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ユメノツヅキ1

果たしてそれは、「現実」なのか。
それともただの、「夢」なのか。
見果てぬ夢の、その先にあるもの。
…それがあたしを、いつもいつも悩ませる。
見なくても済むのなら、そうでありたい、その「夢」。
でも、決して、「望んで」見ているわけではないその「夢」は…今夜も、あたしを誘い いざない に来る。
見果てぬ夢の、その先へ。
永遠に繰り返されている、その「夢の続き」の世界へと。






「かわいくねえ色気がねえっ」
「何よっ乱馬のバカッ」
…付き合い始める前も、付き合い始めても。
あたしと乱馬の、こんな口喧嘩は絶えることは無い。
喧嘩しては、些細な事で仲直り。
でも、また些細な事で喧嘩して…と、何度もそれの繰り返しだ。
でも、この「何度も繰り返す」喧嘩が、あたしには別に嫌というわけではなかった。

変な話だけど、
こうやって自由奔放に、言いたい放題相手と思いっきりぶつかる事が、出来ること。
そしてその相手が、自分ではなく「他の」誰か。
そしてその「他の」誰かが、自分の彼だということ。
自分の本当の部分を見せても、それでも彼が、自分を好きでいてくれること。
…実はそれが、とても幸せな事であるという事。
あたしは、乱馬とちゃんと付き合い始めたことでようやく、それを知った。
だから、どんなに酷い事をなじられたって、腹がたったって。
仲直りをしてしまえば、そうやって怒っていた事は直ぐに忘れてしまう。
そして、忘れてしまった後は、また喧嘩をするその時までずっと、ずっと、乱馬の横にいる。

そう。
きっとそこが…今のあたしの、居場所。
あたしが「あたし」でいられる…本当の「居場所」なんだ、と。
あたしは、いつしかそう思うようになった。
でも。
そうやってあたしが、自分の「居場所」を感じるようになったのと同じぐらいの頃だろうか。
乱馬の隣にいて幸せなはずのあたしは、
なぜか、それとは相反するような「夢」を見るようになった。
喧嘩をして、その後ちゃんと、仲直りをして。
そんな日は、決まって一緒に寝る。
なのに…あたしは「夢」を見る。
そう、決まって同じ、「あの日の夢」を。



…それは、今から少し前の、「あの日」。
あたしとなびきお姉ちゃんのつまらない喧嘩から事を発し、
ついには、あたしとなびきお姉ちゃんで、乱馬との「許婚交代」にまで発展、それが確定した「あの日」の朝の夢。
それは、許婚交代が完全に確定してしまった朝の、風景だった。
…朝一緒に学校へ行く時も。
いつもの見慣れたフェンス沿いの道を歩く時も、
そしてみんなで一緒にご飯を食べる時も。
その日の朝までは、乱馬の隣には絶対に「あたし」が並んでいる。
「乱馬」と「あかね」…二人が並んでいつもいる、それが当たり前のはずだった。
あたしも、ううん、それはあたしだけじゃなくて、他の皆もそう思っていたはずだ。
…なのに。

「はい、乱馬くん。あーんして」

…些細な喧嘩がこじれにこじれ、乱馬はあたしではなくて、いとも簡単になびきお姉ちゃんの許婚になってしまった。
「許婚のなびき、学校に行くぞ」
なんて。
あたしの目の前で、乱馬の奴、なびきお姉ちゃんの手を取って学校に行ってしまった。
…あたしと許婚だった時には、そんな風に手なんて繋いでくれたこともないくせに。

そんな二人が歩いていく後ろ姿を眺めながら歩いている道は、何だか気持ち悪くなるぐらい、胸がモヤモヤとしていた。
そして、
…なんで?なんでこんなことになったのだろう。

あたしは、そればかり考えていた。
こんなの、こんなの嫌だ。
嫌なのに…どうしてなのだろう?
頭や心では強くそう思っているのに、その言葉がどうしても、素直にあたしの口から出ない。
そうでなくたって。
なびきお姉ちゃんの手を引っ張って歩く乱馬の後ろ姿は、何だかあたしが知っている乱馬とは、全く別人に見えていた。
「あの人は、お姉ちゃんの許婚」
…そう思えば、尚更だ。

ホントに?
ほんとにいいの?
乱馬が、なびきお姉ちゃんの許婚になってしまっても。
あたしはホントに…いいの?

