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妄想彼氏

「あかねちゃん、よく来てくれたね。さ、お茶でもどうぞ」


とある夏の日の、昼下がり。
あたしは、東風先生のところへやってきていた。
本当はかすみお姉ちゃんがくるはずだったんだけど、急用が出来てしまい、あたしが代わりにお使いを頼まれたというわけで。
東風先生に言ったらがっかりするんだろうなあ、と思いつつも、
きっと患者さん達からすれば救世主になりうるわけで、
とりあえずそのことはあたしの胸の中にしまいつつ、こうしてお茶を頂いてまずはくつろいでいるのだ。


「お姉ちゃんから、本の返却を頼まれて。あと、お菓子を作ったのでどうぞって」
あたしは、東風先生に持ってきた布包みと紙袋を手渡した。
「いやあ、かえってかすみさんに気を使っていただいて…」
ありがたく、頂きます。先生はそういって、恐らく自分では隠しているつもりではあると思うけど、明らかに浮かれている様子でお菓子を奥へ置きに行った。
ご丁寧なことに、鼻歌らしきものまで聞こえてくる。
「…」
ホントにお姉ちゃんのこと、好きなんだなあ。先生。全然、前から変わってないよ。
その様子が、あたしには可笑しくもありほほえましくもある。
そして、そんな風に客観的に先生に感じている自分に対しても…なんだか不思議でならなかった。


少し前まで。
あたしは、ここへ来るたびに幸せでもあり苦しくもあり…複雑な心境に苛まれていた。
先生のことが好きで好きで、すごく胸が苦しくて。
だから、ちょっとの時間でも、二人きりで会えて話をするのがすごく楽しかった。
でも、それと同時に先生がかすみお姉ちゃんが好きなことも知っていた。
二人きりで話したところで、そこから何が生まれるわけでもない。
しかも、当のかすみお姉ちゃんは、先生の自分への気持ちに気づいていないようだったし、
あたしにはそれがまた歯がゆくて、そして時には腹立たしくも感じた。
それに。あたしがそんなことを思っていたって、先生があたしを女の子としてみてくれるわけでもない。
先生がお姉ちゃんのことを好きだという事実は変わらない。
それもわかっていた。だから、すごく苦しかった。


あたしと話している「先生」と、お姉ちゃんと話している「先生」は全然違った。
昔は、それを思ってはよく一人で落ち込んでいたっけ…。
「…」
それなのに、今のあたしはそれを客観的に感じて分析までしちゃっている。
それが可笑しくてたまらない。


「ふふ…」
ホントに、不思議。あたしは、お茶をもう一口口に含みながら一人で微笑んでいた。


…と。


「…随分楽しそうじゃねえか」
そんなあたしの耳に、どうにもこうにも聞き覚えのある声が聞こえた。
しかもその声、妙に機嫌悪そうな印象だ。
「!?」
あたしがその声に驚いて振り返ると、
「姿が見えないから来てみれば…そんなに楽しいのかよ」
「乱馬。あんた、何で来たのよ。テレビ見てたくせに」
「だ、だから。テレビ見てたらいつの間にかお前の姿がなくなってて、聞いたらここに行ったっていうから!することもないし、来てみただけだよ」
そこには、不機嫌そうな顔をした乱馬が立っていた。
あたしが家から出るとき、乱馬は確か居間でゴロゴロしていたはず。
なびきお姉ちゃんと、チャンネル権争奪じゃんけんとかしていたし。
傍で雑誌を読んでいたあたしなんて、気にも止めない様子だった。
だからあたしは、何も言わず何も断らず、こうして一人出来た。
まあ、東風先生のところへ行くのに乱馬に断りを入れる筋合いはないんだけど。

「楽しそうもなにも、かすみおねえちゃんのお使いできたのよ。それ以上でもそれ以下でもないじゃない」
あたしが振り返った身体を元に戻しながらそう呟くも、
「じゃあ何で黙って居なくなるんだよ」
「だから…なびきおねえちゃんとテレビ、見てたじゃない。お使いぐらい一人で行けるし…」
「…あれか?後ろめたさか?そういえばさっきなびきの奴が見ていたドラマでもそんなことを…」
乱馬はわけのわからないことを言い始め、なぜか一人でため息をついていた。
どうやら乱馬の思考を察すると、
あたしが東風先生への特別な感情を未だに心のどこかに抱いていることに自分で気づき(と、思い込んでいる)、
それを乱馬に知られたくなく(と思い込み)、こうして一人出来てその思いをかみ締めている…とか何とか。
…全く、


