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Dearest6

出会いたくないと思っている時に限って、こうして出会ってしまう不思議な運命確率。
嫌な奇跡はどうしてこんな風に起こるの?
神様って、時々すごく意地悪だ。
目の前で引き起こったこの現実に、あたしはふとそんな事を思った。



「・・・」
・・・遥か後方の空で色鮮やかな花火が鳴り響き散り行く中、あたしと乱馬は何も言わないまま向き合って見つめ合っていた。
あたしも閉じていた瞳を再び開き、乱馬の顔を見つめる。
涙はいつしか止まり、涙で濡れた頬はパリパリと乾ききっていた。
涙で少し重かった袖も、既に渇いて夜風にふわふわと揺れていた。
と、
「・・・」
ふと、乱馬が動いた。乱馬はあたしの頬にそっと、手を伸ばした。そして片手で優しく触れる。
・・・大きな手、だった。あたしはこの手が大好きだった。あたしはそれを思い出した。
ごつくて大きくて、でも温かくて・・・優しい手。
・・・でも、もうあたしのものじゃない手。
「・・・」
温かくて愛しくて、でももう届かない。それを改めて感じると、胸がズキ・・・と痛む。
あたしは、乱馬が触れている手にそっと自分の手を添えると、また目を閉じた。
涙が一筋、頬と乱馬の手を伝って地面に落ちていく。
「・・・嘘つき」
乱馬は、あたしにそう呟いた。
「・・・」
あたしがそれに答えないでいると、
「・・・嘘つきなの、お前の悪い所その一」
乱馬はそう言って、あたしの頬から手を離した。
そして今度は手ではなく、あたしの手を両手で掴んだ。
あたしの両手首は、乱馬の両手に掴まれている。
「・・・」
あたしはその手をそっと振り解こうとした。でも乱馬はあたしにそれをさせず、そのままの状態でゆっくりと口を動かす。
「・・・昨日、あれから・・・俺、考えた」
「・ ・・」
「俺さ、昨日あんな話をお前としていたのにさ、結局肝心な事言えなかった。指輪の事もバイトのことも、結局俺、それは出来ないそれは言えない、でも信じて欲しいしか言わなかった。あれじゃ、お前だって納得できないよなって・・・そう思った」
乱馬はそういって、あたしの顔をじっと見つめた。
・・・真剣な表情。まっすぐな瞳。
今までは身近に感じていたこの顔が、何だか急に知らない人みたいに見えた。
あたしは、何も答えずそんな乱馬の顔をじっと見つめ返す。
「あれじゃ、お互い何かスッキリしないし、それに・・・ちゃんと気持ちも伝わらないだろうって、そう思った」
「・・・」
「・・・全ての話を聞いたところで、こんな風に傷つけた事を、あかねが許してくれるかわか
らない」
「・・・」
「でも・・・それでも俺、ちゃんと全部、話そうって、そう思った」
俺の素直な気持ちを、全部。
乱馬はそう言って、あたしの手首を握る力をきゅっと、強めた。
あたしの胸が、その瞬間キュ・・・と締め付けられた。
・・・話されてあたしが乱馬を許さないようなこと。
それってきっと・・・美由紀さんに心変わりした経緯。
素直な乱馬の気持ち。
それって、きっと、彼女へ指輪を贈る位盛り上がっている、想い。
「・・・」
・・・改めて聞いたところで、一体別れたあたし達の何が、変わるの?
もう、聞きたくないよ乱馬・・・あたしはきゅっと唇を噛んだ。
それとも、こうして改めて乱馬の口から美由紀さんへの思いや心変わりの経緯を聞いたら、
あたしは前に向いて歩いていけるの?
そうさせる為にも、そうしようとしているの?
それとも、あとくされなくあたしとは関係を終らせて、美由紀さんと気持ちよく歩いていきたいからそんな事を言うの?
「・・・」
そんな事を考えている内に、あたしはこの場から逃げ出したくなった。
胸は、そんなあたしの焦燥感に比例して鼓動を増す。
あまりにも鼓動が大きくなって胸を圧迫して、呼吸が止まってしまうかと思った。
「もういや・・・」
あたしは、乱馬の掴んでいる手を強引に振り解き、自分の耳を手で押さえる。
「あかね」
乱馬は、そんなあたしの手を耳から強引に離した。
あたしが涙を溜めた目で乱馬を見ると、
「まず、俺の今の素直な気持ち、聞いてほしい」
「・ ・・」
あたしは首を左右に振った。でも、
「聞いて欲しい・・・」
乱馬は首を振って自分の話を拒絶しようとしたあたしの、手首を再び抑えた。
そしてそのまま、あたしの額に自分の額を押し付けて固定した。
「っ・・・」
人の身体って不思議だ。額を押さえつけられると、動く事が出来ない。
もう、あたしは逃げられない。手も使えないから耳を抑える事もできない。
あたしが大きな瞳をユラリと揺らしながら乱馬を見ると、
「あかね」
乱馬は一度大きく深呼吸をして、あたしの名を呼んだ。

