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NOVEL

「可愛くねえ、色気がねえ、凶暴、不器用、寸胴、まぬけ!」
「何よ、乱馬のばかー!」
…その日もまた、いつものように喧嘩してしまった。
売り言葉に買い言葉。今日この朝だけでも三回目。
喧嘩の原因はいたって簡単。あたしの…つまらないヤキモチ。


「あかね!おめえはまた可愛くないヤキモチを…」
「やきもち!?何であたしがあんたなんかに!そんなにシャンプーや右京がいいならあの子達といれば!?」


毎日お決まりのこの台詞を叫び、あたしは一人でさっさと自分の教室へと入る。
結局遅刻ギリギリの上に、ボロボロになった乱馬があたしの隣の席についても、あたしは一言も話さない。
それでも大抵はお昼までには仲直りして、おうちに帰って、また喧嘩して…ホントに毎日それの繰り返し。
いつものことだとは思いつつもやっぱりちょっと素直じゃない自分に疲れるあたし。
---なんだか、あの時のことが嘘みたいだ。
だからかもしれないけど、授業中だけどもふと、そんなことを考えてみる。
「あの時のこと」。
そう、遠い昔のようで、でもそうではなくて。最近のようで、やっぱりそうでもない。
異国の地で起こった、そう、「あの時のこと」を、だ。

 

 

今からちょうど二ヶ月前、呪泉洞で起こったあの出来事。
中国奥地で繰り広げられた死闘。
そして、目を覚まさないあたしを抱きしめた乱馬が、あたしに向けたあの一言。
「好きだって言わせてくれ」と。
…実際は、心の中で思っていただけだったみたいだけど。
でも、あの時のあたしには、不思議なくらいその心の声が、あたしの身体中へと流れ込んでいた。
だから、それは言ったも同然。だって、心の中で叫んでくれたから…伝わったんだもの。
そう思っている。
そう、あたしはそう思っているんだけど。
「…」
あたしは、隣の席に座ってる乱馬をチラッと盗み見る。

寝てる。
ひな子先生の英語の授業ってせいもあるけど、シャンプーたちの追撃を逃れた疲れからか、ぐっすりと寝 てる。…
その寝顔を見ても、
いや寝顔だけじゃなく普段の態度から見ても、どう考えても、二ヶ月前にあたしに「好きだ」といった(気がした)時とその以前と、何の代わりもない気がする。
あれは夢だったのかな。何だかそんな風にさえも最近思えてくる。
乱馬を見てても、あたしを「好きだ」ってそぶりが全く感じられない。
てことは、やっぱりあたしの気のせい?
あたしがそう言われたいって、実は心の奥底で思っていたからなのかなあ?
だから、勝手に乱馬の声でそれが流れ込んで来たように錯覚した?

…ちょっと、嬉しかったんだけどなあ。
そんなことを考えながら、あたしは小さくため息をつく。


こんなことの自問自答の繰り返し。
だからいつのまにか…この二ヶ月、こういうことを考え、落ち込んでまた考えのループ。
何とも、効率の悪い過ごし方。
でもそんな毎日の過ごし方が、あたしの日常となっていた。

 

 

その日の昼休みのこと。
「ねえ、あかね。自由時間はどうするの?」
ボーっとしてるあたしの背中を、クラスメートの一人である奈美、がつつきながら言った。
「え?自由時間?」
「もう、やだー、あかねったら。今の話聞いてなかったの?ほら、明日のクラス研修。天体観測のあとは、自由行動になるってひな子先生が言ってたでしょう!」
「あ、ああ…そのことか。ごめん、ごめん」
あたしは慌てて取り繕った。
あたしたちのクラスは、連休前の週末を利用して、
近隣の合宿所にて、「クラス研修」と言う名目で合宿みたいなことを、やることになっていた。
前日の今日は、休み時間はその話題で持ちきりだ…ったようで、あたし以外の皆はやいやいとその話をしていたらしい。
折りしも合宿当日の明日は、「百年に一度」にしかお目にかかれない、「ナントカ流星群」とやらが夜空に現れるようで、
せっかくの「研修」なので、それを各自観察してレポートを提出するってことになっていたんだった。
一応は割と大きな行事だというのに、心ここに非ずのあたしは、すっかりとそんなこと忘れてしまっていた。
うっかり、準備だって全然していない。
あたしは自分の間抜けさにほとほとため息をつく。

