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好き、嫌い…好き4

「あら?乱馬くん、もしかして・・・泊まり?」
「そうみたい連絡無かったんだけど、多分うっちゃんの所にいると思うわ。手伝い、大変なのね」

・・・翌朝、土曜日。五日目の朝。
朝食をテーブルに並べながら、かすみお姉ちゃんとなびきお姉ちゃんがそんな事を話していた。
「へー、甲斐性なしだと思ってたのに意外にやるじゃない」
「なびき」
「だーって。・・・ま、甲斐性はあったけど人でなしだったって事かしら」
なびきお姉ちゃんはそんな事を言いながら、昨晩からこの居間で、ずっと乱馬を待って座っていたあたしをちらりと見ている。
あたしはそれに対して何も答えず、黙って畳から立ち上がり居間を後にする。
そして・・・一瞬迷ったけれど、そのまま玄関を出てとある場所へと向かった。
とある場所。それはもちろん右京の店だ。

夜が明けているわけだし、そのまま待っていれば恐らく乱馬だって帰ってくるだろう。
でも・・・今のあたしには、これ以上家で一人、乱馬を待っているような余裕は微塵も無かった。
乱馬は、昨日の夜、乱馬の帰りをあたしが待っているって事を知っていた。
『今夜、話があるの・・・』
『わかった、あとでな』
そんな風に、右京の店の前であたし達はちゃんと約束をしたから。
それなのに、乱馬は帰ってこなかった。
十二時になっても一時になっても・・・夜が明けてしまっても、乱馬は帰ってこなかった。
しかも、無断外泊だった。
「・・・」
・・・乱馬が、クラスメートの男の子達の家に遊びに行って、泊まってくることはたまにある。
遊びに夢中になって、一晩ゲームをしたり漫画を読み漁ったり、それで外泊することはごくたまにある。
でもその時は、必ず夜、家に電話を入れてくれていた。あたしにはそんな記憶があった。
それなのに今回は・・・連絡がなかった。
それも、泊まっているのはクラスメートの「男の子」の家ではない。幼馴染の「女の子」の家だ。
いくら小夏さんが一緒に住んでいるからって、昨日は・・・昨日だけは帰ってきて欲しかった。

ちゃんと話があるって乱馬に言っていたのに・・・なんで?

「・・・」
右京の家に向かう最中、あたしの胸はそわそわと落ち着かなかった。
帰ってこなかった事に対してのショックや、それに昨日、右京の店で右京と話していたことがやけに頭の中でぐるぐると回っている。

右京から見ても、「隙」だらけの乱馬。
あっさり泊まってしまったことも考えると、右京にしてみれば思うツボだ。
そんな事をすればまた右京だって「頑張ろう」って思うだろうし、
それなのに、そういう事に無頓着な乱馬がいて・・・

「・・・」
・・・そういう事を色々と話したくて、昨日は約束したのに。

ああ、あたしはどうしてもっと早く、乱馬にこういう話をする手段を思いつかなかったのか。

「・・・」
足のつま先から頭のてっぺんまで、妙な焦燥感に駆られる。
右京の店に向かいながら、しっかりとアスファルトの道を歩いているはずなのに、妙にふわふわした観を覚えながらあたしはそんな事を思っていた。

 

「乱馬・・・右京・・・いる?」
普段は十五分はかかる道のりを、あたしはおよそ半分ほどの時間でやってきてしまったようだ。
家を出てからそれほど経っていないにもかかわらず、あたしは右京の店へとたどり着いていた。
そして、まだ少し薄暗い店の戸をからからと開け、中に居るはずの二人を呼んでみる。
が、眠っているのか応答はない。
「乱馬ー・・・右京、起きてる?」
あたしは先ほどよりも少し大きな声で、もう一度二人の名前を呼んでみた。が、やはり中からの応答は無い。
「・・・」
おかしいなあ、これだけ呼べば大抵気がつくと思うのに。
それに、二人が気づかなくても、小夏さんが気づくわよね、多分。
変だなあ・・・
「・・・入るよー・・・」
呼んでも出てこないのなら、こちらから起こしに行くしかないのか。
あたしはそんな事を考えながら、薄暗い店内へと足を踏み入れた。そして、ゆっくりと店の奥へと入っていく。

・・・カウンターの奥に、ひっそりと設置されている木の階段。
それを上ると、普段右京が小夏さんと生活をしているスペースが姿を見せる。
和室の、六畳間二つ。階段を挟んで両側に位置している。

