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Dearest3

「なあ、具合でも悪いのか?お前、今日の一時間目の英語、いなかったよな?」
その日の夜。
今朝聞いてしまった会話が気になるも、真実を確かめるのが急に怖くなったあたしは、ただ玄関に座りこんで乱馬の帰りを待っていた。
そしてやはり昨夜と同じく夜十時過ぎに帰宅した乱馬に、そんな風に声をかけられた。
「ううん、別に具合なんて・・・」
「でも、何か顔色悪いぞ?」
心配する乱馬に、
「平気」
あたしは首を振って、帰ってきた乱馬の顔を見上げた。
そして、ぼんやりと今日の出来事を頭の中で振り返る。



・・・今朝ゲタ箱で聞いてしまった事があまりにもショックで、あたしはそのまま一時間目の英語をサボってしまった。
次の時間から何とか授業に戻るも、勿論頭の中は乱馬の事で一杯で、授業なんて耳に入らない。
「ねえあかね、どうだったの?」
先生に指されてもとんちんかんな答えをするわ、話は聞いていなくて上の空。
優等生で名の通るあたしのそんな様子に、何かを察知したさゆりとゆかは、すぐにあたしの元へとやってきた。
そして、
「乱馬君、何だって?」
少し心配そうな表情であたしに尋ねる。
「うん…バイトの事は、何と無く隠していただけだって…」
そんなさゆり達からそっと目をそらし、あたしはそんな風に答えた。
「本当に?でもあんた、顔色悪いよ?本当は何かもっと、言われたんじゃないの?」
「ううん…昨日夜更かししちゃったから…それできっと顔が変なんだよ」
「今朝はそんなこと言ってなかったじゃない」
「そ、そうだっけ…」
「ねえ、本当に大丈夫なの?」
あたしの答えに、さゆり達は半信半疑な様子だ。でも、あたしは「大丈夫、本当に大丈夫だから」と強引に笑って見せてそれ以上は二人に心配をかけまいとわざと明るく振舞った。



・・・本当は問いただすどころか、話も出来なかった。
それなのにあたしは真実を知ってしまった。最悪の状況だった。
急に知りたくない「真実」を突きつけられ、それをちゃんと受け止めなくてはいけない状況になった。
「信じているから」なんて言葉に隠れて大切なことを疎かにしていた自分が腹立たしくて情けなくて、そして・・・悲しかった。
「昨日、無理させちゃったかな…ごめんな」
…そんなあたしの本心に気が付かない乱馬は、そんな事を言いながらあたしの頭を軽くぽん、と叩いた。
乱馬は多分、あたしの体調不良は昨夜の自分との脱衣所での行為から来ているのだと思い込んでいるようだ。
「…」
あたしは、ゆっくりと座り込んでいた床から立ち上がり、乱馬の顔をじっと見つめた。
「あかね?」
そんなあたしの顔を、少し心配そうに乱馬が見る。
あたしの胸は、きゅ・・・と音を立てて軋み始めたような感じがした。


苦しかった。


…綺麗な整った顔を、少し表情を翳らせて真っ直ぐとみる乱馬。
眉を潜めてあたしだけを見つめる、その瞳。
普段なら、
「ああ、乱馬はこんなにあたしの事を心配してくれているんだ」
きっとあたしは素直にそう思ったんだと思う。でも・・・
「・・・」
今日のあたしは、乱馬に心配をかけてしまったことで胸が苦しいのではなく、
きっと、
・・・こんなに真っ直ぐにあたしを見てくれて、こんなに心配をしてくれて、
あまつさえその瞳にあたしだけを映してくれているというのに、
その乱馬の優しさは、一体どこまでが本当なの?
「・・・」
・・・きっと、そんな思いが胸の中にあることが、苦しいのかも知れない。
あたしの許婚で恋人なのがいつのまにか「当たり前」だったはずの乱馬が、
あたしだけを好きでいてくれていたのが「当たり前」だったはずの乱馬が、
・・・他の女の子に指輪をプレゼントするために働いているって知ってしまったら、途端にあたしは・・・乱馬の自分に対する優しさまでも疑ってしまう。
それまで乱馬の遅い帰宅のことなんて放っておいたくせに、いざ自分が窮地に立たされたらあたしは・・・

