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…お母さんが亡くなった時。

『お母さんはね、ちょっと遠い所にお出かけしてしまったんだよ』

そう説明してくれたお父さんや親戚の人々の言葉を信じて、小さかったあたしは、お葬式の後こっそりと一人お寺を抜け出した。 そして、「あたしにとっては『遠い場所』」へと続く道へと向った。

…それは、幼稚園の遠足で連れてきてもらった事がある、海へと続く、道だった。
幼稚園児のあたしにとっては、家からとても『遠い』海へと続く道。

あの日のあたしは、眩しいくらい照っていた太陽が雲で隠れてしまっても、 どんよりとした雲がやがて雨を降らせても、 バケツをひっくり返したような雨がやがて辺り一体を覆っても…その道を延々と一人、歩きつづけた。


『この道をずっとずっと歩いていけば、お母さんに会える』

そう、信じていた。
でも…結果は違った。

「あかね!」
「あかねちゃん!」

…あたしは、雨の中疲れて座り込んでいたところを、あたしを探しに来たお父さんやお姉ちゃん達に発見された。

「お父さん、お母さんはこの道の向こうに居るんでしょ?あかね、ここまでがんばって歩いたよ。だから連れてって!」
そう言って、無邪気に笑顔でせがむあたし。 そんなあたしを、

「お母さんはね、もっともっと遠い所にお出かけしちゃったんだよ」
「えー?もっと遠いの?お父さんでもあかねを連れてけないところ?」
「…そうだよ。お父さんもあかねも、お姉ちゃん達も。まだまだそこにはお出かけできないんだ」
「えー…」
「ごめんな、あかね」

お父さんは、そう言ってとても強い力で抱きしめてくれた。
その力があまりにも強くて苦しくて、
「お父さん、痛いよお」
あたしがその時そんな事を思ったこと、 そして、その時にお父さんがあたしを抱きしめながら涙を流していた事。

…あの時の事を、あたしはとてもよく覚えている。

あの日以来、もう「あの道」を歩く事はないけれど、 それでももう何年もたつというのにもかかわらず…あたしはあの時の事をとてもよく覚えていた。


*****

「乱馬、ほら。そっちの草も抜いて」
「ああ」

…セミの鳴き声も、ようやく聞きなれてきたある夏の午後。
青い空に映えるような、くっきりとした形の白い入道雲が瞳に印象的に焼きついた、良く晴れた日だった。
そんな青空の下、あかねと乱馬は、とある場所で草むしりやら掃除やらに勤しんでいた。

草むしりをしては、集まった草を離れた場所へと捨てに行く乱馬と、中央に聳え立つ墓石を、ゴシゴシと力を入れて磨くあかね。

そう、ここは街外れにある墓地。 あかねの母が、眠っている場所だ。
いつもここへ来る時は、家族一同、もしくはあかね一人でやってくるのだけれど、今日に限っては、あかねと乱馬、二人きりでここへやって来ていた。

別に今日は、あかねの母の命日と言うわけではない。
その他とくに「何かがある」という記念日でもないのだけれど、二人はここへとやってきた。

「今日は天気もいいし…お母さんの所に行ってこようかな」

…そもそも。
それは、今日の午前中、気まぐれであかねがそんな事を呟いた事から、端を発した。
それを横で聞いてきた乱馬が、

「一人で行くのか?」
「うん。だって今日は命日って訳でもないし。みんなも急な事じゃ他に予定だってあるだろうし」
「ふーん」

そう言って、あかねが支度をしているのをずっと眺めていたのだけれど、

「俺も行こうかな」
「え、いいわよ別に。無理に付いて来なくても…あたしのお母さんのお墓なんだから」

あかねがそんな乱馬に気を使ってそう言うと、

「おめーのお母さんなら俺のお義母さんでもあるだろーが」
乱馬はちょっと不服そうな顔であかねの頭をコツン、と手でこずくと、

「俺も支度してくる。ちょっと玄関で待ってて」
…あかねの返事を待つことなく、乱馬はそう言って部屋を出て行ってしまった。

(俺のお義母さんか…ふふ、あの乱馬がそんなことを言うようになったんだなあ)
あかねは、そんな乱馬を玄関でぼんやりと待ちながら、彼が呟いた言葉を思い出しくすりと笑ってしまった。

