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好き、嫌い…好き3

翌、三日目。
この日からは完全に、乱馬の帰りは夜も十一時を過ぎるようになった。
随分と遅いな・・・そう思って乱馬に聞いてみたところ、
どうやらただ単に店の手伝いだけではなく、店が終わった後に「取材」様の新作メニュー開発の手伝いも乱馬は頼まれたらしい。
それに加え、

「乱ちゃーん!」
「おー、うっちゃん、今行くわ」

・・・夜の帰宅時間はともかくとして、
一日だけならともかく、はや三日も連続で、あたしと乱馬が一緒に下校しないこと。
そして、何故かあたしの目の前で、楽しそうに二人で示し合わせて一緒に下校していくこと。
そのことに対して、あたし達以外の周り・・・クラスメートや外野が反応をし始めてきた。
それまで毎日一緒に帰っていた二人が、何故かここ数日は違う相手・・・乱馬は右京と、あたしは一人で下校しているのだから、目立つといっては無理も無いのだけれど。
あたしに気を使うことなく、右京と示し合わせて、楽しそうに右京の店へと向かっていく乱馬。
しかもその時に、
「なあなあ、乱ちゃん。今日は夕飯、何食べたい?」
「そうだなー・・・うっちゃんが作ってくれるのなら何でも良いよ」
・・・この会話だけを端から聞いていると、まるで新婚さんだ。
「・・・」
一緒に帰るのは店を手伝うのだから百歩譲って仕方が無いとしても、
そんな無神経な会話を、何も考えないで交わしていること。
そしてその会話を聞いた周りが、あらぬ事を勝手に想像して言い合っている状況。
それを、乱馬と一緒に乗り越えることが出来ない現状に・・・あたしに酷く胸を痛めていた。
・・・

四日目の、放課後のこと。

「ねえ、あかね。乱馬くんと喧嘩しているの?」
「もしかして、今度はお姉さんじゃなくて右京と許婚交代?ていうか座を明け渡したとか?」

心無いクラスメートや、興味津々の野次馬は、放課後二人が下校した後次々にあたしの元へと駆け寄り、容赦ない質問の嵐。
もちろんそれに対してあたしは何を隠すこともないし非があるわけでもない。
「乱馬は、今右京の店を手伝ってるの。だから二人は一緒に帰るのよ」
初めの内はそれに対して、一つ一つ事情を説明していた。
でも、これが人の難しいところというか嫌な生態というか・・・例え真実を知ったとしても、それが婉曲されて居る方が、話題性に富む。
だから、いくらあたしが本当の事情を問われるたびに伝えても、
「あかねはああ言っているけれど、でも本当は・・・」
なんて。
勝手に尾ひれをつけられ、憶測だけが回りに広がってしまう。
「・・・」
・・・喧嘩をして、こんな状況を引き起こして噂が広がるならまだしも、何もそういう原因が無いのにこんな風になるなんて、あたしにとっては拷問も等しい。
しかも、

「はあ?言わせたいやつには言わせとけばいいよ」
「でも・・・」
「噂なんてその内消えるもんだから。大体、俺と付き合っているのはあかねだし、うっちゃんは幼馴染・・・それは変わらないことだから」

乱馬は、噂に対しては無頓着だ。まるで話にならない。

「・・・」
・・・そうだよ、乱馬。乱馬と付き合っているのは、あたし。右京は幼馴染。
なのに・・・まるで新婚さんみたいな会話をして楽しそうに下校する二人を、あたしは遠くで一人、見ているんだよ。
あたしは、噂をされること自体を言っているのではなくて、
誰もが噂してしまうようなことを、まるで気にも留めずに普通に行動してしまう、その乱馬が何だか不安なの。

「・・・」

あたしがそんな事を思い表情を翳らせていると、
「お前は心配性だなあ・・・俺とうっちゃんは、ホントにただの幼馴染だから。噂なんて気にする要素がねえよ」
・・・やっぱり、上辺だけしかそれを捕らえないのか。あたしの思うところとは違う部分を、乱馬は主張した。

やっぱり、乱馬にはきちんと、あたしが思っている全てを伝える手段を考えなくてはダメみたいだ。
でもどうすれば・・・あたしがそんな事を思っていると、
「乱ちゃーん、行くでー」
「おー、分かった。あかね、とにかくつまらない噂は気にするな。な?」
そうやって、乱馬は席まで迎えに来た右京と、今日も下校していってしまった。
もちろん、

「なあ、乱ちゃん。今日金曜日やろ?せやから花の金曜日スペシャルメニューっちゅうの、夕飯に作ったるね」
「おー、いいなそれ!今日も楽しみだなー」

・・・また、どっからどう見ても新婚さんが交わすような会話を楽しそうにしながら、だ。
あたしがそんな二人にため息をつきながら席につくと、また野次馬やクラスメートが近寄ってきて、「本当のところはどうなんだ」とあたしに質問をする。

