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二人の普通1

千人が千人うっとりするようなかっこいい言葉や、高価なプレゼントなんて要らないの。
あたしはただ…「普通」の恋愛がしたい。
ごく普通に楽しくて、幸せで、安心できる恋愛がしたい。
毎日毎日イライラして、怒ったり、悩んだり、我慢しているばっかりの恋愛じゃなくて、
そういう嫌な事も流せるような…それくらい、安定して相手の事を信じていられる恋が、したい。
恋が、したいだけなのに…




「ニイハオ、乱馬!私の愛情たっぷりラーメン、食べるよろしぞ!」
「いらねえよ、別に」
「遠慮する、愛し合う私達の間には不要な事。それに、他の人の分も持ってきたね!」
…毎日ではないけれど、乱馬の元にオカモチ片手にやってきては、ラーメンやら点心やらをご馳走してくれるシャンプー。
今日も今日とて、我が天道家に、シャンプーはやってきていた。
あたしと乱馬が付き合っていると知っているにも関わらず、以前と同様、うちにあがりこんでくるその神経にはある意味、敬意を示してしまう、あたし。
でも、
もちろんそんな事、乱馬の彼女であるあたしにとっては気持ちいいものではない。

「あかねー、食べないの?美味しいわよ?」
「…いらない」

家族の分までラーメンをご馳走されたって、なびきお姉ちゃんに食べるように進められたって、あたしは決してそれを口にしたいとは思えなかった。
それに加えて、
「はい、乱馬。あーん、するよろし」
「え、い、いいよそんな…」
…今日はたまたま、早乙女のおば様がいないから大問題に発展はしなかったけれど、
シャンプーは家に乗り込んでくるときは必ず、乱馬に自分の手料理を自ら食べさせようとする。
乱馬も断りはするけれど、
「やめろって!」
…そんな風にはっきり断らないから、結局はシャンプーに料理を口に入れてもらって食べたりする。

「…」

…なんで、自分の彼氏が他の女の子に、そんな風に料理を食べさせられているのか。あたしにはそれが、どうしても理解できない。
もちろんあたしは、そんな光景を長い間同じ場所でじっと見つめているわけではなく、
「…」
ラーメンを食べている皆の所からさっと、姿を消しては一人部屋で、ふて腐れる。

面白く、ない。
気にいらない。
乱馬は、あたしの彼なのに。そう思うと、尚更だ。

「…」

…あたしだって、気に食わないだけじゃなくて悔しさぐらい、ある。だから以前はあたしもそれに抵抗して、
「はい、乱馬。食べさせてあげる」
猫飯店にご飯を食べに行ったとき、わざとそんな事を言いながら、乱馬に料理を食べさせてあげようとしたことが
あった。でも、
「な、なんだよ急に。いいよ別に…」
「…」
シャンプーにわざと見せ付けてやろうかな、なんてそんな事を思ってシャンプーの真似をしてみるも、あっさりと乱馬には跳ね除けられてしまった。
それでもめげずに、学校での昼休み、校庭で乱馬と二人でお昼を食べる機会があった時、
「乱馬、食べさせてあげる」
リベンジだ、とばかりにあたしが乱馬に再びそういうも、
「いいよ別に。自分で食べるから」
やっぱり乱馬は、あたしの申し出をピシャリと断って、勝手にご飯を食べてしまう。
そんなこんなが続いたので、あたしは悔しさよりも湧き上がる虚しさに負け…今ではただ、一人イライラしているだけになった。

「…」
なによ、シャンプーの時は素直に食べるのに、何であたしだと嫌がるのよ。
つれない乱馬に、あたしの胸は時々ちくっと、痛む。
その他にも、
「乱馬、明日お弁当作ってあげるね」
「いらん」
「な、何でよ!」
…まあ、あたしの料理の腕が不評だというのもあるけれど、せっかくあたしがそう言っても、乱馬は考える余地も無くそう答える。
彼女の手料理は断るわ、好意で食べさせてあげる事は断るわ…これって、普通のカップルの間で日常的にありえる事なのか。

