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Intersection4

翌日、土曜日。
授業は午前中で終了その日は授業は午前中。
「な、なあ。せっかく早く終わるんだし、たまには皆でさ、何か食いにいかねえか?昼でも…」
「そ、そうね!あたし近くのファミレスとか行きたいなあっ」
授業終了後、
依然としてギクシャクとしている俺とあかねの事を気遣って、ヒロシや大介、そしてあかねの友達のさゆりやゆかが、そんな事を提案した。
いわゆる一つの「トリプルデート」ならぬ、「集合お食事会」だ。
「そうだなー、今日は中華よりも和食よりも、洋食だな」
「そうでしょ?そうよね?」
猫飯店やお好み焼き「うっちゃん」は避けよう。
…そうやって気を使っているヒロシ達の苦労が、目に見えて分かる。
俺は、そんな友人達の気遣いに心から感謝しつつ、
「…」
チラッと、あかねの方を見てみるも、
「あ、ごめん…あたし、今日は…」
「えっ?」
「明日のことで、ちょっと打ち合わせがあるの。だから、皆で行って来て。ごめんね」
そんな俺の視線に気づいているのか気づいていないのか。
あかねは、俺以外のほかの皆にペコリと頭を下げて教室から出て行ってしまった。
「おい乱馬。なんだよ、明日のことで打ち合わせって。明日日曜日じゃねえか。誰と何の打ち合わせだよ?」
大介がすかさず俺にそう尋ねるも、
「…知らねえよ」
昨日の電話の相手なのだろうけれど、詳しい事情なんて知るはずがない。
知っていたら、俺が教えて欲しいくらいだ。
全然あかねの事情がわからない俺は、何だか胸を突かれたような痛みを感じる。
「…」
そんな俺の姿を見て、大介やヒロシも、「やれやれ」と呆れたように顔を見合わせているようだった。
と。
「明日…?あ!もしかして…」
うなだれている俺と、呆れているヒロシ達に、さゆりがまるで何かを思い出したかのような声を上げた。
「何だよ、もしかしてって」
俺の代わりにヒロシが尋ねると、
「隣のクラスの友達が言っていたんだけど、明日ね、隣町の高校と、運動部が『交流試合』をやるんだって。それが、うちの高校と相手の高校の生徒会主催みたいなんだけど」
「へー」
「それでね、競技の数とかが思った以上に多くて、管理したり準備したりするのが大変みたいなのよ。で、その準備とかを当日の雑用係とかを手伝ってくれる人を、生徒会の役員が探しているって言う話だったの。もしかしたら
それかもよ?」
さゆりはそう言って、「きっとそうよね」と、ゆかと二人で顔を見合わせては頷いている。
「で?なんで、それをあかねが手伝わなくちゃいけねえんだよ」
今度は大介が、さゆりにその質問をぶつけると、
「あー…えっとねえ」
先程まではパキパキと質問に答えていたさゆりも、大介のこの質問には、いかんせん歯切れが悪い。
「なんでだよ?」
そんなさゆりに、ヒロシが更に念を押して尋ねると、
「えっとねー…」
さゆりは、質問に答える前に、チラッと俺のほうを見た。そして、
「あのね…これは、あかねが知っているか知っていないかは分からないけれど、生徒会の副会長の男の子…一年先輩なんだけど、あかねの事、結構前から好きみたいなのよね」
「え?」
「だからだと思う。きっと乱馬君とあかねが今、何か上手く行っていないって言う噂、聞いたんじゃないの?だからわざわざ今回、あかねに話を持ちかけてきたのよ。生徒会の仕事をわざわざ副会長がお願いしてくるのよ?真面目なあかねが断るわけがないって、多分そう踏んだのね。読みは当たったみたいだけど」
「…」
「これを機会に、何とかしてあかねと近づきたいって。副会長の人も必死なのよ」
と言って、小さなため息をついた。
「…」
そうか、昨日のあれは、生徒会の男だったのか。
それを聞いて、俺は少しだけホッと胸を撫で下ろした。
…何だ。ただのデートとかではないのか。
それだけが救いだけれど、だからと言って手離しで安心しているわけではなかった。
その男があかねに手伝いを頼んだという事は、明日一日、そいつはあかねの横にべったりといて、あかねと嬉しそうに会話を交わしたり、笑いあったり、
過ごすわけだ。
あかねはともかく、ソイツは、あかねの事が好きで。きっと、その時間は嬉しくて仕方がないんだ。
俺とは正反対で、勉強も出来る優等生なんだろうな、その男。副会長なんだから人望だってあるだろうし。
何だか、礼儀正しそうなヤツだったし。