「・・・」
・・・どうせ説明したって、信じてくれないくせに。

真実を話しているのに、誰もちゃんと理解をしてくれない。
それじゃ、オウムみたいに同じ事を繰り返し説明している自分が何だか妙に惨めに感じた。
あたしは自然と口を閉ざし、皆の話を聞こえない不利をしながらそっと、唇を噛む。
乱馬の事は好き・・・でも、右京と楽しそうに帰っていく乱馬は嫌い・・・。
好きなのに、嫌い・・・再び、複雑な感情があたしの胸に生まれてくる。
どうすれば、上手く伝わるの?どうすれば乱馬は分かってくれるんだろう。
このままじゃあたし・・・「好き」な乱馬も嫌いになってしまいそうで怖いよ。
ずっと一緒に居るって、そう決めているのにあたし・・・
「・・・」
不安に押しつぶされて、そんな事を思ってしまいそうで怖い。
どうにもやりように無い気持ちを胸に押し込め、あたしは再びため息をついた。

と、その時だった。
あたしの周りにいる野次馬達を押しのけあたしの席へとやってきた親友のさゆりが、
「あかね、ちょっといい?」
俯いてじっとしていたあたしの手を取り、教室の外へと強引に連れ出した。
そして、
「ねえ、ちょっと怒っても良いんじゃないの?」
「え?」
「え?じゃないわよ。乱馬くんのことよ!あんた、今彼を怒らないでいつ彼を怒るつもり?」
さゆりは連れ出したあたしに対し、こちらが思わず背中を竦ませるような真剣な表情でそう言った。
「怒るって・・・でも、取材の手伝いだから・・・」
この質問に対しては、こう答える。まるで、マニュアル化された仕事。それしか言葉を知らないオウムのように、あたしがそんな言葉を呟くと、
「手伝いは分かるわ。でもさ、ちょっとあかねに対して失礼じゃない?」
「あたしに?」
「さっき見たけど、右京・・・歩きながら乱馬くんの腕、取ってたよ?そんな事まで、あかねが言う『手伝い』に入るの?」
さゆりは、ぼんやりとしているあたしに真剣な表情でそう詰め寄る。
「え?・・・」
さゆりがあたしに告げた事実に、あたしの胸がドクン、と大きく鼓動した。
「・・・」
楽しそうに話しながら帰っているだけだって・・・それだけでもあたしには不安な要素が多いのに。
右京、今日は乱馬の腕を取って歩いていたんだ。しかも、堂々と。
楽しそうに話して帰るだけじゃなくて、そこまでしてたんだ。

「・・・」
・・・嫌。
それは嫌・・・急に胸の中がざわついた。

あたしは、急にトク、トク、と早めた胸の鼓動を体中で感じながら表情を歪めていた。
何だか、今まで堪えていたものが急に、胸の前面へと押し出てきたような気がした。
胸の奥の、必死で支えてきた何かを、まるで鋭い針でつつかれているかのように・・・痛みと不安が、体中を包む。
「・・・」
さゆりは、歪んだ表情で今にも泣き出しそうなあたしを見つめながら大きなため息をつくと、
「そりゃ右京は友達だし、困っているときはあたし達だって手伝ってあげるのが礼儀だと思うわ。でも、どこかで線を引かないと。昔と今は違うと思うんだ」
そういって、震えているあたしの手をそっと、掴んだ。
「・・・本当は、乱馬くんがもっとはっきりと意思表示をしないといけないんだろうけどねえ」
「・・・」
さゆりのその言葉に、あたしは心の中でため息をついていた。

・・・そう、あたしもそう思う。
ただでさえ一週間も、自分の彼が他の女の子と楽しそうに下校しなくちゃいけない状況だというのに、
まるで誰と誰がちゃんと付き合っているのかも分からないような会話、それに行動。
自分が見てそれを知るのもショックだけど、それを他の誰かから聞かされて知るのはもっとショックだ。
百歩譲って、「一緒に帰らないで」とは言わないとしても、
他人を誤解させるような会話とか、腕を取られたまま歩くのは止めて欲しい。
そんなこと、あたしがわざわざ口にしなければ止めてもらえないこと?
・・・

