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××KISS××7

「何してんの?こんな所で」
俺はあかねの手首を掴んだまま尋ねた。
「ま、待ち合わせよっ邪魔しないでよ」
あかねは俺の手を振りほどこうと上下にブン、と一度動かした。
が、俺はもちろんその手を離そうとはせず、逆にぐっとその手を強く握った。
「痛ッ」
あかねが顔を少ししかめる。
「イベント、もう始まってるぜ?それなのにこんな所で待ち合わせか?」
俺が意地悪くそう尋ねると、
「も、もうすぐ来るわよッ…だから、邪魔しないでよ。向こうに行って!」
あかねはそう言って、俺から顔を反らした。
「それにしちゃあ、遅いじゃねぇか」
…絶対に、そんな奴はいない。
あかねのその態度を見て更に確信した俺が尋ねると、
「もうすぐ来るもんッ」
あかねは尚もそう言い張る。
「来ないね」
俺は、あくまで言い張り続けるあかねにきっぱりと、そう言い切った。
「く、来るわよッ」
その俺の言葉にカチン、と来たのか、あかねも言い返してくる。
「来ないね」
「来るわよッ」
「いーや、来ないね」
「来るわよッ来るのッ」
「絶対来ないッ…なあ、ホントはそんな奴いないんだろ?あかね」
俺は、あかねに向かって優しく問いかけた。
「!」
あかねは、ビクッっと一瞬身を竦めたがすぐにまた気丈に
「いるもん…」
と呟いた。
「だったら、会わせてくれよ」
「そ、そんなのだめよ」
「なんで?」
「なんでって…だ、だって乱馬には関係ないじゃないッ」
あかねはそういいながら俺に背を向けた。
「関係ないわけねーだろ」
俺はそんなあかねの背中に少し声を荒げて叫んだ。
「関係ないもん…」
「あるよ」
「ないもん!」
「ある!自分の女に手を出されて、黙ってる男なんているわけねぇだろ!」
「!」



…すると。
俺のその言葉に、あかねがビクッと身を竦めた。
背中が、カタカタと震えている。


「な、なによ…そんなこと思っても無いくせに…」
あかねが、小さな声でそう呟いた。
「思ってるよ」
「思ってないわよっ…思ってない…思ってない!」
あかねは繰り返しながらそう呟くと、俺のほうをギロッと振り返った。
「!」
振り返ったあかねの顔を見た俺は、ハッと息を飲んだ。
俺をギロッと睨みつけているあかねの目に、うっすらと涙が浮かんでいるように見えた。
「…」
俺は、指であかねの目の縁ににじんで浮かび上がってきたその涙の粒に触れた。
パチン、とはじけて溢れ出した涙は、一筋、また一筋とあかねの頬へと流れていく。
「何よ、そんなこと思ってないくせに…」
泣いているくせにそれでもまだ強がって、あかねは俺を必死で睨みつけている。
「思ってるよ」
俺がその涙を指で拭ってやろうと頬に触れると、
「嘘つきっ」
バシっ…と、あかねは俺のそんな手を思いっきり払いのけた。

「嘘つき」
…その言葉が、胸にグサリ、と突き刺さった。

そう。
俺はあかねに嘘をついた。その結果、あかねを傷つけたし、こんな嘘をつかせるような結果になった。
でも、だからこそ…ちゃんと彼女と話さなくてはいけない。
そう思った。
俺は、嘘つきだ。でも、あかねも嘘つきのままにはしてしまいたくない。
お互い「嘘つき」のまま終わりになんて、絶対にするものか。

「嘘つき、か」
「そうよ、嘘つきよっ…大事な事は全部黙ってて…」
あかねはそう言って俺に再びまた背を向けようとしたが、

バン!

