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愛し君へ3

家に帰る気になれない俺は、その後たまたま出前帰りだったシャンプーに見つかり、そのまま猫飯店へと連れて行かれた。
そして、
「乱馬!好きなだけ食べるよろし!」
早々と店じまいした事もあり、隣に座ったシャンプーに、夕飯代わりのラーメンを食べさせられている。
普段なら、

「離れろよ!自分で食えるよ、ラーメンくらいっ」
「愛し合うものたち仲良く食事する、これ当たり前の事ね!」

必要以上にべったりとくっついてくるシャンプーを引き離そうとする俺だけれど、今日に至ってはその行為すらも忘れて、ただボーっと、口を動かしている。
ラーメンを食べているのに、何だかゴムを噛んでいるような感覚。
腹も満たされなければ、味も感じない。
気持ちが満たされないと、大好物さえも美味いと感じる事が出来ないんだなあ。
・・・

「乱馬、私、今日は大サービスで肉まんも作るね!」
「・・・ああ」
「そうだ、乱馬、今週末暇あるか!?私、お客さんから映画のチケットを・・・」
「・・・ああ」

横で、俺に必死に話し掛けては身体を摺り寄せてくるシャンプーの話など、まるで耳に入ってこない。
いやそれどころか、擦り寄られた所でその感触も何も感じない。
とりあえず適当に相槌は打ってはみるけれど、俺の頭の中は、先ほどのあかねとの事で一杯だった。



たいした事ないって、何だよあかね。
お前が留学して俺の前からいなくなることが、お前にとっては全然たいした事、ないことなのかよ。
留学を反対しているんじゃねえよ。
その事をすぐに話してくれなかったことに、俺は頭にきてるんだよ。
それなのに・・・



「・・・」

先ほどのあかねの口調や仕草を思い出し、俺は再び胸を疼かせる。

他の家族に発表するのと同じ感覚なのか。
ただの同居人じゃなくて、許婚で恋人で。
少なくても、ずっと一緒にいようと・・・若いながらも約束した俺達であっても、大切な事を話すのは、他の家族と一緒ってことかよ。
家族が大事なのは俺も一緒だけど、
でも、それでもさ・・・

「・・・」

それはねえよ、あかね。
俺は、自然とため息をつく。
・・・こんなことが無くて、ちゃんとあかねから話を聞かせてくれていたのなら、もっと笑顔で、心からあかねの夢を応援してあげたい。
そりゃ寂しくて、どうしようもねえけど、
絶対にまた家に帰ってくる・・・それが分っているから、留学から帰ってきたあかねをちゃんと迎えようって、思える。
でもそれもこれも、あかねとの関係がちゃんと形成されていて、どんなに離れていても寂しくても、お互いの事を信じていられるって言う、見えない「絆」があるから出来る事。
こんな風に、

「何で話してくれなかったんだ」
「だって、たいしたことないと思ったから・・・」

・・・そんな、お互いの心がすれ違った状態で、俺は笑顔で送り出してやるなんて事、出来ない。

行かせたくねよ。嫌だよ、あかね。

・・・そんな風に、あかねを困らせてしまいそうで、一番応援してやらなくちゃいけないのに、それが出来なくなりそうで、怖い。


「・・・」

俺は、とうとうラーメンを口に入れるのも拒むように、ため息をついた。
「乱馬、どうしたあるか?」
いつもとは違う様子の俺に、さすがのシャンプーも心配そうに声をかけるけれど、
「何でもねえよ」
シャンプーに話したところで、この問題が解決するわけもない。
俺は特にシャンプーには何も言わず、そのまま席を立つ。
「俺、帰る。ごちそうさん」
そして、そろそろ帰らないと、いい加減他の家族に怪しまれる・・・と、猫飯店を出ようとしたが、
「乱馬、また来るよろしぞ!あと、日曜日の約束、忘れてはダメあるぞ!」
「へ?約束?」
去り際にシャンプーが妙なことを言うので、思わず立ち止まる。
「俺、何か約束したっけ?」
約束なんて心当たりが無い俺が、シャンプーに聞き返すと、
「さっき、私が『今週末に映画を観に行こう』って誘ったらOKしたあるぞ、乱馬」
「え、そ、そうだっけ・・・?」
「そうある。OKしたからにはちゃんと、行ってもらうあるぞ!乱馬。日曜日の十四日、十時に公園で待ち合わせある!」
シャンプーはそう言って、俺に映画のチケットを握らせた。
十四日といったら、言わずと知れた三月十四日。
その日は一ヶ月前にあかねと、「デートしよう」と話していた日だ。
「ごめんシャンプー。悪いけどその日は・・・」
俺はシャンプーにチケットをそのまま返そうとしたけれど、何故か・・・その言葉が口からすんなりと出てこない。

