【らんま1/2の二次創作小説サイト】| INFORMATION | NOVELS |BOOKMARKS |CONTACTS | HOME |web拍手

SUMMER MEMORIES 3

「ほら、あかね。気をつけて歩けよ」
「あ、う、うん・・・」
「・・・」

その日の夕方。
昨日の約束が延長となり、今日、出かけることになった俺とあかね、そして武。
武が連れて行ってくれる場所、というのが、何とも潮が引いた時じゃないと歩いていくことが出来ない「海中岩」で、 潮が引いた時でも随時足首までは水に浸っているという場所だった。
当然のことながら、出かけたときは男の姿でもその場所に来ればすぐに女になってしまう、俺。
ソレをいいことに、武の奴はこれ見よがしにあかねに近寄っている。
あまりにも腹が立ち、

「あー、この足場は不安定だぜ」
俺が二人の間に割って入ってやるも、

「そうそう、不安定だからあかね、しっかり俺に掴まって」
「う、うん・・・」
「こういうところは、土地に慣れている奴の意見に従った方が怪我もしないんだぜ」
それが返って逆効果となり、俺は再び省かれてしまった。
俺は更に不機嫌になり、
「きゃー、こわーい。確かに地元の人が道案内してくれないと、こんな岩場歩けなーい」
とか何とか。武とは反対側のあかねの手を引き、ぐっと強く握る。
そんな俺の様子に何となく何かを感じたのか、
「武くん、私大丈夫よ」
あかねは笑顔でそう呟くと、武が取っていた手をさりげなく離し、俺の手をキュッと握る。

端から見ると女同士で仲良く手を繋いで岩場を歩いているように見えるが、実際は武でなく俺の、手を取ってあかねが歩いていると言う事だ。
「・・・」
どーだ、この野郎。
俺は得意げに武の方をチラリと見る。
武のヤツは一瞬苦虫を潰したような表情をしたものの、
「そうか。ああ、あかねほら、もう着いたよ」
手をつなげないのなら、さりげなく肩を抱く。
目的の場所についたということもあり、武は素早くあかねの方に手を回し、その場所へと上手い具合に座らせながら触れていた。

「・・・」
くっ・・・油断も隙もねえ!
俺は思わず舌打ちをしつつ、あかねの横に腰掛ける。

俺達の目の前には、俺と武のいがみ合いという人間同士のつまらないいざこざはともかくとして、夕日に映えたキラキラとした海が広がっていた。
引き潮の時でないと来る事が出来ない・・・と地元の人間が言うだけあって、見ごたえは・・・ある。
一般の観光客や宿泊じゃこの場所は知らないだろうしタイミングも知らないのだから立ち寄りもしないだろうし。
海がすぐ間近・・・いうなれば、夏の海をすぐそこに感じることが出来る、極上の場所。
ああ、これがあかねと二人きりで俺が男の姿だったらどれだけ良かったか・・・俺はそんな事を考えながら、ため息をついた。
ちらり、と横にいるあかねを見ると、あかねもキラキラと輝く海をキラキラと輝いた瞳で見つめていた。

と、その内。

「俺・・・家の都合で街を転々と渡り歩いてきて、ようやく今はここで落ち着いたんだけどさ、辛い事とか、嫌な事とかあったら、この場所に来て海を眺めるようにしているんだ。そしたら、何か自分が悩んでいるってことがすげー、ちっぽけなことに見えてさ」
明らかに隣で海を見ていたあかねを意識しながら、武がそんな事を呟いた。
「・・・」
俺にしてみれば、武の本性、というか真意を知っているので「何をほざいているんだ」程度にしか聞いていなかったが、
「武くん・・・苦労したんだね」
そういう事情を全く知らないあかねは、あくまでも自分の目に映る「しおらしい」武の苦労話に同情をして、優しく微笑んでいる。

「・・・」
おいあかね、それはそいつの作戦なんだぞ!
惑わされるな、ソイツは、本当はお前をっ・・・
俺は思わずそう叫んでしまいそうになるが、それよりも一瞬早く武が再び口を開く。