出逢った時は、反発ばっかしあってたのに。 今ではそんな彼も立派な「許婚」。
来月には正式に挙式を挙げる間柄にもなっていた。
もちろんその報告は、その話が決まった時点で家族皆で母の墓へとしたのだけれど、

(そういえば、二人だけでは報告に入ってなかったなあ…)

「待たせたな。さ、行こうぜ」
「うん。それにしても随分かかったのね、支度。玄関で三十分ぐらい待たされた気がしたんだけど?」
「男には男の身だしなみっつーもんがあるんだよ」
「あ、そ」

…三十分ほどしてようやく玄関に現れた乱馬に手を取られて歩き出しながら、あかねはそんな事をぼんやりと考えていた。


「…うん、綺麗になった。夏って、草も成長するのが早いのね」
「先週、雨もたくさん降ったからなあ」

…墓にやってきて、小一時間。
掃除も終わり、ようやくすっきりさっぱりとした墓の前で、二人は並んで手を合わせた。
そして、

「ほら、あかね、何かお義母さんに報告しろよ」
「何かって…あ、そうね。えーと…お母さん、あの…式まであと一ヶ月を切りました」
あかねがそんな報告を母の墓に向ってすると、
「宜しくお願いします」
そのあかねの横で、乱馬がペコリと頭を下げた。

「宜しくって、何か変じゃない?せめて幸せにしますくらい言っときなさいよ」
「そ、そうか?じゃあ…幸せにします」
「じゃあって何よ」
「ワガママな奴だなー。…お義母さん、改めまして、えっと…大事にします」
「…」

あかねも、そんな乱馬の言葉に今度は笑顔で頷いて、同じように頭を下げた。
二人はその後、それぞれ黙ったまま手を合わせ、 そして、
「…お母さん、また来るね」
「失礼します」
再び手を繋いで、墓のある寺から外へ出た。

「お母さん、絶対に喜んでくれたよね」

…寺から出てすぐ。 あかねがそんな事を言いながら、乱馬と繋いだ手を引っ張るように家へと続く道を歩こうと歩みを進めようとした。
しかし、
「え?」
クイッ…と、何故か乱馬はその場に立ったまま動かず、逆にあかねの手を引いて立ち止まらせた。

「どうしたの?家に帰ろうよ」
あかねがそんな乱馬の手をクイッと引き返すと、

「あかね、ちょっと散歩しようぜ」
「は?」
「こっち」
乱馬は急にそんな事を言い出すと、あかねの手を再び引き返した。 そして、家とは反対方向の道を歩きだした。


「ちょ、ちょっと乱馬ッ」
あかねは、乱馬に手をひかれながら歩きつつ、心中は穏やかではなかった。
それは、乱馬と散歩をすることが嫌なのではなく、乱馬が歩いていこうとするその道に対して抵抗があったからだった。


そう、今乱馬があかねの手を引いて歩いているその道は、あかねの記憶の中に今でもはっきりと残っている「あの日の記憶」の中にある道へと続く道だった。
何年経っても忘れる事のない、あの思い出の道。
「おかあさんに逢える」…そう信じて歩きつづけたあの思い出の道に。

「乱馬ッ。乱馬、そっちはだめなのッ…」

しかし。
あかねがそうやって抵抗するも、乱馬はまるでお構いなしに歩いていく。
乱馬は叫ぶあかねの手を引き続け、子供の頃だと何十分もかかったのに、今ではほんの十五分ほど。
たった十五分で、あかねをあの「道」へと連れてきてしまった。

左側には、防波堤。 その下には、無数のテトラポット。
右側には、防風林。何百メートルもずーっと先まで一列に並んでいる。
そして、真ん中にはどこまでも真っ直ぐと伸びている…あの時と同じ「道」。