その時間がもしも楽しく過ぎてしまったら、その先のことなんて…

「…」

…どうなるか、わからない。
俺がそんな事を思いじっと黙っていると、
「ねえ乱馬君。今日さ、うちに帰ったらちゃんと話、してみなよ」
「え?」
「…あかねだって、心の奥底では乱馬君の気持ちぐらい分かっているよ」
「…」
「でもそれが、告白されたときに受けたショックでさ、混乱しちゃって…それで今、乱馬君を信じようとする心が弱くなっちゃってるんだよ」
「…」
「ちゃんと話をして、それでもう一回、告白してみなよ。上手くいかない訳がないよ。ね?」
さゆりと、そしてゆかまでも、
「…私もそう思う。だってあかねだって…あかねだって、乱馬君のこと、絶対に好きだもの。乱馬君だって分かってるでしょ?そんなこと…」
と、俺に対してアドバイスをしてくれた。
「…」
俺は、俺とあかねの事を気遣ってくれたこの二人にも、心の底から感謝するも、
「…ん?ちょっと待て」
…そこで、根本的におかしな事に気が付いた。
「おい」
「なあに?」
「…何でお前ら、俺があかねに告白した事、知ってんだ!?」
…そう。
俺とあかねが「ギクシャクしている」と言う事は周知の事実だけれど。
その原因が、俺の告白にあったという詳しい事情を知っているのは、当事者の俺達と、なびきと、そして、ヒロシと大介だけのはずだ。
「あ!」
俺が、じろっとヒロシと大介を見ると、
「まーまー。こういう事は、あかねの側近達にも知っておいて貰った方が上手くいくじゃねえか」
「なっ…」
「仲直りするのに手伝える事があったら、俺達と、そんでさゆり達も手伝ってやれるだろ?」
ヒロシと、そして大介はそう言ってさゆり達にも「そうだよな?」と促す。
「そうよ、乱馬君。あたし達はあかねの友達として、あかねに幸せになってもらいたいのよ」
さゆり達は何度も頷きながらそう呟くと、
「いい?絶対に今日、あかねと話をするのよ?乱馬君。じゃないとあかね…ホントに誰かに取られちゃうよ?」
そう言って、俺に最後の念を押した。

「…」

…あかねが、他の誰かに取られる?
その言葉に、俺はドクンと大きく胸を鼓動させる。

「…」

考えたくない。
そんなこと、ありえねえ。
…そう思いたいのに、確信を持てるほどの自信が、今の俺には無かった。
「…」
俺はヒロシ達やさゆり達に御礼を言うと、昼飯は食いに行かずにそのまま、家に帰った。
そして、あかねがその生徒会の打ち合わせとやらを終えて家に帰ってくるのを、今か今かと、玄関先で待つことにした。







「ただいまー…」
…玄関先でウロウロしながら待つこと、数時間。
あかねが帰ってきたのは、もうあたりも大分暗くなってからの事だった。
「あかねちゃん?今日は随分と遅かったじゃないの」
ウロウロしているわりには、あかねが玄関に入ってきた途端に、居間の方へと姿を隠そうとしている俺。
そんな俺とは入れ違いに玄関へと迎えに行ったかすみさんが、笑顔であかねにそう尋ねる。
「明日ある、学校行事のお手伝いの打ち合わせをしていたの」
あかねは小さな声でそう答えると、ゆっくりと靴を脱いで家の中へあがった。
「こんなに遅くまで?大変だったわね…」
打ち合わせはいいけれど、遅くまでだと心配ね。かすみさんが表情を曇らせてそう言うと、
「大丈夫。家の前まで生徒会の人が送ってくれたから…」
「まあ、そうなの?親切な人ね。御礼を言わなきゃね」
「うん。すごく優しい人なんだ。自分の家はうちとは逆方向なのに、わざわざ」
あかねはそう言って、かすみさんに笑顔で答えていた。

「…」

…『生徒会の人』?
そいつ、もしかしてあかねに惚れてるって言う例の副会長の男じゃねえか?