「・・・」
今日は、四日目。あと、三日・・・。
そんなにこの状況を我慢しなくちゃいけないのか。そう思うと、何だか胸の奥がチクチクと痛む。

あたしがそんな事を思い俯いていると、
「・・・ねえ、こうなたらさ、あかねも無理やり押しかけていって手伝ったら?」
不意にさゆりが、そんな事をあたしに提案してきた。
「え?あ、あたしが?」
もしかして、乱馬が手伝っている右京のことを?・・・あたしがさゆりに尋ねると、
「そうよ。乱馬くんにわざわざ手伝いを頼むほど大変なんだから、もう一人くらい人手があったって良いじゃない。それに、あかねが傍にいたら、乱馬くんだって少しは気がつくか
もしれないし。ちゃんと話だって出来るんじゃない?」
「でも・・・」
「さっきも言ったけど、今怒らないでいつ彼を怒るのよ。こういうことはちゃんとお互い意識していないと、ずっと変わらないままなんだよ?あかねがそれでも良いなら、話は別だけ
ど」
「あ、あたしは・・・」
・・・もちろん、嫌だ。あたしが首を左右に振ると、
「長い道の途中にある障害物ってね、最初はそれを避けていれば、きっとその内そんな障害物は気にならないだろうって思うんだって。でもね、どんなに避けていても障害物は障害物
だし、初めは小さなものだと思っていても、時が経てばとても大きくなって・・・避けようと思っても避けられなくなることもあるんだって。昔、何かのテレビでそう言っていた気がす
る」
「・・・」
「だからー、あと数日だからって・・・思っている不安や、憤りを内に秘めても、絶対にいつかはそれが爆発する。そうなってからでは、本当ならもっと修復できたようなことも出来な
くなるってこと」
ま、あたしもあんまり偉そうなことは言えないんだけどね・・・さゆりは最後にそう付け加え、おどけたように微笑んだ。
でも、その言葉にはとても説得力があった。あたしは何も言い返せなかった。
さゆりそんなあたしの頭をコツン、と拳で軽く小突いて「ずっと一緒に居たいって思ってるんでしょ?もう、健気なんだから」と一度咳払いをすると、
「そうと決まれば、ほら!早く行く!」
「あ、ちょ、ちょっと・・・」
野次馬がまだ残る教室からあたしの鞄を取ってくると、それを押し付けるようにしてあたしに渡す。
「・・・」
あたしはさゆりから鞄を受け取り、小さく頷いた。
そして、初めは戸惑ってぽつぽつと歩いていたものの、徐々に廊下を小走りで駆けるようになり、
「あれー?あかね、どうしたの?そんなに急いで」
「う、うん、ちょっと!」
昇降口から外へ出る頃には、息が弾むくらいの勢いで道を走り抜けていた。
校庭ですれ違うクラスメート達は、何をそんなに急いでいるのかと、あたしの姿に目を見張っていたくらいだ。

・・・まさか、あたし自身も家で待っているのではなく右京の所に手伝いに行くなんて、考えもしなかった。
あたしは、校庭を抜け右京の店へと走りながらそんな事を思っていた。
まあ、確かに乱馬に手伝いを頼むくらい忙しいわけだから、もう一人くらい人手が増えたって・・・そう考えるのはきっと、間違いではないと思う。
それに・・・

「・・・」
あたしは肩で息をしながら道を走りつつ、先ほどのさゆりの言葉を思い出していた。

・・・確かに。
今のままのでは、あたしはきっと、乱馬の手伝い期間である一週間では状況を変える手段を思いつくことが出来なくて、結局そのままになって。
この状況がとりあえず一段落着けば元通りに戻ると安心して、自分がその間に感じていたことをどこかへ置こうとする。
一時的に現実逃避をするかのように、だ。
それでまた、こういうことが起こったときに同じ事を不安に思って悩んで・・・
「・・・」
そういうことを繰り返しそうな、そんな気がした。そうやって、フラフラと不安定な道を・・・細く長い、いつ切れるか分からないかのようなとっても不安定な道を、そういうこと
を繰り返しながら進んでいくような気がした。

人は、誰だって苦しさや、切なさや、辛さは避けたいって、本能的に思う。
茨の道なんて、出来れば避けて通りたい。そう思うのが、普通だと思う。
でも時には・・・通り抜けるのに苦労する道でも、それを乗り越えなければ先には進めないこともある。
そりゃ、上手く避ければかろうじて前には進めるかもしれない。でも、それはあくまで「か
ろうじて」だ。
再びそういう道にめぐり合ったときに、次にその方法で上手くそこを通り抜けられるかは分からない。
「ああ、あの時ちゃんとあそこを抜けていれば、もっと早く前に進めたのかも・・・」
そう後悔する事だって、きっとあるだろう。
悩んでいるだけでも前に進めず、避けてばかりでも変わらない。だったら・・・

「・・・」
回りくどい言い方をしたって、あの乱馬じゃきっと気づいてはくれない。
ならば、全てを・・・あたしが思っていること全てを、素直に乱馬にぶつけてみるしかないのかな。

