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愛し君へ5

結局、その次の日も、次の日も。
なびきがあかねに関して、俺のところに良い知らせを持ってくる事は無かった。
あかねは・・・というと、家族の前では、俺と特に上手くいっていないことを感じさせないような素振をして見せるも、二人きりになるチャンスがあって俺が側に寄ろうとすると、
「・・・あたし、まだ準備の途中だったんだっけ・・・忙しいなあ」
・・・そんな、あからさまに取り繕った理由で、俺の前から離れていく。
『忙しくなんて無いもんっ・・・』
俺と数日前に言争った時、そう言って主張をしたのが嘘のような、その代わり様。
・・・



「あらあ、まだ仲直りしてないの?」
ついに、今日は三月十三日。
俺が数えて何度目かのあかねとの接触に失敗した時、なびきが暢気にそんなことを言いながら俺の元にやって来た。
「てめえ!俺から高額取っといて、何もしなかったくせに!」
俺がなびきのその様子にいらいらとそう叫ぶと、
「何もしなかった、は心外ね。あたしはあの日、あかねにちゃんと伝えたわよ」
「え?」
「乱馬君がバカな事考えて、浅はかな考えでデートの約束なんてしたみたいだけど、
  それは全部誤解なのよーって。あんたの事を庇いながらしっかりとね」
「・・・お前、それのどこが俺を庇ってるんだ?」
「庇ってるわよ。だから、あかねだってわかってるはずよ?あとはあかねと、あんたの努力次第って事ね」
なびきはそう言って、にやりと笑った。
そして、
「あかねに話をした事で、五千円のうち二千五百円は消費させてもらったわ」
「え?」
「だから後の二千五百円は、今日、感謝するのね。 今日、早めの晩御飯を食べた後、皆はそのまま出かける予定だから」
「・・・」
「あんた達を今晩、二人きりにしてあげるって事よ」
これでどうにかしなくちゃ、あんたもう、手遅れよ。なびきは俺にそう囁いて、離れていった。
「・・・」
俺はなびきの計らいにとりあえずは感謝しつつも、不意に訪れるチャンスに、異様に胸を鼓動させる。



なびきが言ったとおり、今日、どうにかちゃんとあかねと話をしないと。
そんな思いが胸を満たす。
じゃないと、あかねが、本当に遠くに行ってしまう。
物理的な距離だけじゃなくて、
きっともう手が届かない場所へと行ってしまう。無性にそんな気がした。
俺が何を言いたくて、何でこんなことになったのか。
あかねが何を思って、今どう思っているのか。
せっかく巡ってきたチャンスを最大限に生かして、ちゃんと話をしなくちゃ。


夢は、応援する。安心して留学、してこいよ。
でも、応援しているからって、寂しくないわけじゃねえぞ。
帰って来るまで、どうにか我慢する。
それがどの位寂しい事なのか、今は見当もつかないけど・・・
絶対にまたここに帰ってくるって信じるから、俺は待ってる。
だから、夢、叶えるためにも頑張れよ。
それから、こういう大事な事は、まず俺に話せよな。
今度やったら、ホントにお仕置きだぞ。
・・・