「…」

昼間にさゆり達に聞いていた事を思い出し、あかねとの中がギクシャクしている事も手伝って、あかねのそんな言葉に俺の胸はザワザワ、と嫌な音を立てている。


…なあ、あかね。
そいつ、生徒会の副会長って男か?
お前、そいつがお前の事を好きだって、知っているのか?
そいつには少なからず、下心があるんだぜ?
親切心だけで、暗くなった道を、わざわざ逆方向にあるこの家まで送ってきたわけじゃないって…お前、分かってるのか?


「…」


それを考えると、何だか心がぎゅっと締め付けられて、居ても立っても居られなくなる。
「…」
俺が、不安な胸の内を隠しきれずにフラフラと、あかねとかすみさんが話をしている玄関先まで歩いていくと、
「あたし、荷物置いてくる」
「そうね。着替えてらっしゃい」
…あかねは、俺が到着するのと同じタイミングでふいっ…と、二階への階段を駆け上がっていってしまった。
「あ…」
階段に翻っていく、ライトブルーのスカート。
手を伸ばしても掴む事が出来ないブルーに、俺は言葉も出やしない。
「…」
ただただ階段の下から、駆け上がっていくあかねの後ろ姿しか見ることが出来なかった俺がずっと佇んでいると、
「あらー。まだ仲直りしてなかったわけ?今回は難航してるわねえ」
あかねを見送って台所へ戻っていったらしいかすみさんと入れ替わりに、俺のこの数時間の奇行を観察していたのか、なびきがそんなことを言いながら玄関先へと顔を出してにやりと笑っていた。
「う、うるせえなっ」
余計なお世話だっ…俺が、あかねに話し掛けられなかったイライラを思わずなびきにぶつけると、
「生徒会の副会長」
「!」
「彼…あ、本田君て言うんだけど。彼があかねの事を好きなのって、実は結構有名なのよねー」
なびきは、にいっと笑いながら、俺にそう言った。
「お前…何か知ってんのか?!」
俺がなびきにそう食いつくと、
「まあね。本田君とは同じクラスだから」
なびきはそう言って、俺にそっと、右手を差し出した。
「…」
くっ。この期に及んでこの女はっ。
「…」
俺は一瞬グッとつまるも、背に腹は変えられない。なびきのその差し出してきたその手に、千円札を置いた。
「まいど」
なびきは素早くその千円札を懐にしまうと、
「九能ちゃんの、中学の頃からの友達みたいだけど。思い込みが激しい九能ちゃんに比べたらずっとまともなタイプね。不思議とウマは合うみたいだけれど」
「…」
「勉強も、学年で三本の指に入るし。テニス部に所属しているみたいだし。それに、そこそこ顔もいいのよねえ」
「…」
「誰かさんと違って、許婚が居ても目の前で他の女の子に抱きつかれたり、デートしたり。そんな不義理な事はしないタイプね。
  あたしも何度か、あかねの写真を見繕って売って上げたのよねー…。そういえば、今日だって。あかねの事、色々聞かれたわ。どんな曲が好きか、とか。どんな食べ物が好きか、とか。どんな場所に連れて行ったら喜んでくれるか、とか」
と、千円分の情報を、俺に流し始めた。
「おい、まさか話したんじゃねえだろうな」
「話したわよ」
「なんでだよっ」
「情報提供料と、写真セットの代金で二千円も貰っちゃったから」
俺がなびきを問い詰めると、なびきはそっと涙を拭うフリをしつつも、さらりとそう言ってのける。
「なっ…俺の味方じゃねえのかよっ」
「あたしはお金の味方よ」
「くっ…」
「明日も、何だか生徒会のお手伝いだっけ?お願いしたんだって、嬉しそうに話していたわよ?本田君。ああ、誰もいない休日の校舎内に、片思いの彼女と二人きり。誰も居ないのも手伝って、思い切って押し倒しちゃったりして…」
「なっ…てめえ!」
「あららー、そんなことになったら大変ねえ」
まるで他人事、高見の見物。
なびきはカラカラと笑いながらそう言って、俺をからかうだけからかった後、居間の方へと消えていった。

「…」

一人玄関先に残された俺は、何だかやり場のないモヤモヤとした気持ちに耐え切れず、思わずダン、と、階段の手すりを拳で叩く。

…九能先輩よりもまともで、勉強も出来て。スポーツも出来て人望がある。
そしてなにより、あかねを傷つけるような事を、絶対にしないタイプ、か。


「…」

そう考えると、ぎゅっ…と胸が締め付けられる。

…あかねだって、強いとはいえ普通の女の子だ。
俺が見たっていつも隙だらけなのに、最近はきっと、特にそうだろうし。
もしも。
もしも、明日とか…薄暗い校舎内でソイツと二人きりになって、いきなり後ろから抱きつかれたりとかしたら?
「…」
そんなことを思うと、全身にザワザワとした心のモヤが循環し始めて、いても立ってもいられなくなる。