「・・・」
・・・でも本当は、怖い。

あたしが思っていること、感じていることを乱馬に伝えるということは、不安な気持ちのほかに、
「好きだけど嫌い」
そのことも口に出すということだ。
そんな事を口に出したら、逆にあたしは乱馬に、嫌われてしまうんじゃないかなって、そんな事も思ったり。
その事だけ乱馬に隠して全て伝えたって、きっとちゃんとは伝わらない。
そうまで思ってしまうほど、あたしにはとても重要で、そして二人にとって大切な事だって伝えないと・・・それは伝わらない気がする。
乱馬のこと好きなのに、嫌い・・・でも好き。
乱馬に、嫌いだ何て本当は言いたくない。だって好きなんだもん。
でも・・・

「・・・」
あたしは上手く、この複雑な胸のうちを伝えることが出来るのだろうか?
乱馬に、愛想だけつかされたりしてしまったらどうしよう・・・。
・・・

「・・・」
徐々に右京の店へと、あたしの足は近づいていく。
あたしはそんな事を考えながら、思わず大きなため息をついていた。

 

 

「あれ?あかねちゃん、どうしたん?」
学校を出て、十分くらい経った頃。
あたしがようやく右京の店に着き見慣れた暖簾を潜ると、夕方からの開店準備をしていた右京が、驚いた表情であたしを出迎えた。
「あたしも・・・その、手伝いに来たの」
「へ?」
「人手足りないんでしょ?」
あたしが、ゆっくりと店内に入りカウンター付の椅子の上に鞄を置きながら右京にそう言うと、
「いや、別にもう人手は・・・」
右京はあまり嬉しそうな表情をしていないというか、
いやはっきり言ったら「なんで来たん?」とでもいいたそうな顔をしている。
そりゃそうだ。昨日までは、右京にとっては一番のお邪魔虫であるあたしが居ない状況で、
乱馬と楽しく過ごすことが出来ていたわけで。
あたしがいれば、昨日までと全く同じ・・・というわけには行かない。
「・・・」
でも、あたしだってもう、家で一人、あれこれと考えながら待っているのは嫌だ。
それに、乱馬ともちゃんと、話がしたい。
「小夏さんじゃ手が足りないから、乱馬に声かけたんでしょ?だったらもう一人くらい増えても良いじゃない。それとも、何か都合が悪いことでもあるの?」
あたしは、右京の顔をじっと見つめながらはっきりとした声でそういった。
すると、
「はあ、まあしょうがないなあ・・・じゃああかねちゃん、もうそろそろ開店やから、店のテーブル拭いてや」
右京はそんなあたしに根負けしたのか、大きなため息をついてあたしにそう指示を出す。
あたしは右京からテーブルを拭くためのダスターを受け取ると、もくもくと店内のテーブルを拭きはじめた。
そして、まずは右京と先にここへ来ているはずの乱馬の所在を確認すべく、右京の目を盗んでは店内、そしてカウンターの奥の調理場や階段の方へと目をやっていた。
・・・と、

「乱ちゃんなら、食料の買出し行ってくれているから留守やで」
あたしは右京の目を盗んでいるつもりでも、右京には全くそんな風には感じてもらえなかったらしい。
「あかねちゃん、探偵とかには絶対に向かないタイプやな。尾行しているつもりが尾行されている方になる感じやね」
右京はそんなあたしを見てケタケタと笑っている。
「本当はうちと乱ちゃんのこと、気になったからここに来たんやろ?バレバレやね」
「ほ、ほっといてよっ」
あたしは何だか気恥ずかしくなり、右京に背を向けた。
そんなあたしは、
「・・・ホント、バレバレや」
あらかた笑い終わり、再度そう呟いた右京の顔が笑顔と打って変わって真剣なものに変化していたことにまだ、気づいてはいない。
「・・・」
あたしは、右京に背を向けたまま一度、深呼吸をした。
そして、改めて右京と向かい合う。
「あかねちゃん、とりあえずそこ、座ったら?」
右京はそんなあたしにカウンターへ付くように促した。
あたしは右京の言うとおりにカウンター付きの椅子へと腰をおろす。
あたしが腰を下ろしたのを見届けた右京は、あたしにゆっくりと話を始めた。