「…」

そう。あたしは最近、それをよく考えるようになった。
その話をよく学校の友達…さゆりやゆかに話すと、
「あかねは偉いよねー。良く耐えてるわよ」
「そうだよねー。普通だったらとっくに別れているわよねー。だって、付き合っている彼女の目の前で、他の女の子とそんな事するなんて、ありえないもん。普通は違うわよ」
二人もそう思うのか、あたしに同情してくれることもしばしばだ。

「…」

普通。普通だったら。普通とは違うわよ。
普通、ふつう、フツウ…
あたしは、その「普通」という言葉をズッシリとこの頃、胸に受け止めている。

そりゃあ格闘技もやっているし、頑固だし意地っ張りだし、乱暴でがさつかもしれないけれど、あたしだって普通の女の子だと、自分でそう思う。
だから、「普通」。あたしは「普通」を、望んでいるの。
千人が千人うっとりするようなかっこいい言葉や、高価なプレゼントなんて要らないの。
あたしは、あたしはただ…「普通」の恋愛がしたいだけ。
ごく普通に楽しくて、幸せで、安心できる恋愛がしたい。
毎日毎日イライラして、怒ったり、悩んだり、我慢しているばっかりの恋愛じゃなくて、そういう嫌な事も流せるような…それくらい、安定して相手の事を信じていられる恋が、したい。

…乱馬、あたしの事本当に好きなのかな。ほんとに彼女だって、思っているのかな。

「…」

あたしは、そんな不安とばかり戦う日々だけじゃない、恋愛がしたい。
最近のあたしは、そんなことをよく思うようになった。
もちろん、
「…」
確認したい気持ちは山々だ。でも、それを聞いて、乱馬にあたしの気持ちが「重い」と思われるのは嫌だと、それ
が怖いあたしは、どこかでブレーキを自分にかけていた。
乱馬の事が好き。だから、乱馬の気持ちを確かめたい。
でも、確認するのは怖い…複雑な気持ちが、あたしの心を幾重にも交差していた。
だから、

「なー、まだ怒ってんのかよ。夕方のあれはシャンプーが勝手に…」
「もうその事はいいわよ」
「シャンプーの事はホントになんとも思ってないんだからな」
「だからもう、いいってば!」

…シャンプーが帰った後、仲直り、という名目であたしの部屋にやって来た乱馬に、あたしは胸に抱えている不安を口に出来ないまま当り散らしていた。
「じゃあ何でそんな機嫌が悪いんだよ」
「…」
「ホントに何ともねんだからさ…分かるだろ?」
乱馬はそう言って、いつものようにあたしのベッドに潜り込んで、あたしに腕を回しながらそう呟く。
「…」
あたしはそんな乱馬の身体に自分の身を預けるも、
…全然わかんないよ、乱馬。
言いたい言葉を、ぐっと堪えて目を閉じる。

ねえ、乱馬。
あたし達は毎日一緒にいるけれど、何十年も寄り添った夫婦なんかじゃないんだよ。
たまには、ちゃんと言葉でいってくれなきゃ分からない時だってある。
たまには、はっきりとした態度で示してくれなきゃ、心配な時がある。
乱馬の気持ちがわからなくて、あたしだって不安で仕方が無い時だってあるんだよ。
…ねえ、乱馬。