「乱馬・・・」
階段を上りきった後、あたしは部屋と部屋の間にある階段の踊り場で、まずは乱馬の名前を呼んだ。
階段を挟んで右側が、確か小夏さんの部屋だ。
乱馬が居るとしたら、絶対にこっちだ。だって右京は女なわけだし、一緒の部屋で過ごすはず、ない。
そう、流石にそれは無いだろうって、あたしは思う。
いくら乱馬が、右京に対して「幼馴染」だからと色々と無頓着だからって、小夏さんがいる
のにも拘らず右京の部屋で過ごすなんて、あるわけが無い。
「・・・」
それぐらいは乱馬だってわきまえているよね・・・あたしは、再度自分にそう言い聞かせる。
小夏さんは、女よりも女らしい格好をしているけど、本当は男の子。だから、乱馬は絶対に小夏さんの部屋に居るはずだ。
あたしはもう一度自分にそう言い聞かせてから、
「開けるよー・・・」
一応は中の二人を気遣って部屋の戸を開けた。
が、

「あれ?」

・・・部屋の中には、誰もいなかった。
しかも、布団がそこに敷かれていた気配もないし、雨戸はあいているもののカーテンは閉められたまま。
ふすまを開けた瞬間、ひんやりと頬をさすような冷気があたしを包んだ。
部屋の中を見渡すと、異常なくらいこざっぱりとしている。畳と、窓・カーテン以外は、文机が置いてあるだけだった。
その机の上には、食べかけのみかんがそのまま放置されていた。
「・・・」
ちょっとそのみかんを指でつついてみると、パサパサとしていた。どう考えても剥いたばかりのそれとは違う触感だ。
それに、いくら誰もいないからといっても・・・部屋の中の空気の流れが冷たすぎる気がする。
もしかして、この部屋昨日は使わなかった?
「・・・」
まさか、小夏さんと乱馬と右京と、三人で一緒の部屋に寝たのか?
メニュー開発がどうのこうの言っていたから、それをやっているうちに三人で眠り込んじゃったの?
「・・・」
いずれにしろ、乱馬がこの部屋を利用していないことは確かなようだ。
あたしはスルスル・・・と襖を閉め、再び階段の踊り場へでた。
そして今度は、右京の部屋のふすまを開けるべく手を掛ける。
まずは開ける前に、

「右京・・・乱馬、小夏さん・・・」
控えめに三人の名前を呼んでみた。が、やはり中から返事は無い。
まだ、寝ているのかな?それとも、部屋にいないで皆でどこかに出かけてしまっている?
だから、昨日は家に帰ってこれなかったのかな・・・

「・・・」
さりげなくポシティブなことを考えて自分の不安な心を振り払おうと画策しながら、
「乱馬、右京ー・・・小夏さん・・・開けるよ」
真相を確かめるべく、あたしはゆっくりと、右京の部屋の襖を開けた。

「・・・」
・・・中は、まだ薄暗かった。小夏さんの部屋と同様、雨戸は開いているもののカーテンは閉められたままだった。
でも、先とは違い、頬をさすような冷気は感じなかった。ということは、中に人がいる証拠だ。
あたしは、部屋の中をゆっくりと見渡した。
部屋の中には、やはり先ほどの小夏さんの部屋と違い、それなりに家具が置かれている。
箪笥に鏡台、文机、壁際にはこまごまと流行のキャラクター小物の数々。
生活観あふれる中にも、そういうのを見るとそこはかとなく女の子らしさを感じる。
そして・・・

部屋の中央には、大きなコタツがぽんと、置かれていた。
大きな黒い天板に、みかんが盛られた籠。そして、ふかふかで無地の、大き目な掛け布団が畳みの上に広がっている。
その掛け布団のハシから、何か茶色いものが覗いていた。
薄暗い中よく目を凝らしてみると、それは右京の自慢の茶髪のようだ。どうやら右京、コタツに横になったまま転寝をしてしまったのか。
そんな右京が寝ている傍の畳の上には、右京が昨日着ていた衣服が、無造作に脱ぎ散らかされていた。
あたしの中のイメージでは、右京はわりと几帳面だという意識があった。
その右京がこんな風に脱いだ服を畳の上に脱ぎ散らかして、しかもコタツで転寝なんて、よっぽど眠る前に疲れていたのか・・・
「お店、忙しかったのかなあ・・・メニュー開発もお店のあとやっているって言ってたし、考えてみたら大変よね」
あたしは思わず、そんな事を呟く。
そして、呟きながら・・・はて、と首をかしげた。
「・・・」
あれ?右京はこのコタツで寝ているのは分かったんだけど・・・小夏さんと乱馬は一体どこに?
疲れている右京には申し訳ないけれど、聞いた方がいいのかな。
出かけているんだったら、出先で連絡も取りたいし・・・