「流星群が空に現れるのは、夜中でしょ?だからひな子先生が、適当に各自で天体観測したレポートを翌朝にでも出せばいいって」
「…それって、ひな子先生自体が夜遅くまで起きていられないから?」
「間違いなくそうでしょうね。だから、適当に天体観測切り上げてさあ…」
奈美はそういって、あたしにごにょごにょと耳打ちした。
その内容に、あたしは思わず赤面してしまう。
だって…
「あたしは、彼と約束してるよ。だって、せっかく大手を振って一晩一緒にいられる機会なんだよ?素直に部屋で就寝してちゃもったいないじゃない!」
「そ、そりゃあそうだけど…」
「うちのクラスの中でも、結構そういう子いるみたいだよ。だから、あかねはどうなのかなと思ってさ」
「どうって?」
あたしがきょとんとしていると、奈美は声を潜めて、
「乱馬くんとに決まってるでしょ!あかねは乱馬くんと一緒にいるんでしょ?許婚なんだし」
「べ、別にあたしは…」
「たとえ一つ屋根の下に住んでたとしても、いつもは家族が一緒でしょ?こんな機会めったにないと思うんだけど なあ?」
奈美はあたしの瞳をぐっとみつめてそういうと、「思い切って、あかねから誘ってみたら!?」とあたしに耳打ちを して席を立っていった。
残されたあたしは、ちょっとどきどきしていた。
そうだ。いつもみたいにどたばたと喧嘩ばっかしていたから、すっかり忘れていたけど。


明日の研修会。
家族のいない、いつもと違うシチュエーション。
折りしも百年に一度の流星群。
女の子なら普通、夢見るシチュエーション。


もしかして。
もしかして、明日のその瞬間なら、あたしも素直になれるかもしれない。
売り言葉に買い言葉で喧嘩なんかしないで、素直に乱馬に聞けるかもしれない。
「あの時あたしを好きって言ってくれた?あたしも、乱馬のこと…」
…って。
もしもその答えを、
私が望んでる答えを、乱馬の口から聞くことができたなら…


どうしよう…奈美が言ってたみたいに、誘ってみようかな。
勇気を出して、一歩踏み出してみようかな。
あの時、一度延長戦となったあたしたちの関係を変えるための、一歩を。
「…」
あたしは、横の席に座ってる乱馬をチラッと見た。


…ドキ!


と、何故か乱馬と目が合う。
「ん?何だよあかね…」
相変わらず、学校ではやる気を見せない乱馬。
当然と言ってはなんだが、授業中はもちろん休み時間も貴重なお昼寝時間でも、ある。
そんな乱馬が、眠そうな目をしょぼしょぼとさせながら、挙動不審なあたしに声をかけてきた。
「べ、別に…」
勿論、彼を見た理由など今は口が裂けても言えないあたしは、乱馬から顔をそらした。
「何か変だぞ、おまえ」
「何でもないってば!」
あたしは必死でごまかして、机の上の教科書とかをそろえるフリをする。
そんな行動が更に挙動不審なのだが、 乱馬にその理由がわかるはずもなく、
「はあ?ったく、わけのわからねえ奴」
乱馬は更にあたしを追求しようと、あたしの顔をじっと見る。
あたしはそんな乱馬の視線から何とか逃げようと、再び顔を背けた。


とその時。

 


「乱ちゃあん!」
右京が、乱馬の元へと駆け寄ってきた。
「おー、どうしたうっちゃん」
「明日の夜の事なんだけどな、うちと一緒に宿題せえへん?!うちが乱ちゃんの分までレポートかいたったる!」
右京は、乱馬のもとへ駆け寄るなり、笑顔を浮かべながらそう言った。
流石は右京、明日の研修で意中の乱馬と一緒に過ごそうと正攻法で攻めてくる。
少しのチャンスも無駄にはしない、彼女らしいやり方だ。
とはいえ、正攻法だろうがなんだろうが、目の前で乱馬のことをこうも大胆に誘ってくるのに良い気はしない。
あたしは、ちょっとムッとした表情で右京をみつめた。
…まあ、右京がこんな風に誘いをかけてきたところで、さすがの乱馬だって素直にOKすることはないだろう。
だって、研修会は夜。夜に女のこと二人で過ごすってことがどういう意味かくらいは分かるはず。
あたしはそんなことを思いながら、乱馬の顔も伺った。


ところが。


「え!うっちゃんがレポート書いてくれんの?うっちゃん、絵とかうまいもんなー、助かるよ」
…乱馬は、あたしの予想外の返事を右京へと返した。
はあ!?
あたしの聞き間違い?あたしは思わず二人のことを交互に何度も見つめるけれど、
「だったら、うちと一緒にあした自由時間いてくれる?!乱ちゃんのために立派なレポートつくったる!」
「ホントか!?レポート頼むよ、うっちゃん!」
あたしのことなどまるでお構いなしに、二人はそういって、がっしりと手を握り合っていた。
どうやら、聞き間違いではなかったらしい。
「…」
あたしは、目の前で繰り広げられているこのやり取りに、
なんて言葉を発してよいのかわからず、ただただ口をつぐむのみだ。


 


何?
何これ。何なの?
…本気?
研修の夜を。百年に一度の流星群が現れる夜を。
乱馬は、右京と過ごすって…言った?
右京はともかく、乱馬のこの好意的な返事は何?