「…」

この言葉が素直に口に出せるのならば、どれだけ本当にいいのだろう…。
乱馬の腕に抱かれていても、今夜のあたしはそればかり考えていた。






その翌日の事。
「ねえ、乱馬!食べてってば!」
「断る!」
「なんでよ!今回は上手く出来たの!絶対に美味しいから!」
午後の授業が調理実習だったあたしは、駆け足で教室にいる乱馬の下へと寄っていき、そう叫んでいた。
あたしの手には、少し、ほんのすこーし焦げた匂いのした、クッキーの包み紙がある。
今日の授業で焼いたもので、もちろんそれは、乱馬に食べてもらおうと思って一生懸命作ったもの。
まあ、その、見てくれは悪いけれど、何のイタズラか味は…食べられなくも無いものに仕上がっていた。
…みんなと同じ授業で同じ材料で作っているのだから、「食べられなくはない味」という表現はおかしいのだけど、
でも、毎回調理実習では十戦十敗しているあたしにしてみれば、上出来だ。
今回は珍しく、味見だってした。
だから、バニラエッセンスとラー油だって間違えずに済んだし、ちょっと甘みを引き立てようと入れた塩の量は多かったけど、でもこういう塩味がピリッと効いたクッキーだって、無いわけではない。自分には一応、そう言い聞かせるようにはしている。
何はともあれ今日のこのクッキー、あたしにとってはまさに、渾身の出来だった。
だからこそ、授業が終了したのと同時に乱馬へと持ってきてあげたというのに、
「俺、腹減ってねえんだ」
とか、
「間に合っている」
とか。
  …予想はしてはいたけれど、乱馬はあたしのその申し出を、にべも無く断ってくる。
「自信作なんだってば!」
それでもあたしが、グイ…と焼いてきたクッキーを乗せたシートを乱馬の鼻先に差し出すも、
「その台詞は聞き飽きた」
グイ…乱馬はそのシートを再びあたしの前へと押し返す。
「今回は違うわよ!」
さらにあたしがそのシートを押し返すと、
「…その台詞も、聞き飽きた」
乱馬は、なぜかあたしから目線をそらした。
どうやら、十戦十敗のあたしの戦績の一番の被害者である乱馬は、あたしのこの台詞にトラウマを持っているらしい。
「…」
若干の責任はあたしも感じつつも、でも、今度は本当に違う…それを乱馬にどうしても伝えたくて、
「今度は大丈夫だから!」
あたしは、そんな乱馬のトラウマを治療すべくと、躊躇っている乱馬の目の前に、再びクッキーを差し出した。
「ちょっと待て、心の準備が…」
「心の準備は、食べてからしてよ!」
「無茶言うなよ」
「お願いっ食べてってば!」
クッキーを手に取りもせず躊躇している乱馬と、どうしても食べてもらいたいあたしと。
…好きな人のことを考えて作ったクッキーだから、美味しく出来たの!
その気持ちを感じ取ってもらいたくて、あたしは乱馬の前に更にクッキーを押し出してやった。

と、その時だった。

「乱ちゃーん!」
そんなあたしと乱馬の間に、家庭科室からようやく戻ってきた右京が、割って入った。
ドン!
もちろん右京はいつものように、乱馬の前でクッキーを持っていたあたしを押しのけるかのようにちゃっかり乱馬の前へ陣取った。
ライバルに勝つためには、その行動、大切らしい。
シャンプーや小太刀でも、多分この右京と同じ行動をしただろう…それは、あたしも予測はしていた。
でも、
手に何も持ってないならともかく、今日のあたしは手にクッキーの包み紙を乗せているのだ。
そんな状態で横に押しのけられたら、身体がバランスを崩す事、必然だ。
案の定、

「きゃっ…」

…右京に押しのけられた反動で身体のバランスを崩したあたしは、乱馬に差し出していたクッキーの包み紙を床の上へと落とし、全てのクッキーを床にばら撒いてしまった。
机の下に、椅子の下に、カバンの陰に…クッキーは、掃除前の床の上に無惨に転がっていた。
その上、
「…あ!」
グシャっ。
あたしの足元に落ちたクッキーは、たまたまそこを通りかかったクラスメートに踏み潰されてしまった。
ふわっと、踏み潰されて割れたクッキーから焦げたバターの香りが漂った。
「あ…」
渾身の出来、今日こそ乱馬に…と思っていたクッキーは、床に落ちた上に踏まれて真っ二つ。
本来なら口に入れるのには少し大きめなクッキーだったのに、指でつままないと、持つ事が出来ない小ささに姿を変えたクッキーが床に落ちていた。
もちろん踏まれているのだ、こんなものはもうあたしだって食べる気がしない。ましてや、乱馬になんて絶対に食べさせられない。
「…」
…あたしがのろのろとしゃがみこんでそのクッキーを拾おうとすると、
「あかねちゃん、ごめんなー。悪気はないんよ」
あたしを押しのけてよろめかせた張本人の右京が、手を合わせてあたしにすまなそうな顔をした。
でもその後すぐに、
「乱ちゃん、クッキー焼いたんよ。はい、口あけてー」
そんなことを言いながら乱馬に笑顔を見せると、無防備な乱馬の口を強引にあけて、その中にクッキーを投げ込んだ。
もちろん口に入れられてしまえば、吐き出すわけにはいかない。
乱馬はもぐもぐとそのクッキーを噛み、「うまい」と一言呟いた。
「いやー!嬉しー!うち一生懸命、乱ちゃんのために作ったんよー!」
乱馬にベタぼれの右京は、愛しの乱馬にそんな事を言われて、舞い上がっている。
白い頬を赤く染めて、ぴょんぴょんと乱馬の前で嬉しさを身体で表現していた。
…それに比べて、

