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THE CHASE

十二月。「師」も「走る」とは良く言うものである。
そのような表現をされるように、この月は一年の中でもイベント色が強い。

だいたい、クリスマスムードの余韻に浸っていたいその側では、正月の飾りが売られているのだ。
幻想的なクリスマスツリーも、一晩経てば門松に早がわり。
それに違和感無くいられる人間というのは、全くもって適応能力に優れた生き物である。
それが証明されるのが、この十二月なのである。


さてそんな師走も、半分を過きたとある土曜日のこと。
今年はクリスマスが平日にあたる為、今日は、クリスマス前の土曜日ということになる。
勿論そんな日であれば、街の盛り上がりには異様なものがあり、 道行く道には赤緑のカラフルなイルミネーション。
商店街には大音量でクリスマスソングが流れ、デパートではクリスマスプレゼント商戦真っ只中である。
そんな中、賑やかな街の片隅。 デパートのクリスマス商戦に、他の人々同様、まんまと踊らされていた少女が一人、いた。

年の頃は十代後半。ライトブルーの制服が、よく似合 っていた。
プレゼントの棚の前で落ち着きなく動き回る度に、肩位までの短いへアが揺れている。
プレゼントを渡す相手の事を考え、迷っているのだろうか…時折思い出し笑いをしては微笑んでいるその顔も、中々チャーミングだ。

その愛らしさは校内一。
入学当初から話題を独占し、彼女と付き合う為に闘いまで挑む輩もいる、まさに学校のアイドル的存在。
風林館高校一年F組 ・天道あかね…ではなく、そんなあかねの姉 ・なびきであった。

あかねに比べるとかなりの堅実派で現実的。
こと、金銭に関しては驚くべきネットワークをもっているこのなびき、
勿論特定の彼氏は作らず自由きままに金儲けに勤しむ毎日なのだが、こうして今日 デパートでプレゼントを遷ふ姿は、まるで恋する乙女そのもの。
愛よりお金。 そんな彼女からすると、いささか信じがたい光景である。

 

 

「えっ、お姉ちゃんが自分でお金を…!? 」
「そうよ。久々にデパートに行ったんだけど、やっぱりこの時期混むのね 」

その日の夕方。
天道家の居間では、デパートで購入したプレゼントの箱をあかねにみせながら、なびきが微笑んでいた。

白い箱にブルーのリボン。

一般的にブルーは男性向けのケースが多い。
つまりなびきは、そのプレゼ ントを男性に渡すために購入してきたのではないか。
しかも自腹で、だ。

あかねはそんななびきの話に驚き、思わず立ち上がって勢い良く居間の戸を開け、縁側へ繋がる廊下のガラス戸も開けた。

…なびきのこの行動、まさか天変地異の前触れか。
今にでも、空から槍とか鉄砲とか降ってくるのではないか。
「おお神よ」ではなくとも、あかねがそんなことを思いながら夕暮れ時の空を仰いでいると、

 

「うわー!」
パシャーン!

…槍鉄砲の代わりに、裏庭で父・玄馬と手合わせをしていた乱馬が、父に吹っ飛ばされ宙を舞い、目の前の庭池へと降ってきた。

「冷てえ!」
ざばっ…と顔を水面から出し、女性へと姿を変えたらんまが、大声で叫んでいる。

「いつもと変わらないか」
…いや、一般人からすれば人が空から降ってくるなんてまずあり得ない状況であるし、ましてや水を被って変身する等どう考えても非日常的な光景だが、ことこの天道家に関しては、日常茶飯事なのである。
あかねは黙ってそのままガラス戸を閉めると、再びなびきの元へと戻った。
そして、

「ねえどうしたの?お姉ちゃん、どういう心境の変化?」
「どういうって?」
「だって、自腹でプレゼントを買うなんて…もしかして、彼氏、できたの? 」
興味津々な様子で瞳を輝かせ、あかねがなびきに尋ねると、