「!」
…俺は、あかねの両脇の壁に思いっきり手をついて派手な音を立てると、
「確かに、俺は嘘つきだけど…」
「…」
「お前だって、俺に嘘をついたよな?」
「え…」
「いもしない奴と約束してるって、そういって俺を…・困らせたじゃねえ」
「い、いるもんっ…ちゃんといるもん!…」
それでも、あかねは尚もそうい言い張って、俺の腕の中で震えている。
「だったら、ここに連れて来い!」
「何でよっ…何で乱馬にあわせなくちゃいけないのよっ…」
「俺には、そいつと話す義務があんだよ!」
「義務って何よ!」
「そんなこともわかんねえのかよ!」
俺は、俺のことを睨みながら震えているあかねに、乱暴に腕を回した。
「離してよっ…嫌!」
あかねは必死にその腕から逃れようとするが、
「確かめなきゃいけねえんだよ!」
「何をよ!」
「…何よりも、お前が大事か」
「え?」
「誰よりもお前が大事で、何よりも大切に思ってて…そんで命を懸けて守り通す気持ちがあるかどうか!…そいつがどれぐらい本気か、俺には確かめなきゃいけねえ義務があんだよっ」
俺はそう言って、逃れようとしたあかねの身体をぎゅっと掴まえた。
「そ、そんなの勝手よ!知らないわよっ」
あかねは、一瞬俺の言葉に動作を止めるも、直ぐに我に返って俺にそう叫ぶ。
俺は、そんなあかねを決して離そうとはしなかった。
こんな事で優越感をもちたくは無いが、
俺はあかねより力がある。そう、物理的な力が。
この、華奢で小さな身体を簡単に捕らえてしまう事が出来る。
そう、いとも簡単に、だ。

「嫌い!乱馬なんて大ッ嫌い!」

バシ、バシ、と捕らえられた腕の中であかねは暴れる。俺の顔を容赦なく平手でぶん殴っては叫ぶ。
けれど、あかねが容赦なく顔をひっぱたいてきても、俺は彼女の身体から腕を離さなかった。
「乱馬なんて嫌いっ大ッ嫌い!」
あかねは更に俺の顔をひっぱたいた。
「…」
俺はそれでもあかねの身体を離さなかった。
「…」
そうすることで、あかねは更に感情的な一面をさらした。
『あたしが我慢すればすむことだから』
そんな言葉で今までごまかしていた感情が、あかねの小さな身体という「器」から溢れ出した。
それはそう、言葉で表そうとするのなら、まさにそれが正確ではないだろうか。

「なによバカ!都合がいいときだけ許婚になって!あたしのことなんて、適当にしか考えてないくせに!」
「…考えてるよ」
「簡単に、他の女の子にキスするくせにっ」
「しねえよ」
「したじゃない!したって、右京だって言っていたじゃない!」
あかねはそう言って、もう一度俺の顔をひっぱたいた。
「あれは、うっちゃんが不意をついて顔を近づけてきただけだっ。唇を掠めたけど一瞬だったし、最後は鼻先だった!こんな一方的なの、キスになんねぇ!」
「キスはキスよ!」
「キスのカウントにはいんねぇよ!」
「入るわよ!」
「形はそう見えても、事実、理由はどうであれそうなったとしてもっ…俺の気持ちの中でのカウントには入らねえよ!」
「何よ、それ!じゃあ、どんなのなら入るのよっ」
「…こーゆーのだよ!」
俺はそう叫ぶや否や、喚き散らすあかねの頬を、強引に手で触れた俺は、
「噛み付く」
そう、まるで、狼が牙を向く。
そんな勢いで…喚き散らすあかねのその、唇を奪った。
「いや!」
唇を奪った瞬間、あかねがそう叫んだ気がした。
ブン、と思いっきり拳で顔を殴られた。
それでも、俺は唇を離さなかった。

がッ…

(っつ…)
キスしたその唇を、噛まれたような気がした。
こんなに激しく抵抗されたのは、初めてだった。
でも、ここであかねの身体を離してしまったら、そこで話が終わってしまう。
絶対にここで終わらせてなるものか。
「んっ…」
俺は、噛まれたままの唇を離すことなくそのままあかねに押し付ける。
ドンっ…と、あかねが思いっきり俺の胸を突いた。
「ぐっ…」
相変わらずの力強さに、俺は思わず「ぐっ」と詰まる。
ドンっ…
あかねがもう一度、俺の胸をついた。
「くっ…」
俺は、今度はその手をもう片方の手で上手く押さえ込んで、自分の胸に抱きこんだ。
そしてそのまま、あかねの身体を壁へと押しつけてしまう。
「んっ…んっ…」
壁に押し付けられて、手の自由を奪われたあかねは、今度は容赦なく膝で俺の身体を蹴ろうとしている。

(…)