本当に言いたい事、伝えたい事。
今度こそちゃんとあかねに伝えられるように、俺は頭の中で色々と思い浮かべる。
そして、

「ちょっと出かけてくる」
「乱馬、どこに行くの。もうすぐお食事会に・・・」
「すぐ戻る!」

あかねの食事会に行く為に支度していた家族に一言そう断って、俺は家を飛び出した。
向かう先は勿論猫飯店。シャンプーに、貰った映画のチケットを返すためだ。
が、

「シャンプーは出前で留守じゃ。一体、おらのシャンプーに何の用じゃ!」
「・・・」

・・・どうしてこう、タイミングが合わないのか。
俺が会いに行く時に限って、シャンプーはそこにはいない。
店番のムースの言葉に、俺はがっくりと肩を落とす。
でも、
「・・・そうだ。ムース、お前にこれをやる」
「なんじゃこれは?」
「シャンプーから貰ったんだけど、俺、急用でどうしてもいけなくて。
  代わりにお前いけよ。明日の十時に、公園でシャンプー、待ってるって」
「本当か!?」
「その代り、当日までシャンプーに内緒にしておけよ?ほら、驚かせてやったほうがシャンプーも喜ぶだろうし・・・」
俺はそんな入れ知恵をムースに施してそのチケットを渡すと、
「ああ、シャンプーとおら、明日は甘美なデートじゃ!たまには役に立つな、乱馬よ!」
「眼鏡を掛けろ、ド近眼。とにかく、頼んだぞ」
俺・・・の隣に設置されている招き猫の置物を指差しそう叫んでいるムースに頭を下げ、猫飯店を出た。
シャンプーには悪いけれど、やっぱりあのデートはするわけには行かない。
俺のこんな曖昧な態度によって、まずはあかねが傷ついて、
そして、
「乱馬!約束破ったあるな!」
シャンプーだって迷惑を蒙る。
ムースに犠牲になって貰いつつも、とにかく俺の誠意を見せなくては。
俺は、来るべき夜の為にそんなことを考えながら、猫飯店から家への道を走っていった。





数十分後。
俺達は家族総出で近くのレストランへと食事へ行き、賑やかな食事をして、その場所で解散をした。
なびきの策略どおり、なびきとかすみさんは友達の家へ、お袋は、学生時代の恩師の家へ、オヤジとオジサンは、どこかに「修行」と称して遊びに。それぞれがその場所から出かけていった。
残るは、俺とあかね。


「・・・帰ろうか」
「うん・・・」


レストランを出てから、俺と目線をあわせようとしないあかね。
俺はそんなあかねの手を取ろうと、すっと手を伸ばすけれど、あかねは俺が手を取ろうとしたちょうどその瞬間に、その取ろうとした手にカバンを持ち替えた。

「・・・」
俺の手が、虚しく宙を切った。

反対側の手を繋ぎたくても、そちらを繋ごうとすれば、あかねが車道側を歩く事になる。
もちろんそんなことはさせたくない、俺は、仕方がなくあかねの横を、ポツンぽつんと歩きだした。


・・・少し日の翳った、歩きなれた商店街の道。
数日前までは、手を繋いで楽しく話をしながら歩いた、道。
今日はこんな風に並んで歩くだけの、道。
でも数日後からは、俺がたった一人で、歩く道。

「・・・」
そんなことをフッと思い出し、俺の胸の中に何だか得体の知れないものがこみ上げる。

「・・・」

・・・あかねは、どんな風に思っているのかな。
俺がそんなことを思いながら、横を歩くあかねの顔を盗み見ようとすると、
あかねの顔は前ではなく俯いていた為に、その表情は伺う事は出来ない。
「・・・」
道うんぬんのことよりも、もしかして俺とこうやって歩く事の方が、あかねにとっては耐えがたい事なのか?
そう思うと、胸がズキ、と軋む。

「・・・」
無言のままで、俺達は道を歩いていく。



何か、話したい。
ほら、さっき「あれを伝えたい」「これを伝えたい」って色々と考えていたじゃないか・・・
俺は自分を奮い立たせるようにしてあかねと話をしようと試みるも、


「あ、あの・・・」
・・・ようやく口を開いて話し掛けることが出来た頃には、既に自宅の前。



「あたし、明後日の準備がまだあるから・・・」
「あ、そ、そう・・・」
また、同じ様な取ってつけた理由で俺はあかねから逃げられてしまった。
あかねは家の前まで来ると、そう言って足早に家の中へと駆け込んでいく。

「・・・」

追わなければ・・・頭ではそうわかっていても、どうしてだろうか、足が動かない。
伝えなくてはいけないこと、話さなくてはいけないこと・・・たくさんあるってわかっているのに、どうしてもこの足が、玄関先で突っ立っているこの足が、どうしても動いてくれない。

「・・・」

準備が終わるまで待っていようか。いや、準備なんてもう終わっているだろ?・・・
そんな思いが、幾重にも胸の中で交差しては気持ちを揺るがしていく。

「・・・」
結局俺は、準備へと消えたあかねに声をかけることが出来ないまま、一人ぽつんと、居間に座っていた。
居間の柱にかかっている時計が、カチッ・・・カチッと時を刻む音。
虚しく明るい、テレビの音。
時折自動で沸騰する、電気ポットの音。
普段の生活ではさほど気にも止めないようなそんな音が、今日に限ってはやけに俺の耳へと飛び込んでくる。
一時間過ぎ、二時間過ぎ・・・気がついたときには、夜、十時。
ノロノロと居間から出て階段の下から二階を見上げてみるも、あかねが下に降りてくる気配は全く無い。