…二人が、やがて正式に祝言を挙げて。
夫婦になって。
…夫婦になるってことはもちろん、キスしたり普通に…

「!」
あたしは、思わずギュと目をつぶって、手に握っているカバンの取っ手を更に力を入れて握り締めていた。
…息が、詰まる。
こんな事を考えて、あたしはこれからずっと、ずっとあの二人を見ていなければいけないのか。
このままずっとこんな状態でいるくらいなら、このままあの二人がいる家に住んでいくくらいなら…どっかに消えてしまった方が楽。
「…」
あたしは、そんな事を思いながらいよいよ、立ち止まっていた。
…そんな事を考えて思いつめていれば、学校へ向かうその歩みも、徐々に重くなるのは当然だ。
「学校なんてサボってしまおうか」
…皆に呆れられるほど「真面目」なあたしが、そんな事を思うなんて。
そう、めったな事ではありえない。

でも…これが現実だ。
どんなに逃げようとも、どこへ行こうとも。
「乱馬はなびきお姉ちゃんの許婚」
その事実は、何処までだって、いつまでだって…きっとあたしを追いかけてくる。
そんなんじゃあたしは、世界中の何処へも…逃げる事はできない。
「…」
時折こみ上げそうになる涙を必死でこらえながら、あたしはぽつん、ぽつんと道を歩いていた。







「いやあ!…」
…と。
ここまで夢を見た所で、あたしはいつも、目を覚ます。

「はあっはあっ…」

慌てて飛び起きてみると、
そこはもちろん、いつものあたしの部屋。
枕もとの時計に目をやると、針は午前二時を指していた。
真夜中だった。
「…」
額に掻いた嫌な汗をぬぐいながらふと隣に目をやると、
悔しいぐらい気持ちよさそうな顔をして、そこには乱馬が眠っていた。
「…」
あたしは、そんな乱馬を起こさないようにしながら、床に無造作に脱ぎ捨てられていたパジャマを羽織ると、大きなため息をついた。
ため息というより、安堵の息だろうか。
とにかく、口では言い様のない安堵感が、今、あたしの身体全体を包んでいたことは確かだった。

…どうして今更、こんな夢を見るのだろう。
ここ最近、今月に入ると今日でもう、七度目だった。
それも決まって、乱馬と喧嘩をして仲直りをしたその夜に。
あたしは、必ずこの夢を、見る。

「何で…」

額に鈍く光る冷たい汗を手で拭いながら、あたしは、そればかりを考えていた。
…でも、考えた所で簡単に答えなんて出ない。
原因なんて、全く思いつかないのだ。
…喧嘩をして、仲直りをして。
そして、再び自分の「居場所」へあたしが戻ってくる。
何の不安を感じることも無いはずなのに。
なのに何であたしは…自分の「居場所」を失った、あの日の夢を見るのだろうか。
「…」
あたしは、そんな事を思いながらぎゅっ、と唇をかみ締めた。


…もしかしたら。
あたしは、「怖い」のだろうか。
こうも何度も同じ日の、同じ夢を見るのには、絶対に何か訳がある。
それを考えている内にあたしは、そんな結論にたどり着いた。