「・・・」

あたしは、最低だ。自分でもそれは分かっていた。でも、自分でもどうしたらいいのか分からない。
RtoM。あたしの頭に又、指輪に刻まれるはずの文字が過った。
指輪に刻まれるはずの文字は、あたしの心も容赦なく刻んでいく。
・・・
「お前、時々無茶するからなあ…」
そんなあたしに、乱馬はまた心配そうにそう呟く。
その声が優しければ優しいほど、
そして表情が優しく見えれば見えるほど・・・あたしの胸はぎゅっと締め付けられ苦しくなった。

「…乱馬」

乱馬があたしに優しくしてくれようとすればするほど、あたしは分からなくなる。
こうして心配してくれる乱馬が本当の乱馬なのか、
それとも美由紀さんて人に指輪を渡して喜んでもらう為に一生懸命働いている乱馬が、本当の乱馬なのか。
どっちが本当の乱馬なのか、あたしには今、全然わからない。
わから・・・
「…」
「なっ…どうしたんだよ。お前何で泣いて…」


…あたしは。
乱馬と話ながらいつの間にか、瞳から幾粒もの涙を溢していた。
聞きたい、真実を確かめたい。でも怖い…なのに耐えられそうもない。
複雑な思いが胸の中で留まりきれずに、言葉ではなく涙という形で外に出てくる。
「おい…どうした?どっか痛いのか?」
そんな風に突然あたしが泣き出せば、もちろん乱馬だって焦るのは当然だ。
原因が分からず泣き出したあたしを持て余すように、乱馬は今度、困ったような表情をしていた。
「乱馬…」
あたしは涙を流しながら、そんな乱馬の腕をそっと取った。
あたしが手に取った腕からは、今日もあたしとは違う「匂い」がした。
もしかしたらこれは、例の美由紀さんの匂いなのかもしれない。そう思うと胸がまた締め付けられた。
でもあたしは、その匂いを強引に自分の嗅覚から掻き消すように首を左右に振ると、
「乱馬…」
「どうした?あかね」
「…お願い」
あたしは、取った乱馬の腕に自分の顔をくっつけながら、小さな声でそう呟いた。
「ん?何がお願いなんだ?」
勿論、あたしが一体何を願っているのか分からない乱馬は、あたしのその仕草や言動に戸惑っているようだった。
お願い、もう美由紀さんて人に会わないで。
お願い、指輪なんてあげないで。
お願い、彼女を喜ばせる為に疲れるまでアルバイトするなんてやめて。
お願い、バイトの後に彼女を毎日家まで送り届けるなんてやめて。
そして、