あかねは今、あの時と同じ「道」…海へと続くまっすぐな道への起点に立っていた。
あの日と違って、雨も降らずに爽やかな夏の陽射しが道を照らし出してはいるけれど、あの日のようにこの道は、ずっと遠くへ、真っ直ぐと伸びている。


今のあかねであったなら、この先の海岸にも時間をかけずに行く事はできる。
でも、肉体的には簡単に歩ききってしまう事が出来ても、精神的にはそうでもなくて…何だか終わりのない、はるかはるか遠くまで続いている「道」のように感じた。

(どうして?あの話、乱馬にはまだしてないのに…)

あかねは、自分をここまで黙って連れてきた乱馬の方を見た。
乱馬は、眉をひそめて険しい顔をしているあかねに対し、とても優しい笑顔を向けていた。

「乱馬、何で…」
何でここに連れてきたのよ? …あかねはそう尋ねようと口を開きかけたが、


「…何で俺がここにおめーを連れてきたか、知りたい?」
あかねが尋ねるより早く、乱馬が口を開いた。あかねがそんな乱馬に黙ってうなずいて見せると、


「…おじさんがさ、俺にこの道の話をしてくれたんだ」
「お父さんが?」
「そ」
乱馬はそう言って、道の遥か先の方を見た。


「お義母さんのお墓に行くって話に言ったら、だったらあかねと一緒にある場所へ行ってやってくれないかって」
「え?」
「あかねにとっては良い思い出の場所じゃないはずだからって言うからさ。何でですかって聞いたら、その理由を教えてくれた」
「…」
あかねはその話を聞いて、胸が大きく鼓動した。
…父の早雲が何を思って、乱馬にその話をしたのかは分からない。
でも、あかねがこの道のことをずっと覚えていたように、早雲もしっかり覚えていたのかと思うと何だか胸が締め付けられた。


初めて見た、父の涙。 幼かったあかねにも、それはとても印象的だった。
「お父さん、何で泣いてるの?あかねが泣かせちゃったの?」
…確かあの後、あまりにも早雲が泣いているのでつられてあかねも泣き出して、
「二人とも、そんなに泣いて…」
慰めようとしてくれたかすみもつられて泣き出して。ただ一人、なびきだけがそれには加わらなかったけど、でもそのなびきも声をあげて泣いている三人に背中を向けて、ずっとずっと遥か続いている道の向こうを眺めていた。
…微かに肩を震わせながら。



「行こう、あかね」


…と。
そんな事をぼんやりと思い出していたあかねに、乱馬がそう言って再び手を引き歩きだした。
「行こうって…」
あかねが思わず足を止め躊躇していると、


「…おじさんに言われたんだ。あかねにとって、あの道はきっとあんまりいい思い出でないけれど強く残っているはずだって。そんな思い出を持ったままこれからずっと生きていくのは可哀相だって」
「お父さんが…?」
「そ。おじさんは、たまにお義母さんの墓参りに来ると、一人でこの道を歩いてこの先の海まで行って帰ってくるんだって。何回ももうそれを続けているから、あの時の思い出はそんなこともあったなって、そんな風に思えるように変ってるけど…あかねは違うだろうからって」
乱馬はそう言って、躊躇しているあかねの手をぎゅっと握った。


「お父さんが一人で歩きに行ってるなら…あたしだっていつかは…」
あかねがそう言って乱馬のその手を離そうとすると、


「本当はさ、おじさんがあかねと一緒に歩いてやりたかったけどって…言ってた」
乱馬のその言葉に、あかねは思わずその手を止めた。


「だったら誘ってくれれば良いのに…。今度ここにきたときにでも一緒に歩くことだってできるのに。なのに何でわざ わざ…」
あかねがボソッと呟くと、
「俺も同じ事をおじさんに言った。だったらおじさんがあかねと一緒に歩いてやった方が良いんじゃないですかって。そしたらさ…おじさん、俺にこう言ったんだ」
「何て?」
「あかねの辛い思い出を新しいものにしてあげようとする時に、隣に並んで一緒に思い出を作るのは…もう私ではないからねって。あかねの隣を歩くのは、もう私ではなく、君の役目だろ?乱馬君って」
乱馬はそう言って、一度大きく深呼吸をした。そして、


