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好き、嫌い…好き5

「もー、びっくりしたよあかね。あんな格好で歩いているんだもん」

 

あたしが街に飛び出してから、一時間後。
あたしは、偶然街で会ったさゆりに保護されて、彼女の家に連れてこられていた。
自転車で買い物をしていたさゆりは、道の反対側をトボトボと歩いているあたしの姿を見て、慌てて方向転換し、傍に近寄ったという。
それもそのはず、あたしはさゆりに言われてその時気がついたけれど、右京の家を飛び出してきたその時、靴を履き忘れていたようだ。
つまりあたしは、さゆりに発見されるまで裸足で街を歩いていたのだ。
「ちょっとあかね!」
「あ・・・さゆり」
「さゆり、じゃないでしょ!あんた何やってんの!ほら、とりあえずコレ、乗って」
「・・・」
あたしは、さゆりにほぼ強制的に自転車の後ろに載せられて、こうして家へと連れてこられた。
偶然にも、今日はさゆりの家族は留守で、今の時間は家に行ってもさゆり一人だという。
さゆりの家族には、あたしのこの情けない姿は見られないで済んだことだけが幸いだ。
・・・

「足、汚れちゃってるじゃない?ついでだからお風呂にも入りなよ。ね?身体もあったまるよ」
「・・・」

確かに足も街を走っていたせいでだいぶ汚れているし、身体も冷えて疲れていた。
あたしはさゆりの好意に甘え風呂を借りた。
さゆりは、そうやってあたしが風呂に入っている間に色々と準備をしていたようで、
風呂からあがりさゆりの部屋へと姿を現したあたしに対し、
「何かあったの?あんな格好で歩いているなんて、あたし事件にでも巻き込まれたのかと思って心配しちゃったわ」
気持ちを落ち着かせる効果のあるカモミールティーを差し出した。そして、一口、また一口とそれに口をつけるあたしに、優しくそう問う。

「・・・」
さゆりは、あたしが何に対して不安で、不満を持っているか知っている唯一の人物だ。
誰かに話せば少しはあたしも冷静になれるのか。
もっと違う視点で今の現状を見ることが出来るのか・・・わからないけれど、でも状況が分かっている人に話しを聞いてもらえるのな
ら・・・

「実は・・・」
話し始めるまで少しは躊躇したけれど、あたしは昨夜から今朝に掛けての出来事を洗いざらい全て、さゆりに話した。
すると、

「・・・どうしようもないわねえ、乱馬君は!残念だけどフォローするところが見当たらないわよ。右京も右京だけど、でも人を好きになる気持ちはどうにもすることが出来ないしね
え・・・」
さゆりは「やれやれ」とため息をつきながらそうぼやく。そして、
「で?公園で話をしたことによって、乱馬君は少しは気がついたわけ?」
「・・・分からない」
「浮気する、しないの問題じゃないんだけどねえ・・・ただ、これで乱馬くんか気が付かないと言うか何も思わないというのなら、あかねも少しは考えたほうがいいかもよ?」
「考えるって・・・?」
「・・・彼のことが好きで、今はずっと一緒にいたいと思っていても・・・それには彼、ふさわしくないってこと」
「え・・・?」
「彼が今のままなら、あかねはずーっとこの先もこういうこと、悩んでいかないといけないんだよ?あかねがそれに耐えられるのならばいいけど、今だってこんな状況じゃない。いつ
か爆発して修復不能な関係になってさ、お互いを疎ましく思うようになるのならば、早めに・・・ってこと」
そう言って、もう一度ため息をついた。
「それって・・・別れた方がいいってこと・・・?」
言葉を選んではくれているけれど、内容はそういうことだ。
あたしは、さゆりの言葉の意味を汲み取り、小さな声で呟いた。ドクン、と胸が大きく鼓動した。
さゆりはそれに対し明確に「うん」とは返事はしなかったけれど、
「あかねは可愛いし、ただでさえ人気あるんだもん。今ここでこだわらなくたって、これからだってきっと、チャンスもあるよ」
と、言った。
それは、返事をしなくてもそれが同じ意味だと、あたしにはそう取れる。
「いや・・・そんなの嫌!」
あたしは、さゆりの言葉に首を左右に振りながらそう答えた。
「好きなんだもん・・・今日はすごく嫌いって・・・嫌いって思って本人にもそう叫んでしまったけれど、嫌いだけど好きで・・・でもあたし・・・」
ただ・・・さゆりの言葉を否定したくて仕方ないのに、さゆりにその思いを伝えようとすると自分の中でも混乱してしまう。