お願い・・・あたしから離れていかないで。


・・・
「・・・」
お願いしたい事が、たくさんあった。
でも、それが一つも口から出てこない。
そんなあたしに、
「ほら、部屋まで送るから…もう寝ろ、な?」
乱馬はとりあえずあたしを休ませようと、優しく肩を抱いた。
そして、ゆっくりと階段を昇らせあたしの部屋に連れて行こうとした。
「…」
・・・このままじゃ、きっとあたしの願いなんて乱馬には届かない。
怖い。
このまま確かめずに夜を越すのは怖い。でも、確かめてそこで全てが終ってしまったら・・・
それも怖い。
怖い。怖いけど・・・でも、でもこのままじゃあたし・・・
・・・
「乱馬・・・」
あたしは、肩を抱いている乱馬を見あげてその場で立ち止まった。
「どうした?どこか痛いのか?」
立ち止まったあたしの肩を優しく揺らしながら、乱馬が柔らかい声で問い掛ける。
「・・・」
その声が、また胸をさした。乱馬を見つめているあたしの瞳から涙が一粒零れ落ちる。
「・・・どうしたの?」
乱馬が、あたしの肩を抱いていない方の手で、あたしのその流した涙を拭おうと手を動かしたけれど、ふと何かを思い直したのか、手ではなく自分の唇で、その涙を拭った。
・・・柔らかくて温かく優しい感触だった。
あまりにもそれが優しすぎて温かすぎて、再びあたしの目から涙が流れた。
「傍にいて…」
あたしは、小さな声でそう呟いた。
それに対して乱馬が、
「ん?いるだろ、こうやって…」
ちゃんとあたしの言葉が聞き取れるようにと、耳をあたしに近付ける。
「・・・」
あたしは小さく首を左右に振った。そして、もう一度「傍にいて」と呟いた。
「いるよ、ほら、いるだろ?」
「違うの・・・明日も…」
「明日もいるよ。明日も明後日も、ずっと・・・」
「バイト…」
「え?」
「バイトに行かないで、傍にいてくれる・・・?」
・・・あたしがそう乱馬に尋ねた瞬間、あたしの肩を抱いていた乱馬のその腕がビクっと動いた。
動揺した。明らかにそんなリアクション。
ドクン、ドクン、と大きく鼓動する乱馬の胸が、何だか触れている部分からあたしに伝わっているような感じを受けた。
乱馬が、ゆっくりとあたしの体から腕を離す。
「・・・」
あたしは、涙をもう一粒瞳から零しながらそんな乱馬を見つめる。
「お前、何でそれ…」
乱馬が、少し掠れた声であたしにそう尋ねた。
「・・・」
あたしはそれには答えず、
「・・・傍にいて欲しいの」
そう呟きながら、乱馬の腕に再び触れた。
「・・・」
あたしと乱馬の間に、嫌な沈黙が流れた。
・・・あたしの問にすぐに答えてくれないという事が、もう乱馬の答えなのだとわかっていた。
でも、それでもあたしは乱馬の言葉に期待をした。
この状況を、この空気を感じ取って、乱馬が何て答えてくれるのか・・・あたしは彼の答えを待った。
でも。
「・・・でも、俺が傍にいてもきっと、具合が悪いのは変わらないよ?」
・・・期待をしていた分、そんな乱馬の答えを聞いたあたしは余計にショックを受けた。
「変わるよ・・・変わるもん・・・」
あたしがそう言い返すと、
「それよりも、薬飲んでちゃんとゆっくり休んでいた方が絶対に良くなるって。な?」
乱馬はそんなあたしの言葉をいとも簡単にあたしへと押し戻してしまうと、
「ちゃんと寝て、早く治せよ?」
何だか、都合悪いことを全てあたしと一緒に部屋の中に押し込めてしまうような・・・言葉は優しいけれどそんな雰囲気であたしの背中をぽん、と押した。
「あたしが具合が悪くて傍にいて欲しくても・・・バイト、行くの?」
本当はこんなこと、言いたくなかった。
恋愛を優先させて仕事を休ませるなんて、そんなのあたしだって嫌だ。そんな無責任な人、普段のあたしだったら絶対に許さない。
・・・乱馬に、本当にバイトを休んで欲しいわけじゃないの。
ただ・・・少しでもあたしの傍にいてくれるか、その気持ちがあるかどうかを確かめたかっただけなの。
「乱馬・・・」
きっとたくさんの言いたいことを、百ある内のきっと五も言えていないあたしは、小さな声でもう一度そう呟いた。
「・・・ごめん」
そんなあたしに対し、背中越しに小さな声でそう呟いた。そして、パタン、とドアが閉まる。
電気もついていない部屋の中には、あたしだけがぽつんと、立っていた。