「ちょ、ちょっと…」
あたしは、思わず二人の間に割って入って声を出す。
ところが、
「あかねは絵とかヘタクソだもんなー、少しはうっちゃんを見習えよ?」
乱馬は、あたしの気持ちなどまるで考えもしない様子で、いつものように減らず口を叩いた。


「…」
…何これ。
あたしがさっきまで考えていたのは一体なんだったの?
ていうか…普通は、OKしないでしょ?
そりゃ、あたしだって奈美に言われるまではあまり考えていなかったけれど、
普通に考えれば「夜に行われる研修会」「いつもと違う雰囲気」「自由行動」っていったらさ、それなりに、気になる人とか、好きな人を…誘わない?
右京は、わかるよ。だから、右京は乱馬を誘ったんだもの。
それを受けたってことは…乱馬、その意味ちゃんと分かってる?
それとも、わかっていて受けたの?


 


いずれにしても、この乱馬の行動にあたしは納得もいかなかったし、
そして…ショックも受けていた。
怒りと悲しみと、でも、「まだ」それを彼にぶつける権利の無いあたしの…無力さ。
行き先の無い複雑な感情が、あたしの中に渦巻いていた。

 

 

そんなあたしの様子というか気持ちを、一瞬で右京は見抜いたようだ。
右京は「ごめんな、あかねちゃん。でも、うちの誘いに乱ちゃんは乗ったからな」…そうとでもいいたそうな表情であたしを一瞥すると、
「じゃあ乱ちゃん、約束やで!明日の夜、な!」
そういい残して、さっさとその場から去って行った。
そんな右京の後ろ姿を見送りながら、あたしはぎゅっと、唇をつぐむ。


「…よかったじゃない。可愛い許婚と一晩一緒にいれて」


…本当は、全然良くないのに。
本当は、そんな風に他の女の子と過ごされるの、嫌なのに。
本当は、「なんでなのよ!」って感情をあらわにして聞いてみたいのに。
どうしてなんだろう。あたしはどうしても素直になることが出来ない。


嫌だって、感情をぶつければもしかして?…いや、相手はこの乱馬だ。
ぶつけたところで、「は?」とか返されるだけかもしれない。
許嫁なのに、彼女じゃない。許嫁なのに、恋人じゃない。
両方イコールなら、自信を持って問い詰めてとっちめてやることだってできるのかもしれない。
でも、今のあたしには…そんな自信がない。
悲しいけど、可愛くない態度で、可愛くないことを、可愛くなく乱馬にぶつけることしか出来ないなんて。

何か、今まであれこれと考えていたあたし、ばかみたい…。

 

 

…案の定、
「はあ?何言ってんだお前」
熱でもあるのか? 乱馬は、暢気な表情であたしにそんなことを尋ねた。
乱馬は、あたしがどうしてこんなことを呟いたのか。どうして、様子がおかしくなったのか。
やっぱり全然、わかっていない。
…誰を思うか、は乱馬の勝手だ。
だから、乱馬が選んだのがもしも右京だとしても、それは…受け入れないといけないことだとは思う。
だけど、
今まであんなことがあって、こういう状況に現在置かれていて、
あたしの目の前で無神経にこんな展開を起こしておいてこの言いぐさ。
「…」
…何言ってんだって、何よ。何なのよ。
あたしには、乱馬のそんな無神経ぶりに傷つきつつも腹が立った。
なので、

「一生、右京と仲良くやってれば!!」


バキ!
あたしは乱馬を二・三発その場でぶん殴ってやった。そして、そそくさと教室を後にした。

 

 

 

…乱馬を殴った手が、ちょっと痛かった。
でもそれ以上に、自分の心が痛かった。 
もっと早くあたしが動いていれば、こんなことにはならなかった?
ううん…そんなこと、きっとない。
だって、あんなことがあった後にこれだもの。
「気がする」「言ったも同然」…そんな不確かな言葉に浮ついて、気持ちを確かめるって大事な事を、後回しにした結果が、これ。

「明日、行きたくないなあ…」
右京の嬉しそうな顔と、笑顔でその誘いを受けていた乱馬の顔。二人の顔が、何度も何度もあたしの頭の中をよぎっていく。
「…」
痛む手をぎゅっと握りしめながら、あたしはため息をついた。
そして、小さな声でそんなことを呟いていた。

 

 

その夜。
気の進まないまま明日の準備も終えたあたしは、何となく寝付けなくて、家の二階にある「物干し場」へと出た。
空を見上げると、澄んだ空にキラキラと星が輝いている。
夕ご飯の時にやっていたニュースをみたら、明日は晴れ。
例の、百年に一度の流星群とやら、もばっちりと見ることができるらしい。
街頭インタビューで映っていた人たちは、口々に浮かれたコメントを残していたけれど、
「…」
当然ながらそんな気分になれないあたしは、気が付いたら何度もため息をついていた。