「怖い」。
あたしが抱えているその「怖さ」は、もしかしたら極端な「不安」から来る「怖さ」なんじゃないか。
あたしは、ふとそんな気がした。


片思いの時は、
相手が自分の事をどう思っているのか。
他に好きな人がいるかどうか。一体、誰が好きなのか。恋愛感情を、持って貰えているのだろうか。
…色々な場合を想定しては、そして色々な事を推測しては、そんな不安な気持ちに苛まれていた。
だから、両思いになればそんな不安も解消されるかな。
あたしは、安易にそんな風に思っていたはずだ。
でも、
両思いになったらなったで、今度はもっと、「不安」になった。
相手を独占したい気持ちが、強くなればなるほど。
それまで我慢できた、自分が見えない所での相手の行動まで気になったり。
ささいな言葉の端々を気にしたり。
相手を好きになればなる程、不安な気持ちも増していった。
もちろん、そんな「不安」なことだらけではなくて、付き合っているという事は、楽しい事だって多い。
幸せなのは、片思いの時に比べたら遥かに強い。
でも、あたしは…「幸せ」ではあるけれど、心から「楽しんで」は、いないのではないかと。
…ふと、そんな気がした。
片思いの時の、ちょっとした出来事で一喜一憂していたあの楽しさを。
気持ちの余裕が持てない今では、あたしは少し、忘れてしまっているような気もする。
そう、「余裕」だ。
きっと、今のあたしには…「余裕」がない。
乱馬の隣が「自分の居場所」。
そう思っていることで、「不安」を取り除こうとしている、あたし。
だから、その場所を誰かに奪われるのではないかって。
いつもいつも、気を張って頑張って…油断なんて出来ない状況へと自分を追い込んでいる気がする。
だから、その張り詰めた気持ちが自分を更に追い込んで…自分が一番恐れている事を、「夢」として形に表せ、あ
たしに見せるのではないか。
「…」
あたしは、そんな結論にたどり着いた。
…でも。
実際は、そんな風にあたしが気張ったり、思い込んだところで。
そんな「不安」や「怖さ」は消えるわけが無い。
恋をしている以上、
誰かを愛している以上、
…どんな形にせよ、「不安」や「怖さ」は、あたしの胸の中に共存していくのだ。
完璧な恋愛なんて無いように、完全なる「安心」なんて、存在しない。
どんなに愛し合っていても、幸せでも。
いつだってそれらと「不安」や「恐怖」は、背中合わせだ。


「…」

なまじ、過去に「許婚交代」なんて事件があったがだけに、あたしにとって、本当にそれらは紙一重だった。
だから、すぐに内面の弱さというか。
少しでも喧嘩したりしただけで、例えその後仲直りしたとしても、こんな夢を見てしまうのだろう。
…「許婚」というポジションに、あたしがずっといられるとは限らないという事。
そして、
人の気持ちはいつ、何時離れてしまうか分からないという事。
「…」
…許婚交代をした朝に見た、なびきおねえちゃんと乱馬の歩いていく後ろ姿は、今でもあたしの心には、嫌というくらい強く、そして深く焼きついていた。
その焼きついた「姿」が鮮明であればある程、
どんなに振り払おうとしたって、あたしの「不安」は掻きたてられるのだ。
自分の本当の気持ちや姿をぶつけて、喧嘩をしたりふざけあったりすることが出来る喜びと。
これ以上ないくらい大切にされて、愛される幸せ。
でも、その半面で必ず心のどこかに暗い影を残している、「再び乱馬が、自分から離れてしまう事があるのでは」という、「不安」「恐怖」。
危うい一線で、その二つはいつでもユラユラ、共存している。



…もしも。
またあんな風に、乱馬の許婚が、あたしからなびきお姉ちゃんに代わってしまう日がきたら。
その時あたしは、どうなるのだろう。
あたしは…あたしは、「あたし」でいられる?
夢で魘されるぐらい、
そして、「不安」な気持ちと必死で戦いながらも傍にいたいと。
そう思えるくらい、乱馬を好きになってしまったというのに。
人を愛する、そして愛される幸せを知ってしまったあたしが。
…もしもまた、些細な事でその人を、失ってしまったら?