「・・・」

・・・涙で火照った頬に、幾筋も再び涙が流れる。
拒絶、されちゃった・・・声にならない声で、あたしは一人そう呟いた。
バイトのことも、そして美由紀さんという人のこともちゃんと乱馬には聞くことが出来なかった。
でも、はっきりと聞かなくてもさっきまでのやり取りで何となく・・・確かめるのが怖かった事を必然的に確かめてしまったような気がした。
もしかしたらもう、乱馬はさっきみたいな言葉をあたしにかけてくれないかもしれない。
『明日も明後日もずっとそばにいる』
もう二度とこんな言葉は聞けないかもしれない。
そう思うと、自然に涙が零れ落ちる。
・・・どうして、こんなことになってしまったのだろう。
どうして、もっとちゃんと乱馬の気持ちを掴まえておかなかったんだろう。
どうしてこんなことになる前に、あたしは・・・
「・・・」
『ねえあかね。取り返しのつかないことになってからじゃ遅いのよ』
なびきお姉ちゃんの言葉が、あたしの胸を何度も過る。
・・・お姉ちゃん。まだ、間に合う?
何とか頑張れば、まだ取り返し、つく?
・・・
「・・・」
・・・RtoM。その間にはあたしが入る隙間などもう、ないのだろうか。
言い知れぬ不安と、胸が軋むほどの苦しさと、そして息がつまるほどの寂しさと。
色々な思いを抱えながらあたしはその夜、一睡もせず薄暗い部屋の中で膝を抱えて座り込んでいた。
翌日。乱馬はあたしを避けるかのように一足早く学校へと行ってしまったようだった。
あたしがノロノロと乱馬に遅れて登校すると、乱馬はベランダでなにやら親友のひろし君や大介君と話しこんでいた。
「・・・」
・・・ひろし君と大介君は、あたしの親友のさゆりとゆかの彼氏だ。
ひろし君達は当然の如く乱馬の「事情」を知っている。
もしかしたら、あたしに頼まれたさゆりやゆかに何を聞かれても、何も答えるな。いや、こう聞かれたらこう答える・・・みたいな打ち合わせでもしているのかもしれない。
「・・・」
そんな乱馬達の姿を見てまた、あたしの胸がキュ・・・と音を立てて軋んだ。
自然と制服の胸の部分を掴んでしまう、あたし。
でも、そんな事をしてもこの不安や寂しさは決して消えてくれはしない。
「・・・」
あたしは、鞄を席に置いてからノロノロと教室を出た。
そして、人気のない屋上近くの踊り場に一人腰掛け、ため息をつく。
・・・一睡もしないで、一生懸命考えてみた。
でも、いい考えとか解決策とか全然思いつかなかった。
傍にいてくれるのが「当たり前」だったはずの乱馬。
あたしの許婚で恋人で、そしてあたしの事を好きだと乱馬も思っているんだろうと・・・あたしは勝手にそう思っていた。
でも・・・現実は全然違った。
恋愛に、起こって「当たり前」の事なんてなかった。
「大丈夫だよ、乱馬だもん。浮気なんて」
そんな風に、「信じる」という名に隠された「油断」や「余裕」の隙に、乱馬の心はあたしから離れていたんだ。
あたしが知らないところで楽しそうにバイトをして、
バイトしたお金で、気になる女の子に指輪を買ってあげようとしている乱馬。
その子が喜ぶのなら本望だって、はっきりとそう言った乱馬。
RtoM。送る指輪に、お互いの名前まで刻んで。
・・・
そんな乱馬の心の中に、もしかしたらもうあたしの居住スペースなんてないのかもしれない。
あたしにバイトのことがばれる前は「明日も明後日もずっと傍にいる」って言ってくれた。
でも、バイトのことに触れた途端、乱馬は・・・はっきりと動揺した。
傍にいて、といったら柔らかに乱馬はあたしを拒絶した。
あたしに隠していたくらいだから、バイトの事はあたしに知られたくなかったんだろうと、思う。
もしかしたら、あたしに知られないで平行してその子と付き合っていられたらいいな、とか思っていたのかな。
「・・・」
バイトのことだけじゃなく、あたし・・・指輪の事も知っているんだよ、乱馬。
誰に聞かせるともなく、あたしは小さな声でそう呟いた。
昨日一晩、色々と考えている時に、指輪の事もあたしは考えてみた。
・・・男の子が女の子に指輪をあげる時って、どんな時なんだろうって。
決して、何とも思っていない相手に贈るような代物ではない。ましてや、普通の友達同士で贈りあう事だって、ない。
特別に思いを寄せる相手に贈るのが、どう考えても一般的だ。
だって、名前まで刻むんだもの・・・そうまでして残す指輪だもの。
婚約指輪に結婚指輪・・・指輪って、そうやって将来とか気持ちを約束する時に贈るのかなって、あたしは考えた。
「・・・」
許婚で、そしてちゃんと付き合っているはずのあたしはまだ、乱馬に指輪なんて贈ってもらった記憶がない。
でも・・・
「・・・」
・・・美由紀さん、て人には指輪を贈りたいって。乱馬は思った。
しかも、横文字とか外国のブランドとかオシャレとかに全然興味もなくて疎い乱馬が、わざわざそういうのを調べて、彼女が喜んでくれる指輪を贈ろうとしている。お互いの名前まで刻んで。
そして、プレゼントして彼女が喜んでくれればそれで本望だって、言っていた。
「・・・」
指輪を強請る美由紀さんと、そんな美由紀さんに喜んで欲しい乱馬。
・・・あたしなんかよりずっと、ずっと二人の距離が近いのかな。あたしはそんな風に感じた。
絶対に、乱馬と出会ったのはあたしの方が早かったはずなのに。
出会った期間なんて、二人の気持ちが高ぶっていれば全然関係ないのかな・・・そんな事まで感じてしまう。
あたしの知らないところで共有していた二人の時間が、
既にあたしと乱馬の一緒にいた時間を遙に超えて二人を惹きつけ合わせているって事なのかな。
・・・
「・・・」
あたしは、湧き上がる様々な思いに耐え切れず膝に顔を埋める。