「秘密よ」

なびきはそんなあかねを軽くあしらい、微笑んでいる。

…これは、もしかして本当にそうなのか?否定も肯定もしない所が本当に怪しいところだ。

「クリスマス、近いものね。あ、明日の日曜日、デートとか? 」
あかねがそんななびきに更にそう尋ねると、

「あたしのことより、あんたはどうなの? 」
「え?あたし? 」
「人の事より自分でしょ。あんたこそ明日はデートじゃないの?あんた達、許婚でしょ?」
「ベ、別にあたしと乱馬は…」

端から見れば、イライラするほどもどかしい、両思いな二人。
それなのに、お互いが照れ屋で奥手で素直じゃなくて…と、恋愛が進行できない三大要因を全て抱え込んでいる二人故、なびきの心配するように、このクリスマス前の最後の土曜日だというのにまだ、クリスマスに何かをする…という約束さえ取り付けていなかった。
なびきの言うとおり、まさに「人の事より自分」の心配をするべきなのである。

「そ、それとこれとは…」
「関係あるでしょ。どんな間柄でも行事は行事でしょうが」
「で、でも…」
「ま、あたしは明日出かけるから?それこそ関係ないけどね」

なびきは、どもるあかねにそう言い放ち、プレゼントを大事そうに抱えて居間から出て行ってしまった。

「な、何よお姉ちゃんったら」
なびきがいなくなればこうして反論できるのに、いざ突っ込まれて質問されると、どもってしまう。

「あ、あたしだって、プレゼントくらいは用意しているんだから…」
…デートの約束とか、クリスマスの夜は一緒に過ごそうとか。
そんな話は全く乱馬としていないけれど、
あかねだってそれなりに、乱馬にプレゼントは用意をしていた。

 

プレゼント。
それは例の如く、「手編みのマフラー」 である。
何かあると必ずと言っていい程、あかねは乱馬に手作りマフラーを渡しているような気がする。
一体これで何本目なのだろうか。
でも悲しい事に、何本ものマフラー全てを巻いてようやく 「一本分のマフラー 」 と同じくらいの防寒力を得る代物だという事を、作成者のあかねはさほど意識していないのである。

 

…乱馬は、モテる。
クリスマスやクリスマス直前の休みは、きっと乱馬の事を好きで仕方がないシャンプー・右京 ・小太刀の三人が予約しているに決まっている。
あかねは自分にそう言い聞かせる事で、自分から乱馬に誘いをかけない理由を正当化しようとしていた。
だから、さっきなびきにそれを見透かされたような気がして、反論できなかったのも、ある。
では、当日は?
直前の休みがとられてしまったら、いざ当日はどうかと聞ければいいのだが…それが出来るなら、こんな風に一人で悶々としているあかねではない。

 

「…素直に誘えるなら、とっくに誘っているもん」
あかねは一人ぽつんと残された居間で、ボソッとそう肱いた。

と、その時だった。

「あー 、酷い目に遭った」
先程、庭の池に落ちて女の姿になっていた乱馬が、シャワーを浴びてきたのだろうか、男の姿に戻って居間 へとやって来た。
それまで乱馬の事を考えていたのもあり、あかねがそんな乱馬を思わずじっと見つめると、
「な、なんだよ」
乱馬は、そんなあかねの視線が居心地悪いのか、少し離れた畳に腰を下ろしながらも、少し戸惑っているようだ。
「ベ、別に…あ、乱馬。それよりね…」
何故乱馬を見ているのか、の理由を離すためには、今まで自分が考えていたことを乱馬に伝えなくてはいけない。
それはちょっと出来ないなあ…流石のあかねもそれは憚れ、とりあえずは乱馬から目をそらし話題をすり替えた。
そして、お茶を差し出す。

「サンキュ」
乱馬はあかねが差し出したお茶を一気に飲み干すと、あかねの口から先程のなびきの話を聞いた。
そして聞き終わると、

「あのなびきが男に狂ったか」
「狂ったって。失礼よ乱馬」
「失礼なものか。俺は一体、アイツにいくら搾り取 られたか。それを考えればこんな悪態、可愛いもんだぜ」
乱馬はべーっと舌を出しながらそう言うと、