「・・・わかんない」
好きなのに嫌いで、でも好きで・・・だけど嫌い。

不安と、焦りと、そして混乱と。
上手く自分の中で処理が出来ず、あたしはため息混じりにそう呟いた。

思わず、手に持っていたティーカップをガシャン・・・とテーブルの上に乱暴に置いてしまう。
カタカタカタ・・・と、テーブルに置いたカップがソーサーと小さな音を刻んでいた。取っ手を持つ手が震える。
さゆりはそんなあたしの震える手にそっと自分の手を重ね、「まあまあ」とあたしに声をかけると、

「・・・ま、あとは乱馬くん次第ってことね。だけどあかね、そういう選択肢だってあるってこと、覚えておきなね」
「うん・・・」
「あーあ、あたしが男だったらさ、容赦なくこんな状態のあかねを乱馬君から、かっさらうんだけどなあ」
さゆりは最後に苦笑いをしながらそういって、あたしがテーブルに置いたティーカップに、おかわりのカモミールティーを注いでくれた。

「・・・」
ゆっくりと、ティーカップを満たしていく琥珀色の液体。
それを見つめながらあたしの胸中は複雑だ。

 

と、その時。
「・・・あら?メールかしら」
静かな部屋の中に、今流行の曲がアレンジされた着信メロディが突如流れた。
どうやらその曲をさゆりは携帯メールの着信音として設定しているらしく、
「ちょっと待ってね、あかね」
そういって、部屋の隅の充電器に置かれていた携帯電話を手に取る。そして素早くメールチェックをしていた。
「ひろしからだ」
「ひろしくん?」
「何コレ。シキュウデンワモトム、リュウセイノゴトシ・・・って、お前は何時代の人間だっちゅーの。あかね、ごめんね、ちょっと待ってて。電話してくる」
ひろしくんは、さゆりの彼氏だ。どうやら彼から緊急のメールが入ったようで、さゆりはあたしを部屋の中に置いたまま慌しく部屋の外へと出て行った。
「・・・」
あたしはさゆりの電話が終わるのを一人部屋の中で静かに待ちながら、ぼんやりと物思いにふける。

・・・さっき公園で話をしたことにより、乱馬は少しは何か、思うだろうか。
もしこれで本当に何も変わらなくて、顔を合わせたときにまた、火に油を注ぐようなことを言われてしまったら・・・
そう思うと、自然と胸の奥がジンジンと痛かった。

人それぞれ違う価値観や恋愛観。
でもそれが微妙なバランスで噛みあって、誰かと誰かは付き合っていくんだ。
相手に合わせる人、それぞれを大事にする人、ある程度お互いに距離を持たせる人・・・そういうのが数え切れないほどのパターンで存在して、それぞれにあったものを選ぶんだ。
あたしと乱馬も、そうだった。
趣味に関しては、お互い我、関せず。お互いの「領域」にまで土足で入り込むようなことはしない。
そのほかのことに関しては・・・お互いがお互いでいられるような、付き合い方や接し方をしてきた。
あたしは乱馬が大好きだったし、乱馬もこんなあたしを好きだといつも、言ってくれていた。
そりゃ・・・お互い完璧ではないし、足りないところはある。でも、それはお互いの良いところの数に比べたら気になるものではない。
純粋に、乱馬と今も、これから先もずっと・・・ずっと一緒にいたいと思った。このままずっと一緒にいて、乱馬の「最後の人」になれたらなって・・・思った。

初めて付き合った相手が、同時に最後の相手になるかもしれない。
そんなこと、滅多にあることではないことぐらい、あたしだって分かっていた。
でも、そんなほんのわずかな確率と分かっているようなことでも、思えるような相手だと・・・あたしは思っていた。
好き。乱馬の事は大好き。そう、思っていた。

