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××KISS××4

翌日。
文化祭、前日。
今日は一日、文化祭準備。授業は行わなくて良い日だった。
登校時間もクラスで決めて良し、制服ではなく私服で登校しても良い日だ。
俺達のクラスは、午前十時集合…ということで一応決まっている。

「え?あかねちゃん、家に帰ってこなかったん?」
「…」
十時に集合して、各自担当の係りの仕事をこなし始めた、俺たち。
そんな中、クラスに設置する喫茶店の大道具を作りながらため息をついていた俺に、小道具係のうっちゃんがこっそりと話し掛けてきた。
「友だちのうちにでも泊まったんやろか?」
「…なびきはそう言ってたけど」
俺は、トントン、とかなづちで釘を打ちつけながら、再びため息をつく。


・・・そう。
昨日。夕飯の時間近くになってもあかねは帰ってこなかった。
さりげなくTVを見る振りをしながら、居間の時計をちらちらと気にしていた俺。
ガタン、と物音がするたびに玄関のほうへと顔を出し、
「…なんだおやじかよ」
『何だとは何だっ。父が帰ってきたのにっ』
…たまに、お使いでパンダの姿のまま外出していた親父の姿を見ては、大きなため息をついていた。
「乱馬君、何をそんなにキョロキョロしてんの?」
なびきが、ニヤニヤしながら俺に尋ねてくるのを、
「な、何でもねえよっ」
俺はさりげなく交わしつつ、それも時計と、玄関を気にしていた。
と、そんな俺に対し、
「ああ、あかねなら今日、帰ってこないわよ」
なびきは、TVのまえをしっかりと陣取りながらぼそっと呟いた。
「えっ…な、何で?」
何も言わないのに「あかね」という言葉が不意に聞こえ、俺がドキッとした表情をすると、
「商店街で、ばったり会ったのよ。何でも、お友だちのおうちに泊まるんですって。文化祭の準備、お友達の家でやるんですってよ」
なびきはそう言って、「真面目ねえ、あかねも」と、再びTVへと視線を戻してしまった。


…嘘だ。
それが直感的に、俺の頭をよぎった。
うちのクラスは、喫茶店をやる。
あかねはウィトレスだし、衣装も小道具も、もう全て準備は終わっているはずだった。
残るは、大道具と裏方の準備のみ。
あかねが、徹夜で友達の家で準備をするようなことなんて、あるわけが無い。
「…」
あかねが、友達の家に行く理由。
そんなの決まっている。

「…」
…俺と、逢いたくない。
多分、それしかない。


「…」


あかねに、避けられた。
避けられるだけの事をしたと、自分では分かっているはずなのに、それを思うと胸が苦しい。
俺が、そんな事をフツフツと思っていると、
「ちょっと、なに暗い顔してんのよ。何よ、またあかねと喧嘩したの?」
俺のそんな様子に気がついたなびきが、よっこらせ…とTVから身体をそむけるように俺のほうをむく。
「け、喧嘩なんてしてねえよっ」
そう、喧嘩にもならねえよ…と、その言葉は飲み込みつつ、俺が一応否定すると、
「ふーん。ま、さっさと仲直りしなさいよ。ほら、文化祭のイベント、どうせあんた達一緒に行くんでしょ?それまでに仲直りしとかないと、勿体無いわよ」
なびきはそう言って、にやり、と俺のほうを見た。
「イベント…?」
俺が首をかしげていると、
「二日目のイベントの事よ。なによ、あかねに聞いてないわけ?」
なびきが、意外そうな表情をした。
(ああ、うっちゃんやあかねが言ってたやつか…)
「あ、ああイベントか。詳しい事は知らないんだけど…それ、どんな事すんだ?」
俺が慌ててなびきにそう返すと、
「うちの学校の文化祭の目玉のヒトツなのよ。夕方から。二日目の午後の大イベント」
「だから、何やるんだよ?」
「校庭にさ、大きな櫓を組んで、火をたくの。で、その周りに花火を用意するんだけど、それが打ち上げ花火でね。打ち上げの一番最後に、『ボール』をセットしたロケット花火をあげるわけよ」
「ふんふん」
「でね、文化祭恒例のジンクスってのがあってさ。その最後のロケット花火が打ち上げたボール。そのボールが地面に付くまでの間にキスが出来たカップルは、ずっと結ばれるんですって。それで何組も結婚しちゃった先輩ってのが中途半端にいるからさ、くだらないけどはびこってるジンクスなのよ」
「…」
「お陰で、乱馬君とあかねみたいにべたべたイチャイチャするカップルばっかよ」
「う、うるせえな」
「そのイベント、風紀上の理由とやらで今年が最後なんだって。だからさ、今年はきっと、例年以上に多いわよ?カップル。あんた達もせいぜい迷子にならないようにべったりとくっついてなさい」
なびきはそう言って、カラカラと笑った。
「え?最後?」
俺が思わず聞き返すと、
「そうよ。ま、保護者にしてみれば当然でしょうねえ。…で、来年からは花火、無くなることに決まったわけよ。知らなかったの?」
あのあかねだってずっと前から知ってるような有名な話よ、となびきはそう言って再びTVのほうへと顔を向けてしまった。
「…」
俺はその事実にハッと胸をつかれた。