本気で抵抗する時は、コイツはこんなに暴れるのか。

俺は、妙なことに感心しつつも、今度はあかねが膝を動かせないように…と、身体をあかねへと密着させるように立つ。
「い、いやっ」
あかねが、ふと、俺から唇を離すようにして叫んだ。
「やだっ…他の子とキスした唇で!あたしにキスしないで!」
「…」
「前はともかく、付き合い始めてからはあたしだけだって、思ってたのに…嫌なのっ」
そして、大きくてパッチリとしたその瞳から、大きな涙を幾粒もボロボロとこぼしながら、
「あたしが我慢すれば済む事だからって…何度もそう思って、何度も自分にそう言い聞かせたけどっ… でもやっぱり我慢できない!」
あかねはそう言って、再び俺から逃れようとした。
「あんなの、キスに数えてねえっ…そりゃ、一瞬だけど唇を掠めたかもしれないけどっ」
俺がそれでもあかねを捕まえて必死に叫ぶと、
「じゃあ、何で隠してたのよ!何で嘘ついたのよっ…何でっ…」
そう言って、ドン、ドン、と俺の胸を叩いた。
「何でっ…一番に話してくれないの!?何で、他の人の噂で、あたしがそんなこと聞かなくちゃいけないのよっ」
「…ごめん」
俺は、叫ぶあかねに素直に謝るしかなかった。



そう。
それは、俺の迷いからのことだった。
あかねを傷つけるのが怖くて、それで…言うべきか、言わないべきか迷った。
迷っているうちに、もう一つ嘘までついて。
それがどんどんと引き返せ無い様な状況を、生んでしまった。




「右京とキスした思い出ばっかり大事にしてっ…何よっ」
「なっ…そんなんじゃねえよ!」
「してるわよ!絶対してるもんっ…だったらじゃあ、何で黙ってたのよっ」
「そ、それは…お前が傷つくかと思って…」
「言われない方がもっと傷ついたわよっ…最低よっ…何よっ…」
あかねが、そう言ってズルズル…と壁を背に床へとしりもちを付いた。
そして、必死に涙を流しながら唇を手の甲で拭っている。
「…何してんだよ」
「忘れたいのっ」
「何を」
「乱馬とキスした事っ…他の誰かとの思い出を大事にしたヤツとしたキスなんてっ…」
「してねえって言ってんだろ!それに、俺は思い出なんて大事にしてないし、もう本当にあの時の事はっ…」
俺はあかねと目線を合わせるようにしゃがみこみ、そして手の甲を躍起になって動かしているその手を掴んで止めさせた。


…うっちゃんには非常に申し訳ないが、
あの数日前の公園での出来事事態は、俺の中では思い出といわれる部類ではない。
それはもちろん「不意打ち」だったからというのと、一瞬唇をかすめただけ、だということ、
あとは…さっきもあかねに言った通り、「キス」をしたという事実は事実だけれど、俺の中ではそれを「キス」と、カウントしていない為。
でも、それが原因でここ数日あかねと上手くいかなかったこと…そのため、思い出ではないが記憶には残っていた。
「乱馬が覚えてなくても、あたしが覚えてるもん!」
「…」
「…それに乱馬だってきっと、きっと覚えてるもん…」
…が、あかねはそれでも頑なにそう言い張って、俺が掴んだその手にボタボタと涙を落とした。
「…覚えてねえよ」
こうして喧嘩をしていたことはきっと忘れないけど、たぶんキス自体はそうそう覚えてねえって。
そんなあかねの、震える瞼にキスをするも、あかねは黙って、左右に首を振った。
俺はそんな強情なあかねにそっとため息をつくも、このままでは、ラチがあかない。と必死に頭を巡らせていた。
そして、
「…」
すぅ…と一度深呼吸をすると、
…覚悟を決めた。



「…俺は、あの時のキスなんて何とも思ってないし、そのうち記憶からも薄れてくよ」
「嘘よ」
「嘘じゃねえよ」
「信じられない」
「そうかよ。だったら…」
「え?」
「お前が、俺があの時のことをいつまでも覚えててどうにか思っているって…そんな風に言い張るんなら、じゃあ、お前がそれを消してくれよ」
俺はそう言って、あかねの手を強引にひっぱって立たせると、
「やっ…なによっ」
嫌がるあかねを強引に引っ張り、近くの教室へと入り込んだ。
イベントのおかげで、校舎内は閑散としている。
なので、俺達がこうして入り込んだ教室も、無人だった。
俺は、入口に背を向けるように立った。
そしてあかねに、