でも。
付き合っている内にだんだん、気になることが見えてきた。
優しい乱馬の、優しすぎるその「優しさ」・・・徐々にそれは、あたしの中で「不安」という形に姿を変えて心の中に残るようになった。
乱馬のことを好きになればなるほど、その不安は形をあらわにしてあたしの中へと影を落とす。
いつしかそれは、あたしに複雑な感情を抱かせるまでに成長した。

乱馬が好き・・・でも、そんな乱馬は嫌い。なのに、やっぱり好き・・・
好きなのに、嫌い。でも好きで好きで堪らない。

そんなあたしの不安定で複雑な感情を乱馬に伝えてしまったら、もしかしたら「嫌い」、だけが取られて何かが変わってしまうかもしれない。
好きなのに、乱馬に嫌いというのは嫌だった。出来れば、乱馬に自然と気づいて欲しいと思った。
・・・だけど、そんな風に考えていたからこんな事態になったんだ。
ただでさえ複雑で不安定なあたし達。そしてそれに絡んでくる、乱馬に未だ片思いをしている右京の真っ直ぐな気持ち・・・
複雑に絡み合った状況が、更に酷くあたしを混乱させていた。

「・・・」
きちんと落ち着いた状況で乱馬とこのことについて話は出来なかったけれど、それなりに乱馬には伝えたつもりだった。
あとはさゆりが言うように、乱馬次第なんだろうな・・・
どうなの、かな・・・

先が読めない分、モヤモヤとして落ち着かない心境だった。
あたしは、電話のために部屋の外に出たさゆりを待ちながら、そんな事を考えつつため息をついていた。

と。

「ごめんねー、あかね・・・待たせちゃって」
ガチャリ、と部屋のドアが開き、外でひろしくんと電話をしていたさゆりが部屋の中へと戻ってきた。
「ごめんね、さゆり・・・せっかくひろしくんからの電話なのに、急がせてしまったみたいで」
「ああ、いいのよ別に。訳の分からないメールを送ってくるから何事かと思ってすぐにかけ直しただけだし」
「あの、あたしもう帰るね。だから、もっとゆっくり電話をしてよ」
いくらクラスメートで、学校に行けば毎日顔を合わせるしメールでしょっちゅうやり取りをしているとはいえ、せっかく彼氏と電話で話せる機会をなくさせてしまっては、何だか気が
引けた。
あたしは、部屋に戻ってきて、充電器に再び携帯電話をセットしているさゆりにそう言いながら、立ち上がった。
そして「お邪魔しました」と、部屋から出て行こうとするも、
「まあまあ、もうちょっとゆっくりしていきなさいよ。お風呂上りだし、せっかく身体が温まったばかりなのに」
「でも・・・」
「それに、デリバリー、頼んだから。それが来てからでも遅くないでしょ?帰るの」
さゆりはそういって、あたしににっこりと微笑む。

先ほどひろしくんとの電話を切ってあたしの元に戻る前に、素早くどこかにデリバリー・・・つまり出前の電話をかけてでもいたのだろうか?
突如来た友人への何とも手際の良い心遣い。全く気が利く女の子だ。
ただ、

「・・・」
高校生が割りと気兼ねなく頼める出前なんて、ピザ。もしくはこの近辺だと猫飯店くらいだ。
どちらにしても、今のあたしには少し胃に堪えるようなメニュー。気持ちは嬉しいけれど、食べられそうも無い。
あたしが黙り込んでいると、
「いいじゃないの、どうせ土曜日だし。家族も留守で、あたしも一人で暇なのよ」
「さゆり・・・」
「ね?ほらー、座って座って。あ、そうだ。あかねにさ、見せたい雑誌があったのよ。すっごく可愛い服が載っててさー・・・」
さゆりは、そんなあたしに気を使いながらも再びテーブルの所まで連れて行き、あたしに楽しい話題をいくつも振ってくれる。

「・・・」
・・・たしかに食事は出来ないかもしれないけれど、友達のこういう気を無碍にしてしまっては罰当たりだ。
さゆりは色々とあたしの話を聞いてくれたり心配をしてくれたり・・・気を使ってくれているのだもの。
そんなさゆりが「暇」というのなら、付き合ってあげようか。

「雑誌って・・・どれ?」
「これこれ。ね?なんかこれ、あかねに似合いそうだな、って思ったの」
あたしはさゆりにくっつくようにして座りなおすと、さゆりが引っ張り出してきた雑誌を覗き込み、しばらく時間を過ごした。