「右京・・・ねえ、起きて」
寝ているところ悪いけど、乱馬は今どこに・・・?
あたしは、コタツで眠っている右京を起こそうと、畳の上にどっさりと広がっている掛け布団を踏まないように彼女の傍へと近寄ろうとした。
が・・・近寄ろうと足を前に踏み出した瞬間、思わずビクン、と身を竦めてしまった。

「うーん・・・」
・・・あたしが足を出して右京に近寄ろうとした瞬間、右京がたまたま寝返りを打った。
それと同時に、畳に広がっている掛け布団が少し、ずれる。そのせいで、布団の中に隠れて
いた「腕」があたしの目に、入った。
でもその腕は・・・右京が寝ている位置よりも、大分左側。
コタツの位置で言うと、ワンブロック別の場所から見えていた。
あたしの目に映ったその腕は、ほっそりと女性らしい華奢なものではなく、とても逞しくて、がっしりとしたものだ。
残念なことにあたしには、その腕に見覚えがあった。

「・・・」
・・・ドクン。
心臓が驚くほど大きく鼓動をし始めた。ドクン、ドクンと絶え間なく胸は大きく動き続けるため、うっかりしていると息をするのを忘れてしまいそうなほどだった。

掛け布団の合間から突如現れた見覚えのあるその腕に、あたしは呼吸を忘れるだけでなく目も、奪われていた。
逸らしたいのに、どうしても目を逸らすことが出来ない。

どうしてこの腕が・・・ここにあるの?
この腕は・・・この腕はいつも、あたしが枕にしたり抱きついたりしている腕と、同じような気がするんだけど・・・まさかね?

「・・・」
右京に歩み寄ろうとした足を戻し、その腕が見えた辺りへとゆっくり、腰を下ろす。
あたしは、一度大きく深呼吸をした。

・・・あたしが見た腕は、多分あたしの見間違いなんかではない。乱馬の、腕だ。
同じコタツに・・・しかも右京はほとんど服も着ていないような状態で?二人は眠っているってことなのか。
乱馬の服は散乱していない所を見ると、服を着ているか、それともコタツの中に丸まっているのか・・・どちらかだ

・・・
・・・・・・
まさか、二人きりでここで寝ていたわけじゃないよね?
あたしはまだ確認していないけれど、このコタツのもう一つ別のブロックに、小夏さんも・・・いるよね?

「・・・」
状況を理解しようとする自分と、認めたくない自分で混乱していた。
あたしは無言で掛け布団に手をかけた。
その手はカタカタと、明らかに震えていた。でも・・・確かめなくちゃいけない。

「・・・」
あたしは、グイッ・・・と布団を持ち上げ、コタツの中から見えていた腕が、あたしの目に全て映るように剥いだ。
すると、

「さむ・・・あれ?俺なんでコタツで寝て・・・ん!?」
それまで布団の中で気持ち良さそうに眠っていた乱馬が、まずは布団を剥がれた寒さで目を覚ました。
乱馬は身体を起こし、あらわになった腕を寒そうにさすっている。
乱馬は、タンクトップにチャイナズボンの姿で眠っていた。
見た感じだと、いつもタンクトップの上に羽織っているチャイナ服は見当たらなかった。

