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Intersection1

こんなにも近くにいるのに。
それなのにどうして、たった一言、自分の思いを伝える事ができないのだろう。
それは決して難しい言葉では無い。
誰でも知っている、簡単な言葉。
誰でも知っている、たった一言で相手を、幸せにすることが出来る言葉。
『好き』
…このたった二文字の言葉が、今日も俺の口からは出てはくれない。
たった二文字、たった一言の言葉が、俺の心を悩ませる。
俺は今日も、それをあかねに伝える事が出来ない。





中国呪泉洞の戦いを終え、俺達が日本に帰ってきてから既に二ヶ月近くが経とうとしていた。
一時は祝言まで挙げることになっていた俺とあかねだったけれどが、お互いの(というか、俺のなのか)身辺整理が不足していたせいもあり、それもおじゃん。
結局の所、俺とあかねの生活も、そして二人の関係も。
見た目では、日本から旅立つ前とあまり変化は見られなかった。
そう、「見た目」は変らなかった。
でも、「見た目」は変らないけれど…確実に一つだけ、日本を旅立った時に比べて変わったものがある。
あかねは、それに気がついていないかも知れないその変ったものとは、
…それは、俺の、あかねに対しての「感情」。
二ヶ月前に日本から旅立つ前から、本当は俺にだってわかっていた。
俺が、あかねの事を好きだ、ということくらいは。
でも、それまでは自分の胸の中だけに止められていた事も、最近では、意識をしていないとすぐに表にでる。
それが、俺の言う「感情」だ。
いい良いかたをすれば、「意識をしていないとすぐに表にでる」だけれど、
言い方を変えれば、「抑えていた感情を制御しきれなくなってきた」と言うことだ。
「好きだ」と言う気持ちが溢れ出す。
素直にそれを伝えれば言いだけの話だけれど、それが出来ない。
一度溢れ出させてしまったら、きっともう制御する事なんて出来ない。…何をするかわからない。
そんな気がした。
だから俺は、次から次へと溢れ出しそうなその感情を、強引に元の器の中に押さえつけようとする。
そう、それは時に、あかねに対して酷い暴言を吐いて「傷つける」という行為を伴いながら、だ。

昨日だって、
「みてみて、乱馬!このワンピースね、新しく買ったの」
…友達との買い物から帰って来た後に、
無邪気に新品のワンピースを着込んでは、俺に見せようとやってくる、あかね。
「…」
自分でいうだけあり、確かにそのワンピースは、あかねに良く似合っていた。
白くて、フワフワの生地で。元々可愛い顔立ちをしているあかねが、更に引き立つような服だった。
ひざ丈くらいのスカートで、ところどころに「フリル」って奴があしらってあったり。
初夏から真夏向けの仕立てなのか、袖はノースリーブ。
だから、あかねの華奢な白い腕がくっきりと外に出ている状態だ。
腕のところから胸の部分の布が、良く見ると透けているので、つけている下着によっては、随分と刺激的な服になりそうだ。
それに、ぐっと切れ込みが入っているので、
「…」
あかねがくるっと回るたびに、胸が揺れるのが…分かる。俺には、分かる。
「…」
…そういうのを全て総称しても、
…可愛い。
あかねがわざわざ自分で主張しなくても、純粋にそう思った。
ワンピース、すげえ似合っている。純粋に、そう思えた。
でも、
「…くだらねえ」
「な、何よその言い方はっ」
「うるせえなっ。寸胴女のそんな服見せられたって、時間の無駄でくだらねえって事だよっ」
「なっ…なによっ。人がせっかくっ…」
「見せてくれなんて、頼んでねえだろっ。見せられたってこっちは困るんだよ」
俺は、思ってもないことを次々と口に出す。
「困る」
そう、確かに俺は困っていた。でもそれは、俺が今言ったみたいに「見せてくれなんて頼んでないのに見せられて」困っているのではなく…ただ単に、目のやり場に「困っていた」だけだ。
それに、そうやって服を着て見せられても、
俺は「服を着たあかね」ではなく、すでに「あかね」だけしか、見ていない。
ひらっとスカートをなびかせて回るあかねの、そのチラッと見える太ももとか。
ぐっと切れ込んだ胸元の谷間とか。
どうしても、「洋服」とは関係のないところに目が行ってしまう。
見つめてしまうのは、可愛い服を着てニコニコしていたあかねじゃなくて、「可愛いあかね」そのもの。
このままでは、そんなあかねに手をかけてしまうかもしれない。
妙に滾るような感情が、俺の中には生まれていた。
だから、
だから…そんなことになってはダメだと思うがゆえに、
「…そんな姿で俺のトコ来んなよ」
思わず、そんなことまで口に出す。
以前よりももっと、もっと乱暴な口調であかねに主張をする始末だ。
「…」
そんな俺に対し、あかねはただ、その着ていたワンピースをギュッと握りしめて俯いていた。
「…」
俺は、そんなあかねから目をそらして、やがて顔もそむける。
…俺達の間に、静かな時が流れた。
きっと。
これまで…ニヶ月前までの俺達なら、俺がこんなことをあかねに言おうものなら、
『何よ、らんまのバカーっ』
と、あかねの鉄拳でもとんできそうなものだけれど、
「…」
きっと、俺が変わったようにあかねも変わった。
こういう時は決まって勝ち気に振る舞うあかねは、
「…」
俺の言葉を受けてただじっと、俯いていた。
そして、小さな声で決まってこう呟く。
「そうだよね、ごめん」
と。
……