「俺は何とも思ってないと思っている。でも、お前がそんな風に言い張るんだったら…」
「…」
「お前がそれを消せ」

俺は、びくっと震えたあかねの腕を強く引き寄せると、
「!」
あかねの華奢な体が折れてしまいそうなほど強く抱きしめると、先程そうしたように、あかねの唇を奪った。

「んッ…」

びくん、とあかねの身体が震えた。
先程とはちがってあかねが暴れないようにと、俺はすでに彼女の腕を押さえ込んでいた。
先程みたいに唇を噛まれる前に、すぐに舌を唇から割入れた。
「んっ…」
そのとたん、ガクン、と力を失ったように重く、あかねの身体が俺の腕に沈んだ。
「や…やだ…」
微かにあかねがそう呟いたようにも聞こえたが、それでも俺は、あかねの身体を離さなかった。
ゆっくり、ゆっくりとあかねのその身体ごと、近くの机まで誘導して…そのまま机の上に寝かせてしまう。



本当は俺だって。
こんな、強引で「最低」なキス、したくはなかった。
こんな、あかねの気持ちを無視したひどいキスなんて、出来るならしたくない。
したくないけれど…でも、もうどうにもならない。
キスをしておいて、こんなことを思うのはおかしい。
そんなこと、自分でも分かっている。
分かっているけど、それでも俺は…



「…」



あかねの唇をふさいでいる間、ずっと、思っていた。
…早く、こんな時間過ぎてしまえばいいのにと。

その一方で、
がっ…がっ…と、あかねは膝を立てたりして、俺の身体を引き剥がそうと尚も躍起になっていた。

「…」
しかし、殴られようが、蹴られようが。
俺は、あかねの身体を離さず何度も、何度も唇を重ねながら優しく、その髪を、頬を撫でる。
そうしている自分が、何だか無性に情けなくて仕方がなかった。
あかね同様、目を閉じているはずの俺のその瞼が、微かに熱くなったような気がした。


…目を開けたら、だめだ。
俺は、何故かそう直感した。
そう。
俺は男だ。あかねの前でこんな…
泣きながら抵抗しているあかねの前で、俺が涙なんて流してたまるか。
そう思いながらずっと、ずっと俺は頑なに目を閉じる。


「…」


…と。
その内、それまでジタバタと暴れて俺をてこずらせていたあかねも、
そんな俺の微妙な変化に気が付いたのか…それとも、観念したのか、落ち着いたのか。
いつのまにか、俺の身体を蹴っ飛ばしたり叩いたりしなくなっていた。
身体を突き飛ばそうとしていたその手は、いつの間にか、俺の首へとしっかり、回されていた。
「…」
ふと、あかねの顔を見ると、閉じられた瞳からまた一筋、二筋と涙がこぼれ出ていた。
「…ごめんな」
自分の涙をこぼさぬように振舞いながら、溢れた涙の粒を舌で拭いながら俺がそう呟くと、
「…」
あかねは、それでもまだ首を左右に小さく振った。
「…まだ、許してくれないの?」
俺が、それまでよりもずっと強くあかねの身体を引き寄せると、
「…」
…あかねは、何故かその問いにも首を左右振った。
「?」
俺が、「え?」という表情をすると、
「…何だか、もうわかんない」
あかねは、ぽろぽろと流していた涙を振り払うように首を振ると、そう言ってため息をついた。
「何でわかんないの?」
俺が、そんなあかねの頬をすっと撫でると、
「乱馬の態度を見ていたら、本当にあの時のことは気にすることないのかって。…そんな風に思いはじめて…」
「…」
「でも、嘘をついたことは許せなくて…腹が立っているんだけど、でも…」
「でも?」
「でも…わかんないんだけど…何か離れたくない…」
あかねはそう言って、もう一度俺の首に腕を回すようにして抱きついてきた。
「…」
俺は、そんなあかねの抱きついてきたその背中を、ぽんぽん、と軽く叩く。
「…もう、嘘つかない?」
そんな俺の耳元に、涙混じりの声で。あかねが囁いてきた。
「つかないよ」
俺は、そんなあかねの首筋に顔を埋めるように、答える。
「あたしが怒りそうな事でも…ちゃんと話してくれる?」
「話すよ」
「大事な事を、他の人から聞かされるような、そんな嫌な事…もうしない?」
あかねはそう言って、カタカタと震えていた。
「…」
俺は、そんなあかねを一旦自分から離した。
そして、
近くの机から椅子をひくと、そこに腰掛けその膝の上にちょこん、とあかねを乗せてみる。
「…しないよ」
俺は、膝の上にちょこんと座って、俺をじっと見つめているあかねにはっきりとそう答えた。
「ホントにしない?」
「しない」
「約束する?」
「約束する」
「…」
はっきりとした口調でそう答える俺の瞳を、あかねは真っ直ぐに見つめてきた。
俺は、その瞳を真っ直ぐに見返した。
逸らす事は出来なかったし、逸らそうとも思わなかった。
「…」
俺たちは、少しの間何も言わず、じっと…お互いのその瞳を見つめ合った。