『あのっ…来年はそのイベント、絶対に一緒に行くからっ…』
『え?』
『来年は必ずっ…それでいいか!?』
『わかった。じゃあ、来年ね。』



…そうだ。
確か。俺があかねの誘いを断った時に、俺、確かそんな事を言った。
あの時あかねの奴、やっぱり少し困ったような顔で笑いながら、そう答えたっけ。

「…」

知ってたんだ。
あかねの奴、そのイベントが今年限りだってこと、知ってたんだ。
一緒にいけない事に気を使って俺が必死に食い下がるのを、申し訳ないって謝るのをやめさせる為に、知っててわざと、「来年は一緒に行こう」と約束してくれたのか。
来年なんて、無いのに。
俺の嘘を信じて、アイツ…

「…」
…それを思うと、俺は、いても立ってもいられない気持ちになった。
なんて事をしてしまったのか。そう思う気持ちで、胸がいっぱいだった。

「なびきっ」
「な、なによ」
「あかね、誰の家に泊まるって言ってた!?」
「し、知らないわよ。ただ友達の家にって…」
何よ急に、となびきは驚いていたが、
「…」
電話で、捜してみようか。
いや、でもそんな事をしたら余計にあかねは…でも、このまま放っておいていいのか?一晩も?
「…」
俺は、電話の前でウロウロしながらいろいろと考えていたのだった。
・・・





「…で?結局電話できないまま、一晩過ぎた、と」
「そうなんだよ」
…俺は、うっちゃんに昨日の事を一通り話し、再びため息をついた。
「せやったら、今日の昼にでもあかねちゃん呼び出して話ししたほうがええよ」
「そうだよな」
「じゃあ、うちがお膳立てしたる」
すると。
うっちゃんは、ゴソゴソと小道具袋の中からヌノキレのような物を取り出して、
「これ、ウェイトレスの子がつけるエプロンの飾り。何かうちらの準備袋に入り込んでたんよ、あの子達のところに、持っていってくれへん?」
そう言って、俺にそのヌノキレを突き出した。
「うっちゃん…」
俺がうっちゃんの心遣いに感謝をすると、
「今回だけやで」
「え?」
「そりゃあ、乱ちゃんがあかねちゃんのことめっちゃ好きなのは知ってるし、諦めなきゃあかん事ぐらい分かっているけど。でもまだうちかて、完全に気持ちの整理、ついているわけないで?」
「うっちゃん」
「…でも。乱ちゃんがそんな困ってるの見るのは耐えられないし。今回は特別に協力したる。さ、行き」
うっちゃんはそう言って、俺の背中をバシッと叩いた。
「…ありがとな。うっちゃん」
「礼は、仲直りしてから言い」
「…ごめんな、うっちゃん」
「それはまた、今度」
俺は、うっちゃんに軽く頭を下げて、その渡された布切れを握り締めたままその場を離れた。
そして、教室の隅で、
「わー、これ可愛いっ」
「あかね、これもつけてみたら!?」
…と、衣装の試着をしているあかね達の元へとかけていった。
「あ!こらこら、乱馬君!試着中なんだから、ダメでしょ、近寄ってきたら」
俺とあかねがギクシャクしているのを知らされてないのか、あかねと仲の良いクラスメートのさゆり・ゆかが、俺があかねの傍へよるのを笑顔で塞き止める。
「あ、こ、これ…」
俺が慌てて、うっちゃんから渡されたヌノキレをみせると、
「ああ、その飾り。ほら、あかね、乱馬君が持ってきてくれたみたいよ」
さゆりはそういって、ウィトレスの衣装を着て姿身の鏡の前に立っていたあかねを呼んだ。
「…」
あかねは、ちらっと俺のほうを振り返ったが、すぐさま視線を鏡のほうへと戻してしまった。
「あら?聴こえなかったのかな…まあ、いいや。乱馬君、あかねにこれ、渡してあげてよ。あかねの分だけ、足りなかったの」
すると、さゆりはそう言って、俺をあかねの元まで近付けるチャンスを作ってくれた。
(えらいっ…えらいぞさゆり!)
彼氏のひろしにはあとで、何かをおごってやるからな…と心の中で礼を言いつつ、
「…」
俺は、クラスの女どもの間をすり抜けて、姿身の鏡の前で衣装を試着していたあかねの傍へと歩み寄った。
「あの、これ…」
「…ありがとう」
俺がヌノキレを渡すと、あかねは、小さな声で御礼を言って、そのヌノキレを受け取った。