堪らなかった。

そんな顔で、そんな声で謝られると、胸に鋭い痛みが走る。
だって、あかねは何も悪くない。
悪いのは、自分の感情を歪んだ形でしか表現出来ない俺。
「…着替えてくる」
「あっ…」
…そうこうしている内に、あかねは俺の前から走り去ってしまった。
たった一言、素直に似合っているよと、伝えられたら。もしかしたら、そこで何かが変わったかもしれないというのに。
いや、それだけでなくて、もうそろそろ、ちゃんと好きだと伝えられたら。
そしたら、少なくともあかねの、あんな悲しそうな顔を見ることはないだろうに。
「…」
何とかしなくてはいけなかった。
このまま、こんな状況では、俺もあかねも、おかしくなってしまう。
「…」
暴言を謝ろうと訪れた部屋の前で、結局はドアをノック出来ずじまいで戻って来てしまった俺は、自分の不甲斐なさにほとほとため息をついてしまった。




その、翌日。
「…」
昨夜から引き続き、気まずい雰囲気が俺達の間では流れていた。
最近は極力、あかねの隣を歩こうとしていた俺も、今日はフェンスの上を歩いている。
道を歩こうがフェンスの上を歩こうが物理的な距離なんてさほど変わらない。
けれど、それをそう感じないのは、俺と、そしてあかねの心の距離が少し遠いのかもしれない。
「…」
俺は、フェンスの上からチラリとあかねの横顔を盗みみた。
キラリと眩しい朝日に照らされた、あかねの横顔。
長くて人形のようにくるんとしたまつげも、日に透かすと少し茶色く見える艶やかな髪も、その一つ一つのパーツ全てが、あかねの魅力を引き立てる手助けをしている。
…こいつ、最近本当に可愛くなったな。
いや、それまでだってすげえ可愛いと思っていた。
でも最近、更に輪をかけて…というか。毎日一緒にいる俺だって分かるくらいなんだ。他の奴には更にそれが分かるんじゃないだろうか。
…絶対に、前にも増してあかねに惚れている奴はいるだろうな。
「…」
ふとそんなことを思った俺の胸は、ドクン、と大きく鼓動した。
…たとえ、許婚だって。
お互いに気持ちがなければ脆い絆だ。
気持ちが通い合っていない許婚同士と、気持ちが通じあっている恋人同士。
どちらがいいかなんて、一目瞭然だ。
時には、大切な気持ちを言葉に出さなくてはいけない時がある。
もしかしたら、それがこの、今の状況かもしれないな。