『あんた、これでどうにかしなくちゃ、あんたもう、手遅れよ』

・・・昼間の、なびきの言葉がやけにリアルに俺の頭の中に甦る。

「・・・」

どうにかしなくちゃ。
俺だってそれくらいわかっている。でも・・・どうしても、足が動いてくれない。
せっかく二人きりになったのに、これでは何の意味も無い。

「・・・」

俺は、がっくりと肩を下ろして大きなため息をつくと、
居間には戻らず、そのまま自分の部屋へと向かった。
気持ちがどうにもこうにも治まらなくて、このまま素直に眠る事なんて出来ない事ぐらいは分っていた。
遣り残した事が多すぎて、このまま寝ている場合じゃないというのだって分っているのだけれど・・・
でも、どうしても不甲斐無い自分を落ち着かせるためにも、少し休んだ方がいいのか。
俺はノロノロと押し入れから蒲団を出して畳へ敷くと、電気もつけずに身体を横たえた。
そして、暗闇の中でじっと、自分があかねに伝えたい事を整理するべく頭をめぐらせていた。





・・・と、その時だった。

「・・・乱馬」

不意に、俺の名を呼ぶ声が、聞こえた。
そして、ゆるゆるとふすまが開く、音がする。
「っ・・・」
この声は、あかねだ。入口に背を向けたまま身体を横たえていたって、そんな事はすぐにわかった。
俺がそのままの状態で黙っていると、
「・・・乱馬」
あかねがもう一度俺の名を呼んで、ふすまを、閉めた。
「・・・」
思いもよらぬあかねの来訪に、俺は妙に胸をドキドキとさせながら、身を固めている。
何だよ、とか返事をした方がいいのかな・・・あかねに名前を呼ばれるなんていつもの事なのに、なんだって今日はこんなに緊張しているんだ?
俺は妙な緊張感に身体を支配されながら、そんなことを思っていた。
「・・・」
ヒタ、ヒタ、と畳を擦る音が蒲団の近くで聞こえた。
どうやら、応答しない俺の側へ、あかねが歩み寄ってきたらしい。

「・・・」
何なんだ・・・?俺がそのままの状態で、あかねの気配だけを背中で感じていると、

「乱馬・・・」

あかねはもう一度だけ俺の名を呼んで、一息置きそして・・・俺が予想もしなかったことを、呟いた。
「・・・一緒に寝ても、いい?」
「!」

・・・予想外の言葉に、俺はビクッと身体を竦ませてしまった。
幸い暗闇だったせいか、俺が起きている事はあかねにはわからなかったみたいだけれど、

「・・・?」
一体、どうしたんだ?

それまで避けられ続けただけに、俺はあかねのこの言葉の意味が上手く理解する事が出来ない。
俺があかねにこういうのなら分るけど、あかねが俺にって、どういうことだ?
俺がその言葉の真意を探ろうと色々と考えをめぐらせていると、

「・・・」

ふわり、と空気が動いた気がした。
そして、俺が頭から被っていた蒲団がふんわりとめくられる。
どうやらあかねが蒲団をめくったようだ。
俺がそのままじっと身を固めていると、
あかねは、背を向けている俺のすぐ側に身体を横たえ、めくった蒲団を元に戻した。
そして、背を向けたまま動かない俺の身体にそっと手を伸ばし、
背中に顔を押し付けるように、ぎゅっと、抱き付いた。

「っ・・・」

柔らかいあかねの感触。
俺は再びビクン、と身を竦める。
胸が、ドキドキと大きく鼓動していた。
もしかしたら、腕を回しているあかねは、俺の胸の鼓動に気がついたんじゃないか・・・それを思うと更に、胸が高鳴る。
あかねが自分から一緒に寝たい、なんていうのは多分初めてだ。それを思えば尚更だった。

