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Intersection3

結局その日は、泣いているあかねが少し落ち着くまで、俺達は教室の中にいた。
教室の、端っこと端っこ。
対角線上の席に座り、あかねはずっとうつむいて、ライトブルーのスカートにいくつも大きな涙の染みを作って泣いていて、俺は、そんなあかねに声をかけてやることも出来ず、ただただ…早くこの時間が過ぎてくれるのを祈りながら窓の外を眺めているだけだった。
…せっかく好きな人と二人きりで居るというのに、早くこの時間が過ぎて欲しいだなんて。
そんな事を望む男は、一体この世界の中でどの位いるというのだろう。

「…」

そんなのきっと、俺ぐらいだ。

俺はそんなことを思いながらずっと、校庭を眺めている。
眺めているといったって、そこに興味を惹くものがあるわけでは無い。
泣いている姿が痛々しくて、あかねに目をやることが出来なかった。
だから、「何かを眺めている」。ただ、それだけだ。

「…」

…校庭を眺めては、時計を見る。
あかねの泣いている声を耳にしては、その度に心を軋ませる。
とても今日、俺があかねに告白をした…だなんて思えないような状況だ。
だいたい、告白した相手が泣いているというのに、それを慰める事さえも出来ない。いや、許されない。
泣かせた原因が、俺の暴言で、というのが重なれば尚更だ。
俺は、あかねに気づかれないようにそっと、溜め息をついた。
そして、ただただ、この息苦しい時間が早く過ぎてくれる事を願った。




この後しばらくして、ようやく泣き止んだあかねと、俺は教室を後にし家に帰った。
でもその帰る道中、俺達は一言も会話を交わさなかった。
俺の数歩前を、あかねがとぼとぼと歩いている。
俺は、いつもより小さくて丸まったあかねの背中を見つめながら、ずっと歩いていく。
背中を丸めたあかねの隣には、ぽっかりとスペースが空いていた。
そこは、いつもなら俺の定位置。
当たり前のようにそこに走っていって、当たり前のようにそこに並ぶ。
そして、当たり前のようにあかねと共に道を歩いていくはずの俺の定位置が、今日は何だかずっと、ずっと遠い場所に見える。
俺がどんなに走っていっても、俺は、そのあかねの隣には並ぶ事が出来ない。
そんな気がした。






「ちょっと、乱馬君」
「…何だよ」
「何だよ、じゃないわよ!そんな顔して居間にいられちゃ、せっかくこうしてお笑い番組見てたって、つまんないでしょ!気がめいるのよっ」
…なので、その日の夜。
夕食後、夕食もそこそこに部屋へと行ってしまったあかねの姿に更に落ち込んだ俺が、何だかモヤモヤした気分のまま居間に座り込んで考え事をしていると、
テレビの前の定位置でご機嫌にお笑い番組を見ていたはずのなびきが、CMに入るなりそう叫びながら俺のほうを振り返った。
どうやら、俺のしょぼくれた姿が視界に入っていたようで、番組がCMに入るのを待って文句を言おうとしていたようだ。
「…うるせえな。俺の勝手だろ」
でも。
なびきにせっつかれた所で、そしてなびきに当り散らした所で、俺の気持ちが晴れるわけでも俺のした事が帳消しになるわけでもない。
「…」
俺は、大きな為息をつきながら再び、居間の隅でうなだれていた。
「そりゃあ、あんたの勝手でしょうけど」
なびきは、そんな俺の態度を不審に思ったのか、テレビの方をチラチラと気にしながらそう言った。
そして、
「だいたいあんた、今日、あかねに告白するんじゃなかったの?」
「なっ…てめえ、何でそのことをっ」
「学校にいる間は、壁に耳あり…って所かしらね?」
「…」
「何でそんな日に、そんな落ち込んでんのよ。それとも、告白する前に喧嘩でもして出来なかったの?」
居間のテーブルに肩肘をつき、にやっと笑いながら俺にそう尋ねるも、
「…したんだよ、もう」
「はあ?それじゃ何でそんなに落ち込んでんのよ。上手くいったんでしょ?もっと喜びなさいよ」
「…上手くなんていくわけねえだろ」
「何言ってんのよ。失敗なんてするわけないでしょ。あんた、寝ぼけてんの?」
「…寝ぼけてなんてねえよっ。この世の中にはなあっ…失敗する訳ない事なんて、ねえんだよ」
俺は、なびきに向かってそう叫びながら自分の胸の辺りの洋服を、ぎゅっと掴んだ。