「…なあ」
…俺は。
思い切ってあかねに切り出してみた。
「なに?」
ふと歩みを止めて、あかねが俺を見上げる。
「あの…さ」
「うん…」
「その…大事な話があるんだけど」
「うん…」
俺がそう切り出すと、あかねが一瞬、びくんと身をすくめた。
「な、何だよその反応はっ」
「だ、だって急に話がある、なんて言うから…」
あかねはそういいながらフイっと横を向いてしまった。
「あ、ま、まあな…」
俺もなんだか居心地が悪くて嫌な汗を流しつつ、
「その…今日の放課後、どっかで話さないか」
と、意を決してそう切り出した。
すると、
「…嫌な話し?」
あかねが、ぼそっと俺にそう尋ねた。
「…わかんねえ。でも、俺にとってそれは、お前に遠からず言わなくてはいけない事だから」
俺がぼそぼそとそう答えると、
「…じゃあきっと、あたしにとってもいい話しだね」
あかねが、嬉しそうな笑みを浮かべてそう答えた。
「…ああ、きっとな」
俺もそうあかねに言った俺も、何だか自然に顔を緩ませる。
…まだ想いこそ打ち明けてはいないけど、あかねに笑顔を見せられてきっと、俺は安心したのかもしれない。
この告白は、多分きっと、上手くいく。と。

「じゃあ、放課後、そうだな…視聴覚室でな」
「うん」
きっとあかねだって、俺が言わんとしていることが分かっているにちがいない。
それでも呼び出しに応じてくれたのは、
「…」
きっと、あかねも俺と同じ気持ちなんだ。
そう思うと、俺はそれだけでも心がはやった。
「忘れんなよ」
「そっちこそっ」
俺達はそんな事を言いながら、学校へと向かっていった。
「はあ?今更、あかねに告白だあ?」
「しっ…声が大きい!」
「あのなあ、乱馬。お互いが好きあってんのにその気持ちを知らん振りしてるようなのは、お前とあかねの、当人同士だけだぞ?」