「・・・だから、俺にとってはここ、特別な場所で。あかねには、何か見せたくて・・・」
「私、に?」
「知り合いも友達もここではあまりいない俺が、唯一、俺の子供の頃からの知り合いにあったんだ。昔会ったきりだったのに、あかねは俺に、あの時と同じように接してくれて、俺、本当に嬉しかったんだ。だからあかねは俺の特別。その特別なあかねには、おれの特別な場所、見てほしかったんだ」
「武くん・・・」
「一緒に来てくれてありがとうな、あかね」
武はそういって、素早くあかねの手を握って微笑んだ。

「・・・」
・・・そうか、これが野郎の手か。
でも、こんな見え透いた手に流石のあかねだって引っかかるはずがねえ!
勝手に手まで握りやがって、ぶん殴られてはい、それまでだ。
相手はあかねだぞ?こんな見え透いた軟派な手に引っかかるはずがねえ。
俺はそんな事を思いながら二人の様子を見ていたが、

「あたしこそ、そんな大切な場所に誘ってくれてありがとう、武くん」

・・・はあ!?
たかをくくっていた俺は、信じがたい台詞を耳にした。
耳に飛び込んできたのは、あかねの妙に涙ぐんだ声のその台詞。
しかも、

「民宿にいるのは短い間だけど、たくさん・・・あの頃のこと、話そうね」
「いいのか?あかね」
「うん!だって、久しぶりに会えたんだもん。それにあたし達、ハトコ同士なんだし、気を使わないでよ」
「ありがとう、あかね。あかねは優しいな」

信じられないようなあかねの台詞に、あきらかに「してやったり」顔と口調の武。
あまりのことに、思わず俺が、
「おい、あかね!」
そうあかねの肩を掴んで叫ぶも、
「乱馬も聞いたでしょ?武くんの話・・・せっかく久しぶりに会うことが出来たんだし、色々と話してお互い良い思い出を作ろうと思うの」
「お、思い出なんて作らなくていいんだよ!だいたいコイツがどんな事を考えてお前に今話をしたのかっ・・・」
「昔なじみにあえて、本当に喜んでいるのよ、武くん。そりゃ、乱馬は幼馴染とか友達とかいつもたくさん周りにいるけど、武くんは・・・」
「ソウイウコトを言っているんじゃねえんだよ!」
「乱馬って、意外に冷たいんだね・・・ちょっと見損なったわ」
元々の事情を知らないあかねには、俺の、武の話に対する反応の冷たさが納得できないようで、明らかに俺を非難するような表情で俺を見つめる。

「・・・」
ちらり、とあかねの死角になっている武の方を見ると、明らかに何かたくらんでそうな笑みを浮かべていた。
この展開、ヤツの思い通りってことか!
・・・くそ、相手が素直で単純なあかねってことで、普通の女になら聞かない手もあかねには有効ってことなのか。
俺がギリ・・・と唇を噛み締めると、

「まあまあ、二人とも喧嘩はやめてくれよ。せっかくの景色なんだから、皆で楽しく見ようぜ」
喧嘩の原因を作ったのは紛れもなく武だというのに、武は俺とあかねのいざこざを仲裁でもしているかのように、そういった。
「そうね、せっかくの景色だものね・・・乱馬とつまんない喧嘩をして見ることが出来ないんじゃもったいないわ」
そんな武に乗せられるかのように、あかねが妙につっかかった言い方をして、再び俺から目を反らす。

「・・・」
・・・なんだよ、あかねのヤツ!
今の話の展開なんて、どう考えたって武の野郎の作戦じゃねえか。
いくら単純で素直だからって、そういうのに気づかないのにも限度があるんだっての。

「・・・」
このままじゃ、大丈夫だとは思うけど、でも何か心配だな。
ホントに武のペースに乗せられて、アイツに手、出されたらたまんねえし・・・

「・・・」
俺の胸の中に、モヤモヤとした黒い嫉妬の渦がこみ上げてくる。
どす黒く、そして重い渦。油断をしたら心を全て多い尽くしてしまいそうだ。
いや、俺の心だけでなく、俺を飛び越えてあかねまでも渦に巻き込んで・・・
「・・・」
・・・

どうにか、しないと。
ここにいる三日間、何とかしてあかねを武の野郎から守ってやらなくちゃ。
俺は、俺のことをそっちのけで武と楽しそうに話しているあかねの姿を見つめながら、必死で頭をめぐらせていた。

 

 

 

それから三十分ほどして。
武とは話をするけれど俺とは一言も話をしないあかねと、そんなあかねの横には並ぶけれどヤキモキと二人の姿を見ている俺、楽しそうな武。
三者三様、そんな俺達が民宿へ戻ると、