なびきに叫んでいる俺の胸が、軋む。
上手く行かなかった原因は、俺にある。
それが分かっているからこそ、
そして、それによってあかねをどれだけ傷つけたかが分かっているからこそ…痛かった。

「…」

俺は、怪訝そうな顔をしているなびきの視線から逃げるように、居間を飛び出した。
そして、
「まあ、乱馬ったらもう寝るの?宿題はいいの?」
「『珍しい』」
部屋に入ってくるなり、敷いてあった蒲団に横になって丸くなった俺を見て、不思議そうにしているお袋とオヤジに答えることなくその日は眠りについた。


…本当は、今すぐもう一度、あかねに謝りたい。
告白だって、仕切りなおししたい。
でも、きっと今日のあかねは、俺の顔なんて見たくもないはずだ。
見たところで、俺の話なんてきっと聞きたくないだろうし。
それに…

「…」

…俺だって、あかねのあの泣き顔が頭から離れねえよ。

「…」

とりあえず、今日は少しだけ時間を置こう。
明日だ。
明日必ず、あかねに謝ろう。そんで、あかねにもう一度…
あかねだってきっと、今日よりも落ち着いているはずだから。
「…」
蒲団に入っても、何時間も眠ることなんて出来なかった。
考えるのはただ、あかねの事ばかり。
自分のしてしまった事を悔やみながら、俺はほんの少しの望みを明日へ繋いで、とりあえずその日は休む事にした。







明けて、翌朝。
「…」
ロードワークもそこそこに切り上げた俺は、昨日から決めていたとおり、朝も早くからあかねへ謝ろうと、あかねの部屋の前までやって来た。
トントン、とゆっくりと階段を上り、長い廊下を進んで、一番奥のあかねの部屋の前へとやってくる。
が、
「…」
どうしてだろうか。
いざ部屋の前へと立つと、昨夜、あれだけ決心していたにも関わらず、何かが俺をためらわせる。
ドアをノックしようにも、
手をドアへと触れさせようとする瞬間に、何故かそこで、ためらってしまう。
それではだめだ、もう一度。そんな事を思いながらもう一度ノックしようとするも、
「…」
手がドアに触れて、ノック音を出そうとするその瞬間に、俺は自分の手を引っ込めてしまう。
深呼吸してもう一度。
階段を昇りなおして、ここに立ちなおしてからもう一度。
…そんなこんなで三十分近く色々と試してはドアをノックしようとしているのだけれど、
「…」
どうにもこうにも、ためらってしまう。

…何やってんだ、俺は。

俺は、自分の不甲斐無さにほとほと情けなくもいらだたしくもあり、大きな為息をついた。
と、その時。
「朝っぱらから、何やってんの?あんた」
「な、なびき」
「さっきから、ウロウロうろうろして。家の外なら、間違いなく不審人物よ?あんた」
あかねの部屋の前で溜め息をついたりしている俺の気配に気が付いたのか、あかねの隣の部屋にいるなびきが、自分の部屋からひょこっと顔を出した。
「う、うるせえなっ。俺の勝手だろ!」
俺が、この声があかねに聞こえてしまうのでは無いかとハラハラしながら、なびきに言い返すと、
「ウロウロしている乱馬君には申し訳ないけど」
「え?」
「あかねならもう、学校に行ったわよ。乱馬君がロードワークに出ている間にね」
「えっ…だってまだ七時前なのになんでっ…」
「さー。誰かに会いたくなかったんじゃない?わざわざそんな時間にこそこそと学校に行くなんて。でもあの子もばかよねえ。家で会わなくたって、教室では隣の席だから嫌でも顔を合わすのにねえ」
なびきはそう言って、「やれやれ」とオーバーアクションをしながらそう言い放つ。