「・・・」

・・・ああ。
あたしは乱馬の口から伝えられるだろう、新しい彼女への想いを想像し唇を震わせてため息をついた。
が。

「俺・・・お前がそうしたいって願ったとしても、お前と別れるつもりないから」
「え・・・?」
「お前はもう別れたつもりでいるかもしれないけど、でも俺・・・そんなつもりないから」
「な、何言っているの・・・だって・・・」
「・・・俺、昨日もそう言った。でも、絶対にお前、俺の話を聞いてないと思ったから。だか
らもう一度伝えなくちゃって思った・・・お前に会ったら最初にこれ、伝えなくちゃって」
「・・・」
「人の話を最後まで聞かないところ・・・お前の悪い所、その二」
乱馬はそう言って、瞳を大きく揺らして驚いているあたしの額に、ゴチンと自分の額をぶつけてそう呟く。

「・・・」
額にジンワリと伝わる痛み。でも、そんなことが全然気にならないあたし。
それどころか、一体乱馬が何を言っているのか理解が出来なくて、あたしは混乱していた。
素直な気持ちを言うって言ったのに、
美由紀さんと今日、デートまでして指輪を渡して花火まで見に来たくせに、
あたしに信じてもらうよりも、美由紀さんの笑顔を取ったくせに・・・何で別れるつもり、無いの?
何言っているの?
乱馬、何を・・・何で?何で気持ちがないのにまだあたしと付き合おうとするの?

「・・・」
・・・何言っているのか、全然分からない。

あたしが目を伏せてきゅっと唇を噛むと、
「・・・」
乱馬は大きなため息をつきながら、そんなあたしの身体へと素早く腕を回した。
「い、いや・ ・・」
あたしが咄嗟にその腕から逃げようとするも、
「だめだよ、離さない」
「乱馬・・・」
「俺の話、全部聞くまで離さない」
「・・・」
「離すと、また一人で泣いたり余計な事ばかり考えるから・・・離さない」
乱馬はそう言って、腕を回したあたしの身体を素早く抱き寄せた。
「・・・わかんない」
「・・・」
「乱馬が何考えているか、わかんないっ」
「・・・」
「きっと話聞いても、分からないっ」
だから離して・・・あたしは乱馬の腕の中でそう叫んだ。
離してもらおうと身体を捩っても、乱馬の力はやっぱり強い。あたしか暴れ様が何しようが全然変わらない。
「あたしに信じさせることよりも・・・」
彼女の笑顔を守る事を選んだくせに・・・あたしが乱馬の腕の中で小さくそう呟くと、
「・・・」
乱馬は一瞬何かを考えた様子であたしを見た。
あたしになんと話を切り出すのか、考えているようだった。
「名前まで刻んだ特別な指輪をあげる人がいる人が、どうして気持ちもないのにあたしと別れないの・・・」
あたしは、自分の持っている全ての力を振り絞って乱馬の腕から逃れた。
そして、
「あたし・・・もう行く」
もうこれ以上乱馬の話は聞きたくない、と、乱馬の横をすり抜けるようにしてその場から立ち去ろうとした。
その瞬間、

「・・・RtoM」

乱馬がそう呟きながら、逃げようとしたあたしの手首を掴んだ。
「痛ッ・・・」
その驚くほど強い力にあたしは顔をしかめる。
「RtoM」
乱馬は、顔をしかめたあたしの手をゆっくりと手繰り寄せると、もう一度そう呟いた。