…昼休み。
俺が、ようやく昨日一晩考えて出した自らの決意を、友達のヒロシと大介を屋上に呼び出して伝えると、「エール」どころかそんな呆れた声が返ってきた。
「俺は、お前らとっくに付き合ってるもんだと思ってたぜ」
「そ、そんな事あるわけねえだろっ」
俺が慌ててかぶりを振ると、
「あんな可愛い子が許婚で、しかも同じ家に住んでて。挙げ句の果てに、どう見たって好きあってんのによ。なのに、手を出さないお前が信じられねえ」
「し、仕方ねえだろっ」
「両親も公認だってのになあ。つくづく奇特な男だな、お前は」
「よ、余計なお世話だっ」
「それともお前まさか…」
「な、なんだよっ」
「…男が好きなのか?」
「ば、ばかやろー!そんなわけねえだろ!」
「だよなあ」
ヒロシも、そして大介も。
なんだかちょっと、俺を哀れみの入ったような目で見る。
ヒロシ達に言わせると、
俺と、そしてあかねのやり取りというかじれったい姿は、
「いっそのこと、同じ部屋に詰め込んで一晩過ごさせてえくらいだ」
…な状態らしく、
「告白ったって、あまりのデキレースに応援する気も失せるぜ」
「くっ…」
「安心しろよ、誰がどう考えたって、失敗しねえよ」
「う…」
「それよりも、もっと別の心配しとけよ?告白しちまったら、一気にことが進むかも知れねえだろ」
「そうだよ。いっそのこと、その場で押し倒せ。な?最低でも、キスはしろ。いいな?」
と、俺が今日の放課後告白する、と言うことよりも、「それ以降のこと」をえらく心配している始末だ。
「きっ…キスっ」
ヒロシ達の言葉に、俺は思わず言葉を詰まらせて顔を赤くする。
…そうだ。
今の俺は、「告白」することで頭がいっぱいで、そこから次の段階の事を全く考えていなかった。
た、例えば…ヒロシ達が言うように、告白が上手く行ったとする。
そしたら俺、どうする?
放課後の視聴覚室で、薄暗い室内で。
ようやく、長い間秘めていた思いを打ち明けたら、相手もOKしたんだぞ?
あかねが、あかねが俺の事を好きだって、気持ちを受け入れてくれたんだぞ?
きっと、いつもみてえにすげえ可愛い顔して、俺の事見てたら、
そしたら俺は…
「…」
俺は、更に真っ赤になりながら自分の口を手で抑える。
…俺があかねと、「キス」するのか?
改めてそれを考えると、何だか妙な気分だ。
どうしてだろう。その前段階の「キス」シーンを思い浮かべようとすると、何だか妙に、胸がドキドキとする。
いつも一緒にいても、同じ家に暮らしていても、許婚でも。
お互いまだ気持ちを確認しあってないのと、そして、「親同士が決めた」という肩書きというか何というか…それがあるゆえ、俺とあかねはまともにキスをした記憶がない。
だいたい、俺のファーストキスは…思い出すのもおぞましい、「あの」三千院帝。
次が、どうしたわけか(半分は事故のようなものだったけど)、シャンプー。
その次は、どうやら俺が「猫化」している時に、一方的に俺からあかねにしたらしい…が、
残念なことに、俺にはそんな、記憶が無い。
それにそのことで、あかねも傷つけてしまったし…。
「…」
…なんで、誰よりも大切な人とキスできないのに、望んでいないようなキスばかりしているのだろう、俺は。
考えてみたら、変な話だ。

「…」

どうなんだろうか。
それは、どうなんだろう。
…俺は、何だかドキドキとしている自分自身に、問いかけてみる。


…そりゃあ?俺だって男だし。高校生だし。
ヒロシ達が言っていたみたいに、女に興味が無いわけじゃない。
それに加えて、あかねは、その…客観的にも見ても、可愛い。
それに加えて最近は、傍にいる俺が見ても「綺麗になった」って思うし、
「ばかねえ、あんた。女が綺麗になる理由なんて一つじゃない。好きな男のためよ」
…あの辛口ななびきが、しょっちゅう、俺にそんな事を囁いてくる始末だ。
「な、何で俺に、そんな事言うんだよっ」
「あんたに言わないで、誰に言うのよ。ねー、もういい加減観念して、あかねに告白してあげたら?じゃないと、ホントに誰かに取られちゃうわよ?」

「…」

…取られる?
あかねが?
あかねが、誰か別の男に取られてしまう…?