「・・・」
一体、どうしたんだ?
俺がそんなことを思いながらもじっと動かずにいると、

「・・・乱馬は修行に行く前、いつもあたしと一緒に寝るでしょう?」
・・・問い掛けても答えない俺に、まるで独り言を呟くかのように、あかねが再び話し掛けてきた。
俺は、そんなあかねの話をそのままの姿勢で聞いている。
「いつも乱馬、その時に言うよね・・・。一緒に寝るだけでも、パワーが出るもんだって。
  それで、次の日元気に出かけていくでしょ」
「・・・」
「あたしもね、出かける前に乱馬にパワーを貰おうって思ってたの・・・。 でもね・・・」
あかねはそこまで言って、一呼吸置いた。
そして、
「あたしは・・・一緒に寝ただけじゃ、寂しくて・・・。だから、日曜日に乱馬と一緒に過ごして、たくさん遊んで楽しんで・・・それくらいしなくちゃ足りないかもって、勝手に思ってたの・・・」
「・・・」
「なびきお姉ちゃんに、乱馬がなんであんな態度を取っていたのかとか、聞いたの。でも、それが分かっても、どうしても日曜日のこと、割り切れなくて・・・。だからあたし・・・」

あかねがそう言って、一瞬、黙る。

どうやら、一応はなびきの努力が役に立ったようだ。
どうやらあかねは、全ての事情を理解していたとはいえ、
あの日曜日のデートのことがどこかで許せなくて割り切れなくて、頭では分っていても、俺を避けてしまうような態度を取っていたらしい。
・・・

「でも・・・日曜日がダメになったのなら、もう我慢するからっ・・・乱馬が日曜日、誰とどこで何をしてても、何にも言わないからっ・・・乱馬が起きる前に、部屋にちゃんと戻るから・・・」

そんなあかねは、俺に向かってそんなことを言いながら、更にぎゅっと身体に抱きついてくる。
「・・・」
「このまま、乱馬とこんな気持ちのままでいるの嫌だから・・・だから、今日は一緒に寝たい・・・」
そしてあかねは最後に小さく、「お願い」と呟いて、それっきり何も言わなかった。
でも、俺の身体にぴっとりとくっついている顔が、微かに震えているような気がした。



・・・また、泣いてる。
服を着ているというのに、妙に鮮明に伝わる、あかねの涙。
彼女が口にした切ない思いも手伝って、身体中の何かが一気に俺の中を駆け巡った。


・・・ああ、そうか。
俺は何も言ってこないし今日もこんな感じだし、このままだと出発まで会話すら交わさないかも・・・なんて。あかねも考えたのだろうか。
でも、例え俺と会話しなくても、留学には行かなくてはいけない。
だったらせめて・・・

「・・・」
あかねは、きっと、そう思ったんだろう。
・・・

俺は、あかねにそこまでさせた自分の不甲斐無さに無性に腹がたった。
そして、背中に伝わる彼女の温もりが、じわり、じわりと心にも滲む。

「・・・」

堪らない。

このままあかねとギクシャクして彼女を送り出すかもしれない、という不甲斐無い状況にもそう思ったけれど、それ以上に・・・こんな思いをさせたままあかねを一人、送り出すなんて出来ない。
こんな思いでたった一人、遠い所へ放り出してしてしまう事の方が、俺には堪らない。

「・・・」
俺は、ゆっくりとあかねの方を振り返った。

「・・・」
俺が起きていた、ということに気がついたあかねが、慌てて俺の背中から顔を離し、顔を上げる。

「・・・ひでー顔」
・・・ホントは暗闇で、あかねの泣き顔なんて良くは見えないけど、きっと酷い顔で泣いているんだろうなあ・・・なんて予想は出来るので、俺はボソッと呟いた。
「・・・」
あかねは何も言わず、再び顔を伏せてしまった。
俺は、むっくりと蒲団から身体を起こした。
そして、俺に抱きついていたあかねの腕を外させると、あかねの身体も蒲団から起こし、今度はこちらが抱きしめてやる。
華奢な身体がしなるほど、強い力で抱きしめてみた。
あかねは俺のそんな仕草に初めは驚いていたみたいだったけれど、その内ゆっくりと、俺の身体に手を回す。

