【らんま1/2の二次創作小説サイト】| INFORMATION | NOVELS |BOOKMARKS |CONTACTS | HOME |web拍手

運命ゲーム

中国、呪泉洞のあの戦いから帰ってきて、1ヶ月ほどしたある日の夜。
あかねの用事に付き合っていたせいで、帰宅するのが遅くなってしまった俺たちは、近道をしよう…と、いつもの帰り道とは違う道を通り天道家へと歩いていた。
いつも学校返りに通る川沿いの、フェンス沿いの道とは違い、今俺たちが通ってる道は、ビルが幾つも建っているような道。
ビルと言ってもいわゆるオフィスビルのような華やかなものではなく、
「廃墟」
…こう表現するのが適切なのかもしれない。
外灯も所々切れていて薄暗く、唯一、空に輝く満月の光が、俺とあかねの足元を照らし出している。


「それでね、ひどいのよ、なびきお姉ちゃんたら。あたしが買ったばっかりの新しい服をね…」

…そんな夜道を、俺たちは二人で歩いていた。
あかねは、学校を出てからずっと色んな事を俺に話したりぼやいたりしている。
俺は、そんなあかねの話を黙って聞いている。
そんな俺たちは、この暗い夜道、ちょうど拳二つ分の距離ををとって並んで歩いている。
あかねの話を聞きながら、俺は幾度となく自分の視線をあかねの手元へと向けていた。

…手を繋いで歩きたい。

本当は、そう思っているから。
でも、
それを知っててわざとそうしてるのか、それとも本当に気がついてなく無意識でそうしてるのか。
あかねの手は、「これでもか」というぐらいしっかりと、両手で通学カバンの取っ手を握り締めている。
ったく。コイツもいっそのこと、俺と同じ背中に背負うタイプのカバンにすりゃあいいのに。
俺は、そんな事を思いながらこっそりとため息をついていた。

…と、その時。

「乱馬」
あかねが不意に俺の名前を呼び、その場に立ち止まった。
そして、今まで悔しくらいにしっかりと握り締めていたカバンの取っ手を、片方の手だけで握るようにカバンを持ち替えていた。
しかも、カバンを持っていない空いているほうの手は…俺のいる側の手だ。
あかねよ、ようやく、気がついてくれたか!
俺はそんなあかねの態度にパアっと表情を輝かせて、
「手、繋ぎたい」
…そう言ってくれるだろうとあかねの唇が動くのをじっと待つ。
が、
「乱馬…あたしとゲームしない?」
「…は?」
…ようやく開いた口から飛び出した言葉は、俺が全く予想だにしないものだった。


は?
ゲーム?
何の?
ていうか…何で?


「あの…」
俺が思わず首を傾げてしまっていると、
「ほら、道…暗いじゃない?外灯も所々切れてるし。こんな道ゆっくり歩いてくのは怖いから、早く通り過ぎたいし」
「…」
「だから、こっからそうね…大通りに出るまでのこの路地、走って行こうと思って考えてたんだけど、ただ走って通り抜けるだけじゃつまんないかな
ないかなと思ってさ」
あかねはそう言って、俺の顔を見上げた。
そして、
「だから…あたしとゲームしない?こっから、路地を抜けきって大通りへ出るまでの距離をー…あたしが先に走って逃げるから、乱馬がそれを掴
まえるゲーム!乱馬に捕まらないであたしが大通りまで出れれば、あたしの勝ち。あたしが乱馬に捕まっちゃったら、乱馬の勝ち。勝った方が、負けた方になんでも一つだけ命令できるの。どう?面白いでしょ?」
「お、面白いか?それ…」
「面白いわよ、きっと!あー、何だかそんな事を考えたら、胸がドキドキしてきたッ」
そういうが早いか、
「じゃ、決まりね!乱馬はあたしより足が速いからー…そうね、ハンデとして三十秒たったらあたしを追って走ってくるのよ?…よーい、ドン!」
…と、俺の参加意志なんて確認もせずに走り出してしまった。
「あああああ…」
俺は、どんどん小さくなっていくあかねの後ろ姿に手を伸ばしながら、情けない声を出す。


「こんな道はゆっくり歩いてくのは怖いから」ってさ。
だったら、俺に頼れ!いや、頼ってください、頼むからッ。
そしたら、幾らでも守ってやるってのッ。
怖いなら、俺と手とか繋げばいーじゃねーか。
なのになんだよ。
なんだその、「走り抜けよう」ってのは!?
俺って一体、なんなんだ?