…そう、きっとお互い言いたい事はたくさんある。
伝えたい事も、たくさんある。
伝えたい事が多すぎて、時にはそれが言葉にならないときがある。
…そんな状態なのかもしれない。
でも、
今こうして、俺があかねに伝えたいと思っていること。
そして、
本当に…失いたくない、大切にしたいというその気持ちは絶対に、嘘や偽りではない。
それを伝える為には、どうしてもこの瞳は…逸らしてはいけない。
俺はそう思った。
口で、「俺を信じろ」とか何とか。
そんな風に簡単に口に出すのは、嫌だった。
嫌だけど、でもその気持ちは信じて欲しい。
伝われ。伝わってくれ。
俺は、それだけを思ってただじっと…あかねの瞳を見つめた。



…と。
「…わかった」
不意にあかねがその沈黙を破り、ぼそっと呟いた。
「え…わかったって…」
前にもその台詞を聞き、そしてそこから二人の関係がギクシャクしてしまった事を思い出し、俺がビクッと身を竦
めると、
「…乱馬の言う事を、信じる」
あかねは、小さいけれどはっきりとした声でそう答えた。
「っ…」
俺が、その言葉にぱあっと表情を明るくすると、
「…でも、こんど同じ事をしたら…もう絶対に許してあげないんだからね」
あかねは、釘をさすようにさらりとそう言い退けた。
「約束するっ。絶対に約束するからっ」
俺が、それでもあかねのその気もちが嬉しくて、自分の膝の上に座っている彼女の身体にぎゅっと抱きつくと、
「じゃあ、約束のキス」
あかねは、自分の身体に抱きついている俺を引き剥がしながら、そう呟いた。
「え…、していいの?」
さっきまでは、本人の意思に関係なく、
なんていうかこう…温度のないキスだった。
そうじゃなくて、ようやくまた前みたいに、お互いがしたくて、して欲しくてキスできるんだ…そう思うと、俺は何だか急にソワソワとし始めた。
そして、
「じゃ、じゃあっ…」
喜んでっ…と、もう一度あかねを抱きしめて顔を近付けようとすると、
「…あたしからする」
あかねはそう言って、俺に目をつぶるように囁いた。
「お、おうっ…」
あかねからキスをしてくれるなんて、そんなにめったにないことだ。
俺がドキドキソワソワと、顔を赤くしながら、あかねとの「約束」のキスを待っていると、
「…」
少しの沈黙のあと、

ふわっ…

「…」
あかねの吐く息が、俺の唇や鼻の辺りに掛かった。

「…」

いよいよか…と、俺がドキドキしながらあかねのキスを待っていると…



ガブ!!…



「い、痛えー!」
次の瞬間、油断しきった俺の鼻先に、言いようのない激痛が走りぬけた。
「!?」
一体何が起こったのか、と俺が慌てて自分の鼻先を指で触れると、
「ああ!?」
俺の鼻先に、くっきりと小さな歯形が残っている。
どうやら、あかねは…俺の鼻先に力いっぱい噛み付いたようだ。
「なっなにすんだよ!…」
俺が、歯形を指で撫でつつそう喚くと、
「なにって、誓いのキスよ」
「どこが誓いだ!動物かおまえはっ」
「いいのよ、それでっ。それに、これならびっくりしてあの時のキスなんて、忘れちゃうでしょ」
あかねはそんな事を言いながら、俺の膝の上からぴょん、と飛び降りた。
「くっ…」
思いでも何も、この噛まれた痛さで、さっきまでしていた俺達のキスの思い出まで吹き飛んじまったよ…と俺がぼやくと、
「じゃあ、今日のキスの事は全部忘れられて良かったじゃない」
「え?」
「…あたしだって、あんな風に強引にされるキスは…嫌よ」
だったら、こうやって鼻に噛み付いてやったキスのほうがいいわ。
…あかねはそんな事を言って、笑った。