「・・・」
あかねが、再び泣き始めた。

「・・・何で、泣くんだ」
俺があかねの身体を抱きしめながらそう尋ねると、
「・・・」
あかねが、左右に首を振った。「わからない」とでも言いたいのだろうか。
俺は、黙ってそんなあかねの頭を撫でてやる。
あかねは、何とか涙を止めようと頑張っているようだけれど、どうにもこうにも上手く行かないようで、激しくしゃっくりを挙げている。
「・・・こんなに泣き虫じゃ、向うに行ったら困るだろ?それに、一年とか二年たって帰ってきても、まだこんな泣き虫だったら、笑われるぞ。みんなに」
俺が泣いているあかねの背中をぽんぽん、と叩くと、
あかねが再び左右に首を振った。「困らない」とでも言いたいのだろうか。
「・・・」
俺はそんなあかね泣き顔を、片手で触れた。そして、目から次々と溢れ出る涙を少し、舌で掬ってみる。
あかねが、ビクッと身を竦めた。そのおかげで涙がぴたっと止まる。
「・・・こんな事、向うで他の奴にやらせんなよ」
俺が、涙の止まりぐっしょりと濡れたままのあかねの頬に唇を付けながらそう呟くと、
「・・・」
今度は、あかねが首を縦に振った。どうやら、了解したようだ。
と。
「・・・乱馬も一緒に行けたら良かったのに」
あかねが、そんなことを急に呟いた。
「一緒にって、どこに?」
俺が、唇だけはあかねの頬や首や耳に滑らせながらそう問うと、
「留学」
あかねが、ボソッとそう呟いた。
「いけるわけねえだろ」
俺がバッサリとそう言い切ると、
「・・・だって・・・」
あかねは、俺の唇の感触に擽ったそうに目を細めつつ、「やっぱり期間が決まっていたって寂しいなって思ったんだもん・・・」と呟いた。


短期、留学。
たしかに期間は短期といえども、「ちょっと隣町まで出かけてくる」というのとは、訳が違う。
半年か、一年か。いや、それ以上か・・・あかねが隣にいない、想像もできない日々が来るのだという思いが、俺の胸の中にふっと、湧いた。

「・・・そうだな」
胸が・・・苦しい。
俺があかねの言葉に相槌を打つと、

「乱馬も寂しい?」
あかねが、そんなことを聞いてきた。
「当たり前じゃないか」
なびきも、一応はそれも伝えたんだろ?・・・と、俺があかねにそう聞くと、
「うん・・・。でも、今ちゃんと乱馬の口から聞くまで、半信半疑だった」
すると、あかねは意外な言葉を呟いた。
「何で半信半疑なんだよ」
俺が、あかねのその考え方が分らず首をかしげると、
「だって・・・乱馬はいつも逆の立場だから、こう言うの慣れてるって思ったんだもん」
「逆って、俺がいつも修行にいくからお前から離れるって事か?」
「うん・・・だから、今回留学する事になっても、乱馬にとってはいつもと逆になっただけだし・・・。乱馬にとってはたいした事無い事だろうって思った」
あかねが、ボソッとそう呟いた。

「・・・」

・・・ああ、だからあの時、『たいしたこと無い』なんて、俺に言ったのか。
俺のことをどうでもいいとか思っていたから、とかじゃないからなのか。
「・・・」
ようやくあかねの本心が分かり、俺はホッと胸を撫で下ろす。
でも、

「・・・でも、修行と留学じゃ、全然違うだろ。俺の修行は、そんなに長い期間じゃないし・・・」

そう。
ただ単に「修行に行く」と言って家を空けるのと、
海外に留学をしてしまうのとでは、
家を空ける、という行為は同じでも、時間も場所も、全然違う。
・・・俺がそんなことを思っていると、
「どうして?修行と変らないじゃない」
あかねが、俺に真っ向から反抗をした。
「変るだろ」
「変らないわよ」
「何でそう思うんだよ」
あかねにはその違いが分らないのか?ここに来て俺の考えが伝わらないのか?
俺が少し不安げにあかねにそう尋ねると、
次の瞬間、あかねは俺に、はっきりとした口調でこう言った。


「だって・・・留学って言ったって二週間だし」
「・・・は?」
「だから。短期留学だから、二週間だし。乱馬なんて、もっと長く修行とか戦いとかに行っちゃうじゃない・・・。長い間修行に行く事に慣れている乱馬にとっては、たいした事、無いかなって」
でも、あたしはこんなに一人でどこかに行くのは初めてだし、寂しい・・・。
あかねは最後にそう言って、俺にぎゅっと抱き付いた。
俺はそんなあかねの温もりを感じつつ、あかねの言葉がグルグルと頭を巡って、離れない。




・・・え?二週間?