「あら・・・?」
「お?」

民宿の裏手、従業員の出入り口部分に、うろうろと中を伺うようにして立っている女がいた。
白いTシャツに、スリムタイプのジーンズ。長い茶髪をアップにして、うっすらと化粧をしているようにも見える。
見たことがある、顔だった。そう、例の梶尾美咲だ。

「あかね、悪いけど俺はここで。夕食の支度、しなくちゃいけないから」
・・・当然の如く、彼女と鉢合わせをしたくない武は、そんな上手い事を言いながら従業員で入り口ではなく民宿の正面玄関から堂々と民宿の中へと入っていった。
彼女にしてみればどう考えても武に用があるわけで、ヤツの姿を見つけたらまた、何か騒ぎ立てるに違いない。
武にしてみれば、あかねの前でそんな事をされたら計画が水の泡。上手い事逃げ出すことを選んだのだ。

上手い事、やりやがって。
事情を知っている俺にしてみれば、それは勿論気に入らない事だ。
俺は民宿の中へと入っていった武の後ろ姿を睨み付けながらそんな事を思っていた。
と、そうこうしている内に。

「あ・・・」
従業員入口をウロウロとしていた彼女が、俺と、そして自分を見ているあかねの姿に気がついた。
女の俺と会うのは初めてのはずだから、正確にはあかねの姿に気がついた、のだろう。

「あかね、ちょっと待ってろ」
「え?乱馬?」

俺は、素早く民宿の入り口、いわゆるカウンターでコップ一杯のお湯を借りると頭から被った。
そして、男の姿で彼女の方へと駆け寄る。
別に彼女と話すのは男でも女でも俺にしてみれば構わないんだけど、俺が「水を被ると女になる」という事を知らない彼女にしてみれば、いきなり見ず知らずの女に話しかけられるのも驚くだけ。
それに、いちいち、どうして俺がそんな体質になったのかを話す必要もないだろう・・・そう考えた俺は、男の姿で彼女へと近づいた。

「ああ、あんた・・・あれ、今あんたに似た女がそこにいたはずなんだけど・・・」
「気のせいじゃねえか。それよりも、あんた、武に会いに来たんだろ?」
「そうだけど・・・まだ帰ってないの?さっき民宿の人に聞いたら、例の彼女と出かけたって言っていたから・・・」
「帰ってきたぜ、今。でも、別の入り口から中に入っちまった」
「・・・」

俺の言葉に、彼女の表情がさっと曇る。
夕方、という時間的にも、出入り口で何とかヤツを捕まえなければ、わざわざ呼び出してまで話をするということは出来ない。
忙しい時間帯にわざわざ痴話話で相手を呼び出すなんて、余計に嫌われる事他ならない・・・一応はそれも、彼女は分かっているかのようだ。

「・・・」
・・・ったく、武の野郎には勿体無いくらい、常識人だぜ。
だからこそ、この人には武をしっかり捕まえてもらわないと困るんだよ。俺のあかねに野郎が手を出さないように教育してもらわないと。
俺がそんな事を思っていると、

「ねえ、あたしあんたに頼みたいことがあるんだけど」
彼女が不意に、俺にそう呟いた。
その表情は決して明るいものではなく、どちらかといえば追い詰められているような感じだ。
「悪いけど、あかねをアイツに譲れ、とかいう頼みは聞かねえからな」
勿論、聞ける頼みと聞けない頼みがある。
どうしても聞けない頼みを俺が真っ先にそう呟くと、

「そうじゃなくて。あたし、どうしても武と話がしたいのよ・・・そういうこと」
「はあ・・・でも、だからって俺に何が出来るわけでもないんだけど」
「同じ男として、どうすれば武があたしの話を聞く気になるか、意見が欲しいのよ。今日の夜、少し時間もらえない?」
「え、俺?」
「そう。夜九時に、今朝あたしとあんたが偶然会ったあの木の所にいるから。宜しくね」
「え、おいちょっと・・・」
「頼むよ」
彼女は、俺の返事をちゃんと聞く前にそう言い放つと走り去ってしまった。

「・・・」
・・・頼みというか相談をされても、根本的な恋愛に対してのスタイルが俺と武は違う。
そんな俺の話を聞いたところで、彼女の参考にはなるのか?
でも・・・彼女に頑張ってもらわないと、武の野郎があかねに近づくし・・・