「…」

粉々になったクッキーを拾い上げるあたしは、何だかとても惨めな気分だった。
きゅ、と唇を噛んでいないと、自然にため息がこぼれてきそうだ。

「…」

まただ。
また、あたしの料理は乱馬に食べてもらえなかった。
そればかりか、他の子は乱馬に料理を誉められてあんな風に喜んでいるのに、あたしは…

「…」

ちくり、ちくりと鋭い痛みがあたしの全身へと駆け巡っていく。

…せっかく、上手に出来たのに。何で、早く食べてくれなかったの?
そりゃ、料理人の右京のものに比べたら、味は落ちるかもしれないけど…。
なんで、食べようともしてくれないの?そんなに、あたしの料理は嫌なの?

「…」

…ホントだったら、乱馬の前で笑顔でピョンピョン飛び跳ねているのは、あたしだったはずなのに。
あたしがそんな事を思いながら、粉々になったクッキーを拾い集めていると、
「ご、ごめんな天道!」
通りすがりで偶然あたしのクッキーを踏みつけたクラスメートが、のろのろとクッキーを拾っているあたしに謝ってきた。
あたしが顔を上げると、そこにはすまなそうな顔をしてあたしに手を合わせている、男子生徒が一人。
クラス委員の山上君、という男の子だ。
山上君とは滅多に話をする機会はないけれど、彼は誰に対してでも丁寧でとても温厚な態度で接する事で割と有名だ。
「…別に山上君のせいじゃないよ」
そんな山上君に対し、あたしがそう呟くと、
「でも、せっかく焼きたてだったのにさ…。どれ」
山上君は深々とあたしに頭を下げて、次の瞬間、信じられない行動に出た。
「え、ちょ、ちょっと山上君!?」
パクっ。
何と山上君は、自分が踏みつけて粉々にしたクッキーのカケラを、いきなり自分の口に入れたのだ。
「き、汚いよ、山上君!それに…」
…まずいから。
あたしが慌ててそう言って、クッキーを吐き出させようとすると、
「三秒ルール、三秒ルール」
「え?」
「床に落ちて三秒以内に拾えば、全然汚くない」
「でも…!」
「それに、このクッキー、美味いよ」
「え?」
「ちょっと塩加減が強いけど、こういうクッキー、普通に店で売っているし。それに天道が焼いた物なんて、滅多に食えないし。 踏んじまってごめんな」
山上君はそう言って、少し照れたように笑った。
その笑顔に、あたしは珍しく…乱馬以外の男の子に対し、ドキッと胸を鼓動させた。
笑顔に?ううん、きっとあたしがドキッとしたのは彼の「言葉」なのかもしれない。
乱馬には絶対に言われる見込みが無い言葉ゆえに、それはあたしの心に面白いくらいストレートに、入り込んでしまったのだ。

「…」

乱馬にだって、ううん、お父さんやお姉ちゃんにだって言われた事ないのに…誉められちゃった。
「…ありがとう…」
御礼を言うあたしの胸が、ドキ、と再び大きく鼓動した。
胸はそのまま動きを早め、トクントクン、と波を打っている。
あたしだって、「こんなのもう食べられない」って思ったような、粉々なクッキーなのに…それを、すんなりと食べて誉めてくれたのを思うと不思議と胸が弾んでいる。
乱馬も食べてくれないようなクッキーなのに…そう思えば思う程、あたしも何だか照れてしまう。
思わず頬を染めながら俯いていると、

「委員長は優しいよなあ。俺ならお世辞でも言えねえゼ」

そんなあたしの背後から、ぶすっとした低い声が聞こえた。
この失礼極まりない声は、乱馬だ。
あたしが乱馬のほうを振り向くと、乱馬が機嫌悪そうな顔をして、あたしと山上君を…いや、山上君だけをじっと見つめていた。

