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夏の夜

振り返れば、人。
振り向かなくても、人。
人、ヒト。ひと。
三百六十度ぐるりとその場で回ってみても、ヒトの顔を見ないですむ角度がない。
それぐらい、駅の改札付近には人が溢れていた。



休みの日の夕方なのにも関わらず、平日の通勤ラッシュ時並に駅に人が溢れているのには、訳があった。
「花火大会」。
そう、今日はこの駅から徒歩でいける海岸沿いで、夏の風物詩「花火」大会が行われるのである。
夏の期間、何日間かあいだを置いては行われる花火大会の、今日は初日。
おまけに今日は、この地域の「夏祭り」も重なっているようで、
ただでさえ花火大会は人が多く足を運ぶと言うのに、とどめの夏祭りも加われば、
これこの通り、 平日の通勤ラッシュを思わせるほど、駅やその付近は人の動きが激しい。

「あかね、迷子になるなよ」
「う、うん」

…そんな人ごみの中。
乱馬とあかねも、周りの人間に押しつ押されつ、歩いていた。






そんな人ごみの中を歩いている二人。
今日の二人は、いつもの「二人」とは少し違う。
違うといっても、そんな大袈裟な事ではなくて、…たんに「出で立ち」が違う、それだけの話なのだが。

…赤いチャイナ服にいたずらっ子のような笑顔をする少年と、夏のひまわりよりも華やかに微笑む、制服姿の少女。
そんないつもの二人からは感じることの出来ない雰囲気が、今夜の二人を包む。

浴衣。

そう、二人は浴衣を身に纏っていた。

別に、花火大会に行くのに浴衣を着なくてはいけないわけではない。
あかねも乱馬も、そんな風に考えていたし、今まで友人と花火大会に行った時だって、動きにくい浴衣よりも、もっと軽装で出かけていくのが常だった。
でも。家の玄関へ、支度をしおえて現れたとき、

「あッ」
「あれ?」

…特に示し合わせたわけでもないのに、二人はそれぞれ、浴衣を纏っていた。



ちゃんと付き合い始めてから初めて、二人だけで行く花火大会。
だからなんだ、というわけではないのだけれど。
もしかしたらそんなシチュエーションが、今宵の二人に「浴衣」を纏わせる手助けをしたのかもしれない。
「…ふーん」
「…へえ」
あかねも乱馬も、それぞれ口には出さないけれど、お互いの姿を見ては、そんな事をお互いぼんやりと考えていたのだった。






「あちーなあ、もう。何だよ、この人の群れは。皆花火大会と夏祭りで浮かれてんじゃねーのか」
…人ごみの中を、流れに乗ってゆっくり歩きながら乱馬がぼやいた。
いつものようなノースリーブのチャイナ服とは違い、袖もしっかりついている浴衣が、乱馬にはどうもぴったりとこないようだ。
バサ、バサ…と、上半身が「このままはだけてしまうのではないか?」と思わせるような勢いで、乱馬は自分を扇いでいる。
「浴衣着てるあんただって、その浮かれた人の一部だと思われるわよ」
あかねはそんな乱馬をクスッ…と笑いながら見ると、
「いいじゃない、花火とお祭りの夜くらい。あたし達も浮かれようよ。ほらッ」
ついさっき、駅の近くの露店で買ったばかりの「ヨーヨー」をポヨン、ポヨンと上下させて見せた。
「小学生か、お前は。高校生にもなってヨーヨーかよ」
「なッ…いーでしょ、別に」
「ガキ」
が。
乱馬はあかねをからかっては怒らせる…いつもの調子で、あかねに接する。
「何よッ。あーあ、せっかく浴衣を着た乱馬は、ちょっと大人っぽく見えてカッコいいかなーなんて思ってやってたのに。やっぱいつもと変んないじゃない!」
見た目に騙される所だったわ。…あかねはぼそぼそとそんな事を口篭もった。
「おめーだって、浴衣着てもいつもとかわんね-よ」
すると。
乱馬は更にあかねの怒りを煽るような発言をし、
「何よッどうせ道着も浴衣も寸胴なら似合う、とかいいたいんでしょッ」
「そんな事言ってねーだろ」
…そう言って、急にあかねの耳元へスッと唇を近付けた。
「な、何よッ…」
不意に乱馬の気配を近くに感じ、あかねが少し身を引くと、
「だから。いつもとかわんね-って。お前さ…」
乱馬は、そんなあかねが自分から離れてしまう前に…一言囁いた。
『可愛いよ』
「えッ…」
…自分の耳元にたった一言だけど囁かれたその言葉があまりにも意外で、
「あ…あれ…?」
あかねは思わず、あたりをキョロキョロと見回してしまう。
「…なんでキョロキョロしてんだよ」
乱馬がそんなあかねに不服そうな目線を向けた。
「や、だって…他の人達の話し声とかがあたしの耳に聞こえてきたのかと思って…あれ?」
あかねは、そんな事を言いながらしばしあたりをキョロキョロとしていたけれど、
「…今、何か言った?」
…ようやく、それが自分に囁かれた言葉だと理解したあかねが真っ赤になって乱馬に尋ねると、
「言った」
乱馬は、目線は進行方向へと戻しながらも、人ごみの喧騒のなかでもはっきりと聞き取れるように言い切った。
「…あ、ありがと」
あかねがそんな乱馬にぼそぼそと照れながらもお礼を呟くと、
「お礼言う事じゃねーだろ。…ほら」
乱馬はそう言ってあかねの頭を一度、ポンと手のひらで叩いてから、手を差し出した。
「?」
あかねがその差し出された手を見て少し首をかしげると、
「あー、もう鈍いやつだなッ」
乱馬は、そんなあかねに対してから、大きなため息を一度ついた。
そして、
「ほら、そのヨーヨーッ。反対側の手に移して」
「えッ、あ、うん」
…まずは、あかねの手にしているヨーヨーを、手にしているのと反対側の手に移させた。
そして、
「そんで、この手を取る」
「あ」
「…じゃないと、手が繋げねえだろ」
自分と並んで歩いているこの状態で、手を繋ぐために空いていなければいけない手をようやく取る事が出来た乱馬は、
「ったくよ、手、繋ごうと思って振り返ったときには、ヨーヨー買い込んで、あげくにしっかり指につけてんだもんなあ」
そんな事をぼやきながら、ようやく繋ぐ事の出来たあかねの手にきゅっ…と力を込めた。
「な、何よッ。いいじゃない、もう。今こうやって繋いでいるんだから!」
あかねもそんな乱馬にぼやきつつ、繋がれたその手に力を込める。