学校で乱馬を殴って以来、乱馬とは一言も口を利いてない。
たった半日だけど、こんなことは久しぶり。
でもなんだか、いつもみたいに仲直りはできてない。


…悪いのは、あたし。そんなの分かってる。
事情を話せば、きっと乱馬はこう言う。「またおめえは可愛くないヤキモチを」…って。
素直に、「あたしも乱馬と一緒に流星群が見たい」って言えばよかったって。
今更ながら後悔してる。
格好悪くても、後出しじゃんけんみたいでも、右京が誘ったあの時に、あたしもちゃんと言えばよかったんだって、思う。
あの時、乱馬にあたしの不満をぶつければよかったんじゃないかとも、思う。
右京みたいに、あんなに素直に言えたらどんなに楽だろうって、思う。
でも、あたしには言えない…。
素直になりたい。でも、なれない。あたしはそんな自分がすごく嫌…。
右京の誘いを受けた乱馬が、別に悪いわけじゃない。
それが彼の気持ちなら、あたしがそれに善悪をつけるなんて、おかしい。
こうなった以上は、もうあたしの中の問題だ。
「…」
どうすれば、素直に自分の気持ちをだせるのか。
一体、いつまでこういうことを繰り返すのだろう?
あたしは空を見上げながらまたため息をついた。


 


と。
ギィ…
物干し場の床が少し軋む音がした。
振り返ると、乱馬が立っていた。
「乱馬…」
「よっ」
そういってあたしの隣に並んだ乱馬も、ちょっと気まずそうだった。
そりゃそうだ。
乱馬にしてみれば、意味がわからないまま殴られ怒られた上に、あたしには避けられているわけだから。

「傷…痛む?」
「あ?いや、もう治った」
「そう。ごめんね、何かちょっと気が立ってたみたいで…」


右京との事でヤキモチをやいてとか、
乱馬の気持ちがわからなくて…とか、
素直に自分の気持ちをぶつけられないもどかしさとか…本当のことは隠したまま、あたしは乱馬に上辺だけで謝った。
そして、そのまま乱馬と他愛もない話をする。
…ホントに他愛もない話。
隣のクラスの誰と誰が付き合っているとか、新しく出来た本屋がどうとか。
乱馬に聞きたいことはいっぱいあるのに、それについては一切聞かないで。
挙句の果てに、
「ねえ、知ってる?昔かすみお姉ちゃんから教えてもらったんだけどね、夜空の花火って寝転びながらみると、まるで流れ星が降ってくるみたいに、幻想的に見えるんだって。だからさ、明日の流星群なんて、そうやってみたら素敵に見えるんじゃないかなあ?」
…なんて、右京と二人で見る流星群を、いかにロマンチックに見るか、勝手にアドバイスなんてしちゃったりして。
「ふーん…」
そんなあたしの一方的な話を、乱馬は真剣な顔で聞いてる。
試そうと思っているのか、それとも興味が無いのか。
良くわからないけれど、乱馬の反応にあたしは少し心を痛めつつ、
「百年に一度しか見られないんだもんね。見逃しちゃだめよ!」
「そうだな」
「見逃しちゃだめなんだから…」
あたしはそういって、口をつぐんだ。


…何やってるんだろう。話しながら、自分が情けなくてしょうがない。
ふっと、目頭が熱くなる。
これ以上こんな風に話を続けていたら、もしかしたら…泣いてしまうかもしれない。
今この状況で、乱馬に泣き顔を見られるのだけは、あたしはどうしても嫌だった。
「…」
あたしは、こみ上げてくる涙が瞳から零れ落ちないようにと、わざと夜空を見上げるように顔をあげた。
そして、



「明日、晴れみたいよ!きっと流星群も綺麗に見えるね」
「あかね、あのさ…」
「あたし!あたし…もう寝るね!乱馬も早く寝たほうがいいよ。集合時間早いんだから!」
「え?ああ、まあそれはそうだんだけど…」
「おやすみ!」
「ちょっ…おい、あかね!」


あたしは、何か言いたそうな乱馬を振り切って、逃げるように自分の部屋へ駆け込んだ。
バタン!
部屋の扉を閉めると同時に、あたしの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
…あたしは一体いつからこんなに泣き虫になったんだろう?
勝手に怒って、勝手に泣いて。勝手に乱馬を置き去りにして。
挙句の果てに泣き虫だなんて。
…こんなメンドクサイ女じゃ、乱馬だってそりゃあ、離れてしまうだろうに。
乱馬のばか、乱馬のばかばか!っていつもは叫んでいるけど、
「あたしの…馬鹿…」
自分に素直に行動している乱馬より、
素直じゃなくて、一人でめそめそして、先へ進むことも出来ないあたしのほうがよっぽど馬鹿だ。
あたしは、あふれてくる涙をぬぐいながら、ぽつんとそう呟いた。


 