「…」

この乱馬の目は、明らかに山上君に対し敵対心を持っている、目だ。

…何よ、今更。さっきはあんなにあたしの申し出を断っておいて。さっさと食べない乱馬がいけないんじゃない。
そんな風に今更機嫌悪くしたって、もうクッキーなんてあげないんだから。

「…」

あたしがそんな事を思いながら、フイっと乱馬から顔をそらすと、
「お世辞じゃないよ、早乙女。ホントに美味かったよ」
山上君は笑顔のまま乱馬にそう言うと、
「とにかく、ごめんな天道」
「あ、う、うん…」
「ごちそうさま」
あたしにもう一度だけ手を合わせて、あたし達の前から去っていった。
「はー。委員長は優しいなあ。あ、もしかしたらあかねちゃんに、気ぃあるんちゃう?」
山上君の後ろ姿を見ながら、右京がそんなことを乱馬に囁く。
「さあな。俺には興味ねえし」
それに対して、乱馬は面倒くさそうな口調でそう言って、ガタン、と席から立ち上がった。
「そうやね、乱ちゃんはうちの許婚やしねー」
右京は乱馬に笑顔でそう言うと、
「なあ乱ちゃん、学校の帰り、店にきいへん?スペシャルモダン焼き、ごちそうしたるわ」
と、立ち上がった乱馬の腕を掴んだ。
「…」
乱馬は、あたしの方をじっと見つめながら、
「おー、じゃあ今日はご馳走になろうか。腹も減ってるし」
と、呟いた。
「…」
その言葉にあたしは、かちん、と表情を動かす。

あたしのクッキーは「腹が減ってない」とかいって断ったくせに、右京のお好み焼きは食べられるの?
それに、「興味がない」って何よ。何で、他の男の子があたしに気があるかもって言われているのに興味が無いの?
そう思えば尚更だ。
しかも、右京の店に行くのだって、あたしへのあてつけみたいな感じですごく不愉快だ。

「勝手にすれば!」
あたしは、粉々になったクッキーの包みをさっとまとめてカバンに詰めると、
「さゆり、ゆか、帰ろう!」
「え、あ、う、うん…」
事の成り行きを近くで見守っていたさゆり達を連れて、さっさと教室を出てしまった。
「さ、乱ちゃんはうちと一緒!」
教室からは、右京の甘えたような嬉しそうな声が聞こえてくる。
「あかね、いいの?」
「いいのよ、別に!」
その右京の声をわざと聞かないように気を回しながら、あたしはすたすたと昇降口へと向かって廊下を歩いていた。

…乱馬は、ずるい。
もしもこれが逆の立場だったら、あたしの事を「頑固」だとか「素直じゃない」とか「何で早く食べないんだ」とか何とか言って責めるくせに。
自分がその立場になると、急に不機嫌になって、相手を威嚇したりする。
そんなに気に食わないのなら、初めからあたしに優しくしてくれればいいのに。
あたしに近寄る相手が現われてから急に、独占欲を見せようとして。そんなの、そんなの自分勝手だ。
それなのに、その後は何のフォローも無く勝手に不機嫌になって、あたしの事なんてほったらかしで他の女の子と出掛けちゃうなんて。

「…」

…元はといえば、乱馬が悪いんじゃない。
あたしの手料理を食べてくれないから、他の人に食べられちゃったんじゃない。他の人が、誉めたんじゃない。

あたしは、廊下を歩きながら乱馬の事を心の中で責めつづける。

「…」

ねえ、乱馬。どうするの?
あたしさっき、他の男の子の言葉にドキッとさせられちゃったんだよ?
あたしの事、もっと大切に考えてくれないと…あたしだって、他の男の子に胸を鼓動させる事だって、あるんだよ?
乱馬…。