 

・・・二人でそんな風に雑誌を見ながらあれこれと話し始めて、かれこれ四十分は経った頃だろうか。
ピンポーン、と、さゆりの家の呼び鈴が鳴った。
どうやら、さゆりが電話をかけたというデリバリーが届いたようだ。
「あ、きたきた・・・意外に時間がかかるものなのね」
さゆりは今まであたし達で読んでいた雑誌をぱたん、と閉じてテーブルに置くと、
「あかね、悪いけど玄関に出てくれる?」
目の前に座っていたあたしに向かってそういった。
「あ、うん・・・」
もちろんお邪魔しているわけだから、あたしが品物を取りに行くのは構わない。
でも、あたしは身一つでこの家にやってきたわけだから、実は財布を持っていない。
支払い、どうしよう・・・あたしがそんな事を考えていると、
「大丈夫、後払いだから」
さゆりはにっこりと微笑みながらあたしにそういった。それなら、こちらも安心だ。
「行ってくるね」
「お願いね」
あたしはさゆりに言われたとおりに部屋から出て、玄関へと向かった。
そして、もう一度「ピンポーン」と呼び鈴を鳴らしたデリバリー業者に、
「はーい、今開けますから・・・」
そういって、品物を受け取るべく玄関のドアを開けた・・・・が。

「!」

玄関を開けたあたしは、思わずハッと表情をこわばらせた。
そして無意識にそのまま玄関のドアを閉めようとするも、
「っ・・・」
あたしがドアを閉めるのよりも早く、外から足で、それを阻まれてしまった。
そして、呼び鈴を押したその人は、まんまと玄関の中へと入ってきた。

・・・呼び鈴を押して、玄関の中へと入ってきた訪問者は、乱馬だった。

「・・・」
どうして乱馬が、さゆりの家に?乱馬、さゆりの家って知っていたっけ・・・?
何で?何でここに・・・?それにそもそも、どうしてここにあたしが居るって、分かったの?
・・・
驚いて声も出せないままあたしが乱馬をじっと見つめていると、

「・・・これ・・・」
乱馬はそういって、あたしにあるものを差し出した。
それは、あたしが右京の店に忘れてきた、あたしの「靴」だった。

「あたしの靴・・・」
あたしがその靴を乱馬から受け取り彼を見ると、
「靴、届けに来た・・・迎えに来るついでに」
乱馬はそういって、
右京の店に一旦戻りあたしの靴を取ってきたこと、あたしがきっとさゆりの家にいるだろうと思い、その彼氏のひろしくんの家に行ったこと、そして彼からさゆりに頼んでもらって、
あたしと会えるように仕向けたことを話してくれた。

「・・・」
・・・さゆりのさっきの電話は、それだったのか。
それにそういえばさゆり、「デリバリー」とは言っても、「食べ物を頼んだ」とは言ってなかった。そう思ったのはあたしだけだった。
まさか、乱馬があたしの靴を届けに来るとは、思わなかったけれど・・・

あたしが靴を持ったまま何も言わずに俯いていると、
「・・・最初は家かなと思ったんだけど、でも気分を落ち着かせるなら外に出たままだろう知って、思ってさ」
「・・・」
「東風先生の所に行くとは、思えなかったから・・・こんなことになったからこそ、あかねなら絶対にそんな事は思わないって俺、思ったから・・・そしたらここ、思いついた。当たった
な」
乱馬は、あたしがここに居ると見当をつけた理由をそう呟いたあと、
「・・・ごめんな」
小さな声で、あたしに素直に謝った。あたしは驚いて思わず顔を上げる。
「・・・俺、あかねに言われるまで全然、そういうの気にしてなかった」
「・・・」
「真剣に、うっちゃんは幼馴染だから、友達だからって・・・他の友達と付き合うのと同じ感覚で考えてた。でもさっき最後にあかねに東風先生のことを言われたときにさ、俺自分がし
ていた事をもしも、逆にあかねにされてたらって考えたら・・・何か、そのもう居ても立ってもいられなくなって・・・」
乱馬はそう言って、靴を持ったままのあたしをじっと見つめた。
あたしは思わずそんな乱馬から目を逸らす。
「色んな事考えてたら、昨日あかねが学校で言いかけた事とか、店の前で俺に言った約束の事とか全部ちゃんと理解できた」
「・・・」
「俺、自分がそんな気持ちを殆ど感じていなかったから、気づかなかった。でも俺が感じなくて済んだのは、あかねがちゃんとそういうのを考えて、俺に接してくれていたからなのに
な」
乱馬はそういって、靴を胸に抱いて黙っているあたしの身体へと、手を伸ばした。
「や・・・」
あたしが思わずその手から逃げようと身をよじろうとするも、それよりも一瞬早く、乱馬はあたしの身体を捕まえて、そしてぎゅっと、自分の方へと引き寄せた。
あたしと乱馬、玄関のポーチと室内の差で立っている高さが違うはずなのに、
高い位置に立っているあたしよりも、やっぱりいつも通り背が高い乱馬は、いつものように自分より小さいあたしの身体を、力強く抱き寄せる。