「・・・うちな?本当は分かってんねんで」
「分かってるって?」
「少し前に、ほら・・・中国の呪泉郷やっけ?そこに皆が行って帰ってきた後、あかねちゃんたち祝言をあげることになったやん。結局は流れて、またいつもどおりの生活に戻ってしも
うたけど」
「う、うん・・・」
「結果的には祝言は執り行われなかったし、結納も交わしたわけやなかったけど・・・でもその後ぐらいから、明らかに乱ちゃんとあかねちゃん、様子が変わって・・・いつの間にやら、
ちゃんと付き合っている間柄になってた」
「・・・」
「うちかてな?一応はもう一人の乱ちゃんの許婚やし、それを黙ってみているのも嫌やし、乱ちゃんのことまだ大好きやし、そう簡単に諦めるつもりもなかったんよ。でも・・・」
右京はそういって、一息ついた。
「時間が経てば経つほど、二人はもっともっと仲良うなってくのが目に見えてわかってもうたら、流石のうちも、堪えてな」
「右京・・・」
「だから、乱ちゃんの事はまだ好きやけど、いつかは諦めなあかんなって思って・・・それでな、しばらくお店のことに専念してたん。そしたら、今回雑誌に取り上げられることになっ
て・・・うちにとっては、嬉しいけど複雑な感じやな」
「・・・」
・・・そういえば右京、あたしがその話を教室で初めに聞いたとき、「良かったね」といったのに対し言葉を濁していたっけ。
あたしはそのことを思い出し、思わず黙り込んでしまう。
そんなあたしに構わず、右京は続ける。

「頑張れば、辛いことを忘れる努力ができたり、無名な店も有名にすることが出来る。うち、そう思ったんよ」
「・・・」
「でもな・・・そうやって思うのと反面、うち、もう一つ別のことも考えてしまったんよ」
「別のこと?」
「・・・確かに頑張れば、うちが頑張ってきたそれらの事も出来る。でももっと頑張ればそれ以上のことも出来るんじゃないかって・・・思ったん」
「それ以上のことって、何よ」
「・・・あかねちゃんと付き合っている乱ちゃんの気持ちを、うちに向けさせること」
「・・・」

・・・ドクン。
右京のその言葉に、あたしの胸が大きく鼓動した。
そして、ドクン、ドクンと何度か大きく鼓動した後、トクトクトク・・・と小さく早い動きへ
と変化していく。

「・・・」
何と言ったらいいのか、分からない。あたしが口をつぐんでいると、

「・・・乱ちゃんがあかねちゃんとどんな風に付き合っているかは、乱ちゃんから良く聞いていたから知ってたんよ。だから、乱ちゃんがどんな付き合い方をするのが良いか、どんな女
になれば良いかとか大体想像は付いた」
「・・・」
「けどそうは思っても、本当にそうするかどうかはうちも、中々決めかねてた。だからな・・・カケをしてみたんよ」
右京はそういって、口をつぐんでいるあたしをじっと見つめた。
「カケって何よ」
あたしが右京に尋ねると、
「うちがな、もしも今回の取材の為の手伝いを乱ちゃんに頼んでみて・・・乱ちゃんが、何の躊躇も無くそれを引き受けてうちと一週間楽しく傍にいてくれるようならば、うちは乱ちゃ
んを諦めずに頑張ろう。でも、手伝いを頼んだとき少しでも躊躇をするようなことがあったら・・・やっぱり諦めよう。そんなカケや」
「なっ・・・」
「・・・カケはうちの勝ちやったっちゅーことやな」
右京はそういって、にっこりと笑った。
あたしは溜まらずに、
「乱馬が手伝いを引き受けたのは、右京が幼馴染だからっ・・・友達だから・・・」
幼馴染だから。友達だから。

その言葉は、あたしが乱馬に使われるのが一番嫌いな言葉。
それなのにあたしは今、必死でそれを使っている。

あたしは今、自分が腹が立つほど嫌いになりそうだった。
でもそんなあたしに対し右京は、

「・・・確かにそうやろね」
「え?」
「乱ちゃんは、昔から・・・うちがどんなに、うちかて乱ちゃんの許婚やって言っても、実際はあかねちゃんのことしかそういう風に見てなかった。だから、うちの事は幼馴染とか友達
としか見てへんし、それ以上にも思うてへんやろな」
「・・・」
「でも、それこそさっきの話の続きだけど・・・頑張ればいつか、変わることかてあるかもしれへんやん。それに・・・」
「それに?」
「それに乱ちゃん・・・うちが思っていた以上にまだ、隙が多い見たいやし」
負けじとそう主張すると、カウンター越しに話しているあたしに、ぐっと顔を近づけた。
「隙が多いって・・・?」
あたしが近づいてきた右京に少したじろぎ身を引くと、
「だってそう思わへん?うちがすんなりと腕を組んで歩くことも出来るし、お願いすればあかねちゃんから引き離して一緒に何かをすることも、買い物に行く事も出来る。彼女が居る
人にしてみると、随分隙だらけや」
でもそれは、乱ちゃんだけやなくあかねちゃんもな、と、右京はそう続ける。

