしかちょうど半日ぐらい。
使い方を間違えなければ、かなり有効な「食材」だ。


…昔。
乱馬に抱きしめて欲しかったシャンプーは、傀儡芝入りの肉まんを乱馬に食べさせて、
「抱きしめるよろし!」
そんな暗示をかけるべく指を鳴らしたんだけど、そのシャンプーのかけようとした暗示の合図よりも、側にいた九能先輩の「くしゃみ」のほうが乱馬の耳に入ったらし
く、その日乱馬は、「くしゃみ」を聞くたびに「くしゃみ」をした相手に抱きつく羽目になった。
折りしも季節は冬だったから、「くしゃみ」をする人はたくさんいて…。
たまたまその日は家族も留守だったし、それに加えてあたしも風邪を引いてたり、そして諦めきれないシャンプーが乗り込んできたり九能先輩が来たり、それにたまたまうちに立ち寄ってくれた良牙君まで巻き込んでしまったり。
すったもんだの挙げ句、ようやく皆を追い返して二人きりになったあたし達。
でも、その頃にはもう乱馬の「くしゃみ」で抱きつく暗示は解けちゃったみたいで、あたしが「くしゃみ」をしても、乱馬は抱きついてこなかったっけ。



…何だか分からないけど、不意にそのことを思い出したあたし。
だからこうしてその傀儡芝を譲ってもらいに来たのだ。
『この傀儡芝を使って、乱馬に暗示をかけたらどうか』、と。
自分の気持ちに素直になれ…そんな暗示をかけたら、もしかしたら乱馬はあたしに本心を話してくれたり…なんかするかも。
そんな淡い期待を胸に、あたしはココへとやって来た。

「ほれ、これじゃ。使い方はわかっとるな?あ、そうじゃ。これも持ってけ。作りすぎてしまっての」
「ありがと、おばあさん!」


…あたしは、そんな傀儡芝の入った袋と、おばあさんの手作りのシュウマイ入りの包みを受け取り、急いで天道家へと戻った。
そして、
「かすみおねえちゃん、台所ちょっと借りるね」
「あらあかねちゃん、花嫁修業?」
「そ、そんなんじゃないもんッ」
あたしは台所を陣取ると、もらったシュウマイに傀儡芝を潜ませるべく、傀儡芝を刻み始めた。





…と、その時。
「…なにしてんだ?お前」
額に妙な汗をかいた乱馬が、いきなりあたしの背後へと現れそういった。
「ちょ…ちょっと!何よ、急にッ」
「まさか料理なんて作ってんじゃねえよ…な?」
「い、いいでしょ別にッ」
とりあえずは傀儡芝を細かく(したつもり)刻んで茹でるべく鍋にほおり込んだところだったので、何を作っているかは乱馬には分からないようだったけど、
「あかね、俺今お腹がいっぱいなんだ」
…あからさまに、あたしの手料理に対して乱馬は拒否反応を示している。
「大丈夫よ、シュウマイだから。それに、このシュウマイは元々コロンおばあさんが作ってくれたもんだし」
「へ?」
「それに、あたしはおばあさんが分けてくれたトッピングを、このシュウマイに乗せるだけだから」
…でも。
あたしが「だから安心してシュウマイをお食べ」、とばかりに胸を張って言うと、
「へえ。ばあさんのシュウマイじゃあ安全だな」


ヒョイッ…


「あ!」
…なんと。
乱馬は、傀儡芝を練りこむ前のシュウマイを、一気に二つもつまみ食いをしてしまった。
「な、なにすんのよ!」
貰ったシュウマイは全部で五つ。
二つも食べてしまったら、あと三つしかないじゃない!…と、あたしが慌てふためいていると、
「何慌ててんだよ。だってそれ、どっちにしろ俺にくれんだろ?」
乱馬はそんなことを言いながら、また口の中へとシュウマイをほおり込む。
「だ、だめだってば!トッピングしないと、美味しくないの!もうちょっと待っててよ!」
このままでは、傀儡芝を入れる前にシュウマイを全て乱馬に食べられてしまいそうだ。
「とにかく!居間で待っててよ。あとでちゃんと二つ、あげるから…」
あたしは、冷蔵庫の中にシュウマイをしまいこんでしまうと、
「腹減ったー…」
「我慢してよ。ね?」
と、もう一度念を押す。
折りしもそれと同じタイミングで、
トゥルルルル…と、廊下の電話が鳴った。
「ほら、乱馬。電話出てきてよ」
「えー、何で俺が…」
「あたしお料理中で手が汚れてるの。戻ってきたら、あのシュウマイあげるから。ね?」
「ちぇッ…しょうがねえなあ」
乱馬は、ぶちぶちと文句を言いながら台所から出て行った。


…いまだ!