たった二週間で、あかねは帰ってくるのか?
俺、てっきり「短期」とは言えども一年二年はかかるのかと思って・・・ええ!?




たった二週間の留学の為に、俺は未来の事まで一人、考えてたのか?
何だかそれって、無茶苦茶恥かしくないか・・・?
期間を知らなかったとはいえ、その二週間の為に俺は、
「寂しいって引き止めて、あかねの重みになりたくない」
とか考えて・・・?
・・・



・・・思い詰めて過ごしたここ数日の俺、何だか無性に恥かしい。
なびきの奴も、さぞかし「情けないわねえ」とか思ったことだろうに。

あ、もしかして。

なびきが言っていた、俺がしている三つの誤解の内の三つ目って・・・このことだったのか?!
だから、自分であかねに確かめろって・・・
そういえば。
さっき俺が、泣いているあかねに、
『・・・こんなに泣き虫じゃ、向うに行ったら困るだろ?それに、一年とか二年たって帰ってきても、まだこんな泣き虫だったら、笑われるぞ。みんなに』
って言った時、あかね、首を左右に振ったっけ。
あの時はてっきり、「困らない」って意味で振ったのかと思ったけれど、
そうじゃなくて実は、「一年も二年も留学なんてしない」って意味で首を振ったのか!
・・・

「・・・お前、何で俺に期間の事もちゃんと話してくれなかったんだよ」
俺が恥かしさを隠しつつもあかねにそう尋ねると、
「乱馬があたしに留学の事を聞いた時、ちゃんと言ったわよ」
「嘘つけ!俺、そんなの知らないぞ!」
「言ったのに、乱馬が聞いてなかったんじゃない。すぐにどっか行っちゃうし・・・」
「ったく、たった二週間なのに、おめーも弱音吐いてんじゃねえよ」
「なによー。あたしはね、家族から二週間も離れて暮らすの初めてなのよっ。女の子は不安な時は、何かパワーを欲しくなるものなのよっ」
「そ、そりゃそうだけど、大袈裟な奴」
「あたしが寂しくなる理由の半分は、乱馬のせいでしょっ。自分だって寂しがったくせに!」
あかねは、「もう!」と、俺の耳元でそうぼやいた。
俺は、ただ呆然とするばかりだ。



・・・そういえば。
あの日あかねと話していたとき、俺は「あかねがいなくなってしまう」とそればかり考えていて、
あかねが脇で何かを言っていたような気がするけれど、全然耳に入ってこなかったっけ。
ああ、あの時、「期間は二週間でね・・・」と、俺に説明してくれてたのか。
そ、それじゃ俺、一人で熱くなって一人で余計な事して、事態をややこしくしたって事か?

「・・・」

俺が更に恥かしさに包まれて黙り込んでいると、
「でも・・・話が来た時点で、乱馬にちゃんと、話せばよかったね」
あかねが、俺に抱きつきながら不意にそう呟いた。
「そ、そうだぞ。それも悪い」
俺が自分の不甲斐無さと恥かしさを隠すように、あかねにそう言ってやると、
「うん・・・たいした事ないって思ったことでも、 乱馬にとってはくだらない事かなあって思うことでも、それはあくまであたし、の判断なんだよね。 これからはちゃんと、勝手に判断しないで、乱馬に話すね・・・」
あかねはそう言って、俺の頬に擦り寄るように顔を寄せた。
「・・・絶対だぞ」
俺もあかねに擦り寄るように頬を寄せると、
「その代り」
「な、何だよ」
「乱馬も、ちゃんと最後まで、あたしの話、聞いてよね」
「わ、分ったよ」
「あとね・・・」
あかねは、自分が飲んだ条件よりも多く俺に条件を提示すると、
「・・・離れたくないって思っているのはあたしも一緒」
そう言って、軽く目を閉じた。
「・・・」
俺はその言葉にしっかりと頷くと、目を閉じたあかねのその瞼に、軽くキスをした。
あかねは嬉しそうに微笑みながら目を開けると、
「・・・ねえ、一緒に寝てもいい?」
この部屋に来た時と同じ質問を、俺にした。
「当たり前だろ」
俺は、今度は何の躊躇も無くそう答えると、
「明日は早く、寝るんだろ?」
「うん」
「じゃあ、今日は遅くまで平気だよな?」
「・・・明日、デートなんでしょ?」
「断ってきた」
「そうなんだ・・・。じゃあ、平気」
嬉しそうに答えたあかねの身体を、ゆっくりと蒲団に寝かせた。
そして、自分もその横に寝転ぶと、
「・・・予定、立ててくれたんだろ?」
「え?で、でも・・・あの後ね、パンフレット、破って捨てちゃったの・・・」
「パンフレットなんて無くたって、行けばどうにかなるだろ」
「うん、それはそうだけど・・・いいの?」
「いいに決まってんだろ。だって、一緒に寝るだけじゃ、パワーチャージできねえんだろ?」
寂しすぎて、向こうで浮気なんてされたら困るしな・・・と、俺はおどけた口調でそう言ってやった。
「二週間でそんなことするわけ無いでしょ」
あかねは、「ばかね」と俺のことを笑うけれど、
「そんなの、分らないだろ。いいか、それを事前に予防する為にも、まず外国人の挨拶は全て拒め!キスなんてもっての他だぞ!」
・・・俺に関しては至って真剣なわけで。
二人に心の距離が無い事がわかった今、心配なのはただ一つ。
無防備すぎるあかねの身のみ。