翌日。
乱馬とは何となく、あれから一言も話せないままこの日を迎えてしまった、あたし。
「はーい、よい子のみなさーん!今日の天体観測のレポートは週明けにちゃんと提出しましょーね!」
それでも順調に研修は進み、いよいよ夜。
(ひな子先生が起きてられないという理由から)「流星群」観察レポートからただの「天体観測」に切り替わった時間も終わり、
あっという間に自由時間になった。
昨日、奈美が言っていたように、いつの間にやらカップルが出来上がって、そういう子たちは早々と、どこかへ出かけてしまった。昨日眠る前にちょっと調べてみたのだけれど、この研修所の近くに絶景の公園がある。
人気も少ない夜、そういう場所はカップルたちには楽園というわけで。
あたし以外でもカップルの子たちはその公園のことを調べ上げていたようで、皆、そのことを口に出していた。
なので、自由時間になると同時に、場所取り宜しく、さっさとそこへ向かったようだ。
皆、よくやるなあ。あたしは妙に彼らの行動力に感心していた。

そんな中、
「さ、さ、乱ちゃん!うちらも出かけよかー!」
昨日の約束通り、乱馬も、右京に連れられて出かけていったようだ。
勿論それをあたしが止めることも出来ないし、そんな権利もない。
だから、出かけたのがわかっても、あたしにはどうにもすることが出来なかった。
なので、
「ねえ、あかね。乱馬君、右京と出かけてっちゃったけど…いいの?」
あたしが部屋でボーっとしてると、気を使ったクラスメイトの一人である親友のさゆりが、声をかけてきた。
「別に…」
本当は気に食わないし、良くもないし、はっきり言うと嫌だ。
でも、あたしにはどうすることも出来ない。
なので、そっけない口調でさゆりにそう返すと、
「そう?あ、じゃあさ、このまま寝ちゃうのはなんだし、これから男子たちの部屋に遊びに行くんだけど一緒に行く?」
さゆりは、笑顔であたしにそんな提案をした。
どうやら、彼氏がいない女の子達は、やっぱり彼女がいない男子たちの部屋へと遊びにいくつもりのようだった。
さゆりは、クラスメートのひろし君と、もう一人のあたしの親友であるゆかは、クラスメートの大介くんと。
恋人同士ではないけれど、実はちょっとだけいい関係のようで、
特別に二人だけで連れ立って出かけるわけじゃないけれど、こうして遊びに行くことで一緒に時間を過ごそうとしているようだ。
「あたしは遠慮しとく。流星群、景色のいいところで見ようと思って…。ついでに散歩でもしてくるわ」
「そう?わかったわ。じゃあ、また後でね、あかね」
…親友の二人が幸せになるのは嬉しいし、一緒に遊びに行けばそれはそれで楽しいかもしれないけど、
でもせっかく誘ってもらっても、今夜のあたしはどうしても、気が晴れるような気がしない。
それに、余計な気を遣わせてしまっては、二人にも悪い。
あたしはさゆり達の誘いを断って、一人合宿所を後にした。そして、小さくため息をついた。

 

 

合宿所を出たあたしは、例の公園へと向かった。
当然のことながら、公園はカップルたちが点在していた。
あたしは彼らの邪魔をしないようにしつつ、その間を素早く移動して、公園の奥にあるとある場所へとたどり着いた。
…例の公園には、もちろんカップルたちが憩う芝生広場やベンチなどもあるのだけれど、
実はもうちょっと奥まで進むと、小高い丘のような場所が存在するのだ。
その丘には、今は使われていない「物見櫓」がある。
櫓は古いし、梯子を上らないと、辺りを見回せる物見台にはたどり着けない。
きっと、皆は公園を調べてこの櫓の存在を知っていたとしても、
梯子を上らなくてはたどり着けないような場所なら、カップルじゃ訪れない。
あたしはそう踏んでいた。思った通り、そこには誰もいなかった。
あたしは梯子を昇り、物見台へとたどり着いた。そして、ゴロンと仰向けに寝転ぶ。
物見台は、その機能故に人が二・三人入れるくらいのスペースしかない。
でも、今のあたしにはそれで十分だった。


 


あたしは、空をゆっくり見上げた。 
澄んだ夜空に、いくつもの星が瞬いていた。
口を開ければ、まるで星屑のドロップのように口の中に零れ落ちてくるかのようだ。
息を吸えば、そのままその星屑までも吸い込んでしまうかのような錯覚。
「綺麗…」
あたしは、静かにそう呟いた。
耳を澄ませば、静寂が辺りの音をすべて包み込み、時折吹く風が草木を揺らす音だけが流れ込んでくる。
瞳には、幾重にも瞬く星屑たちが所狭しと映りこんでくる。
幻想的。
そんな言葉でかたずけてしまうには、勿体ない世界だと、あたしは思った。
でも…
「…」
そんな美しい情景に包まれているというのに。
あたしの心は、やっぱり晴れない。
それどころか、美しい情景を美しいとは思えども、ところどころで違うものが頭や心の中を横切り、その情景に飛び込むことを躊躇せざる得ないのだ。
それはきっと…
「…」
ふっと、その幻想的で美しい情景から現実世界へと引き戻されたとき。
あたしの目には再び熱いものがこみ上げてきた。
「…」
あたしはぎゅっと唇を噛むと、夜空の星屑に向かい静かにため息をつく。

 

…二ヶ月前までのあたしって。
二ヶ月前までのあたしって、こんなに弱かったっけ?
乱馬が側にいないと、こんなに脆かったっけ?