「…」
その笑顔は、ここ数日あかねがみんなの前で見せていた「必死」の笑顔でなくて、前みたいに、柔らかくて優しくて…俺がぐっと心ひかれる「いつも」のあかねの笑顔。

…やっと、笑った。

そう思うと、何だか妙に嬉しくなった。
「…ったく、こんな目立つ所に歯形つけやがって」
俺は、わざとそんな事をぼやきながら椅子から立ち上がった。
そして、
「あーあ、この痛さですっかりと吹っ飛んじまった分、新しく作ってもらわないとたまんねえな」
そんな事を言いながら、先に立ち上がって笑っているあかねの腕を取って、そのままぐっと自分の方へと引き寄せる。
「自業自得でしょ」
あかねが、こんどはそんな俺に寄り添うように抱きついて、俺の身体に腕を回してきた。
「じゃ、とりあえず保健室にでも行くか」
「はあ!?何で保健室に行かなきゃいけないのよ」
あんた、一体何の思いで作る気なのっとあかねが叫ぶので、
「この鼻、バンソーコ貼ってもらわねえと目だってしょーがねえだろうが」
「バンソーコくらい、あたしが持っているわよ」
ほら、とあかねが制服のポケットからバンソーコを俺に差し出すが、
「ダメなの。保健室のバンソーコじゃないと、俺の鼻には合わない。それに、さっき噛まれた唇にもあかねに手当てしてもらわないといけないし」
「…どんな手当てよ?」
「とりあえず、噛まれた痛さを忘れさせてもらうくらい…キスでもしてもらいましょうか?」
俺は、そのバンソーコをさっと取り上げて、にやりと笑いながら自分の服のポケットにしまってしまった。
「…キスして手当てしたら、直ぐ外に出るんでしょうね?」
あかねが、じとっとした瞳で俺を見あげながら沿う呟くので、
「出れるもんならな」
俺はそう言いながら、そんなあかねの額にそっと、唇を押し当てた。
「…いつ誰が来るか分からないのよっ。それにここ学校なんだから!」
あかねが、真っ赤な顔をしながらふるふると首を左右に振った。
「あ、じゃあ、家ならいいのか?」
「そういう問題じゃないでしょうが」
「じゃあ、人がいないうちにここで」
俺は、そんなあかねを笑顔で見下ろしながらそう言うと、あっという間にその唇を奪った。
「あ」
まさか、ここでまたキスをされるとは思っていなかったのか、あかねは始め、きょとんとした表情をしていたが、
「…ま、いっか」
すぐに再び穏かな表情になって、そして…キスをしている俺の身体へとぎゅっと強く、抱きついた。
俺は、そんなあかねの身体を、しっかりと抱き寄せた。



…ここ数日で俺は、思うと色んな「キス」をした。
不意にされた「キス」もあった。
何が何だかわからなくて、思わずしてしまった「キス」もあった。
噛み付くような勢いで、自分の気持ちを押し付けるような乱暴な「キス」もした。
彼女の気持ちを取り戻したくて、その気持ちを託しながらした「キス」もあった。
ああ、そうだ。思いっきり鼻に噛みつかれた…「キス」とはいえないキスもあったっけ。
それはどれも、同じ唇を重ねる行為であるとはいえ、面白いくらい…「何か」が違った。
そう、それは「温度」
お互いがしたくてした、して欲しくてしたキスでないキスは…相手の「温度」を感じるものではなかった。
心が満たされない。
…何かが、足りない。
唇を離したあとに感じたそれは、きっとその「温度」のせいではないかと。俺は、そう思う。
でも…
こうして今、あかねとしているキスは。
…何だかとても、「温かい」。
あかねの温度と、そして心の温度が、重なっている唇からとても、とても…流れ込んでくる気がした。
それが、俺にはとても嬉しく思えた。
…キスをして嬉しいと思える、こんな瞬間を。
再び迎えることが出来るそれが、また俺には幸せだった。