「…」
…それを考えると、身体にゾワっとした感覚が走り抜ける。



…でも。
だめなんだ。
だからと言って、
「不安なの」「怖いの」「傍にいて欲しいの」…そんな風に、自分の弱い部分ばかり相手に救ってもらおうとするのは、だめなんだ。
そんなこと、あたしにももちろん分かっていた。
「あたしがこんなに好きなんだから、乱馬も好きでいて」
そんな風に、見返りを求めるばかりの愛情だけでは、絶対にダメなんだ。
…けど。

「…」
あたしは、大きなため息を一つ、ついた。

…けど、
そうやって見返りをもとめないと、ちっぽけで弱っちいあたしの心は、不安で押しつぶされてしまう…時もある。
信じる事だけでは、時には心が物足りない時がある事も、否定は出来ない。
そんな時は決まって、あたしは乱馬に求めてしまう。

『俺にはお前が必要なんだよ』

…そんなニュアンスの言葉を。
奥手な乱馬が、頼んだ所でめったに口に出してはくれないような言葉を。
そして…気持ちを。
口にしてくれないのなら、その代りずっと傍にいて。
…時々、そんなワガママな事を言ってしまう。


「…」
あたしは、そんなことを思いながら寝息を立てて寝ている乱馬の顔に目線を落とした。

…ねえ。
乱馬は、どうやってこんな「不安」と戦っているの?
それとも、そんな「不安」なんて感じることもないの?
そんなに「余裕」がある恋愛を、あたしとしているの?
「…」
あたしはそんなことを考えながら、眠いっている乱馬の唇にそっと自分の唇を重ねてみた。
柔らかい、感触。
でも、相手が「気が付いてない」時にするキスは、なんだかとても…冷たい。
意識と、唇の温度は比例するのかも、しれない。

「今度はちゃんと…起きている時にしようね」
眠っている乱馬のその唇に、もう一度だけあたしはキスをして、再び眠りについた。







「あかねちゃーん、あかねちゃーん」
…その翌日の朝の事。
かすみお姉ちゃんのそんな呼び声によってあたしが目を覚ました時には、
「あれ…?」
夜中には隣に寝ていたはずの乱馬の姿は、もうそこにはなかった。
おかしいな、と思ったあたしが、ふと枕もとの時計へ目をやると、
「え!?」
…時計の針は、八時五十分を差していた。
それは、いつもならとっくに教室の自分の席についている時間だ。
「やだッ…」
慌てて布団を跳ね除けて、あたしは学校へ行く支度をした。
そして、
「おねえちゃん。あたし…寝坊しちゃった…」
生まれて初めてのそんな状況に驚きつつ、階下で声を掛け続けてくれていたかすみお姉ちゃんの元へと行くと、
「乱馬君は、あかねちゃんが何度起こしても起きないからって…なびきと先に学校へ行ったわ」
「お姉ちゃんと?」
「ええ。それより、あかねちゃん。もうこの時間じゃどんなに急いでも遅刻でしょう?だったら朝ご飯、食べていったら?今日の朝はね、オムレツを作ったのよ」
かすみお姉ちゃんは、焦るあたしを穏やかな笑顔で宥めつつ、あたしを居間へと招きいれた。
「…」
招き入れられた居間で、壁に掛けられた時計を見あげると…時刻はすでに、九時三十五分を差していた。
急ごうが何しようが。もうこの時間では、あたしは完全に、「遅刻」だった。
一時間目の国語はおろか、二時間目の英語にも間に合わないことは確定だ。
「…食べていく」
あたしは、かすみお姉ちゃんに促されるままに居間の畳に座り込むと、お姉ちゃん自慢のオムレツをしっかりと食べてから、家を出た。