「…」

なびきにそう吹っかけられても、どうしても俺は、それが想像出来なかった。
いや、想像は出来るのかもしれないけれど、想像なんてしたくなかった。

「…」

…自分の。
俺が自分の気持ちをしっかりとあかねに伝えれば、あかねはずっとそばに居てくれるのか?
それだったら俺は…

「…ま、とにかく、だ」
ヒロシは、そんな俺の姿をニヤッと笑いながら見つめ肩をポン、と叩くと、
「そんな緊張しなくても平気だって。ほら、いつも格闘する時みたいに強気でいけよ。そん時はいつも、あれだろ?負けないつもりで挑んでんだろ?」
「そ、そりゃそうだけど…」
「これだって同じだって。しかも、デキレースだ。お前は負けねえから安心しろ」
と言って、親指を立てた。その横では、大介も頷いていた。
「…」
俺は、納得したような、でもまだちょっと確信がもてないような…そんな複雑な表情で頷く。
そんな歯切れの悪い俺に対し、
「格闘、と名のつくものには負けねえんだろ?恋愛もまた格闘だ」
ヒロシが、葉っぱをかけるように叫んだ。
「お、おうっ…」
俺は、ヒロシの言葉にしゃきっと背筋を伸ばし、でも弱弱しい声で答える。
「お前なあ…。何でそんなに、あかねに告白すんのに自信を持てねえんだよ。シャンプーちゃんとか右京とかには、普通に話したり振り払って逃げたりするくせに」
  皆と同じように接しながら、『実はさ…』って話切り出せばいいじゃねえか」
「あ、あかねはその…違うんだよ」
「違うって、何が」
「な、何か最近、特に意識しちまって…」
「あかねだって、他の女だって一緒だっての。ってく、信じられねえなあ、お前は」
ヒロシも、そして大介も。俺の情けないようなこの発言に大きなため息をついていた。
「し、仕方ねえだろ」
…何が仕方ないのかは自分でもよく分からないけれど、俺はとりあえず自分自身にそんな言い訳をしてみる。
自分でもよくは分からないけれど、そう、確かに他の女とあかねは「違う」。
優しい言葉も、誉め言葉も。
例えば、かすみさんとかなびきとかにならば、
「お、その服いいな」とか簡単にいえるのに。何故かあかねには、そんな簡単な言葉さえも、最近はかけてやることが出来ない。
ほんの少しの気遣いも、指先程度の優しさも。
「悪いな、邪魔しちまって。俺、向うにいってるな」
例えば、他の人になら簡単にそうやって振舞う事はできるのに。
「邪魔だよ、そこ。どけよ」
…なのにあかねには、それさえも出来ない。
中国に行く前の俺は、一体どうやってあかねと接していたんだっけ?
それさえも、今では思い出すことが出来ない。
本当は、愛しくてたまらない。この手で、なんとしてでも守ってやりたい。
ずっとずっと、触れていたい。
…そうやって思っているはずなのに、そう思えば思うほど、俺は「正反対」の事をあかねに対してしてしまう。
大切だからこそ、遠ざけてしまう。
あかねとの接し方が分からなくて、このままでは酷い事をしてしまうかもしれない。
自分の気持ちや欲望が抑えられなくなった俺は、その歪んだ欲望を…強引にあかねにぶつけてしまうかもしれない。
あかねの気持ちを無視して、強引にあかねを手に入れること。
それがどんなに酷い事で、そしてどんなに彼女を傷つけるか。俺には分かっているつもりだった。
だから…
大切な人を傷つけたくないから、俺は、あかねが傷つかなくてもいいように遠くへ、遠ざけようとする。
そう、
例えばそれは、まるで壊れそうに繊細なガラス細工を扱うかのようだ。
風が吹いても壊れないように、少しの揺れでも倒れないように、汚い手で、誰にも触れられないように。
密閉されたケースの中で、大事に大事に保管されているガラス細工のようだ。

「…」

…でも。
もう、そんなのは嫌だ。俺は、そう思った。
あかねが傷つかないで済んで、そして俺の気持ちを解放する為にも、一番良い方法は無いかと。
そしてその結果が、素直に自分の気持ちを「告白」すればいいことなのだということを。
そう悟ったんだ。
だから、俺は、決めたんだ。
だけど…
俺がそうやって勝手に決めたところで、最近の、そっけない上に何だかギクシャクした関係だった俺からいきなり告白をされた所で、あかねは、本当にそれを受け入れてくれるのだろうか…それだけが、とても、とても心配だった。
自信が無い、といえばウソになる。いくら鈍くたって、俺だって、あかねが俺に対して少なからず好意は持ってくれているんじゃないかなって…そんな気はする。
でも…

