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Imitation

「へー…東風先生もふとっぱらじゃない。それ、ダイアモンドでしょ?」

…ある日の夕食後。
居間に座り、幸せそうに微笑むかすみお姉ちゃんの指をジーっと見つめながら、なびきお姉ちゃんがそんな事を呟いていた。
今日は特別に、あたしがあんまりにも「見せてくれ」とお願いするので、かすみお姉ちゃんが、ようやく婚約までたどり着いた東風先生から贈られた「婚約指輪」を、披露してくれていたのだった。
「いわゆる給料の三ヶ月分てやつでしょ?あ、でも先生は開業医だから給料っていい方はおかしいか。稼ぎの三ヶ月分てことだからー…」
そんな事をいいながら、かすみお姉ちゃんの横で電卓を叩き始めたなびきお姉ちゃんを、
「なびき」
かすみお姉ちゃんは笑顔でたしなめつつ、
「要は気持ちの問題なの」
と、自分の左手薬指にはまっている、きらきらと輝く指輪を見つめていた。

一体何カラットあるんだろう?と思わず思ってしまうほどの大きさ。
そして、居間の電気の灯りがダイアに反射して、キラキラと小さな七色の円が居間のテーブルの上に描かれていた。
それに加えて、大きな石を支えているシルバーのリング部分も鈍く光を放っている。
キラリ、キラリと光り輝くそれは、時にあたしの目をチカチカとさせる程だった。
そんな光り輝く豪華な指輪は、細くて華奢なかすみお姉ちゃんの指には少し大きめな石のような気がするけれど、
でもきっとそれは、東風先生の、かすみお姉ちゃんへの「溢れんばかりの気持ち」がそう見えさせるんだろう…。


「あたしも、豪華な婚約指輪をくれる素敵な旦那をみつけよーっと」
…と。なびきお姉ちゃんが突然そんな事をいって、ふう…とため息をついた。
「お姉ちゃんが満足するような豪華な指輪をくれる人っていったら、アラブの大富豪くらいじゃない?」
て言うか、結婚する気があるの?と、そんななびきお姉ちゃんにあたしがすかさず口を挟むと、
「あるわよ。オオアリ。国際結婚、オオアリよ?」
「アリなんだ…」
「悪くないわ。お金があれば、少しくらいの足りない愛は、大目に見ましょ」
なびきお姉ちゃんは、あたしのそんなツッコミに対してからからと笑っていた。
「そんなもんかなぁ…」
「そんなもんよ。いい?あかね。生きていく為にはお金が必要なのよ。愛だけじゃ生きられないんだからね。
  乱馬くんにもちゃんと貯金しとくようにいっときなさい」
そして、なびきお姉ちゃんは一方的にあたしにそうアドバイスをすると、笑いながら居間から出ていってしまった。
「もー、なびきお姉ちゃんたら。…でも、かすみお姉ちゃんのその指輪、ほんとに素敵」
あたしがなびきお姉ちゃんの後ろ姿に少しぼやきつつも、そんな事を呟くと、
「あかねもきっともらえるわよ、乱馬くんに」
かすみお姉ちゃんは、まるで菩薩のような顔でそう言ってあたしに微笑んだ。
「なっ何よ二人してッ。別にあたしは乱馬からなんてッ…」
あたしが耳まで真っ赤になりながらそう否定すると、
「何言ってるのよ今更。いつも仲良しさんじゃないの」
かすみお姉ちゃんはそう言って、あたしの顔を笑顔でじっと見た。
「べ、別に…」
あたしが赤い顔を隠すようにそっぽをむくと、かすみお姉ちゃんは「ふふ…照れちゃって」と更に微笑んだ。
そして、
「せっかく、大好きな人と許婚の仲なんだから。そんな事をいっちゃだめよ」
「お姉ちゃん…」
「…あら?でもちょっと待って。許婚って事はもう婚約してるって事よね。じゃあ、婚約指輪はもういらないって事?」
かすみお姉ちゃんが、首を傾げながら更にそんな事を呟いているので、
「あ、あたしの事はいーのッ」
あたしはまるで逃げるように、目の前にいた「笑顔の敏腕スナイパー」の前から立ち去った。
そして、それから数十分後。
「ふー…」
お風呂に入りながら、あたしはぼんやりと考えてみた。

…かすみお姉ちゃんに言われて、改めて気が付いたというか。
あたしと乱馬は既に「許婚」。
「許婚」って事は、すでに「婚約」してるって訳で。
「婚約」ってことは…それはつまり、将来「結婚するっ」て約束している仲って事なわけだ。
「ああ、でも、結婚なんて言葉はピントこないなぁ……」
あたしはお湯を指でピンっとはねながらそんな事を呟いた。


…あたし達は、一応「両思い」。
てことは、このまま問題がなければやっぱりそのまま「結婚」しちゃう訳で…。
何かのきっかけで籍を入れてそのまま夫婦になる。
何だかあたしには、そんなパターンが想像できた。