「なあ、見てみたくねえか? 」
「見るって?」
「なびきの男だよ。アイツがほれ込んだ男がどんな奴か、見てみたくねえか? 」
そう言って、まるでイタズラを考えている子供の様な顔で、 あかねに笑ってみせた。

「そりゃ見てみたいけど…でもどうやって?」
姉には悪いと思いつつ、でもそれでも興味は隠せない。
あかねが乱馬にそう尋ねると

「明日あいつ、その男とデートなんだろ? 」
「そうみたいね」
「尾行してやろうぜ。そんで証拠を抑える」
乱馬はそう言って、にやりと笑った。

「証拠ってあんた…」
別に犯罪者じゃあるまいし、とあかねが反論するも、

「犯罪者の方がまだ可愛いぜ。相手はあのなびき…こんなチャンスは滅多にねえ!」
乱馬はあかねにきっぱりとそう言い切り、勝手に納得していた。

「尾行するのは良いけど…」
あかねはそんな乱馬に対して同意はするも、一つ気になることがあり、言葉を濁した。
そんなあかねの様子に乱馬も気が付いたようで、

「けど、なんだよ?」
「尾行はいいんだけど…乱馬、明日そんなことしていて大丈夫なの? 」
「明日?何で? 」
「だって…」

…他の子と、デートとか。

なびきの事うんぬんよりも、実はそちらの方が気になるあかねであった。
なので、語尾は小さくなったがあかねが乱馬にそう尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「明日は別に予定なんてないし…それよりもお前はどうなんだよ?」
「え?あたし…?」
「おめーこそ予定とか、その、ねえのかよ」

こちらが質問したつもりだったのだが、何故か逆にあかねが質問されてしまった。

「あ、あたしだって別に…」

乱馬に予定が入っていなかったのに心のどこかで安堵しているあかねと、突然切り返されて驚いたあかねと。
二つのあかねが頭の中でごちゃごちゃになり戸惑うあかねであったが、そこはしっかりと答える。
すると、

「じゃあ、決まりだな。明日はなびきのデートを追跡してやろうぜ。何時にでも出発できるように、今夜の内に準備、しておけよ」

乱馬はまるで私立探偵宜しく、偉そうにあかねにそんな指示を出し、居間から出て行ってしまった。

「な、なによあれ」

あかねはそんな乱馬の態度にいささか呆れつつも、

…なんだ、明日は誰かとデート、じゃなかったのか。

それがわかったあかねの心は少しだけ軽くなったような気がした。
一緒に出かけるその理由こそ 「なびきの追跡 」 というものだが、 結果的には明日、乱馬と一緒に出かけることになったのだ。
クリスマス前の、休日。学校以外で乱馬と二人でどこかへ行く。
…あかねにしてみれば、これは良い方向へと転んだと思ってもいいだろう。
それにこれならば、プレゼントする為に用意した、数えて何本目かの「手作りマフラー」 も、すんなりと渡せるかもしれない。

「…何、着ていこうかな」

追跡が失敗しない様な格好。
でも乱馬には可愛く見せたいような、そんな格好。
洋服選びに胸が躍るような、不思議な感覚。
あかねはあれこれと頭の中で洋服のコーディネートを早速始めながら、自分も部屋 へと戻っていったのだった。
****
翌日。

「行って来ます」
朝、九時半。
いつもより女性らしさを演出しているのだろうか。
ふわりとしたAラインのスカートとニットのアンサンブル。そしてダフルタイプのハーフコートを羽織ったなびきが、例のプレゼントが入っていると思われる紙袋を片手に家を出た。

それに遅れること三分ほどして、

「行って来ます」
「あら、二人で一緒にお出かけ?」
「まあ、そんなトコ」

…笑顔のかすみに見送られながら、あかねと乱馬も家を出た。

昨夜あれこれとコーディネートをした結果、
白いファー付きショートコートと、タ タンチェックのプリーツスカート。黒いタートルネック 。そしてロングブーツ姿のあかね。
その横には、いつものチャイナ服では目立つ…とばかりに、珍しくジーンズにセーター、そしてモスグリーンのダッフルコー トを羽織った乱馬と。