「・・・」
・・・本当はまだ、複雑な気持ちが胸の中に疼いているから、こんな風に抱きしめられるのには何だか抵抗がある。
でも、突き放すことが出来ない・・・あたしがそんなことを考えていると、

「ホントにごめんな、あかね」
「・・・」
「俺、気をつけるから・・・俺も、ずっとあかねと一緒にいたいと思ってる。だからさ、思ってた、だなんて過去の出来事みたいに言わないでくれよ」
「・・・」
「あかねは、俺の最初で最後の人だから。だから俺、あかねに一緒に居てもらわないと・・・」
俺自身の存在価値も、ねえよ・・・乱馬はそういって、あたしを抱きしめる腕の力をもっと、もっと強くした。
その力は、あたしの胸の中の不安や、戸惑い、そして複雑な全てのモヤモヤも、ぎゅっと締め付けるかのようだ。
好きなのに、嫌い・・・でも好きで好きで堪らない。そんなあたしの不安定な気持ちを、ぎゅっと・・・大きな力で固定しようとする。

「・・・」
あたしは、抱きしめられているその腕の中で気がつくと、涙を流していた。
・・・あたしの言いたかったこと、乱馬に伝わったんだ。
そういう気持ちと、今まで抱いていた不安がスー・・・と希薄になっていくようなその不思議な気持ちと。
そして、希薄にはなって行きつつあるけれど、それでも今まで感じていたその不安がそのま
ま、あたしの胸へと溶け込んで・・・色々な感情や出来事などが胸の中を目まぐるしく動く。

「・・・俺のこと、まだ嫌い?」
腕の中であたしが泣いていることに気がついた乱馬は、そんなあたしの身体を少しだけ離し、小さな声でそう呟く。
「好きだけど嫌い・・・さっきみたいに、まだ嫌いのままかな・・・」
乱馬の表情は、不安そうに歪んでいた。
そうあたしに言わせたのは自分だ。
それが分かっているがゆえに、もしや取り返しがつかないような状況になっているので
は・・・そう思うのだろうか?

「・・・」
・・・まだ、あたしの中の不安は、全てが解消されたわけではない。
複雑な感情は今でもまだ、胸の中にある。
だけど・・・やはりあたしの根底にある一つの気持ちが、あたしに問う乱馬に対して、決断を下した。

「・・・」
あたしは、そんな乱馬にゆっくりと首を振って見せた。
もちろんそれは、縦にではない。横に・・・左右に、だ。

・・・好きだけど嫌い。でも、好き。
不安に心を駆られていたあたしは、ずっとそんな風に思っていた。
好きな所がたくさんあって、でもその中にも嫌いな部分があって。だけど、トータル的にはとても乱馬が好き。大好き。そんな感じだ。
でも今回色々なことがあって、自分の気持ちが混乱した。
あげくあたしは、言いたくはないけれど嫌い・・・「好きだけど」を前につけないような気持ちを、乱馬にぶつけてしまった。
本当は、好きで好きで堪らないのに・・・でもどうしようも出来なくて、あたしはそう、乱馬に叫んだ。
それを口に出してしまったら、逆に乱馬に嫌われてしまうのではないか・・・そんな風に思って、不安になったこともあった。
でも、
言いたいこと、不安に思っていたことを全て出して、あたしは乱馬と、向かい合った。
すんなりとは、いかなかった。でもこうやって、乱馬の考えていたこともあたしの思っていたことも・・・お互い分かった。
それが、今すぐ全てクリアにされるかは、分からない。
でも、意識を持つことでそれは前よりも明らかに前に進む気がする・・・
・・・