 

あたしは、自分に何度となく問いかける。

ああ、そうか。
二ヶ月前までのあたしが脆くなかったんじゃない。
あたしは昔も今も脆かった。でも昔はそれに気づかないようにしていたし、認めようとしなかっただけなんだ。
きっと、素直じゃないあたしだけど、乱馬と出会ってからちょっとづつ変わったんだ。
そして、二か月前のあの出来事をきっかけに、あたしはもっと変わった。


許嫁だけど、恋人じゃない。
そんな微妙な関係から、一歩踏み出せるような気がしていたこの二か月。
それが、そうじゃないかもしれないと思った瞬間に…どうしていいかわからなくなった。
前みたいに、乱馬があたしの隣に当たり前のように並んでいるってことが、
それが恋人って関係じゃなくて、彼には別の恋人が出来るかもしれないってことになりそうで…

そんなことを考えていたら、
「嫌だ」って気持ちと「諦めないといけない」って気持ちがぐちゃぐちゃに入り乱れて、
どうしてよいかわからなくなって、
それで…


ああ、もう自分でもどうして良いかわかんない。


「…」
ただ一つ。わかっているのは、今あたしは乱馬のことが好きだっていうことだけ。
あたしはそっと目を閉じた。その目から、大粒の涙が一つ零れ落ち、静かに頬を伝っていった。


と、その時。


「あんまり泣いてばっかいると、見逃しちまうぞ」
そんな声がして、あたしのいる「物見台」へ梯子を上り誰かが上がってきた。
その声に、あたしは驚いてしまって、飛び起きたはいいけれど、一瞬パニック状態になる。
だって…


「らん…」
「見るんだろ?」
「え?」
「見るんだろ?流星群」


乱馬はそういって、驚いて声も出せないあたしの横に、どかっと座った。
「乱馬…」
やっと声が出せたあたしは、黙って一回頷いた。
微妙な沈黙の中、あたしたちはしばらく何も話さないで、二人で空を見上げていた。
だけど、何故彼がここにいるのか?右京はどうしたのか?…どうしても気になるあたしは、その沈黙を破る。
「ねえ…どうしてここにいるの?右京はいいの?」
すると乱馬は、ちょっと意外そうに、
「何でそんなこと聞く?」
と逆にあたしに返した。
その答えに、あたしのほうがちょっと拍子抜けだ。だけど、
「だって…昨日、約束してたじゃない。右京と、その…」
流星群見ようって、とあたしは小さな声で言った。
すると、乱馬は一度深呼吸をしてから、
「提出するレポートのことは頼んだけど…」
「え?」
「提出するレポートをやってもらう約束はしたけど、別に流星群を一緒に見ようとは言わなかったと思うけど」
と言った。
「じゃあ…今まで何してたの?」
「レポート書いてくれるっていうから書いてもらって…そのあと、うっちゃんはそのまま流星群見に行こうって言ってたけど、その…」
「…」
「その…まあ、そういう事なんだよ!だから、今うっちゃんは、研修所で他のやつらと遊んでる」
乱馬はそういって、ぽりぽりと頭を掻いていた。
「そういうこと」の部分が一番大切なんだけど、乱馬にはその部分ははしょられてしまった。
とりあえず、レポートをやってもらって早々に右京と研修所に戻ったら、あたしが流星群を見るために一人で出かけたことを知って、右京とはそこで別れて、あたしのことを探しにきたらしい。

「だって、せっかくなびきとか他の連中の目の届かない所で、一晩過ごすんだぜ?だから昨日…」
「昨日?」
「ああ」

乱馬はそういって、一瞬口をつぐんだ。が、意を決したように再び続けた。

「昨日の夜さ、その…俺からあかねを誘おうと思って切り出そうとしたら、おまえ何か泣きそうな顔で部屋に戻っちゃう し…今日も話かけるタイミングが無くて」
「!」

…物干し場での事。あたしはハッと息をのむ。
あの時、あたしは自分のことで精一杯で、あの時乱馬が何を思ってたかとか、何を考えてたかとか、そんなことを考える余裕があまりなかった。
まさか、そんなことを考えていたなんて。
あたしは少し驚く。
「百年に一度しか見られないんだろ?だったら、絶対あかねと一緒にみたいなって…思った」
そして、乱馬はそこまでいうと、さっきまであたしがそうしていたように、「物見台」のなかでゴロンと仰向けに寝転んだ。
「かすみさんが教えてくれたんだろ?花火見る時は寝転んでみると綺麗に見えるって。だから、流星群もそうやって見ると、綺麗に見えるかもしれないんだろ?」
「…うん」
「じゃあ、試してみようぜ」
乱馬はそう言って、自分の隣をぽんぽんと叩いた。ここに、寝ころべってことか。
「…」
あたしは、そんな乱馬に一度だけ頷いて見せた。そして、ゆっくりとその隣へと寝ころんで並んで再び空を見上げた。


 

 