「あかね・・・お前、なんでここに・・・あれ?ここ家・・・?」
コタツの布団を剥いだまま、じっと自分を見つめるあたしに、乱馬がまだ寝起きでぼんやりとした顔で話しかける。
そうこうしている内に、
「何や騒がしいなあ・・・はー、もう朝か」
乱馬が眠っていた隣のブロックで、そんな声と共に右京が目を覚まし身体を起こした。そして、暢気に欠伸をしている。
「・・・」
あたしは、眠そうな顔で欠伸をしている右京の姿をちらりと、見た。
・・・右京は、ブルーの生地に白いフリルがところどころあしらった、キャミソールを着ていた。
ずるり、と片側だけ紐が肩からずり落ちている。その下からは下着が覗いていた。
「おっと」
右京は慌てて傍に脱ぎ捨ててあった上着を羽織ると、
「あれ?あかねちゃん・・・来てたんか」
ようやくあたしの存在に気がついたようで、やっぱり眠そうな表情で「おはようさん」と挨拶をする。
ふんわりとした柔らかい、そして艶やかな茶髪が頭を下げるのと同時にゆっさりと揺れた。
何だかその仕草が妙に艶やかに見え、さっきから大きく鼓動している胸を、更に大きく早く、鼓動させる。
もはや、「動悸」のような感じだ。
「・・・小夏さんは?」
あたしは、寝ぼけている二人の問いや挨拶には答えず、静かにそう尋ねた。
「小夏?ああ、実は昨日使いに出した店で用事頼まれたみたいで、昨日は帰ってきいへんかったんよ」
その問いに、右京がまた欠伸をしながらそう答えた。
そして、
「せやから、いつも乱ちゃんが帰った後小夏に色々とやってもらってる仕事を乱ちゃんに、昨日はやってもらったんよ。・・・せやなー?」
右京は「やっぱり隙だらけや」とでも言いたげな目をしてあたしを見た後、ぼんやりとしている乱馬に話しかけていた。
「そのせいで俺、なんか服が汚れて・・・それを洗ってもらっている間寒いからってコタツに入ってたら・・・うっちゃんも、休みがてらコタツに入ってきたんだっけ・・・」
「そう。そしたら乱ちゃん、そのまま寝てもうたんよ。そんな乱ちゃん見ていたら気持ちよさそうだったから、うちも早々片付けて、コタツで眠ってしもうたよ」
「そうそう、そうだった。・・・あ!」
乱馬は、右京に話しかけられ昨日の自分の行動を順に思い出しているようだった。
そしてそこでようやく・・・自分があたしとの約束を破ったことを思い出し、ハッとした表情をする。

約束を破って無断外泊をした自分。そして、それを迎えに来たあたし。
あたしが来たとき、二人は同じ部屋で仲良くコタツに寝ていて・・・添い寝なんかはしていなくたって、半裸とまではいかなくとも薄手の衣服で寝る自分達。
流石の乱馬もこれにはマズイと感じたらしく、
「お、おい誤解するなよっ・・・俺たちは別に何も・・・」
自分が今居る状況と、そこにあたしが加わった状況をようやく察知し、何も言わず黙ってそこにいるあたしにそう叫んだ。
でも・・・

「・・・」
あたしが今、思うことは・・・乱馬が言うように、「二人の間に何かがあった」とか無かったとか、そういうことではない。
何かが無いなんて、悪いけど当たり前のことだ。例え右京がチャンスを狙っているとしても、そんなに簡単に浮気をされてはたまらない。
そうじゃなくて・・・

小夏さんがいないって分かっているのに、
家の中に二人きりだっていうその状況で、乱馬が簡単に、「幼馴染」の女の子に気を許してしまうこと。
密室で二人で仲良く過ごして、そのまま眠ってしまうこと。いとも簡単に夜を越してしまうことが、あたしは・・・耐えられないのだ。

「・・・」
・・・嫌い。
こんな乱馬、嫌い。大嫌いっ・・・

胸の中に、ものすごいスピードでそんな思いが湧き上がる。
好きなのに嫌い・・・それまで抱いていたそんな感情じゃなくて、乱馬には口に出したくないと思っていた感情だけが、胸の中へと湧き上がる。
ここ数日特に思い悩んでいた色々なことが、胸の中でぐちゃぐちゃになっていた。
ぎゅっと、唇を噛み締めた。すると不思議なことに、涙腺が緩んだ。人の身体は本当に不思議だと、あたしはどこか冷静にそう感じている。

「・・・」
あたしは、何も言わず乱馬の身体を、コタツから引きずり出した。

「あかね、あのな、俺たち本当に・・・」

何も口にしない。
でも、一粒、また一粒と涙を流しながらただ自分をコタツから引きずり出したあたしを見て、乱馬は慌てて取り繕うとするも、
「それにしても乱ちゃん、昨日は泊まってくれてありがとうなー・・・小夏もおらんかったし久しぶりに一人の夜やったから、うち、めっちゃ嬉しかった」
そんな乱馬の態度は、ここぞとばかりの右京のその言葉に完全にかき消されてしまっていた。
あたしの目にも耳にも、全く入らなかった。