「…」
「…」

俺たちは、そのまま何も言わずに黙り込んでいる。
何かを言わなくてはいけない。
言いたいことなんて、山ほどあった。
なのに、どれもこれも、上手く口を出る事は無い。

「…」
俺たちが黙ったまま俯いていると、

「あかねー、そろそろ衣装、しまうよ!」
背後から、さゆりの叫ぶ声が聞こえた。
「あの…着替えなきゃいけないから…」
するとあかねがそう言って、俺に再び背を向けようとした。
「あっ…」
その瞬間に、あかねの頭についていたフリルのリボンが、ぽとん、と床に落ちる。
「あ…」
俺は、あかねがそれをしゃがんで拾うよりも早く、指で摘み上げて拾った。
「あ、ありがとう…」
あかねが、俺の手にしたリボンを受け取ろうと、少し身をかがめた。

「…」
今しか、ない。

俺は、その瞬間を逃さなかった。

「…昼休み、屋上で待ってる」
…俺は、身をかがめて俺の指からリボンを受け取ろうとしたあかねの耳元に小声で、そう囁いた。

「え?」
あかねが、はっとしたような表情で俺の顔を見上げた。
「…待ってる」
俺は、もう一度小さな声でそう言うと、あかねにリボンを渡して、その場を離れた。
…胸が、ドキドキとした。
あかねと話すのに、こんなに胸がドキドキした事はなかった。
場を離れたいまでさえ、胸がドクン、ドクンと脈打っている。
きてくれるか。
あかねは、来てくれるか?
あかねは、来てくれるのかな。
(…)
そんな思いだけが、頭の中をグルグルと巡る。

「乱馬、どこ行ってたんだよ。お前には今日、働いてもらうぜ?あしたからウィトレスなんだから」
「わ、悪いわるい」
「とりあえず、それを移動してくれよな。次に…」
「はいはい」
と、落ち着き無く持ち場に戻った俺を見つけたひろしや大介が、容赦なく次から次へと俺に用事を頼みだした。
「いいよな、乱馬は。あしたはウィトレスで。おまけに、あかねと一緒に入れるんだもんな。ずっと」
「…」
「女の格好ってのが悔やまれるがな」
ひろしや大介達は、そんな事を言いながら俺をからかう。
「はは…そうだな」
俺はそんなひろしたちに話を合わせつつ、昼を待ちわびるその落ち着きの無い気持ちをかくしたまま、再びトンカチ片手に作業に入った。