「あんた、どれだけ妄想壁があるのよ」
ドラマの影響、受けすぎなのよ。あたしがため息をつきながらそういうと、
「お前には、俺の繊細な心はわからねえよっ」
何故か乱馬は、逆切れよろしく、あたしに力いっぱい反抗する。
「繊細とかそういう問題じゃないでしょ。だいたい、あたしにうんぬん言う前にあんたはどうなのよ。あんたのほうが、あたしに対して随分と無神経なことしてるじゃない」
許婚がもう独りいるとか。目の前でキスしてくるような強引な女の子に迫られたりとか。
どう考えても、乱馬のほうがあたしにダメージを与えていると思うんだけどなあ。
あたしがそんなことを思っていると、
「話題を摩り替えるということは、やっぱり後ろめたさが…」
「すり替えてないでしょ!」
もう!いい加減にしなさいっての…あたしは再び大きくため息をつく。
と、
「じゃあ、後ろめたさがないって事、証明してくれよ」
乱馬は不意にそういって、自分に背を向けて座っているあたしを、背中越しにぎゅっと抱きしめた。
「ちょっ…」
東風先生がそろそろ戻ってくるのに…慌てたあたしが乱馬を引き剥がそうとするが、
「…」
乱馬は離れるどころか、更に力を入れてべったりとあたしにくっついている。


一体、どんなドラマをみていたんだか。
ていうか、そんなんでこんな風に駄々こねられてたら身体が持たないわ。
先生だって、すぐここに戻ってきてしまうというのに。
とはいえ、強引に引き剥がそうにも力じゃ適わないし。

あたしはため息をつきつつも、対策を考えた。
そして、


「…あたしには後ろめたいところなんてないわよ」
「どうだか」
「ホントよ。だって…」
あたし、多分乱馬が思っている以上に乱馬のこと好きだもの。
あたしはそういって、少しだけ顔を後ろに振り返り、スグそこまで迫っていた乱馬の鼻の頭に軽くキスをした。
「っ…」
ふわり、としたその感触に驚いたのか。乱馬は反射的にあたしの体から離れた。
あたしはやれやれ、とため息をつくと、
「こんなにやきもち焼きで、妄想壁があって子供みたいな人が傍にいたら、他の人になんて眼をやる余裕ないわよ」
だから、妙なこと考えないの。あたしはそういって、乱馬の鼻の頭をぱちんと指ではじいてやった。
乱馬は、あたしからキスされる事なんて殆どないって言うのもあり、ちょっと顔を赤くして慌てている。
でも少し落ち着くと、「仕方ねえな」とか何とか言いながら、ようやくあたしの言うことを信じたようで、
「とにかく、今度からは俺も一緒に来るからなっ」
「はいはい」
「絶対に、俺に声をかけろよなっ」
まるで駄々っ子のようにあたしに何度もそういうと、あたしの横にどさりと座りこんだ。
…普段は異常なくらいナルシストで、自分に妙な自信だってもっているくせに。
なんで、あたしが東風先生のところに一人でお使いにくるだけで、この心配っぷり。
女子高生を子供に持つ父親みたいな、そんな感じさえも受ける。
全く、身体だけ大人なんだから。あたしはそんなことを思いながら、心の中でこっそりと笑った。


それにしても。


「東風先生、遅いね」
「あー、そういやそうだな」
先ほど、かすみおねえちゃんのお菓子を奥の部屋に置きにいった先生が、一向に戻ってくる気配がない。
不思議に思ったあたし達は、診察室を出て待合室へと入った。
と、
「いやあ、どうなるんだろうねえ…あの続きは」
「とんでもねえ女だったなあ」
待合室のテレビの前にいた近所のご老人達と共に、先生もそこに座ってテレビ鑑賞をしていたようだ。
「先生?」
あたしが東風先生に声をかけると、
「ああ、ごめんねあかねちゃん。おや、乱馬くんもきていたんだね。いやあ、お菓子を置いて戻ろうと思ったら、皆さんがすごく盛り上がっていたからどうしたのかと思って」
面白いドラマをやっていたみたいだよ。先生はそういって、ご老人達に微笑みかける。
「いやさあ、すごい話なんだよ!」
ご老人のお一人が、妙に興奮した様子であたし達にそう叫ぶ。
「婚約している男女が居るんだけど、その片方の女がさあ、昔の男に未練があってねえ!」
「…え?」
「婚約者の男にばれないように、その昔の男に会いに行くんだけど、それが婚約者にばれてさあ。そこを切り抜けるために、『あなただけ』とか『私を信じて』とか、まー、絶妙なことをいって「たぶらかすわけよ!それがまた憎らしくってねえ…婚約者の男がだまされていくのを見て何かねえ…」
ご老人はそういって、また他の老人達と「いまどきの女は」とか「男がふがいない」とか。あれこれと討論を重ねているけど、


「…」


あたしは、何だかいやーな予感がして、恐る恐る横に居る乱馬のほうを見る。
案の定、
「…」
乱馬はまた、なにやらよからぬ事を考えているようで、ふるふると震えていた。
しかも壁際に寄ったかと思うと何かぶつぶつと呟いている。
恐らく、例のドラマから発展した妙な想像、というか妄想をしているに違いない。


ああ、もう乱馬にテレビは見せられないわ。そしてここに長居は無用。
あたしはため息をつきながら、乱馬の手を引いて接骨院を後にしたのだった。


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