あたしは、乱馬が電話の所へ向かった隙を見て、鍋から刻んだ(?)傀儡芝のカケラを取り出し、シュウマイの中に押し込んだ。


…これで、準備は万端。
あとは、乱馬にこのシュウマイを食べさせて、あたしが乱馬に暗示をかけるだけ。
どうしようかな。
なんて暗示をかけようかな。
…やっぱ、あの時のシャンプーみたいに「抱きしめて」とか?
でも…やっぱりあれかな。
「素直に気持ちを表現して」かな。
そしたらもしかして、乱馬…あたしに本心を話してくれたり、それに上手くいけばあたしに甘えてきたりしてくれるかもしれない。

うん、それだな。
よし、暗示はそれに…





「あかね」


…と。
そんな事を台所で考えていたあたしの前に、電話をを切った乱馬が戻ってきた。
「乱馬。電話、誰からだった?」
「業務連絡だった」
「業務連絡?」
お父さんの、町内会の役員の仕事?…とあたしが乱馬に聞こうとすると、
「あかね、俺やっぱシュウマイいらねえや」
「え!?」
…そんなあたしよりも先に、さっきまではあれほどシュウマイを欲しがっていた乱馬が、そんな事を言い出して台所を出て行ってしまった。
「ちょ、ちょっと乱馬ッ」
それじゃああたしの計画は水の泡!?…とは口には出せないものの、
「せっかく2つあるんだから、食べてよッ。乱馬の為に作ったのにッ」
あたしは廊下をズンズンと歩いていく乱馬の後についていきながら、叫ぶ。
「さっき三つ食べたからもういいや」
「三つも五つも一緒よッ」
「どこがだよ」
が、乱馬はそんなあたしなどお構いなしに廊下を進んでいく。
「食べて欲しいのッ」
あたしは、そんな乱馬の前に回りこんで、シュウマイが乗った皿を差し出した。
「そんなに俺に食って欲しいのかよ。変ってる奴だな、おまえ」
乱馬はそんなあたしから「やれやれ」という表情でその皿を受け取ると、
「しょうがねえなあ…」
たまたま近くにあったドアを開けて、
「廊下で立ち食いするのも何なんで」
そんな事を言いながらその部屋に入った。
あたしも続いてその部屋に入って、乱馬に逃げられないように…と、入り口を背にドアの前に立った。
「…」
乱馬は、あたしが部屋に入ったのを確認し、
「じゃあ、食うぞ」
そう言って、皿に乗っていたシュウマイを二つ、口にほおり込んだ。

…食べちゃった!

ドキ…と、あたしの心の中に緊張が、走る。
「…」
あたしは、乱馬がシュウマイを完全に口の中で噛んで、そして飲み込むまでじっと待った。
…そして。
「食ったぞ、あかね。これでいいんだな」
ごちそうさま、と、空いた皿をあたしに返してきた乱馬に対し、すかさず、
パンッ…
…聞こえるように、両手を叩いて見せた。
「?」
乱馬がそんなあたしの予期せぬ行動にきょとんとした表情をしたので、


「素直に気持ちが表せたらッ」
「は?」
「…いいのに…」

…と、一応は暗示になると思われる合図と、そして最後はゴニョゴニョと口の中でどもるようにフェイドアウトをさせながら、あたしは計画どおりに乱馬に「暗示」をかけた。

…が。

「…」
乱馬は、そんなあたしの顔をじーっと、見つめていた。
じーっと見つめて、ぽりぽりと頬を掻いたりして。
一分待っても、二分待っても。
一向に、それ以上のアクションを起こそうとしない。
…傀儡芝入りのシュウマイは、確かに食べた。
しかも、二個も。
「合図」もした。
「暗示」もかけた。
なのに何の反応も示さないってことは…

素直になろうが何だろうが、乱馬は別にあたしに対して特に”どうしたい”とか、”こう言いたい”とか…ないってこと?