・・・あかねとの約束。

日にちだけは決めていたけれど、ここ最近の事もあって、時間とか待ち合わせ場所とか全然話してない。
あまつさえ、今日、こんな風に口喧嘩というか気持ちのすれ違いというか温度の差がはっきりした俺達なのに、一ヶ月前にとりあえず形だけ「約束」したデートを、することなんて出来るのか。
それに、

「・・・」

・・・いなくなっちまうのに。

楽しい時間を過ごせば過ごす程、きっと俺はあかねを遠くに行かせたくなる。
一緒にデートなんてすれば楽しくてしょうがなくて、離れたくなくなるに決まってる。今までがそうだったんだから、今回だってそうに決まってる。
しかも、このデートが終われば遠くに行ってしまうことが分っているのに。
離したくないって思うのなんて目に見えてる。

「・・・」

・・・それだったらいっそのこと、あかねが出発するまで、極力彼女の側にいないほうがいいんだろうか。
俺は、そんなことを考えた。
あかねが俺を避けていたように、俺もあかねを避けていれば・・・?
「・・・」
言い様の無い寂しさが先行し、俺はそんなことまで考える。
「・・・分った。十時に公園な」
「約束あるぞ!あいやー、私、洋服新調しなくては!」
俺は喜んでいるシャンプーにそう言って、猫飯店を出た。
・・・あかねが出発まで、今日をいれると後五日。
その内二日は土日だし、家に居る機会も多い。
学校ならば、友達と一緒に居ればいい。
でも家は・・・

「・・・」

修行精を出す、とかいって道場にずっと居ればいいのか。
いや、夜のランニングとか言って走りに出たりすればいいのか。
それで、最後の十四日はシャンプーと映画だけ見て別れて、夜まで時間を潰していれば・・・
「・・・」
俺は、そんなことを考えながら、ぽつぽつと家路につく。
でも、そんなことを考えれば考えるほど、
そんなことをしなければ、あかねを送り出してやることが出来ない自分が情けなくて仕方が無い。
・・・あかねの夢を応援してないわけじゃねえよ。
良かったな、頑張って来いよ。
そんな言葉と気持ちで、誰よりも応援してやらなくちゃいけない俺なのに。

「・・・」
どうしてだ。
分っていれば分っているほど、どうにもならない虚無感が、胸に生まれるのは。

「・・・」

俺は、歩きながらふと、空を見上げた。
空には、悔しくくらい綺麗な三日月と、暗闇を埋め尽くす星が輝いている。



・・・一週間後とか、一ヵ月後とか。
今から帰る家にあかねがいるのとは違って、
俺がこうやって見上げている空の、遥か遠い先に、あかねは行ってしまってるんだなあ。
俺はふと、空を見上げながらそんなことを思った。
・・・昔。
誰かが、
「地球は丸いんだ。空はどこまでも繋がっているんだよ。だから、どんなに離れていても同じ空の下に、誰もが居るんだよ」
・・・そんなことを言っていたのを聞いた事がある。
でも、

「・・・」

今の俺には、そんな言葉はただの綺麗事。
全然心に染みることの無い美辞麗句としか思うことが出来ない。
例え空が繋がっていたって、俺の隣にはあかねはいないじゃないか。
まるで、子どもみたいな事を、俺は思う。
信じていれば、距離なんて感じない・・・そんなのは嘘だ。俺は思った。
信じていたって、待っていたって、
隣にいるのといないのと、手を伸ばせば触れられるのと触れられないのとでは全然違う。
好きであればある程、相手がいなくなった時の虚無感と寂しさが、好きな気持ちの分だけダイレクトに返ってくる。

「ああ、遠くに行ってしまうのか。頑張れよ」

そんな言葉で簡単に済ませて、送って上げられるほど、俺の心の中ではあかねの存在は、小さくない。
思い描いていた未来にすべて、俺の隣にあかねの姿を見ていたくらいに、絶対に俺には必要な人だと、俺にはそうわかっているからこそ。
「・・・」
夢を応援して送り出してあげたい気持ちと、どうしても側にいて欲しい、離れたくない気持ちと。
・・・不意にそれを整理つけなくてはいけないこの状況に、俺はどうする事も出来ないまま、ため息をついた。