「そしたらやっぱり…婚約指輪なんかもらえないんだろうな…」
あたしはお湯に顔を半分つけながらぶくぶく…と呟いた。


…そりゃあ?
あたしだって一応女の子。
「給料の三ヵ月分なんだ」
そんな風に凝ったシチュエーションを考えなくてもいいから、
「婚約指輪」を、「彼」から受け取りたい…そんな願望が「無い」といったら嘘になる。
それに、
かすみお姉ちゃんの、あんなに素敵に輝く指輪を見せてもらったら…
ちょっとくらいは「羨ましい」って思っても悪くは無いよね。
そう、あたしは、なびきお姉ちゃんが望むような「高価な」指輪や結納品はいらないから…

「形に見えるものも…いいよなぁ。たまには…」
あたしはため息まじりにそんな事を呟いた。


…と、その時だった。
ガラッ…
不意に、浴室のガラス戸が突然、勢い良く開いた。
「え?」
あたしが一瞬呆気にとられていると、
「あかねっあのっ…」
そんな事を言いながらいきなり、乱馬が姿を表した。
「きゃー!」
ドコッ…
「ぐえっ」
…あたしが投げ付けた腰掛けが乱馬に命中して、乱馬が浴室から叩きだされる。
「いきなり入って来ないでよッこの変態ッ」
てゆーか、お前は風呂を覗いてたのか?と、あたしは更に乱馬を廊下へと叩き出してから、ピシャリとガラス戸を閉めた。
「…もう!何考えてんのかしら」
あたしは鼻息荒くそうぼやきながら、再び浴槽の中へとしゃがんだ。
そして、
(平気でお風呂のぞいたりするような奴だもんな…指輪のことなんて考えるような気回しは出来る訳ないか)
…考えるだけ時間の無駄だわ。
あたしは、浴槽でお湯に沈みながら、「ふう…」ともう一度大きなため息をついた。


…それから、二日後の夜。
そろそろ寝ようかなー…と、あたしがベッドに腰を降ろすと同時に、
コン、コン。
不意に、控えめなドアを叩く音がした。

夜のこんな時間帯、周りに(というよりなびきお姉ちゃんに)気付かれないようなこんなドアの叩き方をする奴は、一人しかいない。

「…」
あたしがこっそりとドアを開けると、
「…入っていい?」
ドアの外には、やっぱり乱馬が立っていた。
「いーよ」
あたしは、乱馬の腕をひっぱり部屋の中へと招き入れた。
「寝てなくて良かった」
ドアを後手でしめつつ、そんな事を言いながらあたしの体を抱き締める乱馬に、
「…寝てても構わず入ってくるくせに」
あたしも、ぼそっと呟きながら抱きつく。
「分かってんじゃねーか」
「何よお、えらそーに」
あたし達はそんな事を言いながらも、一度キスをしてから、離れた。
そして、
「あたし、今日はもう寝るよ」
あたしが再びベッドに腰掛けると、
「…」
乱馬は不意にズボンのポケットに手を突っ込み、
「…これ、やる」
茶色い小さな紙袋を、あたしに突き出してきた。
「何よ、これ?」
あたしが首を傾げると、
「いいから開けてみろよ」
乱馬がそういって、生意気にもあたしを急かした。
「もー、何なのよ」
あたしはぶつぶつ言いながらも、乱馬が言う通りにその紙袋をあける。
そして、
「え?」
中に入ってるものを見て…思わず言葉を失ってしまった。

…茶色い紙袋の底には、コロンと一つ、「指輪」が転がっていた。

「どうしたの…これ」
あたしは驚きつつもその指輪を袋から取り出す。
「…オモチャ?」
が。
部屋の灯りに当ててその指輪をよくみてみると、その指輪は、駄菓子屋とか縁日とかで売ってるような、子供用のプラスチック製の指輪だった。
「どしたの?これ」
あたしが「指輪」のオモチャを眺めながら乱馬に尋ねると、
「…まだダイヤは買えないから。だから、それ…」
乱馬はそう呟いて、真っ赤な顔で俯いてしまった。
「え?」
そんな乱馬の様子をみて、
(…まさか…この間のかすみお姉ちゃんと話してたあの話…聞いてたのかしら)
あたしは、そう直感した。
…そういえば、風呂であたしかぼやいてたときも、乱馬の奴何か言いたげに飛び込んできたっけ。
(あの時はただの”覗き”だと思って叩きのめしてしまったけど…)
あたしは何だかそれが乱馬に対して妙に申し訳なかった。
「これ、あたしに買ってきてくれたの?」
あたしが改まって乱馬に聞くと、乱馬は黙って頷いた。
そして、
「俺っ…俺さっ…ちゃんとその…するからッ…」
「え?」
「申し込むから……そりゃダイヤじゃないかもしれないけどっ。…でもちゃんと、その時は渡すから…婚約指輪」
だから今はそれで我慢して。乱馬はそう言ってあたしを見た。
「…うん」
あたしは、そんな乱馬の言葉に素直にそう頷いた。