「…」

あたしは、じっと乱馬の顔を見つめながら黙り込む。


『もしかしたら乱馬も心の中じゃ…』
そんな風に少しは期待をしていただけに、
こういつまでたっても無反応なのを目の当たりにすると、何だかそれは…ショックだった。



「食べてくれて、ありがとう」
でも。
まさか「実はそれ傀儡芝が入ってて…」なんて今更いうこともできなくて。
…試さなきゃよかったかなあ。
あたしはガックリした事を乱馬に悟られないようにしながら、空いた皿を片手にその部屋から出ようとした。

と、その時だった。

あたしがドアノブに手を伸ばそうとしたその手を、不意に乱馬が握った。
「きゃッ…」
その突然のふわり、とした感覚に驚いて、ガシャンッ…と、あたしは、持っていた皿を落としてしまった。
「あッ…」
…幸い、硬めのガラスで出来ていたせいか皿は割れる事はなかったが、カランカランカラン…と、床の上で幾重にもかさなる弧を描くように、皿は回っていた。
「拾わなくちゃ、お皿…」
あたしが掴まれた手を離して、床に落ちた皿を拾おうと身を屈めようとすると、
「いいよ、そんなの」
乱馬は身をかがめたあたしを立ち上がらせるように身体を滑り込ませ、まんまとあたしの身体を抱きしめてしまった。


「えッ…ちょっと乱馬」


…いきなり、抱きしめられて。
振りほどこうにも片手の自由も奪われて。
あたしはすっかりとパニック状態に陥ってしまった。



まさか。
さっきの「暗示」、今ごろになって効いてきたのかな…。
いきなりあたしの事を抱きしめたりして…今までの乱馬と違うもん、絶対にそうだッ。
でも、ちょっと待って。
てことは…何?
あたしにこうすることが、「乱馬の素直な気持ち」なのであって…?





「乱馬、待ってッ。あのねッ…」
あたしが慌てて乱馬から離れようとすると、
「何を待つの?」
乱馬は、意地悪い顔であたしに笑って見せると、あたしを壁際に追い詰め、その両脇に腕をついた。
もちろんそれは、あたしが自分の腕の中から逃げれないようにする為だ。



…怖い。


おかしな話だけれど、あたしは何故かそう感じた。
「ッ…」
あたしは必死にその腕の中から逃げようとするも、
「素直に気持ちが表せたら…なんだろ?」
乱馬はそう言って、あたしを逃がそうとする気配もない。
「違うの?」
…そしてさらに、ぐっ…と顔をあたしに近付けるようにして顔を覗き込んできた。



男の子なのに長くて艶やかな乱馬の睫毛が、あたしの鼻に触れた。
そしてあたしの前髪は、乱馬の呼吸があたってふわっと揺れていた。


「…」
あたしは、そんな乱馬の顔をとてもじゃないけど直視できなくて、思わずぎゅっと、目をつぶってしまった。


…自分がまいた種なのに。
「乱馬の素直な気持ちが聞けたら」とか…そんな事を思ってしたことなのに。
いざ「素直」になった乱馬にこんな風に迫られたら、
あたしは怖くて仕方がない。
明るい場所で、こんなに乱馬に間じかに見つめられたら、あたしはその顔さえも直視できなかった。
甘かった。
あたしの考えが甘かったんだ…。

「…」
…あたしがそんな事を思ってガタガタと震えてると。


「…まだ、早いか」


…ふと乱馬がそんな事を言いながら、あたしから離れたような気配がした。
「え?」
あたしがその気配を感じ、ゆっくりと目を開けると、
「もうしねーよ」
乱馬はそんなあたしの頭をぽんぽん、と軽く叩いた。
「うー、でももったいねえ…」
でも、再び乱馬はそんな事を言うと、さっきとは全く違う明るい表情で、そして優しくあたしに抱きついてきた。
「え…ちょっと、乱馬」
あたしがそんな乱馬に戸惑ってると、
「傀儡芝なんて使わなくても、いつでも俺はこうしたいに決まってんだろ」
乱馬はそんなあたしの耳元でそう囁くと、ため息をついた。
「なッなッ…」

…何で傀儡芝のことを!?