「・・・」

RtoM。指輪の裏に刻まれた名前。
乱馬から美由紀さんへ。その名前が一体、何だというのだろう。
あたしが自分を手繰り寄せた乱馬をじろりと睨むと、
「RtoM・・・Mは確かにあの人の事だけど、Rは・・・」
「乱馬でしょ・・・それが何よ」
「Rは俺じゃないよ」
「嘘!なんでこんな時になってもまだ嘘を・・・!」
「何でRって聞いただけで俺と結びつけるんだよ。俺、RtoMが俺からあの人へって意味だってお前に話したか?」
「そ、それは・・・」
「Rなんて・・・Rなんて一杯いるじゃないか。乱馬じゃなくなって、例えば良牙だってRだ
ろ」
「でも・・・!」
「Rは、椋。椋から美由紀へ。そういう意味を込めてあれ、刻んであるんだよ」
乱馬はそう言って、小さなため息をつく。
「そんなの信じられない・ ・・だいたい椋って誰よ。それに・・・それに乱馬が指輪をあげるのにどうしてそんな名前を彫るの!?あたしをバカにするのもいい加減に・・・!」
あたしは乱馬の良く分からない説明にカッとなって、乱馬のその手を振りほどこうとした。
すると、
「あの指輪は・・・プレゼントじゃないんだ」
「え?」
「あれは・・・あれはそういうのじゃなくて、その償いというか・・・」
「つぐ、ない・・・?」
「償いって言うか、弁償・・・。あの指輪・・・RtoMと刻まれたあの指輪は、元々あの人が恋人の椋って人に貰った奴で、俺はその・・・それを無くさせちまって」
「・・・」
「・・・だから、弁償してあの指輪をあの人に返して、それであの人が喜んでくれれば俺としてはそれで・・・」
「嘘・・・そんなの嘘だわ」
「嘘じゃないよ」
乱馬は、振りほどこうとしたあたしの手を再びしっかりと握りなおすと、くっと引っ張って自分の方へと再び引き寄せた。
そして、ふらりと自分に近寄ったあたしを石畳に座らせると、自分もその隣に座り、あたしの手をしっかりと掴まえる。
「・・・俺、いつもみたいにシャンプー達に追いかけられている時にさ、偶然町中で、歩いて
いたあの人とぶつかっちまったんだ」
「・・・」
「その時たまたまあの人、貰った指輪を指から外して、はめなおそうとしていたみたいで・・・でも俺とぶつかって、指輪が地面に落ちて排水溝に落ちちゃったんだ」
「え?」
「慌てて排水溝を覗いたけど、流れちまったみたいで・・・」
乱馬はそう言って、大きなため息をついた。
・・・その後、乱馬は指輪を無くされた事で泣き出した美由紀さんに謝り、その指輪を弁償さ
せて欲しいと申し出た。
でも、指輪の値段やブランドを聞いたら何だかとても高そうで、高校生のお小遣いじゃ買えないようなものだと判明した。鑑定書を見せられた乱馬は、かなり焦ったようだ。
「あの人の彼氏・・・椋って人、もう社会人らしくてさ。今単身赴任でこの街にはいないらし
いけど、それもあって、あの人が欲しがっていた割と値の張る指輪をプレゼントしたらし
くって」
「・ ・・」
「婚約指輪とかじゃ無いけど、失くした事がバレたら凄く怒るだろうから、そっくり同じモノを返して欲しいって。失くしたとはいわずに「修理した」って彼氏には言っておくからって言われて・・・それで、指輪を返す約束をしたんだ」
・・・だけど、指輪を返すにしても乱馬は貧乏学生。どうやってお金を稼ごうかと悩んだら、
「たまたまあの人のバイト先で、短期間のアルバイトを募集していて・・・それで口利きして
もらって、雇ってもらったんだ」
指輪のお金を稼げるように、初めに金額を算出してその金額をアルバイト日数で割る。
出た一日辺りの金額を元に、乱馬がそこでする仕事の内容を、お店の方で割り振ってもらった。
おかげで仕事は高校生のアルバイトとは思えないくらいハード。毎日、夕方の開店準備から九時近くまで休憩なしでみっちりと働いた。
それに加え、
「あと、あの人の機嫌取り・・・じゃないけど、週明けに単身赴任の彼氏がこの町に戻ってく
るまで、バイトが終った夜の時間帯に、家の近くまで送ることとかして・・・その・・・」
・・・今すぐ指輪を返せ、とか機嫌損ねて言われないようにと、彼女のご機嫌取りをしていた、と乱馬は言った。

「・・・」

・・・ああ、だから腕を取られても何を言われても、甘えられても買い物に付き合わされても
乱馬はなにも美由紀さんに言わなかったのか。

それに、言われてみると昨日のあの場面で美由紀さん、
『お互い別れてもう、付き合うしかないねあたし達』
て言っていたっけ。あの時あたしは気が動転していて聞き流してしまったけれど、「お互
い」っていうことは、乱馬にも、そして美由紀さんにも相手がいるってことだ。それがまさか「椋」って名前だとは・・・ あたしはふと昨夜の光景を思い返し、今更ながらはっと、なる。
・・・
「指輪は、今日の午前中までのアルバイト代で全部金額も用意できたし、あの人が買ったのと同じモノを・・・名前もちゃんと入れてもらって、弁償した。そりゃ、彼氏が心を込めて買ってくれたのと俺が弁償したのとでは全然違うけど、でも・・・俺があの人に対して出来る限りのことは全部、した・ ・・」
乱馬は話を黙って聞いていたあたしに、一言そう言った。
「俺がバイトしているのをあかねに黙っていたのは、その・・・俺がやっちまったこんなことを知られたくなかったのと・・・俺がこんなことをしているのを知ったら、絶対にお前、何とかしようとするから・・・」
「・・・」
「俺のためにバイトしようとしたり、お金、少しでも出そうとしたりとか・・・それだけはどうしてもさせたくなかったから・・・」
「・・・」
「バイトのことを説明したら、指輪の事は必然的に話すことになる。俺、あかねにも指輪贈ったことないのに、それなのに他の人に例え弁償でも指輪を送るために働いているってあかねが知ったら、嫌な気分になるかなって・・・そう思ったから・・・」
乱馬は小さな声でそう呟いた。
「でも・・・昨日あかねにバイト先であんな所見られて、あんなに泣かせて・・・信じて欲しいのに理由は話せなくて、そしたらこんなことになって・・・」
「・・・」
「もし俺が反対の立場だったら・・・やっぱりあんな中途半端な説明と信じてくれて言葉だけじゃ信じられないなって、そう思ったんだ。だから、話そうと思った」
乱馬はそこまで言って、更にあたしの手を掴む力を強くした。
「・・・」
あたしは何も言わず、乱馬から顔をそむける。
「・・・これが、俺の全て」
乱馬はそんなあたしに、先ほどと同じようにまた額を寄せながらそう呟いた。
「乱馬・・・」
その仕草にあたしが驚いて声を洩らすと、
「俺、本当に何でもないから・・・浮気とかそういうの、本当にしてないから」
「・・・」
「俺は、絶対に別れない。終らせない。絶対に終らせないからな」
乱馬は低くて、そしてしっかりした声でそう呟いて更にあたしに身を寄せる。
あたしはそんな乱馬の体温を感じつつ、混乱している頭を整理しようと必死だった。
指輪の事、バイトのこと、全ての事情・・・いきなりそんな事を言われても何だかよく分から
なくなる。
指輪は愛する気持ちを込めて贈ったものではなく単に弁償をしたもので、バイトはその指輪を弁償する為にやっていた。
指輪の事を知られたくないから、もちろんそのために働いているって事も知られたくなかった。
腕を取られてもべったりとくっ付かれても、彼女の機嫌を損ねさせない為には仕方がなかった。
・・・