「・・・やっぱり、好き」
あたしは、不安そうな乱馬の顔を真っ直ぐと見つめながら、そう呟いた。

涙で頬が濡れて、そのくせ唇が乾いていて・・・何だか上手く発声できない。でも、あたしは乱馬に、自分の気持ちをちゃんと伝えた。
乱馬はそんなあたしを、ほっとしたような顔で見つめた。

「・・・ホントは好きで好きで、堪らない・・・」
あたしはそんな乱馬に、また涙を流しながらそう、伝える。

そう、好きだから・・・嫌いって思う部分を持ってしまって。でも根本的なところは大好き。
あたしがそう思いながらそっと目を閉じると、乱馬はそんなあたしの乾いた唇にゆっくりと自分の唇を重ね、
「・・・俺も、好き」
唇が離れた直後にそう呟いて、ゴツ・・・とあたしの額へと自分の額をくっつける。
「うん・・・」
涙で頬を濡らしたままそう呟くあたし。そして、そんなあたしの涙を大きな手で拭いながら優しい表情で見つめる乱馬。
あたしは、それまで温度を大分失っていた自分の身体に、何か温かいものが流れてくるような・・・そんな感覚を覚えながら、乱馬と向かい合っていた。

 

と、その時だった。
「あー・・・ゴホン」
向かい合ってくっついているあたし達の背後で、わざとらしい咳払いがした。
「!」
あたし達が慌てて離れ声がした方を見ると、
「仲直りしてくれたのは友達として非常に嬉しいんだけど?一応ここ、うちの玄関なんで」
それまで二階に待機していたはずのさゆりが、そんな事を言いながら、にやりとあたし達の姿を見て笑っていた。
いつの間にか、あたし達のやりとりを見物していたようだ。

「っ・・・」
・・・そうだった。
すっかり話しに没頭していてそのことを忘れていた。
それなのにあたし達、うっかりキスとかしてなかったっけ?
人の家の玄関で、一体あたし達はなんてこと・・・あたしと乱馬は、何だか恥ずかしくなって真っ赤になって俯いてしまった。

「もー、頼むわよあんた達」
もちろん、さゆりはそれに対して本当に怒っているわけではない。
あくまでも面白そうにそう声をかけると、

「じゃあ乱馬君、ちゃんとあかねを連れて帰るように。あかね?今日の『料金』は月曜日にちゃんと報告することで支払いってことにしてあげるからね」
さ、あたしはひろしに任務終了って連絡入れないと・・・とか何とか言いながら、再び二階へと引っ込んでしまった。

「・・・帰ろうか」
「・・・うん」
あたし達は、さゆりと、そして協力をしてくれたひろしくんに感謝をしながら玄関を出た。

ただ、玄関を出る際あたしは、乱馬がせっかく持ってきてくれた靴を履かなかった。
靴は、胸に抱いたままにし・・・あたしは乱馬の背中に背負われて、帰ることにしたからだった。
土曜の昼間だし、それなりに人通りが多い道も通る。
でも何だか今日は、乱馬の背中に背負われて、くっついて帰りたいなと思ったのだ。

「・・・靴を取りに行った時な、うっちゃんと少しだけ話したんだけど」
・・・帰り道。
あたしを背負う乱馬は、何故か必要以上にあたしのお尻部分にべたべたと触りながら、あたしに話しかけてきた。
「・・・」
何を、話したんだろう。あたしが黙って乱馬の話を聞いていると、
「店の手伝いはともかくは、新作メニューの開発に関しては・・・あかねにも協力してもらおうかなって、言ってた」
「え?右京が・・・?」
「俺がメニュー開発で協力することってさ、実は食べることだけなんだよな。うっちゃんが作るメニューを、試食することだけ」
「そうなの?」
「昨日は小夏が居なかったから、うっちゃんの調理補助とか材料の混ぜ合わせとかも手伝ったけど。普段は食べるだけ」
乱馬はそういって、「手伝い期間が終わったら、激しく動かないと」と呟いている。
「でも・・・」
・・・でも、右京の本心としては、あたしは邪魔なはず。それなのになんで?
「・・・」
あたしがそんな事を思っていると、
「なんか、あかねを太らせてやるとか何とか、言ってたけど」
「な、何よそれ」
「ま、本当のところは良く分からないけどさ、でもうっちゃんにしてみても、色々な人に味を吟味してもらった方が開発しやすいんじゃないか?」
乱馬はそういって、笑っていた。
右京のやつ、あたしを太らせて乱馬を幻滅させようとでも思ってるな?
そうはいくもんですか、とあたしは思いつつ、