「・・・」
あー、もう厄介だな。
俺はため息をつきながら、彼女の後ろ姿を見送った後、再び民宿の入り口にいたあかねの所に戻った。
すると、

「今の・・・誰?」
戻ってきた俺に、第一声、あかねがそう尋ねた。

「ん?えっと・・・この浜辺でライフセーバーやっている人」
本当は、「アレはお前を狙っている武の彼女で、遊び歩いているあいつを何とかして自分に再び振り向かせようとしている人なんだよ」と、答えたかった。
でもそれを今ここで俺があかねに説明したとしても、
「武くんが、女の子にそんな酷いことするわけないじゃない!」
あかねはそんな事を言い出して、また俺とつまらない喧嘩になる可能性もなくはない。
不必要にあかねと喧嘩をすることだけは避けたい。
だとしたら、俺が知っている最低限の情報をあかねに伝えるしか、ない。俺がそんな事を思いながら、彼女について簡単に説明をすると、
「・・・」
その説明では、やはり不十分だと思ったのか。
あかねが、不機嫌そうな表情をした。
「な、何だよ」
俺がそんなあかねの顔を覗き込みながらあかねに尋ねると、
「今の人・・・乱馬、昼間も話していたよね」
「え?」
「海の家で・・・あたし達が波打ち際で遊んでいる時、二人で話していたよね」
あかねは、小さな声でそう呟いた。
・・・あかねにしてみれば、昼間海の家の中で何やら親密そうに話していた彼女が、わざわざ民宿にまでやってきた。
しかも、彼女の姿を見た途端、わざわざ男の姿になって彼女と再び何やら話しこみ、戻ってきた俺。
それが、気になっているのだ。
勿論、俺はあかねがそんな所まで思い俺に尋ねた事など知るはずもないので、

「別に、たいした話なんてしてねえよ」
「じゃあ、何でわざわざあの人、ここまで来てまた乱馬と話すの?」
「だから、別にたいした話なんてしてないし・・・挨拶しただけだよ」
「何で挨拶するの?」
「だから・・・昼間少し話したし、こんな所でも見かけたから」
と、適当に話を交わすべくあかねに説明をした。

「ふーん・・・」
あかねは、俺のその説明で納得をしたのかしないのか、少し難しい表情をして俺を見つめる。
「そんなことどうでもいいじゃねーか。それより、部屋に戻ろうぜ。そろそろ夕食の準備も終わるだろうし」
俺はそんなあかねを安心させるかのように頭をぽん、と叩いた。
「・・・」
あかねはまだ何かを言いたそうだったけれど、それ以上は特に俺には聞かず、無言で頷いた。
俺はそんなあかねの頭をもう一度軽くぽん、と叩くと、民宿の中へと入っていった。

 

 

夕食が終わり、風呂に入ったり休憩したりしている内に、時間はあっという間に過ぎた。
部屋の時計を見ると、九時十分前。
夕方、梶谷美咲に指定された九時まで、あと少しだ。
待ち合わせ場所へ、民宿から五分もあれば迎える場所なので、まあもうそろそろ出発してノンビリ歩いていけば時間通りには着くだろう。

「あら?乱馬、どこに行くの?」
「ちょっと、散歩」

運よく、シャンプーやうっちゃんは風呂に入っているらしく姿を見かけない。あかねも、今は風呂に行っている。
親父とおじさんはテレビのあるロビーで野球中継を見ながら他の宿泊客と飲んだくれているし、なびきは何故か民宿の片隅にあるメダルゲームで異常に稼ぐことに夢中で、俺の存在など無視。
かすみさんとお袋ならば、あまり俺の行動に深追いはしない。俺は、お袋に一応は断りを入れて民宿の玄関へと向かった。
と、

「乱馬・・・どこに行くの?」
「え?」

俺が民宿から出るべく靴を履いていると、ちょうど風呂から上がって部屋に戻る途中だったのか、浴衣姿のあかねが通りがかり俺に声をかけてきた。
普段なら、あかねに会えることは嬉しいしい、出来ればずっとくっついていたい。しかも風呂上りのあかねだ
「ああ、その・・・ちょっと散歩に行こうと思って」
でも、まさかこれから、梶谷美咲と会うために出かける・・・とは言えない。
俺にしてみれば疾しいことは何もないし、向こうだってそういうつもりで俺と会うわけじゃない。
ただ、どうして彼女と会うのかを説明するには、あと十分という時間では足りない。
俺は、お袋に話したのと同じ理由をあかねに話した。
そして、
たとえ民宿内にいたとしても、こんな無防備な姿はだめだぞ、うん。
風呂上りで少し前がはだけ気味だったあかねの浴衣をキッチリきつめに合わせてやりながら「行ってくる」といった。
すると、