それが乱馬の主張。
それをあたしに信じろという。

「・・・」
・・・

昨日あんな風に話を終わらせて、
あたしはあれで乱馬と終ってしまったと思い今日これまでこうしてきて、色々考えて・・・
全てが誤解だって、そんな事を急言われたら何だか訳が分からなくなる。
そりゃ、誤解だったらあたしは嬉しい。
乱馬の事があたしは、凄く好きなんだもの。全ての事情がそうで、誤解であるならば・・・また元通りの幸せな時間を取り戻せるなら嬉しい。
だけど・・・

「・・・」

だけど、本当に信じていいのかな・・・。
またこれが、乱馬が誰かと考えた対応策とか嘘だったら・・・
「・・・」
そうだったら、あたしはもう・・・
「・・・」
あたしがそんな事を思いながら躊躇っていると、
「・・・今日な、朝出かける前に俺、なびきに言われたんだ」
乱馬は、あたしの額に自分の額を摺り寄せたまま、小さな声でそう呟く。
「お姉ちゃんに・・・?」
あたしがはっと息を飲むと、
「あいつ、昨日俺の代わりにあの人を家までタクシーで送ったんだって」
「え?!お姉ちゃんが・・・?」
「そんで指輪の事とか色々聞いたらしくて。そんで俺、あいつにすげえ、怒られた」
「・・・」
「この数日、あかねが泣いていた事も言われた。一体どれだけ泣かせるんだって、すげえ怒られた。なのにまだ何も言わずにバイトにいくつもりなのかって・・・」
「お姉ちゃんが・・・?」
「あの子があんたを好きな分だけ、隠されていた事もあの現場を見た事だけでも辛いのにって。それに、困った時の為に、家族がいることも忘れているのかって、それも言われた」
乱馬はそう言って、ちょっと困ったように笑っていた。
どうやらお姉ちゃんは、そう言う事情なら自分に話せば無条件でお金くらい貸してやったのにと、それも乱馬に対して怒ったみたいだ。
それは、お金を貸した事で乱馬に借りを作るのが目的なのではなく、
あくまでもお金を貸して問題をややこしくしない事で、あたしが傷つくのを少しでも減らしてやりたかった・・・そういうことみたいだ。
「お姉ちゃん・・・」
あのお金にシビアなお姉ちゃんのその考えに、あたしが温かさを感じていると、
「それで・・・俺散々説教された後、なびきに最後のチャンスをやるからって言われた」
「最後の・・・チャンス?」
「・・・あいつ、何とか今日の夕方の花火大会にあかねを連れ出してやるから、そこでもう一度話したらどうかって。会場から離れたあの橋の上で、お前に合わせてやるからって俺に・・・」
「!」
乱馬の言葉に、あたしははっと息を飲む。

・・・そうか、だから急に花火を見に行こうだなんてあたしに言ったのね。
あたしはお姉ちゃんの立てた作戦の完璧さに、愕然とした。

・・・お姉ちゃん。
そういえば家の玄関の鍵を閉める時、鍵を閉めたのはあたしだったのに、その鍵取り上げた。
「あたしが持っていようか」
って聞いたら、
「あたしが持っているわ」
そう言ったっけ。その方が都合良いからって。
最初から、あたしを会場に置いて一人先に家に戻るつもりだったから、鍵を・・・

「・・・」

それに。
出店でご飯を買ってくる、場所取りはお願いね・・・そう言えば、会場についてすぐ、自分だけあたしから離れる事が出来る。
全てすべて、お姉ちゃんの策略だったんだ・・・

「・・・」

あたしがそんな事を考えていると、
「・・・花火が始まる時間にあの橋に来いって言われていたからいったんだけどさ、お前いなくて・・・それで慌てて周りを探したら、神社から泣き声が聞こえたから・・・」
それで俺、ここに来た。乱馬はあたしにそう言った。
「・・・」
あたしは、そんな乱馬の言葉を受けてそっと目を閉じた。
そして・・・自分が考えていた色々な事を話し出した。