「じゃあ、おじさまとかなびきお姉ちゃんとかも一緒に連れて行こうか・・・」
「それ、いいかもな。考えてみれば、最初からそうすればよかったな・・・」
「・・・。そしたらあたしも、乱馬と一緒に運動しなくちゃ。試食ばかりしてたら、太るよね」
「そうそう、太るから一緒にな。一緒にたくさん運動して、一緒に気持ちよくなろうな。そしたら気持ちよく眠れるし痩せられるぞ」
「・・・やめようかな」
「遠慮するな」
乱馬は妙に笑顔であたしにそう言うと、

「それとな・・・さっき俺、断った」
「え?断ったって?」
「実はさ、俺・・・一週間手伝いをしたら、うっちゃんが取材のお礼に貰う予定だった温泉旅行のチケットで一緒に旅行行かないかって、誘われてたんだよな」
「・・・」

・・・知らなかった。
そういえば、取材の話を右京がしてくれたときに、お礼がどうとかいっていたけど、まさかそんな事になりつつあったとは。
もしかしてこんなことにならなければ、乱馬はその旅行に・・・?

「・・・」
何で、自分の彼が、他の女の子と旅行に行かなくちゃ行けないの・・・?それをあたしは、後から知らされて・・・?
再び妙な胸の痛みを覚え、あたしが急に黙り込むと、

「あ、だからっ・・・元々まだ返事はしてなかったから。誤解するなよ」
乱馬は慌ててフォローを入れつつ、
「三名まで同行できるやつで、良かったらお礼にどうかって・・・初日に言われてたんだ。最終日までに返事くれればいいよって言われていたから今まで保留していたんだ」
「・・・」
「 食事とかすげえ豪華だし、わりといい旅館みたいだったから、そりゃ最初はうっちゃんと小夏にくっついていこうかー、とか・・・考えた事もあった。でも、良く考えてみるとそれ
もおかしいなって思って」
俺が逆の立場だったらそんなのたまらねえし・・・と、乱馬はその部分は真剣にそう呟いた。

「・・・」
・・・どうやら、本当にあたしの言いたかったことが伝わってくれたみたいだ。

「うん・・・」
きゅ・・・とあたしは乱馬の首筋に抱きつき顔を埋めながら返事をした。
「ま、どうせ行くなら、もう一人分お金を足して、あかねも連れて行くほうが俺には楽しいし。・・・貧乏だから出来ないけど」
「乱馬・・・」
「それに・・・」
乱馬は首筋に顔を埋めたあたしの頭を軽くぽん、と手で叩くと、

「それにさ・・・当たるんだろ?」
「当たる・・・?」
「ほら、例の懸賞。A賞ペア豪華クルージングパーティご招待か、B賞のペア豪華温泉旅行ご招待って奴」
「っ・・・」
「当たるつもりでポストの前で手まで合わせたんだぜ?俺まで。おめーがそこまで本気なら、クジ運もいいしあたるかも知れねえだろ?」
「乱馬・・・」
「それに俺、そっちの旅行の方が楽しいから」
そういって、笑っていた。

乱馬があたしにそう言ったのは、乱馬が右京の手伝いをする前にあたしがポストに投函した懸賞はがきのことだ。
特賞が現金百万円…て、これは流石に無理だとは思うんだけど、その下のA賞ペア豪華クルージングパーティご招待か、B賞のペア豪華温泉旅行ご招待なら、各五名様だし当たる気
がする、と思い込んでいたあの話だ。