「・・・」
・・・耳が痛い言葉だった。
そう、それがあたしも一番不安に思っていること。
そういう状態なのに、それを承知で右京があたし達の間に自然に滑り込んでくるのを思うと、不安に加えてそれも何だか落ち着かない。
そして、やっぱり考え方の甘い乱馬にも腹が立つというか不安というか。あたしの胸中は複雑に揺れていた。

そんなあたしを、右京はしばらくじっと見つめていた。
そして、意を決したように一言、あたしにこういった。

「なあ、あかねちゃん」
「・・・何よ」
「知ってる?昨日の夜、乱ちゃんな・・・疲れて店の座敷で眠り込んだうちを、部屋の布団まで運んでくれたんやで」
「え?」
右京の言葉を受けたあたしの手が、ビクンッと大きく竦んだ。

「・・・まあ、うちが風邪を引いてしまうって心配してくれたのは分かるけど、それも隙だらけやと思わへん?小夏かて昨日は居たわけやし、アイツに頼んでも良かったのに」
「・・・」
「だからな、あかねちゃんには悪いけどうちも、諦めきれへん。残りあと三日やけど、この三日でちょっと頑張ってみようかと思って」
幼馴染、を利用するのはあんまり気が向かへんけど、利用できるものは上手く利用しないと。
右京はそう言って、手を竦めたまま表情をこわばらせているあたしに笑いかけた。

その笑みは、とても力を感じるもの。
色々なことに頑張ろうとしている右京の力を、感じるものだった。

・・・昔誰かが言っていた。
人の笑顔は、思ってもいない「運」を引き込む力があるんだって。
ふさぎこんだ顔をしているよりも、笑顔でいるほうが人は強力な運を、手にすることが出来るって。
今のこの右京の笑顔は、あたしが見てもとても「力」を感じる。
もしかしたら・・・もしかするようなことだって、起こり得るかもしれない。

「・・・」
あたしはそんな事を思いながら、思わず右京から顔をそらす。
・・・顔を逸らしたあたしのその顔が、カウンターの上に並べられていた銀色のソースケースのちらりと映った。
右京の力のある笑顔に比べ、随分と情けない顔をしている。
こんな顔じゃ、寄ってくるどころか逃げてしまう・・・あたしは慌てて首を振る。
・・・

「・・・あたし・・・」
「ん?何?あかねちゃん」
「でもあたし・・・負けないもん」
「・・・」
「あたし・・・あたしだって、負けないもん。あたし、乱馬以外の人と付き合うつもり、この先無いもん」

焦る気持ちと、負けられない気持ち。そして、右京がどう思うが譲れない気持ち。
とにかくそれだけは伝えないと・・・あたしはそう思って右京にそう、はっきりと声に出して伝えた。

・・・右京話を聞いてこうやって話しながら、あたしは段々と分かってきた。
あたしは、こう思っている。そして右京はこう思っている。そして乱馬は何も意識していなくて・・・そんな三者三様の思い。
これら全てを、あたしはこのまま乱馬に伝えればいいんじゃないかって・・・そう思ったのだ。
自分の全てを口にして嫌われるのが怖い、だなんてもう言っている場合ではない。
小細工をして手段を考えている場合ではない。
あたしの中の何かが、あたしの気持ちを逸らせていた。
全てを隠さないで話して・・・「だからこれからはこうしよう」って。それをちゃんと話し合おう。
そう、今夜にでも・・・「その内」なんて思っていたけれど、そう思ったら早めの方がいいかもしれない。
右京がこう思っているのを知ってしまったら、もうあたしの中だけでは冷静に裁いていくことなんて出来ない。

「・・・」
あたしはそんな事を思いながら、再び右京と顔を合わせた。右京もじっと、あたしの顔を見つめる。

・・・そんなあたし達の背後で、ボーン、ボーン・・・と時を告げる掛け時計の音が鳴り響いていた。
掛け時計の鐘は、五回。五時だ。
いつの間にか、店を開ける時間を迎えていたようだ。

「・・・店、開けなあかんな」
と、
右京がため息交じりの声でそう呟き、あたしから顔を逸らした。
「・・・」
あたしも、右京同様に顔を逸らして小さくため息をつく。
右京は、何も言わないまま鉄板に火を入れたり、店内の有線放送のスイッチを入れたりソースをかき混ぜ調子を見たり・・・とてきぱきと作業をし始める。
あたしはそんな右京の姿を、ただただじっと、見つめていた。
その内、