「…」

…俺を避けて、もう学校に行っちまったのか。

「…」

わざわざ、俺がロードワークに出た時間を見計らって家を出て行ったあかねの姿を思うと、ズキ…と胸が痛む。
そんなに俺を、避けたかったのか。
それだけ俺は、あかねに対して傷つけるようなことをしたんだ。
胸を軋ませる痛みと共に、俺は嫌というほどそれを、改めて感じさせられた。
「…」
俺が、そんな事を考えながら肩を落として黙り込んでいると、
「…ふ−ん。どうやら今回のこじれ方は、いつものくだらない喧嘩の後とは状況が違うみたいねえ」
なびきは、うなだれている俺の肩をぽんと叩いてそう呟いた。
そして、
「ま、どうせ原因は乱馬君なんだろうし?あんたが素直に謝るのが一番よ。十五分三千円で、恋の悩み相談くらい
には乗ってやってもいいけどね」
「金とるのかよ」
「当たり前でしょ?あんたの場合は、あたしの可愛い妹を傷つけたっていうオプションついてるんだから。あかね
の代わりに、あたしが慰謝料を貰ってあげてるんじゃないの」
「…」
「どうしても困ったら、あかねの隣の部屋の扉をノックしなさいな」
そう言って、「ま、がんばってねー」ひらひらと手を振りながら、暢気に部屋を出て、下の階へと降りていってしまった。
「…」
この非常事態にも関わらず、なんてがめついヤツだ。
でも、
「…」
この際金を出してもいいから、思わずなびきに頼ろうとまで考えた俺も、そこにはいた。
勿論素直にそのまま、なびきに相談をすることは無いけれど、

「…」

…俺自身、相当焦っているのかもしれない。

「…」
トントン、と階段を降りていくなびきの足跡を遠くに聞きながら、俺はそんな事を考えていた。






…それからというもの。
その日も、そしてその翌日も。
あかねは、俺と極力顔をあわせないようにしているのか、俺がロードワークに出ている隙を見計らって学校に行くようになった。
勿論学校でだって、隣の席だというのに一言も話さない。
帰りだって、あかねは授業が終わる居や否や、
「ねえねえ、一緒に帰ろうっ」
俺が声をかけるよりも早く、友達のさゆりや、ゆかの所へと走っていってしまう。
家でも話さないし、学校でだって会話を交わさない。
まるで、あかねの視界には「早乙女乱馬」という人物が映し出されていないのでは無いか。
…一瞬、そんなことさえ感じる。
そう感じてしまうほど、あかねは完全に俺を避けているようだった。
それに加え、
「早乙女君、おはよう」
「…」
ことの原因の一角となる例の彼女・中村さんも、
昨日の事でなにやら自信、というかきっかけを掴んだと思っているのか、
クラスが違うのにも関わらず、朝登校してきたらわざわざ俺のところに挨拶に来るし。
懲りずに、映画やアミューズメントパークのチケットを持って誘いに来て、
「何やねん、あんた!うちの乱ちゃんに手え出さんといて!」
「早乙女君は、誰とも付き合ってないのよ。いいじゃない」
「うちの許婚やでっ」
「でも、彼女じゃないんでしょ?」
「なっ…」
「早乙女君、あたしの事色っぽいって言ってくれたのよ?」
「嘘やっ」
「ホントよ。少なくても、天道さんよりも色っぽいって!ねー?」
「ちょっと乱ちゃん!この女の言ってる事、ホントの事なん!?」
…うっちゃんと、わざわざ俺の席の近く言い争いになったり。
「俺の席の近く」と言う事は、もちろん「あかねの席の近く」でも、ある。
「…」
そんな二人のやり取りは、絶対にあかねの耳に入っているはずだ。
「…」
でも。
そんなやり取りが始まれば、あかねはふいっと席を立ってどこかへ行ってしまう。
「興味がない」のか「不快」なのか。
…いずれにせよ、そのことがこの俺達の状況を悪化させる手伝いをしている事には代わりがない。