「ねえ乱馬、コートの下、セーターなの?それだとコートの隙間から風が入って、首、寒くない? 」
「いいんだよ、これで」
「何で? 」
「何でも」

そんな会話を交わしつつ、こっちの二人組も、いつもの高校の制服&チャイナ服とは想像 しがたい格好で、いざ追跡とばかりに道を歩いていた。

なびきとは少し距離を取って歩くようにし、一見普通のカップルのように並んで歩く、二人。
それぞれの手には、荷物を入れているバッグの他に、なびきが手に紙袋を持っているように、あかねと、そして乱馬 の手にも紙袋が持たれていた。
一応その紙袋の意味については、『外見もデートをしているカップルを装う』ということにして「その袋は小道具」ということにお互いしているのだが、
勿論の事、このお互いが持っている紙袋には、実はお互いへのプ レゼントが入っていたり、する。
そう。あかねが昨夜考えていたのと同じく、乱馬も今日のこの「尾行」をクリスマス前の週末を二人で過ごしプレゼントを渡す、良いきっかけだと思っていたのだ。
ただお互い素直でないが故に、「小道具よ」「小道具だ」と意地を張っているのだが。

…ほどなくして、なびきが立ち寄ったのは駅近くの公園だった。
二人はなにげない会話を交わしながら、なびきの少し後を歩いていく。

クリスマスが近いせいで、公園内に植えられている針葉樹には鮮やかなイルミネーションランプが取り付けられていた。
今日は天気も良く、空も澄み切ってとても高く見えた。
はあ…と息を吐けばすぐに真っ白く姿を変えてしまうが、時折空から降り注がれる陽差しが、この色鮮やかなイルミネーションと、そして公園の中央にある噴水の水に反射してキラキラと輝いていた。

なびきはゆっくりと、その公園を歩いていく。
そして、そのまま立ち止まることなく公園を出てしまった。
どうやらここは、待ち合わせ場所では無いようだ。

「公園から出ていっちゃったね」
「な」

待ち合わせ前に、寄っただけなのだろうか?
なびきに目をやりつつ、いつもと違うクリスマステイストの公園を堪能しながら、二人は再びなびきの後を追う。

公園を出たなびきは、今度は道を駅の反対側へと進んでいった。
そしてその内、駅の反対側にあるとある大きなビルの中へと入っていった。
そのビルの入り口には、「シティ展望台営業中」と大きな看板が出ている。
そう、ここは街を見渡せる、ちょっとした展望台があるビルのようである。

「展望台の中で待ち合わせかな? 」
「ありえるな」
同じエレベータに乗り込まないと、万が一展望台にいかなかった場合見失ってしまう。
とすれば、なびきに近づいても怪しまれないように、完全に「カップル」 を装いながら傍に居なくてはいけないという状況になってしまった。
そう、クリスマスが近いこの時期、昼間から好き好んで展望台に行くようなのは、家族連れかカップルぐらいなのである。
案の定、一人でエレベータに乗り込もうとしているなびき以外は、殆どがカップルだった。

「どうしよう、乱馬…」
「ど、どうしようって…し、し、仕方ねえだろ」

兄妹設定では無理がある。となるとやはりここは完全にカップルを装うしかなさそうだ。
あたりのカップルの様子を見回し、二人は頬を赤くするも、

「ほら、手」
「う、うん…」

二人して真っ赤な顔で、手を取り合う。

「許婚」ではあるが、まだ「恋人」ではない二人。
手なんて堂々と、それも人前で満足に繋いだ事なんて無いのだ。

「…」

エレベーター内が意外に混んでいるのもあり、手を繋いでお互いの身体を引き寄せ合う二人。
その気まずさと恥ずかしさに、二人は真っ赤な顔を伏せた。
ただしそれでもしっかりと手を繋いでいないと、お互いがはぐれてしまうので、

