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Dearest2

翌日。
昨日からのこともあり、本当は朝、乱馬と一緒に過ごしたかった。一緒に登校して、今度こそちゃんと色々と聞きたかった。
でも、こういう時に限って上手く行かないというか・・・あたしは、日直にあたっていた。
だから、いつもより早めに学校に行かなければいけなかった。
「もう行くの?」
「うん、日直だから・・・」
「そっか」
・・・昨夜のあたしの「おねだり」のせいで、昨日は乱馬も眠るのが遅かった。
だから、今日は普段の日よりも少しだけ起きるのが遅かったみたい。
あたしが出かけようとした時、お風呂場から顔をタオルで拭きながら出てきたところだった。
どうやら今日は、日課のロードワークも寝飛ばしてしまったらしい。
・・・
「行って来ます」
「またあとでな」
しぶしぶと靴を履いて玄関を降りたあたしに笑顔で手を軽く振り、乱馬は腰をトントンと叩きながら居間へと歩いていった。
「・・・」
あたしは、そんな乱馬の後ろ姿を少し見送ってからゆっくりと家を出る。
そして、
「今日の夜こそ、ちゃんと聞こう・・・」
誰に聞かせるわけでもなく、自分自身にそう言い聞かせながらあたしは学校に向かって歩きだした。
・・・昨日脱衣所であたしと抱き合ったのをみると、大丈夫なのかな。お姉ちゃんが心配するような事はないのかな。そんな気持ちもある。
でも・・・
「・・・」
どんなに激しく求められても、たくさん愛されても。
あの時感じた、あたし以外の「匂い」がどうしても消えてはくれなかった。
「心配ないって」そう言い聞かせるあたしに、警鐘を鳴らすかのようなその「匂い」。
油断大敵、気をつけるのね。
何だかそんなことを言われているような感じだった。
それに、男の子は体と心は違うって・・・気持ちがなくてもそういう行為はできるって、よくテレビや雑誌でも言っているし・・・。
「・・・」
・・・とにかく、また今夜にでも乱馬に聞いてみよう。そう、今夜は絶対に。
あたしはもう一度自分にそう強く言い聞かせると、胸に疼く不安な気持ちを掻き消すかのように、学校へ向かうその道を走り出した。




「あかね、おはよう」
「おはよう」
「あ、そうか。あかね、今日日直だっけ?」
学校に着いたあたしは、さっそく日直の仕事をこなしていた。
そして黒板を拭いている所で、登校してきた親友のさゆりとゆかに声をかけられる。
日直の仕事がなければ遅刻ギリギリに教室に滑り込んでくるあたしとは違い、さゆりもゆかも、ちゃんとゆとりを持って早めに登校してきているようだ。
「黒板ふきって、何か嫌だよね。チョークの粉が制服についてさ、白くなるの」
「そうそう」
「ほんと、紺とか黒の制服じゃなくて良かったよね。それだけが救いだわ」
自分の席に鞄を置いたさゆり達は、そんなことを言いながら、黒板を拭いているあたしの傍でぼやいている。
「そうだね」
あたしはさゆり達に苦笑いをして返事をしながら、今度は黒板消しの綺麗にするべく、ベランダへと出る。
そして、ボンボンボン・・・と、ベランダの手すりに黒板消しを何度も叩きつけながら、チョークの粉を降り落とし始めた。
灰色のコンクリートの手すりに、白いチョークの粉が形を変えてくっ付いていく。何だかコンクリートにおしろいを塗っているかのような気分だ。
「けほっ・・・けほっ・・・」
ああ、マスクでも持ってくれば良かったかな。あたしはそんなことを思いながら、黒板消しを手すりに叩きつけていた。
と。
「そういえばあかね、乱馬君料理上手になった?」
「え?」