「あのね・・・」
「うん・・・」
「あたしね・・・いつもね、乱馬が傍にいるのが、当たり前だって勝手に思っていたの」
「え?」
「傍にいてくれるのが当たり前だから、大丈夫だって・・・勝手にそう思っていたの」
「・・・」
「その気持ちがいつの間にか、信じているから大丈夫、って・・・信じているって言う名目の
変な余裕になって、乱馬のことが大好きだから、あたしは乱馬と一緒にいるんだって。そう言う大切な事を、おざなりにしようとしていたの」
「・・・」
「それをなびきお姉ちゃんとか、ゆか達に忠告されて、慌てて思い直して乱馬と向き合おうと思ったら・・・乱馬には、あたしの知らない秘密があったの。美由紀さんが、いたの・ ・・」
「違うよ、あかね。俺はあの人とはホントに・・・」
「一生懸命、乱馬の気持ちを取り戻さなくっちゃって、頑張ったの・・・でもダメで、あた
し・・・」
あたしはそう言って、口をつぐんだ。
「・・・ダメじゃないよ。ダメじゃないから」
乱馬は、そんなあたしの口にそっと、唇で触れた。
「・・・」
あたしは目を閉じたまま大粒の涙を一粒零すと、
「・・・でも、あたし達は終ったのに・・・もう終ったからって、何度も自分でそれを理解しようとしても、それを理解するよりも、乱馬と楽しく過ごした事とかばっかり思い出すの・・・忘れなくちゃいけないのに、逆にどれぐらい好きだったかって、そんなことばっか・・・」
「・・・忘れなくていいから!」
「なのに、今こんなこと言われてもあたし・・・おかしくなっちゃうよ・・・何かもう、分からない・・・」
あたしはそう言って、もう一粒瞳から涙を零した。
乱馬はそんなあたしの涙を舌でそっと掬うと、すり合わせている額に軽くキスをした後、あたしの身体をぎゅっと、抱き寄せる。
そして、あたしが少し落ち着くのを待つと、乱馬はゆっくりと話し出した。
「もし、お前がもう俺と別れたつもりでいても・・・俺、さっき言ったみたいに俺はそのつもり、絶対無いから」
「・・・」
「お前が俺の事信じられないって思っているなら、俺、信じてもらうまで何度も頑張るか
ら!」
「乱馬・・・」
「何十回でも何百回でも、俺の気持ち信じてもらうまでずっと好きだって言いつづけるか
ら!振られても俺、絶対にあきらめないからっ・・・」
乱馬は、そう言って、一度口をつぐんだ。
心なしか声が、少し震えているような気がした。
「俺・・・やだよこのまま別れるの・・・」
「・・・乱馬」
「俺も・・・俺にとっても、あかねは傍にいて当たり前の存在だって思っていたよ」
「え?」
「でもさ、きっと俺も・・・何があってもあかねなら何となく分かってくれるって・・・そんな事を心のどこかで思ってかもしれない」
「乱馬・・・」
「だけど俺も今回の事で、それがすげえ驕りだってこと、思い知った。一緒にいて当たり前、なんてないんだって。好きだから一緒にいて、好きだから傍にいたいって・ ・・そうやってお互いが思っているから、二人は一緒にいるんだって、それ、思い出した。だから・・・」
乱馬はそう言って、それまで掴んでいたあたしの手を、離した。
そして、自分のズボンのポケットをゴソゴソとまさぐって、何かを取り出す。
それは、何やらぐしゃぐしゃに潰れた小さな紙袋。
乱馬はそれをあたしに差し出した。
「何・・・?」
あたしがその袋を受け取って首をかしげると、
「・・・俺の三週間のバイト代、指輪の弁償に使っちまったからもう何も残ってないんだけ
ど・・・」
「・・・」
「でも、指輪を買いに行って渡した後、特別にあそこ辞める前にバイトさせてもらって、夕方七時までのバイト代・・・三時間分ぐらいしかないんだけど」
ちょっと、開けてみて。乱馬はあたしにその袋を開けるように指示を出した。
「・・・」
あたしが言われたままに袋を開けると、中には何やら銀色に光るものが入っていた。
指でそれに触れて見ると、ジャリ・・・と何かが擦れる音。
あたしがそれをゆっくりと指で袋の中から持ち上げてみると・・・ペンダントが姿を表した。
シルバーのチェーンに、小指にもはまらないような小さな指輪がヘッドに付いていた。
これ、ベビーリングって言う奴だ。
しかもよく見ると、その小さな指輪の裏側に何かいびつだけれど彫ってあった。乱馬がこれを買ってすぐ、自分で彫ったのだろうか?

『R×A』

あーる、ばつ、えー?何、これ。あれ、もしかしてこれ・・・あたし達のイニシャル?