…あたしは。
あたしには、そんな乱馬の気持ちが嬉しかった。
単純かもしれないけど、あたしが今さっきまで考えていた不安や、その他のことが、今この瞬間だけでもパッと、ま るで泡のように消えてしまったかのように思えた。
明日になったらまた、他の女の子と話したりしてる乱馬を見て、ヤキモチ焼いたり不安になったりするんだろうって分かっている。
こうして来てくれたからって、何かが前へ進んだってわけじゃないっていうのも、わかっている。
けど…今この瞬間のあたしは、乱馬がこうしていてくれるだけで、すごく幸せだった。
改めてあたしはそう感じていた。

 

 

と、その時。
ヒュッ…
何かが、あたしの目線の隅を駆け抜けていったような気がした。
「ん?」
あたしが首を傾げてるうちに、やっぱり同じ方向から、今度は無数の「光の矢」が駆け抜けていった。
「ああ!流星群!」
あたしも乱馬も、二人同時で叫んでいた。
予定よりもずいぶんと早く、流星群が空を駆け抜け始めたようだった。
次々と降る、無数の「光の矢」。
とめども無く続く、幻想的なその光の雨を、あたしも乱馬も、ただただ無言で見上げていた。
はじめは寝転んでみていたあたし達だったけれど、気が付いた時には二人とも起き上がって、空を見上げていた。
「綺麗…」
空を見上げたまま、呟くあたし。
「ああ…」
やっぱり空を見上げたままそう呟く、乱馬。
あたしたちの目に映る光の幻想に、それ以外の言葉が見当たらないのだ。
寧ろ、心に触れる美しさに言葉なんていらない。そう、思った。
…だけどそのうち。
乱馬が、あたしの手を急にグイッと引っ張った。
え?と思ったその次の瞬間、あたしは空を見上げた姿勢のまま、乱馬にすっぽりと抱えられてしまった。
あたしの身体に回されるしっかりとした腕。ふわり、と頬の後ろから感じる彼の温もり、そして背中越しに伝わる体温。
あたしは、乱馬の腕の中で、後ろから抱きしめられる格好で空を見上げてる状態だ。
「ら…」
あたしが急なことでびっくりして、その腕の中から逃げようとすると、
「…ほら、ちゃんと見てないと流星群、消えちまうぞ」
あたしを逃がさないように腕に力を入れたまま、乱馬は空を見上げていた。
自分の腕の中ででも、この光の矢を見ることは出来るだろ?ってことだろうか。
「…」
あたしは、その言葉に黙ってうなづいて、そのまま乱馬に身体を任せて空を見上げた。

 

 

…心臓はすごくドキドキしていた。
背中から伝わってくる、乱馬の胸も、なんだかドキドキしているかのように感じられた。

 

 

二ヶ月前まででは、絶対こんなこと無かった。
乱馬だって、あたしにこんなことしなかった。
何か急なことがあって、抱きかかえられて飛んだとか、そういうことはあっても、
こんな風にしっかりと、しかも意図的に抱きしめられるなんて、そういうことはなかった。
だから、思いもしなかった乱馬のこんな行動に、あたしはすごく驚いていた。
だけど…それ以上に、すごく、不思議だった。
最初あたしがここにきたとき見上げた空に瞬いていた星を見ても、綺麗だけど何だか気が散って頭と心にちゃんと流れ込んでこなかったのに、
こうしてここで、乱馬と二人で見る星は、どうしてこんなにも落ち着いて、素直に綺麗だと感じることが出来るんだろう。
乱馬と見てるから?ううん、それだけじゃない。
乱馬にこうして抱きしめられてみているから、
物理的にも、そして今心理的にも。
乱馬がこうして傍にいるから、綺麗なものを綺麗だと、素直に感じることが出来るのかなあ。
あたしが、片意地を張ったり素直じゃなかったりしているわけじゃなくて、
素直なあたしと、そして、そのまんまの乱馬で一緒に見ているから、こうして美しいものを美しいと、心に感じる余裕も出来ているのかなあ…

 

「ねえ、乱馬。あたしもね…」
だからなのかは、分からないけれど。
あたしの口から、いつもは言えないような、素直な気持ちがそのまま言葉となって口から零れ落ちた。
ちょっと照れるけど、でも、今絶対に言わなきゃいけないような、そんな気がしていた。
「あたしもね、乱馬と一緒に流星群、見たかったの」
「あかね…」
「良かった、こうして見れて…」
ああ、やっと素直に言えた。
あたしは乱馬のほうを振り返って、笑顔を見せた。


…え?