「だから、乱馬君。彼、最近出来た料理屋さんでバイトしているでしょ?厨房みたいだし、もう腕はお披露目してもらったの?」
黒板消しと格闘しているあたしの背中に向かって、さゆりが不意にそう話し掛けてきた。
「・・・バイト?」
あたしは、さゆりの言葉を受けて思わず黒板消しを叩く手を止める。
・・・何それ。あたし・・・あたし、そんなの知らない。
「・・・」
あたしがゆっくりとさゆりの方を振り返ると、
「何よあんた、その顔は。まさか、知らなかったの?」
さゆりも、そしてその横で話を聞いていたゆかも・・・あたしに少し驚いた表情を見せた。
「う、うん・・・」
あたしが素直に頷くと、
「あたしも別に乱馬君の口からはっきり聞いたわけじゃないのよ。ただ・・・」
さゆりは何だか複雑そうな表情をしながら、あたしに話し始めた。
・・・それは、さゆりが家族で食事に行った時。
たまたま入った中華料理屋で、厨房で忙しそうに働いている乱馬の姿を見つけてしまったそうだ。
最初は他人の空似かと思っていたけれど、見慣れたおさげ髪に加え「早乙女」って呼ばれていたから間違いないと、確信したみたい。トレードマークのチャイナ服ではなく、白い料理人が着るような制服を着ていたらしい。
もちろん乱馬は仕事中のようだし、店内は薄暗いし混んでいたのでさゆりが声をかける事はなかったみたいだけれど。
・・・
「何であんたが知らないのよ。彼女でしょ?」
さゆりの話を不思議そうに聞いていたあたしに、さゆりが眉をひそめながらそう尋ねる。
「そ、そうだけど・・・」
「そうだけど、何なの。あまつさえ同じ家に住んでいるのに、どうして乱馬君がバイトしているのをあんたが知らないの。おかしいでしょ」
さゆりはそう言って、あたしの顔をじっと見つめる。
その顔や仕草は、何だか昨日の夜のなびきお姉ちゃんに通ずるものがあった。
「・・・」
昨日の夜に交わしたお姉ちゃんとの会話が不意に胸の中に甦り、あたしの胸がドクン、と大きな音を立てて鼓動した。
・・・ショック、だった。
自分の彼氏の秘密を他人から聞かされるって、こんなにショックなことなんだ。あたしはそんな事を思っていた。
傍にいるのが「当たり前」の相手、
許婚でいてくれるのが「当たり前」の相手、
そして・・・好きあっているのが「当たり前」の恋人同士なのに、どうしてあたしは乱馬の秘密を知らなかったの?
それこそ、秘密を知っていて「当たり前」。いや、秘密なんてなくて「当たり前」なのに・・・。
そう思うと、尚更だった。
乱馬、あたしの知らないところでバイトをしていたんだ・・・でも、何で?
どうしてバイトをしているの?どうしてそれをあたしに隠しているの?
「・・・」
・・・あたし、三週間も気付かずに放っておいたんだ。あたしはそんな事が今更気になって仕方がない。
昨日の、乱馬の体から感じた「匂い」のことも、そして今日聞いたバイトのことも・・・たった三週間なのに、あたしがぼんやりしていただけで、乱馬には秘密が生まれる。
「信じている」、が聞いて呆れる。あたしは自分の甘さにまた腹立たしくも悲しくなった。
「・・・」
もしかして、そのバイト先の女の人の・・・匂いだったのかな。
あたしはそんな事まで考え始めていた。
と、その時。
「ねえあかね。あんた最近乱馬君と上手くいってるの?」
黙り込んであれこれと考えていたあたしに、話の成り行きを伺っていたゆかが、尋ねて来た。
「い、いってるよ・・・当たり前じゃない」
・・・本当は分からない。それでもあたしが見栄を張ってそう答えると、
「じゃあ何で、あんたが乱馬君のバイトのこと、知らないのよ」
「そ、それは…」
「いつも傍にいるからって、油断していると…取り返しがつかなくなる場合もあるんだよ?」