「手、離れるとはぐれちゃうから…」
「うん…」

なびきをチラチラと目の端で追いつつも、あかねも、そして乱馬も。お互いがしっかり繋ぎあっているその手が気になって仕方がなかった。
とその内、乱馬が自分のコートのポケットに繋いだ手を入れるようにして、二人の手が簡単に離れないようにした。

「…」

あったかいな。
コート内の布に包まれたのもあるが、それでもまだしっかりと繋いで離さないその手の温もりを、あかねは改めてそう感じていた。
実はあかね、本当は洋服のコー ディネートの際、コートとお揃いの白いフアー付き手袋も用意をしていた。
もちろんそれは、カバンの中にも入っている。
デザインだって気にいっているし、手はしっかり繋いでいても、寒かったり、それに直接つなぐのが本当に恥ずかしいのならば、それを付ければ良い話なのだ。
でも、

…乱馬の手の方が、温かいな。 それを知ってしまったら、カバンの中に眠る手袋の存在なんて、すぐに忘れてしまう。
いや、忘れたいと思った。
手袋の事は今日一日、乱馬に黙っていよう。あかねは、そんな事をこっそりと思っていたのであった。

 

程なくして。

「すごーい」
「へー 、初めて見たぜ」
エレベータは最上階の展望室 へと着いた。
なびきは…というと、なにやら展望室の隅にあるベンチに腰掛け、カバンの中から手帳を取り出し、それを眺めている。
しばらく様子を窺っていたのだが、なびきに近づく人物は…見当たらない。

どうやらここも、待ち合わせ場所とは違うようだ。
なびきは着いてからずっと、景色もろくに見ずに自分の手帳を見ている。
今日のスケジュールの再確認でもしているのだろうか。
どちらにせよ、なびきがこの場所で時間つぶしをしているのは 確かな様である。

…この展望室は説明を見たところ少し特殊で、ゆっくりと展望室から外を眺めてもらう為に、エレベータは三十分に一回しか動かないように設定されている。
つまり、三十分総入れ替え制なので、一度昇ってしまったら、時間がくるまで降りる事は出来ないのだ。

そういう事情なので、この空間に居る限りはなびきを見失う事も無い。
相手も見当たらないことだし、せっかく景色も良いので、二人もこの制度にあやかって景色を堪能しながら時間を潰す事にした。

 

普段は上から眺める事の無い、住みなれた街の景色。
木も、森も。家もビルも、何もかもがまるで、ミニチュアのようだ。
そこに自分達が居住している事を考えると、なんだか不思 議な気分がしてならない。

「あ、乱馬。ほらほら、あそこがうちの学校だよ」
「じゃああの辺が家だな…あ、ほらあれだぜ、あの瓦屋根…上から見ると、すごく広いよな、やっぱり」

透明の分厚いガラスに、手をつないだまま景色を眺める二人。
なびきから見えない位置にいるのだから、別に手を繋いでいる必要も無いのだが、
そうやって景色を見ている間も、二人はコートのポケットの中でぎゅっと手を繋ぎあってたる。
…その事に気が付いているのかいないのか。いや、あえて気付かないように装っているのか。
二人はそれをわざと口にしないまま、展望室での景色を楽しんだ。

 

 

 

でも。楽しい時間はあっという聞に過ぎるもの。
そうやってしばしの展望を楽しんだ二人は、再びなびきにばれないように、動き出したエレベータに乗り込んで追跡を再開した。

なびきはビルを出て、今度はビルの裏手の路地へと進んでいく。
路地、とはいっても夜のお店が入る雑居ビルがあるような路地ではなく、小酒落た雑貨屋や洋服屋が並ぶような、石畳の坂道が続く路地だ。


「かわいいなあ…」
なびきを追いつつも、道々の雑貨や洋服に目を奪われるあかねは、思わずそんなことを呟いた。
「欲しいのか?」
すると、その声に反応した乱馬が、前方を歩くなびきの事は気にしつつ、そんなあかねの為に立ち止まる。