「ちぇッ…手、強引に繋いじまえば良かったかなあ…」
…そんなことは出来ないくせに、俺はとりあえずそんな事をぼやいてみる。
と、そんなこんなしているうちに、三十秒くらい時間が過ぎてしまった。
そろそろ、あかねを追いかけて走り始める時間だ。
「あーあ。高校生にもなって、おっかけっこかよ」
俺は、はあ…とため息をつきながらノロノロと走り出した。
…でも。
そういやあ、ゲームに勝った方が、負けた方に一つだけ何でも命令できるって言ってたな。のろのろと路地を走りながら俺は、ふとさっきあかねが言っていたことを思い出した。
それって…もしも大通りに出るまでに俺があかねを捕まえる事ができたら…俺があかねに何でも一つ、命令できるって事か?

例えば?
例えば…「抱きしめたい」とか?「手繋ぎたい」とか?
…キスしたい、とか?


そんな事を考えている内に、俺は自分でもわかるぐらい顔も、耳も真っ赤になっていることに気がついた。
…やべえ。
それは、やべえぞ。
こんな所でノロノロと走ってる場合じゃねえ!
さっさと本気出して走って、あかねを捕まえなければッ
「くッ…」
そう考えた瞬間、俺は自分でもビックリする位のスピードで、ビルの隙間を縫うように続く路地を走り出していた。



「お!」
…本気で走り始めて、五秒くらい。
俺の前方に、あかねの後ろ姿が映った。
それを確認し、俺は更にスピードを上げる。
「あ!」
そんな俺の気配に気がついたのか、あかねが小さな声をあげながら俺のほうをチラリと振り返った。
そして、
「負けないわよッ」
そんな事を言いながら、あかね自身もスピードを上げる。
お前、そんなに俺に捕まりたくねえのかよ。
…若干そんなことに傷つきつつ、
「負けてたまるかッ」
と、俺もスピードを上げる。
こうなると、もうただのゲームではなかった。
あかねにとっては、ただの「おっかけっこ」ゲームかもしれないが、
俺にとっては、違う。
今夜の命運がかかった、まさに…「運命」ゲーム。

徐々に俺はあかねに近づき、
「くッ…」
あかねの後ろ側に伸びた手に必死で手を伸ばす。
「あッ…」
…一瞬、指同士が触れた。
「あ!」
でも、そこからが俺とあかねの違いと言うか…このゲームの命運が決まった。

指に触ってしまった。

…そのことに動揺して、思わず伸ばした手を引っ込めてしまった俺と、
「追いつかれるもんですかッ」
…指に触れられた事で更に競争心に火がついた、あかね。
あかねは動揺してスピードをすこし落とした俺の隙を見て、
「ゴール!」
「あ!」
…とうとう、俺にそれ以上触れられることなくゴールの大通りへとたどり着いてしまった。
「あ…」
その数秒後にようやくそこにたどり着いた俺は、
「ま、負けちまった」
肩で息をしながら、思わずそんな事をぼやく。
「…」
あかねは、俺に走り勝ったことがそんなに嬉しいのか、妙にニコニコとしていた。
「…」
俺は、そんなあかねをじとーッとした表情で思わず睨んでしまった。
…ゲームに負けた事よりも、あかねの指に触れた瞬間に動揺してスピードを落とした自分が無性に情けなかった。
そう、あかねはそれによって更にスピードを加速させたと言うのに。

「…勝った奴が、なんでも一つ、命令してもいいんだろ?言えよ」
俺は、ようやく息も整ったし、それに自分の不甲斐無さも十分反省したし。
俺のことをニコニコと見ているあかねに、そう呟いてやった。
「…」
あかねは、そんな俺に何も言わずに…再び俺の前を歩きだした。
「えッ。ちょっと待てよ、あかねッ」
俺も、慌ててそんなあかねの後を追っていく。
…あかねはそんな俺の問に答えることなく、どんどんと夜の大通りを歩いていく。
そして、大通りを抜け、家のすぐ近くの、見慣れた公園の前に差し掛かったところで、
「おい、あかねってば」
俺は、ついにそんなあかねの腕を掴んで立ち止まらせる事に成功した。
そして、
「なんだよ、俺に命令するの、家まで持ち越すつもりか?」
…そんな風にあかねに文句を言いながら彼女の前に回り込むと、
「乱馬」
次の瞬間。
あかねは俺が予想もしていなかった事を呟いた。