「・・・らい」
「え?」
「・・・嫌い!大嫌い!!」

本当は言いたくない言葉。でも・・・今のあたしには、自分の心を、セーブする事が出来ない。
あれほど言いたくなかった言葉を、しかも「好きなのに」が全く前に付かないまま、あたしは叫んでいた。

・・・一刻も早く、この場から立ち去りたいと思った。
乱馬をコタツから引きずり出したあたしは、あたしに気遣う乱馬に一言そう叫んだまま、部屋を飛び出した。
「おい、あかね!」
そんなあたしを、もちろん乱馬も、慌てて追いかけてくる。

店を飛び出したあたしは、早朝の街を闇雲に走った。どこに向かいたいわけでもなかった。
でもとにかくあの場所から抜け出したかった。
乱馬の顔を見たくないと思った。
乱馬は、そんなあたしを徐々にスピードを上げて追いかけてきていた。
あたしはそんな乱馬に捕まらないようにと、乱馬がスピードを上げればあたしも速度をあげる。
もはやこの状態では、自分がどこを走っているかなんて完全にわかっていない。
ただ・・・悲しいことに、どうしても乱馬のほうが本気で走れば足が早い。

「あかね!待てって!」
・・・店を飛び出して、五分ほどした位だろうか。
あたしは乱馬にとうとう捕まり、腕をつかまれた。そして、
「ちょっと話そう、な?」
腕を放して欲しくて暴れるあたしを宥めようとする乱馬に、あたしはすぐ傍にあった広場のようなところへ連れて行かれた。
その公園、よく見ると自宅近くの見慣れた公園だった。
どうやら闇雲に走っていたつもりだったあたしは、気がつかないうちに自宅の方角へと走っていたらしい・・・。
「あかね、昨日は約束破ってごめんな・・・俺、服を乾かしてももらっているうちにコタツで寝ちまって・・・。あ、でも俺たち本当に何もなかった」
と。
あたしを公園に引き込んだ乱馬は、あたしをベンチに座らせて、自分はその前に膝まづくくかのような形で目線をあたしに合わせる。
そして、腕ではなく今度は手をきゅっと掴んだまま、
「前にも言ったけど、俺とうっちゃんは、本当にだたの幼馴染だから・・・だから、お前が心配するようなことは本当に何もないからっ・・・」
俯いたままのあたしに、「いかに自分と右京がただの友達で幼馴染」であるかを諭す。
あたしはそれを黙って聞いていた。
聞いていたけれど・・・

「・・・」
この人は、何も分かっていない。乱馬の話を聞くあたしの胸には、そんなやりきれない感情がこみ上げていた。

あたしにしてみれば、乱馬のこの弁解は、まさに「火に油を注ぐ」ようなこと。
そう、あたしが今胸に思っていることは・・・そんな上辺だけのことではない。
浮気をするしない、の問題ではないのだ。
問題は、二人の間に何があったのか、ではなく、
小夏さんがいないって分かっているのに、家の中に二人きりだっていうその状況で、乱馬が簡単に、「幼馴染」の女の子に気を許してしまうこと。
密室で二人で仲良く過ごして、そのまま眠ってしまうこと。いとも簡単に夜を越してしまうこと。
そして・・・そうやって「幼馴染だから」って言葉で全てを片付けてしまう乱馬が、
そんな風に右京と接していることに対しあたしがどんなことを思うのか、全く考えない乱馬が、
誰がどう見ても隙が多すぎる乱馬が・・・あたしは不安で、憤りを感じて・・・耐えられないのだ。

こんな状況にもなって、まだ気がつかないのか。
全てではなくても、少しでも何かを、察することも出来ないのか。
・・・そんな思いが余計に、あたしの胸へと不安や憤り、寂しさや空しさ・・・色んな思いを募らせていく。