・・・ねえ、乱馬。
そんな風に美由紀さんと惹かれあっているのに、どうしてあたしに脱衣所であんなことしたの?
気持ちは別の人に向いているのに、それでもあたしを抱けるの?
それとも、やっぱり乱馬も・・・心と身体は別なの?
あたしは乱馬にとって、ソウイウ事をするだけの人・・・?
乱馬にとって今のあたしって・・・何?
傍にいて欲しいとねだったあたしに、たった一言「ごめん」とだけ答えた乱馬。
多分それが、全てなのだと思う。
キスを強請った時はその願いを叶えてくれても、心の支えを願った時には拒否された。
そう、あたしは拒否されたんだ。
「・・・」
・・・昨夜感じた言い様のない寂しさが、再びあたしの胸に舞い戻る。
「・・・」
一体、あたしはどうすればいいの?
膝に顔を埋めながら、あたしは何度もため息をついた。
と、その時だった。
「・・・全く、あんた何してんのよこんな所で」
不意に聞きなれた声が、あたしの近くで聞こえた。
あたしは慌てて顔を上げた。するとそこには、
「昨日の夜から様子がおかしいから気になって探してみたらまあ・・・朝っぱらから、泣いてんの?あんた」
呆れたような表情で、なびきお姉ちゃんがそんなことを言いながら立っていた。
どうやら、あたしの事を心配して教室まで様子を見に来たけれど、
教室にいないあたしと、ベランダでなにやら親友達と相談中の乱馬。それに何か感じるものがあったのか、こうしてあたしを探してここまで来てくれたみたいだった。
「・・・で?あれからちゃんと話したの?」
なびきお姉ちゃんは、よっこらしょ、と凡そ若者とは思えない掛け声と供にあたしの横に腰を下ろすと、遠慮なく本題を切りだした。
「あれから」というのは、勿論居間であたしがなびきお姉ちゃんにアドバイスをされたあの日のことだ。
少し厳しく時にはキツイこともあたしに言うけれど、お姉ちゃんもお姉ちゃんなりに、本当にあたしの事を心配してくれていたんだと、あたしはこんな所で実感する。
「・・・」
あたしは、そんなお姉ちゃんに何も答えないままお姉ちゃんの顔を見た。
「・・・」
お姉ちゃんも、それ以上は何も聞かずに…お姉ちゃんを見つめているあたしの揺れた瞳を見つめる。
弱弱しくて今にも消えてしまいそうなあたしとは違う、お姉ちゃんの真っ直ぐな瞳。
その瞳に捉えられると、必死で胸の中に留めておこうとしていた思いや寂しさを、すぐにでも口に出してしまいそうになる。
・・・なびきお姉ちゃんは、ありとあらゆる事をすぐに商売へと結びつける。
だから、アドバイスを一方的に受けることとか軽い悩みをお姉ちゃんに打ち明ける事はあっても、真剣に悩むような事は相談するのには正直いつも気が引けていた。
でも…今のあたしは、そうやって自分にとってプラスマイナスを考える余裕なんてないほど、不安と寂しさに苛まれていた。
一晩寝ないで考えても、最良の策が自分で見出す事が出来ない。
助けて欲しい・・・助けてって表現はおかしいかもしれないけれど、でも今のあたしの心の中を表現するにはきっとピッタリの表現なんだと、一方では思った。
「…お姉ちゃん」
「何よ」
「お姉ちゃん…」
「だから何よ?」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん…」
…あたしは。
湧き上がる不安やいい知れぬ寂しさに耐え切れなくて、とうとうお姉ちゃんの前で涙を流した。
涙って、不思議だ。
一度流れ出すと、どんなに頑張ろうと思えども簡単には止まってくれない。
このあたしの瞳から流れる涙も、あたしの意思に反して次から次へと流れ始める。
「取り返し、つかないの・・・」
「何が」
「もう、遅いかもしれないの・・・」
あたしは、まるで何かのスイッチが入ったかのようにわあわあと、声を上げて泣き出した。
そんなあたしに対しお姉ちゃんは、
「それじゃ分からないでしょ。ゆっくりでいいから、順番に説明しなさい。ね?」
いつもは、高圧的でそっけない口調のお姉ちゃん。
でも、同じそっけない言葉でも、今日のお姉ちゃんの言葉は何だか少し優しくあたしの耳へと届く。
「あのね、昨日ね・・・」
あたしは涙で曇る声を必死で絞り出すようにし、お姉ちゃんに自分が得ている情報を全て隠さずに伝えた。
お姉ちゃんは、きっと涙のせいで聞きづらいあたしの声を冷静に聞いてくれていた。
そして、ようやくあたしが全てを話し終えて黙り込むと、
「…ふーん。じゃあ、乱馬君はその美由紀って子に指輪をあげるために必死に働いているんだ?」