何だかすごくドキドキして、
そして何だかすごく嬉しくて。

「…待ってる」
…そう乱馬に答えた時には、自分でも、今どんな表情をしてるのか分からなかった。
でもきっと、嬉しくて仕方なくて、顔が緩んでるんだろうな…それだけは確信できていた。


…ばーか。
ばか乱馬。
人一倍、照れやなくせに。
しかも高校生の男の子が。
一生懸命な顔して、このオモチャの指輪を選んでる姿を想像したら…


「ふふ…」
あたしは自然と笑みがこぼれた。
乱馬も、照れてはいるが優しい顔でそんなあたしを見つめてた。
そして、

「…仮のプロポーズされちゃった」
「…OKもらっちまった」

あたしたちは何となく幸せなこの雰囲気を噛み締めるように、お互いの顔を見合わせて笑いあった。
「…乱馬、つけて」
あたしは、オモチャの指輪を乱馬にそっと差し出した。
「ああ」
乱馬もあたしからその指輪を受け取り、あたしの左手をそっと支えながら指輪をあたしの薬指へと運んだ。


…と、ここまでは良かったんだけど。


「あれっ?あれっ?」
…指輪を薬指に運んだ乱馬が、そんな事を言いながら何だか焦り始めた。
「…ちょっと」
不審に思ったあたしが乱馬に声をかけると、
「いや…ちょっとサイズが」
乱馬はそういって、バツが悪そうな表情であたしを見た。
「は?」
一体何のことだろう?…そう思って見ると、乱馬があたしにはめようとしているオモチャの「指輪」は、情けないことに、あたしの左手薬指第一関節までしかはまっていなかった。
「な、なによこれ」
あたしが無理矢理指に押し込めようとしても、そこはこう、オモチャの「指輪」。
ぐにゃ…と形が崩れるばかりで、全然あたしの指にフィットしようとしない。
「せっかく乱馬がくれたのに…」
あたしががっくりと落ち込んでしまうと、
「お、オモチャだからしかたねぇよッ。オモチャだし…ごめんな」
そんなあたしよりも遥かに、乱馬はガックリと肩を落として落ち込んでしまった。
「乱馬が謝ることないじゃない。…あ、そうだ。ね、じゃあ明日買いに行かない?」
「え?」
「明日ね、近くの小学校でフリーマーケットがあるんだ。そこにもきっと、売ってるよ。おもちゃの指輪!」
「あかね…」
「今度は、ちゃんとサイズを見て買ってよね。それに…」
あたしは、俯いてる乱馬の手を取りきゅっと握ると、
「…あたしだけ指輪してたってしょうがないじゃない」
たとえオモチャでも、おそろいにしよ?仮でも婚約指輪でしょ…と、あたしはそう言って、乱馬の顔を見た。
「…うん」
乱馬は少しホッとしたような表情で、そう言ったあたしの手をぎゅっと握り返すと、
「たとえオモチャでも…指輪は指輪だもんな」
そう言って、優しい顔で笑いながら、あたしにキスをした。
「じゃあ、この指輪は…とりあえず乱馬が初めてプレゼントしてくれた指輪(仮)ってことで大事にしまっとくね」
あたしは唇が少し離れた瞬間にそう言って、少し変形してしまった指輪を机の引出しへとしまいこんだ。
「おお」
乱馬は、そんなあたしの姿をちょっと嬉しそうな顔で見つめていた。
…そしてその日は。
あたしと乱馬は、お互いがお互いで何だかぎゅっとずっとくっついていたくって、一緒に寝ながらも、どちらからとも無く手を繋ぐようにして、眠りに付いていた。


何十万も、何百万もする、大きく輝くダイヤなんかよりも、今のあたしは、乱馬がくれたあのオモチャの「指輪」が何より嬉しい。
ついてる石はプラスチック、リングの部分はすぐに変形するような代物でも、あのオモチャの「指輪」はあたしの目には、どんなダイヤにも負けないくらいキラキラと輝いて、大きく見えた。

「要は、気持ちの問題」

かすみお姉ちゃんがそう言っていたように、あたしもさっき、そう思った。
もしかしたら、
あたしがかすみお姉ちゃんの指輪を見たときにそう感じたように、かすみお姉ちゃんから見たら、さっきあたしの指(というか第一関節?)にはめられたあのオモチャの指輪でも、
「あかねの華奢な指には大きすぎる石ね」
そんな風に見てもらえるくらい立派に、そして大きく見えるかもしれないな。
…だって、今はお金もないし。
それに、高校生だし。
まだまだ、あたし達の回りもドタバタしてるし。
「祝言」だって、あげそこなったくらい。
どんなにあたしと乱馬が好きあっていたところで、それでも尚「身辺整理」が必要なくらい、あたし達を取り巻く人間関係は複雑。


…だったら、まだ今は「婚約指輪」だって、本物じゃなくたっていい。
オモチャの「指輪」で、今は充分。

「ちゃんと、その時は渡すから」

…そう約束してくれた乱馬の照れた顔と、このオモチャの「指輪」で今は充分よ。
あたしは、乱馬に抱えられるようにして眠りながらそんな事をずっと思っていた。

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