ゆかは、あたしがなびきお姉ちゃんに昨日言われたのと同じことをズバッと言った。
「!」
ドクン・・・あたしの胸が強く一度、鼓動した。それと同時にビクッと体が竦む。
「特に乱馬君なんて、狙っている女の子たくさんいるんだから、気をつけないと。一緒に居るのが当たり前…なんて思っていたら痛い目みるよ?浮気、しているかもしれないよ?バイ
ト先で」
ゆかはそんなあたしに更に厳しい表情で、そう忠告した。
「・・・」
浮気していたりして
・・・ゆかの言葉と、なびきお姉ちゃんの昨夜の言葉が胸の中でオーバーラップした。
ドクン・・・あたしの胸がもう一度強く、鼓動する。そしてその後は、トクトクトク・・・と尋常ではないほど早いリズムで胸を刻んでいた。
このゆかの言葉が今、あたしの胸には嫌というくらいズンと、響いていた。
何とか掻き消そうとしていた不安、抱かないようにしていた疑惑、そしてどうしてもっと早くちゃんと確認しなかったのかという後悔・・・色々な思いが胸の中を交差する。
「・・・どうしよう」
あたしはぎゅっと、制服の胸の部分を掴んみながら小さな声でそう呟いた。
本来ならばもっと早く、乱馬に確認していれば済むことだった。それなのに、人から彼氏の秘密を聞かされるわ、浮気していたらどうするのかと焚きつけられるわ・・・彼女としては赤点だ。
あたしはいつの間にか、手に持っていた黒板消しをベランダの床にボテッと落していた。
そして、ごちゃごちゃする頭を整理しようときゅっと唇を噛みながら、その床に落ちた黒板消しをじっと見つめていた。
すると、
「…よし、反省した?」
「え?」
「あかね、凄く恵まれている状況で恋愛しているんだよ?それを忘れないで居て欲しかったの。今あかねにキツイ事を言ったのは、友達として忠告」
「ゆか…」
「ねえ、あかね。彼氏の秘密をさ、他の人から聞くって凄く嫌な気分だったでしょ?」
「うん・・・」
「だったらさ、そうなる前に何とかしなくちゃ。一緒にいるのが当たり前、なんてこと、世の中にはないんだよ?例え最初は一緒にいても、努力を忘れたら離れてしまう事もあるの。
好きだから、一緒にいたいから傍にいるってその気持ち、絶対に忘れちゃダメだよ」
黒板消しを見つめながら、今にも泣き出しそうな顔で黙り込んでいるあたしに対し、ゆかはそういって、厳しい表情一転、優しい笑みを浮かべてみせた。
「・・・」
あたしがこくん、と小さく頷くと、
「・・・そしたらほら、こんなところでじっとしている場合じゃないでしょ?」
「え?」
「日直の仕事はあたしとさゆりでやっておいてあげるから、あんたは今すぐ、乱馬君に聞いてきな」
「え、今・・・?」
「もうすぐ、登校してくるんでしょ?だったらそれをゲタ箱で待ち構えてさ、聞きなよ。聞きたいこと、あるでしょ?」
ゆかはそういって、あたしの身体をベランダから教室の中へと押しやった。
「そうだよ、あかね。バイトしていること、どうして黙っているの?って聞いてやんなきゃ。あんた、彼女なんだもん。聞く権利はあるんだから」
さゆりも、床に落ちていた黒板消しを拾い、あたしの代わりにベランダの手すりになんどもボンボンと叩きつけながら、あたしのことをバックアップするべくそう呟く。
「二人とも・・・」
「ほら、ぼやぼやしないの!その代り、聞いた事は必ずあたし達にも報告するのよ?」
「・・・うん」
「行けっ」
「うん」
あたしは、厳しくも優しい親友達に心の中で御礼を言いながら、教室を飛び出した。
そしてゲタ箱まで急いで走っていき、乱馬が登校してくるのを待つ。
・・・ゆかのしてくれたアドバイス。あれを聞いたとき、あたしは改めて思った。