…そして。
クラスで昼休み、と決めた時間。
「俺、ちょっと買い物してくる」
「今日、購買休みだぜ?」
「ちょ、ちょっと近くのコンビにまで行って来るよ」
…ひろしや大介にばれないようにそんな言い訳をしながら、俺はあかねを呼び出した屋上へと向かった。
大道具係は少し作業がずれ込んだ為に、ウィトレスで衣装チェックしていたあかね達よりも、昼に入るのが5分ほど遅れてしまった。
「…」
俺が教室を出るとき、もうあかねの姿は教室になかった。
なので、あわてて俺が屋上へと向かうと、
「…」
屋上のドアをあけたそのすぐ先に、からりと晴れ上がった空を見上げるように柵に身体を預けながら、あかねが立っていた。
「あ…あの…遅れてごめんっ」
俺がそんなあかねにすかさず声をかけ、トビラを閉めると、
「…あたしも、今来た所だから」
あかねは、静かな口調でそう呟いた。
「そ、そっか…」
何だか、そんなあかねとの間に妙な緊張感というか、張り詰めた空気を感じ、
思わずそこで俺が口を閉ざしてしまうと、
「…何?わざわざこんな所に呼び出して」
あかねは、そんな俺に一言、そう呟いた。
「あ、あの…その…」
俺は、そんなあかねの言葉に一瞬びくり、と身を震わせる。
なんだか、言葉としてはゴク普通のもの、ごくごく普通の質問なのに、あかねの言葉がぐさり、と胸に突き刺さる。
「あの…」
でも、それで怯んでいるわけもいかず俺は、ついに覚悟を決めた。
そして、
「あの…文化祭のイベントの件だけど」
俺は、ようやくあかねに話を切り出した。
「ああ…イベントの件」
「あの、その…一緒に行かないかなって思って…」
俺がそんな風に切り出すと、
「…友だちのお手伝いはいいの?」
あかねは、表情を変えずにそう切り替えしてきた。
「その、それなんだけど…」

…嘘をついていた。

俺は、小さな声でそう呟いた。
「…嘘?」
あかねが、俺のその言葉にピクリと反応する。
「実は…初め、うっちゃんに誘われてて…」
「…」
「でも、うっちゃんとその約束は止めようってなって…だから…」
「…だから、今度はあたしを誘うの?」
「ち、違うよっ…これは俺の意志でっ…」
俺があかねに慌ててそう叫ぶと、何かをじっと、考えるように目を閉じてしまった。
そしてしばらくして目を開け、大きなため息をつくと、
「あかね…。あの…」
「…悪いけど」
あかねは、そんな俺の言葉に被せるようにそう言った。



…「悪いけど」?
その言葉に、俺はギクリ、とする。



「悪いけど」って…何だ?
「悪いけど」。
「悪いけど」…?その言葉の続きに、良い意味など期待なんて出来ないだろう?



「…」
そう思うと、胸がドクン、と鳴る。
「悪いけどって…」
掠れ始めた声を振り絞るように、俺があかねにそう尋ねると、
「…乱馬とは一緒にいけない」
あかねは、小さな声でそう呟いた。
「え…な、なんで…」
ドクン、ドクン、と胸が大きく鼓動する。
かあっ…と、頭に血が上り始めるのが分かった。
「な、なんで…?」
俺がもう一度あかねに尋ねると、
「…一緒に行こうって、誘ってくれた人がいるから…」
あかねはそう言って、俯いてしまった。
「え…」
その答えに、俺の胸がさらにドクン、と大きく鳴る。
「…その人と一緒にイベントに行くから、乱馬とは行けない」
あかねはそう言って、俯いてしまった。
「…男か?」
俺が、動揺しているのを悟られまいと必死にそう呟くと、
「…うん。クラスの…」
あかねは、小さな声でそう呟いた。
「っ…」
その答えに、さらにぎゅっと…胸が締め付けられた。



自分でも、その表情が強張っているのが分かる。
歪んでいる。
きっと、俺の顔は今、歪んでいるだろう?
…そんなの、考えなくても直ぐに見当がついた。
あかねは今、なんていった?
クラスの男子に誘われて、一緒に行くって言った?
聞き間違いじゃねえのか…違うのか?