それまでだらだらと長く話をしたあたしのその話をまとめるように、お姉ちゃんが一言そう言った。
あたしはそれに対し小さく頷く。そして、全く止まる事のない涙を手の甲で拭った。
お姉ちゃんはそんなあたしに「ほら」とハンカチを差し出し涙を拭かせると、
「まあ、乱馬君は浮気をするような器用なタイプじゃないし、浮気を隠しとおせるほど要領がいいタイプじゃないって思っていたからさ、一応はあんたに忠告すれば、だれた関係も元通りに収まるんじゃないかなって思っていたんだけど」
「・・・」
「浮気が本気になったってことかしら。やるじゃない・・・おっと違った、ちょっとあたしも驚いたわ」
お姉ちゃんはそんな事をぼそっと呟いた。そして、
「あかね、あんた乱馬君に指輪もらったこと、ある?」
「…」
あたしはお姉ちゃんの質問に静かに首を左右に振った。
お姉ちゃんは小さくため息をつき、
「・・・まあねえ。キーホルダーをプレゼントするのと指輪をプレゼントするのとじゃ全く意味合いが違うしねえ。しかも名前入りでしょ?どんな事情があるにしろ、あの貧乏性でオシャレとか全然興味がない上恋愛に不器用な乱馬君が、あかね以外の女の子の為に高価な指輪をプレゼントしようとしているなんて、尋常じゃないわね」
しかも、あわよくばあんたにばれないように、でしょ?・・・なびきお姉ちゃんはあたしに再度そう質問した。
「うん・・・」
だからあたしも・・・悩んでいる。あたしはお姉ちゃんの言葉を噛み締めながらぎゅっと・・・唇も噛む。
お姉ちゃんは、そんなあたしの姿を見てなにやら考えているようだった。
そして、
「とりあえず、確かめてみたら?」
しばらくして考えがまとまったのか、なびきお姉ちゃんはあたしにそう、提案した。
「確かめるって…でも・・・」
確かめなくても、もうあたしは全て知ってしまったのに・・・あたしが小さな声でボソボソとそう呟くと、
「盗み聞きをして仕入れた情報と、あんたが乱馬君とやり取りをして気持ちを感じたってレベルでしょ?まだ」
「でも・・・」
「バイトの事はいいとして、まだあんた、その美由紀って女の子と指輪の事は、乱馬君の口から聞いてないんでしょ?」
「うん・・・」
「二人の関係が今後どうなるにしろ、あんたはまずその事をちゃんと、乱馬君に確かめるべきでしょうが」
「・・・」
お姉ちゃんの言葉一つ一つが、あたしの胸に留まっていく。
「あんた、バイトを休んで傍にいて欲しいって言っただけで、その美由紀って子と乱馬君の関係について全然言及してないんでしょ?」
「うん・・・」
「・・・真実を知る事は怖い事かもしれないけれど、でも逃げていていい時じゃないでしょ?
今」
あんたにとって大切な事ならば、尚更そうでしょ?・・・なびきお姉ちゃんはあたしにそう言いきった。
そして、
「一人で確かめるのが怖いんだったら、あたしが一緒にその場にいてあげるわよ」
「え?」
「乱馬君、どうせ今日もバイト・・・てことは、今日もその美由紀って子の事を家まで送る予定なんでしょ?だから、その前にバイトが終った時点で乱馬君を捕まえて話をするのよ。美由紀って子もそこにいれば、一石二鳥じゃない」
お姉ちゃんはそう言って、あたしの肩をぽんと叩く。
「・・・」
どうしよう。あたしがちょっと俯いて黙り込んでいると、
「悩んでいたってしょうがないでしょ?先延ばしにしたって、どうせいつかはそうなるのよ。だったら早い方がいいでしょうが。悩んでいるだけ時間が勿体無いわ。次に行くにも、気持ちの整理は早い方がいいでしょ」
修羅場の一つや二つ、しょうがないのよ・・・と、お姉ちゃんがどことなく面白そうなものを煽るような口調だったのが少しだけ気になったけれど、それでも心配してくれている事には変わりない。
「・・・」
あたしは、お姉ちゃんの言葉に黙って一度頷いた。
・・・そうだよね。
あたしはこんな風に色々と中途半端に知って悩んで苦しくて、お姉ちゃんに相談する。
乱馬はあたしに中途半端に知られて、対応策を考えるべく友達と相談。
お互いの手の内を探り合って、考えてまたアクションを起こして反応を見て・・・これじゃまるで、心理戦だ。
そんな風に、お互い傷に触れず上辺だけの関係を続けているくらいだったら・・・
「・・・」
・・・乱馬の、今の本当の気持ちを、ちゃんと確かめよう。
そしてバイトの事も指輪の事も、美由紀さんの事も・・・乱馬の口からもう一度ちゃんと、聞こう。
それから、もう一度色々な事を考えよう。きっと、それが一番・・・