「でも、我慢しなくちゃ。無駄遣いばっかりだし、あたし」

雑貨屋の、店頭にある小さな犬のマスコット。
可愛いもの好きなあかねが好みそうな代物だった。
それを見つめながらそう呟くあかねに、

「俺が買ったら、無駄遣いじゃないだろ」
「え?」
「俺が買ったら、関係ないってこと」

乱馬はそう言って、近くにいた店員に声をかけ、あかねが見ていたマスコットを素早く購入した。
そして、

「…ほら」

と、ぶっきらぼうな口調ではあったが、購入したマスコットを、あかねに手渡してきた。
どうやら、あかねにくれるということらしい。

「あ、ありがとうつ…でも、い、いいの?」
乱馬の所持金に、そんな余裕があるわけでは無いということを普段から知っているあかねが、貰ったマスコットを握りしめて乱馬を見ると、

「いいの。それよりほら、行くぞ。なびきを見失っちまう」
恥かしいのか、多くを語らぬまま乱馬はそう言って、あかねの手を引き歩き出す。

「あ、ま、待ってよ…」
あかねは買ってもらったマスコットを大切にかぱんの中にしまうと、乱馬に並ぶように歩調を速めた。
本当は乱馬にプレゼントを貰った喜びを噛み締めたいのだけれど、すでに先を歩いているなびきが、石畳の路地を抜けきってしまったのが見えていたからである。

なびきは石畳の路地を抜け、とある店舗へと入った。
公園 ・展望室 ・お洒落な店が並ぶ石畳の道…なびきが次に訪れたのは、寒空の下、それでも繁盛しているオープンテラスのあるカフェだった。
そういえば…と時計をみると、時刻はもう昼の一時近い。
一般的にはランチタイムだ。
びきは…というと、そのカフェに入ると、ベーグルとコーヒーを注文していた。
そして、テラスの端っこの席へと腰掛けると、街を眺めながらのんびりと、食事をしている。

「お姉ちゃん、ここで待ち合わせかなあ」
なびきにばれないように席を確保しつつ、 同じように食事を注文し、それを口に運びながらあかねは呟いた。
「デートは午後からなのか?にしても、アイツ、家出るの早過ぎだよなあ」
既に注文したものを平らげ、あかねから更にベーグルを半分貰いそれを口に入れながら、乱馬もぼやく。

「でも、こんなカフェで待ち合わせなんて…随分とお洒落な人ね」
「間違いなく、九能先輩ではないことは確かだな」
「乱馬ったら。でも、一理あるかも」
「まあ相手が九能先輩だったら、あいつもある意味勇者だぜ。…と。…は、は、ハックション!」

と。

なびきについての考察をあれこれとしている最中、乱馬が不意 にくしゃみをした。
昨夜、池に落ちて体を冷やしたのが原因か。
それに加えて真冬 のオープンカフェだ。
コートで覆えない首のあたりから、風が吹き込むのだろう。

「乱馬、寒そう…」
あかねは自分が首に巻いているマフラーを解いて乱馬に渡そうとするが、

「いいよ別に…それにおめーが風邪ひいちまうだろ」
乱馬はそう言って、あかねの手を止める。

「そのマフラーは借りられねえよ」
がんとして受け入れない乱馬にあかねも少し戸惑った。が、

「じゃあ…これなら巻ける?」
あかねは、自分が持ち歩いていた紙袋を、乱馬に渡した。
中身はそう、数えて何本目かの、「手編みのマフラー」である。

「…何だよ、これ」
紙袋を受け取り、一瞬「ん?」と眉をひそめるもすぐに取り出し素早く首に巻いてみる乱馬に、

「寒いって言うから…その、ちょっとでも温かくなればいいなって思って…」

この状況下でも、素直に 『乱馬にプレゼントするために編んだのよ』 と言えないあかねは、顔を染めて俯いてしまった。
それに加えて、作っている時は一生懸命だったが、日の光を浴びた明るい場所で 客観的にそれを見ると、編み目がよく落ちているのが良くわかる。
このオシヤレなオープンカフェには、どう考えても不似合いな代物だ。