「…」

…あーあ、これじゃあ、正面きって俺に抱きついてきたりするシャンプーよりもタチが悪いぜ。

俺はそんな状況にほとほと嫌気が差し、気が付けば溜め息をつく毎日だ。
更に。
そんな俺の異変は、告白した次の日から始まっているわけで、友人達がそれに気が付かない訳もない。
だいたい、
「…ったく、信じられねえよなあ」
「ホント。どこをどうやったら、失敗するんだよ?」
…俺があかねに告白したということを知っているヒロシと大介は、告白の翌日には俺の話を聞こうと、朝、登校した瞬間に俺の元まで駆け寄ってきたけれど、
「…」
俺が、妙に暗い表情をしていたこと、
そして、
「…」
隣の席に座っているあかねが、俺とは目を合わせようとしない上に、一言も喋らない事。
「おはよう」
その言葉さえも言わない事に違和感を感じたらしく、
「…まさか…」
と、俺を慌てて教室の隅へとひっぱっていって、俺を問い詰めた。
俺が事の経緯をヒロシ達に話して聞かせると、
「あかねのヤツ、可哀想になあ。お前、愛想つかされてもホント、文句何ていえねえぞ?」
「お前、友達の俺らが言うのも何だけど…最っ低だな」
…ヒロシと大介は、ずけずけと俺に対して文句を言い放った。
「…」
その通りです。
もはや反論する気もなく、そしてうなだれている俺に対し、
「まあでも…あかねに謝って、誤解だって伝えるしかねえよ」
「相手があの中村ってのが厄介だけどなあ」
ヒロシと、そして大介も、慰めているか呆れているのか、そんなアドバイスをする。
「大介、お前あの中村さんを知ってるのか?」
俺が呆れている大介にそう尋ねると、
「知ってるも何も、俺の中学の時のダチの彼女だったから」
「へー」
「でもなあ…」
大介はそう言って、少し小難しい顔をする。
「何だよ」
「いや、さ。中村はさー、何ていうかこう、自分が『女』というか『ちょっと綺麗な顔立ちをしている』っていうのが分かっているタイプなんだよなあ」
「はあ?」
「だから、男がどうやったら喜ぶか、とかドキッとするかとか、分かっていて行動をするタイプなんだよ」
「…」
その大介の言葉に、俺は何となく「ああ、そうかも…」なんて。そんな事をふと思う。
そういえば昨日だって。
上目遣いで俺を見たり、最初はちょっと控えめにしつつ、どんどん押しが強くなって…。
「…」
俺がそんな事を考えながら黙っていると、
「…だから。彼氏は大変なわけだ。自分と付き合っているのに、男は平気で中村に言い寄ってくるし。そんなんばっかりで、結局は長く続かなくてさ。中村も、それで何度も色んなヤツと付き合っているみたいだけれど。元々気が多いみたいだし」
大介はそう言って、溜め息をついた。
そして、
「でもさ。男ってヤツは悲しい生き物で。そういう女だって分かっているのに、言い寄られると嬉しくなるんだよ」
「…」
「だから、俺の中学でも中村は、男には人気はあるけど女にはスコブル評判が悪かった」
「へー」
「高校でも、そんな感じじゃねえの?だから、余計にあかねは傷ついた、と」
「…俺は別に…」
「あかねより色気がある、なんて乗せられるままに言っちまうなんて、お前もまだまだだなあ」
そう言って、俺の肩をぽんと叩く。
「…」
俺がガックリと肩を落とすと、
「とにかく、あかねに謝れ。な?中村のほうは放っておけばその内あいつも諦めるだろう」
「そうそう。目をつけられていたとは、お前も災難だけどなあ」
ヒロシも、そして大介も。そんな事を言いながら口々に俺を慰めた。
「…」
…ったく、厄介な人を俺は偶然とは言え助けちまったなあ。
駆引きなしの親切心だったのに、それがこうまで裏目に出るとは、一体なんて事だよ。
俺は、ヒロシ達に「ありがとうな」と御礼を言いつつ、そんな事を思い溜め息をついた。



…でも。
何度溜め息をついたって、何度後悔したって。
俺とあかねの間に流れているギクシャクした雰囲気は消えることがない。
それは、徐々に当事者の俺達以外にも知る所となって、