・・・
「・・・さ、教室に戻りましょ。あ、あんたは戻る前に一度顔、洗いなさいよ?」
「うん・・・」
あたしはお姉ちゃんに心からお礼を言って、床からゆっくりと立ち上がった。
そして、お姉ちゃんの言いつけ通りに水道で顔を洗ってから教室に戻った。
・・・今夜、全てがはっきりする。
そう思うとその後のHRや授業なんて頭に入ってこなかった。
もちろんそんなあたしは、乱馬があたしの事をチラチラと見ては様子を疑っていた事なんて気がつかなかった。





付き合い始めた頃は、何もかもがキラキラしていた。
ちょっと触れ合うだけでドキドキして、一緒の家に住んでいるのに話が出来るだけで嬉しくて。
でもそれが慣れて来ると、何もかもが「当たり前」に思えてしまう。
朝起きて、おはようと挨拶するのが「当たり前」。手を繋いで歩く事が「当たり前」。
いつでも、手の届く場所にいてくれるのが「当たり前」。キスしたり抱き合ったりするのが
「当たり前」。
でも…そんな「当たり前」のことが当たり前じゃる日って、この先来たりするんだろうか。
幸せな時ほど、そんな勘は鈍くなる。
・・・もしも。
そんな「当たり前」のことが「当たり前」でなくなってしまうような日が来るとするならば、あたしは一体、どうなるのかな?
傍にいるのが当たり前だった人が、いなくなってしまったら・・・あたしは一体どうなってしまうんだろう。
幸せな日々に頭が慣れすぎて、全然見当もつかない。
でも一つだけ・・・確実に言える。
きっとそうなってしまった時・・・あたしは今よりももっと、乱馬の事を求めて乱馬の存在の大きさを思い知るだろうって。
失ってからその大きさを感じるなんて、なんてバカな事なのだろう・・・きっとあたしはそう思うって。
落ち着きなくその時を待つあたしは、幾度となくそんな事を考えてはため息をついていた。

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