「…乱馬のばか」

…せっかく、せっかく一生懸命作ったクッキーだったのに。
乱馬に一番に食べて欲しくて、それで、山上君じゃなくて乱馬に、「うまい」って言って欲しかったのに。

「…」
あたしは、そんな事を思いながら廊下を歩いて行った。








その日の夜。
昼間右京の店でお好み焼きを食べてきた乱馬に対し、まるで無意識なあてつけでもあるかのように、我が家の夕食のメインが「お好み焼き」だった。
しかも、乱馬は普段たっぷりと夕食を食べるタイプ。
かすみお姉ちゃんも早乙女のおば様も、自分達の分を少し量を減らしても、乱馬や早乙女のおじ様、そしてお父さんに食べさせてあげようとお皿に盛り付ける。
でも、
「あら、乱馬君。食べないの?」
「あー、はあ、まあ…」
「具合でも悪いの?乱馬」
「いや、そうじゃないけど…」
お好み焼きは好きだけれど、よっぽど右京の店でサービスをされたのだろうか。
乱馬の箸はあまり進んでいないようだった。
「…」
ふん、いい気味だわ。
あたしはそんな乱馬の横でもくもくと、美味しそうにお好み焼きをほおばる。 と、
「乱馬君に比べて、あかねは随分と美味しそうにご飯を食べるのねえ」
そんなあたしの様子を見ていたなびきお姉ちゃんが、あたしをからかうかのように声をかけてきた。
「まあね」
あたしがちらりと乱馬のほうを見ながらそう答えると、乱馬は機嫌悪そうな顔でそっぽを向く。
「なあに、あんた達。喧嘩でもしているわけ?」
「別に」
「あたしはてっきり、何かいいことでもあって、あかねは機嫌がいいのかしら?と思ったんだけどね。そう でもないのね」
あたし達の様子を見ながらそんな事を呟くなびきお姉ちゃんに、
「いいこと…あったよ?あのね、あたし今日、調理実習ですごく美味しいクッキーを焼いたの!」
「へー」
「食べてくれた人がね、美味しいって!本当に誉めてくれたんだ」
あたしはそう言ってにっこりと笑った。 でも、
「…随分と味覚オンチな人なのね」
なびきお姉ちゃんは、全くそれを信じようとはせずにそんな事をぼやいた。
「し、失礼ね!ホントなんだから!」
「今までの例があるからねえ…いささか信じがたいけど。じゃあ乱馬君はそれ、全部食べたわけだ?」
あ、それでおなかが一杯な訳?…なびきお姉ちゃんは、乱馬に向かってにやりとそう笑ったけれど、
「乱馬は…食べてない」
「は?」
「他の人にあげちゃったから、乱馬は食べてない」
あたしは、乱馬に言い分けさせる隙を与えずにばっさりとそう言いきった。
そして、かちゃん、と箸をテーブルに置きながらそう答えると、
「あたしだってたまには、上手にクッキーを焼ける事だってあるんだから!」
とわざと乱馬の方に向かってそう言うと、「ごちそうさま」と居間を出た。

…クッキーの事を誉められたのは、本当に嬉しかった。
山上君のあの時の言葉に、胸がドキっとなったのはあたしだけの秘密だけど、
身内のなびきお姉ちゃんでさえ、あたしのクッキーを「味覚オンチの人が食べたのか」というほどあたしの料理の腕前は不評だけど、
でも、

「…」

…ホントに美味しく作る事が出来たのに。
それはやっぱり、一番に乱馬に食べて欲しかったなあ…。

「…」

あたしはそんな事を思いながら、小さくため息をついた。


「乱馬君、いいの?あれで」
そんなあたしが居間を出て行った後、あたし達のやり取りを興味津々で見守っていたなびきお姉ちゃんが、乱馬に声をかけるも、
「うるせえな」
「あかねもあれで一応女の子だからねー…いつも不評な料理を誉められてよっぽど嬉しかったのねえ。乱馬君、運が悪かったわね」
「…ほっとけよ」
乱馬はさっきよりもずっと不機嫌な声でそう呟いたまま、皿のお好み焼きを、黙々と食べているだけだったようだ。


伝わらない、お互いの胸の内。
分からない、相手の心。
不器用で素直じゃないがゆえに、上手く相手に伝える事が出来ない。
気持ちに余裕がないゆえに、相手の心を察するまでに至らない。
…乱馬に不安を抱くあたしと、それに気がついていない乱馬と。
あたしと乱馬の間に、この夜、目には見えない溝が少しづつ…出来始めていた。

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