まさか乱馬の口からその言葉が出てくるとは夢にも思わなくて、あたしが口をパクパクさせていると、
「だからさっき言っただろ。業務連絡の電話があったって」
乱馬はあたしの頭をゆっくりと撫でながら、にやっと笑った。
「業務連絡…?」
「ばあさんがな、さっきあかねに渡したのは傀儡芝じゃなくてただのキノコだったから、謝っといてくれってさ」
「え!」
「ちゃんと伝えたぞ。以上業務連絡でした」
…事後報告だけど。
乱馬はそう言って、あたしから離れた。
「…」
…全て見透かされて、あたしは乱馬にからかわれていたって事?。
「…」
それにようやく気がついたあたしは、今にも火を吹きそうなぐらい真っ赤な顔をしていた。
そんなあたしに、乱馬は笑いながら言った。


「…俺、男なんだけど」
「え?」
「ホントは今ぐらいじゃ全然満足してねえんだぜ?」
「え…」
「でも、ちょっと抱きしめただけであんな風に震えられちゃったらさ…強引に続けて、傷つけちまう方が嫌だから」



…そんな乱馬の言葉に、あたしはドキ、としてしまった。






なんにも分かってないのは、あたしの方だったんだ。
乱馬があたしにそんな気を使ってくれてたなんて、全然気が付かなかった。
それなのにあたしは、「乱馬が何を考えてるのか分からない」とか「あたしに対してなんにも思ってない」とか。
…自分勝手なことばっかり考えて。


「…」
あたしは、ぎゅっと唇をかみ締めて、そして乱馬の手をきゅっと握った。
「あかね?」
乱馬がそんなあたしを驚いた顔をしてみるので、
「…慣れるから」
「え?」
「慣れるように頑張るからから…」
あたしは、小さいけれど、でもしっかりとした口調で呟いた。
すると乱馬は、
「…その言葉が聞きたかった」
…何故か、嬉しそうな口調でそう叫ぶと、
「さ、それじゃ移動しようか」
「ん?」
意気揚揚と、あたしの手を引いて部屋を出た。
「どこ行くのよ?」
急に元気になった乱馬を不審に思いあたしが尋ねると、
「どこって、決まってんじゃねーか。部屋。あかねの部屋」
乱馬は嬉しそうにそう言った。
さらに乱馬は、
「何で?」
「だって、慣れるように頑張ってくれるんだろ?俺、あかねが慣れるまで頑張るからさッ。
いやー、やっとお許しも出たことだし…」
…と、何が「お許し」なのかわからないけれど、上機嫌であたしの手を引いて進んでいく。
「ちょっとッ。別にあたしはそんなッ」
そんなつもりじゃ…と、あたしが乱馬の手を振り払おうとぶんぶんと揺らそうとも、
「手始めにまずは…そうだな、どうしよっかな」
乱馬はニコニコとそんな事を呟きながら廊下を進んでいく。


「何よッ。ちょっと優しい事いってくれたから答えてあげただけなのに!あんたもしかして初めっからそのつもりでッ…」
「さーな。でも俺も協力してやろうって言ってんだろ。俺、全力で頑張るからな、あかね」
「何を頑張るのよッ」

…こうして、この日を境に。
今まで家の中でも指一本あたしに自分からは触れようとしなかったはずの乱馬が、
「あかねからもお許しが出たし」
そんなことを言いながら、指一本どころか両手いっぱい広げて、あたしの身体に触れるようになった。

『俺、男だから』。
そんな事を言ってた乱馬だったけど、
…男というよりは狼じゃないの。
この変わり身の早さに、思わずあたしはそんな事をぼやいてしまう。
まさに、「羊の皮を被っていた狼少年」、とでも言えるのか。



ああ、もう。狼少年に、よけいな小細工は必要なかったんだわ。
第一、よく考えてみれば、よ?
あたしが傀儡芝を使おうなんて考えなくても、乱馬の奴、きっとじわじわといろんな作戦を立ててはあたしを上手く誘導しようとしたに、違いない。



…嬉しそうな顔であたしの部屋に入り、そしてニコニコと改めて抱きついてきた乱馬に対して、あたしは心の中でそっと、ため息をついた。



余計な小細工、ヘタな芝居。
これはきっと、乱馬には必要のないもの。
そして、
もひとつおまけに傀儡芝。
…これも必要、ないようだ。


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