「何で、挨拶を拒まなくちゃいけないのよ。向うはね、抱きついてキスすることなんて日常茶飯事なのよ?」
「だー!そんな考えが、気持ちの緩みを呼ぶんだぞ!いいか、指一本でも触れてきたら、立ち上がれなくなるまで叩きのめせ!」
「あんたねえ・・・」
「キスは、俺だけの特権なの!」
蒲団に横になり、手を繋ぎながら。
俺は自分でもわかっているけれど、無茶苦茶な事をあかねに言って聞かせていた。

外国に行くんだから、外国人と挨拶をするなって事の方が無茶な話なんだけど、
でも、なあ・・・なんて。俺はそんなことを考えては、あかねを散々困らせていた。
・・・結局。
俺の勘違いのせいで、物事が随分とややこしくなってしまった今回の事だったけれど、
どうにか丸く収まって、事なきを得た。
なびきが言う通り、素直にあかねとちゃんと話していればこんなことにならなかったし、
人の話をちゃんと聞いていれば、ここまでややこしくなる事は無かった。
シャンプーとムースにも迷惑は掛けてしまったけれど・・・まあそこは許してもらう事にして。
・・・心の距離も近いまま、そして、俺達が口に出して確認しあっていた、思い描いた未来。
それは、そんな簡単には消える事は無いんだ。
色々と紆余曲折はしたけれど、それを改めて確認しあえた事。
それが出来ただけでも俺達、少しは成長したのかな。そんなことを、思った。




「なあ」
「・・・なあに?」
「俺、いつも俺が修行に行くって言う時のお前の気持ち、何だかわかったような気がする」
「遅いのよ、今頃」
「ちぇっ。でも、これで分った。すげえ寂しいんだな、待ってるほうは。
  それを微塵も感じさせないように、 今度からは、俺、頑張るから。俺を忘れないようにしてやるからな」
「・・・そう言う事は分からなくていいのよ。頑張る事が違うでしょっ」



最後にあかねに頭を拳で殴られてから、明日のデートに備えて、俺達は眠る事にした。
その日の俺達は、しっかりと抱き合うようにして眠りについた。
更に、眠いっていても、手だけはぎゅっと繋いで離さない。
それは故意にそうしようとしてしていたわけではなく、
それこそ、どちらもお互いがその手を離さない、といったところだろうか。
そう、それはまるで、離れているかも・・・なんて不安だった心の距離が、決してそうではなかったのと分ったのを、目で見えるように実証するかのように。













三月十五日、早朝。
まだ朝もやのかかるアスファルトの道を、俺とあかねは歩いていた。
俺の手には、あかねの二週間分の荷物が入ったトランクがある。
あかねはこれから一人、空港に向かう訳で、俺は家族を代表して一人、その見送りにやって来たわけだ。
とは言っても、大荷物を持ったまま電車に乗るのは大変・・・と、学校側もそれを理解しているのか、空港行きのリムジンバスを、駅の近くへと手配してくれたようだ。
俺は、そのリムジンバスがやってくる場所まで、あかねの見送り兼、荷物持ち。