「あれ!?あかね、大丈夫なの!」
「う、うん…」
「いつも元気なあかねがお休みかもって…みんな心配してたんだよ?」
…予想通り、あたしが学校に着いたのは、ニ時間目と三時間目の間の休み時間だった。
遅ればせながら教室の入口に姿を現したあたしに、友人達も、そんな事を言いながら近づいてくる。
「うん…ちょっと、体調が良くなくて」
実際、何であんな寝坊をしたのかは分からなかった。
それは、たとえ「あの夢」を見たとしても、だ。
今までは、「あの夢」を見たところで、こんな風に大々的には寝坊などした事は無かった。
だから、もしかしたら本当にどこか悪いのでは?と、
あたしも、そして、遅刻したあたしを玄関まで見送ってくれたかすみお姉ちゃんや早乙女のおば様も、それを心配していた。
「今日、家に帰ったら病院に行くことになったの」
…結局、学校が終わったら、
一度家に帰ってから東風先生の所へと行く…ということで、あたしはその場を収めてきたのだった。
「東風先生って…あの接骨院?あれ?あそこって内科もやっているの?」
「ううん。でも、先生なら子供の頃からかかっているし、漢方の知識とかもあるから…よその病院に行くより安全だわ」
あたしがそう呟くと、
「そうなんだー…。あかね、お大事にね」
友人達は口々にそんな声をかけてくれたわけだが、
「それにしてもさ、ビックリしたよ」
「え?何が?」
「だって、いつもあかねと一緒に登校してくるはずの乱馬君がさ、今日はお姉さんと一緒に登校してきたから」
「そうそう。運動部の奴らなんてね、『まさかまた、許婚交代か!?』なんていっちゃってんのよ?たった一日、あかねと乱馬君が一緒に登校してこなかっただけで」
それと同時に、朝っぱらから学校中で持ちきりだったらしいそんな噂話まで、あたしに教えてくれた。
「…」
昨夜の夢のこともあり、あたしがピクリ、と表情を動かすと、
「やあね、あかねまで。運動部の奴らの、やっかみ半分の噂話よ」
「そうよ。ほら、あいつらは隙あらばあかねのことを狙っているわけでしょ?」
友人達はそんなあたしに慌ててかぶりを振って見せた。
「…」
あたしはそんな友人達に「分かってるわよ」と口ではそう言って見せるが、その心中は、ざわり、と不穏な音を立てたままだった。
…と、そんな中。
「あかね」
そんな話をクラスメートとしているあたしに、乱馬が席から声をかけてきた。
「あ、ほらあかね。旦那がお待ちかねよ」
「だ、旦那って…別にそんなんじゃ…」
「何言ってんのよ。許婚でしょ?」
「う、うん」
クラスメートにせかされるように、あたしは自分に声をかけてきた乱馬のほうへと向かった。
「…大丈夫か?」
乱馬は、まずはあたしを自分の席に座らせて小声で呟いた。
「う、うん」
あたしが小さく頷くと、
「今朝、何度起こしても起きねえからさ…俺、先に来ちまったけど」
「ごめん…」
「具合でも、悪かったのか?」
「わかんない…」
「でも、珍しいだろ?おめーが寝過ごすなんて…」
乱馬はそう言って、ふう、と小さなため息をついていた。
「…」
…それはたぶん、昨日の夜に見た変な夢のせいで寝付けなかったからと言う理由も半分はあるわけだが、
「実は昨日変な夢を見たのも一つの要因かもね…」
など。
もちろんあたしは、そんな事を乱馬には告げることはできなかった。
なのでその代りに、
「大丈夫よ。それに今日、学校から帰ったら東風先生の所に行くつもりだし…」
と、あたしは先程のクラスメート達へ伝えたのと同じ事を、乱馬にも伝えた。
すると。
「…なんで?」
あたしがそれを呟いた瞬間、なぜか乱馬の表情がさっと曇った。
「え?何でって…かすみお姉ちゃんやおば様も、一度病院に行ったほうがいいって…」
「だって先生は外科専門だろ?別に捻挫したわけでもないのに、何で先生の所に行くんだよ?」
「何でって…だって先生は小さい頃からあたしの事を良く知っているし、それに色んな薬にも詳しいから…」
あたしが「言い訳」ではないけれどそんな事を呟くと、
「…そうかよ」
乱馬は、そう呟いたきり、黙ってしまった。
「?」
あたしは、何故乱馬が急に機嫌を損ねてしまったかが分からず少し戸惑ってしまったけれど、
でも、そんな理由など特に深く考えもせず、あたしも次の授業の準備をするべく、自分の席でカバンを開けて中から荷物を取り出した。