一緒にいるのが当たり前、なんてこと、世の中にはないんだよ?---本当にそうだと、思った。
例え最初は一緒にいても、努力を忘れたらダメなんだって。
「信じているから」なんて言葉、出会ってまだ1年くらいのあたし達が使うには甘すぎるんだって、そう思った。
「信じている」という言葉に隠された「余裕」・・・そして「油断」。
「信じる」と言う行為を、間違えちゃいけないんだって・・・あたしは改めてそう思った。
もしもあたしがとても強い心を持っていて、心から乱馬の事を信じていたのなら、
きっとこんな事態になってもあたしは動揺せず、おおらかな心で彼の全てを受け止めていたと思うの。
こんな風に、「どうして?」「なんで?」で、他の人から得る情報が増えれば増えるほど不安で心が満たされる事なんてないんだと思う。

好きだから傍にいるってその気持ち、絶対に忘れちゃダメだよ

ゆかの言葉が、痛いほど心に染みる。
・・・もう、夜まで何て待っていられないよ。
あたしは落ち着かない気持ちを必死で押さえつけながら、乱馬の登校をゲタ箱の陰に隠れて待っていた。
…と。
「あ、宿題やってねえな・・・ま、いっか。どうせ一限はひなちゃん先生だし」
あたしが隠れている下駄箱の向こう側から、ようやく待ち焦がれた乱馬の声がした。
「乱馬っ・・・」
あたしはさっそくゲタ箱の陰から飛び出そうとしたけれど、
「よお、乱馬」
「ひろしか。宿題やったか?」
「俺がやると思うか?ひなちゃん先生だぞ?」
「・・・だろうな」
でも、あたしが飛び出そうとしたその瞬間、もう一つ別の声が乱馬のすぐ隣でした。
どうやら、乱馬の親友のひろし君が、ゲタ箱で乱馬に追いついてしまったらしい。
「うー・・・」
せっかく待ち焦がれていたにも関わらず、あたしは出て行くタイミングを失ってしまった。
仕方がないので、二人に気付かれないようにあたしはゲタ箱の反対側で次のタイミングを見つけるべく身を潜めていた。
ゲタ箱の向こうの乱馬達は、
「今日の昼飯はどうしようか」
とか
「今週発売の雑誌みたか?」
とか、靴を履き替えながらくだらない会話を交わしていたけれど、その内、
「そういやお前、今日は一人で登校だな。とうとうアレがばれてあかねに愛想、付かされたんだろ?」
・・・ひろし君が、乱馬に向かってそんな言葉を投げかけた事から状況が一変した。
「・・・」
あたしにばれる「アレ」って・・・何?
バイトのこと、かな・・・あたしがそんな事を思いながら聞き耳を立てていると、
「ぬかせ!あかねは今日、日直なんだよ。だから早いの」
「なんだ」
「それに、まだバレてねえよ、俺その辺は上手いから」
乱馬はひろし君にそんな事を言って、笑っていた。
「・・・」
その言葉に、何故かあたしの胸がトクン、と強く鼓動する。
「良く言うぜ。あかねにばれたらやっかいだから、さゆり達にも言わないでくれって、オロオロしながら俺と大介に頼み込んだくせに」
「何をー?親友の秘密を守るのは当然のことだろ。たまには協力しろ」
「はいはい」
二人はそんな話し声と笑い声が、ゲタ箱の向こう側から聞こえてくる。
「・・・」
あたしはそんな二人の会話を聞きながら、背中に嫌な汗が流れるのを感じていた。
・・・何の事を、話しているんだろう。
バイトがばれたら厄介って事・・・ないよね?
じゃあ、何?
ばれたらあたしに愛想をつかされることって?
乱馬が上手に、あたしにも分からないように上手く隠すことって・・・何?
「・・・」
ぎゅっと、知らず知らずにあたしは自分の手を握り締めていた。嫌な汗が、手に滲む。
気のせいだとは分かっていても、何故かあたしの鼻先に昨夜感じた乱馬のあの「匂い」が過った。
まさか・・・まさか?