「・・・」

あたしがその文字ををじっと見つめながら黙っていると、
「指輪は俺、その・・・ちゃんとしたのを買いたいから・・・」
「え・・・?」
「イヤリングだとお前、よく転んだり走ったりするからすぐ無くすかもしれないし・・・その、ペンダントなら四六時中つけてもらえると思って・・・」
乱馬はそんなこといいながらあたしをじっと見つめる。

どうやら、美由紀さんとデートをしているんだってあたしが思っていた時間帯、乱馬はバイト先で特別に働かせてもらっていたらしい。
そして、給料の三時間分・・・三か月分、みたいなかっこいいものじゃないけれど、
その三時間分のお給料で、あたしと仲直りする為のプレゼントを買ってきたみたいだ。

「こんなもので、ここ数日不安にさせたこととか嫌な思いさせた事を償えるとは思ってないけど、でも・ ・・俺、このままなんて嫌だよ・・・」
乱馬はそう言って、あたしの顔をじっと見つめた。

・・・とても、真っ直ぐな目をしていた。

表情はとても不安そうなのに、でも瞳はしっかりとあたしを見つめている。
あたしは、指に触れているそのペンダントをじっと見つめながら大きく深呼吸をする。
そして先ほどの乱馬の言葉を色々と考えてみる。
・・・
一緒にいて、当たり前。
いつの間にかあたしだけじゃなくて、あたし達の間に生まれていたそんな思い。
でも、分かったの。
すれ違って、別れたと思い込んだその時に、嫌というほど思い知った。
一緒にいて「当たり前」、傍にいて「当たり前」・・・そんな当たり前なんて存在しないんだって。
好きだから一緒にいる。
愛しくて大切で傍にいたいと思うから、傍で寄り添う。
それをおろそかにしてしまったら、そんな「当たり前」なんてあるわけがないんだってこと。
その「当たり前」を失ってから後悔して、そこで自分が相手のことをどれだけ好きだった
か、大切だったか余計に思い知るだなんて。
そんな思い、もうしたくないって・・・本当にそう思った。
戻せるならば戻したい。でも戻らない時間を悔やんで、幸せの記憶ばかりが甦る時間の過ごし方も分からずに、ずっと苦しむのかって・・・そんなのもう嫌だって、思った。
・・・

「・・・戻れる?」
「え・・・?」
「あたし達、戻れる・・・?」
「あかね・・・」
「あたし達、今までみたいにまた・・・」
あたしは小さな声でそう呟いた。

乱馬に問い掛けているのか、それとも自分自身に問い直しているのか。自分でもよくわからなかった。
でも、その答えをあたしが出す前に、
「戻れるよ・・・二人で同じ事思ってたんだ、戻るに決まってる。いや、戻るというか最初から離れてないから」
それに、もし離れてしまう事があっても、俺は戻す。乱馬が、あたしにはっきりとそう答えた。
「・・・」
その言葉が、何だかとても温かくそして、あたしにとっては嬉しかった。
・・・あれだけ乱馬の事を「もう信じられない」と思っていたのに、今なら信じられる。そんな気が、した。
「約束する・ ・・?」
「え?」
「たとえあたしに嫌な思いをさせるようなことでも、絶対に嘘ついたり隠し事しないって・・・」
「あかね・・・」
「こんな風にコソコソ、一人で色々となんでも片付けようとしないって」
「ああ」
「乱馬が苦しいからこそ、一緒にあたしもいたいと思うんだって、その気持ちを忘れないって・・・約束する?」
「する・・・絶対にする!するよっ」
乱馬は、真剣な表情であたしにそう叫んだ。強い力の宿った瞳だった。
「うん・・・」
あたしは乱馬のその言葉に小さく頷くと、
「つけて・・・」
「え?」
「これ・・・つけて」
・・・ありがとう。あたしは小さな声でそう答えた。
あたしと同じ思いをもってこうして話をして分かり合えたことに、ありがとう。
あたしの事を本当に思ってくれてありがとう。そして、素敵な贈り物をありがとう。
色々な意味を込めてあたしは乱馬にそういった。
乱馬は一瞬驚いた表情をしたけれど、すぐに表情を柔らかくして微笑んだ。
そして、
「・・・あのな」
「うん」
「婚約指輪とかそういうのじゃなくてもな、自分の大切な人にこうやって贈るリングの事ってな、ディアレストリングって言うんだって」
「ディアレスト・・・Dearest?」
「そう・・・最愛の人って意味なんだって。だからその・・・これ、絶対にあかねに似合うと思う・・・」
「乱馬・・・」
「何か照れくさいんだけど、でもDearestってな、何かその・・・絶対にぴったりだと思って」
実際は完全な指輪じゃないし給料の三時間分、なんて何か格好悪いんだけどさ。
ペンダントを受け取り、そんな事を言いながらあたしの首にペンダントをつけつつ・・・ついでにあたしの体も一緒に抱き寄せながら乱馬は言った。
「・・・もう。抱きしめちゃったら、せっかくペンダントつけても見られないでしょ」
似合うと思うって、言ってくれたくせに。あたしが乱馬にそう言うと、
「いいの・・・後でたくさん見るから。素肌にしているところ、たくさんみるから。俺があげ
たペンダント、ちゃんとあかねの首に付いている所たくさんみるから」
他の所と一緒に・・・乱馬は最後はあたしに聞き取られないようにこっそりと、そんな事を呟
いてあたしの身体をきゅっと強く抱きしめる。
「もー・・・ソウイウコトするのも当たり前、じゃないんだからね」
あたしが乱馬のミゾオチに拳を叩き込んでやりながらそう呟くと、
「いてて・・・」
乱馬はミゾオチを抑え、ばつが悪そうに笑っていた。
「でも・・・特別に見せてあげてもいいかな」
でも、あたしがそんな乱馬にそっと再び身を預けながらそう呟くと、
「うん・・・」
乱馬は嬉しそうに頷くと、再びあたしの身体を抱きしめながら、何度も「うん」と頷いていた。
あたしはそんな乱馬に、数日振りにぎゅっと強く抱きつくと、そっと目を閉じてその温もりを感じた。