「ねー、開いているー?」
「二人なんだけどー・・・」
ガラガラ・・・と店の戸が開き、開店早々客が店内へと入ってきてしまった。

「あ・・・」
「いらっしゃーい!開いてますよー、お好きな席にどうぞー!」

慌ててカウンターをどくあたしと、愛想よく笑顔を振りまく右京。先ほどまでの張り詰めた雰囲気を微塵も感じさせないような慌しさが店内に流れる。
「あかねちゃん、テーブル拭いてくれてありがとな。小夏も乱ちゃんもまだ帰ってきてないけど、あかねちゃんはここまででええよ。手伝ってくれてありがと」
と。
カウンターを慌てて退いたあたしに、右京がこっそりとそう声をかけた。
「え?ここまでって・・・でもあたしも接客とか皿洗いくらいなら・・・」
流石にお好み焼きを焼く自身は無いけれど、それぐらいならあたしにも出来る。
乱馬と一緒に帰るにしても、その方が都合がよかったりもするし・・・それは口に出さずとも、あたしが右京にそう言うも、
「小夏も隣町の知り合いの店に使いに行ってるけどその内帰ってくるはずし、乱ちゃんもおったら人手はそれで十分。うちは店が狭いからな、うちを含めて三人くらいがちょうどい
いの」
「で、でもっ・・・」
「うちの店は、店員がお客さんにお好み焼きを焼いてだすんよ。うちと乱ちゃんがいればそれで十分。それともあかねちゃん、お好み焼きやけるんか?」
「それは・・・」
「店内の雑用は、小夏がやるから、安心してや。店の準備手伝ってくれてありがとな」
右京は笑顔でそういって、あたしにペコリと頭を下げた。
「・・・」
本当はもっと食い下がりたいけれど、でも確かに店内は狭い。 あたしがいることで邪魔に
なり支障があるのなら仕方が無い。
「わかった・・・」
あたしはしぶしぶと荷物を持つと、店から出るべく歩き出そうとした。

と・・・

「なあ、あかねちゃん。・・・男はな、女とは違うんよ」

あたしが歩き出そうとした、本当にその瞬間に。
右京が背を向けていたあたしの背中に向かって、小さな声でそう呟いた。
「・・・」
え?今の・・・何?
あたしが右京のその言葉に驚き慌てて振り返ると、
「うちは分かるよ・・・あかねちゃんが、この先乱ちゃん以外と付き合いつもりが無いって、その気持ち。うちかて、そうやもん」
「・・・」
「でもな、あかねちゃん。女と男は違うんよ・・・男は最後よりも最初に、なりたいもんやて」
「・・・」
「・・・乱ちゃんかて、そうちゃうの?」
乱ちゃんの相手がうちになったとしても、それは当てはまるんよね・・・右京はそういって、振り返ったあたしの肩をぽん、と叩いた。
そして、

「さー、何から焼きましょか?うちはブタ玉なんかお勧めですよ」
「じゃー、それ二枚ね!」
「おおきにー!」
・・・そのままお客の方へと行ってしまい、そこでずっと接客をしている。

「・・・」
あたしは右京の残した言葉に囚われたまま、とぼとぼと店の外へと出た。
店の外へと出たあたしはすぐにぱたりと立ち止まり・・・そしてそっと、胸に手を当ててみる。

・・・右京の、あの店を出がけの言葉に、あたしの胸は激しく反応し鼓動をしていた。
そっと制服の上から胸を押さえてみても、ドクン、ではなくバク、バク・・・と心臓がひっくり返ってしまうかのような大きな鼓動を、感じることが出来るほどだ。
今まで抱えている不安と、そしてそれらを後押しするような右京の気持ち、そして・・・

『・・・乱ちゃんかて、そうちゃうの?』

・・・ずっと、乱馬の隣を歩きたいあたし。この先、もちろん他の誰かとそうなるだなんて今は考えたくないし、例え右京が乱馬のことを諦めなくたってそれは変えたくない。
でも、
隙がありすぎる無頓着な乱馬と、「男と女は違う」ってその事実と・・・
そういうのが色々と混ざり合って、あたしの中の不安を余計に駆り立てる。

「・・・」
・・・早く、どうにかしなくちゃ。
早く乱馬とちゃんと話をして、どうにかしなくちゃ。
右京の気持ち、乱馬の行動、そしてあたしの思い。
好きだけど・・・嫌い。でも、好き。
不安定なその気持ち、ちゃんと伝えないと・・・