「…」

…とにかく、あかねが着替えて下に降りて来たら、絶対にちゃんと話をしよう。
ぎゅっと唇をかみ締め、拳を握り締めながら俺はそんな事を考えていた。



…が。
「…」
俺が居間であかねの姿を待てども、あかねは一向に居間にやってくる気配がなかった。
それどころか、夕食時になっても。あかねは居間へと姿を表さなかった。
居間のいつもの席に座る俺の横は、がらんと一人分空いている。
ぽっかりと空いている隣の席が、今日ほど何だか憎憎しいと思えた事は無い。

「あれ?あかねは?」
と。
やっぱり気になっていたのか、本当は俺が聞きたいそのことを、俺の代わりになびきが、さらっとかすみさんに尋ねてくれた。
「あかねちゃん?さっきね、お部屋まで呼びに行ったんだけど…何だかあまりお腹が空いていないんですって。だから、ご飯を食べる前に、道場で一汗流すことにするんですって。皆は先に食べて居てって、いっていたわ」
かすみさんはのんびりとそう答えると、食事の準備に再び戻ってしまう。
「乱馬、とりあえずもう一度あかねちゃんに声をかけてきてあげたら?もしかしたら、ちょっと身体を動かしてお腹も空いてきた頃かもしれないし」
その様子をボーっと見ていた俺に、お袋が横からにこやかにそう促してきた。
「え…あ、ああ…」
声をかけてくるって事は、話をするってことだよな。
「…」
…変だな、俺。さっきまでは「あかねと話をするぞ」って意気込んでいたのに、いざ話をしようという段階になる
と、何だか少し、躊躇している。
俺がそんな事を考えていると、
「乱馬君、行けるの?あたし行ってこようか?」
そんな俺の近くで、なびきがニヤッと笑いながらそんな事を呟いた。
「あ、あたりまえだろっ」
…何て抜かりのないヤツ。
俺はなびきの突っ込みの速さに一瞬どきりとするも、慌ててそう言って立ち上がった。
そして、
…これはチャンスだ。やっと廻ってきたチャンスじゃないか。
あかねと話をできる、チャンスなんだ。
そう自分に言い聞かせて、ゆっくりゆっくりと、あかねが汗を流しているという道場へと、向かった。
そして、
「…」
まずは、閉じられた道場の扉の前で、大きく一度深呼吸。
何を言わなくてはいけないか。
そして、まずは誠心誠意、あかねに対して謝ろう。
そうやって自分のしたいことを何度も、頭の中でシュミレーションをする。
それが何とか形を持って整い始めてから、俺はもう一度深呼吸。
いよいよ、
「あ、あかね。あのさ…」
ガラっ…
きっちりと閉められていた道場の扉を開けた。
が。
「…ん?」
…『中で汗を流している』。かすみさんにはそういわれてきたはずなのに、あかねが稽古をしている姿はそこにはなかった。
その代り、
「あれ?」
汗を流しているはずのあかねは、何故か道場の床に横たわっていた。
道着姿のまま、少し丸くなるような…そう、猫みたいな姿で横たわっている。
「…」
まさか、稽古に精を出しすぎちまって、貧血でも起こしたのか?
「あかねっ…」
俺は慌てて、あかねの横たわっている場所まで駆け寄っていった。
そして、
「あかねっ…大丈夫か!?」
そう声をかけながら、あかねの首筋で脈を見ようと手を差し出してみるも、
「…」
…あかねは、別に苦しそうな表情をしているわけでもなく、規則正しい呼吸を立てて目をつぶっている。
という事はすなわち、あかねは眠っているだけ、ということだ。