・・・付き合い始めた頃は、何もかもがキラキラしていた。
ちょっと触れ合うだけでドキドキして、一緒の家に住んでいるのに話が出来るだけで嬉しくて。
でもそれが慣れて来ると、何もかもが「当たり前」に思えてしまう。
朝起きて、おはようと挨拶するのが「当たり前」。手を繋いで歩く事が「当たり前」。
いつでも、手の届く場所にいてくれるのが「当たり前」。
キスしたり抱き合ったりするのが「当たり前」。
でも、人に忠告をされて焦りだして、気が付いた時には相手に秘密があると知ってそこからすれ違って・・・別れる、なんてそんな状況に追い込まれたときにようやく嫌というほど思い知る。
一緒にいて「当たり前」、傍にいて「当たり前」・・・そんな「当たり前」なんて存在しないんだって。
好きだから一緒にいる。
愛しくて大切で傍にいたいと思うから、傍で寄り添う。
辛い事があるからこそ、二人で頑張る。相手を思いあって、支えになる。
それをおろそかにしてしまったら、そんな「当たり前」なんてあるわけがないんだってこと。
その「当たり前」を失ってから後悔して、そこで自分が相手のことをどれだけ好きだったか、大切だったか余計に思い知るだなんて。
そんな思い、もうしたくないって・・・本当にそう思った。

ねえ、乱馬。
あたし達、もう大丈夫かな?
もう二度とこんな風にすれ違う事、ないかな?
・・・ああ、でも。「当たり前」がないように、「大丈夫」も絶対なんてありえないんだ。
いつでも心の中にそういう思いを大切に持っていること。それが大切なんだもの。
「当たり前」「大丈夫」・・・それは「信じている」と一緒だ。
そう言う言葉に惑わされないで、あたし達はこれからも、一緒にいれるように、傍にいられるように、お互いを大事にしていきたいね。
・・・