と。目が、合った。
てっきり夜空を見上げていると思っていた乱馬は、いつのまにか空ではなく、あたしのことを見ていたようだ。
乱馬のまっすぐな瞳は、あたしの瞳を捕らえて離さない。
まるで、魔法にかかってしまったかのように。
あたしは、その瞳に捕らわれて動けないまま、表情を元に戻す。
乱馬は、そんなあたしの瞳をとらえたまま、
「あの時、俺、ちゃんとあかねに言えなかったから…あれから何度も何度も言いそびれちゃったんだけどさ」
と、言った。
そして、一呼吸置いた後に、さっきよりもちょっとだけ小さな声で、
「俺…あかねが好きだよ」
とつぶやいた。
「!」
その言葉を聞いて、あたしは思わず息をのむ。
だって。
だってそれは…あたしが…望んでいた答え。
乱馬からずっと聞きたかった、その言葉。
そうだったらいいな、とか。言ったも同然、とか。
そういうことを考えている時には、ちらちらと何度も出てきた言葉。
でも、改めてこんな風に言ってくれるなんて、思いもしなかった。


「乱馬…」


他の言葉が、出てこない。
嬉しいし、聞きたかったし、欲しかった言葉。
でも、その思いが大きすぎて、言葉が逆に口を出てこない。
あたしは、乱馬の名前を呟いたまま、大粒の涙を一粒、頬へと伝わせた。


と、
「…迷惑だった?」
乱馬が不安そうな表情で、そんなあたしの涙を指で拭う。
そりゃそうだ。告白したら返事も貰えずに相手が泣き出す。告白した側にしてみれば、これほど不安なことはない。
が、今回のシチュエーションについてはその限りではない。
あたしは、乱馬の言葉に首を左右に振った。そして、
「違うの…あたし、ずっとそれが聞きたくて…でも」
あたしも素直になれなくて、なのに色々なことが重なって不安で、どうにもならない状況にいらだったりして。
…だから、嬉しい。
あたしは、そう呟いて顔を伏せた。
乱馬はそんなあたしを、少しの間じっと何も言わずに見つめていた。
でもその内、
乱馬はそんなあたしの、伏せている顔のすぐ側まで、ぐっと自分の頭を下げた。
そうした乱馬の表情は見えなかったけど、あたしのすぐ近くで、フッ…と乱馬が一度呼吸をしたのを感じた。
少し顔を横にずらせば、きっと…唇に触れる。
瞳に、彼の唇が映る。自分の唇が、急に少し熱を帯びてきているようにも感じていた。
乱馬があたしを抱いている腕にも、ぎゅっと力が入る。

 

…キス、される。

 

ちゃんとしたことがないから、どういう状況がそうなのか、っていうのはわからない。
でも、多分、キスされる。あたしは直感で、そう感じた。

「…ちゃんと見てないと、消えちゃうよ…流星群」
頭では分かっていても、緊張する。そして、初めてだから、不安。
震えるような小さな声でそう呟くあたしに、

「じゃあ、消しちゃおうか、流星群…」
と、やっぱり小さな声で返事をする乱馬。

 

「出来ないくせに」
「そりゃそうだ」
「良く言うわ」

あたしたちはそこで一瞬沈黙して、クスッと笑った。
そしてまた一瞬沈黙して…今度はどちらからともなく、そうたぶんそれは吸い寄せられるように、と表現するのが正しいのかもしれない。
あたしたちはようやく、唇を重ねた。
それが一瞬だったか、すごく長い間だったか、分からない。
余計なことは全然考えられない。
でも。
でもその瞬間、すごく幸せだったことだけは、あたしはしっかり感じていた。

 

 

…何度か重なった唇が離れた後。
「乱馬、あのね…」
あたしは。こうやって素直になれたついでに、あたしもちゃんと、自分の気持ちは伝えよう。
そう決めて、
「あのね…あたしね…」
ちょっと、恥ずかしいけど。でも、どうしてもあたしも言わなくちゃいけない。
あたしは、消え入るような小さな声ではあったけれど、
「あたしも…好きなの…」 
乱馬のこと。
…ようやく、その言葉を口に出すことができたあたし。
そんなあたしに対し、乱馬は嬉しそうな表情をした…ようにみえた。
ギュっ…とあたしを抱く乱馬の腕に、更に力が入る。
その腕の中で、これ以上となく真っ赤になってるあたし。乱馬は、そんなあたしの耳元で、「ありがとう」と囁いた。
がその後、
「すげー、嬉しい。でも…知ってたんだよなあ。それ。ずっと前から」
と、いつもの調子でそんなことを言った。
「…ばーか」
ナルシストで自信家で、でも照れ屋で。
あたしは乱馬のそんな言葉が嬉しくて、でも可笑しくて。
乱馬のほっぺたをぎゅっと抓ってやりながら、笑った。乱馬も、「いてて」と顔をしかめつつも、やっぱり笑っていた。

 

 

…そんなあたしたちの周りでは、まだまだ流星群が降り続いていた。
幾筋にも空から流れ落ちる、光の雨。
闇を駆け抜ける、悠久の時間を何度も走り抜けてきた、光の矢。
そんな流星群が、まるであたしたちを見守ってくれてるみたいだった。
あたしたちは、そんな流星群がまた闇のかなたへと戻るその瞬間まで。
ここへたどり着くまでにかかった時間を感じながらずっと、ずっと、何度も唇を重ねていた。


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