ガラガラ・・・
それから、十分後。
俺は、控えめに玄関のドアをあけ家の中へと入った。
幸いな事に、他の家族は誰一人俺の帰宅に気が付いていないらしい。
俺がすこしホッとしながら、靴を脱いで家の中にあがった、その時だった。
「乱馬、おかえり・・・」
不意に、階段の上でそんな声がした。

一番聞きたくて、でも聞きたくない声。

俺がはっと階段へと顔を向けると、
「どこいってたの?ご飯、もう終わっちゃったよ・・・」
俺の帰りを、階段のところで待っていたのだろうか。
あかねが、そんなことを言いながら階段を駆け下りてきた。
少し心配そうなその表情と口調に俺は一瞬胸を痛めるも、
「・・・どこだっていいだろ」
何となくあかねへの態度のとり方が分らなくて、俺はついついキツイ口調になる。
そして、そのままあかねを無視して自分の部屋の方に行こうとするも、
「ら、乱馬!ねえ・・・あの、十四日の話なんだけど!」
あかねは、そんな俺の腕を慌てて掴んで、自分の元に引き寄せた。

「・・・」

・・・十四日。
あかねが留学する前日。
・・・あかねを引き止めてしまいそうな自分を見せたくなくて、俺がシャンプーとわざわざ約束をした、日。
俺がそんなことを思いながらあかねに目をやると、
「ねえ、十四日、どこで待ち合わせする?日曜日だし、少し早めに・・・」
あかねはそんなことを言いながら、楽しそうに俺に話をする。
「・・・」
俺はそんなあかねの、俺を掴んでいる手をそっと外すと、
「悪いけどその日、俺・・・用事があるから」
そう言って、あかねに背を向けた。
「用事って・・・?だって、一ヶ月前からあたしと約束をしてたじゃない!」
あかねにしてみれば、それは予想もしないこと。
なので、そんな俺の前に回り込むようにして再び俺の腕を、今度は両手で掴むも、
「用事は用事だ、仕方ないだろ」
・・・本当は、無理やり決めてきた、不本意なデート。
それは告げずに、俺はわざと不機嫌そうな表情を装いあかねに告げる。
ここで弱い表情を見せたら、
あかねを行かせたくない、寂しくて仕方がない・・・そんな弱くて情けない自分が露見してしまうような気がしたからだ。
せめて、あかねの前では気丈で・・・「たいしたことない」と思ったあかねの気持ちを考えても、
妙な心配をさせないようにしないと。
「どうして?!何であたしと約束していたのに、その日にわざわざ用事を・・・」
「仕方ないだろ。それに、時間とか待ち合わせ場所とか決めてなかったし、お前も忙しそうだし」
俺は、淡々とした口調であかねにそう話す。
「忙しくなんて・・・あたし、そんなっ・・・」
「留学の準備で忙しいんだろ?前日なんだし。俺に気なんて使わなくていいから、準備勧めろよ」
「乱馬っ・・・」
「準備の邪魔したら悪いし・・・とにかく、十四日はそう言うことだから」
そして、一方的にそう言いきってあかねの手を振りほどこうとした。
すると・・・

「・・・なんで?」

俺の腕を掴んでいたあかねが、俺がその手を振りほどくよりも早く、手を離した。
そして、
「なんで?何で急にそんな事、言うの?」
あかねはそう言って、ふっと、顔を伏せた。
「・・・何で急に冷たくなるの?」
顔を伏せたあかねが、俺が耳を澄まさないと聞こえないような小さな声で、そう呟く。
そして、目のあたりを甲で拭うような素振を見せた。
それと同時に、ボタッ・・・と大きな水滴が、床へと染みを作る。
「あ・・・」
・・・たとえ二人の関係がギクシャクしているとはいえ、あかねのこんな姿を見ると、他のどんな事よりも一番、ズキっと胸が軋む。