「・・・」
・・気を抜いたら、その場に座り込んでしまいそうだった。
あたしは握り締めた手にぎゅっと力を込めて、再び二人の話に耳を傾ける。
・・・
「今日もバイトか?」
「まあな」
「しっかしお前も忙しいよな。九時までバイトしたら、今度はその足で美由紀ちゃんを家まで送るんだろ?」
「まあな・・・でも家まで送り届ける事は俺から言い出したことだし、仕方ねえよ」
乱馬はそう言って、ため息をついていた。
「…」
・・・その言葉を聞いて、あたしの胸が一度大きくトクトクと鼓動を早めた。
美由紀って、誰?
犬とか猫じゃないよね・・・だって、バイトの後に家まで送るんだもん。
乱馬の方から家に送るって言い出したって・・・どういうこと?
もしかしてあの「匂い」・・・その美由紀さん、の?
・・・
「・・・」
一生懸命握り締めているのに、あたしの手はどうにもならないくらい震えていた。
床に立っている感覚が、自分でもない。
少しでも気を抜いたら、座るどころか倒れてしまいそうだ。
でも・・・ちゃんと聞かなくちゃ。
もしかしたら、耳をふさいでしまいたくなるような内容かもしれない。でも・・・
「・・・」
あたしは、何度も深呼吸をして息を整えながら再び話に耳を傾ける。
ゲタ箱の向こう側では、更に話は続いていた。
「ま、あんなに可愛い子と一緒に過ごせる時間があるっていうだけでも、一般の男からしてみれば羨ましい事だぜ?ったく、あかねといい美由紀ちゃんといい、何でお前にはいつも可愛い女の子が吸い寄せられてくるんだよ」
ひろし君はそんなことを言いながら、乱馬を茶化していた。
乱馬はそんなひろし君に対し、
「冗談じゃねえよ、こんな生活身がもたねえっての。あかねの相手しているだけの方がずっといい」
と、ぼやいていた。
「何をー?ワガママな奴。いいじゃねえか、両手に花で。シャンプーちゃん達も加えると両手両足に花か?」
こんな腐れ外道が…と、ひろし君は更に乱馬に悪態をついていたけれど、今度は急に真面目な口調で、
「…で?美由紀ちゃんにはいつ、渡すんだ?」
と、乱馬に尋ねた。
「え?ああ…一応予定では、今週末かな」
ひろし君が質問を変えた途端、乱馬の口調も変わった。
・・・一体、何を美由紀さんに渡すんだろう。
あたしは震える手を更にぎゅっと握りながら聞き耳を立てる。
すると、
「指輪って高いんだろ?それにしても美由紀ちゃんもさ、高校生のくせに指輪なんか欲しがるなんてなあ…しかも、何か有名な外国のブランドの奴なんだろ?なんだっけ、ほら、えーと・・・」
「ティファニー」
「そう、それ。詳しいじゃねえか」
「しょうがねえだろ、渡す以上は調べないといけねえんだから。俺そういうの疎いから、苦労したぜ」
「うへー、お前がティファニーの指輪だって。似合わねえの。しかもあれだろ?ほら・・・指輪に文字」
「ああ・・・RtoMって入れろってな。一応電話かけて聞いてみたら、指輪の料金に文字入れも含んでくれるって。助かったぜ。」
「へえ。指輪の裏にイニシャル入りか。いかにもって感じだな?」
「まあな。はー、それにしてもその指輪、思っていた以上に高えんだよ。ビックリしたぜ、マジで。」
「いいじゃねえか、可愛い美由紀ちゃんが、どうしてもそれがいいって言うんだから。本望だろ?」
「まあなあ・・・それであの人が喜ぶんだったらそれでいいんだけど」
乱馬とひろし君はそんなことを言いながら笑っていた。
そして、それ以上その話はせず、そのままゲタ箱から教室へと行ってしまった。
「…」
あたしは、二人の背中が見えなくなったその瞬間までどうにかその場所に立っていた。
でも、二人の姿が完全にあたしの視界から消えた瞬間、フラフラとその場にしゃがみこんでしまった。
「あ、天道さんどうしたの?」
「大丈夫?具合悪いの?顔色悪いけど・・・」
そんなあたしを、たまたま登校してきたクラスメートが支えて立たせてくれようとした。
「大丈夫…」
あたしは何とか平静を装って、その場を離れる。
そして、朝ならば滅多に人がこない廊下の掃除用具入れの傍で立ち止まり、自分が今耳にした事を必死で頭の中に理解しようとする。
…乱馬は。
乱馬は、美由紀さんて女の子に指輪を贈る為に、今必死でアルバイトをしている。
乱馬には似合わない、外国ブランドの指輪なんて、贈ろうとしている。
美由紀さんが喜んでくれるなら、それでいいって。
どんなに指輪が高くても、それでいいって・・・今、二人はそう話していたんだよね?