「あたしも行く」
そんな俺に対し、あかねが小さな声でそう呟いた。
そして、風呂の道具を抱えたまま、民宿の下駄を取り出して玄関に降りようとする。

「い、いいよ別に・・・俺、一人で行くから」
「何で一緒に行っちゃいけないの?いつもは、誘ってくれるじゃない」
「何でって・・・ほら、海の夜は、夏でも冷えるんだぞ?お前、風呂から出たばかりだし・・・湯冷めしたら困るだろ」
「・・・」
「せっかく風呂に入ったのに、潮風で身体がべたべたになったら嫌だろ?」
俺は慌ててあかねにそう言って聞かせると、
「すぐ戻るから」
「・・・昨日は、お風呂上りでもアンナコトしたくせに」
「昨日は昨日だろ。それに、風呂に行ったきり俺と外に出かけちまったら、かすみさんとかお袋だって心配するだろ」
「そうだけど・・・」
「だから、明日は一緒に行こ?。な?」

…何とかあかねを納得させて、一人民宿を出た。玄関脇の時計を見ると、九時三分前。
大分時間をロスしてしまった。
俺は、慌てて待ち合わせ場所までの道を駆け、何とか一人、梶谷美咲の待つ場所へと向かった。
ところが、

「あれ?」
俺がその場所に着いたのは、九時二分。待ち合わせには二分遅刻したものの、まあ遅刻しても許される範囲の時間帯だった。
ところが、その時刻を指定したはずの彼女の方が姿を見せない。

「・・・」
待ち合わせ時刻を二分過ぎたから、怒って帰ったのか?
いや、あのとんでもねえ武の性格を許容するくらいの人物が、待ち合わせをたった二分遅れただけで怒るものか?
それとも、待ち合わせ場所、俺、間違えた?
似たような防風松が並んでいるし、まさか違う松の下?
俺がそんな事を考えていると、

「ごめんごめん、遅くなっちゃったよ」
そんな俺の元に、彼女が駆け寄ってきた。どうやら、単純に自分が到着するのが遅くなっただけらしい。

「俺も今来たところだから」
「そう。ちょっと急用が出来ちゃって、遅くなったよ。悪かったね」
彼女は俺に軽く謝ると、

「とりあえず、場所、移動しましょう」
「ここで話すんじゃねえのかよ」
「花火とかやっている人も居るから、大きな声で話さないと聞こえないのよ。大きな声で話すようなことでもないし・・・」
そういって、防風松から少し離れた所にある、ボート小屋を指差した。

どうやらそこは、セイバー仲間が休憩の時に利用することもあるようで、彼女は鍵を持っているようだ。 当然のことながら、夜は人もいないので、少し込み入った話をするにはちょうどいいのかもしれない。
彼女に言われて気がついたけれど、 確かに夜の海は、それなりに人も多い。シーズン的に、少し見ただけでも三・四団体は持ち込んだ花火に興じている。
パンパン、と乾いた音が耳に飛び込んでくる事も否めない。
俺達はその花火の音を避けるべく、そのボート小屋へと向かった。
そして、天井からつるされた小さな豆電球をつけて、中で向かい合う。

とりあえず入り口のドアは閉めたものの、夏なので中は蒸し暑い。
俺はボート小屋の窓を全て開けて回った後、改めて彼女に話しかけた。
「で?相談て?」
すると彼女は、「うん・・・」と小さな声で呟いた後、ボート小屋の中央にあった長いすに腰掛けた。
俺は、そんな彼女の隣には座らず、開いている窓辺へと寄りかかって立つ。
「・・・武は、どうしてあたしのこと、避けるのかな・・・」
「そりゃ、イチイチ尤もな事を言われるし、アイツの全てを知っているからじゃねえのか?」
「それが、武にとっては迷惑って事?」
「今のアイツにとってはそうかもしれねえけど・・・」
「あたしは・・・昔の武みたいに、優しくて真面目な男に戻って欲しいだけなのよ」
彼女は、徐々に高揚していく声を何とかセーブしながら、俺に自分の意見を告げる。