「冷たくなんてしてねえよ」

それは、嘘だ。
でも、俺は自分でそうわかっているのに、自分の身を取り繕うかのようにそう呟きながら、俯いたあかねの頬を濡らす涙を手で拭ってやる。
「そんなに・・・あたしが留学するのが、嫌なの。そんなに、気にいらないの・・・」
あかねが、小さな声でそう呟く。
「違うって言ってるだろ」
「嘘!じゃあ何で、ずっと約束していたの、破るの!?」
「だ、だから用事が・・・」
「そんなにその用事が大事なの?あたしとの約束を破ってでもしなくちゃいけない用事なの?」
手で拭うだけでは止める事が出来ず、俺の手もぐっしょりと濡らすほど涙をこぼしながら、あかねが俺に問う。
そのあかねの問に、俺は何も答えることができなかった。



・・・用事は無理やり作ったものだし、留学する事が気に食わないわけではない。
留学する事が気に食わなくてこんな態度を取っているのではなく、
それを応援したいから・・・ちゃんと送り出してやらなくてはいけないから、
自分の気持ちに整理をつけるために、こんな態度を取っている・・・俺の本心はそうだけれど、
何だかそれを素直に言えば、
「俺、お前がいなくなると寂しくて仕方がないんだ」
それを大見得切って言っているような気がして、恥かしくて情けなく思えてしまう。
あかねだってそんな情けない男は嫌だろう・・・俺は勝手にそう思い込み、
「とにかく。お前は余計な事考えなくていいから、出発の事だけ考えてろよ。
  向う行ったら、大変なんだろ?何でも自分でやらなくちゃいけないんだから」
俺はあかねの頬を伝う涙を何度も拭ってやると、やっぱり自分の感情を抑えるようにして淡々と、そう答えた。
すると。

「・・・」
あかねが、涙で顔を歪めたまま、顔を上げた。

・・・俯いているのを覗き込むのとは違い、電気がついた明るい空間で、改めて見るあかねの泣き顔。
白い肌が、涙のせいでぼーっと紅潮している。
普段はふっくらとした艶やかな唇が、ふるふると微かに震えていた。
くるん、と長くて人形のような睫毛が、涙で黒く光っている。
一応は涙をこらえようとしているのか、歯を食いしばった素振も見せるけれど、どうにもこうにも止まらないのか、口から小さな声を洩らしながら、あかねは泣いていた。
頬を拭った手が思わずビクッと震える。
感情を押し込めているはずの身体が、竦んだ。



・・・俺、何コイツを泣かせてるんだろう・・・。
いまだかつて、目の前でこんな風にあかねを泣かせた事はあっただろうか・・・。
感情を抑えて自分に抑制をかけているはずなのに、それが一瞬で吹き飛んでしまうほど、身体と心が震えた。
「・・・楽しみにしてたのに・・・」
「え?」
「ずっとずっと、楽しみにしてたのにっ・・・。何でそれが、余計なことなの?」
あかねがそう言って、再び涙を流した。
「忙しくなんて無いのにっ・・・余計なことなんかじゃないのにっ・・・一緒に出かけて遊ぶつもりで、色々情報だって
集めたのに・・・」
何でそんなこと、言うの?あかねはそう言って、一瞬目を閉じた。
ツツツ・・・と熱い涙が瞳から溢れ出る。
「そんなに、あたしが留学したらだめなの・・・」
「そうじゃねえよ!」
「そう言ってるのと同じじゃない!じゃあ何で、あたしの留学が決まったら急に冷たくなるの? 乱馬なら、あたしのこと分ってくれてると思ったのに・・・」
あかねが再び、目を開けた。
ウサギみたいな真っ赤な目で、俺のことを悲しそうな表情でみる。

「・・・」

・・・息苦しい。
俺は、コイツにこんな顔をさせて、一体何をやってるんだ?
再び激しい後悔が俺を襲う。


「・・・あたしが留学をやめたら、乱馬はまた優しくなってくれる・・・?」


と、激しく堰を切ったように泣きながら、あかねがそんなことを呟いた。
その言葉に、俺は今度は別の衝撃を受ける。
「・・・」
それだけは、避けさせなければいけない。
俺のこんなつまらないヤキモチとか寂しさで、彼女の夢まで束縛してしまう事は、絶対にあってはならないこと
だ。
それが怖くて、こうやって突き放すような態度やや行動を取ったのに、これでは悪循環だ。
「・・・そんな簡単に夢、諦めんじゃねえよ」
「じゃあどうしたらいいのよ!」
「そんなの自分で考えろよっ・・・」