「いいか?とにかく、外人からの挨拶は全て拒め。油断大敵なんだからな!」
「まだ言ってる」
「俺は何度でも言うぞ!」
「もー」

出発当日になっても、まだ訳のわからない事を言ってはあかねを困らせている俺に、あかねもやれやれ、と苦笑いをするばかりだ。
「リムジンバス、何時だっけ?」
俺は、一通りあかねに「注意事項」と「男が言い寄ってきたら」の対処法を話して聞かせた後、あかねに尋ねる。
「五時半・・・もう少しで来るかな」
あかねは腕時計を見つめながらそう呟いた。
時刻は現在、五時二十五分。あと、五分ほどだ。
「・・・ホントに、気をつけろよな」
俺は、運んできたトランクを地面に置き、きゅっと、あかねの手を握った。
「うん。行ってくるね」
細く白く、華奢な指が、俺の手をしっかりと握り返す。
「天道家は、時差なんて関係ねえからな。いつでも電話しろよな」
「うん」
「お前、寝相悪いんだから、寝るときは蒲団はいでも風邪ひかないように、厚着をしろ」
「うん。もう、乱馬ったらお父さんみたいよ」
あかねは、妙に細かい所まで心配する俺におかしそうに笑って見せるけれど、
「お父さんじゃねえよ、許婚だろ」
俺は至って大真面目でそう答える。
「うん」
あかねは嬉しそうにそう返事をすると、ちょっとあたりを見回し、少し顔を上げるような形で目を閉じる。
俺も素早くあたりを見回して、あたりに誰もいないことを確認すると、
少し身を屈めて、目を閉じたあかねの唇に軽く、キスをする。
一回離れて、今度はもう一回、ちょっと長めのキスをした。

「・・・」
あかねが、ゆっくりと目を開ける。

「・・・続きは二週間後」
「うん」
「・・・あと。俺も、時差なんて関係ねえから。帰ってきたら、大変だからな」
俺があかねの耳元でそう囁くと、
「・・・うん」
あかねが、ちょっと恥かしそうに頬を赤らめながらも、微笑みながら頷いた。
俺もそんなあかねに対し、自然に笑みがこぼれる。

俺達の笑顔には、もう離れていく事の不安など微塵も感じられない。
まあ、たった二週間だから、日数的にはあっという間に過ぎてしまうだろうとは思うけれど。
でも、送り出す俺も旅立つあかねも、帰ってくる場所、迎え入れる場所をちゃんと理解しているがゆえに、
こうやって旅立つ寸前の今も、笑っていられるのだろうって、思った。
「行ってらっしゃい」
そうやって送り出して、
「ただいま」
・・・当たり前のようにそうやって帰ってきて、そしてまた、いつものように生活をしていく。
思い描いたたくさんの未来の、ほんの一ページ。
特別な出来事、物語で言うと「番外編」とかそう言うのではなくずっと一緒に歩いていく未来の、ほんの途中の一
ページの出来事として、このことを過ごせると、二人で分っているからこそ。
・・・

・・・そして。
その直後、
モヤを掻き分けるようにヘッドライトを光らせながら登場したリムジンバスに、俺はあかねを無事に乗せて、車が見えなくなるまで、見送った。
あかねと会えない間は寂しいと思うけれど、こうして笑顔で、後腐れなくあかねを見送ってやる事が出来てよかったと、俺は心から思っていた。
それに。
・・・二週間後、帰ってくる、あかね。
二週間たったら、帰ってくる、あかね。
その時、あかねが喜ぶような何かをしてやれればいいんだけどな。
一体何をしたらあかねは喜ぶか・・・って。

「・・・」

何かこれ、俺が修行から帰ってきた夜に、
あかねが「こんな事考えてたんだよ」なんて・・・俺にいつも話してる言葉と同じじゃねえか?もしかして。

「・・・さて、何をして喜ばせてやろうか。驚かせた方がいいのか?」

たった今あかねを見送ったばかりだというのに、既に俺の頭は、二週間後に帰ってきたあかねの笑顔で一杯だ。



たった二週間だけど、二週間、という未来の俺の隣には、やっぱりあかねの姿がある。
To Heart。心が離れれば、Two Heart。
大丈夫、きっと今の二人は・・・自信を持って、To Heart。
そう信じていられる幸せを胸に一杯感じつつ、俺は一人、朝もやの道を家に向かって歩いて行った。

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