「あら、あかね。あんた、今日学校に来たの?」
「う、うん…」
…そして、その日の放課後。
掃除当番に言っている乱馬を教室で待っていたあたしの元へ、
珍しいことに、なびきお姉ちゃんがふらりとあたし達の教室へ姿を表した。
「あんたも真面目ねえ。あたしだったら寝坊した日は絶対に学校、休むわよ」
なびきお姉ちゃんはそんな事を言いながらあたしの肩をぽん、と叩くと、
「…ま、許婚殿に少しは手加減してもらうよう、お願いした方がいいわね」
そんな事を言いながらカラカラと笑っていた。
「もうッ」
あたしはそんななびきお姉ちゃんをじろっと睨みつつ、
「それよりお姉ちゃん、どうしたの?放課後にうちの教室に来るなんて…」
さっきから疑問に思っているその事をお姉ちゃんに尋ねると、
「ああ。ちょっと乱馬君に用事があってねー…」
「え?乱馬に?」
「そう。ちょっと、ヤボ用がね」
なびきお姉ちゃんはにやりと笑いながらそう言うと、今は空いている乱馬の席へと勝手に腰掛けた。
「お姉ちゃんが、乱馬に何の用なの?」
「だから、ヤボ用よ」
「ヤボ用って…?わざわざお姉ちゃんが出向いてくるなんて…何の用?」
あたしが、そんななびきお姉ちゃんに思わず詰め寄ると、
「だから、ヤボ用なんだって。そんなたいしたことじゃないわよ。…ってそれよりあかね。あんた、いちいちそんな細かい事まで把握していたいわけ?」
なびきお姉ちゃんは、そんなあたしを少し呆れたような表情で見た。
「は、把握だなんてそんな…」
あたしが慌てて否定するも、
「いいじゃないの、別に。あたしが乱馬君に用事があったって。別に今更、どうこうなるわけでもなし、大した用事じゃないって言っているでしょ」
「あ、あたしは別にそんなっ…」
「たとえくされ外道でも、乱馬君の事、ちょっとは信じてあげなくちゃ可哀想よ?ヤキモチも度が過ぎると可愛くないわ」
「そんなつもりは…」
「いーい?あかね。男はね、束縛しすぎると逃げるわよ。それは、あの乱馬君だって、きっと同じ。…ま、気をつけるのね」
なびきお姉ちゃんはそう言って、ふっ…と意味ありげな表情で笑った。

「…」
あたしは、そんなお姉ちゃんに対して複雑な感情を抱いていた。


そんなの、お姉ちゃんに言われなくたって、わかってるもん。
それに、あたしの方がお姉ちゃんより、乱馬のことを分かってるんだから!
そんなの言われなくたって分かっている。

分かっているけれど、でも…そんなに言うくらい「たいした用事」じゃないのなら、話してくれたっていいじゃない。
そう思うことは、そんなにいけないこと?



あたしは、言葉こそは飲み込んだものの、明らかに異議を持つ表情で、なびきお姉ちゃんを睨んでいた。
…と、その時だった。
「あー、終わった…」
あたしとなびきお姉ちゃんの間に不穏な空気が流れ始めた、ちょうどその時。
掃除当番で別の教室にいっていた乱馬が、ようやく戻ってきた。
「乱馬!」
あたしは、早速戻ってきた乱馬に声をかけたが、乱馬はそんなあたしに声を掛けるより早く、
「…ん?なびき…なんでこんな所に…」
あたしと異様な雰囲気で対峙しているなびきお姉ちゃんへと声をかけた。
「何でかしらね?」
なびきお姉ちゃんは、そんな乱馬に対し、にやりと笑いながら何かの封筒を乱馬の目の前にちらつかせた。
「あっ…てめえそれ朝のっ…」
「取引、応じる?」
「くっ…人の弱みに付け込みやがって!…」
乱馬は急に慌てたような素振を見せると、
「あかね、お前今日は先に帰れ。俺、ちょっと用事を済ませてから帰るからっ」
そう叫ぶと同時に、
「と、とにかくこっちに来い!話は向こうで…」
と、なびきお姉ちゃんの腕を引っ張って教室から出て行ってしまった。
「あっ…ちょっと!乱馬!」
…掃除当番が終わるまで待っていてあげたのにも関わらず、勝手な事を言って教室を出て行ってしまった乱馬に向かってあたしは叫んでみるも、
「ごめんね、あかね。そーゆー事だから」
そんなあたしに答えたのは、
乱馬ではなく、乱馬に引っ張られるように教室を出て行ってしまったなびきお姉ちゃんだった。
「あッ…待ってよっ」
それでも、あたしも慌ててそんな二人を追って教室の外に出たが、
「あ…あれ?」
既に二人はどこかへ向かってしまった後。
「何よ…」
…結局、教室の入口には、カバンを抱えたあたしが一人、ポツンと取り残されていた。