「…」
この解釈に、何か間違いがある?ううん…きっと、ない。
何度頭を整理しても、こんな時だけクリアに結論が導かれてしまう。
RtoM・・・指輪に刻むその文字、それって乱馬から美由紀さんへって、事だよね?
・・・
「・・・」
頭を、何かで殴られたような衝撃を感じていた。
そしてそれと同時に、呼吸をするタイミングを失うくらい早く、鼓動が胸を打つ。
・・・どうして?
乱馬、美由紀さんて誰?
どうしてその人に指輪なんてプレゼントするの?
あたしにも指輪をプレゼントした事が無いような乱馬が・・・どうして?
ねえ、もしかしてその子にプレゼントするためにバイトを始めたの?
だから、あたしに知られたくないの?
ねえ、バイトが終った後、美由紀さんを家まで送り届けたいって、何?
どうして乱馬がそんな事を申し出るの?
それに…「あかねの相手をしている方が楽」って何?
何、それ…
あたし・・・あたしは、何?
「…」
頭の中で、「何で」という言葉がパレードをしていた。
あたしは、指でそっと自分の唇に触れてみた。
はっきりと指の腹が感じるほど、唇が震えていた。あたしはその唇をぎゅっと…力強く噛み締める。
「…」
…こういうのって、「浮気」って言うんじゃないのかな・・・。
ザワザワと蠢くあたしの胸の中に、そんな言葉が浮かんだ。
なびきお姉ちゃんとゆかのアドバイスが、再び頭の中でリンクした。
三週間前までは普通に過ごしていたのに・・・そう思うと、何だか余計に混乱する。
あたしが油断している間に、乱馬にはもう別の人がいたの?
そう思うと、しっかり噛み締めているのに唇が震える。
一体、いつ出会ったの?
バイトを始めたこの三週間の間?
でも・・・指輪をほしいといわれたからバイトをした、みたいな話だったし、出会ったのはそれよりも前ってことかな。
ということは、まさか普通に仲良くしていたその時に・・・乱馬にはもう、別の相手が心の中にいたかもしれないってこと?
あたしと一緒にいて、一緒に寝て、ぎゅっと抱き合っているその時に・・・乱馬にはもう?
「・・・」
・・・振り返っても振り返っても、一体どの瞬間から自分が裏切られていたのか分からない。
信じたい。あたしが「信じていた」乱馬の気持ちは全て本物だと、本当は信じたい。
でも・・・
「・・・」
・・・今の話を聞いてしまったら、どこまでの乱馬を信じたらいいのか、全然分からない。
RtoM。そんな風に名前まで刻んだ指輪を、女の子にプレゼントするって言うのを聞いて、一体何をどうやってどこで信じたらいいの?