「・・・」
あたしは、あたしを必死に諭そうとしている乱馬の口を、指でそっと、せき止めた。
ん、と急に唇を触れられた乱馬は驚いた顔をしている。

「・・・嫌い・・・」
瞳から一粒、また一粒と涙を流しながら、あたしは乱馬にそう呟いた。
「・・・浮気をしたと思うから?」
乱馬が、表情を曇らせながら自分の唇をせき止めたあたしの手をきゅっと掴み、そう尋ねる。
あたしは左右に首を振ると、
「それが分からないから・・・嫌い」
「分からないって、だって・・・」
「幼馴染・・・」
「え?」
「その言葉で、全てを片付けてしまう乱馬が嫌い・・・」
そう呟いて、きゅっと唇を噛んだ。
「幼馴染だからって、でもうっちゃんは本当にそうだし・・・」
それでも乱馬は、まだあたしの言いたいことが伝わらないようだ。それまであたしの前に膝まづいていた体制だったけれど、今度はあたしの隣に腰掛けるようにし、微かに震えている
あたしの肩を抱いて困ったような顔をしている。
「・・・」
肩を抱かれても、傍にいてくれても、これではまるで意味が無い・・・そんな乱馬に、あたしの胸はズキ・・・と軋んだ。
あたしはそんな乱馬に対し、左右にゆっくりと首を振ると、ため息をついた。
そして、掴まれていないほうの手の甲で自分の目から零れる涙を何度も拭うと、

「あたしは・・・あたしは、ずっと乱馬と一緒にいたいって思ってた」
「思ってた、って何だよ。俺だってそのつもりだし、これからだって・・・」
「あたしは、乱馬の最後の人になりたかった。ずっと一緒にいられたら、きっとそうなれると思って・・・」
「なるよ。なるに決まってるだろ」
「乱馬のこと、好きで・・・大好きで・・・」
「・・・知ってるよ。俺だって・・・」
乱馬はポツン、ポツンと話をするあたしの言葉を一つ一つ聴きながら、そう答えていく。
「でも・・・大好きな乱馬が、嫌いなの・・・」
「・・・なんで嫌いなの?」
「それが分からないから嫌いなのっ・・・好きなのに、嫌いなの・・・でも好きで・・・ごちゃごちゃして、あたしも分からなくなるっ」
あたしは急にヒステリックにそう叫ぶと、乱馬の腕を振り払って立ち上がった。
「お、おいあかね・・・落ち着けって」
乱馬は尋常な様子ではないあたしを再び宥めようと、慌てて立ち上がって座らせようと肩に触れようとするも、
「恋愛間や価値観は人それぞれ違うから、それは大事にしたい・・・あたしは乱馬に乱馬らしくいて欲しいって思うし、あたしもあたしらしくあれるような恋愛がしたいと思う。で
も・・・」
「・・・」
「あたしは、乱馬が好き・・・あたしにも、他の人にも優しい乱馬が大好き。でも・・・!最低限考えて欲しい、優しさもある」
あたしはそういって、自分に触れようとしていた乱馬の手からそっと逃れた。
「考えて欲しい優しさ・・・?」
あたしから逃げられた乱馬は、再びあたしに触れようとしながらそう首を傾げる。
「・・・乱馬は、もしもあたしが東風先生と一晩、乱馬に無断で同じ部屋で過ごしたとしたら・・・浮気をした、しないって事以外何も感じない・・・?」
あたしは、そんな乱馬の手をそっと押し返すようにしてそう、呟いた。
乱馬の頬がビクッと大きく動く。そしてゴクリ、と喉が動いていた。
ただ、喉は動いても言葉は何も、出てこない。
・・・

「・・・」
・・・乱馬のことは、好き。でも、今のままの乱馬は嫌い。
好きだから、ずっと一緒にいたい。貴方の最後の人になりたい。
でも・・・このままじゃきっと、ずっと一緒にはいられない。
きっといつかあたしは・・・嫌い、嫌い・・・と乱馬にいい続けるようになる。
そんなの嫌。そんなの嫌なのに・・・

「・・・」
あたしは、何も言わず呟いたあたしの顔を見ている乱馬から、一歩、また一歩と離れた。
そして・・・乱馬をその場所に残したまま、再び朝の街を闇雲に走り出した。

走り出したあたしを、乱馬は追っては来ないようだ。あたしが走れば走るほど、あたしと乱馬の距離は離れていく。
これは、心の距離と比例したり、するのだろうか・・・。
街はようやく完全に日が昇り、人手もそこそこ見られていた。
世間は花の土曜日だ。デートにレジャーに・・・街には楽しそうな表情の人々が行きかっていく。
そんな人々の表情を、アスファルトに反射する太陽の光が彩り余計にキラキラと、輝かせていた。

でも・・・あたしと乱馬の未来は、まだまだ日が昇る前の闇。
どんなにこの光があたしの身体を明るく照らし出したって、まだまだ先は見えてはこない。
「・・・」
道を歩いているのに、あたしは前には、進めない。あたしはそんな事を思いながら、ぼんやりと街の中を歩いていった。


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