「…」
俺が、混乱し始めボーっと鳴り始めた頭でそんな事を思っていると、


「だから、あたしのことはいいから…右京と行ってあげてよ」
あかねは、そんな俺に追い討ちをかけるようにそう言うと、
「…話はそれだけだよね?じゃ、あたしはもう行くから…」
ボーっと立っている俺に向かってそう言うと、屋上から出て行ってしまった。
「あ!…」
俺は、走り去るあかねに手を伸ばそうとした。
が、そんな資格なんて俺にはもう無いのか…・そう思うと、伸ばしかけた手を、引っ込めざる得なかった。


「…」


ぶらん、と脱力しながら降ろすその腕。
その勢いで、肩までガクン、と落ちるのが分かる。



…全ては、俺の「嘘」から招いた事だった。
嘘をついて断って、大事な事を隠していた。
それが最悪の形でばれて、それを悔い改めて誘いをかけたら、もうあかねは別の奴と…。
あの、あかねがだ。
誰よりも真面目で、一生懸命で。
誰かをそんな簡単に好きになったり嫌いになったりしないあかねが、だ。
「だれでもいいから誘いを受けてしまえ」
そんな簡単な気持ちで、あれだけ楽しみにしていたイベントに行くか?


「…」
…そんなわけが、無かった。



あかねは、もてる。
声をかけてくる奴なんて、山ほどいる。
俺とちゃんと付き合ってるって分かっているのに、誘いをかけてくるような奴だってたくさんいるんだ。
あかねがそいつの誘いを受けたって事は、少なからずあかねが、そいつに好意を持ったということだ。
気を許したって事だ。
来年は執り行われないそのイベントを、女友達よりもそいつと一緒に過ごしたいと、そう思ったってことだ。



…誰だよ。
誰なんだよ。
なあ、誰なんだよ?
何でそんな簡単に、そいつはあかねの心に入り込んじまったんだよ?
何でそんな簡単に受け入れちまうんだよ?
なあ。
なあ、あかね。
そいつ、誰なんだよ?



「…」



…けど、責める資格なんて俺にはねえんだな。
それ以上に俺は、最低な事をしたんだ。



「…」
…でも、このまま終わるのはイヤだ。
あかねを手放してしまうなんて、イヤだ。
このまま、他の誰かに奪われてしまうなんて、絶対にイヤだ。
…なら、どうしたらいい?



「…」
ガンっ…
俺は、ムシャクシャする気持ちを手当たり次第ぶつけるかのように、屋上の柵を殴りつけた。
ガっ…と横に腕をひたら、たまたま出ていた釘に引っ掛かって、指の端が切れた。
ポタリ、と屋上の床に血が垂れるほど、実はひどい怪我だったようだ。
でも、
そんなひどい怪我でさえも、痛みが全く感じられない…不思議な状態だった。
手の痛みよりも、心が痛い。
釘に引っ掛けて血が垂れるのが手の怪我ならば、
きっと心はそれ以上だ。鋭い刃物でばらばらに、引き裂かれているような気がする。
いや、きっとそんな言葉では表しきれないほど。
「…」
どうにもできない思いを抱えたまま、俺は空を仰いだ。
…俺の目に映るその青い空は、
悔しいぐらいに透きとおっていて、そして悔しいぐらいに高い。
この霞がかった胸の内とは、おかしいぐらいに対照的なその空のした、ズルズルズル…と屋上の手すりにも垂れる
ように、俺は座り込んだ。





…俺の心にはいつも、君がいる。
いつの間にか入り込んで、勝手に居座って。
初めはすげえ、迷惑だった。でも今は…俺はそこに君を閉じ込めたまま、鍵をかけてしまいたい。
そんな風にさえ、思うんだ。
「迷惑よ」
それこそ、そんな風に言われてしまいそうだけど、でもそれぐらい、俺の心は君でいつも、溢れている。
…なあ。
じゃあさ、君の心には今、…誰がいる?
俺がそうであるように、君にもそう思ってもらいたい。
そんなの俺のワガママだって、わかっている。
ああ、もういっそ笑われてもいいからって、本気で俺はそう思うよ。
俺の心には、君がいる。
俺の心には、君がいる。
他の何かが入り込む隙が、無いほどに。
でも。





…君の心には、俺の知らない誰かがいた。

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