「それなら、アイツが戻るように何とかするしかねえじゃねえか」
「それが出来ないから、困っているのよ。あたしが話をしたくても、聞く耳持たないし・・・」
「恋愛に対してのアイツの考え方、変えてやるしかねえだろ」
「男の人は、誰かに言われたくらいですぐに自分の恋愛観て返られるものなの?」
「・・・いや」
俺はそんな彼女に答えるも、どう考えても俺のこの回答が彼女の参考になるとは思えず、逆に困っていた。

そう、だいたい俺自身対して恋愛経験もなく、彼女の方が年上。しかも、武とは正反対の恋愛観の持ち主だ。
だから、力になってやれるとは思わないんだけど・・・
・・・

「・・・とにかく、あんたにしっかりしてもらわないと。あかねには手、出させたくねえんだよ」
「あたしだってしっかりしたいわよ!でも・・・ねえ、何とかあたしと武が話をするシチュエーション、作ってくれないかな?」
「え、俺が?」
「ありとあらゆる手を尽くして頑張ったけど、ダメなのよ。地元の友達とか、セイバー仲間にも頼んだけどだめで・・・あんたに頼むしかないのよ!」
そうこうしている内に、話をしている内に気持ちがエキサイトしてきたのか、彼女が椅子から勢い良く立ち上がって窓辺に立っている俺へと詰め寄ってきた。

「いや、そんなに興奮されても・・・」
俺が、例えば良牙に・・・とかムースに、とかそういうのなら分かるけど、 俺が武に、彼女とのとりなしを頼むのって何かおかしくないか?
第一、 俺と武は今、あかねのことで張り合っているような間柄だし・・・
「・・・」
俺がそんな事を思っていると、

「好きなの・・・好きで仕方ないのっ・・・受け入れてもらえないのなんて分かっているけど、でも好きなんだもん・・・」
中々とりなすことに乗り気じゃない俺に、更に感情的になった彼女が、そう叫びながら俺の胸にしがみついてきた。
しかも、うっすらと涙を流している。

「お、おいっ・・・」
・・・困ったな。
今すぐ引き剥がしたいけど、泣いて感情的になっている人間を無碍もなく突き放すのって言うのは、人間としてどうなのか?
かといって、あかねじゃないし抱きしめるわけにも行かないし。するつもりもないし・・・
「・・・」
性格に例え問題があっても武のことが好きで、思いつめて感情的に泣いている彼女と、
にべもなく突き放せず、胸に飛び込まれたまま立ち尽くすしかない俺と。
異様な空気が、豆電球だけの薄暗いボート小屋内に流れていた。

 

一方、民宿では。
「あかね、今から外に出るの?」
「武くん・・・」
民宿の入り口では、俺が止めたにも拘らずやはり気になるのか、あかねが浴衣から普段着に着替え、靴を履き外に出ようとしていた。 そのあかねに、目ざとく目を着けた武が声をかけていた。

「うん、ちょっと・・・乱馬を・・・。散歩に出たの、探そうと思って・・・」
「ふーん。でも夜に一人じゃ危ないから、俺も一緒に行ってやるよ」
「でも・・・」
「いいって、いいって。それに、散歩に行きそうなコースとかなら俺の方が詳しいから」
「ありがとう・・・」
「散歩にはもってこいの防風松とか、ちょっと休むのに便利なボート小屋とかも、この浜辺にはあるんだ。最も、ボート小屋は地元のセイバー達じゃないと鍵がなくては入れないんだけど」
「セイバー・・・」
「ああ・・・って、セイバーに興味でもあるのか?あかね」
「・・・」
「あかね?どうした?」
「・・・ねえ、そのボート小屋、見てみたいんだけど」
「別に良いけど。じゃあ、行こうか」

・・・俺と彼女が話をする為に入り込んだそのボート小屋に向かって、まさかあかねと武が歩いてきているとは、俺は勿論想像もしていない。


RUMIC'S NOVELS LINK

パラレル
糖度2
糖度3
糖度4
糖度5
企画

OTHER CONTENTS

■オリジナル作品(外部サイト)
お仕事情報

THANKS!

TOTAL: HITS(Y:)