「…そうだよなって、思ったから」
乱馬はそう呟くと、あかねの手を改めて強く握りなおした。

「だから、行こう?あかね。お義母さんの所には続いてないかもしれないけど、この道の向こうには何かがあるかもしれないぜ?」
「乱馬…」
「…海があるって事だけは確かなんだけどな」
乱馬はちょっとばつが悪そうに言うと、頬をポリポリと掻いて笑った。
「…海、か。そうね。幼稚園の時、この道を通って連れてってもらったのよ。海」
あかねは、そんな乱馬の手を自分からもしっかりと握りなおした。


「幼稚園で海、か。砂遊びでもしてたのか?」
「うん。皆でね、砂のお城作り競争をやったの!私も作ったのよ」
「不器用なくせに城を作ったのか。というかホントに城になったのか?」
「うるさいわねッ。上手だったんだからね。あとは…」
…二人は、そんな話をしながらゆっくりと、海へと続く真っ直ぐなその道を歩き始めた。

 


あの、雨の日。
この道は、永遠に遠くまで続いているように感じた。
いつまでたっても、終わりが無くて、いつまでたっても、母の元へはたどりつけない…そんな道。
思い出すだけで胸の片隅がシクシク、と痛むようなそんな道を、

「早く海に付かないかな…あ、ねえねえ、競争しない?」
「はー?この暑いのに汗かいてどうすんだよ」
「いーじゃない、別に。よーい、どんッ」

…自ら走り出すように、あかねは今、進んでいた。 そんなあかねの傍らには、


「そんな靴で走ったら転ぶぞ、その内」
「そんなこと無いわよッ…あ!?」
「…ほれみろ。そそっかしいやつ」
そう言って、転びそうになったあかねを支える許婚が、一人。
「仕方ねえなあ」
許婚は転びそうになったあかねをあっという間に自分の背中へと背負うと、
「うら、しっかり捕まってねえと振り落とすぞ」
そう叫ぶや否や、あかねを背負ったままその道を走り出した。
「わ!わ…」
初めは振り落とされまいとしっかりと乱馬に抱きついていたあかねだったが、徐々に慣れてくると余裕も出てきて、
「もっともっと!もっと早くッ」
「はー?!これ以上早くかよッ」
「そうよッ走れーッ」
最後の方は、そんな事を言いながら乱馬の頭をペタペタと叩く始末だ。
「ちぇッ、俺今から尻に敷かれてんのかよ」
「何か言った?」
「別にッ」
乱馬は不服そうな顔をしながらも、あかねの言うとおりスピードを上げてその道を走っていく。
…やがて海が見えてくるとあかねは乱馬の背中から飛び降りて、今度はしっかりと地を付いてそこへと歩きだした。

 



この道を歩き始めて、数年経った。
数年たってようやく、あかねはこの道の「向こう側」へとたどり着いた。
楽しい。 たどり着いた瞬間、あかねはそう感じた。
あかねは乱馬の顔を見た。
乱馬は、何も言わずに笑いながらあかねを見ていた。
その瞬間、今まで胸の奥にしっかりとこびりついていた「あの日の記憶」が、「思い出」に変った。

(おかあさん。あたし、あの道の「向こう側」まで今、たどりついたよ。でもね、お母さん。たとえあたしが道の終点にたどりつけたとしても…)

「あたしも、乱馬も。まだまだ、お母さんの所には行けないみたい…」
誰に話し掛けるともなく、あかねは、呟いた。
小さいけれど、その言葉ははっきりとした口調で、あかねの口から発せられた。
「ん?何か言ったか?」
乱馬はそんなあかねに一瞬首を傾げたが、
「別に」
あかねは、乱馬に笑顔でそう答えた。




セミの鳴き声も、ようやく聞きなれてきたある夏の午後。
式まであと一ヶ月をきった日の出来事。
数年かけて思い出の「道」を歩ききったあかねは、今度は別の「道」を乱馬と共に歩き始めた。


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