「あかね、電話よ」
「…誰から?」
「さー…聞いたこと無い名字の男の子だったけれど」
「そう…」



中村さんが俺に言い寄ってくるように、これを機会にとあかねにモーションをかけてくる男も増えたようだ。
噂によると、誰か…恐らく中村さんだろうけれど、あかねに気がある男に、「頑張ってみたら」と助言しているヤツがいるらしい。
大方、それであかねが誰かになびけば一石二鳥だとでも、考えているのだろう。
ここ数日で何回か、あかね宛に電話をかけてくるやつが増えた事に、俺は更にイライラしていた。
根が真面目なあかねは、もちろんその電話をいきなり、「迷惑です」と叩ききる事はしない。
丁寧に話をして、それでやんわりと断る。
「ごめんね、その日は都合悪くて…うん、ちょっと今は予定、立てることができなくて…」
…あかねが廊下で電話をしているその声を、俺は偶然通りかかったフリをして、
しっかりと盗み聞きをしては、何だか一人焦がれていた。
デートの誘いでも受けているのだろうか。
そう考えるだけで、何だか喉がからからになる。
「ごめんね…」
…そうは言っても、大抵は、相手の申し出を断って十五分くらいで電話を切ってしまうあかね。
でも、何度目かの誰かからの電話だったろうか。

「…今週の日曜日ですか?…はい、それなら…大丈夫です」

…いつもは、どんな相手からの誘いも丁寧に断っていたあかねが、突然、そんな返事をして相手からの申し出を受けてしまった。

「!」

聞き間違いだよな?
初めは信じられなくて、何度も自分にそう言い聞かせようとしていた俺だったけれど、

「時間は…はい、それぐらいからだったら…。あまり夜は遅くないほうがいいんですが…」

あかねは、更にそう続ける。どうやらさっきの言葉は聞き間違いでは無いらしい。俺はそれを思い知った。
驚いた俺は、思わずそのままその場に立ち止まって電話を聞き入ってしまった。
「…はい。はい。じゃあ、明日の土曜日にまたゆっくりと…いえ、誘っていただけて、嬉しいです」
あかねは、背後で立ち止まった俺の事など全く無視して、電話の向うの相手と、そんな会話を続ける。
雲行きは、完全に怪しい方向へと進んでいた。

「…」

俺は、思わずゴクリ、と息を飲む。そして、ぎゅうっと…身体の横で拳を握り
締める。

…ドキドキしていた。
胸が鼓動するたびに、頭が真っ白になった。
『あかねは今、俺以外の男とデートをする誘いを受けたのか』
そう思うと、何だかじっとしていられない衝動に駆られる。
『誘っていただけて嬉しい』って…今、言っていなかったか?
…そう考えると、何だかそれを聞いていた耳が、耳鳴りを起こしたかのようにボワーっとする。

「…はい、こちらこそ…。それじゃあ、おやすみなさい」
そんな事を俺が考えている内に、あかねがそう挨拶をして、その電話を切った。
チン。あかねが、受話器を置いた音が、静かになった廊下に響き渡る。
「…今の…誰?」
俺はドクン、ドクンと身体中に響き渡っている胸の鼓動音に負けないように声を振り絞って、あかねに尋ねてみた。
でも、
「…別にいいじゃない、誰だって」
それに対し、あかねの答えはそっけない。
そんなあかねの言葉に、俺はズキっ…と胸に痛みを感じた。
…いつもなら、
「今のはね、隣のクラスの男の子なんだー」
とか。別に隠す事もなく快く、あかねは俺に答えてくれたはずだ。
それが、今日はどうだ。
答えるどころか、俺と会話をしようと。そういう姿勢さえも、見せてはくれないのか…。

「…」

三日ぶりに交わした会話とは思えないほどそっけないその言葉に、俺は思わずグッとつまってしまった。

「…」

あかねは、そんな俺を無視するようにさっさと、階段を駆け上り自分の部屋へと戻っていってしまった。

「…」

何だか、このままではあかねが本当に、手の届かない所へといってしまうのでは無いか。
何で、他の男と…。

「…」

考えたくなくても、そんなことが何度も何度も頭の中を過ぎる。
…早く、何とかしなくちゃ。
階段を駆け上がり、二階の廊下をトタトタと走っていくあかねの足跡を聞きながら、俺は大きなため息をついた。

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