「・・・」
あたしはドクドクと鼓動を続ける胸の振動を感じながら、ただただそれを思っていた。
と、その時だった。

「あれ?あかね?」
・・・右京の言いつけで買い物に行っていた乱馬が、ちょうど店へと戻ってきた。
裏口がない右京の店は、従業員も表の店入り口から出入りするのだ。
「乱馬・・・」
それまで乱馬のことを考えていたがゆえに、あたしがハッと息を呑み声をかけてきた乱馬に反応をすると、
「何だよ、驚いたりして・・・あれか?お好み焼きでも食いにきたのか?」
「ううん・・・別にそうじゃないけど・・・」
「そうか・・・ん?どうした?」
乱馬は、店の前に立っていたいつもとは違う様に見えるらしいあたしの顔を、身を屈めながら顔を覗き込んだ。
乱馬は、あたしの表情の変化に敏感だ。
行動には無頓着なのに、表情の変化には敏感なんて・・・それは、あたしにとって時にはありがたく時には苦しい。
「・・・」
あたしはそんな乱馬の服の袖をぎゅっと掴んで、覗き込んできた乱馬をじっと見つめる。
「な、何だよ・・・」
もちろん、そういう仕草をされることになれていない乱馬は、少し驚いたような表情をするも、
「あー、あ、そうか、うん・・・」
勝手に何かを感じ取ったのか、きょろきょろと辺りを見回して素早く自分をじっと見つめているあたしの唇を奪うと、
「外だから、落ち着いては出来ないけど」
そんな事を言って、離れる。

「・・・乱馬」
違うよ、乱馬。

昨日と同じ・・・あたしには今、キスより欲しいものがあるの。
なのに、どうしてこれは伝わらないの?
・・・表情の変化を感じ取ることが出来るのに、どうして気持ちの変化は伝わらないのか。

「・・・」
早く、ちゃんと話したい・・・話して、ちゃんとそれを伝えたい。
あたしが乱馬の顔を見つめながらそんな事を思っていると、

「わりい、あかね。もう店始まってるみたいだから、俺いくな」
乱馬はキスをして離れた後、
表情を曇らせているあたしの顔よりも、あたしの背後にある店が気になるようで、慌しい口調でそう言った。

「・・・」
・・・嫌だ、乱馬。
今はお店よりもあたしに、気づいて。
もっともっと、気づいて欲しいことがあるのに・・・乱馬。
声にならない思いが、胸の中のモヤを掻き立てながらこみ上げてくる。
かき消そうとしていたものが、再び一気に胸の中の中央へと躍り出てきた。

「・・・乱馬、今日、帰ってきてから話そう?」
「は?」
「話があるの・・・だから、お願い・・・」
あたしは、「じゃあな」とあたしを置いて店の中に入ろうとしている乱馬の背中に向かって、たまらなくなってそう叫んだ。
「話?何だよ」
「今はちょっと・・・時間無いんでしょ?」
「まあな」
「だから、今夜・・・あたし、待ってるから」
あたしが不思議そうな顔で振り返った乱馬に対しそう言うと、
「わかった、後でな」
乱馬は更に不思議そうな顔をしながらも、慌しく返事をして、店の中へと消えていってしまった。

・・・ガラガラ、ピシャッ。
店のガラスとが乱馬を飲み込み、そして音を立てて閉まる。

乱馬が入ったとたん、何を叫んでいるのかは分からないけれど、右京の明るい声と乱馬の笑い声が、店の外へと洩れていた。
「・・・」
乱馬が消えていった店と、あたしを隔たる入り口の扉が、こんなにも厚く思えるのはなぜだろうか。
あたしの胸の中に、またウズウズと不安や、焦りがこみ上げてくる。

「・・・」
今夜二人で話しをすれば、あたしの中に生まれている不安とかそういうのは、ちゃんと消すことが出来るのかな。
乱馬に全てをちゃんと話すこと出来たら・・・本当に変わるかな。
あたしに対しての気持ちだけ、変な風に代わってしまったらどうしよう・・・それも不安だけど・・・
・・・

「・・・」
あたしは大きなため息をつき、ノロノロと家へ帰るべく、歩き出した。
・・・とにかく、今は乱馬が帰ってくるのを待とう。
そして、話をしてみよう、全てはそれからだ。
そこから始めないと、なにも変わらないし動かないよね。
「・・・」
待っている間も、もちろん色々と嫌なことや不安なことは胸にこみ上げてくる。
でも、それはきっと乱馬が家に帰ってくるまでの間のことだ。

「あら、あかねちゃん・・・夜更かし?」
「う、うん・・・」
「乱馬くんでも待ってるわけ?旦那の帰りをひたすら待つだなんてさ、あんた、江戸時代の武家の女?」
「なびき」
「だーって」
「・・・」
・・・家族に色々な目で見られるのも、今日は仕方が無い。そんな事よりも大切なことが、この後控えているのだから。
あたしはそんな風に思うようにして、右京の店から帰ってくる乱馬を、待った。

 

 

でも。
この日乱馬は、家には帰ってこなかった。


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