…あたしが今日は、あまり具合がよくないって。
だから、家に帰った後は病院へ行くって言っているのに。
それは乱馬だって知っていたはずなのに。
…何でそんな日に、わざわざなびきお姉ちゃんとどこかに行っちゃうのよ。
何で、あたしをほったらかしにしてどこかに行っちゃうの?
…東風先生の所に行くって言ったから?
だから、あたしの事は心配もしてくれないの?


「…」
あたしは、さっさと教室から出て行ってしまった乱馬と、
そして、何だかすっきりしない態度を取りつづたあげく、乱馬を連れて行ってしまったなびきお姉ちゃん。
二人に対して、あたしは…何だか無性に腹が立っていた。


…具合が悪いかもって言っている時ぐらい、もう少しいたわってくれたっていいじゃない。
一緒に家まで帰ってくれるぐらい、してくれたっていいじゃない。
そりゃあ?
半分は「ただの寝坊」で遅刻したって言う事もあるけれどさ。
でも、お姉ちゃんに用事なら、家に帰ってからだっていいじゃない。
お姉ちゃんも、乱馬と取引するんだったら、何も学校じゃなくたっていいじゃない。
家に帰ってからじゃ、いけなかったの?
こんな日に、何も…。



あたしはその後、すぐに学校を出た。
そして家へと歩いて向かうも、やはりその道中は…あたしの気分は重く沈んだままだった。
心の中にかかったモヤは、一向に晴れてはくれなかった。
無論帰り道で晴れないモヤは、あたしが家に着いたところで晴れるわけも無かった。
「…」
家に帰って、着替えたらすぐに東風先生の所へ行こう。
…授業中はそう考えていたあたしだったけれど、放課後のあんな事を経験してしまったら、それにモヤモヤした気
持ちも加えられ、制服を着替えようという、その気力さえも殺いでしまう。
「…」
あたしは、そのそがれた気力を取り戻す事が出来ないまま、ベッドの上に身体を投げた。
そして、ゆっくりと目をつぶる。
…瞳の裏には、まだ眠ってもいないはずなのに、ある「映像」が焼きついていた。
そう、それは「あの夢」の一部。
乱馬が、お姉ちゃんの手を引いて歩いていくあの姿。
「お姉ちゃんの許婚」が、お姉ちゃんと歩いていくあの姿だった。
放課後の、あの教室で見た先程の光景が、やけに「あの夢」の一部とオーバーラップして、あたしの瞳に、あたしの心に、影を落とす。

「…」
あたしは、その瞼の裏に焼きついた映像をかき消すように乱暴に目を開けて、寝転んだ自分の顔の下にある枕を、ぎゅっ、と腕で抱きしめた。
そして、モヤモヤしているその気持ちを少しでも晴らそうと、自分のその心に引っ掛かっている出来事をひとつづつ、冷静に考えようと努力をしてみた。
…乱馬とお姉ちゃんが、あたしの知らない「用事」を済ませたって、いいじゃない。
そんなの、前から良くあった事のはずでしょ?
あたしの知らないところで密かに「取引」していた事だって、あるじゃないの。
それに、あの「光景」は随分前の、事じゃないの。
終わった事なのよ。
乱馬は、今はあたしの許婚なのよ。
時々見るあれは、あたしのつまらない「夢」なんだから。
それを、こんな風に「現実」になぞらえて考え込んでどうするのよ。
……
なのに、
それが分かっているのに、何で今更そんな事が気になるのよ。
何で、心が晴れないの?




その、明確な答えは見出す事が出来なかった。
あたしは、自分でも気が付かない内に何度も、何度も大きなため息をついていた。

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