「…驚かせんじゃねえよ」
もしかしたら、お腹をすかせるために汗を流していたけれど、
久し振りの稽古だったせいか、疲れて休んでいるうちに眠り込んでしまったのかもしれない。
「ったく。子供かよ…」
緊張しながらここまで来て、それで倒れているあかね見つけて嫌というほど緊張感が走って。
それが、ただ眠り込んでいるだけだと知った今は、何だか気が抜けてしまってどっと、背中に妙な汗を掻いてしまう。
「あかね、ほら。風邪ひいちまうぞ」
俺は、とりあえずそんなあかねを起こしてやろうと呼びかけてみるも、
「…」
スーっ…スーっ…というあまりにも規則正しい寝息を聞いてしまって、何だか少し、起こすという事にためらいを
感じてしまう。
起こせば、もしかしたらちゃんと話をできるのかもしれない。
でも、何かが。正体が分からない何かが、俺にそれを躊躇させてしまう。
「…」
だからと言って、稽古で汗を掻いているあかねをこのまま放って置いて、自分ひとりだけ居間に戻るわけには行かない。
風邪も引いてしまうだろう。
「…ったく、しょうがねえなあ」
…せっかくのチャンスだったれど、出鼻をくじかれちまった。
いや、半分は俺のためらいのせいなのかもしれないけれど。

「…また、チャンスを逃しちまったなあ」
俺はそんな事を呟きながら、床に横たえていたあかねの身体をぐいっと、両腕へと抱き上げた。
けれど。
「…」
あかねの身体を抱き上げた瞬間、
俺の両腕には、あかねの身体の柔らかい感触。
そして、汗を掻いているはずなのに、ふわりと、石鹸のいい香りがする。
どんな高価な香水よりも、
どんな癒しのエッセンスよりも。
世界中を捜しても、どうしたってこれを越える事が出来ない、心地の良い香り。
…俺の手の中にあるのは、あかねと、そしてあかねの香り。
「…」
そう感じた瞬間、何だか俺の胸の中には、何か正体のわからない熱いものが、一気に込み上った。


…手の中には、何よりも愛しい温もり。
こんなに近くに居るのに。
こんなに触れ合っているのに。
俺とあかねの心の距離は今、遥かに離れてしまっているんだよな。



そんな事を思えば、尚更だった。


「…」


近くても、遠い距離。
こんな風に言うと格好がいいのかもしれないが、これほど辛い、ものは無い。
そう思い始めた瞬間、何だか胸が締め付けられるような感じになる。


「…」


俺は、その自分の中に感じている痛みを覆い隠すように、抱き上げているあかねの身体をぎゅっと自分の胸へと引き寄せる。
そして、くっと俺の胸につけられているあかねの頬にそっと、俺は首をもたげた。
そのまま目を閉じて、あかねの頬の感触を唇で感じれば、


「…」


…ああ、何だか不思議だ。
酷く傷ついて、疲れている。そんなあかねの心の痛みが、何だかジンワリと伝わってくるような気がした。


ごめん、ごめんな。
こんなつもりじゃなかったんだ。


「…ごめんな」


…そうしていると、自分でも驚くぐらい素直に、あかねに対しての言葉が出てくる。
あれだけ色々グチグチと考えたりしていたのに、こうしているだけでこんな風にいう事が出来るなんて。
ああ、これをあかねが起きている時にちゃんと言えたのならどれだけよいか。
「…」
そう考えただけで、ぎしぎしと音を立てて、再び胸が軋んだ。
「ごめんな、あかね」
軋む胸の音を全身で感じながら、俺はもう一度あかねに向かってそう呟いた。
俺がそうつぶやく唇が、あかねの頬や鼻先に当たる。
それはとても柔らかくて、温かくて、そして誰よりも…愛しく思う。
でも、
「…」
どうして俺は、そんな大切な人を…こうやって、傷つける事しか出来ないのか。
それを考えると、何だかとても息苦しくなる。
傷つける事でしか愛せない相手を、どうしてあかねが受け入れてくれようか。
俺は再び、後悔と悩みの渦へとその身を投じる事になった。

「…」

ごめんな、あかね。

俺はもう一度だけあかねにそう呟くと、ぎゅっとあかねの身体を一度強く抱きしめてから、そのままあかねを部屋まで運んだ。
そしてベッドにあかねを寝かせて部屋の外に出ると、

「…」

…明日、か。
今日は話が出来なかったけど、明日の事はやっぱり気になる。
俺も、明日の学校行事とやらを覗きに行ってみようか…そんな事を思った。
生徒会の奴が変な事をしてこないかどうか見張るのと、そして今度こそ時間を見つけてあかねと話をして…

「…」

俺はそんな事を考えながら、ゆっくりと、階段を下の階へと降りていった。
もちろんそんな俺は、

「…」

ベッドにあかねを寝かせた後、
俺が部屋を出たのと同時に、それまでずっと目を閉じていたはずのあかねがその目を開き、大粒の涙を頬へと流した後…再び目を閉じた事など、知る由もなかった。

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