・・・あたしでさえ、ここ数日のごたごたで、そんなはがきを出したことすら忘れていた。
乱馬だって、「いかにおめーが無謀なことを考えているかわかるぞ?」だなんて呆れた顔であたしのことを馬鹿にしてたのに・・・覚えてたんだ。
ワガママなあたしに合わせて、仕方なく最後はあわせて、に手を合わせてくれただけだと思ってたのに。
右京の貰うチケットに比べたら、こちは実際に当たるかどうかもまだ分からない不確かなものなのに。
なのに・・・そんな風に言われるとあたし嬉しいよ、乱馬。
・・・

「・・・乱馬」
「ん?」
「大好き・・・」
あたしは、背負われたまま耳元に唇を付けて、乱馬にそう囁いた。

「・・・それは遠慮しなくてもっともっと、言ってもいいぞ」
乱馬はくすぐったそうに身をぶるりと竦めつつ、嬉しそうな顔でそう言うと、

「嫌いって言われるよりやっぱ、すげえいいな・・・その言葉」
「うん・・・」
「今日は、もっと一杯言わせたくなるな、何か」
ああ、そしたらもう早く家に帰らないと・・・乱馬はそんな事を呟きながら、急に走り出した。

「きゃっ・・・ちょ、ちょっと・・・」
「急ぐからっ俺、家に急ぐからっ・・・」
急にスイッチが入ったネジ付き人形のように、乱馬はソワソワとしながら家へと一路、走り出す。

・・・もー、動物じゃないんだから。
やれやれ、とため息をつきつつも、あたしは嬉しそうに道を走る乱馬の背中にそっと頬を寄せ、目を閉じた。

 

 

・・・人がそれぞれみんな違うように、価値観や恋愛観だってみんな、違う。
仲の良い友達も、愛し合う恋人同士も。
どんなに側にいる二人だって、全く全てが同じになることはない。
それに完璧な人間など、この世には一人も居ないから、
だからたとえ価値観・恋愛観が合ったとしても、欠点は必ず見えてくるものだ。
好きだけど嫌い・・・でも好き。好きで好きで、堪らない。そんな風に思うのはきっと、誰でも同じなのかもしれない。
そんな複雑な気持ちを乗り越えて、人は恋愛をしていくのだと、あたしは思う。
今回、あたし達の間にも気持ちが混乱するような不安、迷い・・・色々なことが生じた。
でも、言いたいこと、不安に思っていたことを全て出して、あたしは乱馬と、向かい合った。
すんなりとは、いかなかった。もちろん、今すぐ全てクリアにされるかは、分からない。
もしかしたらこの先、まだまだ上手くいかないそのことのせいでまた、ぶつかる機会があるかもしれない。
でも、意識を持つことでそれは前よりも明らかに前に進む気がする・・・

・・・
ねえ、知ってる?
男の子は、好きな女の子の「最初の人」でありたいと、思う人が多いといわれているのに、
でも女の子は…好きな子の「最後の人」でありたいと、思うことが多いんだって。

・・・初めてあたしがこの話を聞いたときは、全然そういうのがピンとこなかった。
でもあたしは改めて今、そう思う。
私も彼の・・・最後の人でありたい、と。そう思う。
色々な不安や迷い、時にぶつかる事だってある。価値観や恋愛観の違いで、時に理解に苦しむ事だって、ある。
喧嘩してぶつかって、時にお互いを傷つけても・・・でもそれを解決していこう、乗り越えようと前に進もうとする姿勢はきっと、
お互いがそうやって思って、ずっと一緒にいたいと思いあう気持ちの糧に、なる気がするの。
たとえ、天文学的数字ほどの稀な確率のカップリングでも、あたしはそうあれることを信じたい。そう、乱馬と、一緒に。
きっと乱馬も、そう思ってくれていると信じて・・・

「・・・」
・・・と。

目を閉じて触れていた道を急ぐ乱馬の背中が、そんなあたしの心の中の独り言に対し、まるで「当たり前だろ」とでも言っているかのように、感じた。
それは気のせいだったのか?
ううん・・・きっと・・・

「うん」
きっと、気のせいじゃないと思う。
そうであることをあたしは今、信じたい。
あたしは素直にそう答えて、彼と共に家路へと着いたのだった。


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