「あ、や、やっぱりそれ、あたし使うから…」

何だか急激に恥ずかしさがこみ上げてきたあかねは、そう言って「だから乱馬はあたしのマフラーを」と、あかねが乱馬に渡した マフラーと紙袋を回収しようとした。
が、

「これ…返さないからな」
「え?」
「だからっ…お前はこれ、俺に貸してくれるつもりで渡したのかもしれないけど…俺、返さないからな 」
あかねが回収するよりも先に、乱馬があかねにそう言い放ち、そっぽを向いてしまった。

「でも…」
「でも、でもなんでも、俺はこれが気に入ったから…その、俺の襟元にも風よけにそれなりになるし…だから、その…そういうこと!」
乱暴な口調ではあるが、そんな乱馬の顔は口調と相反して、照れている様な…少し嬉しそうな、そんな風にうかがえた。

 

そう。
乱馬は、あかねが恐らく自分に手編みのマフラーをくれるのではないかと予想して、はじめからそれをするつもりで、自分用のマフラーを故意にしてこなかったのだ。
だからようやく貰えて安心したのと、後は本当にあかねが自分の為に、完成具合はどうであれ、手間暇をかけてプレゼントをくれたというのが、本当に嬉しいのである。
人の十倍は不器用なあかねだ。ただでさえ時間のかかるマフラーが、一日二日で出来るはずがない。
作っている間は、絶対にその相手の事を考える。
その時間だけでも、あかねの心を占領できたような気がして…乱馬はそれも、実は嬉しかった部分も、ある。

 

「うん…」
そんな、あかねは。
乱馬の心は全て測れずとも、多分喜んでくれたのだろうということは、あかねにもわかった。
なので、あかねは無理にマフラーを回収するのは止め、その代りに乱馬に笑顔を向けた。

乱馬はそんなあかねの様子にごほん、と一度咳払いをすると、

「あの、これ…」
と、あかねに触発され、自分も渡さねば…と、やはり持ってきた紙袋をあかねに差し出した。
が、

「家に帰ってから、開けろよそれ」
「え?どうして?ここで開けちゃダメなの?」
「どうしてって、それ…」

手袋なんだ。乱馬は小さな声でそう肱いた。

新品の手袋、しかも自分がプレゼントしたものを身に付け、喜ぶあかねの姿は乱馬とて見てみたい。
しかしそうすれば、もしかしたら先程までののように、手は繋げないかもしれない。
手袋をしたまま手を繋ぐなど、お互いの手の温もりも感じられないし…それに違和感を感じて解いてしまうかもしれない。
そしたら、再びまた手をつなぐ、という行為に至るには道のりが遠くなる様な気がしたのだ。

勿論それを素直に伝えるのは恥ずかしくてできないのだが、乱馬がそんな事を思いモゴモゴとどもっていると、

「じゃあ、乱馬の言うとおりにする」

そんな思いが通じたのか、かどうかは分からないが、あかねは紙袋を無理に開けようとはせず、そのままテーブルの隅に寄せた。 あかねのカバンの中にも、先程出さなかった自分用の手袋が入っている。
でも、せっかく乱馬が新品をくれたのなら、それを使いたい。
ただ……やはりそこは、あかねも乱馬と同じ事を思ったのだ。
手袋をしてしまえば、なにげなしに手を繋ぐ、ということがなくなるかもしれない。
だとしたら、これ は黙っていよう。あかねも、そう思ったのだ。

 

「ありがとう…乱馬」
あかねは改めて乱馬の顔を見つめると、自分でも驚くくらい素直に礼を述べ微笑んだ。
乱馬もそれにつられて自然に顔を緩ませていた。
…その光景は実に和やか。
そして実に微笑ましくもあり、初々しいものでもあった。
これが普通のカップルデートであれば、どれだけ幸せかだろうか。