あたし、全然分からない・・・。
「・・・」
あたしと乱馬は、出会ってからこうしてちゃんと付き合うようになるまで、割りと長く時間がかかった。
でも・・・その美由紀さんて人は、きっとあたしより乱馬と知り合った期間は短い。下手したら数週間だ。
それでも、乱馬が一生懸命バイトして、興味のない外国のブランドまで調べて指輪を贈りたくなるような女性だったってことなんだ。
許婚で恋人のあたしよりも、名前を刻んだ指輪を贈りたくなる相手。
そんな運命の人に、乱馬は出会ってしまったんだ。
・・・
「…」
あたしはそっと目を閉じ、ため息をつく。
どうして、彼の心変わりに気が付かなかったんだろう・・・
もしかしたら、それなりに合図とか兆候とかあったのかな。
気付かなかったのは、あたしだけだったのかな。
あたし達は大丈夫。だって、一緒にいるのが当たり前だもの・・・あたしだけがそんな事を思っていたからなのかな。
そんな事をあたしが思っている内に乱馬は・・・
「・・・」
聞きたい。乱馬にちゃんとこのことを聞きたい。
でも、もう聞くのが怖い。だってもしかしたらそのまま別れるって・・・言われる可能性が全くないわけじゃないもん。
傍にいるのが当たり前のはずの乱馬が、もうあたしの手の届かない所に行ってしまうかもしれない・・・。
・・・
「・・・」
頭の中が、混乱していた。
遠くで、いつの間にか予鈴が鳴っていた。まごまごしていたら、一時間目のひな子先生が教室にやってきてしまう。
頭では分かっていた。でも、震える足があたしを教室へと運ぼうとはしてくれなかった。
あたしは何を、どうしたら良いのか分からず混乱したまま…結局一時間目は授業に出ることなく、その場に立ち尽くしていた。





その日の放課後。
あたしは一人、さゆりから聞いた例の中華料理店を覗きに行った。
高校生だし店内に入ったらばれてしまうかもしれないから、ガラス張りのウインドウからこっそり、中を覗いてみた。
…店内、まだ準備中だったけれど、忙しなく動いている厨房のカウンターの中で、乱馬は一生懸命働いていた。
トレードマークのチャイナ服ではなく、真っ白な料理店の制服を身にまとって。
修行をしている時と同じような厳しい表情で、一生懸命掃除をしていた。
途中、バイト先の仲間と何やら笑ったりして。
中には、乱馬と同じように長い髪を一つに結っている女の子もいた。
カウンターの向こうで何やら話して笑っている二人は、楽しそうに一緒の時間を過ごしているようにみえた。
もしかしたら、あれが、美由紀さんという人なのかもしれない。
二人は、遠くから見ても分かるほど、とても仲良さげに笑いあっていった。
…そこには、あたしの知らない乱馬がいた。
「・・・」
乱馬が他の女の子と楽しそうに話している姿を、どうしてあたしはこんな遠くから見つめているんだろう。
あたしの知らない女の子と楽しそうに時間を共有している乱馬を…あたしはどうして、こんなところで見ているんだろう。
「…」
…少なくても、バイトを始めたらしいここ三週間くらい、乱馬はあたしの知らない所であたしの知らない楽しい時間を、あの美由紀さんていう彼女と共有しているんだ。

…何で、話してくれないの?いつから、乱馬はその子のことを・・・
ウインドウを指でそっと触れながら、あたしはそんなことを思う。
二人の笑顔を見れば見るほど、一気に寂しさが胸をさした。
RtoM。指輪に刻まれる予定の二人の絆が、ウインドウ越しに伝わってくるような気がした。
ズン、と胸の中へと見えない重圧がかかる。外にいるのにとても、あたしは息苦しかった。
「…」
妙な思い込みと、「信じているから」だなんて思い上がっていた自分が情けなかった。
あたしは乱馬と、そしてバイト先の見知らぬ彼女の楽しそうな姿から目を反らし一人帰路へ着いた。
今のあたしにはそれしか出来ない。そう思うと更に自分が惨めに感じた。

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