「…」

…その自信よりも、俺の最近の態度の非礼の方が、きっと印象は強いはずだ。

「…」

だから、俺は不安なんだ。

「…」
俺はそんなことを思いながら、日頃の修行で鍛え上げられた身体を小さく丸め、溜め息をついた。



と、その時だった。
「きゃっ…」
俺とヒロシ達が座り込んで話をしているすぐ横を、偶然通りかかった女生徒が、小さな叫び声をあげていきなり、前につんのめった。
昼飯を購買に買いに行っていたのだろうか。女生徒の両手には、購買で売っているパンやら飲み物がしっかりと抱えられていた。
抱えられている、という事は、もちろん両手は使えないということ。
間違いなく、このまま転べば顔面からコンクリートの床に倒れるだろう。
「っ…」
俺と、ヒロシ達のすぐ横を、まるでスローモーションでもかかったかのようにゆっくりと倒れていくその女生徒。
抱えていたパックジュースが、弧を描いて先に地面へと落ちていく。
ペショっ。
…ほどなくして地面に落ちた紙パックのジュース、角の部分が無惨にも変形した。
「…」
あーあ、もうしょうがねえなあ。
「…」
俺は小さく溜め息をつくと、その女生徒の前へ素早く、腕を九の字に曲げるように差し出した。
ドスッ…
次の瞬間、ちょうどいいタイミングで、女生徒は俺の腕に倒れこむ。
俺の差し出した腕に、その女生徒が倒れこむような形だ。
そのおかげで、彼女は地面に顔面から突っ込む事なく事なきを得た。
「あ…ありがとう…」
ただ、まさかそんな風にして助けられるなんて思っていなかったその女生徒、お礼を呟くまで一瞬間があいた。
どうやら少し、呆けていたようだ。
「…」
俺は、女生徒を支えていない方の空いた手で、彼女が地面に落としてしまったへこんだ紙パックを拾ってやった。
「あ…。あ、ありがとう…」
紙パックのジュースを差し出され、ようやく正気に戻ったようだ。
女生徒は、ぴょんっと俺の手から離れると、へこんだ紙パックのジュースを受け取って足早にその場を去っていった。
「お前すげえなあ。確かに筋肉ついているけど、そんなに腕だって太くねえのに。片手で女の子の身体を支えられる、パワーがあるんだもんなあ」
いやあ、立派リッパ…一部始終を見ていたヒロシが、そんな事を言いながら、パチパチと手を叩く。
「修行のたまものだな」
そんなヒロシに、俺はエヘン、とえばってみせるが、
「全く、恋愛に関してもそれくらい自信もってもらわねえと困るけどな」
「う、うるせー!」
…すぐにちゃかされ、笑われた。


…きっと。
もしも同じ状況で、あかねが今、俺の目の前で転びかけたらば。
もしかしたら今の俺は、手を差し出すことを躊躇してしまったかもしれない。
他の女にだったらさっきみたいに躊躇せずに手を差し出すことが出来るのに。
いや、手は出すかもしれない。
でも、差し出すまでに一瞬、躊躇するような気がする。
「助けなくてはいけない」
そう思うのに、
「触れてしまう」
…余計な事を、考える。心のバランスが、全く取れない状態だ。

「…」

俺、変だ。
それが、自分でもよく分かった。
俺は、あかねを「守りたくて」強くなろうとしていたんじゃないのか?
誰からも何からも、あかねを守りたい。
そう思っていたんじゃないのか。その俺が、
「…」
…あかねが怪我してしまうかもしれないというのに、それを防ぐべく手を差し出す、その「手」を躊躇してどうするんだ。

…でも、きっとこんな変な状況も、今日で終わりになるんだ。
そしたら俺は、今度は大腕を振ってあかねに手を、差し伸べる事も出来る。
余計な気を使って、変な態度を取ったりとかしなくて済むんだ。
俺もあかねも、もっともっと楽に、そして幸せになるんだ。
「…」
全ては、今日の俺次第、だ。
俺は、ヒロシ達にさんざんからかわれたり茶化されたりしながら、そんな事をぼんやりと考えていた。

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