・・・でも。
俺はあかねに何かアドバイスをするどころか・・・逃げた。
寂しい。手離したくない。でも、行かせてやりたい、応援してやりたい。
そんな思いが胸の中にあるのは、わかる。
でも、あかねと俺の間に距離があることが分ってしまったら、
今は俺が自分の気持ちを抑えるしかないわけで。
その為にも、必要以上にあかねを突き放していないと、どうしてもあかねを前に、進めてやれないような気がする。
そんなの、絶対に良くない。
たとえ、あかねが俺の態度によって泣き出してしまっても・・・俺がそれに動揺して、あかねに自分のエゴを押し付
けてはいけないんだ。
いけないんだよ、絶対・・・
・・・



「そんなの、そんなのわかんないっ・・・」
俺がそんなことを考えていると、案の定、こんな風に無責任に斬り捨てたられたあかねは、困ったような顔で再び
激しく泣き出した。
その姿が、胸に、目に焼きつく。目を閉じたって、瞳の奥に鮮明に映し出されている。
でも・・・ここで俺が優しくしたら、あかねの為にはならない。俺は、揺らぎそうな決意に叱責すると、
「・・・そんな簡単に諦めちまうくらいなら、最初から行くなんていうんじゃねえよ!行きたいから、引き受けたんだろ?代表なんだろ?簡単に諦めるなんて言ったら、喜んでくれた人たちにも、他に行きたかったかもしれない人にも失礼だろ」
どうにかしてあかねを思いとどまらせようと、そう、言った。
「・・・」
あかねは何も言わずに、泣きじゃくっていた。
「ここで諦めちまったら、お前らしくねえだろ」
俺は必死にあかねを思いとどまらせるべく声をかけ続けるも、あかねの涙は止まる事は無い。


「・・・」
・・・覚悟はしていても、言い知れぬ罪悪感が、全身に駆け抜ける。


「・・・」
でも、とにかく、泣き止ませなければ。
留学を止めるなんて、思わせないようにしなくちゃ。
そんな夢を奪うような重みの男でいては、あかねの為にも良くない。
俺は、泣いているあかねの身体をそっと自分のほうへと抱き寄せた。
必死に泣き止ませようと、抱き寄せたあかねの頭を優しく撫でてやるも、
「・・・」
あかねは、泣きながら俺の胸を手で押し返した。
触るな、ということだろうか。
俺が、突き放された状態のままあかねをじっと見つめていると、
「・・・わかった」
あかねは、涙で曇った声で小さくそう呟くと、涙を手の甲で何度も拭いながら、俺に背を向けた。
そして、そのまま二階の階段を上っていってしまった。
バタン、と部屋のドアが閉じる音がする。

「・・・」
・・・部屋で一人で泣いてるのか。そう思うと更に心苦しいけれど、
俺から離れて二階に行った所をみても、このまま俺が部屋まで追っていかないほうが良さそうな事ぐらいは、予想が出来る。



何で、こんな風になるんだ。
元はといえば、あかねが俺にちゃんと話してくれなかったからじゃないか。
「たいした事ないって思ったから」
そのことで、俺達の間に距離があるって、わかったからじゃないか。
夢を応援しなくちゃいけないって分ってるから、どうにかして自分勝手な寂しさを抑えなくちゃって、こういう態度を取ったのに、
・・・あんな風に泣かれてしまったら、これからどうしたら言いか、全然分からないじゃないか。
・・・
俺は、自分の行為をどうにかして正当化しようと、そして元はといえば・・・なんて、半分はあかねのせいにしよう
とそんなことを自分に言い聞かせる。
でも、
「・・・」
『たいした事ないと思ったの』
その言葉以上に、
『あたしが留学をやめたら、乱馬はまた優しくなってくれる・・・?』
今度は、さっきあかねが言ったその言葉が、耳から離れない。
・・・そんなことを言わせてしまうなんて、俺、最低だ。

「・・・」

とにかく、あかねにはしっかり留学してもらわないといけない。
俺の優しさでその夢が左右されるのなら、俺が自分の気持ちを抑えられる程度に、あかねに接していれば何とか出
発までは大丈夫なのか・・・。
・・・



一週間ぶりに抱きしめたあかねの華奢な身体。
その温もりだけが、妙に手の中に残りその存在を際立たせる。
あんなにこの温もりを欲しがっていたのに、今はそれが何故、すんなりと俺の中に溶け込んでこないのか。
・・・
複雑な想いを胸に、俺はいつまでもその場で立ちすくんでいた。

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