しかし、忘れては行けない。
そう、二人がこうしてここにいるのは、姉のなびきを尾行してきてのことなのである。
ところが…

 

「あ!?」
「いない…」

 

…二人がプレゼント交換をし合っている聞に、なんとなびきは、既にカフェから姿を消していたのだ。
慌てて二人もカフェから飛び出しあたりを見回すが、すでになびきの姿は無い。

「見失っちゃった…」
「ここまで来たのになあ…」

二人はガックリと肩を落とし、お互いの顔を見合わせる。
見失ってしまった物は仕方がない。
しかし、肩を落としている割には、さほど彼女を見失った事に対して、自分達がショックを受けていないということに、二人は気がついていないわけでもなかった。
それに、このカフェの周りは元々デートのメッカなのか、人通りが多い。
美しい街並みやウインドーショッピングをしながら 散歩をするのにも全く悪くは無い場所であった。
それに運が良ければ、デート中のなびきと遭遇するかも、しれないし。

 

「ど、どうする?」
「どうするって…どうしようか…」

自分達の傍を歩いていく幸せそうなカップルの姿を横目で見ながら、二人はしばしそんな事を口にしていたが、

「…まだ時間も早いし、せっかくだから散歩してくか?」
「…うん! 」

やがて、乱馬が再びぎこちなく差し出した手を、あかねは素直に取った。



…本当はもう、 「カップル」 のフリなどしなくてもいいのだが、それはお互い触れずに歩く。
きっかけは 「なびきの尾行」 だったけれど、それが終わった今では、プレゼント交換まで行った立派な「クリスマス前デート」。
嘘から出た真、瓢箪から駒。
二人にとっては願っても無い出来事へと相成ったのであった。
乱馬もあかねも、そんな事を思いながら改めて昼下がりの街へ と繰り出していった。

 

 

 

 

…そして。
こうして、あかね達がようやく 「自分達の」デートを始めてから一時間くらい過きた頃だろうか。

「ただいまー」
何故か手ぶらのなびきが、天道家にフラリと戻ってきた。

「あら、なびきちゃん早かったのね。あかねちゃん達も出かけたんだけど、まだ帰ってきてないのよ」
そんななびきを笑顔でかすみが迎えると、

「あかね達なら、もう少し遅いと思うわよ。なんせ今日は、クリスマス前に仲良くデートみたいだし?」
「まあ」
「クリスマスイルミネーションの綺麗な公園を見て、街を見渡せる展望室で景色見て、雑貨屋が並ぶ道で買物して、おしゃれなカフ ェでご飯食べていたもの」
「まあ、素敵」
「でしょ?今頃、カフェの回りでも歩いてるんじゃない?あの辺、デートスポットだから 」

なびきはさらりとそう言って、靴を脱ぎ捨てさっさと家の中へとあがった
…そう。
なびきは「尾行されている」フリをしていただけで、 実際は自分を意図的に「尾行させていた」のである。
もっというなれば、 クリスマスの予定も約束していない奥手な妹カップルを手助けするべく、わざと自分がデートコー スを歩いて、二人にわざと尾行をさせていたのだ。
二人はばれないようについて歩いていたつもりだったが、実は初めから全部ばれていた。
完全に、なびきの方が一枚上手だったということである。

そんななびきに、かすみが再び声をかけた。

「ところでなびきちゃんは、今日は予定は無いの? 」

すると、

「予定?ああ、もう済ませてきたから」
と、自分の事はそこそこに説明をすると、さっさと階段を昇り自分の部屋へと向かっていった。
が、そんななびきの手には、出かけるときには持っていたはずの「紙袋」は…ない。

 

 

一体なびきは持っていた 「プレゼント 」 をいつ、手離したのか?
カフェから家に帰るまでの短時間で、何をしていたのか?
そして、一体誰にその 「プレゼント」 を渡してきたのか?

 

 

…あかね達の事はともかく、非常に興味深い問題が後に残ってしまったのだが、
残念な事にそれは、別の機会に語られる事になる。


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