「・・・ねえ」
「ん?」
「来年は、一緒に花火・・・来ようね」
あたしはしばらく乱馬と抱き合いその温もりを感じあった後、そう呟いた。
「いいよ。今年はあかねのせいで約束が守れなかったからなあ」
乱馬は、そんなあたしに対して快く返事をするもそんな事を言う。
「なによー、乱馬がいけないんでしょ」
「良く言うぜ、俺と一緒に来るはずなのに、なびきと来ただろ」
やっぱりお前、嘘つきだな。乱馬がそんな事をいってあたしの額をぴん、と指で弾いた。
「じゃあなびきお姉ちゃんが、あたしをこうして連れ出してくれなくて良かったの?」
あたしがちょっと意地悪い口調でそう呟くと、
「そんなこと言ってねえだろ。なびきにも今回は感謝しているし」
「今回は、だなんて。色々してくれたのに」
「まあな。でも昨日あの人を送ったタクシー代もしっかり深夜料金プラスして取られたし、
それとは別に今夜の作戦サポート代で五千円取られたし」
「え?」
・・・そういえばお姉ちゃん、昼間あたしに五千円札をヒラヒラさせて見せていたっけ。
あれってもしかして、乱馬からとったお金だったのかしら?
お姉ちゃん、言われてみるとそのお金の出所は言わなかったな。
あたしはてっきりかすみお姉ちゃん達が置いていったものだと思っていたけれど、実際は違ってたんだわ。
あたしがそんな事を考えていると、
「それよりさ・・・一緒には来られなかったけどせっかくこうして合流したしさ」
「え?」
「・・・もう花火、終っちゃったけど、ちょっとさ、辺り歩いて帰ろうぜ」
乱馬はそう言って、あたしの手ではなく腰へグッと手を回し、身体を引き寄せた。
・・・そう、あたしがここに来た時や、乱馬がここにやって来たときには辺り一体に轟いていたあの花火の音が、いつの間にか聞こえなくなっていた。
夜空を彩っていた光の花も、花火大会が終れば、跡形もない。
クリアだった闇も、煙が残り灰色に澱んで見える有様だ。
「うん・・・」
あたしは、あたしの身体を引き寄せる乱馬に、そっと身を預けた。
数日前に感じた、乱馬の服に残る美由紀さんの匂いは、微塵も感じられなかった。
もしかしたら、本当はしているのかもしれないけど、不安が消えて迷いがなくなった今はそんなこと感じる事もないのだろうか。
あたしがそんなことを思っていると、
「・・・俺、な」
「?」
「ここ少しの間、あの人の相手をしていて思ったんだけど」
「うん・・・」
「あかねの匂い、すげえ好き」
乱馬はそういって、ちょっと恥ずかしそうに頬を染めた。
どうやら、自分の体に彼女の匂いが付いている事は気付いていたみたいだ。
だから、まず家に帰ってお風呂に入っていたみたい。
「・・・でも、あの日あたしに、お風呂に入る前に脱衣所で・・・」
「そ、それはそのっ・・・が・・・」
「が?」
「我慢できなくて・・・あかねに誘われているって思ったらもうその・・・」
乱馬は、三週間近くも我慢すると言う事は大変なんだぞと、偉そうに言っていた。
「修行の時はもっと我慢しているじゃない」
「それとこれとは話が違うの。まあ、おかげで頑張りすぎて次の日色々と弊害が・・・」
「・・・」
ゴスっ
あたしは乱馬のみぞおちを拳で殴りつつ、
「でも、匂いを好きだって言ってくれたのは嬉しいな。ありがと」
「・・・だから余計に、この匂いは他の奴には渡せねえなあって」
「・・・」
・・・もう、自分がこんな事を引き起こしておいて、勝手なんだから。心の中で苦笑いだ。
でも、あたしも乱馬にもう、他の人の匂いがつくのは嫌だな。
「・・・」
あたしはすりすり・・・とわざと乱馬に自分の匂いを擦り付けるように体を摺り寄せた。
何だか、猫とか犬のマーキングみたいになっているんだけど。
でも、乱馬はそれを嬉しそうに見ていた。何だかちょっと、可笑しくも嬉しかった。
あたしはそんな乱馬を笑顔で見上げながら、
「ねえ、なびきお姉ちゃんに何か、お土産買っていってあげようか」
「あいつ?だって俺からとった金で何か買って帰ったんじゃねえか?」
「お姉ちゃん、人ごみ嫌いなんだもん。わざわざ人の多い出店に並んだとは思えないよ」
「ああ、そうか」
「もう出店はないけれど、コンビニかどこかでさ、お菓子でも買ってあげよう?」
「あ、コンビニだったらさ、お前が平気だったらその・・・俺の元バイト先、行かないか?」
「え?」
「あそこ、テイクアウトも出来る中華料理屋なんだ」
「中華料理屋なら猫飯店でもいいじゃない」
「シャンプーに邪魔されるの、今日は絶対に嫌だから。それにそこな、割りと安くさ、肉まんとか買えるんだよ。それに・・・」
・・・バイト先で、俺、その・・・男連中に自慢したことがあって。
乱馬はボソボソとそんな事を言って、あたしの顔を恥かしそうに見る。
どうやら、美由紀さんの指輪の事もバイト先では皆知っていたみたいだけど、彼女とは別に自分にはちゃんと恋人がいることも話していたみたいだ。しかも、自慢だなんて。
「・・・」
自慢、してくれていたんだ・・・あたしを。
「・・・」
あたしは「もう、バカなんだから」と乱馬の腰に回している手をつねると、
「・・・そうね、お姉ちゃんは点心系好きだし、買っていってあげようか」
と、乱馬に笑って見せた。
乱馬は顔を赤くしながら嬉しそうに一度頷くと、引き寄せているあたしの身体を更に自分の方へと引き寄せた。
あたしはそんな乱馬に更に自分からも身を預ける。
夜空を彩る花火大会は終了してしまったし、今年は一緒に花火大会に来る事は出来なかったけれど、 でもこられない代わりに一緒に帰る事は、出来る。
それが今のあたしには本当に幸せだと・・・一緒にいるこの瞬間が本当に幸せだって、あたしは心から思った。

一緒にいたいからここにいる。側にいたいと思うから、ここにいる。
そして、側にいたい、と寄り添った二人がお互いそう思ってここにいる・・・なんて、幸せな
事なんだろう。
当たり前、だなんて決して片付けちゃいけない。忘れてはいけないんだって、あたしは心
らそう思った。

・・・と。
花火の煙が風に流れ、夜空に再び姿をあらわした大きな満月の光が、そのシルバーリングにシンシンと降り注ぎ、
あたしの浴衣から覗く、もらったペンダントのベビーリング裏に刻まれた文字が、揺れて光っていた。
月の光を浴びたリングの発する輝きは、やがてあたし達を飲み込むかのように大きく、そして柔らかい光へと姿を変えた。
とても、とても暖かく優しい光だった。

大切な事、忘れないで。

優しく諭されるような、そしてそれを思い出したあたしたちを見守ってくれるかのような暖かい光だった。

「来年は、最初から二人で来ような」
「うん」

その暖かく優しい光に包まれながら、あたし達は今年守れなかった約束をふまえ来年の約束をまず、交わした。
そして誓いのキスを軽く一度交わすと、そのままゆっくりと薄暗い神社から出て、花火会場から流れる人ごみを、ゆっくりと進んでいった。

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