「…あのね、乱馬も本当に浴衣、似合ってるよ。カッコいい」
「そんなこたあ、知ってる」
「は?」
「ほら、俺すげえ男前だから。何着ても似合うって事が証明されたってことだな」
「…あんたねえ。あー、もう誉めたあたしがバカだったわ」
…思わず、歩きながら頭を抑えるあかねと、
「冗談だっての。…ありがとな」
そんなあかねをからかって、まるでいたずらっ子のような笑顔であかねを見つめる乱馬。


「もー、人をからかってばっかり!」
「からかってばっかりじゃねーよ。さっき言った事はホントだぜ?」
「え…」
可愛いって言ってくれた事?…あかねがまさにそう口を開こうとした、それよりも一瞬早くに、
「ガキっぽいところはいつまでたっても治んねえよな。あかねは」
乱馬はそう言ってにっと笑った。
「そ、そっちかー!」
あかねは乱馬の繋いだ手を振り切って、さっさと混雑した道を歩き出す。


「何よ、乱馬のバカッ。もう知らないからッ」
「だーから。そんな怒んなよ」
「うるさいッ」
「冗談だって」
「冗談ばっかり」
「じゃあ、これはホント」
乱馬はそんなあかねをニヤニヤしながら追いかけてくると、今度は手を取るのではなく、

「きゃッ…」

グッ…と腰から手を回すようにあかねを側へと引き寄せると、そのままあかねの頭を抱くようにして自分の方へと引きつけ、そしてあかねにしか聞こえないような小さな声で囁いた。
「…」
あかねが頬を真っ赤にしながらも、
「どうせまた冗談て言うんでしょ?」
…そうイイタゲな顔でチラリと乱馬を見あげると、
「今度はホント」
乱馬はそう言って、一瞬だけ目を閉じあかねの頭へと首をもたげた。
そして、
「…ホントにホント」
乱馬はもう一度、はっきりした口調でそう言うとあかねに向って笑って見せた。


それは、先ほどまでのいたずらっ子の少年のような顔でなく、浴衣を身に纏った、青年の顔。
そして、そんな青年の顔には、目の前にいる「大切な人」へ、惜しげもなくその愛情を注いでいるのを物語っているかのような優しい笑みが浮かんでいた。

「…ズルイんだから」

そんな笑顔を見せられたら、もうこれ以上は怒れないじゃない。
あかねは、乱馬に向ってそうぼやいてやった。
そして、
「ね、そろそろ急ごう、乱馬。花火大会、始まっちゃうよ」
乱馬の笑顔に答えるようにあかねも笑顔を見せると、自分を抱き寄せるように抱いている乱馬の体に、自分も腕を回し、急かした。
「はいはい」
乱馬も、そんなあかねの、自分の体に回したてきたその手のほうも、自分の空いている側の手で包み込むように触れた。
二人は、お互いの顔を一瞬だけ見合わせて笑う合うと、お互いの体に寄り添い、その温もりを感じながら…人ごみの中を花火大会会場へと歩いていった。


…ちょうどその直後、あかね達が向っている花火会場では、
ドオン…ドン…ドン…
轟音を付近一帯に轟かせながら、花火が打ち上げられ始めていた。
闇夜に咲き乱れる、無数の「光」の華。
咲き乱れては、やがてパラパラと闇の中へと消え散っていく「光」。
そんな無数の「光」の下を、二人は寄り添って歩いていた。
寄り添って歩く二人の目にはきっと、花火の「光」だけではなく、もっと他の「光」も映し出されているに違いない。


『…ちゃんと付き合い始めてから初めて、二人だけで行く花火大会』


そう、今年の夏は、今までとは違う夏。
お互いの胸の中には今、色んな期待と、楽しみと、そしてほんの少しの不安と…そんな想いが満ち溢れていた。




「二人の夏」は、まだ始まったばかりだ。

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