「…ゲームは乱馬の勝ちよ」

「え?」
俺は、あかねの言葉に、自分の耳を疑った。
「勝ちって…だって、俺、お前を掴まえられなかったし…」
「でも、三十秒も後に出てきたのに、あたしの指、触ったじゃない。だから、先についたのはあたしだったけど、乱馬の勝ちにしてあげる」
あかねは、動揺している俺にそう言うと、
「ホントはね、うちに帰ってからゆっくり考えさせてあげようと思って今まで黙ってたんだけど…でも乱馬がそんなに気になるなら、ここで聞いてあげるわ。さ、なんでも一つだけ命令していいわよ!あ、でも百万円払えとかそーゆーのはダメだからね」
そんな事を言いながら、フラフラ…と公園の中に入り、俺の手を取って笑った。
「…」
誰が百万円なんて払わせるか、と思わず突っ込みを入れそうになりつつも、俺は公園の中で、そしてあかねに取られた手を妙に意識しながら必死に考える。


…俺って奴は。なんて余計な事をしちまったんだ!?
あ、いやとりあえずそれは今は置いといて、だ。
どうしようか。
何て言おうか。
なんだよ、走り始める前にはあんなに色々と「命令」を思いついていたのに。
いざあかねにこんな風に言われると、全然思いつかねえよ。
もったいねえ!
閃け、俺。今頭を使わないでいつ使う?
さあ、思いつけ俺。あかねに、何をお願いする!?


「あの…」

俺は、動揺しているのを必死で抑えつつ、頭を巡らせる。
そして…そしてようやく一つ、あかねに「命令」したいことが頭の中に浮かんだ。


「あかね」
「何?決めた?命令」
「…で」
「え?」
…この手を、離さないでほしい。
「え?」
…俺の口から伝えられた「命令」に、あかねが一瞬驚いたような顔をした。
でもすぐに、
「…いいわよ、しょうがないわね」
また柔らかい笑顔を俺に向けると、それまで無造作に取っていた俺の手を、しっかりと繋ぎなおすような形で取り直した。
「…これで、いい?」
そして、改めてそう言って俺に語りかけるあかねに、
「ああ」
俺は、嬉しさでにやけてしまいそうな顔を緩ませないようにしながら、頷いてみせる。
「ふふ…乱馬、あたしと手、繋ぎたかったの?」
俺に繋がれた手をすこし上下に振りながら、そう言って笑うあかねに、
「ばッ…そ、そんなわけねえだろッ」
「ふーん、照れちゃって。可愛い」
「て、照れてねえッ。この公園にはなあ…そうだ、お、落とし穴があるかも知れねえだろ!オメーみたいな鈍い奴、落とし穴に絶対に落ちちまうだろーから、俺がそれを助けてやる為にこうして…ッ」
俺は、自分でもめちゃくちゃと分かる言い訳を、あかねに対して叫ぶ。
「鈍くて悪かったわねッ。そりゃどうも、ご親切にッ。じゃあ、落とし穴がなかったら、乱馬は何を命令したの?」
するとあかねは、ふいっと横を向きながら、そんな事をぼやく。
「そ、それは…」
俺は、そんなあかねの横顔をチラッと盗み見しながら、一瞬口をつぐんだ。
あかねの横顔は、落とし穴」なんて初めからある分けないのを知ってるとはいえ、俺がそんなことで大事な事を誤魔化そうとしているのを怒ってるかのような…そんな顔だった。
しかも、ちょっとだけ寂しそうというか残念そうというか。
そんな気がした。

…こんな顔には、もう嘘はつけねえなあ。

俺は、そっとため息をついた。

「…同じ事だよ」
「え?」
「だからッ…あーもう、鈍い奴だなッ。落とし穴なんてあってもなくても同じ事命令したって言ってんだよッ」

俺はあかねの横顔に向ってそう叫ぶと、
「ほら、もう帰ろうぜッ。あんま遅くなると、皆心配するし…」
あかねの手を繋いだまま、夜の公園を出た。
「…」
あかねは、そんな俺に初めは黙って引っ張られるように歩いていたけれど、
「…良かった」
やがてそんな言葉を一言、ポツリと呟くと、妙に嬉しそうな顔で俺を見上げたあと、だまって俺の隣に並ぶように追いつき、そして歩きだした。
俺はそんなあかねの手を、何も言わず、少し力を強めて握った。
それに反応して、あかねもそんな俺の手を強く握り返してきた。
…それが何だか嬉しかった。


俺たちは、ようやく繋ぐ事のできたお互いの手の温もりを感じながら、家路へついた。
拳二つ分も開いていた俺とあかねの距離は、ようやくここで、縮まった。
そして、
今宵、俺達の命運を掛けた「運命ゲーム」は、大団円の中…静かに幕を下ろした。

RUMIC'S NOVELS LINK

パラレル
糖度2
糖度3
糖度4
糖度5
企画

OTHER CONTENTS

■オリジナル作品(外部サイト)
お仕事情報

THANKS!

TOTAL: HITS(Y:)