と、その時だった。
ヒュルルル…!…と、何かが駆け抜けていくような音が、俺達の耳に飛び込んできた。
「…ん?」
俺が、ふとあかねの唇からはなれ、窓の方を振り返るも、
「?」
窓の外には特別に何の変化もない。
「…きっと、イベントの打ち上げ花火の音よ。ここの教室からだと、音は聞こえても花火は見えないわ。グランドとは逆側だし」
すると、首をかしげた俺に、あかねがそう説明してくれた。
「…そういえば。ロケット花火だっけ?打ち上げてそれが落ちるまでの間、キスしていたカップルは将来約束されてるんだっけ?」
俺が、そんなあかねにボソッとそう呟くと、
「え…な、何で知ってるの?」
「なびきが言ってたぞ」
「ふーん。…あ、でもそのジンクス通りにキス、しちゃったね」
あかねは、なんだか照れたような顔でそう呟いた。
「そんなジンクス通りにしなくたって、約束されてんだろ」
俺がそんなあかねにブスッとした顔でぼやくと、
「…そうでした」
あかねは、一瞬驚いた表情をしつつも、すぐに嬉しそうな顔になって俺に抱きつき、そう言った。
俺はそんなあかねを再び、ぎゅっと強く抱きしめると、
「…ま、お祭り好きなおめーのために、今年で最後のそのイベント、会場じゃないけど参加させてやったって事で」
「さ、参加させてやったってなによ。いいわよ、無理に参加してくれなくても」
「嬉しいくせに」
そう言って、ゴツ、とあかねの額に自分の頭を寄せた。
「…うるさい」
あかねは、むう…と頬を膨らましながら俺をじとっと見ていたが、
「…じゃあ、参加してやったって言うなら、最後までちゃんと参加してよ」
「え?」
「花火」
「ん?」
「打ち上げてから、落ちるまで…・の間、キスしてないといけないんだから。まだ、打ち上げたばっかで落ちてくる音、してないもん」
落ち終わったら、きっと会場から割れんばかりの歓声とか音がしてくるはずだし…と、
あかねはそう言って、ふと目を閉じた。
「…」
…そんなあかねが、何だか妙に可愛くて、
「しょうがねえなあ」
俺は、口は悪いがにこやかな笑顔で再び、あかねにキスをする。
…それはやっぱり、温度のある優しいキス。
何度しても、どれだけしても、離れたいとは思えない。
願わくば、時間よ止まれ。
そんなことさえ思ってしまう、幸せな時間。
「…」
そうやってキスをしている俺達の耳には、やがてぼんやりと、歓声のようなものが飛び込んできた。
ザワザワと、イベントが最高潮を迎えるその音が、耳に飛び込んできた。
「イベント、終わったのかな…」
「このあとそのまま、カラオケ大会に突入らしいぜ?」
「ふーん…でも、イベント終わってもまだ明日一日、文化祭、あるのよね」
「そうそう。俺の脚線美にクラスの売上が掛かってんだからな」
「看板ムスメはオカマなのにねえ」
「お、オカマじゃねえっ」
…ふと唇を離した後、そんなやり取りを少ししては、お互い顔を見合わせてクスリと笑い、
「…」
また再び、俺たちはそこで、唇を重ねる。
…時間なんて、忘れて。
ただただそこで、こうやって。二人でこうしている事が、嬉しくて、温かくて、それで居心地が良くて。仕方がなかった。
そして、ここ数日の間忘れていた「温度」を、もっともっといっぱい、感じる為に。
やがて日が暮れ、イベントの終了を知らせる「鐘」が鳴り響くまでずっと、俺たちはその場に留まっていた。







…俺の心にはいつも、君がいる。
いつの間にか入り込んで、勝手に居座って。
初めはすげえ、迷惑だった。でも今は…俺はそこに君を閉じ込めたまま、鍵をかけてしまいたい。
そんな風にさえ、思うんだ。
「迷惑よ」
それこそ、そんな風に言われてしまいそうだけど、でもそれぐらい、俺の心は君でいつも、溢れている。
…なあ。
じゃあさ、君の心には今、…誰がいる?
俺がそうであるように、君にもそう思ってもらいたい。
そんなの俺のワガママだって、分かっている。
ああ、もういっそ笑われてもいいからって、本気で俺はそう思う。
でも、それでも、俺は思うんだ。
俺の心には、君がいる。
俺の心には、君がいる。
…他の何かが入り込む隙など、全く無いほどに。
そして。
…君の心にも、俺が居た。
今こうして、そう思っても間違いではないと。
そう信じても良いと。
そう思うことを許してもらえた、この瞬間を迎えられた事。
誰よりも、 何よりも…心の底から感謝したい。

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